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GOD GAME
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「はははっ。そんなんじゃないぜ。いや、恥ずかしいんだけど俺さ。ヴァンヘイレンに入って1Eの生徒になって来伝と同じ班に絶世の美少女アイリーンが居て…その頃からお前の事が好きだったんだぜ」
「まあ!」
「だから長年の夢っつーか。一生叶わない筈の夢がまさか叶うなんて。笑いたくもなるだろ?」
「そうですの??」
「まっ。モテない経験をした事が無いお前には分からないか」
頭の後ろで腕を組み、心底幸せそうに目を瞑ってから開く。すぐそこには、月明かりが逆光になって自分をキョトンとした顔で覗いているアイリーンの顔が。
天使のように真っ白で美しく長い髪にトムが触れればアイリーンも艶かしい表情をして顔を近付ける。トムのオレンジ色の瞳にアイリーンが。アイリーンの青い瞳にトムが映れば。どちらからともなくベッドに横たわる。そんな2人を、窓から射し込む月明かりだけが照らす。
アイリーンを優しくきつく抱き締め、アイリーンの細い肩に顔を埋めたトムは強く目を瞑り、真剣な顔をして決意する。
「神々の造り直しの儀だろうが何だろうが俺が必ず命に代えてもアイリーンを守ってやる!恋愛は不浄なモノと唱える大神アドラメレクの暴挙からだって俺はアイリーンお前を必ず、必ず守ってみせる!!大神アドラメレクがなんだ。俺とアイリーンはずっとずっと一緒だからな!」
「トム…」
「だからもう神々の暴挙に脅えなくて良いから。分かったかよアイリーン」


きゅっ…、

アイリーンは嬉しそうに目を瞑り、トムの広い背中に腕を回す。
「ありがとうトム。わたくしの事を命に代えても守ってくださるトム…本当の本当に嬉しいですわ」
アイリーンの細い肩を押してベッドに座り、向き合う2人。熱っぽくうっとりした2人の視線と視線が絡み合う。
「トム…」
「な、何だよアイリーン…。…!!」
ピンクの愛らしいグロスをたっぷり塗った艶やかな唇を突き出して恥ずかしそうにするアイリーンに、ドキッ!としてしまう。彼女が何を言いたいのか理解したトムはドギマギ、ロボットのように堅い動きでアイリーンに近付く。
アイリーンの肩に手を置けば、アイリーンは目を瞑り唇を突き出す。
――り、両思いになって10分も経っていないのにキキキキスかよ!?い、いや。アイリーンも俺の事を好きでいてくれたんだ。そ、それなら遅かれ早かれいずれこういう展開になるんだし。…え、えぇい!トム・ハンクス!男になる日だ!!――
トムも目を瞑り、唇を近付ける。


















ドッ!ドッ!ドッ!!

早く鳴る鼓動。


ブツッ!

その時。
部屋のテレビが勝手につくと、ニュースキャスターが淡々とニュースの内容を読む抑揚の無い声が聞こえ出し、目を開いたトムがキョトンと不思議そうに首を傾げながらテレビの画面に目を向ける。一方のアイリーンはテレビなど気にもせず目を瞑り、唇を突き出したままだが。
真っ黒い短髪に牛乳瓶の底のような眼鏡をかけたスーツ姿の男性キャスターが報道する。
「ここで今入りましたニュースをお知らせ致します。先程避暑地オルバスの有名ペンション屋上にて、宿泊をしていた男女2組みが真っ二つに斬られ死亡、造り直しの儀を施されたとのニュースが入りました」
「なっ…!?」
画面には星空の下に広がるペンションの屋上で頭から爪先に真っ二つに斬られた男女2組のカップル。そして真っ赤な血の海。高鳴っていたトムの鼓動と気持ちが一瞬にして恐怖の谷底へ突き落とされる。
「なっ…、こ、これ…さっきの恋人達かよ…!?し、しかも場所はこのペンション…!?」
「尚、恋愛感情などという穢らわしい感情を抱き愛し合う卑猥で下劣な男女2組みの人間に造り直しの儀を施した人物はこちらです」
「…!!」
映し出されたのは、今トムの目の前に居る絶世の美少女…アイリーンの顔写真。
「そう、このお方こそが穢らわしい人間共の欲望を排除し、穢らわしい欲望の無い世界を創造してくださる者…そう…」


バッ!

男性キャスターが黒い短髪と眼鏡、スーツを取り除けばキャスターの姿はあっという間に御子柴の姿に早変わり。
ニィッ…と悪魔さながらの笑みを浮かべる男性キャスター否、御子柴が告げる。
「大神アドラメレク様なのです…フフフフ…」

















バッ!!

顔面蒼白のトムが勢いよくアイリーンに顔を向ける。アイリーンはベッドの上に座り、下を向いていて表情が見えない。
不安になりながらも信じられないトムはアイリーンの肩に手を置き、揺する。
「な…、何だよ…な、なぁ?今のニュースさ…!さっきの恋人達に造り直しの儀を施した奴がア、アイリーンだなんて…なぁ!?誤報にも程があるだろ、一般人を犯人扱いするなんて…なぁ、アイリーン?」
「……」
返事の無いアイリーンから漂う恐怖に萎縮しながらも目を見開き、愛しい彼女の名を叫ぶ。
「アイリーン!!」
「本当そうですわ…。何故わたくしが…悪神アドラメレクで…わたくしが人殺しなど…ひっく…、」
「ア、アイリーン…!」
下を向いていて表情は見えないが肩をひくひくさせて泣いている。アイリーンは顔を上げる。潤んだ大きな青い瞳を見たらトムは確信した。彼女は清廉潔白だ、と。
「何故わたくしが…?何故っ…!」
「アイリーン!俺がお前を命に代えても守るって言っただろ!だからもう…もうお前は泣くな!な?」
「トム…」
再び見つめ合う。どちらからともなく目を瞑り、突き出した唇を重ね合わせれば月明かりに照らされて床に映った2人の影が重なる。


ガリッ!!


ドサッ…、

「ふう。穢らわしい唇。穢らわしい手。穢らわしい感情。呼吸をなさらないでくださる?わたくしの周りの空気が穢れてしまいますの」
ベッドから床に落ちたトム。ベッドの上に立ち上がり長い髪を手で後ろへ靡かせたアイリーンの冷たい青の瞳がトムを見下ろす。
「あ…あぁあ…ああ…」
キスをした時、アイリーンに舌を噛みちぎられたトムは口から大量の赤い血をドクドク流し、喋る事ができなくなる。そんな彼を、「ふふっ」ととても楽しそうに笑うのはアイリーン…いや、大神アドラメレク。
白い羽の形をした通信機を耳にあて、にっこり笑顔で御子柴に報告をする。
「御子柴。とーっても素晴らしい偽りのニュースでしたわよ」
「フフフ…そうでしょうそうでしょう…。お嬢の為なら一肌も二肌も…三肌だって脱ぐわよ…!!」
「あらあら。そんな事をしては御子柴が無くなってしまいますわよ?では、あと10分もしない内に帰りますわ。温かーいお風呂を湧かしておいてくださる?」
「合点承知よ…お嬢…」
「ふふっ。ありがとう御子柴」


タンッ、

通信を終えるとアドラメレクはベッドから降り、ニコニコ天使の笑顔でトムに歩み寄る。トムは口からドクドク血を流しながら「あ、あぁあ…」と喋れないながらも床を這って後退り。そんなトムの気持ちを知っていながらもぐいぐい近付くから、もう後ろは壁しか無くなってしまい追い詰められたトム。
ガタガタガタガタ震えて涙を流して見上げる其処にはアドラメレクのにっこり笑顔。
「あああ…ああ、あひりーん…」
「トーム♪とーっても素敵でわたくしゾクゾクしちゃいますわ。そのブザマな姿!!」


ドガンッ!!

「がはっあ…!!」
トムの腹をアドラメレクの細い右足が一蹴りしただけでトムは壁ごと突き破り、隣の隣203号室まで吹き飛ばされた。



















ガラッ…、ガラッ…、
崩れた壁のコンクリート破片に埋もれ、瞳は色を失い、腹が貫通しながらもまだ
「ヒュー…、ヒュー…」
と僅かに呼吸をしているトムの前にタンッ!と立ち、後ろで手を組みにっこり満面の笑み。
「わたくしを命に代えても守るって仰いましたわよねトム?わたくし神々による造り直しの儀が恐いですの。ほらほら、わたくしを守ってくださるのでしょう?なら何故こんな所で死んだ魚のような目と陸にあげられた魚のような呼吸をしているのです?」


ゲシッ!ゲシッ!

貫通したトムの腹部をまだ何度も何度も蹴る。細い足からは想像もつかない力で。


ゲシッ!ゲシッ!

「ほらほら。早く立ち上がってごらんなさい?ねぇってばトム?」


ゲシッ!ゲシッ!

「あれだけ豪語しておいてこのザマですの?ほらほら早く立ち上がってわたくしを守ってみなさいな。ねぇ?トム!!」


ドガンッドガン!!

掴んだトムの頭を壁にめり込ませれば、めり込んだ箇所から壁に亀裂がピシッ!と入り、壁がバラバラ崩れる。


ドスッ!

既に虫の息のトムの頭をゲシゲシ踏み続け、口に手をあてて高笑いするアドラメレクのその様はまさに典型的高飛車お嬢様。いや、魔女か。
「アハハハハ!こーんな蟻以下の弱さのくせにわたくしを守るだなんて豪語なさらないでくださる?貴方より雑草の方がよーっぽどお強いのではなくって?アハハハハ!」


ガンッ!

顔面を軽く蹴っただけでトムはまた吹き飛ぶ。吹き飛んだトムの元へ、とっても楽しそうに髪をなびかせて歩み寄るアドラメレク。

















「貴方のご両親もわたくしが始末したのですわ。それなのに貴方ったら、貴方のご両親の死を悲しむわたくしの偽りの涙にまんまと騙されて。今も思い出しただけでお腹が捩れてしまいそうですの!アハハハハ!」
「ヒュー…、ヒュー…」
「貴方のお父様は息子と同い年と勘違いした少女相手に欲情した低俗で下劣で穢らわしい少女趣味の人間でしたのよ。ご存知?その穢らわしい血を引き継ぐ貴方もまた、わたくしの事を毎日毎日毎日下心たっぷりな厭らしい目で見つめる低俗で下劣で卑猥な人間ですのよ?」
「ヒュー…、ヒュー…」
返事もできず、ただ微かに聞こえる呼吸音。


ドスッ!

そんなトムにも容赦無く踏みつける残虐さ。
「このわたくしが溝鼠に話し掛けて差し上げているのですよ?返事くらいしたらどうなのです?無礼者。…あぁ。そういえば舌を噛みちぎられていて声を発する事ができないのでしたわね。これはこれは失礼」
ニコッ。
首を傾げて天使のように可愛い笑みを浮かべたアドラメレクはトムの頭を持ち上げる。やはり死んだ魚の目をしていて焦点が定まらず、頭はベコベコに凹んで口と頭から血を流すトムの顔を、子供がおもちゃを買ってもらえた時のようなキラキラした瞳と恍惚の表情で嬉しそうに見つめるアドラメレク。
「んーまあ!トムったら最ッッ高ですわ!血に塗れたそのブザマで不細工なお顔!嗚呼、大好きですわトム。だって貴方はこーんなにもブザマな醜態を晒す事ができる人間なのですもの!」


ドサッ!

乱暴に床に突き落とし、見下ろす。
「わたくしをとっても楽しませてくださりありがとう。でももうお腹一杯。見飽きましたわ貴方の顔。さあ。さっさとお消えなさい。目障りな人間」
トムの頭目掛けて足を振り上げた時。ゆっくり震えながらトムが顔を上げた。右の目玉が飛び出して左頭部が陥没し、舌が切れてなくなった顔で泣きながら笑って。
「あ、あひりーんん…、あい…してる…」
「……」


グシャッ!!

壁や窓に、真っ赤なヒトガタの血飛沫が飛び散った。























「ヒェー!サスガアドラメレク様!ヤルコトガエゲツナイゼ!ヒャヒャヒャ!」
すると、窓からやって来たのは二足歩行の狼の姿をした中級の神。
「あら。ウルフ神ご機嫌よう。どうなさいましたの」
「人間ノニオイガスルカラ駆ケツケタラ、アドラメレク様ガスデニ殺ッテイタトハナァ!」
ギャ!ギャ!笑うウルフ神は背を向け、窓に手をかけて帰ろうとする。
「オレハヨウナシッテワケダ。ジャアナ、アドラメレク様」
「ああ。そうですわ。調度良いですのウルフ神」


ガシッ!

ウルフ神の首根っこを掴むアドラメレク。ウルフ神は掴まれた首が苦しそうだ。
「ギ、ギェエエ…ク、苦しシイデス、アドラメレク様…!」
「此所に居る人間達が死んだというのにわたくしだけが生きていては不自然ですわ。ウルフ神。貴方がわたくしの罪を被りなさい」
「ェエ!?ア、アドラメレク様ソンナッ…!」
するとアドラメレクはウルフ神を無視して、ペンションに備え付けの電話で警察に通報する。
「もしもし!警察の方ですか!?わたくし、今オルバスのペンションに居るのですけれど狼のような神が襲い掛かり、わたくしの友人や宿泊中の方々を次々と殺して…!うぅっ…!早く助けてくださいな!!」


ガチャッ!!

電話をきる。
「ア、アドラメレク様…?ソ、ソンナッ…オレハナニモシテイナイジャ、ギャッ!!」
ウルフ神の両の目玉を人差し指と中指で突き刺し、グチャグチャとかき混ぜる。
「ギェエエエ!目ガァアア!」
「ごちゃごちゃ言わないでくださる?わたくし今気が立っておりますの。おとなしく人間共に殺されなさい」


ウー、ウーー

警察のサイレンが遠くから聞こえてきた。窓から見下ろせば赤いサイレンを回転させてやって来たパトカー3台に笑むアドラメレク。
「ふふっ…何て楽しいのでしょう世界というモノは。嗚呼、早く全世界の人間共に造り直しの儀を施してわたくしだけの下僕にしたいですわ…」
そこで浮かぶのは、ヴァンヘイレンの生徒椎名、天人、カナの顔。
「ふっ…。次は誰から致しましょう…?」
































夏休み最終日、
天界―――――――

「ただいま」
「お嬢ォオオォオ〜!!」


ガバッ!!

涙を撒き散らしてアドラメレクに抱き付き、スリスリする御子柴。そんな御子柴の頭を撫でるアドラメレク。
「お嬢ぉおうぉうぉお〜〜!!ワタシだけ留守番なんて寂しかったわァアア!ワタシ、お嬢に捨てられたかと思ったじゃないぃいい〜〜!!」
「あらあら御子柴ったら。そんな事わたくしがするはず無いでしょう?」
「今日は一緒にお風呂入ってくれなきゃイヤよ!!」
「それは駄目ですわ」
「ガーン…!!」
ズルズルと落ち、床でシクシク泣く御子柴。
「清春」
「…あ。おかえりアドラメレクの姉ちゃん」
ソファーで寝転がり、聖書を読んでいる清春にアドラメレクはハンバーガーがたくさん入った紙袋を渡す。
「貴方にお土産ですわ」
「マジで!?サンキュー!!」
ガバッ!と起き上がり、早速モクモク食べ出す清春の頭をソファーの後ろから撫で撫でするアドラメレク。
「この一週間良い子に下界で遊べましたこと?」
「まーね!」
「…あら?清春貴方、聖書を読んでおりましたの?字が読めるようになりましたの?」


ギクッ…!

「ちょ、ちょっとくらいはっ!下界に居たら読めるようになったんだし!」
「まあ!偉い!さすがはわたくしの弟分ですわ」
「お嬢ォオオォオ!!」


ガシッ!

アドラメレクの細い腰にしがみつく御子柴は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「ワタシにお土産は!?ワタシに撫で撫ではァアア!?」
ニコッ。アドラメレクは蝋燭と藁人形と金槌を取り出す。御子柴は目を輝かせた。
「そそそれはッ!!」
「ふふっ。御子柴貴女が欲しがっていた丑の刻参り三点セットですわ」
「お嬢ォオオォオ!お土産ありがとうぅうう!!」
大切にお土産を抱き締める御子柴の頭を笑顔で撫でるアドラメレク。その隣にはお土産をガツガツ食す清春。
アドラメレクは突然冷たい瞳をする。遠い国イングランドを見つめていた。
「マルコはまだですの?」
「マルコやベルベットローゼはまだ帰ってきていないわよ…」
「そう」
アドラメレクのその冷たい瞳は、遠い国イングランドを見つめていた。














夏休〜トム編【完】









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