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GOD GAME
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避暑地オルバス―――――

「何て澄み渡る美味しい空気なのでしょう!そう思いませんことトム?」
「あ、あ、ああ。そ、そうだなアイリーン!」
ヴォルテスから遠く離れた地避暑地オルバスのペンションへ観光バスでやって来たトムとアイリーン。
真っ白いワンピースなのにアイリーンが着ただけで超一流ブランドのワンピースに見える。それと真っ白く鍔が長い女優帽をかぶったアイリーンを、トムは真っ赤な頬をしてチラチラ見ている。
緑々した木々の葉と青空のコントラストが美しく空気も美味しい森の奥のペンション。年数は経っているが、真っ白くお城のような2階建てのペンションはお洒落で女性が好みそうな造りをしている。
そんなペンションの2階最奥の201号室がトムとアイリーンの部屋。
部屋の予約やバスの予約、日程を組んだり荷物持ち全てトムがこなした。トムからアイリーンを誘ったのだが、何一つ手伝わなかったアイリーンに普通の人間なら怒るだろうが、アイリーンの事が好きでたまらないトムには全く苦では無いのだ。寧ろ、ヴァンヘイレン1…いや、ヴォルテス1の美少女がこんな冴えない自分の誘いに乗ってくれた。それだけでトムは有頂天だからアイリーンの我儘も寧ろ喜ぶ程だろう。


ドサッ!

「ふぅ…」
自分とアイリーンの2人分の荷物を床に置き、少し休憩…とベッドに腰かけたトム。
「トム!あれは何ですの!?」


ぐいっ!

「ぐえっ?!」
休憩も束の間。アイリーンにシャツの首元を後ろから引っ張られて首が締まったトム。鶏が首を締められたような目玉剥き出しの情けない顔をしつつも、アイリーンの元へ行く。
アイリーンはお洒落な窓から見える森の奥に建っている灯台を指差していた。
「ゴホ、ゴホ。あれは灯台って言うんだよ」
「トム?風邪を引いておりますの?」
「い、いや引いてないぜ」
――アイリーンお前が首元を引っ張るから噎せたんだよ!!――
「まあ!引いてないのでしたら良かったですわ!ところでその灯台という物の奥に海が少し見えますわ」
「ああ。灯台っていうのは夜、海を照らす役割があるからな。必然と海の傍に建てられる物なんだ」
「わたくし海を見に行きたいですわ!」
「あ、ああ…後でな。少し休憩をしてか、」
「行きますわよトム!!」
「へ?!ちょ、わ、おおおい!アイリーン!?」
ぐいぐいまたトムのシャツを引っ張り、トムを引き摺って部屋を出るアイリーン。荷物持ちが疲れたから休憩をしたかったトム。だがアイリーンが自分と出掛けたいと張り切って催促をしている事の方が嬉しくて、アイリーンの我儘に振り回されるのだった。






















森――――――

「うわっ。すっげぇ生い茂ってるな。永らく手入れされてない感じかよ」
ペンションの裏手に広がる森を抜けた先に海と灯台がある。だから必然と森を抜けなければいけなくなるのだが、その森というのがまた厄介で草木が生い茂っており、道が無い。だから突き出した枝葉があたらないように進まなければいけない。
「おいアイリーン。気を付けろよ。突き出した枝で手切らないようにな」
「はい!分かっておりますわトム!きゃっ!?」
「!?ど、どうしたアイリーン!」
後ろを歩いていたアイリーンからの小さな小さな悲鳴でもすぐ後ろを振り向くトム。
「毛虫が居りますわ〜!!」
「あ、ああ。虫くらい居るだろうな。こんな森の中だか、」


ぎゅっ!

「らぁああ?!」
何とアイリーンはトムのシャツの裾をぎゅっ!と掴んできたではないか。トムの全身が真っ赤になり、両手をジタバタさせて暴れるトム。
「やややいや!お、おいアイリーン!?お前そのっ!?」
「わたくし虫が大嫌いなのですわ…!トム、わたくしを守ってくださる?」
「!!」
上目遣い+潤んだ大きい瞳+掴まれたシャツの裾+口に手を添えて虫に怯える表情+男の自分を頼るか弱い一言…。アイリーンに首ったけなトムをオトスには充分過ぎる要素だ。


バッ!

トムは何故か背筋を伸ばしてバッ!と敬礼をする。
「ししし仕方の無い奴だなアイリーンお前はっ!わわわ分かった!どんな虫もアイリーンに触角たりとも触れさせない!近付かせないでやるよ!」
「まあ!頼もしいですわトムありがとう!」
「さあかかってこい毛虫に羽虫に蜘蛛に蝉!蟻であってもアイリーンの足元を歩かせないぞ!!」
張り切って両手に殺虫剤を構え、顔を真っ赤にして嬉しそうに先導するトム。その後ろでトムのシャツの裾を可愛く掴みながらニコニコ天使の笑顔でついていくアイリーン。


ニヤリ…

アイリーンの笑みが天使からまるで悪魔のように変わっていた事にトムは気付くはずも無い。




















「着いたぞー!!俺は何億もの敵からアイリーンを守った!!」
(※何億もの敵=ただの虫です)
灯台が建つ最奥に辿り着いた2人。カラッカラに空になった殺虫剤を両手に上げて勝ち誇るトムを、後ろで口に手を添えて天使の笑顔でクスクス微笑むアイリーン。
「あら?此所は崖で、崖の下が海になっておりましたの?」
灯台は崖に建っており、その下に真っ青な海が広がっていた。夏の暑い陽射しに照らされた真っ青な海がキラキラ光っていてとても美しい。
「ふ〜!眺めも良い事だし休憩しようぜアイリーン」
「そうですわね。わたくし喉が渇いてしまいましたわ」
「ああ、そうだな…って!俺飲み物も食べ物も何も持ってきてないぞ!っあー…やっちまった…」
「大丈夫ですわトム!」
「へ?」
シャキーン!白いバッグの中から2本のペットボトルの紅茶を取り出したアイリーン。
「お、おお!アイリーン持ってきてたのかよ!」
「用意周到ですわ!」
「さっすがIQ250だぜ。ありがとな」
「いえいえっ!」
ニコニコ天使の笑顔でトムにペットボトルを渡せば、トムはゴクゴク喉を鳴らして一気飲み。
「ぷはーっ!生き返るぜ!」
「ふふふっ」
「な、何だよアイリーン」
「トムったら。おじ様のようですわ」
「…!!そ、そうかよ…」
――ガーン!オヤジくさいって事かよ…!!――
シクシク落ち込むトムの隣に足を横に出して座るアイリーンは、両手でペットボトルを持ち、紅茶を飲む。
「それにしてもトム。どうしてわたくしを誘ってくださったのです?」


ドキッ!

まさかこんな初っ端から本題を出されるとは。トムは更に顔を赤くして、アイリーンを見ずに海を見て、恥ずかしそうに口を尖らせて言う。
「た、ただ同じ班の班員とこ、交流を深めようと思っただけだっ!」
「でしたら何故カナ様をお誘いにならなかったのですか?」
「!!そ、それは…」
――どうする俺?!お前が好きだからだよ!なんてまだ心の準備ができてないし、かと言ってナタリーには声を掛けていない事を知ったら優しいアイリーンの事だ。"カナ様を仲間外れにするトムなんて嫌いですわ!わたくし帰らせて頂きます!"なんて言い兼ねないぞ!!どうするどうする…あ!そうだ!――
「ナ、ナタリーは友達と遊園地に遊びに行く予定があったんだよ!べ、別に声を掛けていないわけじゃないからな?!」
――遊園地に行ってるかどうかなんて分からないしそもそもナタリーは夏休み予定が無くて暇だって言ってたから、これは嘘だけど…!――
「まあ。そうでしたの?でしたらお誘いできませんわね」
「ざ、残念だったからな。また今度3人でだなっ!」
「そうですわね」
ふ〜、と溜め息を吐くトム。
「トム。明日のご予定は?」
「ああ。明日はペンションを出るチェックアウトの時間が午前10時だからな。その後バスでオルバスの有名な湖を見に行こうと思っているんだけど」
アイリーンは両手を合わせる。
「まあ!オルバスの有名な湖ですの?わたくし一度で良いから行ってみたかったのですわ!」
「そうかよ。偶然だな」
「さすがトム!わたくしの気持ちを分かっておりますわ!」
「なななな?!いいいいやこれはたたただの偶然でだな?!」
「いいえ違いますわ!トムと同じ班になって約半年。トムはわたくしの事を理解してくださっているのですわ!ありがとう!トム!貴方と今日此処オルバスへ来れて良かったですわ!」
「〜〜〜!!そ、そうかよ!」
くるっ!恥ずかし過ぎるのと嬉し過ぎるのとで死にそうになるトムは、真っ赤な顔を見られたくなくてアイリーンに背を向ける。
「トム?どうなさいましたの?」
「アアアアアイリーン!?」
せっかく背を向けたのに、アイリーンがトムの顔を覗き込んでくるからギョッ!としてしまうトム。
「まあ!お顔が真っ赤!トム、お熱があるのではなくて?」


ピタッ、

「〜〜〜?!」
何とアイリーンは自分の額をトムの額にくっ付けて熱を計ってきたのだ。トムは目をぐるぐる回して、こう思った。
――今死んでも人生に悔いは無い!!――
…と。
「あらら!?お熱が一気に上がってしまいましたわ!トム!早く救急車を!」
「いいいいいんだ!!俺の平熱は高くて、いいいつもこのくらいなんだよ!!」
「そうですの?でも風邪を引いていたら大変!」
「だだだ大丈夫だからっ!心配してくれてありがとなアアアアアイリーン!!」
「いえいえ!大事なトムですもの。何も無くて良かったですわ!」
「?!」
――だだだ大事な?!それってヴァンヘイレンの生徒として?それとも…。どっちなんだよアイリーン!!――


















「ふぅ、はぁ…はぁ…」
「大丈夫です?トム、わたくしやっぱり降りますわ。だって…」
「いい!いい!いいからお前はおぶられていろよアイリーン!」
「何だか悪いですわ…」
「いいから!な!疲れてお前が風邪でも引いたら夏休み台無しになるだろ!?」
「では…お言葉に甘えさせて頂きますわ」
「あ、ああ!」
帰り。森から出る時、疲れた様子のアイリーンに気付いたトムがアイリーンをおんぶしてあげた。アイリーンは申し訳なさそうにして断ったが、トムは張り切っておぶっていた。
「トム」
「はぁ、はぁ…何だよアイリーン」
「白が神々に殺められ、トムのご両親が神々に殺められ…。毎日世界の何処かでは人が神々による造り直しの儀を施され、殺められていますわ…」
有頂天だったトムも、アイリーンの真剣で切ない話題に顔が真剣になり、声のトーンも低くなる。
「…ああ。そうだな」
「わたくしずっと思っておりましたの。神々に殺められるなんてわたくしの身近では有り得ない。そんなものテレビの世界のお話だと。でも…白やトムのご両親が亡くなった場面に直面してようやく気付きましたわ…。これはテレビの世界のお話では無い。現実に、わたくしの身近に起きている惨劇なのだと」
「…ああ」
「おかしいですわよね…神々による造り直しの儀を止める為の機関ヴァンヘイレンの生徒だというのにこんな他人事のような言い方をしてしまって…」
「俺もそうだったよ。任務で神々と戦った時は、殺された奴らが俺の知らない奴らばっかりだったから。俺や俺の友達、家族は殺されない。っていう根拠も無い自信と安心があった。ずっと。でも、白と両親を殺されて初めて恐怖を覚えたぜ。…人間なんてそんなもんだ。可哀想なんて言っても自分や自分の大切な奴らに被害が無ければ所詮他人事」
「トム…」


きゅっ…、

おぶられているアイリーンは、トムのシャツをきゅっ…と強く握った。
「わたくし恐いですわ…。いつ自分が…いつ皆様が…。いつ…トムが神々に殺められてしまわないか…。とても恐いのですわ」
トムは明るく笑い飛ばした。
「ははっ。ヴァンヘイレンの秀才アイリーン・セントノアールでも恐いものがあるんだな。…大丈夫だ。俺達ヴァンヘイレンは…俺達人間は負けない。神々なんかに。それに…」
「それに?」
アイリーンをおぶっているトムの顔がまた、真っ赤に染まった。
「お、お前の事は命に代えても俺がままま守ってやるからなっ!」
「トム…!ありがとう!」
「へ、へへっ!」
鼻を擦り、嬉しそうに笑むトムだった。





























19:00、
ペンション食堂――――


カチャ、カチャ…

静かな食堂に響くのは各々のテーブルから聞こえてくる食器と食器とが擦れ合う音。
バイキング形式の夕食。周りにはトムとアイリーン以外、若いカップルがもう2組居るだけで、夏だというのに案外人が少ない。
「俺達以外2組しかいなかったんだな」
周りを見ながらマッシュポテトを頬張るトム。
「静かな方が落ち着けてわたくしは好きですわ」
白身魚のソテーを丁寧にナイフでカットするアイリーン。
「ま、まあな。そ、そうだアイリーン!」
「?何ですの?トム」
「此処のペンション屋上があるらしいんだけどな、屋上から見る満天の星空が綺麗らしいんだ!」
――インターネットで寝ずに調べた情報だけどなっ!――
「まあ!そうですの?夏なら尚更綺麗かもしれませんわ」
「だろう!?よ、良かったらその…一緒に…」
「行きましょう!」
「〜〜!あ、ああ!行こうな!」
ニコニコ。アイリーンも嬉しそうに微笑んでくれる。トムはテーブルの下で、アイリーンに見えないようにグッ!とガッツポーズをした。
――きた…!昼間といい、もしかしたらこれはきてるんじゃないのかよ!?――
今夜する予定の告白への自信を繋げていたそうな。


















ザァーッ…、

夕食後。トムはすぐ入浴。アイリーンは寝る前に入浴するのが日課だから。と、後ですると告げればトムが先に入浴をし、あがってから屋上で星空を見に行こうという事になった。


パタン…、

トムが入浴中なのを良い事にアイリーンは、気付かれないよう静かに部屋を出た。




















ペンション2階廊下―――

「ええ。こちらは大丈夫ですわ。そちらはどうですの?」
窓から射し込む月明かりしか明かりの無い真っ暗で静かな廊下の片隅。窓から夜空を眺めながら、白い羽の形をした通信機で通話をしているアイリーンの表情はアドラメレクの険しい表情に変わっていた。
「こっちはお嬢が居なくて寂しくて寂しくてワタシ死んじゃうわよォオオ〜!早く帰ってきてよお嬢ォオオ!!」
「ふふふ。御子柴は甘えん坊ですわね。大丈夫。明日には帰りますわ」
「明日!?そんなに…早く済ませるつもり…?」
アイリーンは下唇に人差し指と中指を添えて白い歯で二ッ…と微笑。
「ええ。わたくしの予定に狂いはありませんことよ」
「ヤッタワーー!お嬢が早く帰ってくるわーー!ワタシ部屋を冷た〜〜くして涼しく快適にして待っているわ!お嬢の為にネ!!」
「あら。ありがとう御子柴。…ところで。アイツの様子はマルコから何か聞いておりますの?」
「アイツ…?ああ…ベルベットローゼの事ね…」
通話越しでも分かる。急にテンションががた落ちの御子柴。
「知らないわぁ〜…。まあ…ただ…。お嬢に疑われているから、アガレス氏を殺しに行ったようだけれど…それもどうだかね…。できるのかしら…」
「ふふ。殺せず寧ろアガレス氏側についたらどーんな最期を迎えさせてあげようか今から楽しみですわ」
「ククククッ…!!ワタシお嬢のそういうところ大好きよ…!ああ…。そうそう。お嬢…。清春を下界で遊ばせていて…良いのかしら?ここ毎日遊びに行っているようだけれど…」
「あの子はまだ下界での順応性が乏しいですわ。ですからいざ戦闘となった時あの子の体がついていかない可能性がありますの。ですから今の内に下界の空気に順応させるよう、下界で遊ばせてあげているのですわ」
「ナルホドね…。そんな事はどうでも良いのよ…!お嬢…早く帰ってくるのよ…ワタシ待っているわ…ずっと…ずっと…ずっとね!!」
「ありがとう。何かあったら連絡なさい」


プツッ、

通信を終えるとアドラメレクの険しい表情は一変。ニコッ。アイリーンの天使の笑顔に早変わり。


カツン、カツン…

静かな廊下に足音を響かせて201号室へと戻っていった。


パタン…、























「ん?アイリーン何処行ってたんだ?」
部屋へ戻ると、髪をタオルで拭きながらシャツに短パンといったラフで庶民らしい服装をしたトムがベッドに腰を掛けてキョトン。としていた。
「少し友人と電話を」
ニコッ。笑顔で言っただけ。なのにトムはすぐ顔を真っ赤にする。
「そ、そうかよ。し、心配しただろ。風呂からあがったら居なくて。…で、出掛ける時はほんの少しの間でも俺に言ってからにしろよなっ…!」
「はい」
「じ、じゃあ俺トイレ入ってくるから。そしたらすぐ屋上な!」
「ええ。待っておりますわ」


パタン!

室内のトイレへ入るトム。ベッドの上でニコニコ座っているアイリーンの表情がトムがトイレへ入った途端アドラメレクの表情に変わる。
「ふん…。人間の分際でわたくしに指図するなど…」























屋上――――――

「わあ!とっても綺麗ですわ!ねぇ!トム!」
「あ、ああ。すげーなこりゃ。想像以上だ」
屋上へ行くと、想像以上の美しい満天の星空が広がっていた。星空を見上げながらくるくる回って楽しそうなアイリーンがトムの瞳に映っている。
――アイリーン…。お前はいつも余裕そうに見えていたけれど、本当は神々と戦う事が恐かったんだな。…俺が守ってやる。たとえこの命に代えても。造り直しの儀発案者大神アドラメレクを俺が殺って、アイリーンが怯えずに幸せに生きていける世界を俺が作ってやるからな…!――
「トム?怖い顔をして。何か考え事ですの?」
顔を覗き込んできたアイリーンにハッ!と我に返るトム。
「…ハッ!いいいや!何でもないからな!」
「そうでしたの?ふぅ〜。夏でも夜は少し冷えますわね」
「ああ。特に森の中はな。星空も見えた事だし、風邪を引いても悪いからそろそろ部屋に戻るか?」
「はいっ!」
くるり。2人が屋上の出入口に体を向けると。
「!!?」
トムとアイリーン以外にペンションに泊まっている2組のカップルが、抱き合っていたりキスをしていた。ロマンチックな星空の下、ムードがあったから故の行動なのだろう。
顔を真っ赤にして何故かこちらが心臓ドックン!ドックン!鳴るトム。
一方、「あらら?」と、何が何だか周りの状況が理解できていない天然アイリーン。
「いいい行くぞアイリーン!」
「あ!待って下さいなトム!」
恥ずかしくて走ってバーン!と扉を開けて行ってしまうトムをパタパタ追い掛けるアイリーン。
トムはさっさと行ってしまい、もう姿が見えない。最後屋上の出入口の扉をアイリーンが閉める時。屋上で抱き合ったりキスをしている2組のカップルを瞳に映したアイリーンは、宙をツーッ…と指で縦に線を引くようになぞった。
「吐き気を催す醜態。わたくしの眼前で晒さないでくれますこと?低知能な人間」


パンッ!!

ゴトッ、ゴトッ…

ビチャ!ビチャッ!

すると、アイリーンが宙に引いた縦の線が2組のカップルの体を頭から足の爪先にかけて綺麗に入り、2組のカップルは真っ二つに割れてしまった。ゴトッ、ゴトッと倒れる4人の人間の死体は、最期の言葉も悲鳴も上げさせる隙を与えてもらえずに息絶え。
ビチャ!ビチャッ!と真っ赤な血が満天の星空を染めた。アイリーン…いや、アドラメレクは下唇に人差し指と中指を添えて笑う。
「ふふふっ。星空よりも美しい人間の赤。最高ですこと。でも…まだまだ見たりませんわ…。ねぇ?トム…」





















201号室―――――

「もうっ!先に行ってしまうなんて酷いですわトム!!」
「わわわ悪かったアイリーン!」
アイリーンを於いて先に部屋へ戻ってしまったくらい先程屋上でカップル達が繰り広げていた光景に恥ずかしくなってしまったトム。
ぷんすか頬を膨らませてお怒りのアイリーンに、あわあわオロオロしてしまうトム。
「わわ、悪かったってアイリーン!あ、あんな光景見せられたら恥ずかしくなって飛び出したくもなるだろ?」
「わたくしを守ってくださると仰いましたのに…」
「え?」
アイリーンは潤んだ大きい瞳でトムを見上げる。上目遣いで。
「わたくしを於いていくなんて酷いですわ!」
「ご、ごめん!だから悪かったって、」
「トムに於いていかれてしまったらわたくしこれからもうどうすれば良いのですか!?」
「…!!」
ポロポロ涙を流すアイリーン。怒っているのに悲しそうな表情の最愛の人を前に、トムは顔を真っ赤にしてから真剣な顔付きをした。
「……。アイリーン」
「ひっく…、ひっく…何ですの…トム」
「俺は白や両親を喪った時思った。世界で一番好きな奴の事だけは命に代えても守るって」
「ひっく…、それは…どなたですの…?わたくしの事はっ…ひっく、守ってくださらないのですか!?」
「アイリーン…」
「何ですのっ…!」
「お前が好きだ。命に代えても一生守らせてほしい」
トムの真剣で真っ直ぐ純粋な瞳には、肩をひくひくさせて泣くアイリーンがしっかり映っていた。


ホー、ホー…

沈黙が起きる。月明かりしか射し込まない暗い室内には外からの梟の鳴き声しか聞こえてこない。
キョトン…としたままトムを泣いた目で見つめるアイリーン。一方のトムは拳を強く握っていた。――昼間や今良い雰囲気だったからもしかして…なんて思ってもやっぱり心の何処かでは諦めているんだ。絶世の美少女が、平凡で顔は下の俺に振り向くわけ無い、って。それで良い。いや、そうなる事は分かっていた。この誘いに乗ってペンションに来てくれたのだって、こいつにとって俺はただの同じクラスの。ただの同じ班のメンバーだかり。ただの友達だから…。でも俺はお前を命に代えても守るって決めた。だから分かりきった結果なんて…―
「トム…」
「何だよ…アイリーン」
アイリーンは顔を上げた。トムから目をそらし、口を手で隠し。恥ずかしそうな真っ赤な顔をして。
「わ、わたくしも…トムが好きっ…ですの…」
「…へ?」






















ホー、ホー…

月明かりしか射し込まないペンションの一室201号室では梟の鳴き声だけがする。
頬を真っ赤に染めて口に手を添え、恥ずかしそうにして自分を直視できない最愛の人を前に、トムは真っ赤な顔のままポカーン…。
「へ…?あ…えっと…ア、アイリーン今何て…?」
「に、二度も言わせるつもりですのっ!?は、恥ずかしいですから言わせないで下さいなっ…!」
「ごごごごめん!い、いやだってさ…ま、まさかアイリーンからそのっ…そんな返事が貰えるなんて夢にも思ってなかったっていうかそのっ…その!単刀直入に聞いても良いかよ!」
「な、何ですのっ!」
トムは真っ赤な情けない顔をしつつも、真剣な瞳にアイリーンを映して口を開く。
「さっきの返事の意味は俺のこここ恋人になってくれるって意味で捉えて良いのかよ!?」
しかしアイリーンからはすぐに返事が返ってこず。トムが内心"調子に乗り過ぎたか?!"と焦るが…。
「い、言わせないで下さいなっ…!」
そう言いながらコクン、と頷いたアイリーンは相変わらず恥ずかしそうにしていてこちらを見てこない。そんなシャイな姿にすら心打たれるトム。


ぎゅ〜っ、

「!?突然どうなさいましたのトム!自分の頬を恒って!?」
突然自分の頬を恒ったトムにアイリーンは大きな目を更に大きくギョッ!と見開く。
「夢じゃない…」
「えっ?」
「いや、さ。夢じゃないんだ、って。今この瞬間の出来事は夢じゃないんだって確信したんだよ。…はは。はははっ!良かった!本当に良かった!あーーすっきりした!」


バフン!

嬉しそうに笑って大の字になりながら背中からベッドへダイブするトム。アイリーンはベッドの横に立ち、不思議そうにトムを覗き込んでいる。
「どうなさいましたのトム?食べると笑ってしまうキノコでも食べてしまいましたの?」



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あきゅろす。
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