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GOD GAME
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コク。頷く椎名に驚くババロアが椎名の肩を掴んで前後にガクガク揺らす。
「アカン!神様なんてどんな力持ってるか分からへん化物と自ら戦うなんて絶対アカン!!」
「何で…」
「アンタはアタシと天人の大事な弟分やからに決まっとるやろ…!」
「……」
柵に顔を伏してしまうババロアをジッ…と見る。
「いつ死ぬかも分からへんヴァンヘイレンにアンタが入学したら…アタシがアイツと契約した意味が無いやんか…。アタシは…アンタに…長生きして幸せになってほしいのに…」
「僕は…死なない…」
ババロアの隣に立ち、真剣な眼差しで夜空を見上げる椎名。満天の星空だ。
「今は…平和だけど…いつ…どうなるか分からない…から…。僕は…強くなって…。団長を…ま、ま…守っ…る…からっ…」
「ぐすん…。椎名ありがとな…。アンタももう一人前の男やもんな…。アタシが口煩くアンタの決めた道をとやかく言えへんもんな。でも辛かったらすぐ退学するんや。死んでまで戦うなんてアホな事絶対すんな。分かったか?」
「うん…」
「じゃあそろそろ寝よか」
「団長…あの…さ…」
「ん?」
「僕の事…どう…お、お…思…う…?」
「世界一可愛い弟や!」
ポンポン!頭を叩くババロアに、椎名は真っ赤にした顔を見られないよう顔を伏す。
「じ、じゃあ…天人は…?」
「天人…?」
「…?」
黙ってしまったババロア。椎名が不思議そうに顔を上げてみれば。
「……」
ババロアはポーッ…とした熱い目と真っ赤な頬で、街の夜景を眺めていた。
「天人は…何やろなぁ…。初めての感覚やなぁアイツに対する気持ちは…」
椎名はぎゅっ…!と両手を握り締めて歯を食い縛ってから、右目に眼帯の上から触れるとババロアに背を向けてテントへ歩き出す。
「椎名?」
「僕は…」
「え?」
「僕は…ヴァンヘイレンで…天人より…強くなって帰ってくるから…」
「椎名?」
――不純な動機かも…しれない…ね…。でも…右目に宿した…悪魔の力が…ヴァンヘイレンで役立てば…。ヴァンヘイレンのエースになれば…。僕のヒーローを僕が越えられれば…――





























現在―――――

「グアア!!」


ズシャアアア!

ベルベットローゼ×御子柴に次々と間髪入れずに攻撃していく悪魔化アガレス。普段から黒い禍々しい光を纏うアガレスの武器の槍。だが、今日はアガレス自身も黒い光を纏っており、攻撃力も普段の倍以上ある。


ボタボタッ!

「ウ"…ウ"ウ"ッ…」
腹部から青い血を土砂物のように勢い良く流しながら立ち上がろうとするのは、コウモリ×大蛇の姿をしたベルベットローゼ×御子柴。


ドスッ!!

「ギャアアア!!」
立ち上がろうとしたベルベットローゼ×御子柴の頭を容赦無く高い踵で踏みつけてから、ぐりぐり踏みつければ2人の頭から血飛沫が上がる。
「生きて帰ろうなんて思っちゃいねぇよな?てめぇら!」
「グッ…、コレハ一体ドウイウ事ナノヨ…ベルベットローゼ…!」
「コイツハ…、何デカオレモヨク分カンネーケド!トアル拍子ニ悪魔化ガ加速シテ普段のアガレスカラハ想像モツカネェ凶悪ニナルンダ、グアッツ!!」
「ベ、ベルベットローゼ!?」
堪えきれなくなったベルベットローゼが悲鳴を上げたと同時に2人の融合が解けて、ベルベットローゼと御子柴単体の姿に戻る。


ドサァッ!

「ベ、ベルベットローゼ!?」
地面に落ちるベルベットローゼに、顔面蒼白の御子柴が駆け寄り、横たわり痛みに顔を歪めて目も開けられないベルベットローゼを座ったまま抱えて揺さぶる。
「ベ、ベルベットローゼ!?ちょ、ちょっとしっかりなさいよアナタ!」
「う"…、ぐあっ…」
「ベルベットロー、」


ザッ…、

背後から気配を感じた御子柴。恐る恐る振り向けば…


キィン!

槍の鋭く尖った先端を御子柴の右目眼球スレスレの所に突きつけているアガレス。白目が黒く。黒目が赤い悪魔の姿をしたアガレスは2人を見下して笑う。

















「クッ…!堕天神の分際で…生意気よアガレス氏!!」
「ギャーギャーうるせぇんだよ悪神」
「何ですって!?っ…!」
「それ以上動くようならてめぇの右眼球ぶっ刺す」
「クッ…!」
「♪――♪――♪」
「あ?何だこの歌声は」
「…!お嬢だわ…!」
「お嬢?あ!てめぇら待てよ!!」


ヒュン!

歌声が遠くから聞こえると御子柴はアガレスが歌声に気をとられている隙に、負傷のベルベットローゼを背負ったまま一瞬で姿を消してしまった。


ガン!

「チッ!くっそが!」
苛立ち地面を蹴るアガレス。
「♪ーー♪ー」
そんな中。闇夜に少女の美しくもどこか不気味な歌声が遠くから響く。
ベルベットローゼと御子柴が退散した為、2人からの呪縛が解けた椎名達も辺りを見回すが、そこには闇夜しか広がっておらず。
「なっ…、何やこの歌声は?」
「人が神々に殺されそうになってるって時に暢気に歌なんか唄いやがって!だよな!?奏!?」
「……」
「奏?」
天人が声を掛けても、椎名は歌声が聞こえる方角を黙って向いているだけ。
「奏…?」
ニヤリ…。椎名の口が悪魔さながらに微笑んだ気がした。



















「何だろうこの歌声…?聞き覚えがある声のような…。それにしてもベルベットローゼ神達が退散してくれて良かったね。これもアガレス君のお陰、」


ガンッ!


ドサッ!

「っ…!?」
背後からホッとした笑顔で近付いてきたメアを、何とアガレスは左手で叩くように乱暴に凪ぎ払った。衝撃でその場に倒れ込んでしまったメアの右頬が赤く腫れている。
「うおぉい!あんた女の子に何平手打ちしちゃってんの!?そういうの女の子の味方天人クンは許せないからね!?」
「待って…天人…」
「!?」
アガレスに怒り心頭の天人が近付こうとしたが。天人の前に椎名が右手を出して静止させる。
「ちょ!奏退けてこの手!天人クンは女の子に手を挙げる奴が世界で一番許せないって知って、」
「君は…堕天神…アガレス…じゃない…よね…?」
「ガーン!奏に無視された…」
お喋りな天人は無視をして。椎名は前へ出てアガレスに話し掛ける。すると、アガレスはゆっくり椎名を振り向く。椎名の右目と同じ悪魔の目をして。椎名が狂喜に満ちた時と同じ笑みを浮かべて。椎名を指差す。
「御名答。俺はお前と同じ。けどコイツの方がお前より悪魔化が加速している。お前も何れコイツみたいに自分の事も周りの奴らの事も何もかも忘れてこうなるんだよ。覚えておけ」


フッ…、

「アガレス君!?」
そう言い放った直後、アガレスはフッ…、と意識を失いその場に倒れる。メアが駆け寄り、体を揺するが息はしているものの目を瞑ったままで応答が無い。
















一方の椎名達。
「な、何や椎名…!?あいつらヴァンヘイレンの生徒やろ?なのにどないしてあんな人間離れした力を使えるんや?」
「あいつら…2人は…人間の姿をして…ヴァンヘイレンに…潜む…神…」


キィン…!

「椎名!?」
椎名はユラリ…、と自分の武器を取り出すと2人の方へとゆっくり歩み出す。
「ストーップ奏」
「邪魔…。退いて天人…」
しかし、椎名の前に両手を広げた天人が立ちはだかる。だから、椎名は目尻をピクッと痙攣させてイライラ。
「詳しい話は分かんねーけどまあまあ大体の話は分かった。あいつらは確かに人間じゃなさそうだなっ!」
「なさそう…じゃなくて…本当に…人間じゃないんだってば…」
「けどな奏!」
ビシッ!と椎名を指差す天人。
「神は人間造り直しの儀を行うすんげー悪い奴らだ。けどあいつらはどうやら違うんじゃねーの?」
「……はぁ…?」
「あいつらは俺と奏と明を助けてくれた。人間も同じだろ?良い奴ばかりじゃない。けど!悪い奴ばかりでもない。あいつらは神は神でも俺達人間を悪神から守ってくれる良い奴らなんじゃねーの?って!俺は思うけど?」
「……。バッカみたい…。天人…退い、」
「アタシもそう思うで椎名!」
「……」
天人の隣に並んで両手を広げて椎名を静止させるババロア。椎名はばつの悪そうな顔をすると、ババロアから目を反らす。だが、ババロアは椎名をジッと見る。
「あいつらが居らんかったら今頃アタシらはこうして会話する事すらできていなかったんや!そんな命の恩人に食って掛かるように椎名を育てた覚えは無いで!アタシ!」
「……」


カシャン…、

椎名は武器を下ろすといつものように背中に担いでくるり。後ろを向いてしまう。
「椎名!」
「…でも僕は…そいつらを…仲間だなんて…思わない…から…」


トゥルルル!トゥルルル!

「かなの電話じゃねーの?」
「……」
戦闘も終わり、静まり返ったこの場に椎名の携帯電話の着信音が鳴り響く。


















「もしもし…」
「椎名お前結局MARIAサーカス任務に参加したんだってな!?」
「〜〜!」
キーン!と耳が痛む程電話越しに大声で話す通話相手は1E担任教師。椎名は携帯電話を耳から離す。
「何で…それを…」
「ハンクスから聞いたんだよ!それより大変だ!お前ら今何処に居る!?」
「MARIAサーカス団の…大テント…近く…かな…」
「はあ!?なら何で気付いていないんだよお前ら!」
「…?」
「MARIAサーカス団会場へ向かう駅前で大量に人間が造り直しの儀を施されているんだよ!!」
「!?」
電話から洩れる程の担任の大声は、天人にもメアにもババロアにも聞こえた。
「なっ…、」
「いいから早くお前も来い!神の姿はもう見当たらないが、造り直しの儀を施された人間達が、普通の人間達の殺戮を始めててこっちの手じゃおえないんだ!こっちにはハンクスとアイリーンも居る!そっちには8年生2人とアガレスとルディも居るんだろ!?全員連れて至急任務にあたれ!良いな!?」


ツー、ツー…

有無を言わさず一方的に切られた通話。



















「し、椎名君…今の…先生の声だよね?」
「……」
くるり。椎名は何も言わず、サーカス団会場最寄り駅へと走っていく。


ポン!

「ごめんごめん!奏チョー無愛想だから気分悪くさせただろ?」
「えっ?」
メアの肩に手を置いてバチッ☆とウインクをする天人に、メアはオロオロ。
「あ、えっと…貴方は?」
天人は自分の左胸をドン!と叩く。
「俺は女の子の味方尼子天人!奏の従兄だよ!んで。こいつは…って、そっか。君達はMARIAサーカス団任務にあたっていたから明の事は知ってるわけか」
「う、うん!団長のババロアさんだよね?本名が明…なの?」
「そ、そ〜。電話の内容からしてなーんかマジヤバいらしいじゃん?俺は君達みたいな力は無いけど、ちょっとは戦えるからさ!手伝うよ!」
またバチン☆とウインクをする天人に、メアはにっこり嬉しそうに笑う。
「うん!ありがとう!でも…」
「君達さっきチョー戦ってたよね。人間業じゃないし。神様なんでしょ?」
「うん…」
「かなは気難しい奴だし過去に色々あったから、君達が良い神様でも神様自体が許せないんだ。けど、俺と明は君達が神様だろうと良い神様だって分かってるから気にしないしさ!それに他の奴らには君達2人が神様な事ナイショにするから安心して!」
口の前で人差し指を立てて笑む天人に、メアはまるで欲しい玩具を買ってもらった時の子供のような笑みを浮かべて大きく頷く。
「うん!ありがとう天人君、明ちゃん!」
先に行ってしまった椎名を除いて、メア達4人は担任が言う駅前へ駆けていった。(意識を失っているアガレスを天人が担いで)


ヒュン!

4人が居なくなった事を確認したかのように現れたのは、シルクハットに青い髪の少年悪魔ユタ。
「死んだ振りもお上手ですね。さすがはヒビキ様」
そこで息絶えたはずのヒビキとアーノルド。ヒビキに声を掛けるユタ。


ピクッ…、

するとヒビキの右手が動いた。
「こちらの赤髪の人間は息絶えた模様…ですが、悪魔となった貴方はこれしきの事では死なないはず。そうでしょうヒビキさ、」


バッ!

ヒビキに触れようとしたユタ。だが、気配を感じたのか後ろを咄嗟に振り向くとヒビキへ伸ばした手を引っ込めた。
「…人が来たようです。後で今後の事を話し合いましょうヒビキ様」
スウッ…と背景に溶け込むようにして姿を消したユタ。



















「はぁ!はぁっ!どうしよう…!先生達とはぐれちゃった!」
息を切らし、森林を掻き分けて走るのは黄色いリボンを揺らすキユミ。
「お、お兄ちゃん!?」
MARIAサーカス団会場最寄り駅にて神が居るとの情報を聞き付けて新たに出動したヴァンヘイレンの教師達と同行していたキユミ。だが教師達とはぐれてしまったキユミが探して走り回っていたところ、たまたま実の兄ヒビキとその友人アーノルドが血を流して倒れている姿を見つけた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!しっかりして!お兄ちゃん!」
「スー…スー…」
「息…してる…!」
耳を傾けないと聞こえない程ではあるがヒビキの呼吸音を聞き取ったキユミはホッ…とするが、すぐさまアーノルドの脈をとる。


しん…

「う…嘘…?アーノルドさん…!」
脈も無く息もしていないアーノルド。キユミはドサッ!と尻餅を着く。
「うっ…うぅっ…!アーノルドさんが…!お兄ちゃんの親友のっ…アーノルドさんがっ…!」
地面に正座をして座り込み、両手で顔を覆ってヒクヒク泣くキユミ。
「ひっく…ひっく…、アーノルド…さんっ…」
「母…さん…?」
「…?」
自分の泣き声に混じって背後から聞こえてきた震えるか細い声に、キユミは首を傾げて頭上にハテナを浮かべながら振り向く。
暗い森林を掻き分けてそこでキユミを呆然として見つめている顔や腕が痣だらけの清春が立っていた。


















「母さん!!」
ガサッ!
草むらから飛び出してキユミ目掛けて一目散する清春の顔は、普段の悪態ついた不機嫌な子供の表情では無く、驚きつつも喜びを隠せない無邪気な子供の表情が浮かんでいた。
そこでまだ正座をしたまま清春を見上げるキユミ。そんな母キユミの前に立ち、興奮気味に目を輝かせる清春。
「母さん!生きてたのかよ!?良かった!!母さん良かった!!」
清春はキユミと目線を合わせる為にキユミの前に屈む。笑顔で。
「親父はアホなダーシーとかいう女神と人間ごっこしてて超ムカつくからさ。母さんが生きてたなら、親父なんてもうどうでもイーじゃん!母さん、俺と2人で暮らそう!アドラメレクの姉ちゃん達の目の届かない場所見つけてさ!あ!其処に居るのヒビキ叔父さんじゃん!?大丈夫かよ!?じゃあ叔父さんも一緒にさ!3人で暮らそ!」
「あ…、」
「母さんの焼いたクッキー254年振りに食いたいし!あ!そうだ!母さんあのね俺、ガキの頃苦手だった野菜食えるようになったんだよ!…ピーマンだけだけど。でもすごくね!?あ!あとさ!逆立ちとかバック転とかもできるようになったし!俺、」
「貴方は…誰ですか…?」
「…は?」


しん…

遠くからは新たに出動したヴァンヘイレン部隊が戦う音が聞こえるが、此処は不気味なくらい静かだ。




















2人の間に沈黙が起きる。笑顔が崩れ、ひきつった笑顔のままキユミを見る清春。自分の事を母親と呼ぶ会った記憶の無い少年に怯えながらも、清春を見るキユミ。
「母さ、」
「…!!あああ、貴方のお洋服に着いているその血は赤と…青い血…!?貴方まさか神なんですか…!?」
「は…?え…ちょっと…、母さん?何言ってんだよ?俺だよ!?清春だよ!?母さ、」
「いやああああ!!やめて下さいやめて下さい!」
「!?」
キユミは泣きながら叫ぶと、意識を失っている兄ヒビキをきつく抱き締める。
「わ、わ、私を殺しても構いません!でも!お兄ちゃんだけは!私のお兄ちゃんだけは殺さないで下さい神!!」
「っ…!」


ダッ!

清春は唇を強く噛み締めると、キユミに背を向けて森林の中へ駆けていった。
























ザッ!ザッ!

「っ…、ぐっ…!」
真っ暗な森林を掻き分けながら走る清春。

『貴方は…誰ですか…?』
『いやああああ!やめて下さいやめて下さい!わ、わ、私を殺しても構いません!でも!お兄ちゃんだけは!私のお兄ちゃんだけは殺さないで下さい神!!』

先程キユミに言われた言葉がリアルに蘇るから、またギリッ!と唇を噛み締めた。噛み締めた唇から赤と青の混ざった血が一滴滴る。
「やっと来たか!よし!椎名とルディは応戦しろ!」
「はい!先生!」
「分かった…」
「はぁ…はぁ…」
行く宛も無くただ走っていた清春は、森林のすぐ向こうの街に集まったヴァンヘイレンの人間を見つけた。調度1E担任が、駆け付けたメアと椎名に指示を出しているところだった。
暗い森林の中から明るい街の様子はよく見えるが、街からは暗い森林の中は見え辛いからヴァンヘイレンの人間達はすぐ其処に清春が居る事に気付いていない。造り直しの儀を施された人間の応戦で手一杯の様子。


ガサッ…、

「…!」
足元で音がして視線を落とせば、清春の目が見開かれ顔は鬼のように怒りに満ちた。何故なら、今まで意識を失っていたから森林の中で休ませてもらっていたアガレスが清春の足元すぐ其処に横たわっていたから。しかも、今ようやく目を開けたらしくぱちぱちと瞬きをしながら清春の事をキョトン…と見上げている。


ガッ!!

そんなのお構い無しに清春はアガレスの胸倉を掴み上げ睨み付ける。森林の中ではヴァンヘイレンの人間には気付かれていないのを良い事に。
「てめぇ…アホ親父…!あんたのせいで…あんたのせいで母さんがおかしくなったじゃねーか!!俺の事覚えていないんだよ母さんが!あんたのせいだろ!?あんたのせいで母さんは!!あんたのせいで俺はっ…!がはっ!」


ドスン!!

清春の右頬にアガレスの重たい拳が飛べば、清春は衝撃で後ろへ倒れる。だがすぐさま起き上がる。
「何すんだよクソ親父!!」
「うるせぇんだよ、いきなり馴れ馴れしく。てめぇ誰だよ」
「は…?」
雰囲気も瞳の色も悪魔化の影響で全く違うが、アガレスはアガレスだ。だから、清春はキユミの時同様呆然とする。
「ざ…ざけんなッ!!あんたなぁ!!今は冗談言ってる時じゃねぇんだよ!!あんたのせいで俺も母さんもなぁ!!」
「だからてめぇの事なんて知らねぇのに馴れ馴れしく呼ぶなよガキ」
「なっ…!?」


ガツン!!

「がはぁっ!!」
再び重たい拳が飛べば、清春はまた吹き飛ぶ。ゆっくり起き上がり下を向いたまま、殴られた右頬を押さえながらヒクヒク狂ったように笑いながらゆっくり口を開く。
「は…ははっ…、親父も母さんも…俺の事…誰だ?なんつって…。ざけんなよ…冗談キツイっつーの…」
「だから俺はてめぇみたいな人間の赤と神の青い血流すバケモノの事なんて知らねぇんだよ」
「っ…!!」
下を向いたままだが、アガレスのその一言に清春は一瞬目を見開いた。
「アガレスくーん!」
「…ハッ!!」
その時街の方からこちらへ向かって来るメアがアガレスを呼ぶ声が聞こえて清春はハッ!とする。
「おいバケモノ」


ダッ!

清春はアガレスに背を向けると、森林の奥へと逃げるようにまた駆けていった。
「何だよあい、つ…、あ"…、」


バタン…、

悪魔化アガレスはふらつくと再び意識を失い、その場に倒れる。
「アガレス君!」


ガサッ!

草を掻き分けて現れたメア。その後ろには仏頂面の椎名。
「ん…、」
「アガレス君意識戻ったんだね!良かったぁ…!」
メアはアガレスの前に膝を着き、両手を胸の前で組んで目を瞑る。自分が元・神だが、まるで神に祈りを捧げるように。
「お姉ちゃんありがとう。アガレス君が目を覚ましたよ…」
「いいから…早く…行こうよ…」
「そうだね!」
イライラして腕組みをしながら足をパタパタさせる椎名に催促をされてメアはアガレスの手を掴み、一緒に立ち上がる。
「あのねアガレス君。さっき神々がMARIAサーカス公演を襲撃したでしょ?その時駅へ逃げたサーカスの観客さん達を神々が殺して造り直しの儀を施したの。それで一大事だから先生達も急遽駆け付けて今、造り直しの儀を施された人間達を先生達が排除しているんだけど。先生からね。アガレス君は気を失っているし、椎名君の従兄と団長も居るから危険だからお前達は先に学園へ帰っていろ!って言われたの。カナちゃんとトム君とアイリーンちゃんはまだ残って戦うみたいだけど…。だから私達名残惜しいけど先生命令だから先に帰ろうアガレス君」


パンッ!

「アガレス君?」
メアが掴んだアガレスの手。そのメアの手を振り払ったアガレスに、メアはキョトン…とする。しかしアガレスは下を向いたまま無言だ。

















「ア、アガレス君…?」
「……」
――まさかさっきの悪魔化した狂暴なアガレス君のままなのかな…?そんなっ…!ただでさえ記憶喪失で別人になっちゃっていたのにこのまま狂暴なアガレス君のままになっちゃっていたら本当のアガレス君がいなくなっちゃうよ…!――
メアは顔を覗き込みながら泣きそうに大きな目をうるうるさせて、とても不安そう。
「アガレス君?」
「……」
ぎゅっ…!
メアはアガレスの両手を強く握り、涙を浮かべた目も強く瞑る。
「アガレス君やだよ私っ…!ただでさえ記憶喪失でアガレス君がアガレス君じゃなくなっちゃっていたのに…悪魔化したさっきの狂暴なアガレス君のままになっちゃっていたら私やだよぉ…!」


バシッ!

また手を振り払らわれるメア。
「アガレス君!」
「煩わしい。勝手に手を掴むな雌豚」
「えっ…」


しん…

沈黙が起きる。涙を浮かべたまま硬直するメアと。その後ろで腕組みをしたまま興味無さそうなイライラした目で2人を見ている椎名。
メアの手を払った自分の両手をポケットの中へ入れるとアガレスはメアの脇をスタスタ通り過ぎて行く。アガレスの記憶が戻ったのだ。
「大体貴様は初対面時から馴れ馴れし過ぎる。それに悲しくても嬉しくてもすぐによく泣く。傍に居るだけでイラつかせる要素満点の雌豚、」


バキッ!!

「ぐはっ!」
背後からメアにパンチで頭を殴られたアガレスはそのまま前へ倒れ込む。すぐに起き上がろうとするが…
「煩わしい!雌豚貴様よくも殴、っーーー!?」


ゲシゲシゲシゲシ!!

メアは、起き上がろうとするアガレスの背中を小さい足でゲシゲシ踏みつける。いくら小さい足でとはいえ踏みつけられては痛いし、起き上がれない。

















「ふ、ふざっ…、ふざけるな雌豚!」
「アガレス君のバーーカ!!」


ドガン!!

「がはっ!!」
トドメの一撃。顔面にメアからのパンチを食らったアガレスは吹き飛んだ。
自分の足元に飛んできたアガレスを腕組みをしたまま見下ろす椎名も…


ゲシッ!

「ぐあ"っ!?」
アガレスの顔面を踏みつけて、楽しそうに微笑んでいた。
「良い鳴き声…だね…ふふふ…」
「かーな!いじめっこはやめなさいっ!」
コツン!と天人に頭を叩かれた椎名はすぐ不貞腐れて仏頂面になるから、天人と明は顔を見合わせて笑いながら溜め息。
今までは記憶喪失状態だった為、記憶喪失になった後から今までの記憶が無いアガレスは、初めて見る椎名と天人と明に首を傾げる
「…?貴様らは誰だ」
「話は学校帰ってからな。奏、明、メアちゃん行こう!」
「うん!」
「せやな!」
「ふん…」
面子が増えていて事態が飲み込めないながらもアガレスが皆についていく。
くるり。
アガレスの方を振り向いたメア。
「あっかんべー!」
「ムカッ…」
アガレスにあっかんべーをして舌まで出すとさっさと走っていった。すぐにムカッとしたアガレス。だがメアの目には、先程とは違う嬉しい意味の涙が浮かんでいたそうな。

















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