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GOD GAME
ページ:4



ダンッ!!

「ウ"ウ"ウ"ウ"!!」
「昼間見た時…由樹ちゃんの墓が荒らされていたのも…お前の仕業…。お前は…何者…。どうして由樹ちゃんに…まとわりつく…?目障り…死ね…化け物…!」
椎名は靄の人影の首を更に締め付けて殺しにかかる。


ギチッ…!!

「ウ"ア"ア"ア"ア"!!」
「退け奏!!」


ドンッ!

「っ…!?」
天人に体当たりをされて、尻餅を着く椎名。
「何っ…!?だって…天人こいつ…化け物だよ…!」
「殺したら由樹ちゃんが今まで以上に泣くだろが!!」
「…!?」
「仏説摩訶般若蜜多羅」
天人は靄の人影に対し、読経を必死に続ける。何度も何度も。
「ウ"ア"ア"ア"ア"!!」
その度に呻き暴れる靄。


ガタン!ガタン!

墓地で暴れるから、周りの墓石にぶつかってバタバタと墓石を倒す靄。そんな中雨は勢いを増す。
若くして真っ白い髪から雨に濡れた水を滴らせながらも天人は真剣な顔付きで、読経を必死に続ける。
「仏説摩訶般若蜜多羅」
「ウ"ア"ア"ア"ア"!!」
「くっ…!いい加減目ぇ覚ましやがれ御殿神!!仏説摩訶般若蜜多羅心経!!」
「ウ"ゥッ…、ア"ア"ア"ア"ア"!!」


ブワッ!!

靄が一際大きく喚いたと同時に靄の全身が真っ黒い液体のようにビチャビチャ!と辺りに飛散する。まるで破裂したかのように。その液体は天人の白い髪を黒く濡らし、椎名の顔にも飛び散る。
「な…何…?天人…ねぇ…、」


ドサッ…、

破裂した真っ黒い靄の中から、白い着物と紺色の袴を履いた黒髪の少年が倒れた。
「…?!誰…こいつ…」
「御殿神だよ」
「…!?由樹ちゃんの…仇…!?」
「待てって奏。そんな殺しにかかる目すんな。由樹ちゃんをこれ以上泣かせんなって。な?由樹ちゃん」
「…!?」
天人は自分の左隣に微笑みかけてそう言う。しかし、左隣には誰も居ないから椎名はギョッとして、天人と天人の左隣を交互に見る。その間にも天人は右腕から血を流しながら、靄の中から現れ意識を失っている少年…御殿神を背負う。
「はいはーい。家戻るよーん」
「ちょ…、ちょっと待ってよ…天人…!だって…そいつは…由樹ちゃんを…、」
「殺したけど、それは御子柴神に操られて…っつーのかな?本意じゃないんだよ」
「!?」
「ま、雨降ってて寒みーし。中で説明するから。一旦戻ろ、奏」
釈然としないながらも椎名はやはりいつもの仏頂面を浮かべて、天人の後をついて寺の中へ戻るのだった。





















尼子寺内―――――


ザアーッ…

降りやまぬ雨の音と、横たわる御殿の微かな息だけが聞こえる。顔の左半分に橙色の大きな痣。


ピクッ…、

御殿の瞼が微かに動けばゆっくりと開かれる目。
「此処…は…?」


ガッ!

「うぐっ!?」
「奏!!」
すぐさま御殿の首を絞めつける椎名。
天人が椎名の手を払えば、御殿は喉を押さえて「ゴホッ!ゲホッ!」と噎せ返る。
「奏!お前の気持ちも分かるけどまずは話を聞けって!!」
「……」
ツン。として外方を向いてしまう椎名に溜め息を吐く天人。そんな2人を目を丸めて不思議そうに見てから御殿は室内を見回す。
「あ、あの…此処は一体…?それに僕は…」
「お前は二ヶ月前御子柴神に造り直しの儀を施されそうになった由樹ちゃんを庇って御子柴神に祟り神にされた御殿神社の御殿神だよ」
「御子柴神…、由樹ちゃ…、」


ボロッ…!

由樹の名を口にした途端、御殿の目からは無意識にも大粒の涙が溢れ出した。御殿は右手で目から下を覆うのだが、ボロボロと止まらない涙が布団を濡らしていく。
「あ…あれ…、何で僕は…?どうして僕は由樹ちゃんと一緒に…?あれ?あの日は確か由樹ちゃんが夏休みで神社へ遊びに来ていたはず…あれ?どうして…」
「汚い…。泣くの…やめなよ…布団汚れるじゃん…」
「奏お前なぁちょっと黙ってろ!」
ビシッ!と口に貼られたガムテープをすぐ剥がす椎名。
















「僕はっ…、」
「由樹ちゃんはさ。俺とこいつのいとこなんだよ」
「いと…こ…ですか?由樹ちゃんの…」
「祟り神になった御殿神は我を忘れて京都の様々な人間を見境無く祟った。だからここ最近、不審な突然死を遂げた人間が京都に頻発するニュースで持ちきりだった」
「僕が…ですか…!」
天人は頷く。
涙を流しながら御殿は顔を覆う。
「祟られて我を失ったとはいえ僕は何て事を…!僕達が本来守って幸福に導かなければいけない人達に僕は…!」
「それを教えてくれたのはさ。由樹ちゃんだったんだよ」
「由樹…ちゃん…?」
バッ!と顔を上げた御殿の顔は酷くやつれており真っ青で、焦点の合わない目は見開かれていた。
「俺は霊感があってさ。由樹ちゃんが見えるんだ。つっても四六時中じゃないけどね。由樹ちゃんが御殿神との事全部教えてくれたよ。御殿神が祟り神にされてから見境無く人間を祟っている。本当はそんな神様じゃない。自分を庇ったせいで祟り神になった御殿神を助けてあげてほしい、って毎日泣いてる由樹ちゃんに言われたよ。…御殿神が目を覚ます事が由樹ちゃんが成仏できる理由だからさ」
「由樹ちゃ…、ぼ、僕は…僕は由樹ちゃんに手を掛けてしまったんです!大切な…一番大切な由樹ちゃんに!!なのに由樹ちゃんは亡くなっても尚、こんな僕を気遣ってくれていたなんて!なのに僕は我を失って人間を殺めていたなんて!お、お願いです!人間の方に頼むなんて神失格です…。でもどうか僕を殺めて下さい!僕はもう祟り神で本来の神の力を失い、またいつか祟り神になってしまうか…我を失ってしまうか分かりません!何処のどなたか存じ上げませんが、お願いです!僕を殺めて下さ、」


ペチン、

「い…っ?」
御殿の話を遮る天人は御殿の右頬をペチンと叩いた。御殿はキョトン…としてから目を丸め、ぱちぱち瞬き。
一方の天人は口を尖らせ、御殿を指差す。
「あーのなぁ。二ヶ月間かけてせーっかく目を覚まさせてやった相手にそりゃないでしょーよ!それに俺、こーんな弱い奴が由樹ちゃんの男でがっくしだなぁ〜」
天人の言っている意味が分からず頭上にハテナをたくさん浮かべる御殿。
「御殿神は覚えていないんだろうけどさ。祟り神にされて我を忘れていたこの二ヶ月間。お前はずーーっと毎日毎日この尼子寺に来ては由樹ちゃんの墓を掘り返したり墓の前に佇んでいたりしたんだぜ?無意識なんだろうけど」
「え…」
ぐいっ、
天人は立ち上がると御殿の腕を引っ張って立たせ、寺の外へ出て行こうとするから御殿は引っ張られるがままついていく。
「天人…!」
「奏は待ってていいよーん」
「ムカッ…」
あっかんべーをされて言われたから、何だか仲間外れにされた気分でイラだった椎名は渋々ついて行った。



















墓地――――


ザアーッ…

闇夜の雨の中。
荒らされた由樹の墓前に御殿を案内した天人。
「此処だよ。由樹ちゃんの墓」
「由樹ちゃんの…」


ガクン!

すると御殿は膝から崩れ落ち、由樹の墓石に抱き付きながら声を上げ、人目も憚らず泣いた。土砂降りの雨に強く打たれるのも気にせず。
「由樹ちゃんごめんなさい!由樹ちゃん本当にごめんなさい!神である僕が人間の由樹ちゃんを魅入ってしまったせいで由樹ちゃんをこんな事にさせてしまいごめんなさい!!僕は由樹ちゃんの事を大切に思わなければこんな事にならなかったというのに!神である僕が己の感情を優先してしまった為にこんな事にしてしまい本当にごめんなさい!!」
わんわん泣き、懺悔の言葉を叫ぶ御殿を眉間に皺を寄せて切なそうに見つめる天人と、未だ御殿を睨み付けている椎名。
御殿は強く目を瞑ったまま由樹の墓石を愛むように撫でる。
「由樹ちゃんがせっかく下界で幸せを得たのに…いじめられなくなったのに…その幸せを僕が壊してしまい本当にごめんなさい…ごめんなさい…」
「謝るくらいなら…由樹ちゃんへの感情を…捨ててれば…こんな事にならなかった…んじゃない…の…」
「奏」
歯に衣着せぬきつい一言を下す椎名を、涙で濡れた目で見上げる御殿。
「奏。それを謝ってんだろ。それに由樹ちゃんだって御殿神から離れたくなかったんだから…」
「いいえ…。眼帯をなさっている貴方の仰る通りです。僕が初めに由樹ちゃんを無意識の内に魅入ってしまったせいです。だから由樹ちゃんも自然と僕に…惹かれる事になってしまったのです。祟り神の時に殺めてしまった方々への償いにもなりませんし、由樹ちゃんも還ってはきませんが…本当にごめんなさい…」
頭を深々下げる御殿。その頭を踏みつけようと椎名がしたから、天人が体を張って止めたそうな。

















「だから…本当に申し訳ないのですが、どうか僕を貴方のその人間離れしたお力で殺めてはもらえないでしょうか…」
「いーや。できないね」
「そんな…」
「あのさ御殿神」
「?」
パチン!と指を鳴らす天人。
「御殿神。ヴァンヘイレンに来ない?罪滅ぼしに」
「え、」
「天人…!何馬鹿な事言って…いるの…!」
「いやいや。俺じゃないって。さっきから言ってるの。本当は優しい神様だからきっと人間をアドラメレク神達から助けてくれる、って!」
「ど、どなたがですか…?」
天人は御殿の後ろに佇む由樹の墓石を笑顔で指差す。
「御殿神が一番大切な人。由樹ちゃんがさ」
「!!」
バッ!と勢いよく御殿が振り向いた其処にはただ由樹の墓があるだけ…にしか椎名には見えなかったが、天人と御殿には白い光に包まれた由樹の姿が見えていた。
「嗚呼…!由樹ちゃん…!由樹ちゃん…!!」
「さ。お邪魔しちゃ悪いし寝る時間とっくに過ぎてるし俺らは先戻ろうぜかなちゃん」
椎名の肩を組んで無理矢理寺へ戻ろうとする天人にイライラが止まない椎名。
「天人…いくら天人だからって…いい加減にして…よ…。神に肩入れ…し過ぎ…だよ…」
「そうかもねー。本当そうかもねー」

「ふざけないで…だからっ…、」
「でも由樹ちゃんが言うんだから信じたいだろ。俺は良い奴と悪い奴の分別くらいつくって。それに…俺は奏とこれから先ずっと一緒にいられるわけじゃないから。奏を守ってくれる良い奴らと仲良くなって、奏を守ってほしいからさ」
「……。馬鹿…じゃないの…。いつか…騙されて…殺されるタイプ…だね…天人は…」
「はははっ!か〜もね〜☆おっ?雨、止んだんでないの?」
ふと顔を上げれば、先程まで強く激しく降っていた雨はあがり、遠くの空から朝陽が顔を出し始めた。
「やば!もう朝?寝直すしかないな〜」
ふと、天人が後ろを振り向くと。朝の暖かな陽射しと共に、白い優しい光に包まれた由樹が天へ昇っていく姿が見えたそうな。






















1週間後、
夏休み最終日――――

「お兄ちゃんまた帰ってきてよー!」
「う〜ん?次はいつになるか分かんないわ〜」
「えー!」
「奏お兄たん次遊びに来たら、でーとしてねっ!」
「えっ…」
「ちょっとーー!ダメダメダメですからねー!?尼子家の愛娘を仏頂面無愛想性格最悪かなちゃんになんてあげられないからね!?天人お兄ちゃん大・反・対!!」
「お兄ちゃんのケチー!」
弟や妹達に見送られながら天人と椎名は荷物を担ぎ、短かった1週間の夏休みを終え、ヴァンヘイレンへと戻る。
寺を出て、山道を降りる椎名と天人。
「いや〜夏休み1週間ってやっぱ超短いよ〜。結局1週間の内に地元の女の子とデートも【ピーッ(放送禁止用語)】もできなかっ、ぐはあ!?かなちゃん!顎にアッパーするのやめて!舌噛む!死ぬから!」
「天人は…一回…死んだ方がきっと…良いよ…」
「ちょっとー!?」
「はぁはぁ、す、すみません!遅れてしまいました!」
「おーっ!来た来たー!」
息を切らして丁寧な言葉使いの声が聞こえれば立ち止まり振り向く天人は持ち前の笑顔で手を振る。一方の椎名はギロリ!睨み付けていたが。
駆けてきたのは、天人の私服を借りて人間のような容姿をした御殿。
「服なかなか似合ってんじゃん御殿っち!この時代に町中で着物着てたら浮くからな〜」
「そ、そうでしょうか?」
「全っ然…似合わない…」
「ほら!かなちゃんはどうしていつもそういう事しか言えないの!天人クンはそんな風に育てた覚えありません!!」
天人が茶化しても、ツンとしたまま2人に背を向ける椎名。申し訳なさそうに俯く御殿の肩を叩く天人。
「それより由樹ちゃんとちょっとは話せた?」
「はい!本当にありがとうございました…!由樹ちゃんには亡き後も大変ご心配をお掛けしてしまいましたが無事成仏なさる事ができました!貴方のお陰です!本当にありがとうございます!!」
また深々頭を下げる御殿に、両手を振って「いいっていいって〜☆」と照れる天人。
「ん、じゃあそろそろ電車の時間だし駅に行きますか。いざ!ヴァンヘイレンへ!御殿っち!打倒アドラメレク神達に頑張ってくれよな!」
「はい!勿論です!貴方達への恩を返す為、殺めてしまった方々への償いとして、そして…由樹ちゃんが天から見ていてくださりますから!」
「よっし。OKだな♪いざ出ぱー、」
「あぁあ!!」
「?どったの御殿っち?」
「わわ私、尼子君のお家に大事な御守りを忘れてきてしまいました!すみません!少々待って頂いて宜しいですか?」
「やだ…」
「良いよーん。早めにダッシュでね!」
「はいっ!」
ダッ!と今来た道を戻って行った御殿。
「ふぅーっと」
「天人…本当にあいつ…連れて行く…つもり…?」
「奏ー」
「あいつが神…な事を…隠して…ヴァンヘイレン…に…入学…させる…の…?」
「俺達失恋だなー」
「……」
天人は腰に手をあてて笑いながら空を見上げる。真っ青な夏空を。
「小さい頃のアイドルを神様にとられちゃったからさ〜」
「……。天人と…僕…いっつもかぶる…よね…」
「お前が引かないのが悪い!」
「死ね…」

























尼子寺―――――

「急がなくてはいけませんね!…あ!ありました!」
弟や妹達に気付かれぬよう裏口から入った御殿は、忘れ物を見つけた。小さくていかにも手作りな"御守り"と書かれた御守りをきゅっ…、と胸元で抱き締める。
「由樹ちゃんが作ってくださった御守りを胸に僕は、この世界の人間を守ります」


ポンッ…、

御殿の背中を、誰かの小さな両手が優しく押してくれた。御殿が前へ進めるように。
















夏休〜京都編 【完】






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