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GOD GAME
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ガタンゴトン…
ガタンゴトン…

朝の通勤に列車を使っているスーツ姿の初老の男性客が目立つ列車内。だが乗客は然程居らず疎らで、しん…としている。
4人掛けのボックス席に向かい合って腰を掛けているアガレスとベルベットローゼ。
「ふわぁ〜人間臭くて息苦しいったらありゃしねぇぜ」
「……」
暢気に足組みをし欠伸までしているベルベットローゼを、いつもの無表情な目でジッ…と睨み付けるアガレス。
――一体どういう事だ。マルセロ修道院やココリ村での一件で殺しに掛かってきたベルベットローゼ殿が何故今こうして共に乗車している。それに、俺の足りない乗車券代金まで支払い…。全く思考が読めん――
だから警戒をして、いつでも武器の槍を繰り出せる心の準備をしておく。この列車内の乗客を守る覚悟も準備をしておく。
「ったく。行けども行けども車窓に田園風景しか映らなくてつまんねぇ地方だな」
「……」
「あ?何だよその目。師匠に向ける目じゃねぇだろ。警戒してんのか?」
「……」
「はっ!安心しろ。オレは今アドラメレクからお払い箱の身だ」

『アドラメレクとベルベットローゼ。今、あんたのせいで仲違いしてて面白いわよ』

ラズベリーが一ヶ月前に言っていた言葉を思い出すアガレス。だがまだ警戒心を弛めない。
「何故だ」
「てめぇに話す必要性を感じねぇなぁ」
「……」
バフッ!と2人掛けのシート背凭れに豪快に背を預け、右手を前に出して笑む。歯まで真っ黒な口で。
「だからよ。これからは仲良くしよーぜアホ弟子」
「断固断る。何故、以前殺しに来た雌豚と親しくしなければならんのだ。それに本当にアドラメレク殿から見放されたのか。油断させる為に吐いた嘘としか思えん。本当にお払い箱にされたのならばされた理由を話せるだろう」
「……。はーあ…。てめぇは本っーー当ムカつく野郎だぜアガレス。乙女には乙女にしか話せねぇ事情ってーもんがあんのよ」
「乙女?何処に居るそんな者」
キョロキョロ。わざとではなく素でそう言い、辺りを見回しているアガレスに、ベルベットローゼは眉間にピクピク血管を浮き上がらせ、怒りで拳をわなわなさせている。
「てんめぇ…天然にも程があんだろが!!」
怒りで拳を構えて立ち上がったベルベットローゼ。しかしその時。


キキーッ!!

「んなっ?!」
列車が急停車した。大きく前へ揺れた列車。走行中に思わず立ち上がってしまっていたベルベットローゼはそのまま前に倒れ…
「〜〜〜!!」
必然と、向かい側の座席に座っているアガレスにダイブしてしまう形となっていた。必然的にだから仕方ないのだがアガレスの胸に顔を埋める形となってしまいベルベットローゼは耳まで真っ赤になる。
「おい」
――ざざざざけんじゃねぇ運転士!!せっかく今日オレがアホ弟子をぶっ殺してアドラメレクの誤解を解いてもらおうと殺気立って来たっていうのに!!こここんな体勢になっちまったら嫌でもド、ド、ドキッとしちまうじゃねぇか!!――
「おい」


バッ!!

アガレスに呼ばれ、慌ててバッ!!と座席に戻るベルベットローゼ。窓に頬杖を着き、わざと目をそらす。
















「な、何だよアホ!」
「貴様のような巨体雌豚にのし掛かられては全骨粉砕するだろう。以後気を付けろ」
「てめぇがドチビ過ぎるだけだろがアホアガレス!!」
イラッ…としたアガレスが睨み付ければ、ベルベットローゼも対抗して腕組みをしたまま睨み付けるから2人の間にはバチバチと火花が散っている。
「今何と言った?」
「ドチビっつったんだよ。聞こえなかったのかぁ?堕天されて戦闘力が下がっただけじゃなく耳まで遠くなったか?堕天されてボケジシィになったんじゃねぇのかぁアガレス?」
「男のような巨体と容姿のみならず口調も男のようだな。白状しろ。一体何故。どのような理由があって女だと偽っているのだベルベットローゼ殿」
「てんめぇ…!!オレは正真正銘の女だーー!!」
「ひぃ、ふぅ、ちょっとそこの空いているお隣の席座らせてもらいますヨ〜」
「あん?おわっ?!」


ドスン!

ベルベットローゼの隣に無理矢理突如座ってきた男。スキンヘッドに黒いシルクハットをかぶり、右目だけにかけた眼鏡、真っ黒いスーツ、太った体型の中年男。男は席に座って早速今では珍しい葉巻を取り出すと吹かす。所々金色の歯を覗かせて。
「ふぅ〜」


ムワァ〜…

車内は一瞬にして男が吹かす葉巻の煙臭くなるし煙たくなる。味覚嗅覚が人間とは異なり、人間以上に敏感な神アガレスとベルベットローゼは顔を歪め、噎せかえる。ベルベットローゼにいたっては逃げるように男の隣から離れ、アガレスの隣の席に移る始末。
「ゲホッ!ゴホッ!」
「ゲホッ!ゲホッ!ウゲェ!おいジジィ!車内禁煙だぞ!分かってんのかボケ!」
「オ〜!これはこれは失礼致しましタ!お美しいレディの前での無礼、お許し下さいマセ」
ベルベットローゼに怒鳴られた男は慌てて葉巻を片付けると、胸に手をあてて紳士に頭を下げて謝罪する。
一方"レディ"と呼ばれて顔を赤らめ、頭を掻くベルベットローゼ。
「レ、レディ…!?な、ならしゃあねぇなぁ〜許してやるよジジィ!へへっ♪」
「ただのリップサービスだろう」


ドスッ!

「ーーーッ!!」
ベルベットローゼのヒールで足の甲を思いきり踏まれ、目を見開き痛みに踞るアガレスだった。




















「んで?さっきの急停車は一体何だったんだよ?」
「ああ!それ私の仕業なのですヨ〜」
「はあ?!ジジィてめぇ列車に何しやがった!?まさか最近今やるアホな奴が増えてるっつーアレか?自殺ってやつか?何がそんなに苦かは知らねぇけど、やめとけって!」
「いえいえ違うのですヨ〜!たまたま乗りたい列車を見つけましたので乗りたくて列車の前に飛び出したのデス〜。話の分かる運転士さんで良かったですヨ〜。"死にてぇのかクソやろう!"と言いながらも私を乗せてくださりましたからネ〜」
暢気な男に、アガレスもベルベットローゼも呆れて言葉も出てこない。
「アホだ…。このジジィてめぇよりアホだぞおい…」
「俺よりは余計だが…。確かに相当馬鹿な木偶の坊のようだな…」
そんな2人を気にもせず男は「ふんふふ〜ン♪」と鼻唄混じりにバッグをガサゴソ漁り、2つのキャンディーを取り出した。キャンディーの包み紙にはイングランドの超高級菓子ブランド"マリ・エイミー社"の文字が刻まれている。
「はいドウゾ♪ここで出逢ったのも何かの縁!私の大好物のキャンディーをお裾分けデス!とても美味しいですヨ〜」
差し出されたキャンディーを前に、食事を摂れない2人は思わず顔が「う"っ…」と歪む。
ベルベットローゼは顔が真っ青ながらもニコニコ作り笑顔を浮かべながら手を横に振る。
「い、いやぁ〜生憎だけどオレ今ダイエット中なんだよなぁ〜。だ、だからコイツ!コイツに全部やってくれよオッチャン!」
「なっ…!?お、俺は糖分を摂取すると死ぬ病に犯されているのだ。き、貴様にやる!遠慮するな!キャンディーの1つや2つくらいダイエットに支障は無い!!」
互いに擦り付けようとするベルベットローゼとアガレスは、男に聞こえないよう耳打ちする。
「てめぇが受け取れっつってんだよアホアガレス!誰が人間の食い物食うかよ!」
「女は甘味を好むのだろう。貴様に譲ってやろうレディーファーストだ」
「てんめぇ!!こんな時ばっかりオレを女扱いしやがってぇえ…!!」
「どうされたのデス?とっても美味しいキャンディーですヨ?遠慮なさらずお受け取り下さイ〜♪」


ゴクリ…、

差し出されたキャンディーを前に、顔を青くして冷や汗ダラダラの2人は意を決してキャンディーを受け取った。
「そ、そこまで言われたら…なぁ?!あ、ありがとなオッチャン…」
「あ、ああ…頂こう…」
2人、口の中へ放り込む。
一方の男は相変わらずニコニコしたままポン!と肉厚な手を叩く。
「そうそウ!申し遅れましたネ。私の名は…。んン?どうなさいました少年?」
さすがはアドラメレクの見込んだ幹部ベルベットローゼ。吐き出したい気持ちをぐっ、と堪えてわざと笑顔で美味しそうにキャンディーを舐めている。だが、アガレスは両手で口を押さえ、顔は真っ青、血の気が引いている。だから慌てたベルベットローゼが笑いながらバシバシ!とアガレスの背中を叩く。

















「お、おいどうしたよ弟子!?あ…あーー!そうかそうかそうだったよなぁ!てめぇは列車酔いする体質だったよなぁ?」
「うっぷ…」
――吐くなよ吐くなよ!?ぜってぇ吐くなよアホアガレス!!――
「なるほどそうでしたかァ〜!私てっきり病気か何かの発作が起きてしまったのかと思い、心配しましたヨ〜」
「あ、あははは〜心配ありがとよオッチャン!」
「ではでは申し遅れました私の名は…、」


ガタン!!

「おヤ?」
堪えきれなくなったアガレスは列車の扉を勢いよく開いて隣の号車との境目にあるトイレへ駆け出していった。
――あんのアホがぁあ!!てめぇのせいで俺まで神だと疑われたらどうすんだクソ野郎!!――
「おやおヤ?彼氏さんは随分と気分が優れないご様子ですネ。大丈夫でしょうカ?」
「は、ははは〜。あいつ弱っちいし普段からあんななんだ。気にすんな………はあ?!かかか彼氏ぃ!?」
顔を真っ赤にして目玉が飛び出しそうな程驚くベルベットローゼに、男はキョトンとしている。
「ちちちち違げぇよ!!ただのそのっ…上司と部下だ!!」
「おヤ?そうだったのですカ?仲が宜しいですから私てっきリ。失礼致しましタ〜」
ちっとも悪ぶらずにニコニコしている男。
ベルベットローゼは顔を真っ赤にしてぷんすか怒りながら、窓に頬杖を着いた。
――何が彼氏だあんなひょろっこいアホ!!あのアホのせいでオレは今アドラメレクに疑われて大変なんだっての!!あんなアホ!あんな…、――
「で、でも…傍から見たら見えんのかなぁ…そういう関係に…」
「?今何か呟かれましたカ?」
「いいいい言ってねぇよ何も!!」
「そうでしたカ!」






















マリアージュ
大聖堂前駅―――――――

「短い間でしたがありがとうございましタ」
駅に着き、列車を降りた人が疎らな昼間のホーム。男は丁寧に深々頭を下げる。
腰に手をあてて立つベルベットローゼの隣には、未だにげっそりしたアガレスが立っている。
「ありがとうございましたって…オレら何もしてねぇぞ」
「いえいエ!席を譲ったり色々なさってくださったじゃありませんカ!」
「まあそういう事にしといてやるか。礼を言われて気分が悪くはならねぇしな」
「では私はこちらですのデ」
男はまたペコリ、頭を下げると2人とは反対方向の道を歩いていく。しばらく歩いてからピタリ…と止まり、2人の方を振り向く。シルクハットを持ち上げた挨拶をして。
「ああ!申し遅れましタ。私グリエルモ・バッドマンと申しまス。次お会いできる日を心待にしておりますネ」
男バッドマンはそう紳士に挨拶をすると、ホームを行き交う人の波に紛れて去っていった。
「??何言ってんだあのジジィ。もう会いっこねぇだろ?…っし。じゃあ行くかーって、ダーシーの後をついていくんだっけか?ストーカーアガレス」
「ストーカーでは無い…うっぷ…、」
また口を両手で押さえるアガレスから、ベルベットローゼは顔を真っ青にして離れる。
「お、おい!吐く時は事前報告しやがれよ!?」
「!」
その時。隣の隣の車両から長い可愛らしいツインテールをなびかせて降りてきたメアの後ろ姿を見つけたアガレス。
身長の低いメアはすぐ人の波に姿が見えなくなってしまったが、やはり間違い無くマリアージュ大聖堂行きのエスカレーターを降りていった。


ダッ!

「あ!おい待てよアホ!」
ベルベットローゼを無視してメアを追い掛け走るアガレスの後を、ベルベットローゼもまた追い掛けて走るのだった。
アガレスとメアの夏休み1日目イングランドの空は雲1つ無い澄み渡る青空が広がっていた。






















駅を出ると、片隅に、荒れ果てて窓は割れ、中から蔦が張り風化されたクリーム色の廃墟が目に入る。しかし誰もその廃墟には目も向けず皆、廃墟の隣に在る真っ白でロココ調の大きく綺麗な大聖堂へ足を運ぶ姿が見受けられる。
勿論、その人々に紛れてメアも同じく。
メアに気付かれぬよう1km以上の距離をとって尾行するアガレスがキョトンとしてクリーム色の廃墟を見ていると、後ろを何故か歩いてついてくるベルベットローゼがこう言う。
「知らねぇって顔してるなぁ。その廃墟はダーシーが祀られていた聖堂だ。マリアージュ大聖堂」
「ダーシー殿が?」
そう言われてみれば大きな聖堂に見えなくも無い。ただ、もうだいぶ年月を経て廃墟となっているから元は聖堂と言われなければ「ああ、そうだな」と頷けない程。
「はん!てめぇの女の故郷くらい把握しとけよアホ…っておい!オレを無視してさっさと行くんじゃねぇ!!」
ベルベットローゼを無視してさっさと行ってしまうアガレス。メアや皆が向かう真っ白い大聖堂へ。





















聖マリア大聖堂――――

「嗚呼、悪神アドラメレクに黒く染められていない汚れ無きマリア様どうかお聞き下さい。私の大切な大切な夫と息子が昨日から様子がおかしいのです。寝ても覚めても"アドラメレク様万歳!"と血眼で繰り返し果てには私を斧で殺しにかかってくるのです。命辛々逃げてきた私をどうかマリア様のその神のお力でお助け下さい…!!」
「マリア様お聞き下さい。僕の最愛の恋人が一週間前から様子がおかしいのです。僕に毎日毎日"人間など穢らわしい生き物だ。大神アドラメレク様のように穢れ無き欲の無き生き方こそが真実"と、人間殺しアドラメレクを何故か讃えるのです。きっと彼女は神々による造り直しの儀を施されてしまったに違いない。天界で唯一アドラメレクの悪行に従わず、神として人間を救ってくださる女神マリア様。どうか僕の彼女をお助け下さい!」
大聖堂でバーゲンでもやっているのか?と思う程詰め掛けた人々。真っ白い大聖堂の一番奥には灰色をした女神像が建っており、太陽の陽射しを受けたステンドグラスがその女神像を美しく照らしている。
聖堂に入りきらず溢れても尚各々の祈りを捧げている人々を、聖堂の道路を挟んで向かいにある草むらからこっそり様子を伺っているのはアガレスとベルベットローゼ。
「あーあ。神による殺戮を恐れた人間共が神に祈りを捧げているぜ。矛盾だよなぁ」
「だから何故俺についてくるベルベットローゼ殿」
ムッとして口をへの字にしたアガレスにも、ベルベットローゼは平気。肩と両手を竦めて、真面目に答えようとしない。
「だーから何度も言わせんなっての。アドラメレクに見放されちまったんだよ」
「理由を言え」
「それはてめぇには話せねぇ乙女の事情だっつっただろ」
「……」
未だ釈然としないが、アガレスは口をへの字にしたまま再び聖マリア大聖堂に向き直す。



















「神々による造り直しの儀を施されているというのに何故聖堂に訪れ、何故神に助けを乞う」
「アガレスてめぇ知らねえのか?聖マリア大聖堂に祀られている神が誰か」
「知らんな」
ベルベットローゼは呆れてまた肩を竦め、首を横に振る。
「ふぅー。これだからてめぇとダーシーは天界一のアホだって言われるんだよ。てめぇ堕天される以前に会議で会ってる筈だぜ?マリア・ルーダ神。コイツだ」
ピラッ。
ベルベットローゼは分厚く埃をかぶった聖書を開く。と、そこには長い髪の右半分がピンク色で左半分が黒い髪という奇抜な髪型。左目の下には泣き黒子があり長い睫毛とおっとりした妖艶で美しい女性の写真が載っている。
「これはヒトガタに化けている時のマリア神の姿だけどな。本来の姿はアドラメレクしか見た事が無いらしいぜ。何でもマリアはオレ達神々本来の化け物みてぇな姿を毛嫌いする"美の魔女"っつー二つ名があるくらいだしな」
「こいつは…」
「あん?アガレスてめぇマリアの事思い出したのかぁ?」
顎に手をあててジーッ…とマリア神の写真を見つめるアガレス。
「思い出しただろ?天界会議でいっつもいっつもアドラメレクと火花散ってた女神のこと」
「俺の昔の女だ」
「ぶーーっ!!」
思わず吹き出してしまったベルベットローゼに、首を傾げるアガレス。
「汚ならしいぞベルベットローゼ殿」
「てめぇアガレス!!人間みてぇに女つくりまくってんじゃねぇよ!!つーかいつの間にだ!!」
「ココリ村の神として生まれて200年程経ってからか。キユミの前の女だったような。初めて天界会議というものに参加した時に隣の席になった記憶があるな」
そこで、アガレスの頭上にもやもやと吹き出しが浮かび上がり、マリアとの出会いが思い出される。

『天界会議というものは面倒この上無いな。席はここで良いのだろうか』
『はぁーい♪君新しく生まれた神様?』
『む。何だ貴様』
『私イングランドの聖マリア大聖堂に祀られているマリア・ルーダ神よ。よろしくね♪可愛い新人神様』
『ああ』
『ところで君は何処の神様?』
『ヴァイテル王国のココリ村だ。まだ実際に踏み入れてはいないが、アドラメレク殿にそう言われた』
『へー♪じゃあローゼの弟子になるんだー。つまんないのー』
『ローゼ??』
『ヴァイテル王国全土の神様の事よ♪ベルベットローゼっていう神様。男みたいな容姿と口調で私気に食わないの。あまり仲良くしない方が良いわよ。ね♪』
『はあ…』
『ところで君お名前は?』
『アガレスだ』
『へー♪素敵な名前♪ねぇねぇアガレス。新人神様の君にイイコト教えてあげよっか♪』
『??何だそれは』
『会議が終わってから。ね♪』
会議終了後、星空の夜空の下闇夜に消えていくマリアとアガレスだった。

「ちょいちょいちょいストーーップ!!」
記憶の吹き出しがブラックフェードアウトし終わらない内に吹き出しを両手をぶんぶん振って掻き消すベルベットローゼの顔は真っ赤だ。ビシィッ!!とアガレスを指差す。
「真っ昼間からR指定な話持ち出してくんじゃねぇよアホアガレス!!しかも3000年以上前とはいえ昔の女の故郷を忘れるなんざ本ッ当てめぇは天性のアホっつーか鈍感っつーか!!というかだなぁ!てめぇただの農耕神の分際であちこちに女つくり過ぎなんだよ!ちょっと顔が良いからってなぁ!!」
「何をそんなに取り乱しているベルベットローゼ殿」
「…ハッ!!」
指摘をされて我に返ったベルベットローゼは「ゴ、ゴホン!」とわざとらしく咳払いをする。
息を整えてからいつもの調子を取り戻すと、顔の赤らみが引いたベルベットローゼは聖マリア大聖堂を見ながら語り始める。
「ま、まあてめぇの女遍歴なんざどうだっていいんだ。神々の殺戮を恐れているクセにどうして人間共がマリアに助けを乞い祈りを捧げるか?だったな」
「ああ」
「てめぇ昔の女の事だってのに何も知らねぇんだな。まあアホアガレスらしいっちゃらしいな。聖マリア大聖堂の女神マリアはだな、アドラメレクより前にイングランドの地に生まれた神なんだ。オレとアドラメレクが30億歳でマリアは41億歳。まあ謂わばオレらの先輩だな」
「ああ」
「だが神は年上だから力があるとは限らねぇ。アドラメレクの神としての力は強大なもので、それまで居た神々とは桁違いの力を持っていた。だからアドラメレクはこの世を司る大神になった」
「アドラメレク殿も元は何処かの土地神だったのか?」
「土地神じゃねぇけど、まあ初めはオレやアガレスみたいに平々凡々な普通の神だったぜ」
「そうか」
「けど自分は強大な力を持っていると自覚したアドラメレクは生まれて間もないながらもマリアをはじめとする年長者の神々を力で抑制して、この世の大神へと上り詰めた。そうなりゃ年長者共も面白くは無いだろ?ポッと出の若造神に負けたんだ。そこでアドラメレクに負けた年長者神々が徒党を組んでアドラメレクに刃向かったんだが…結果は見え見え。跡形も無くぶっ殺されたわけよ」
「なら何故マリア殿だけ生かされている?」
「それがだなぁ。アドラメレクをぶっ潰す為に徒党を組んだ奴らの中にマリアだけは居なかったんだよ」
ベルベットローゼは頭の後ろに腕を組み、草むらに横たわる。
「だから殺されてねぇわけだ。マリアはいつもにこやかに"アドラメレクちゃん、アドラメレクちゃん"って可愛がっているように見える。…けど、対アドラメレク年長者神々の徒党に裏で糸を引いていたのはマリアらしいんだよな。ま、証拠が無いからアドラメレクもぶち殺せねぇみたいなんだ。何てったってマリアも力はあるからなぁ」
「しかし先程の人間達の会話を聞くと、マリア殿はアドラメレク殿に従わず造り直しの儀を施さない神と言われていたが。それならばアドラメレク殿に従わないマリア殿はアドラメレク殿に追放されるのではないか?ダーシー殿のように」
「本ッ当察しが悪りぃなアガレスてめぇは」
「?」
難しそうに首を傾げるアガレスに、ベルベットローゼは右目を瞑り、口の前に人指し指を立てる。
「マリアはそうやって人間共の気を引いて、時期がきたら自分に心酔した人間共を一気にぶち殺すんだろうよ。憶測だがそれしかねぇだろ」

『私はね、夏休みはイングランドに居るお姉ちゃんに会いに行くの!』

「…!!」
カナ達に話していたメアの無邪気な笑顔を思い出した途端アガレスは咄嗟に草むらから飛び出す。
「あ!おい!待ちやがれアホアガレス!」

























聖マリア大聖堂ではミサの時間を終えた人々がぞろぞろと聖堂を後にする。先程まで人の波に溢れていたとは思えない程一気にガラン…とした聖堂内にはたった1人しか居ない。マリア神の姿をした女神像の前で両手を組み、静かに目を瞑り、長時間祈りを捧げている少女メア。
メアにあんな事を言ってわざと自分から離れさせたというのにメアに内緒でついて来たからアガレスは、聖堂の出入口の扉に隠れてメアの様子を伺っている。
――マリア殿が裏の顔を持つ性分ならばあの騙されやすい雌豚も騙されて姉と慕っている可能性が高い――
すると…
「お姉ちゃん!!」
「!!」
人間が居なくなったのを見計らってか、天井のステンドグラスと太陽の陽射しに照らされて天から姿を現したのは聖マリア大聖堂の女神マリア・ルーダ。
とても裏のある性格とは思えない穏やかでおっとりした美女マリアが背負えば、ただの太陽の陽射しでさえも神々しい光に見えてしまう程。マリアが現れた事によりより一層扉の裏に姿を隠しつつも様子を伺うアガレス。
一方のメアは、久しぶりの姉(血は繋がっておらずただ隣の聖堂同士というだけだがメアが勝手にマリアを姉と慕っているだけ)との再会に、子供のように無邪気に喜び、抱き付く。マリアはびっくりして目を見開く。
「お姉ちゃん!!」
「ダーシー?」


ガバッ!

「お姉ちゃん1000年振りだね!!」
「あらあらダーシー。アドラメレクちゃんに追放さるてこんなに真っ黒な髪にされちゃったのね?可哀想に」
姉というより優しい母のようにほんわかした笑顔でメアの頭を撫でるマリア。そんなマリアを、子が母に甘えるようにギューッ!と抱き締めるメア。
「でもお姉ちゃんに会えたから私、平気だよ!お姉ちゃんさっき見たよ!お姉ちゃんはアドラメレク神の造り直しの儀に反対しているからあんなにたくさんの人間から信頼されているんだね!」
「うふふ。信頼されているなんてそんな大層な事じゃないのよ。あら?ダーシーその制服はヴァンヘイレンのもの?ダーシー貴女、天界を追放されてからヴァンヘイレンに入学したの?」
「うんっ!何てったって私もお姉ちゃんと一緒で、アドラメレク神に反対だからね!」
「まあ♪ダーシーは本当に優しい子ね。自慢の妹だわ♪」
「えへへ〜♪」
鼻を掻いて得意気にするメア。
マリアが長椅子に腰掛ければ、ぴょん!とマリアの隣にぴったりくっついて自分も長椅子に腰掛けるメア。
「今日は遙々どうしたの?」
「今ねヴァンヘイレンの夏休みなの!一週間だけだけどね。だからお姉ちゃんに会いに来たんだ!お姉ちゃんはアドラメレク神に反対しているから大丈夫かな?元気にしているかな?って思って」
マリアは口の前で両手を合わせる。
「まあ!私の心配をしてくれていたの?やっぱりダーシーは優しい子ね♪」
「えへへ〜♪」
「私は大丈夫よ。アドラメレクちゃんには嫌われているようだけれど、何とか追放されない程度にうまくやっているわ。お陰でイングランドで造り直しの儀を施された人間はいないのよ♪」
「すごーい!さすがお姉ちゃん!お姉ちゃんこそ神様だよ!」
「うふふ。ありがとうダーシー。それはそうと貴女大丈夫?貴女が祀られていたマリアージュ大聖堂は廃墟同然だったでしょう?そうするとマリアージュ大聖堂の神だった貴女の体にも異変が起きるじゃない?」
「うん…」


ギシッ…、

メアは俯きながら自分のギシッ…と軋む右腕を撫でる。
神はベルベットローゼのように一国を司る神として生まれたり、アガレスのようにココリ村の神として生まれたり、御子柴や御殿のように神社の神として生まれたり、マリアやメアのように大聖堂の神として生まれるなど様々だ。ベルベットローゼならヴァイテル王国そのものがベルベットローゼそのものと解釈してもらって正しい。
だから、神主が居なくなり長年廃れて参拝者も居なくなり古びた御殿神社の神御殿の力が弱まった理由に神社が古びたからという理由がある。
だからマリアは、メアが天界を追放されマリアージュ大聖堂が廃れて廃墟同然となってしまったからメアの体にも大聖堂が廃れた影響が及んでいるのでは無いか?という事を心配しているのだ。
「力を失ったのは天界を追放される時アドラメレク神に奪われたからだけど…。最近ね、体のあちこちが傷むんだ。これって私が祀られていたマリアージュ大聖堂が廃墟と化していっている事が理由なのかな…?」
「そうよ。だからダーシー。せっかく遙々故郷に戻ってきたのだから一週間ゆっくり休むと良いわ。それに」
「それに?」
首を傾げるメア。マリアはムンッ!と両腕でガッツポーズをしてみせる。
「これを機にダーシーが祀られていたマリアージュ大聖堂を修復しましょう!そうすればダーシーの体の傷みも和らぐわ!」
「…!ありがとうお姉ちゃん…!」
ぱあぁっ…!と明るくなったメアがまた抱き付いて頬擦りすれば、マリアは女神らしい穏やかな笑顔でメアの頭を「よしよし」と撫でていた。



















キィ…パタン…、

大聖堂を出たアガレスはいつものようにポケットに両手を突っ込んだまま、大聖堂の真っ白い階段を降りていく。
「どうだよ。腹黒そうな奴だっただろマリアはよ」
大聖堂の脇にある大木に寄り掛かって話し掛けるベルベットローゼの前を通り過ぎていくアガレス。
「おい!アガレス!先輩を無視すんなてめぇ!」
「俺にはまだ分からん」
「あん?」
背を向け、道路の前で立ち止まるアガレスの前を車が何台も通り過ぎていく。
「分からんっててめぇ、騙され体質か?見りゃ一発で分かんだろ。マリアのあの聖女な笑顔。逆に怪しさ全開だぜ」
「俺にはまだ分からん。が…」
「?何だよ」
「あんなに幸せそうなダーシー殿の顔は見た事が無い。俺が入っても邪魔なだけだろうな」
「あ…おい!待てよてめぇ帰るのか?此処まで遙々来といて」
「貴様に教える理由は無い。それに貴様と共に行動する気も無い。貴様こそ信用ならん」
スタスタ歩き去っていくアガレスに、ベルベットローゼは内心とても焦る。
――おいおいちょっと待てよ!?ダーシーとマリアはいいとして。アガレスに疑われっぱなしのまま離れられたら、油断させたアガレスをぶち殺してアドラメレクにオレがコイツに好意を抱いてるっつーふざけた誤解を解いてもらう策がパァじゃねぇか!それにオレもこのままじゃいつアドラメレクに裏切り者認定されて殺られるか分かんねぇ!早いとこコイツを殺らねぇと…。けどどうする?コイツアホのクセにオレの事だけはしっかり疑っていやがる!何とかコイツの疑いを晴らす方法を考えろ!!方法は…――
思い浮かんだベルベットローゼ。しかし顔を真っ赤にして首を横にぶんぶん振る。
――だぁああー!それだけはダメだ!ぜってぇにダメだ!!そんな事嘘でも演技でもしちまったら…しちまったらオレは認めちまう事になる!!けど…。…チィッ。けど残された策はもうこれしかねぇ…!!――
顔を真っ赤にしながらも意を決し、両手を強く握り締めたベルベットローゼ。前を歩くアガレスの肩をぷるぷる震える右手でポンポン、と叩けばいつもの無表情なアガレスの顔が振り向く。
「何だ」
「おおお、おいっ!アガレスっ!」
「だから何だと聞いている」
「そのっ…!行くなよ!」
「何度も言わせるな。ベルベットローゼ殿貴様を信用はしないし貴様と同行するつもりも無いと、」
「ててててめぇの事を好きな乙女を見知らぬ土地に1人置いていく気かコノヤロー!てめぇはそれでも男かアホアガレス!!」
「……は?」





















しん…

顔を真っ赤にし、「はぁ、はぁ」と呼吸まで乱して思いきり告白(?)をしたベルベットローゼ。
一方、ポケットに両手を突っ込んだまま首だけを後ろに向けて酷く迷惑そうに眉間に皺を寄せて見てくるのはアガレス。
ベルベットローゼはアガレスと向き合いながらも恥ずかしさで目はぐるぐる回っているし、火が噴きそうな程全身が熱い。
――んだぁあーーッ!!い、言っちまった遂に言っちまったじゃねぇかぁあ!!いいいや、落ち着けオレ!これはアガレス殺害計画でアガレスを引き留める為の偽装作戦だろ!?だからオレのこの発言だって嘘の発言!作戦の為の嘘の発言なんだろ!?…なのにどうしてこんなに身体中が火照っちまうんだよぉお!!――
「おい」
「…ハッ!な、何だよアホ弟子!?」
「だからそういう見え透いた虚言を並べても貴様の腹の中などお見通しだ」
「んなっ?!ちょ…、おい待てやアホ!!虚言じゃねぇ…でもないしそうでもないっつーか…!」
「動揺が隠しきれていないぞ。付き合ってられんな」
――嘘を隠す為の動揺じゃなくててめぇに告っちまった動揺だよ!!気付けウルトラマックス鈍感!!――
「て、てめぇこそ虚勢張ってんじゃねぇよ!人間の女に嫌われたからってダーシーに乗り換えたり!本当はただの寂しがり構って野郎なんだろが!ま、まあ…っ!オレだったら慰めてやっても構わ、」


ヒュン!

「!!」
するとアガレスは一瞬にしてその場から姿を消してしまった。


ガンッ!!
ボキンッ!

ベルベットローゼが大木を殴っただけで、その大木は幹からボキンッ!と盛大に折れてしまう。
「あんのアホ逃げやがったぁあ!!」



































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あきゅろす。
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