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GOD GAME
ページ:3







同時刻―――――

「はぁ、はぁ…」
まるで逃げるように森林の奥へ奥へと駆けてきた清春は立ち止まる。息を上げながら下を向き、両膝に両手を着けると。
「はっ…、ははっ…」
渇いた笑い声が彼から聞こえてくる。
「はぁっ…、はぁ…。何だよ…誰ですか?とか…バケモノとか…。ざけんなよ…ざけんじゃねぇよ!!」


バタバタバタ!!

清春がたった左手拳で大木を殴っただけで、建ち並んでいた5本の大木が一斉に倒れた。赤と青の混ざった血が付着したりマルコから受けた傷だらけの震える左手拳を見つめる。
「普通の人間は木ぃ殴っただけで木が倒れねぇんだよ…。でも俺は木ぃ殴っただけでこんな事になるんだよ!!でも普通の神は木ぃ殴っただけで大地が抉れるんだよ…。だから俺は…人間にも神にもなりきれねぇ半端モンで…化物なんだよ!!」
怒りからなのか悲しみからなのか。下を向いたままの清春の肩がカタカタ震えている。
「冗談キツ過ぎんだろ…。あんたら夫婦2人は役者か?っつーくらいマジで真顔で、自分のガキの事忘れたっつってさ…。打ち合わせしたかのようにとぼけやがって。マジでざけんなよ!あんたらの事なんて親だなんて思っちゃいねーし!マジで…」
清春は下を向いたまま座り込みトン…、と地面を殴るが全く力が無い。赤ん坊のような力。
「忘れたなんて…冗談でも言うんじゃねーよ…!」


ガサッ…、

「!!」


バッ!

物音がした。勢い良く振り向く清春のその俊敏さはまるで野性動物が自分に近付く敵を察知したかの如く。
「あ、あのっ…大丈夫…ですか…?」
「は…?」
草むらから清春の前に現れたのは。オロオロして挙動不審なカナだった。



















こんな所にまだ人間が残っていたなんて。それに短気な清春には、カナのいかにも挙動不審でおとなしく引っ込み思案そうな雰囲気が苛立たせた。清春はカナを睨みながらも立ち上がり、カナを見る。だから余計にカナはオロオロ。
「あ、あの。お1人ですか…?」
――何だこの雌豚。ヴァンヘイレンの制服着てるクセに超弱っちそうだし――
「私ヴァンヘイレンの人間で…。その、あの。サーカスを観に来ていたお客さんで逃げ遅れた人がまだ残っていないかを…。先生に探して来なさいって言われたんですけど…」
――それに凡人の中の凡人で田舎くさっ。可愛くもねーしつーかどっちかっつーとブス。オロオロしてんじゃねーよイラつく――
「貴方は逃げ遅れたお客さんで、」
「うぜぇんだよ雌豚」
「っ…!」


ビクッ!

睨み付ける冷たい瞳。冷たく言い捨てられた言葉。カナはビクッ!としてしまい今まで以上に挙動不審になり、清春から目を反らして目線を下へ向けてしまう。
一方の清春はカナを眉間に皺を寄せたイライラした顔で見ている。
――あ"ーあ。親父と母さんの事で超イラつくんだけど。そーだ。じゃあこの人間。気晴らしにぶっ殺しちゃえば良くね?――
ニヤリ。白い歯を覗かせて笑う清春は、武器の白い槍を手の平から繰り出そうとする。
「あ!怪我…!」
「は?わ、ちょ!?」
繰り出す前にカナが清春の右腕を掴み、服を捲り上げたから清春は動揺する。しかしすぐに腕をブンッ!と振って、カナを払う。
「うっぜぇな!!勝手に触んじゃねぇよブス!!」
「でも貴方怪我してますよ…!それに真っ白いお洋服に血がたくさん付いて…ハッ…!青い…血…!?」
「…チッ」
カナは清春の白い服所々に付着した赤と青の混ざった血を見つけた途端、顔を青くして両手で口を覆う。
――だからどいつもこいつも。今日はイラつく奴らばっかだ。どうせこいつも俺の事化物っつーんだろ。…目障りな人間。きーめた。こいつもムカつくから殺そっと――
「おいあんた、」
「その青い血は神と遭遇した時の血ですね…?」
「は?だから、」
「それに顔にも酷い痣…。今すぐに手当てしますから!」
「はあ!?だからあんたうざ、ちょ、ちょちょちょ!?」
見かけによらず引かないカナの一方的な手当てに清春は押されっぱなしでイライラ。青筋をたてている。
カナはカナで清春の事は怖いのだが、目の前で怪我をしている人を見過ごせない優しさが先立ち、ウエストポーチの中から包帯や消毒液を取り出す。
「痛っつ!?」
「ごごごめんなさい!消毒液染みちゃいまし、」
「染みるに決まってんだろーが雌豚!!」
「はわわわ!ごめんなさいごめんなさい!でも消毒しないと傷口からバイ菌が入って酷くなるので、」
「うぜぇ!!あんたみたいなトロい雌豚に手当てなんかされなくたって俺はあんたらより傷の治りも早いんだよ!余計なお世話だ!」


バッ!

カナが調度清春の右腕に包帯を巻き終えたと同時に清春はまたカナの手を振り払う。今度はさっきより少し乱暴に。その拍子で後ろへ尻餅を着いてしまうカナ。
















清春はカナに背を向ける。
「あ、あのでもまだ右腕しか…」
「余計なお世話だっつってんだろ!」
「…っ、ご、ごめんなさい…。あのっ…お1人でサーカスを観に来られていたんですか?」
「……」
「で、でしたら私が駅までお送りします!先生に、逃げ遅れたお客さんがいたら無事帰宅させなさい、それがヴァンヘイレンの人間の任務だと言われたので」
「はっ。あんたが逃げ遅れた奴を守りながら帰宅させるっての?無理に決まってんじゃん。あんた見るからに超弱っちそうだし。何でヴァンヘイレン入ったわけ?マジ理解不能」
「私はっ…」
ギロッ。
「…!!」
顔だけをカナに向けた清春の青い瞳は、まるで鬼のようにカナを睨み付けていた。だからカナは震え上がってしまい、口に出そうとしていた言葉を飲み込む。
「あんたみたいに明らか無理だって分かっている事に挑戦する無謀で見るからに愚図でノロマでオマケにブス見てると超イラつくんだよ。死ぬ前にヴァンヘイレン辞めろよ雌豚」
「っ…!」
カナは涙を薄ら浮かべ、カタカタ震えて俯いてしまう。そんなカナをチラッと見てから、清春は森の中へと消えていった。













天界―――――

「へぇ〜。まぁたしくじりましたの?ベルベットローゼ。御子柴」
ゴージャスな1人用ソファーに腰掛けたアドラメレク。その隣にはニコニコしたマルコが立っており。アドラメレクの足元で土下座をしているベルベットローゼと御子柴。
「まままままたじゃないわよお嬢!ワタシはッ!!またしくじったのはベルベットローゼよォオ!」
「バッ、てんめぇ御子柴!マルセロ修道院の件はテペヨロトル神がヘマしたからでオレのせいじゃ、」
「御子柴」
「ヒィイイ!?なななな何かしらお嬢ォオ!?」
にっこり微笑みながら立ち上がったアドラメレクがちょいちょい、と御子柴を手招きすれば、顔面蒼白の御子柴も立ち上がる。
「ちょっと。来てくださる?」
そう言われて手招きされた先は、扉からして剣山のように太い針が突き刺さっており、鎖で頑丈に施錠された部屋。
「ヒィイイ!!おおおお嬢!ワタシまだ死にたくないわよ!?お嬢ォオオオ!」


バタン!

部屋へと連行された御子柴。ベルベットローゼは顔を青くしながらも、溜め息。マルコは相変わらずニコニコ。
「あーあ…。御子柴の奴。アドラメレクの拷問部屋初だからなぁ。はぁ…次はオレかよ…」
「お嬢様のお叱りを受けたくなければ私のように受けた命を忠実にこなせば良いだけですよ」
「ムカつくんだよマルコてめぇ!」
「ギィヤアアアアア!」
すると、アドラメレクの拷問部屋から御子柴の悲鳴が。
「み、御子柴!?」


ギィ…、


バタン…、

「お、おい!御子柴!?おいしっかりしろよ御子柴!?」
部屋からヨタヨタしながら出てきた御子柴は出たと同時に倒れる。見たところ怪我も何もしておらず、外見は入る前と変わりは無いが。ベルベットローゼは御子柴に駆け寄り、揺さぶる。















「おい!しっかりしろ!大丈夫か御子し、」
「フフフフ…ヒヒヒヒッ…」
「あ、あ…?御子柴お前、」
「ウフフフフフ!ヒャヒャヒャヒャ!ワタシの夢は…まな板のようなお嬢の胸を山脈にする為にお嬢を苛めてシクシク泣く可愛いお嬢をこの目に焼き付ける事だったけれど!フフフフ…フフフフアハハハ!お嬢にいたぶられて蔑まれるのも悪くないわぁ…」
「んなっ…!?何気持ち悪りぃ事言ってんだよ御子柴!それにお前その顔!」
「お嬢はてっきり苛められた方が可愛いと思っていたけれど…苛めっ子なお嬢の方が可愛いわぁ…!フフフフ…ヒヒヒヒッ!」
恍惚とした顔をして息が上がっている御子柴に、ベルベットローゼは完璧に引いている。
「ベルベットローゼ。次は貴女の番ですわよ」
「ウゲェッ…!」
ちょいちょい、とアドラメレクに拷問部屋へ手招きされ、ベルベットローゼは顔をひきつらせこの世の終わりのような顔のまま入室。
「ふっ。たっぷりお叱りを受けるのですよベルベットローゼ神」
「うるせぇ!お前は黙ってろマルコ!」


バタン…、


















拷問部屋―――――

「な、なぁアドラメレクー。オレ達親友だろ?だから拷問なんてよそうぜ?なぁ?」
ベルベットローゼには背を向けて立っているアドラメレク。必死にアドラメレクにお叱りを受けないよう懇願するが、アドラメレクは聞いているのか聞いていないのか無言だ。
「なあアドラメレ、」
「ベルベットローゼ。貴女アガレス氏の時だけ任務をしくじりますわよね」
「は?」


カツーン、カツーン

アドラメレクは下を向いたままベルベットローゼの元へ歩み寄り、真ん前で止まる。
「何が言いたいんだよアドラメレク?」
「彼が人間との禁忌を犯し、わたくし達が彼を堕天させに向かった日も。貴女は躊躇っていましたわ」
「はあ!?冗談よせよ!誰が躊躇っていただよ!?」
「先日のマルセロ修道院でも彼を殺し損ね。更には先日ココリ村でも彼を殺さなかったばかりに彼は悪魔化が加速し、力をつけてきた。だから今日も彼に負けたのですわ」
「っ…、アドラメレク…。いくら親友のお前でも言い掛かりも大概にしろよ。お前もキレると怖いけどな、オレもキレると怖いんだぞ…」
「……」
「おい!アドラメレ、クッ…!?」


キィン…!

アドラメレクの本来の姿鷹の鋭い爪をベルベットローゼの眼球スレスレに突き出したアドラメレク。これにはベルベットローゼも呆然。だってアドラメレクの目が、アガレスが禁忌を犯し、ダーシー(メア)が天界を裏切った時に怒りが頂点に達したあの日のアドラメレクと同じ目をしていたから。

















「アド、ラ…」
「同郷のヴァイテルの神だから貴女はアガレス氏を大層可愛がっていましたわ」
「そ、ん…なのっ…アドラメレクお前だって…」
「わたくしはアガレス氏が力のある神でしたからわたくしの手駒に調度良いと思っただけの事。…わたくしが気付いていないとでも思っていましたの?ベルベットローゼ貴女はヴァイテル出身の神だった頃からあの裏切り者に好意を抱いていた」
「…!は、はぁ!?ふ、ふざけんな!誰がアホアガレスなんかを!それよりアドラメレクお前はいつもヴァンヘイレンでアガレスと一緒だろ!?ならオレらにあいつ殺しを押し付けないでお前が殺りゃ良いだろ!」
「わたくしにはわたくしの計画がありますの。アガレス氏とダーシー氏が親しくなったヴァンヘイレンの人間から殺していく。そうしてアガレス氏とダーシー氏に死よりも恐ろしい絶望を与えさせるという計画が。…そんなに口応えするのならこれから一生貴女だけにアガレス氏殺害を命じますわよ」
「っ…!」
くるり。ベルベットローゼに背を向けて腕組みをし、カツーン、カツーンと靴を鳴らして室内を笑みながら歩くアドラメレク。
「できますわよね?裏切り者アガレス氏の事を憎んでいるのでしたら」
「っ…、あったりまえだろうが!」
「ふふっ」
くるり。アドラメレクはベルベットローゼに顔を向ける。にっこり天使さながらの笑顔から一変。先程の悪魔以上に恐ろしい据わった瞳で睨み付けて。
「次わたくしに逆らったら灰にしますわよ」
「ッ…!!」

















キィッ…
部屋を出たアドラメレク。
「お嬢様お疲れ様です。…おや?ベルベットローゼ神は?」
「さあ?」
「お、おおお嬢〜!もう一回…いや二回!またワタシを罵って〜!」
「うふふ。御子柴?わたくしが貴女を次罵るという事は貴女がまた任務をしくじるという事ですのよ?だーめっ」
「ヒィイイ!お嬢に一生ついていくわワタシ!」
「うふふ。ありがとう。マルコ。何だか今日は疲れてしまいましたわ。1人の低能女のせいで。お風呂を沸かしてくださる?」
「畏まりました」


カツーン、カツーン…

アドラメレクの足音が遠ざかっていった。































その頃。
天界の清春の自室では―――――

拷問部屋のように鉄格子で堅く施錠された、牢屋のように殺風景なコンクリート造りの部屋。
先日椎名に攻撃を食らい、マルコに逆らった時に暴れたままの状態。ベッドのビリビリに破けたシーツには血痕。床には割れた花瓶の硝子片。
清春はベッドの上で座り、天井を見上げた状態のまま右腕を天井に翳す。服を捲った事で露になった右腕には先程カナが手当てをしてくれた包帯が綺麗に巻いてある。
「……。うぜー…」




























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