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GOD GAME
ページ:2
「で、ですよね!でも一番人気なのできっと面白いと思います!」
カナは園内のマップを開いたままくるり、と後ろを向く。


ガツン!

「ぎゃあ!?」
振り向いた瞬間目の前にあった街頭の柱に顔面直撃。
「痛たた…」
「ぷっ!ノロマじゃね?」
「〜〜!」
ぶつかって真っ赤になった顔で恥ずかしそうにしながらも、カナは気を取り直してジェットコースターへと案内した。




















「最後尾はこちらとなっておりまーす!ジェットコースター只今2時間待ちでーす!」
「に、2時間も?」
ジェットコースターの場所に着いたは良いが、2時間待ちの長蛇の列。
「普通こんくらい待つん?」
「い、いえ…普通の乗り物なら10分待てば乗れるんですけどこれはとても人気で…」
「マジかよ。なら他の!」
「他のですか?えぇっと…」
「早く選べよ。本ッ当トロいよなあんた」
「えへへへ〜…ごめんなさい…」
メアだったらぶちギレているだろう場面でもカナは心から怒っておらず、にこにこしながら頭を掻いてペコペコ謝るのだった。
「あ。じゃあ此処から一番近いメリーゴーランドはどうですか?」
「さっさと乗れんなら何でもイーし」
「じゃあそうしましょう。あっちですよ〜」
先を歩くカナの後ろを、ポケットに両手を突っ込みながらついていく清春。
「!!」


バッ!!

嫌な気配がして後ろを振り向く。目を見開いて。しかし其処には楽しい遊園地の光景が広がっているだけ。しかし、清春は眉間に皺を寄せて辺りを警戒し、凝視する。
「あ、あの〜どうかしましたか〜?」
「……。何でもねーし。さっさと案内しろよ雌豚」
「は、はいっ〜!」

























「チョーつまんなかったんだけど!!」
メリーゴーランドと遊覧船、機関車を乗り終えた清春が口を尖らせて一言。カナは苦笑い。
「空いてるのがこれくらいしか無くて…。でもどれも小学生が楽しむ乗り物過ぎましたねっ…!」
「あんた言ったじゃん!普通の乗り物なら10分待てば乗れるって!他の乗り物1時間待ちばっかなんだけど!」
「夏休みだから混んでいるのを忘れていました!ごめんなさ、」
「先に言えよ!!」
「本当にごめんなさい〜!!」
ペコペコ謝るカナと、イライラオーラが凄まじい清春。通行人は「何だ何だ?」と目を向けていた。
「はーぁ」
「ほ、本当にごめんなさい!あ、あともう1つあまり待たない乗り物…というかアトラクションがありますけどそれ入りますか?」
指差した先には、洋館の造りをしたお化け屋敷。清春はつまらなそうなじと目でお化け屋敷を見ると、黙ってスタスタ入っていった。






















お化け屋敷―――――

「こちらは洋館の中をグループになって歩いて楽しんで頂くアトラクションになっております。1グループにお1つライトをお持ち下さい」
従業員に洋風な街頭のようなライトを1つ手渡されたカナ。
他の客(グループ)とは5分の間隔を置いてスタートするから、前後左右に他の客の姿は無い。しかし、前の方から姿は見えないが「きゃー!」や、「ギャーー!」という悲鳴が聞こえてくるだけでガタガタのカナ。カナが震えているから手に持ったライトまでもがカチカチ異常に揺れる。
「こここ怖くない怖くないっ!怖くないと思えばこここ怖くないっ!」
「…あんた大丈夫かよ」
「はひっ!だだだだいじょーぶですっ!!」
「嘘クセー…」
このお化け屋敷は、その昔住んでいた貴族達が謎の不審死を次々と遂げた呪いの舘…という設定。だから玄関があり廊下があり、リビングやキッチンを廻るアトラクションになっている。恐る恐るリビングに入るカナ。
「お、お邪魔しまー、」
「バァア!!」
「きゃああああー!!」
早速出てきた幽霊(従業員が変装した)に、この世の終わりのような悲鳴を上げてしかもライトを投げてしまったカナ。
「危っぶね、」
ライトが割れる前にキャッチした清春。
「あんたビビり過ぎじゃ、」
「きゃああああー!!おばおばおばけーー!!」
リビングの奥にも居た幽霊(従業員が変装した)にも驚き、普段のおとなしいカナからは想像もつかない大声で悲鳴を上げてリビングの中を闇雲に走り回っている。そんなカナに、従業員の幽霊達も呆然。
「おばけーー!!きゃああああー!!」
「あんたと居ると俺まで頭バグった奴に見られるし…」
「まままま!?待って下さい!!おおお置いていかないで下さいぃいい!」
さっさと行ってしまう清春を、涙を流しながらカナは覚束ない足取りで追い掛けていった。



















「はぁ、はぁ…こ、こんなに怖いお化け屋敷は初めてです…はぁ、はぁ…」
ようやく落ちついたカナ。今度は逆にライトを持って先頭を歩く清春は相変わらず無視。洋館の長い長い暗い暗い廊下を進み、螺旋階段を登る2人。


カツーン…、カツーン…

「ひぃい…」
響く自分の足音にすら怯える始末。
「端から造りモンって分かってるヤツにそこまでビビる意味がマジ不明」
「ご、ごめんなさ…、きゃあ!?」
「だからうるせぇんだよいちいちでっかい声出して!」
「ごごめんなさい!でも離れなくて!離して下さいー!」
「はぁ?そんなの時間が経てば従業員が離してくれ…、…!!」
怖いから目を瞑っているカナの両足首を、階段から生えた2本の白い腕が掴んでいた。その腕からみるみる体が現れると、昨日清春に詰め寄ってきた低級神々の長がカナの両足首を掴んでいたのだ。長というだけあって、昨日清春が殺した神々より一回り大きい。
――さっき感じた嫌な気配はコイツか――
清春は自分の右手の平から槍を繰り出そうとし、右手が白く光る…がすぐにそれをやめた。此処は下界。そしてすぐ横には自分の正体を知らない人間カナが居る。


ガンッ!

「きゃっ!?」


ガン!ガンッ!

カナの両足首を掴んでいる神の両手を清春は何度も何度も踏みつける。
「ギャアア!」
「あ、あの!?何をなさっているんですか…!?従業員さん大丈夫で、」


グチャッ!

「ウギャアア!」
「…?」
神の姿も見えなければ声も聞こえないカナは今何が起きているのか分からない。清春が踏みつけた神が青い血を噴いて殺された事も。
目を開けたカナ。自由になっていた足に喜ぶ。
「わあ!ありがとうございます!でも大丈夫でしたか?従業員のおばけさんに攻撃しちゃって」
「平気なんじゃね?」
「あっ」
くるり。すぐ背を向け、両手をポケットに突っ込んで歩いていく清春を追い掛けるカナ。
すると、潰れた低級神から声が聞こえた。清春にだけ。
「同胞ヲ見境無ク殺シテイイノカ?イイノカ?アァ…イツカ同ジ末路ヲ辿ルゾ…オ前ノ父親ト同ジ末路ヲ…。罪ノ子ニハ天罰ガ下サレルダロウ…。ヤハリアガレスノ子…血ハ争エヌヨウダナァ…」


ギロッ!

清春が鬼の形相で振り向けば神は今度こそ息絶え、これ以上の言葉を発さなかった。
「…?ど、どうかしましたか?」
「別っつに」
「あ!ままま待って下さい〜…!」























遊園地内レストラン―――

「うお…あの人超大食い」
「いくら何でも盛り過ぎだろ〜」
「てかちょっとかっこいいよね?」
遊園地のテーマなのだろうファンシーな造りのバイキング形式レストランにて。昼食をとる2人がなのだが大食漢な清春は皿に溢れんばかりに盛り、しかも空いている隣のテーブルにまで自分の分の昼食を置くから目立ちたくなくても目立つし、店員からは「赤字だから早く帰ってくれ!」の視線が注がれていた。
カナは空いた口が塞がらず苦笑い。
「す、すごいですね…前から思ってましたけどご飯たくさん食べるんですね」
無視。
いつものように真横を向いて顔を合わせないようにモグモグ食べ出す清春。カナは「いただきます」と小さい声で言うと昼食を食べ出した。


モグモグ。
カチャ、カチャ

咀嚼音と食器の触れ合う音しかこのテーブルからは聞こえてこない。周りのテーブルは遊園地に来た浮かれたテンションで賑やかなのに。これはいつもの事…と割りきるカナ。チラッ…と目線を上げて清春を見ても一切こちらを見ずガツガツ食べている。
「あ、あの…何処の学生さんですか?」
無視。
「私はヴァンヘイレンの1年生で、普通で言えば高校1年生なんですけど…って私がヴァンヘイレンの生徒なのはご存知なんですよね」
「あんたに教えて何になるワケ?」
「えっ!あ…そ、そうですよね。ご、ごめんなさい」
ガツガツ。食べ続ける。
カナは何か良い話題は無いかと探し、ポン!と両手を合わせて穏やかな笑顔を浮かべる。
「あ!そうだ。遊園地どうですか?初めて来られたのですよね?楽しいで、」
「超つまんねー」
「そ…!そう…ですか…」
しょんぼりするカナ。
















カン!と皿を置いて清春は窓の外を見る。遊園地を満喫している人々が見える。
「ちょっとは暇潰しになるかと思ったんだけどな。全ッ然つまんねーし」
「ご、ごめんなさい。私なんかと一緒だからですきっと…」
「大体毎日毎日同じ事の繰り返しでつまんねーし」
「あ…。お洋服買うのがお好きなんですか?いつも違うお洋服を着ていて、お洒落さんだなぁって思っていました!」
「それもただの暇潰しだし」
「そ、そうですか…」
「将来とか決まりきっているからなんも楽しみも期待もねーし。ゆーえんちってヤツは楽しいモンかと思ったらそうじゃねーし。人生つまんねーからいつ死んだって悔い無いし」
「ダメですよそんな事言っちゃ!」


ガタン!

思わず立ち上がったカナを周囲の客がヒソヒソ話しながら見るから、清春は「チッ」と舌打ちをしてカナを睨み付ける。
「ごごごごめんなさい!」
小さくなって椅子に座り直すカナ。
「毎日楽しい事が無かったり将来に期待ができないとそう思っちゃう気持ち分かります。でも、毎日楽しい事ばかりじゃないから楽しい事があった時にすごく楽しいんですよ」
「知った風な口利くんじゃねーよブス」
「ご…ごめんなさい…。確かにそうなんですけど…。私、小学生の時に両親と弟を神々に造り直しの儀を施されてから、毎日毎日貴方と同じ事を思っていたから少しは気持ちが分かるんです。あ、貴方が私と同じ境遇かどうかは分からないのですけどねっ!?」
「……」
「毎日つまらなくて将来に期待できなくて…。私の人生つまらないなって…悲しいなって決めつけていました。私は戦うなんて勇気も無いのに、ヴァンヘイレンに入学しました。家族が神々による造り直しの儀を施された孤児は大抵みんなヴァンヘイレンに入学するので流されるままに…入学したんです。其処でもつまらなくて今すぐにでも終わって良い人生が続くんだろうなって思っていました。でも…」
カナのジュースのグラスの氷がカラン…と音をたてて溶ける。
「其処でできたお友達がすごく前向きで明るくて、私勇気を貰ったんです。お友達のお陰で毎日が楽しくなりましたし、戦えない私は要らない子と思っていましたけれどそのお友達に"戦うのが怖いなら戦わなくて良いよ。得意な医療でみんなを助ける救護班にまわれば良いんだよ"って。考え方一つで私の毎日が楽しくなりましたし、私も役に立てる事が分かったんです。だから、」
「あんたの話なんて聞いてねーんだけど」
「ハッ…!そ、そうですよね!ごめんなさい私!」
「それにそんな友達いねーし」
「え?あ…、」


ガタッ、

席を立つと清春が行ってしまいそうになるからカナも慌てて立ち、ついていくのだった。



























17:25―――――

ブスーッ…。と不機嫌に頬杖を着いて座る向かい側の清春にもいつもの穏やかな笑顔を向けるカナ。
これで最後と言い、カナが乗りたかった観覧車に乗っている2人。オレンジ色の夕陽が街を染めていて美しく、2人の髪も夕陽がオレンジに染めている。
「ごめんなさい!私の我儘をきいてもらっちゃって」
無視。
「あ〜…。あ!見て下さい。街が見えますよ!」
少し身を乗り出したカナが夕陽に染まるアンジェラの街を指差せば、清春は頬杖を着いて不機嫌なままながらも少し窓の外に顔を向ける。
「調度良い時間でしたね。夕陽がすごく綺麗で」
無視。
「あはは〜…」


カタンカタン…

沈黙の2人には、観覧車がゆっくりゆっくり回る機械音しか聞こえてこない。カナは肩が上がりっぱなしのまま下を向き、清春は頬杖を着いて窓の外を見ている。
「ご、ごめんなさい。あの…初めての遊園地だったのに一緒に行ったのが私だったせいで楽しくなくなっちゃって…」
無視。
「め、迷惑じゃなかったらなんですけどあの…。私のお友達がそうしてくれたように私も貴方のお力になりたいんです…!毎日がつまらなくて未来に希望を見出だせなかった私に希望を見出だしてくれたお友達のようになれたらな、って」
「めーわく」
「で、ですよね…」


ガタン!

「きゃ!?」
「!?」
ゆったり回っていた観覧車が突然ガタン!と音をたてて揺れた。するとガタン!ガタン!と何度も揺れ出す。まるで真上に何かが乗っていてジャンプしているかのように。
「何だろう?故障かな?」
「見ィツケタァ」
「!!」
カナには見えないし聞こえないが、同族の清春には見えるし聞こえる。2人が乗る観覧車の窓にべったり貼り付いたイモリとヒトガタが合わさったような奇妙な姿をした神の姿が。
――ナダラ神かよ。次々と低級の雑魚共が!――
「ど、どうかしましたか?」
窓を睨み付けて立ち上がった清春に、ナダラ神の姿が見えないカナは清春の行動の意味が分からないからきょとんと座ったまま。
「半端者ガ下界デ人間ト戯レテ同族殺シヲヤッテルッテ聞イタゼ!オ前モロトモソノ人間モ落チロ!」


ガタン!ガタン!

「きゃ!?こ、故障!?」
再び上に乗ってジャンプを何度も始めるナダラ神。2人が乗った篭だけがグラングラン揺れる。
「チッ…、クソうぜぇんだよ!!」


バンッ!!

「!?」
もうじき一番上に差し掛かる手前で篭のドアを開いた清春に、カナは目が飛び出しそうな程驚く。
一番上に近い位置というだけあってビョオオオ!と風が吹き上がり、篭の中に吹き込む強風。清春の髪もカナの髪も風に持ち上げられてなびく。
「あああの!?廻覧中はドアを開けちゃ危ないんですよ!あのっ!?」
何と清春は外へ出ると、2人が乗っている篭の上をよじ登った。カナの目は見開き顔は真っ青。怖くてオロオロして、清春の様子を見るに見に行けず篭の中でドクドクと高鳴る心臓を押さえてただただ座っている事しかできず。その間にも観覧車は廻り、じき一番上に到達する。





















その頃観覧車の下では―――

「何あれ!?」
「人が観覧車の外に出て篭をよじ登っているよ!」
「は、早く観覧車の動きを止めろ!!」
野次馬が集まり、篭の上によじ登っている清春を指差してざわついていた。
そんな人混みに紛れて茶色のシャツを着た中年男性はほくそ笑む。マルコだ。
――ふっ…。ナダラ神は低級神ではありますが、低知能な清春君相手には調度良い相手。ナダラ神に始末させてしまえばお嬢様に私が疑われる事は無いでしょう。ふふふ。目障りな半端者の最期はあの高い位置から人間の少女と共に落下をし骨と肉が飛び散り、ただの肉片となる素敵な最期となるでしょう――
フッ…、
勝利を確信したマルコは人混みに紛れ、一瞬にして姿を消した。





















一方、観覧車の上では―――

「ギャハハハ!ヤッパリ血ハ争エネェンダナァ!人間ノ女ト仲良シコヨシシテ何ガソンナニ楽シインダ!?アガレスモ、オ前モ!」
「親父と一緒にすんじゃねーよ。誰がこんなブスと。暇潰しのストレス発散だよ。毎日毎日毎日あんたら神々に半端者半端者言われてるからな」
「半端者ヲ半端者ト言ッテ何ガ悪インダ!?ギャハハハ!」


ガンッ!ガンッ!

ナダラ神は頭の上で手を叩きながらまた篭の上でジャンプをする。篭によじ登った状態のままの清春も此処で手を放せばアウト。しっかり掴まるが、揺らされてはそれも放してしまいそうになる。
「ぐっ…!」
片手で繰り出した白い槍をナダラ神目掛けて突くが、簡単に避けられてしまい逆に片手という不安定な状態で篭に掴まっていた清春はバランスを崩し、体が大きく横に揺れる。


グラッ!

「わっ!?危っね、ぐああ!」
グリグリ、ナダラ神は清春が掴まっている唯一の左手を踏みつける。
「ギャハハハ!落チロ落チロ半端者!落チテ肉片二ナッチマエヨ!」
「ぐっ…、くっ、そ、がぁああ!!」


タンッ!

後ろへ大きく振り反動をつけた足でナダラ神を蹴りあげる。
「ギャッ!!」
ナダラ神は吹き飛びはしなかったものの篭の上に倒れた。その隙に槍をナダラ神目掛ける。が…、
「ヴグググ…、神デモ人間デモナイ半端者ガ神々二楯突クナァア!」


ガシャン!!

何とナダラ神は観覧車に繋がっていた篭との鎖を破壊してしまった。
「!!」
目を見開く清春。篭は鎖から外れ、グラッ…と揺れて落下する。



















その頃、大きく傾く篭の中でカナも異変に気付いていた。
「きゃ!?な、何?」
「雌豚!!」
「え!?」
篭の中に居たカナに外から手を伸ばす清春。カナは突然の事にわけが分からずオロオロしているから、イラッ!とした清春がカナの腕を強引に引っ張り、篭の外へ連れ出す。
「あああの!?」
「来いっつってんだよ雌豚!死にてぇのかブス!!」
外へ引っ張り出せたが、篭は落下中。
「きゃあ!?か、篭が落ちて…!?」
観覧車の一番上で両手を叩いて喜んでいるナダラ神が見えて、清春は苛立つ。下にはたくさんの人間の野次馬。しかしこのままでは自分もカナも肉片になって死ぬ。
「チッ、どいつもこいつもうぜぇんだよ!!」


ガシッ!

「え!?」
カナを強引に抱き寄せると清春は落ちゆく篭の上にタンッ!と乗って踏み台にすると、タンッ!タン!と人間離れした跳力で観覧車の鉄や他の篭を伝って登っていく。
「何だあの子!?」
「人間があんなジャンプをできるか!?」
「そもそも篭を伝ってなんていけないはずだろ!?」
野次馬は下で騒いでいた。その中で1人、眉間に皺を寄せて面白くなさそうに凝視していたマルコ。



















タンッ!!
一番上。観覧車の鉄筋に登りついた清春。カナは何が起きたのか全く理解ができないし、こんなに高い場所に生身で居る事の恐怖でガタガタ真っ青。
一方のナダラ神は、まさか清春がここまでこれたとは思わずガタガタ怯えている。
「マママ待テ!話シ合オウゼ!?俺達同ジ神ダロ!?仲良クシヨウゼ、ナァ!清春!」
「気安く名前を呼ぶんじゃねぇよ雑魚が!!」


ドンッ!!

「ギャアア!!?」
観覧車の一番上からナダラ神を蹴り落とした清春。


ベチャッ!!

「きゃあ!?な、何か降ってきたわ!?」
「青い液体が飛び散っているぞ!?」
ナダラ神の姿が見えない人間の野次馬達は、ナダラ神が落下した地面に青い血だけが飛散している光景しか見えない。だが、マルコから見たら其処で青い血にまみれたナダラ神が肉片となっている姿がはっきりと見えている。
「…使えない神ですね」
不機嫌そうに舌打ちをするとマルコはスゥッ…と消えていった。

















その頃、観覧車の一番上の鉄筋に乗っている清春とカナは。
「ナダラ神…確かマルコのクソジジィと同郷の川神だよな。…チッ!あのジジィ!いつかぶっ殺してやる!」
「あわわわわ…」
助かったが、未だこんな落ちたら即死の危ない場所に居る為カナに清春の独り言など聞こえておらず、ガタガタ真っ青に震えて歯をカチカチ鳴らして怯えている。乱れた髪から、花のヘアピンがスルリ…と髪から外れる。
「…あっ!」
落ちていく小さな花のヘアピン。


ガシッ!

「危っねー…」
身を乗り出してキャッチした清春。しかし清春自身も落ちてしまいそうだったから少し焦った様子が表情から見受けられる。
「ん」
ずいっ、とぶっきらぼうにヘアピンを差し出す。しかしカナはガタガタ震えて怯えたまま心此処に在らずだから受け取ろうとしない。
「おい。あんたの。コレ!おい!」
「わわわ私っ…助かったのかな…?」
「はあ?」
鉄筋の上にぺたんと座り込んでいるカナの隣で俗に言うヤンキー座りでイライラしている清春。
「助かったから生きてんじゃん。あんたマジバカ?」
「わわわ私っ…、ふ、ふぁあぁ〜!」
「!?」
度を越える恐怖を体験したせいで全身脱力なカナはすっとんきょうな声を上げ続けるから、清春はわけが分からないといった様子。
「ふぁあぁ〜!」
「な、何だよあんた頭バグった系!?」
「助けてくださり本当の本当の本当にありがとうございましたぁあ〜!ふ、ふぁあぁ〜私生きてる…良かったぁあ〜!」
まだすっとんきょうな声を上げているカナに呆れていると。
「大丈夫かい君達!」
バラバラと会話が聞こえなくなる程うるさいヘリコプターのプロペラ音がして、救助がやって来た。まだ脱力しているカナの背をポン!と叩いてやる清春。
「ふぁあぁ〜!」
「おい。救助。立てよ雌豚」
「助けてくださり本当の本当にありがとうございました〜!!」
「…あんた助けたわけじゃねーしっ」
ふと見下ろした景色は、アンジェラの街が夕陽に染まった絶景の景色だったそうな。



























22:10、
帰りの電車内――――

本当はナダラ神の仕業だが神の姿が見えない人間達には観覧車の整備不良で篭が落下した事故という事になった。
遊園地側からは謝られお詫びに遊園地の無料招待券やキャラクターグッズを貰ったり、押し掛けたマスコミの取材を受けたり警察の事情聴取にあったりした清春とカナ。
清春は色々ばつが悪いので睨んでマスコミの取材と撮影を避ける事ができた。警察の聴取はテキトーに嘘の名前と住所を書いた。
そんなこんなで時間がかかってしまい、夕方だったのにもうすっかりこんな時間になってしまった。
帰りの電車内は行きと違って乗客も疎ら。この車両内には2人の他に、疲れ果てて眠るハゲ散らかったサラリーマンが1人しか居ない。
清春とカナは横一列の座席に間1人分を空けて座っている。肩が上がりっぱなしで未だあの時の篭が落下していく恐怖と、観覧車の一番上に居た恐怖が忘れられずドクンドクンしているカナ。清春は窓に頬杖を着いて夜景を見ている。
「次はアンジェラ駅〜アンジェラ駅〜」
1時間一言も交わさなかった2人。電車がアンジェラ駅に着いたアナウンスでハッ!と我に返ったカナが立ち上がる。
「あの!私この駅なので!あ、貴方は…?」
「次の次」
「そ、そうでしたか!今日は本当の本当にありがとうございましたっ…!」
ペコペコカナが何度も頭を下げても、カナを一切見ずに夜景を見ている清春。カナは慌てて電車を降りる。
駅のホームに降りたカナは清春がこちらを見ないのは分かっていたが、電車が出るまでホームに立って見送るつもりだ。案の定清春はチラリともカナの方を向かない。
「間もなく列車のドアが閉まります。お気をつけ下さい」


プルルルル!

電車のドアが閉まるブザーが鳴り響く夜の寂しい駅ホーム。


タンッ!

「えっ?」


ピシャン!

ドアが閉じ、ガタンゴトン鳴らして電車は走り出した。しかし、ドアが閉じる寸前で何故か降りた清春が目の前に立っている。外方を向いて。


プァアアン…

電車の去っていく音。清春とカナ以外人が疎らな夜の駅ホーム。カナは突然降りた清春を前に、頭上にたくさんのハテナを浮かべる。
「あ、あれ?あの、駅次の次じゃ…」
「寄るとこあんの」
「あ!そうなんですね」
ポン!と手を叩くカナ。それで降りたのか〜と納得しながら、カナが駅の長い階段を登り出せば、清春はわざと少し後ろから階段を登っていった。


















「あ、あの。寄るところってどの辺りですか?」
あれからアンジェラ駅を出てからずっーーとカナの少し後ろを歩いてくる清春にカナの頭上に浮かんだハテナがとれない。
ジジジジ…と真夏の夜に街灯の電球が音をたてている。人通りが少なくて少女1人ではとても危険な道。
カナに聞かれてもポケットに手を突っ込んだまま下を向いて答える清春。
「ヴァンヘイレンの先」
「そうなんですか!じゃあ途中まで同じ方向ですね」
それから真っ暗な夜道をカナが先に、そして少し離れた後ろから清春が歩いていけばヴァンヘイレンの前に差し掛かる。カナは、足を止めると清春の方を向いてペコリ頭を下げた。
「今日は本当の本当にありがとうございました」
やはり外方を向いたまま無視の清春。だがカナはいつもの穏やかな優しい笑顔を浮かべて礼を言う。
「私なんかと一緒に遊んでくださってあと一番は、観覧車の事故で命を助けてくださり本当にありがとうございました」
また深々頭を下げる。
「別にあんたを助けたわけじゃねーし。俺が死にたくなかったから。ただそれだけ」
「それでも嬉しかったです!本当にありがとうございました!」
「……」
















「今日は本当にありがとうございました。気を付けて帰って下さいね」
そう言ってまたペコリ頭を下げると清春に背を向けてヴァンヘイレン宿舎へと歩いていくカナ。
「字」
「えっ?」
振り向く。
「字、教えてよ」
「じ?ですか?
「言ったじゃん。俺あんま読めないし書けないから」
「私なんかで良ければ!」
にっこり優しい笑顔のカナにも何故か睨み付ける清春。
「あの、私も…」
「は?」
「わ、私にも教えて下さいっ!お洒落を!」
優しい笑顔で少し照れくさそに言うカナを眉間に皺を寄せて見て清春はYESともNOとも答えず外方を向いてしまった。
――あれれ。調子に乗りすぎちゃったかな?ダメだなぁ私って――
しょぼん、としつつも笑顔でまた頭を下げ、再びヴァンヘイレン宿舎に体を向けたカナ。
「清春」
「?」
またまた声を掛けられ、本日二度目。振り向くカナ。清春は下を向いていたが。
「キヨハル…?」
「俺の名前」
「あっ…!はいっ!分かりました!清春さんですね!」
ようやく名前を教えてもらえてパァッ!と喜ぶカナ。清春はくるりと背を向けて今来た道を戻っていく。
「清春さん!」
「……」
返事はしないものの背を向けたまま立ち止まる。
「ま、また明日ハッピーバーガーのいつもの窓際隅の席に良かったら来て下さいっ!」
一呼吸置いてから清春は振り向かず、口を開く。
「はっ、うぜー」
「え"!?」
そう言い捨てるとスタスタと去ってしまった。
残されたカナはシクシク肩を落とす。
「私って本当ダメダメだなぁ〜…でも…」
カナは胸に手をあてて満面の笑みを浮かべた。
「メアちゃん以外のお友達ができて嬉しかったな♪…あれ?清春さん、ヴァンヘイレンの先に寄る所があるって言ってたのにどうして今来た道を戻っていっちゃったんだろう?」


























アンジェラ駅ホームに戻り、電車を1人、ポケットに手を突っ込んだまま待つ清春。

『め、迷惑じゃなかったらなんですけどあの…。私のお友達がそうしてくれたように私も貴方のお力になりたいんです…!毎日がつまらなくて未来に希望を見出だせなかった私に希望を見出だしてくれたお友達のようになれたらな、って』

「…はっ、」
カナの言葉を思い出し、鼻で笑う。
「人生初のダチがあんなブスとか。マジうぜー」


ガタンゴトン…

ホームにやって来た電車の窓に映っていた清春の顔は笑顔だったそうな。


























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