GOD GAME ページ:1 夏休み最終日――――― 「何!?pとqって丸の位置わけ分かんねーし!」 「Pの小文字が右側に丸があって、Qの小文字は左側に丸があるんですよ」 「その前に大文字と小文字があるってのが意味分かんねーし!!一つにまとめりゃイーじゃん!!」 ハッピーバーガーの窓際隅いつもの席で向かい合って文字の勉強をしている清春とカナ。かれこれ3日目の勉強会だが、清春はまだアルファベットのa〜jまでしか習得していない。覚えられなくてイライラして髪をぐじゃぐじゃに掻く清春に怒りもせずにこやかに穏やかに優しく教えるカナ。 「少し疲れちゃいましたね。今日はお勉強この辺りでやめ、」 「やめ!!やめやめ!」 「ふふっ。そうですね!」 バーン!とノートをひっくり返してテーブルに顔を突っ伏す清春の頭をツンツンとつつく。清春は顔を上げず返事。 「何っ!」 「次は清春さんが先生になる番ですよっ」 「…分かってるしっ!」 ノートと英語のテキストを鞄にしまうと清春は立ち上がり、さっさと店を出て行くからカナはいつもの如く「ま、待って下さい〜!」とパタパタ追い駆けるのだった。 女性もののファッションブランドが集まったビル。淡い色使いと花柄のおとなしめな服をメインに展開をしているショップや、原色で派手なスワロフスキー付きの強めな服をメインに展開をするショップ、ベージュや茶色などをメインにアメカジ展開をしているショップなど様々なジャンルの店が並んでいる。 「ほわ〜」 初めて踏み入れる世界にカナは感動して辺りをキョロキョロ見回しているから、清春はイライラして片足をパタパタ鳴らす。 「色々な種類のお洋服があるんですね。私いつも同じお店でしか買わないので服だけでもこんなに種類があるなんて知りませんでした」 「あんた普段何処で買うん?」 「アンジェラ駅前にあるスーパーの衣料品売り場です」 「はぁ!?そんな所!?フツーそういう売り場ってババァが買う系の服しか売ってなくね?!通りであんたの私服ショボいわけだ」 「ショ、ショボいですか…!?ガーン…」 落ち込むカナを置いて店へ入ろうとした清春はピタッと足を止め、慌ててカナの方を振り向く。 「今ショボいって言ったのはヘアピンの事じゃねーから!」 「えっ?…あ!気になさらないで下さいあの日の事は!私も怒り過ぎちゃって本当ごめんなさい!」 店のど真中でカナがペコペコ謝るから、周りの視線が気になってイラッとした清春はさっさと店へ入ってしまった。そんな清春の背を見て、カナは左胸に手をあててにっこり微笑む。 「ヘアピンの事気にしててくれたんだ…。優しい人だなぁ」 「あんた何色が好き?」 「えっと…特に無いんですけどよく着るのは白です」 「はぁ。また膨張色を…」 ブツブツ言いながらも清春は服を選んでいる。淡い色と花柄がメインでおとなしめな服を取り扱うショップを選んだのも清春だ。清春曰く「あんたみたいに地味な雌豚にはこっちの店」だそうだ。 ブツブツ言いながらも真剣に選んでくれるから、カナは清春の後ろで嬉しそうににこにこ待っている。 「ん」 「えっ?」 淡い黄色と淡いピンクの同じ形の肩が出たTシャツをカナに差し出す。カナは顔を真っ赤にして両手を横にぶんぶん振る。 「こここんなに肩が出た服は恥ずかしくて着れないですよっ〜!」 「毎回同じ無難な服着てるから地味になんだよ。たまには一生自分が着なさそうな服選ぶのもイーんだし。じゃあコレとコレとコレ買ってくれば?」 ポイポイポイッ!とシャツやら何やら清春が選んだ服や小物を投げられ、全てキャッチしたカナはあわあわ。 「こ、これ全部ですか?」 「今日服買うっつってたじゃん。だから俺に選らんでもらうっつったのあんただろ」 「そ、そうなんですけど私こういう服着る勇気が無くてっ!」 「はい、お会計〜」 「うぅ〜っ」 有無を言わせずレジにバンッ!!と服やら小物を置かれてしまい、カナは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしながらも清春が選んだ服類を買うのだった。 ――こんな派手な服来て学校行ったらみんなに高校デビューだと思われちゃうよ〜!―― 「うぅっ…は、恥ずかしいですよ…!周りの視線が怖いですっ…うぅっ」 あれから購入した服に全て着替えて街を歩くカナ。 淡いピンクのシャツは肩が出ていて背中も少しだがあいていて、ミントグリーンの膝上10cmのショーとパンツ、8cmヒールのピンクのサンダル、手首にはピンクとミントグリーンと黄色のアクセサリーを何個かつけて、ネックレスも淡いピンクの物。 露出した肩を右手で隠しながらショートパンツの丈を左手で長く伸ばしながら、高いヒールに慣れない覚束ない足取りで下を向いて歩くカナ。 「そうやってると逆におかしく見えるんだし」 「でででもっ!こんな服装した事無いから恥ずかしいですっ!」 「あっそ」 周りの人々の方が夏らしく、カナよりもっと露出した服を着ているのだがそんな事には気付かず、生まれて初めて着た露出度の高い(カナ的に)服装の自分の恥ずかしさでいっぱいいっぱい。 「恥ずかしい恥ずかしい恥ずか、」 ガクン! 案の定慣れないヒールでバランスを崩し、よろめく。 「きゃっ…!」 バフッ! 「ごごごごごめんなさいっ!!」 よろめいてしまい、隣を歩いていた清春に無意識の内にダイブしてしまった。ギロッと睨まれ、カナは泣きながら慌てて離れる。 「ごごごごごめんなさいっ!!高いヒールに慣れなくて!ごめんなさい〜!!」 今日の目的は清春の文字の勉強&カナのお洒落の勉強。目的を早々果たした2人は行く宛も無く黙ったまま歩いていた。 ――今日の予定は果たしちゃったし…。明日から学校が始まるから明日の準備とか夏休みの宿題の見直しをしたいから今日はもう帰ろうかな。清春さんをまた怒らせちゃったし…はぁ―― 先程ダイブされてイライラオーラが漂う清春。カナは清春がまだ恐いが、相変わらずの優しい笑顔で話し掛ける。 「あ、あのっ!今日もありがとうございました。私学校の準備と宿題の見直しをしなくちゃいけないので、今日は帰りますね。私じゃ着ないような服を選らんでくださり、本当にありがとうございました」 ペコッ。頭を下げるカナ。背を向けてヴァンヘイレンの方へ歩き出す。 「えーが」 「映画?」 清春の言葉に首を傾げて振り向くカナ。 「えーがって何」 「映画館でしたら駅の裏にありますよ」 「場所分かんねーし、えーがってのもよく分かんねーからあんたが教えてよ」 「えっ!あ…教えたいのは山々なんですけれど、私今日はもう帰らなくちゃいけなくて」 「…何で」 「えっ!あ、学校の準備と宿題の見直しをしなくちゃいけないんです。だから今日はこれで帰りますね」 「俺暇なんだけど」 「え!あ…えっと、でも…」 「遊んで帰ってからでも間に合うんじゃね?」 「い、いやそれがそうもいかなくて…。だからごめんなさい!今日は帰りますね。本当にごめんなさい!」 「……」 ペコペコペコペコ何10回も頭を下げるカナは申し訳なさそうにしつつ背を向けて、横断歩道を渡って行ってしまった。申し訳ないから清春の方は振り向かずに。 賑やかな街中を抜け、人通りの無い住宅街をヴァンヘイレンへ帰る為1人で歩くカナ。 「何だか悪い事しちゃったな…。私なんかとまだ遊んでくれるって言ってくれたのに。怒ってもうお友達やめられたらどうしよう…」 「おい、あんた」 「きゃああ!?」 1秒前まで誰も周りに居なかったはず。なのに突然背後から呼ばれてカナはお化け屋敷の時のように驚き飛び上がる。しかも腰が抜けてしまい尻餅を着いたまま後ろを向くと。 「き、清春さん!?」 さっきついてきていなかったはずの清春が突然真後ろに現れてカナは目が飛び出そうな程驚く。清春は相変わらず外方を向いているが。 「あ、あのっ…!?」 「学校の準備っつーのとか宿題の見直しっつーの手伝うから」 「えっ?」 「俺が手伝えばまだ遊べんだろっつってんだよ!マジトロ過ぎてウゼェんだよあんた!!」 「…!!」 顔はいつものようにイライラしているし声も荒いし言葉も悪い。だがカナは目を見開いて驚いてから、人差し指を口にあてて斜め上に視線を向けながら「あっ」と洩らす。 「あっ。そういえば学校の準備と宿題の見直し、昨日の夜に終わったんでした!」 「はぁ!?あんた頭大丈夫?トロいだけじゃなくてボケてきてんじゃね!?」 「ふふっ。そうかもしれないですねっ!」 「何笑ってんだよ?ボケてきて笑ってられねーしフツー」 「だからまだ遊べましたっ!」 「何だよ、ボケ雌豚」 「じゃあさっき言っていた映画行きますか?」 「行く」 両手を顔の前で合わせてクスクス楽しそうに笑うカナはほんのり頬を赤くして、清春の後をパタパタついて行く。 「つーか、えーがって何する所?」 「え"っ!?」 「チョーー退屈だったし!!」 映画鑑賞後の清春は先日メリーゴーランドや遊覧船を乗り終えた後のようにイライラして酷く不機嫌でつまらなそう。 清春は映画というものを知らなかったから、カナが選んだ"わんわん子犬物語"という子犬と飼い主の暖かくのほほんとした映画を観た2人。しかしほのぼの系イコールつまらない!な清春にはこの映画を観ている2時間はとても退屈をしたのだ。 カナは顔の前で両手を合わせて謝る。 「ごめんなさいっ!趣味に合わない映画でしたよね?」 「チョー趣味じゃねーし。つーか嫌いな部類」 「本当にごめんなさい!」 カナが謝る事は何も無く、寧ろ清春の方が謝る立場なのだが謝り癖のあるカナはやはり今日もペコペコ謝ってしまうのだった。 それからカナは、メアとよく行っていてメアがアガレスと行っていたあの雑貨屋に入る。 カランカラン、 「いらっしゃぁい…」 「こんにちはー」 いつもの店主の老婆か嗄れた声で接客をすれば、カナは愛想良く挨拶をする。清春は店内をつまらなそうに、じと目で見ている。 「此処よくお友達と来るんです」 「聞いてねーし」 「ごめんなさい…」 ――やっぱり恐いよ〜。見るからにつまらなそうなのに、どうして私と遊ぼうとしてくれたんだろう?―― 「あ。このヘアピン可愛いな」 白い小さな花が3つ付いたヘアピンを楽しそうに見るカナ。 「そのヘアピン大事なんじゃねーの」 「これは一番大事ですよ。でも、新しいヘアピンも欲しいなぁって。新しいヘアピンを買ってもこのヘアピンが一番大事なのは変わらないですけどね」 両親から貰ったといういつも前髪につけているヘアピンを撫でながら、売り物の新しいヘアピンを見るカナ。 「おい。あんたこれ買う」 「えっ!?」 店主を"あんた"呼ばわりした清春はカナが見ていた白い花のヘアピンを店主に渡す。店主がさっさと袋に入れて清春が支払うから、何が起きたのか分からないカナはオロオロオロオロするばかり。 「あああの!?どなたかにプレゼントするんですかそのヘアピン?」 「あんた」 「えーっ!?いいいいですよ!そういうつもりで言ったんじゃ、」 「ん」 ポンッ、 カナの手の平に袋に入ったヘアピンを乗せると清春は平然としたままスタスタと店を出ていってしまった。 「ありがとうね〜」 店主は暢気にそんな事を言っているし。カナは顔を真っ赤にして慌てて店を出た。 「はぁ、はぁっ。あのっ!本当に頂いても宜しいんですか!?」 案外遠くまで歩いていってしまっていた清春にようやく追い付いたカナ。息を切らしながら、ヘアピンの入った袋を指差してそう聞けば清春は背を向けたまま… 「腹減った。飯」 「えっ!?あ!ちょ、ちょっと待って下さい清春さん!!」 カナの問いを無視して、スタスタと街を歩いていってしまった。 20:40―――― 結局晩ご飯を食べ終えるまで外を出歩いていた2人。途中何度かカナが買ってもらったヘアピンの事を清春に尋ねても無視か別の話題を出すだけなので、もう聞くのは諦めてヘアピンの入った袋をバッグにしまった。 晩ご飯も食べ終えた事だし…とカナが椅子から立ち上がるが。 「あんたさ」 「はいっ」 「ヴァンヘイレンの事教えてよ」 「え、えっと〜」 帰ろうとすると清春の引き留め作戦?なのか、はたまたたまたま偶然なのかは分からないが話題を出してくる清春に少し困ってしまいつつも笑顔でもう一度席に座り直して丁寧に返事をしてあげるところがカナの長所だろう。 「はい。ヴァンヘイレンは学校のような組織なのですが、先生達が"此処で造り直しの儀が行われる"だったり"人間が神々に襲われた"という情報を私達生徒に出して、生徒はその現場へ向かって神と戦います。と言っても以前お話したように私は戦闘が苦手なのでついて行ってももっぱら救護班ですけど…」 「……。じゃああんたは神をぶっ殺した事は無いのかよ?」 「はい」 「ぶっ殺してーとは思わねーの?」 「え?」 「家族ぶっ殺されてんだろ」 「復讐を果たしたところでお父さんもお母さんも弟も還ってきませんから…」 ははは…と笑いながらジュースを口にするカナの目は笑っているのに笑っていなかった。清春はただつまらなそうに頬杖を着いてコーラを飲みながらカナをチラッと見てすぐまた外方を向く。 「もし」 「え…?」 「あんた1人しか居ない時に神があんたの目の前に現れたらあんたはそれでも殺るんだろ」 「で、できるかどうかは分かりませんけれど一応武器は学校から渡されているので…戦います。対神機関ヴァンヘイレンの生徒ですから」 「……」 「清春さんは神を見た事がありますか?」 「…さあね」 「そうですか…。私は霊感が無いので自ら姿を現していない神以外は見えないし声も聞こえないんです」 ガタッ、下を向いたまま立ち上がる清春を見上げるカナ。 「便所」 「はい、どうぞ。いってらっしゃい」 男子トイレ―――― 鏡の前でいつもの眉間に皺を寄せた不機嫌そうな顔をして立つ清春。 先日マルコから受けた怪我、カナが包帯を巻いてくれた右腕のシャツを捲ると露になる包帯。包帯には赤と青の混ざった血が滲んでいた。 『私は霊感が無いので自ら姿を現していない神以外は見えないし声も聞こえないんです。で、できるかどうかは分かりませんけれど一応武器は学校から渡されているので…戦います。対神機関ヴァンヘイレンの生徒ですから』 「はっ…、あんたの目の前に居るっつーのにさ。超トロいよな、気付いてねぇでやんの。ぶっ殺せよな、ヴァンヘイレンの生徒なんだろ」 カナの言葉を思い出して自嘲しながらそう言い捨てると捲ったシャツをおろし、髪を整えてトイレを出た。 バタン! 相変わらず不機嫌な顔をしてポケットに両手を突っ込んで席へ戻ると。カナはヴァンヘイレンの制服を着た真面目そうな黒髪の男子生徒と楽しそうに話していた。すぐ男子生徒が手を振り去る。清春の脇を通り過ぎて。 ガタン、 「あ。おかえりなさい!」 誰にでも向ける笑顔でにこにこ言うカナの向かい側の席に再び腰を掛ける清春。口にはしないが、去っていった男子生徒の背を清春が見ていたからカナは気付いて笑顔で言う。 「同じ読書サークルに入っている同級生です。たまたまハッピーバーガーでお友達とご飯を食べていたら私を見つけたみたいで」 「聞いてねーし」 「ご、ごめんなさい…」 「ナタリーさん!」 「あ、はい!?」 先程の男子生徒が戻ってきて参考書を差し出しながら、清春を見て首を傾げている。清春は頬杖を着いてギロッと睨むから男子生徒はビクビクして慌ててパッ!と清春から目を反らす。 「ごめんね。この前借りた参考書をまだ返していなかったから」 「あ!学校行ってからでいいのに!ありがとう!」 にこにこなカナとは対照的に男子生徒は清春が恐くてビクビクしながらそそくさと去っていった。 「学校ででも良かったのに。真面目だなぁロイド君は」 「あんたさ」 「はいっ!」 「彼氏いたんだな」 「は、はひっ?!」 顔を真っ赤にしてビクッ!として椅子から飛び上がるカナ。清春はただ頬杖を着いたまま、じと目でカナを見るだけ。 「いいいませんよっ!?どうしてそんなっ!?」 「さっきのそうじゃん」 「違いますよ〜!同じサークルの同級生ですよ!?」 「居んなら他の奴と毎日遊ぶんじゃねーよ尻軽ブス」 バンッ!! 「!?」 テーブルを叩いて席を立ち、ポケットに両手を突っ込んで店を出て行ってしまう清春をただポカーン…と見送るカナ。 「ど、どうかしたのかな?あっ…用事があって思い出して帰っちゃったのかな?そうならそう言ってくれれば良いのにな」 チュー…とジュースをストローで飲むカナはぽつん…と1人になってしまう。周りの賑やかな人々との温度差を感じてしまい、立ち上がる。 「私も帰ろうっと…」 人通りの少ない路地裏の夜道を歩く清春。 『ごめんね。この前借りた参考書をまだ返していなかったから』 『あ!学校行ってからでいいのに!ありがとう!』 『いいいませんよっ!?どうしてそんなっ!?違いますよ〜!同じサークルの同級生ですよ!?』 「…チョーうぜー」 男子生徒とカナのやり取りやカナの慌て様を思い出して、とても不機嫌そうに投げやりに言い捨てながら歩く。 『オ前ハ父親ト同ジ末路ヲ辿ルゾ』 先日ナダラ神や低級神々から言われた言葉も思い出せば何処にも誰も居ないのにギロッと睨み付ける鋭い眼孔になる。 「ただの暇潰しだっつってんだろ。誰があんなトロいブス。…友達としか思ってねーし」 「キヨハル見ぃつけたあ!」 「!?」 ドガン! 「ぐあっ…!!」 いつもなら気配を察知できるのに。今日は察知ができなくて背後から思いきり神に蹴られて反対側の道路まで吹き飛ばされた清春。打ち付けたガードレールが真っ二つに割れる。 「っつ…、誰だてめ、」 ドスン! 「ぐぁああ"!!」 起き上がろうとした清春の頭に全体重を乗せてのし掛かってきた神に、清春は目を見開き喚く。清春にのし掛かってきた神は中級の神で真っ黒い牛が二足歩行をしているような姿のカウ神。 「おれはマルコ様と同郷の大地の神カウ神だ!マルコ様からお前を肉片にしてきたら幹部入りを検討してやると言って頂いたのさ!」 「てんめぇ…、」 「喋るな!空気が汚れるだろ半端者!」 ドゴォッ!! 清春の頭を思いきり殴れば何と、清春の頭はアスファルトの地面にめり込む。中級神でも低級神とはかけ離れた強大な力の持ち主である事は一目瞭然。 カウ神はぽっこり出た牛のような腹を叩きながらケタケタ笑う。 「ケタケタ!やっぱり半端者は半端者なんだな!このくらいで抵抗できないなんてヴァンヘイレンの人間の方が強いんじゃないのか!?ケタケタ!」 「うぜぇんだよ牛野郎!!」 ドガン!! 白い光が辺りを照らすと同時に清春が十字架の形をした槍でカウ神目掛け攻撃をすれば、近くの大木を真っ二つに斬り、ドスン…!と音をたてて大木が倒れる。しかしカウ神の姿は無いから清春はバッ!と後ろを振り向く。 「鈍いんだよ!やっぱり半端者だな!」 ガンッ!! 「ぐあ"あ"!!」 背後にまわっていたカウ神の方が清春より速く、カウ神の牛のような樋爪が清春の額を切り裂く。赤と青の血が噴き出せば、カウ神はその血を酷く嫌そうに避ける。 「うげえ"!神と人間の混ざった汚い血だ!」 「ざけ、んなクソが!!」 槍を振り回すが、カウ神はまるで瞬間移動をしているかのような目にも止まらぬ速さで移動するので、清春の目が追い付かない。槍も空振りばかりで一発も当たらない。 「ケタケタ!半端者は威力も無ければ動きも鈍いんだな!こんなののどこが気に入ってアドラメレク様は幹部入りをさせたんだ?!」 「ゴチャゴチャ耳障りなんだよてめぇ!!」 「それはお前だよ半端者!!」 ドスッ…! 「が、はっ…!!」 背後にまわったカウ神が清春の背中から腹に拳を貫通させれば、清春の腹と口から赤と青の混ざった血が噴き出し、ズザァアア!と倒れこむ。 「ぐっ…、そ…、が…、」 ピクッ…ピクッ…としか手を動かす事ができなくて地に伏したまま動けない清春を見てカウ神は涙を流して大笑い。 「ケタケタ!人間の女の事を考えてうつつを抜かしているからおれの気配にも気付けなかったんだよ半端者!」 「う"ぐっ…、」 ドスン! 清春の前に立ったカウ神は殺傷力をもつ樋爪を清春の額に突き付ける。 「気持ち悪い化け物だなキヨハル。肉片にしてやるからせいぜい地獄で楽しく生きろよ半端者。ケタケタ!」 「ざけ…、んな"…、」 ヒュン! ドスッ!! 「うぎゃあああ!?」 「…?」 暗闇から飛んできた一本の矢がカウ神の頭に突き刺さればカウ神は青い血を噴いて暴れ回る。清春がゆっくり顔を上げると。 「す、姿は見えないですし声も聞こえませんが其処に神が居るのですね…!!」 「っ…!あんた…!?」 カナが弓矢を構えて立っていた。全身がガタガタ震えていたが。 「うぐぐぐ〜!くっそー!人間の小娘の分際で!!」 ブスッ!! カナが放った矢を引っこ抜くとカウ神は怒りにプルプル震えながら、目にも止まらぬ速さでカナに突進していく。カウ神の姿が見えないカナはカウ神が突進してきている事に気付けない。 「バッ…、バカヤロー!避けろあんた!!」 清春が立ち上がるが、 ドプッ…! 「う"ぐあ"ぁ"!!」 先程カウ神に貫通させられた腹部から赤と青の血がドップリ流れ、ガクン!と膝が崩れてしまう。その間にもカウ神はカナの目の前に到達し、殺傷力をもつ樋爪をカナの脳天目掛けて振り上げた。 「やめ…、」 清春は目を見開き、カナに向かって右手を伸ばす。 「やめろォオオオ!!」 「ミ"ーッ!!」 ゴンッ!! 「ぎゃあ!?」 「メルちゃん!?」 するとカナの背後から白い羽を生やして黒い体をしたウサギの妖精メル(※4話参照)がカウ神目掛けて突進した。寸の所でカウ神を吹き飛ばしたメルのお陰でカナは殺されずに済んだ。 「メルちゃん神様が見えるの!?」 「ミー!ミー!」 「あんた!はぁ"、はぁ"」 「清春さん!!」 血が流れる腹を着ていたシャツを結んで止血し、腹を押さえて覚束ない足取りで何とかカナの元へやって来た清春。しかし… ガクン! 「清春さん!!」 傷が深いのか、また膝から崩れてしまいその場に踞り、立とうとしても立てない清春。駆け寄ったカナ。だが… 「見んな!!」 「えっ?」 「俺を見んな!俺は良いからあんたは逃げろ!!」 カナに背を向けてそう言う理由は、自分の腹と額から滴る人間の赤と神の青の混ざった血をカナに見られたくないから。 「そんなっ、あのっ!」 「だからあのそのうぜぇんだよ!逃げろっつってんのが聞こえ、う"ぐぁあ"!」 「清春さん!!」 腹を押さえて倒れこむ清春に駆け寄るカナを、ピクピク僅かにしか動かない手で払うが、力が無いから払えていない。 「清春さんは神の姿が見えるんですか!?」 「っ"…、」 「清春さん!今手当てしますから!」 倒れこんでいる清春の体を起こそうとするから、パンッ!とカナの手を払う。 「見んな!!俺を見んじゃねぇ雌豚!!」 「うぐぐああぁあぁああ!!半端者に人間の小娘に妖精の分際でこのカウ神様に楯突きやがってぇええ!!」 「!!」 怒り狂い、何と巨大化していくカウ神の姿はまさに闘牛そのもの。カナにカウ神の姿と声は感じられないが、巨大化したカウ神の巨大な牛の影だけは見えたようだ。地面に映る影を見て「ひぃっ…!」と声を洩らした。 [次へ#] [戻る] |