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GOD GAME
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ヴォルテスの
首都アンジェラ―――

ヴァンヘイレンが在るヴォルテスの首都アンジェラの街。夏に浮かれたカップル達が行き交う街中を、私服姿の清春が1人歩く。
「昨日発売したゲームやったか?」
「やったやったー!夏休み中にクリアしてやるし!」
「負けねーぞ!」
「ねぇねぇ今夏休みだからお泊まりしてもイーでしょ?それに毎日デートできるね!」
行き交う学生やカップルを、ズボンのポケットに手を突っ込みながら横目で見る清春。
「…はっ。どいつもこいつもうぜぇんだよ」
そう呟いた清春の脳裏には先日自分に殴る蹴るの暴行をくわえてきたマルコの姿が思い出される。

『この怪我は人間…ヴァンヘイレンの人間にやられたとお嬢様には仰って下さいね?私がしたとは死んでも口にしてはいけませんよ?お嬢様は何だかんだで君を気に入っていますから。分かりましたね清春君?』

「チッ…、クソが!!」


ガンッ!!

怒りに身を任せ、煉瓦の壁を思いきり蹴る。
「何あの人?」
「今壁蹴ってなかった?」
「超やばくない?かっこいいのに、中身は危ない人みたいな?」
周りの通行人の雑音は無視して、曲がり角を曲がると…。


ゴツン!

「痛っ!」
「痛ってぇ…。前見て歩けよ雌豚!」
「ご、ごめんなさい!…あ」
前方不注意で、反対側から歩いてきた人と正面衝突してしまった清春。どちらも不注意なのだが、ぶつかってしまった相手はペコペコ謝っている。その相手が顔を上げて、正面衝突してしまった清春の事を見上げた途端顔がみるみる青くなりガタガタ震え出す。
「ああ…貴方はあの時の…!」
正面衝突してしまった相手を見た途端清春もみるみる顔色を変え、眉間に皺を寄せてイライラする。
「うげっ…。あの時の雌豚じゃん…マジ最悪」
清春と正面衝突してしまった相手はカナ。


ぺたん…、

思わず尻餅着いてしまい、まるでライオンに睨まれた小動物のように目を潤ませガタガタ震えているカナ。
「何あれ?さっきの人?」
「女の子にぶつかっといて怒鳴ったっぽいよ」
「うわーないわー」
「チッ!」


ガン!!

野次馬の声と、相変わらずビクビクしたカナにイライラが増した清春はまた壁を思いきり蹴ると、人混みの中へ消えてしまった。





















ハッピーバーガー――――

「いらっしゃいませー!ようこそ!ハッピーバーガーへ!」
此処はアンジェラの街中でも有名なファーストフード店ハッピーバーガー。ハンバーガーやフライドポテトをメインにジャンクフードを展開するチェーン店。
アメリカンで明るい色使いの店内には、主に学生や20代の若者が友人や恋人と軽食をとりながら会話に花を咲かせている。
そんなハッピーバーガーの常連清春は今日もまた窓際隅の2人掛け席に1人で腰を掛けている。ハンバーガー5個、ダブルハンバーガー3個、チーズバーガー8個、フライドポテトL、シェイクL、チキンナゲット4個をいつも1人で食べているから店員は慣れっこ。だがしかし、周りの客で清春に視線を向けない者などいない。視線を向けられる度にギロッ!と睨み付ければ、周りの客はビクッ!とし、もう一生清春の方を見なくなる。
「これさー最近出たばっかりのスマホ!」
「いいなー。私の古いやつだから〜」
テーブルに頬杖を着いてシェイクを飲みながら清春は、隣の席の女子高生達が楽しそうに指をスライドさせている携帯電話を凝視している。
「……」
――良いなぁ。面白そう。でもアドラメレクの姉ちゃん買ってくれないって言うしな――
















「申し訳ありませんお客様。店内大変混雑している為相席をお願いしても宜しいですか?」
1人の若い女性店員に声を掛けられ、昔と変わらず人見知りな清春はわざと視線を下へ落とし、ハンバーガーを食べている振りをして店員と目が合わないようにする。
「どうぞー、」
「ご協力ありがとうございます。お客様、こちらのお席へどうぞ」


カタン…、

清春の向かい側の椅子に腰掛けた客がテーブルにトレーに乗ったチーズバーガー1個とジュースSを1個置く。
――コレだけで足りんの?――
頬杖を着いたまま清春が視線を上げると。
「げっ…!!」
そこには、清春からは目を反らして下を向き小鹿のようにガタガタ震えて肩が上がりっぱなしのカナが座っていた。相席をした客はカナだったのだ。


ガタンッ!!

「何だ何だ?」
「何?」
周りの客が談笑を止めてまで振り向いてしまう程の大きな音をたてて立ち上がった清春。まだ食べ終えていないハンバーガーやらシェイクやらを、店が用意した紙袋に詰め込むとわざとらしくガタン!と大きな音をたてて椅子を引き、店内から出て行った。
「あ、ありがとうございましたー…」
「何あの人?」
「めっちゃイライラしてなかった?」
「相席した女の子カワイソー」
1人になったカナはまだガタガタ震えながらも、チーズバーガーに手を伸ばす。
「あれ…?」
すると。今まで清春が座っていた向かい側の椅子に、チェーンが切れたシルバーアクセサリーが落ちていた。
「ペンダント?あの人のかな?」



























「チョー有り得ないんだけど。何であのブスとこれでもかっつーくらい会うワケ?マジ最悪だし」
清春はあの後公園でハンバーガーなどを食べ終えると街中の中でも一際近代的な4階建のブランドブティックショップが入っているビルで服を品定めしていた。イライラしながら。
「アドラメレクの姉ちゃんとマルコのクソジジィとベルベット姉ちゃんが一週間留守にするからってアドラメレクの姉ちゃんから小遣い貰って下界に遊びに行っても良い許可が出たけど…。服買うか飯食うかしか使い道無いよな。友達いないし…」
黒地にゴールドの英文がデザインされたシャツを広げて見る。すると、ニコニコした若く派手な髪型の男性店員が近付いてくるから清春はササッと背を向けるのだが、店員は負けじと清春の前に出てくるから人見知りな清春はシャツで顔を隠す。
「お客様如何ですか?そちらは今夏新商品となっております!宜しければご試着をしてみては!?」
「い、いや…いーし別に。見てただけだし」


ガバッ!

店員は顔を隠していた清春が持つシャツを退かせてズイッ!と覗き込んできた。
「!?」
「そう仰らずに!お客様背も高くてスタイルが良いですからきっとお似合い…、ひぃ!?」
たった今の今まで営業スマイルだった店員の顔がひきつり、一瞬にして青ざめ、逃げていく。もうこんな事は慣れっこだった。清春の人間らしかぬ青く渦を巻いた特殊な瞳のつくりを人間は怯え、気味悪がり、果てには…。
「みみみ見てみろ!あの客の目!あれは絶対人間じゃねぇ!化け物だ!神かもしれない!俺らに造り直しの儀を施しに来た神かもしれない!!」
仲間の店員にそんな事を話す店員の声を背に、シャツを置くと清春はポケットに手を突っ込みながら店を出て行った。サングラスをかけて。




















「超うぜー…」
先程の店員の怯える様を思い出したらまた腹がたってきて、ガンッ!と壁を思いきり蹴る。
ビルを出て街を歩く清春はわざと瞳を隠してかけたサングラスの下から、街行く人々を目で追う。
「ママ!ありがとう!ぼくこの新幹線のおもちゃがずっと欲しかったんだ!」
「まあ良かった!新しく発売されたばかりだからきっと喜ぶと思ったのよ!」
「まだ誰も持っていないかもしれないからな。幼稚園で自慢しなさい」
「ありがとうパパ!」
両親と両手で手を繋ぎ、新しく発売された新幹線のおもちゃを買ってもらい喜ぶ男児の姿がサングラス越しに清春の瞳に映る。

『清春はいっつも古くさい機関車のおもちゃしか持ってないんだな!』
『おれ達なんてこの前発売したばっかりの電車のおもちゃ持ってるんだぜー!』
『清春ン家はココリ村っていうビンボー村にあるって母さんが言ってた!』
『やーい!ビンボー!ビンボー!』

「……。はっ、何が幼稚園で自慢しなさいだよ。親がンな事教えるから悪ガキが増えるんだろ」
幼き日の自分の記憶が蘇り、今擦れ違った親子と重なれば。清春はサングラス越しに先程の親子を睨み付ける。
「あ"ーうぜっ…。あの人間共ぶっ殺そっかな」
辺りに他に通行人がいないのを見計らい清春は右手の平の中を白く光らせ、武器の十字架に似た槍を取り出す。狙うは、今自分に背を向けて歩いていく人間の親子3人。
「お父さん、お母さん。ぼくとずーっと一緒に居てね!」
「…!!」

『お父さんとお母さんどっちかなんてヤだよ!!』

スッ…、
親子の男児の言葉を聞いたら武器をしまい、親子には背を向けて再び街の中へ消えてゆくのだった。























一方のカナは。
「はぁ〜この前会ったあの人に何回も会っちゃうなんて…。私ついてないなぁ…」
未だ清春が怖くてビクビクして下を向きながらトボトボ歩いていた。いつしか辺りは夕陽のオレンジに染まり、昼間よりも人通りが増えてきた。だがまだ下を向きながらトボトボ歩いているカナ。


ドンッ!

「あ…!ごごごめんなさ…ひぃっ…!!」
「……」
神の悪戯か?やはりまた、ぶつかってしまった。たまたま。偶然。清春と。しかも今回ばかりは清春も無言で今までで一番苛立ってカナを見下ろしているからペコペコ謝るカナ。
「ごめんなさい!ごめんなさい!私トロくて…」
「トロいって自覚してんなら人混み出るのやめれば?」
「え…、」
清春は鼻で笑い、両手を出して肩を竦める。カナを馬鹿にして。
「大体あんた何?他人とぶつかるのが趣味なワケ?この前のお節介といい今日といい。マジうぜぇんだよ。ブスのクセに度々視界に入られる俺の身にもなれよ雌豚」
人通りが増えてきた街中といえど清春の声が目立つから、街行く人々はヒソヒソ話しながら清春とカナを見て…しかし誰も止めにも入らずただ見て通り過ぎていくだけ。カナは蛇に睨まれた蛙のように小さくなり、俯いてばかり。
「あのっ…」
「あーはいはい。やめてくんない?俺と会話しないでくんない?雌豚の分際で。あんたのせいで俺気ぃ立ってるから。はっ!それにそのガキくせーし今時古臭い柄のヘアピンとかブスがよりブスになるからやめれば?キモッ」
「どうしてそんな事を言うんですか!!」
「は?」
初めて声を上げて荒げたカナ。通行人の野次馬は増えたが、清春は全く動じない。しかしカナは下を向きながら、握りしめた両手をぷるぷる震わせて珍しく怒っている。いや、初めて怒ったのだ。産まれて初めて今日。
















「どうして?マジうぜー。だって芋クサイブスがダッセーヘアピンつけてるのがキモいのの何が悪いんだよ?」
「私はブスで田舎くさくてトロいです!私の事を何と言っても構いません!でも!このヘアピンを馬鹿にするのだけはやめて下さい!!」
「は〜?たかがヘアピンで何マジギレしちゃってんの?あんたのそういうとこもマジキモいし!今時つけてる奴小学生でもいないダッセーヘアピン付けるだけあるわ」
「お父さんとお母さんが買ってくれたヘアピンを馬鹿にするのはもうやめて下さい!!」
「…!」
顔をようやく上げたカナ。泣きそうな怒り声で…いや一重の小さな目に涙を浮かべてだが顔は酷く怒って清春に面と向かって怒鳴ったカナ。カナが泣いていたからではない。カナが怒ったからではない。清春はカナが言った言葉に目を見開き、今までペラペラ能弁に喋っていた暴言を飲み込んでしまった。
「なっ…、バ、バッカじゃねーのっ…たかがヘアピンくらい、」
「たかがヘアピンって言わないで下さい!!」
「ちょっと君達良いかな?」
「!」
街中で騒がしかったからだろうか。警官が2人の間に入ってきたから清春はばつが悪そうに顔を歪めると、人混みに紛れて持ち前の足の速さで逃げていった。
「あ!コラ!待ちなさい君!…はぁ。行ってしまった。君、大丈夫だった?何か酷い事を言われていたようだけれど…。恐喝されていたのかな?」
「ひっく…、だ、大丈夫…ですっ…。ご迷惑おかけしましたっ…」
カナはヒクヒク泣き声でそう言うと警官にペコリ一礼をし、ヴァンヘイレンの方へ帰っていった。やはりまだ肩をヒクヒク動かして悲しそうに泣きながら。

































21:00、
ヴァンヘイレン宿舎―――

「あ…。シャーペンの芯無くなっちゃった…。夏休みの宿題もう少しで終わるのにな。購買はもうやっていないから…コンビニで買ってこようかな」
自室で1人、夏休み一日目から早々宿題が終わりそうなカナ。シャーペンの芯を買いに行く為、部屋を出た。




















校門――――――

「ふぅ〜。夏でも夜は冷えるんだね」
「待ちなさい君!校門前で彷徨いて!ヴァンヘイレンに何か用なのかね!?」
「だからたまたま歩いてただけっつってんじゃん!」
「嘘をつくな!君のようなチャラチャラした若者は夏休みになると校舎へ胆試しと称して不法侵入する輩が多いからな!白状しろ!何処の学校の学生だ!?」
「はあ!?マジうぜー!死ねやハゲ!」
「何だと貴様!?」
「あ!あのっ!警備員さん!その人わ…私のお友達なんですっ!」
校門で警備員と言い合いになっていた1人の少年を見つけたカナは咄嗟にそんな事を口走った。すると、たった今の今まで鬼の形相で少年を怒鳴り付けていたヴァンヘイレンの警備員もにこやかになり、帽子を軽くあげてカナに会釈する。
「おお。そうか、ナタリーさんのお友達だったのか。ははは。夜分遅くに彷徨いているから不法侵入を企む若者かと思ってね。でもナタリーさんのお友達がこんな遅くに何をしに来たのかな?」
「え、えっとその…あ!ノ、ノートを!私が図書館に忘れた数学のノートをこの子が届けに来てくれたんです!」
「おお!そうだったのか。これはこれは。疑って悪かったね君」
ポンポン!と肩を叩く警備員に叩かれた肩を手で拭う清春。
「汚ねーんだよ触んな」
「じゃあノートを渡したら君もすぐ帰るんだよ〜」
先程までとは別人のように警備員はにこやかに手を振りながら、校舎の見回りに校舎へと姿を消した。
「ふぅ〜…」
何とか警備員を誤魔化す事ができてカナが胸に手をあてて溜め息を吐く。すぐにビクビクしながらもチラッ…と清春を見るが、清春は外方を向いているだけ。
――こ、恐いよ〜!苦手だよ〜!メアちゃん私に勇気をください!!――
「あ、あの、」
「…ごめん」
「えっ?」
空耳だろうか?謝るような人物には見えない清春から小声でしかし確かに聞こえた謝罪の言葉にカナは驚き、顔を上げて目を丸め、清春を見る。何だか自分の中の恐い清春像が少し変わりつつあるから。しかし当の清春は外方を向いたまま。
「あの、」
「だからごめん」
「えっ?何がですか?」
「……」
「あの、」
「あ"ー!もう!あのあのウジウジした言い方ウゼェんだよあんた!!」
「ひぃい!ごごごごめんなさ、」
「昼間はヘアピン馬鹿にしてごめんっつっただけだよ!」
「え!?あのっ、あ!ま、待って下さい!」
結局カナには顔を合わせずそう言い捨てると清春はダッシュでヴァンヘイレンを去り、夜の暗闇へと走り去って消えていった。


ポツーン…

1人残されたカナは、未だ突然の謝罪の意味をうまく理解できずにいる。だって謝るような人では無いと思っていたから。
「昼間ヘアピンを…馬鹿にして…?それを謝りに来たの…かな?あれ?でもどうして私がヴァンヘイレンに居るって分かったんだろう?あ…制服着てたからかな」
恐い人だと思っていたが意外な一面を見れて、カナの中にある清春への恐怖心がほんの少しだけ薄れた気がした。カナは口に手を添えてくすくす微笑む。
「ふふふっ。本当は恐くない人なのかも」
シャーペンを買いに行く為歩き出す。
「あ"!」
すぐ立ち止まり、清春が走り去って行った方を見るが、ホーホーと梟が鳴く真っ暗で先の見えない一本道があるだけ。
「あの人が忘れていっちゃったペンダントを渡す機会だったのに…。お名前も何処の学校かも知らないのに…どうしよう…」





















一方の清春。
ズボンのポケットに両手を突っ込みながら、闇夜を1人歩いていた。

『うわー!清春の持ってる機関車のおもちゃダッセー!』
『今時最新の電車のおもちゃだろ普通〜!そんな古臭いおもちゃ持ってる奴誰もいないぜ〜!』
『やーいビンボー!ダッセーおもちゃしか買ってもらえないビンボー!』
『清春良かったね〜機関車のおもちゃ買ってもらえて』
『うん…』
『清春?どうかしたの?』
『僕本当はこんな古い機関車じゃないのが良かったもん!みんなみたいに新しいおもちゃが良かったのに!お父さんとお母さんなんて嫌いッ!!』

「…はっ、ダッセー…」

































翌日、昼
ハッピーバーガー―――

夏休みというだけあって今日も今日とて賑やかで座る場所が無いハッピーバーガー店内。隅の2人掛け席でジュースだけを飲み店内をキョロキョロしているのはカナ。
「あの人今日も来ると良いんだけどな。ネックレスを渡せるから…」
「申し訳ありませんお客様。只今店内大変混雑しておりまして、相席をお願いしても宜しいですか?」
店員が申し訳なさそうにカナに尋ねるから、ハッ!としたカナはオロオロしながら「は、はい!大丈夫です!」と返事。
「ご協力ありがとうございます!ではお客様、こちらのお席へどうぞ!」


ガタン、

「…!!」
店員に案内をされ、カナの向かい側の席に相席をした客の姿を見てカナは目を丸め、驚いた。清春だったから。一方の清春はわざとらしくカナの方は見ず真横を向きながら脚を組み、無言でシェイクを飲んでいる。
――どうしようどうしよう。せっかく偶然この人にまた会えたのにやっぱり恐くて苦手だよ〜!話し掛ける事すらできないよ〜!メアちゃんお願い!私に勇気を下さい!――
「あ、あの…」
無視。
「あのー…」
無視。
「あの、これ…昨日相席をした時椅子に忘れてあった物なんですけど…あ、貴方の物ですか…?」
「はぁ?…!!それ俺の!!」


バッ!!

目をギョッ!と見開き、カナの手からすぐさま取る清春の焦り振りにカナはキョトンとしてしまう。
清春はペンダントの小さな円形の写真入れの部分を隠すように手に持ち、慌てた様子でカナを見る。
「見た!?」
「えっ?」
「だから見た!?」
「あの…?」
「だから中!見たかって聞いてんだよ!本ッ当トロいなあんたは!」
「中…?あ!い、いえいえいえ!見てないです!」
「マジ!?本当に!?」
「本当ですっ…!」
「危ねー!」
ふーっ…と息を吐く清春に、首を傾げるカナ。
――恋人との写真とか…なのかな?――
「あ〜!あって良かった…ってこれチェーン切れてんじゃん!!」
「わわ私じゃないですっ!初めから切れてました!」
あわあわして両手をぶんぶん横に振り否定するカナをじと目で見る清春。やはりカナは恐くて、清春から顔を反らしてしまう。
――うぅ〜!恐いよ!メアちゃん助けて〜!――
しかし。
「あれ…?」
清春はそれ以上何も言わず。かと言って昨日のようにわざとらしく立ち去ってもいかず。ただ顔を合わせたくないから真横を向いたままだが、大量のハンバーガーやナゲット、フライドポテト、シェイクをモグモグ食べ出した。
――き、今日は逃げないの…かな?――
嬉しいような恐いような…。カナは両手でジュースを持ち、飲む。その時ある事を思い出して、ピンクの財布から2枚の券を取り出す。
「あ、あの…このお店よく来られるんですか?」
「あんたに教えてどーなんの」
「ひっ!そ、そうなんですけど…。あの、これ良かったらどうぞ…!学校限定で配られた夏休み限定ハッピーバーガー無料券2枚なんですけど…」
「!?」
ギュン!とソッコーで顔が券の方を向いた清春はすぐさま奪い取るから、カナはまたまたキョトンとしてしまう。清春が子供のように目を輝かせて券を見ているから。
「マジ!?くれんの!?」
「え、あのっ…」
「くれんのくれねーのどっちだよ!」
「あ!あ、あげますあげます!どうぞ!」
「やりーっ!!」
やはり子供のようにはしゃぐ清春にポカーンとしているカナ。…の視線に気付いた清春はハッ!と我に返るとまたさっきのツンとした態度で真横を向く。
「べ、別にいらねーしこんなもん!」
全く素直じゃない悪態をつきながらモグモグ食べ出す清春には聞こえないよう、口を手で隠してカナは楽しそうにクスクス笑っていた。















食べ終え店を出て店の前でペコペコするカナと、相変わらず外方を向いたままの清春。
「でも本当またお会いできて良かったです!ネックレスもうお渡しできなくなっちゃうかと思いました」
無視。
「で、では私はこれで…!」
パタパタと去っていくカナの方をチラッとも見ず、清春はカナとは反対側の道を歩いていった。































「メアちゃんに2日会えないだけでつまらないなぁ…。メアちゃん今頃お姉ちゃんと遊んでいるのかな?」
相変わらずトボトボ歩くカナの脇を、仲睦まじいカップル達が通り過ぎていく。その姿がアガレスとメアと重なると同時に、MARIAサーカス任務でアイリーンに言われた言葉を思い出してしまう。

『怖いのでしょう?お2人と関わる事が。恐ろしいのでしょう?自分の親友だと謳っておきながら。自分の恋しい相手と知っていながら。お付き合いをなさったメア様とアガレス様お2人と関わる事が怖いのでしょう?そんな不浄で下劣なお2人など、神による造り直しの儀を施されてしまえば良いのに』


ギュッ…!

カナは強く両手を握り締め、目を強く瞑る。
「そんな事思った事無いよ…!私は2人の事が大好きだもん!アイリーンちゃんどうしてあんな酷い事を言うの…!私は…、きゃっ!」


ドンッ!

またまた誰かとぶつかってしまったカナは相手を見る前にペコペコ頭を下げて謝る。謝り癖があるからだ。
「すみませんすみません!私が前を見ていなかったばかり…にぃい!?」
顔を上げたら…もう何度目の偶然だろう。こんな偶然あり得ないだろう?と言いたくなる。カナがぶつかってしまった相手はまたしても清春だったのだ。
「ひぃ!ごごごごめんなさい!また私!」
「ぷっ」
「え?」
「あははは!あんたマジで何なんだよ昨日からさ!」
「?!?」
また睨まれる!怒鳴られる!そう身構えていたカナだったが何と、清春はまさかの腹を抱えて笑い出す始末。昨日の馬鹿にした冷たい笑いでは無くて、面白い番組を見て笑っている笑いだ。
カナは首を傾げ、頭上にたくさんハテナを浮かべる。昨日少しは薄れたもののだってまだカナの中で清春は恐い人のイメージがあるから。
「何回ぶつかるんだよ!しかもぜーんぶ同じ相手!トロ過ぎでしょブース!」
ガーン…!相変わらず口が悪い清春の一言に傷付くカナ。
しかし清春はまだ楽しそうにケラケラ笑う。まだ少し笑いながらも、くるり背を向ける清春。
「ま。前見て歩いてりゃもうぶつかる事は無いんじゃね?あんた宇宙1トロいんだからもうぶつかんなよ」
ポケットに手を突っ込みながら去っていく清春の背にポカーンとしていたカナは無意識の内に口を開いていた。
「あ!あのっ!」
「は?何?まだ用あんの?」
――や、やっぱり恐いよメアちゃん〜!!――
「あの、あのっ…あ、あのっ」
「あのあのうぜーって昨日俺言ったっしょ?聞いてなかったワケ?」
「ご、ごめんなさい!あのっ…あの!お名前何ていうんですか?!」
――あ、あれれ!?私何言ってるんだろう!?もうこんな恐い人とは関わらなくなるはずなのに口が勝手に…!――
1人であわあわしているカナをしばらくジーッと見てから清春は口を開く。
「人に聞く前にあんたから名乗れば?」
「は、はいっ!そうですよね!私はカナ・ナタリーっていいます!」
「はっ。チョーフツー」
「え?あ…!」
笑ってそう言い捨てると清春はそのまま立ち去っていってしまった。
「私が突然変な事聞いちゃったからまた怒らせちゃったのかなぁ…」



































翌日、昼下がり――――

またしてもハッピーバーガー窓際隅の席にて3日連続ジュースを飲んで退屈していたカナ。淡いピンクのワンピースに白いカーディガンという地味な服装。今時小学生でももう少し華やかな服装をしているだろう、カナよりは断然。
周りを見渡せば夏休み真っ只中の学生達が友人達と楽しげに喋っている。
「私の夏休み同じ毎日の繰り返しでもう3日目だよ。メアちゃんはお姉ちゃんと遊んで、アイリーンちゃんとトム君はお出掛けで。椎名君と天人君は故郷に帰省して夏休みを満喫しているんだろうなぁ。私、メアちゃん達以外お友達がいないからちょっぴり寂しいな…。…あれ?そういえばアガレス君の姿が見えないけどアガレス君は夏休み何処で過ごしているのかな?」


ガタン、

「…?」
自分が購入したジュースしか乗っていなかったテーブルの上に大量のハンバーガーやナゲットが置かれ、首を傾げながらカナが視線を上げる。
「あっ」
「どーも」
ガタン!と相変わらず音をたてて向かい側の席にやはり真横を向いて腰を掛けたのは清春。だからカナはギョッとして小さい目を大きく開く。
――あれ?!店員さん、相席お願いしますって言いに来たかな?私が考え事をしていたから店員さんの声が聞こえなかっただけかな?あれ?でも隣の席空いてるのに…?――
「あ…こ、こんにちは」
無視。モグモグ食べ始めてしまった。カナと顔を合わせたくないから真横を向いて腰を掛けたまま。黒縁の眼鏡に白と黒の唐草模様のネクタイに黒いロングTシャツで一見ヴィジュアル系のバンドマンに見える服装。
――いつも違う服を着てお洒落さんだなぁ――
無視をされる事にすっかり慣れてしまったカナはそれ以上話し掛けず、ジュースを飲む事にした。
辺りはガヤガヤ賑やかなのにこのテーブルだけ会話が一つも無くまるでお通夜。
――そういえばこの人結局お名前教えてくれなかったな。何さんっていうんだろう?――


バンッ!

「!?」


ビクッ!

思いきりテーブルを叩かれてビクッ!としたカナ。テーブルに目を向けると、遊園地の赤いチケットが2枚。だから首を傾げてから清春を見る。相変わらず清春は真横を向いていてカナの方をチラリとも見ないが。
「あの…」
「これ何?」
「え?」
清春はテーブルに置いたチケットを人差し指でトントン叩きながら言う。
「これですか?」
「さっき服買ってくじ引いたら貰ったんだけど」
「わあ!くじですか?すごい!当たったんですよ。おめでとうございます!」
「だから!これ何っつってんだろ!」


バンッ!

「ひぃ!」
――や、やっぱり恐いよメアちゃ〜ん!――
「こ、これは遊園地のチケットですよ」
「ゆーえんちって何ソレ?」
「えっ」
まさかのそこ?とツッコミたくなるカナだったがハッ!とする。
――そ、そっか。みんながみんな遊園地へ行った事があるわけじゃないんだ。お家の事情で行けないお家もあるかもしれないのに私ったら!――
「えっとですね、遊園地っていうのは馬の形をした椅子に座ってぐるぐる回ったり、すごい高い所からすごい速さで掛け降りるジェットコースターっていうのに乗ったり、小さな篭の乗り物に乗って高い所から景色をゆっくり見渡せる乗り物があったり…。家族やお友達と一日其処だけで楽しめる遊び場なんです!」
「ふぅーん。あんた行った事あんの其処?」
「この遊園地は行った事無いですけど、小さい頃家族で一度行きましたよ」
「楽しかった系?」
「はい!」
「ふぅーん…」
頬杖を着いてつまらなそうに遊園地のチケットを眺めている清春にも、穏やかな笑顔で説明をしてあげるカナ。

















「せっかくの夏休みですからお友達を誘って行ってみたらどうですか?あ。でも夏休みだから普段より混んでいると思いますけど…」
「行き方分かんねーし」
「お友達が知ってるかもしれないですよ!」
「……」
「それかケータイで検索すればすぐ出てきますよ!」
「ケータイ持ってねーし」
「えっ、あ…ご、ごめんなさい!」
「あんた教えてよ」
「え?」
頬杖を着いてチケットに目線を落としたままそう言う清春にカナはまた首を傾げる。本日何度目だろうか。
「俺字あんま読めないから行き方とか駅名とか聞いても全ッ然分かんねーし。だからあんた教えてよ」
「あ!はい!分かりました。今地図書きますね」
「だから!地図書かれても読めないからあんたもついて来いっつってんだよ!トロいなぁ本ッ当に!」
「わ、私もですか!?」
「何そのチョー嫌そうな顔マジうぜー」
「い、嫌そうな顔なんてしてないです!びっくりした顔ですよっ!だって私の事嫌がっていたのに何でかなってびっくりしちゃって…」
「嫌は嫌だけど?」
「ガーン…!そ、そうですか…」
しょぼん…としてシクシク肩を落としてしまうカナ。
一方、ガタッと椅子から立ち上がった清春はトントンとチケットを指で指す。
「明日朝この席」
それだけ言うとゴミを捨ててさっさと店を出ていってしまった。
「ふぇ〜。どうしよう。やっぱり恐くて苦手だよ〜明日また怒らせちゃわないか不安だよ〜」
テーブルに顔を突っ伏してシクシクするカナだった。


























夕暮れ刻17:55――――

アンジェラの街の人通りが少ない路地裏を1人、ポケットに手を突っ込みながら歩く清春。その背後。路地裏の壁や地面から真っ白い小さなヒトガタの低級神々6体がぬぅっ…と姿を現せば、清春の後や真横にぴったり同じ歩幅でついてくる。真っ黒く切り抜いた目と口の顔で覗き込みながら。だが清春は気付いていても無視をして、ただ歩き続ける。
「オイ、オ前ェ。人間ト馴レ合ッテイイノカ?イイノカ?」
「イイノカ?イイノカ?」
スタスタスタ
無視を決め込む清春の足音だけがする。
「造リ直シノ儀ヲ施サナイト、アドラメレク様ニ殺ラレルゾ!」
「人間ニ関ワリ過ギルト、オ前ノ父親ト同ジ末路ダ!」
「誰がクソ親父と同じヘマするかよ。さっきの雌豚はただの暇潰しだ。誰があんなブス好き好んで相手してやるかよ。マジうぜー」
「本当カ?本当カ?オ前ハ信用ナラナイカラナァ。何テッタッテオ前ハ、神デモ人間デモ無イ化ケ物ダカラナ、」


ドンッ!!
ブシュウッ!!

清春の顔を覗き込んで詰め寄った神1体を左拳だけで壁にめり込ませれば、神は真っ青な血を噴き出して潰れてしまった。
すると他の同じ姿形をした神々がワアアア!と騒ぎ出す。
「ワアアア!殺シタ!ウアイ神ヲ殺シタゾ!」
「ヤッパリコイツハ我々神々ノ敵ナンダ!」
「神々ニモ人間ニモナレナイクセニ人間面シテル!」
「アドラメレク様ニ報告ダア!清春ガ裏切ッタゾォ!ギャア!?」


ドンッ!!

手の平から繰り出した真っ白い十字架の形をした槍で残る神々がアドラメレクの元へ行こうとした隙を攻撃。全員をあっさり一掃してしまった。辺りには潰れた神々が青い血をドクドク流して息絶えているだけ。
「ギャーギャー、ギャーギャーうぜぇんだよ。裏切ったじゃねーし。俺を半端者扱いする奴らは目障りだから一掃しただけだろが」
槍をしまうと、再びポケットに両手を突っ込み歩き出す。


ガシッ!

まだ息絶えていなかった神の1体が息も絶え絶えに、清春の足首を掴んだ。ギロッ!と睨む清春の青い瞳。
「は?何だよ」
「痛イ目ニアウゾ…、人間ト深ク関ワリ…感化サレスギルト…痛イ目ニアウゾ…オ前ノ父親ノヨウ、ニ…」


グチャッ!!

まるで蟻を踏み潰すかのように神の頭を片足で思いきり踏みつければ、かろうじて生きていた神の頭は林檎が潰れたように弾けとんだ。
「俺を半端者扱いする奴等全員死ねよ」



























翌日AM8:30、
ハッピーバーガー店前――――

「あ…このお店10時開店でし、」
「俺がミスったって遠回しに言ってる系?」
「ちち違います!そういう意味じゃ無いですよ!?」
昨日店内の席に朝待ち合わせと言った清春に「ハッピーバーガーは10時からじゃないと開店しないんですよ〜」と言い損ねたカナ。店の前で待っていた清春を見て微笑みながらカナがそう言えば、間違いを指摘され嫌味を言われたと思い勘に障った清春がイラッとするからカナは慌てて両手を横に振り、否定。
ふん!と面白く無さそうに背を向けると、ポケットに両手を突っ込みながら歩き出す。
「あ、あの〜」
「だからそのあのばっか言うのうぜーからやめてくんね?」
「駅はそっちじゃないんですけど…」
「うっぜぇ!!」
「ごごごごめんなさい!」



















アンジェラ遊園地――――

駅へ着いてから電車を乗り継ぐ事1時間。ようやく辿り着いた。昨日清春がくじで当選した(らしい)遊園地のチケットを手に、電車を降りる2人。
「まま〜!わたしお馬さん乗りたい!」
「ふふふ、メリーゴーランドね。良いわよ」
「俺らジェットコースター一番乗りしようぜ!」
「開園と同時にダッシュな!」
「今日はうちらの初デートだね!」
「楽しもうな〜!」
夏休みというだけあり、親子連れ、学生の友人同士、カップルなど子供や若い客がもうじき開園する遊園地の前に長蛇の列を作り、期待に満ちている。
「ふわ〜。開園前からすごい列ですね」
相変わらずの無視な清春に、カナは慣れてしまい「あはは…」と笑う。
隣で遊園地のパンフレットを興味深そうに凝視している清春をチラッと横目で見る。
――本当に遊園地行った事無かったんだなぁ。お家が貧しかったのかな?私の家も裕福では無かったけれど…。でも字が読めないってどういう事だろう?中学校までは必ず行かなきゃいけないはずだけれど…病気で学校に行けなかったのかな?――
「ねぇねぇ。あの人かっこ良くない?」
「本当だ!超イケメン〜。脚長い〜」
カナの右隣の列に並ぶ派手な女性2人は明らかに清春を見てヒソヒソ楽しんでいる。その声が聞こえてカナもチラッと改めて見返せば、未だにパンフレットを凝視して周りの声など耳に入っていない清春。
昨日と同じ黒縁の伊達眼鏡に青いネクタイと黒く裾の長いシャツ、見るからにお洒落な姿を見てからカナは自分の服を見る。
淡い黄色のワンピースに昨日と同じ白いカーディガン。
――良いなぁ。今更可愛くはなれないからせめてお洒落のセンスが欲しいよ。とほほ…――
「隣に居る奴彼女?」
「えー!ウッソ〜?あんな地味な女が!?ありえなーい!どうせ貢いでデートしてもらってるだけっしょ!神サマー!不釣り合いな不細工彼女を造り直しの儀に合わせて下さーい!」
「きゃはは!言い過ぎ〜」
「っ…、」
わざと聞こえるように言われてカナは下を向き、ワンピースの裾をギュッ…、と握り締めた。
――しっかりしなくちゃ私!メアちゃんに言われたみたいに!辛くても悲しくても楽しい事を考えれば毎日が幸せになれるんだよってメアちゃんが教えてくれたんだもん…!――
カナがしょんぼりしている隣で一方の清春は全く周りの声が耳に入っていなかった。























遊園地内―――――

「只今開園致しまーす!」
「うわあーい!」
「俺が一番に乗るんだ!」
「お客様!危険ですので走らないでくださーい!」
開園と同時に雪崩のように園内へ駆け込む客に圧倒され、カナは肩にかけたピンクのショルダーバッグの紐がズルッ、とずれる。
「わー…す、すごい迫力」
「どれがいっちゃん面白いん?」
「え!あっ、えっとですね。高い所からすごい速さで落ちるのとか怖くないですか?」
「乗った事無いから分かんねーし」



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あきゅろす。
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