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GOD GAME
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8年前
日本、京都―――――

『大女優椎名まひるさんとその夫、映画監督椎名悠さん夫妻が昨夜自宅で何者かに殺害されました!』
『緊急ニュースです。芸能界のビッグカップル椎名夫妻が昨晩、京都嵐山の自宅で殺害されていたとのニュースが入りました』
『頭部をはじめ、全身を刃物で数十ヶ所刺されていたとの事ですが…』
『ええ。椎名夫妻に相当な怨みを込めた犯行と考えて宜しいでしょうね』
『大女優とその婿となった映画監督の夫婦でしたから金銭目当ての犯行とも考えられますが…?』
『お子さんはご無事との事ですが…。確か夫妻にはまだ8歳の一人息子がいらっしゃったはずですが、夫妻が殺害された現場に居合わせたそうですよね…』


ブチッ!

「奏君。そろそろお腹は空いたかな?」
「……」
テレビのアナウンサーが声を荒げて報道していたニュースの騒々しい音が、部屋へ入って来た1人の若い男性によってテレビの電源が落とされる。
暗い瞳をして脱け殻のようにボーッ…と、真っ暗くなったテレビをまだ見つめている1人の少年。頬や腕に大きな包帯をつけているこの少年は椎名奏当時8歳。
「そうだ!奏君。何か食べたい物はある?事務所の近くに日本でも有名なとっても美味しいフレンチトースト屋さんがあるんだよ。そこで買ってこようか?」
「フレンチトースト…嫌い…」
「そ、そっか。ごめんね。奏君は何が好きかな?」
「お母さん…が…作ってくれた…八ツ橋…」
「か、奏君…」
何とか元気を出させてあげようと、椎名の母親のマネージャーだった若い男性が喜作に話し掛けていたが、椎名は暗い瞳のまま暗いテレビ画面にだけ目を向けて涙をポロポロ流し出す。


パタン…

「どうだった」
「駄目です。僕の方を向いてくれないどころか、好物は何かと尋ねたら、まひるさん…母親の手料理を思い出させてしまったようで…」
「馬鹿者。もっと別の話題を振れば良かったんだ」
「すみません…」
「はぁ。しばらくそっとしておくぞ。まひるさんの夫・悠さんのお姉さん宅に奏君を引き取ってもらおうと思ったのだが…はぁ。これがまた難有りで、絶対に引き取らない!と怒号で返されてしまったよ」
「酷い…。親族はその旦那さんのお兄さん宅しかいないのですよね?じゃあ奏君は…」
「孤児院に引き取ってもらうしかないだろうな」
カツン、カツン…

扉越しに廊下から聞こえていたマネージャーとその事務所の社長の会話が終わり2人の足音が遠ざかっていく。
真っ白く角張っていて、テレビと化粧台とテーブルと椅子しか無い無機質な事務所の控え室。1人、涙を拭う事もせず流したまま暗い瞳の椎名は静かに立ち上がると、部屋を出て行った。


パタン…、























「奏君まだご飯食べないの?」
「そりゃそうですよ…自分も殺され欠けて、ましてや目の前でご両親を殺害されたんですから…」
女社員と先程のマネージャーに見つからないよう柱の陰に隠れながら、トイレへと入る。


ガラッ、

トイレの個室に入ると、便器の上に乗り、便器を踏み台代わりに小窓から外へ身を乗り出す。幸いトイレは一階の為、少しジャンプをすれば小窓から外へ出られる仕組みとなっていた。
「奏君が部屋に居なかったそうだ!」
「何処行った!?」
「探せ!探せ!」
大人達の焦る声が事務所の建物内から聞こえてくるが、彼らの声を背に椎名は事務所を飛び出して1人、駆けて行った。
































京都山奥に在る山寺
尼子寺―――――――

『大女優椎名まひるさんとその夫、映画監督椎名悠さん夫妻が昨夜自宅で何者かに殺害されました!』
『お子さんはご無事との事ですが…。確か夫妻にはまだ8歳の一人息子がいらっしゃったはずですが、夫妻が殺害された現場に居合わせたそうですよね…』

「はんっ!日本人のクセにキリシタンに熱心な信仰をしているからや!」
木造の古めかしい広い境内。テレビのニュースを前に、1人のふくよかな中年女性が目に皺を寄せて暴言を吐く。その女性の背を眉間に皺を寄せて一睨みした白髪の1人の少年・尼子天人当時10歳は、女性(天人の母親)に気付かれぬよう境内を出て行った。





















騒がしいニュースとは裏腹に、しん…と静まり返り朝靄に包まれた墓地。境内の縁側に腰を掛け、足をぶらぶらさせている天人は白とも水色とも言えない灰色に近い朝の空を見上げて、悲しそうに眉毛を垂れ下げる。
「奏…」
「天人お兄ちゃん…」
呼ばれてパッ!と振り向けば、髪を頭の高い位置で二つに結った少女・渡邉由樹当時9歳が立っていた。
天人、奏、由樹はいとこ同士だ。
心配そうに大きな瞳に涙を浮かべている従妹の由樹を前にしたら、悲しそうにしていた自分の表情を切り替える。いつものヘラヘラした明るい表情に。それは、由樹を心配させない為に無理をして作った笑顔。
「おー!どったの由樹ちゃん?」
「叔父さんと叔母さん…奏くんのお父さんとお母さんが…」


ポロポロ…

今まで堪えていた涙が全て溢れた由樹は自分の小さな手で拭うが追い付かず、天人は拭ってやるのを手伝う。
「テレビ見てたらっ…、」
「由樹ちゃん…」
「奏くんは…、…あっ!」
「え?」
由樹がポロポロ泣きながら天人の後方を指差したからつられて天人が振り向けば。天人の表情が今度は無理をして作った表情では無い心からの笑顔に替わる。
「奏ぇ…!!」
朝靄の中を。墓地の間を力無くフラフラしながら駆けてくる顔が包帯でほぼ隠れてしまった椎名。由樹は涙で濡れた目をぱちぱちさせたまま驚きのあまり呆然と立ち尽くしているが、天人は縁側から飛び降りて椎名の元へ駆けて行く。


ガシッ!

まるで生き別れの兄弟と再会したかのように強く抱き締める。いつも飄々として泣き顔なんて見せた事の無い天人が薄らとだが、目に涙を浮かべた。だが、嬉し泣きだ。顔には安堵の笑みが浮かんでいる。
「奏!奏だよな!?良かった!マジで良かったよ奏!お前は生きてるってニュースで言ってたけど、俺信じられなくてさ。嗚呼、顔も腕も脚も包帯だらけでこんなになって!」
「天…人…」
椎名の肩を掴み、涙を浮かべてとびきり優しく微笑む天人の瞳は力強く決心したモノだった。
「悲しい事があったけど心配すんな!俺が叔父さんと叔母さんの代わりに、かなの事ずっと守ってやるからな!だって俺はずっとかなのヒーローだから!」
「天…人…」
「何を勝手に事を進めているのです天人」
「母さん…!」
ジャリ、ジャリッと砂利を踏む音が朝の静かな境内に響く。振り向けば、薄灰色の着物を着た天人の母親がやって来ていた。
母親譲りの天人とよく似たつり上がった猫目は同じだが、優しげな目の天人と違って母親の目はとても怖い。
天人の母親の怖さに、境内の柱に隠れてビクビクしている由樹の姿が見える。
「天人。その子から離れなさい」
「やだ」
「いいから」
「やだったらやだかんな!」
「由緒正しき尼子家の僧侶となる貴方がキリシタンの息子と関わるなど言語道断です。それに、椎名まひるあの女は人間の煩悩の塊。チャラチャラした人間ばかりが生きる芸能界で着飾り…同じ人間として私はとても恥ずかしいです。それにあんな人間の煩悩剥き出しの着飾ったチャラチャラした女にまんまと騙され婿となった弟にも恥ずかしくて呆れてしまいます。そんな人間の煩悩の塊の両親から産まれた息子が尼子家の敷地内に足を踏み入れただけで虫酸が走ります」
「何だよ!何で母さんは昔っから奏や叔父さんと叔母さんをそんなに嫌うんだよ!!」
「子供の天人にはまだ分からない話です。私はあのように学力も無いくせに着飾った容姿だけで世の中を生きる椎名まひるが大嫌いなのです。今までは弟の為に仕方なく奏を尼子家へも呼んでいましたが。調度良かった。これでようやく貴方を尼子家から絶縁できます」
「母さ、」


バシィッ!!

「!?」
天人の母親は懐から取り出した御札を椎名の顔面に貼り付ける。
呆然とする天人。遠くから更に泣く由樹。しかし当の被害者椎名は、子供らしかぬ無表情で暗い瞳のまま。
「何すんだよ母さん!」
「出ていきなさい!貴方のような子供は聖域の流れを乱す邪気の塊です!金輪際尼子家とは関わりを絶ちなさい!ヒトの姿をした悪魔め!」
「ふざけんなよ母さん!…ハッ!奏!?」


ダッ!

天人が母親に掴みかかっている間に椎名は踵を返して墓地の間を駆けて行ってしまった。下を向き、両手が震える程強く握り締めて。
「奏!かな!!」
「おやめなさい!」
椎名を追い掛けようとする天人の小さい体を抱き締めるように掴んで引き留める母親。しかし天人は目をつり上げて反抗する。
「ふざけんなよ!離せよ!悪魔は母さんの方だろ!」


パァン!

「っ…、痛ってー!!」
母親に打たれた右頬を押さえて暴れる天人。遠くから隠れて見ていた由樹もびっくりして更に更に泣き出すし、ビクビクが増す。


















「痛ってー!何す、」


ぎゅっ…!

母親は天人を抱き締める。そして、まだ10歳ながらにして真っ白な我が子のおかっぱ頭の髪を優しく撫でる。
「天人。貴方の髪をこんな風にした発端は誰ですか。貴方に呪いがかかる原因を作ったのは誰ですか」
「それはあの神社の神だよ!かなのせいじゃねぇ!」
「けれど3年前のあの夏の日。御子柴神社へ行きたいと貴方を奏が誘わなければ貴方はこんな事には…呪いをかけられる事にはならなかったのですよ」
「…っ!」


バッ!

「天人!待ちなさい!」
母親の腕を引き剥がすと、天人は境内の縁側を飛び越えて中へ戻っていく。
「あ、天人お兄ちゃんっ…」
ビクビク震えて泣きながら声を掛ける由樹をも無視して、天人は由樹の脇を駆けて奥へ走り去っていってしまった。


























それから数時間後、
19:35―――

『大女優椎名まひるさんと映画監督椎名悠さんが殺害されたニュースですが…』
繁華街をフラフラ歩く椎名の耳には、家電量販店に展示されたいくつものテレビから聞こえてくる。あのニュースが。朝から同じあのニュースばかりが。自分の両親の名前を散々繰り返すあのニュース。


フラ、フラ…


トスン…、

真っ暗で汚ないゴミが投げ出された路地裏に腰を掛けるのは、歩き疲れてしまっただけではない。心身共に憔悴しきってもう、歩く気力が無いからだ。
「にゃあ〜」
「猫…」
椎名の足に擦り寄ってきた汚れた猫を撫でると、思い出が甦る。

『奏!猫を飼いましょう!奏この前欲しそうに見ていたものね!』
『わあ!お父さん、お母さんありがとう!』
『お父さんもお母さんも留守にする事が多いけど、この子といい子に待っているんだよ』
『はぁい!』

ジワッ…
暖かい家庭を思い出したら椎名の瞳に涙が浮かび、それはやがてポタポタと大粒の涙へと代わる。もう一生戻ってこない。あのような幸せな日々は。
「お父さんっ…、お母さんっ…」
そこで次に椎名の脳裏では昨晩両親と自分を襲ってきた犯人の姿が真っ黒い影になって甦る。
「っ…!」
犯人の素顔を思い出したら歯を強く食い縛る。
「やだね〜造り直しの儀って」
「神様の独断と偏見で穢らわしい人間が殺されちゃうんでしょ?」
「それだけじゃなくて、殺した人間の皮を剥ぎ取って神様の命令しか聞けないようにしたその下部で更にまた人間を殺させるんだって!」
「こわーい!じゃあ三穂子ももしかしたら本当は三穂子じゃなくて、三穂子の皮を被った泥人形かもしれないってこと!?」
「そうよ〜わたし本当は三穂子じゃないの〜!ガオーッ!」
「きゃ〜こわーい!あははは!」
街行く女子高生の緊張感の無い会話に、椎名は泣き腫らした目でギロリ睨む。すぐに体育座りをした膝に顔を埋める。
『奏。神様は居るのよ。造り直しの儀を施す悪い神様もいるけれど、良い神様もたぁくさんいるの。こうして毎日教会でお祈りを捧げれば、神様は奏に幸せを与えてくれる。守ってくれるわ』

「神様なんて…居ないじゃんっ…!」
母親とよく訪れていた教会の光景を思い出しながら、どんどん膝に顔を埋めていく。


ぐぅ〜…

腹の虫が鳴く。
「お腹…空いたよぅ…お父さん…お母さん…天人…」


ガツン!


ドサッ…、

突然背後から頭を殴られた椎名は直後気を失い、その場に倒れる。そんな椎名を、辺りを見回す挙動不審な男の大人達3人が麻袋に詰めると、路地裏の奥の暗闇へと消えていった。




























それから3年後――――

「お次は小人症の男性!」
「えへへへ、どうもどうも。120cmしかありませんがこう見えて今年48になります〜えへへへ」
京都の山奥。貧しい人間が集う村に一際列を作る程盛況の見世物小屋がある。
ふくよかで立派な髭を鼻の下に生やした中年男性(見世物小屋の団長)が、小人症の中年男性の尻を鞭で叩けば、小人症の中年男性が芸を披露。
「きゃはは!」
「何あいつ!」
「おもしろーい!」
「どうもどうも〜えへへへ」
観客からは馬鹿にした笑いと拍手が飛び交う。観客が満足しているのをにっこり見届けた店主は舞台裏へ戻る。
「おい。まぁだ洗濯物が終わらんのか」


ガッ!

舞台裏で団員達の洗濯物をしていたまだ11歳の椎名を容赦無く蹴り飛ばす団長。
椎名は3年前のあの晩。路地裏で見世物小屋の団員達に拉致され、それから今まで3年間ずっとこの見世物小屋で無理矢理働かされて見世物にされていたのだ。そして団長は、3年前椎名が両親を失った時に自分も負った両腕両脚の傷を晒させたままの姿で舞台へ蹴り出す。
「おら!次はお前の番だ小僧!さっさと出んかい!この前みたいな一言も喋らへんなんて馬鹿な真似するなよ!?客を満足させろ!」
舞台へ放り出された椎名に好奇の目を向ける観客からは期待が感じられる。舞台裏で見せていた悪魔のような顔付きから一変。団長は営業スマイルで舞台へ出ると椎名を観客に紹介する。
「続きましては、両親を目の前で殺害された自らも殺害されそうになった少年です!ご覧下さいこの生々しくエグい両腕両脚の傷痕を!鋭利なナイフで肉が抉られる程斬りつけられた痕です!」
常人ならば、可哀想!なんて酷い!…と心配するところだが、こんな場所に意気揚々と足を運ぶ人間達だ。椎名の惨たらしい傷痕に目をキラキラ輝かせ、鼻息を荒くして大興奮している。
「おお!何と生々しい刺傷の痕!」
「食用肉を捌く時の用に躊躇い無く刺された傷痕が何とも美しいわぁ!」
やんや!やんや!
歓声を上げる大人達を見つめる椎名の瞳は空虚で、生きているのに死んでいるようだった。





















その日の晩―――――


ホー、ホー…


ゴシゴシゴシ…

明けても暮れても団員達の洗濯物をしている椎名。
見世物小屋の外。真っ暗な山奥で1人、梟の鳴き声を聞きながら洗濯物をする椎名の前に1人の人影が。
「君はさっき其処の見世物小屋に出させられていた少年かな?」
「……」
ふっ…と顔を上げれば。そこにはシルクハットにスーツ姿でステッキ片手に西洋の人間のような身なりをした肥えた中年男性が1人立っていた。笑顔で差し伸べられるその手に首を傾げる椎名。
「怖がる事は無いよ。君はお父さんとお母さんが居ないんだよね?こんな、人間の醜さが露呈された場所に居ては可哀想だ。うちへ来なさい。贅沢はさせてあげられないが、幸せにはさせてあげられるよ」
「……?」
「ああ、申し遅れてしまったね。私はMARIAサーカス団団長。早矢仕剛だ。よろしくね」


































それから更に3年後―――

見世物小屋に出させられていたところをMARIAサーカス団団長・早矢仕剛に拾われた椎名。MARIAサーカス団はこじんまりとしていて全くの無名な小さな小さなサーカス団だ。だから裕福では無かったが、団長をはじめとする団員達は優しく、孤児となった椎名を家族として迎えてくれた。
14歳の椎名がナイフ投げの練習を1人でしていると。
「ダメやダメや。全っ然ダメや。もっとこう!投げなアカンやろ椎名」
横から現れたのはMARIAサーカス団員にして団長の1人娘ババロア。本名・早矢仕明当時16歳。
普段の派手なメイクやピンク色のウィッグは被っておらず、真っ黒い短髪で男のような外見のババロア。
「お姉ちゃん…」
「椎名!ナイフ投げになるにはなぁ。腕力も必要や!椎名ひょろっちぃモヤシやからなぁ。よっし!アタシといっちょ腕立て伏せでもやるか!」
「やだ。疲れる…」
「何や何や椎名ー!アンタそれでも男かーーっ!」
団長や団員達も優しいが、一番年が近くて姉貴分のババロアとはいつも一緒。仲良しになった椎名が、両親や天人以外に初めて笑顔を見せれる相手それがババロア。
「明ー!奏くーん!フレンチトーストが焼けたよー!お昼にしよう!」
「分かったでお父さんー!ほな椎名!ナイフ投げの練習の続きは後や!腹が減っては戦はできへんしなぁ。フレンチトースト♪フレンチトースト♪アタシの好物や♪」
「今日は…お姉ちゃんが焼いたフレンチトースト…じゃないの…?」
「今日はお父さんやで!」
「じゃあ…食べないっ…」
「何でや!このワガママ椎名っ!」
「痛ひっ!痛ひっ!」
椎名の顔をびょーんと引っ張るババロア。
「あはは!椎名は弟みたいでホンマ可愛いやっちゃなぁ!行くで!椎名!」
差し出された右手を幼い頃は何も考えずにすんなり繋げたけれど。最近は恥ずかしくて素直に繋げない。
「何や?フレンチトースト冷めない内に行くで椎名」


ぐいっ!

こうして今日も、ババロアから手を繋がれる椎名だった。


































「団長はどうして…僕を拾ってくれた…の…?」
今日も客がたったの2人しか来なかった公演終了後。テントの外、芝生に寝転がって星空を並んで見上げている椎名とババロア。
「前も話したやろ。お父さんはな。アタシと同い年くらいのちっちゃい子供が見世物小屋ゆう酷い場所で無理矢理働かされて見世物にされているのが可哀想やったんや。此処に居る団員はな、お父さんが各地の見世物小屋を転転と見て回って見付けた孤児達がほとんどなんや」
「へぇ…そうなんだ…」
「あ!お父さんは見世物小屋が好きで見に行ってたんとちゃうで!?見世物小屋で見世物にされてる子供を助ける為に見に行ってたんやで!?」
「ふふっ…、分かるよ…」
慌てて弁解するババロアに笑う椎名を、ババロアは「生意気や」と呟く。
「アタシな、いつかこのサーカス団を世界一有名なサーカス団にするのが夢なんや!」
ババロアは両手を広げて天を仰ぐ。
「無理だよ…」
「無理とは何や!」
「僕は…」
「何や!」
「お姉ちゃんと…ずっと一緒に居られるなら…サーカス団が…有名でも…無名でも…良いけど…ね…」
「向上心の無いやっちゃなぁ!」
椎名が遠回しに遠回しに頑張って告げたというのに、椎名の気持ちには全く気付かないババロアを椎名はクスクス笑う。そんなババロアだから、惹かれたのかもしれない。
ババロアは伸びをしながら立ち上がる。
「う〜んっ!そろそろ寝よかなぁ。今日は空中ブランコがうまくいったしなぁ」
「お客さん…2人だけ…だったけど…ね…」
「やかましわ!椎名、アンタも寝るで」
先を歩いて行くババロアの背を見つめながら、椎名は口を開く。
「お姉ちゃんは…」
「ん〜?」
「お姉ちゃんは…どうして…"椎名"…なの…?」
「ん??」
「だって…団長や…他のみんなは…"奏"って…呼ぶのに…。お姉ちゃんだけ…"椎名"なんだもん…」
「何でやろな〜?」
ケラケラ笑って誤魔化されるから、少しムッとする椎名。
「団長は…MARIAサーカス団は家族だって…言うのに…。僕だけ…椎名呼びされたら…お姉ちゃんに…」
「嫌われてる思ったんか?」
「えっ…」
「図星やろ!?あっはっは!アタシは椎名のこと大好きやから安心せぇ!」


カーッ!

一気に耳まで真っ赤になる椎名。椎名のババロアへ対する気持ちなど知りもしないし気付きもしないババロアは腰に手をあてて豪快に笑っている。
「椎名可愛いとこあるなぁ。お姉ちゃんに嫌われてる思っとったんか?」
「っ…、」
椎名の肩を笑いながらバシバシ叩くババロア。
「大丈夫や!アタシが椎名を苗字で呼ぶのはな。いつも一緒に居るアタシが椎名を名前呼びしていたら、中学校で椎名の事を気になっとる女の子が椎名に近付きにくくなるやろ?だからや!」
「僕…女の子も…男の子の友達すら…居ないんだけど…」
「まあまあいつかはできるさかい!そん時に、奏奏呼ぶやかましい姉貴が傍に居ったら、椎名を好きになった女の子が近付きにくくなるやろ?椎名にはアタシと違うおしとやかで女の子らしい女の子と幸せになってほしいんや〜。何でやろな〜。アタシ、血は繋がってへんけど椎名のお姉ちゃん目線でいっつも考えてまうんやろなぁ〜」
姉目線というよりも母親目線な気がした椎名だったがとやかく口を挟むのは止めて笑った。


















「ふふっ…。嫌われてないなら…良かった…」
「いらん心配すんな!」


コツン、

「〜〜!!」
額と額をくっつけてきたババロアに、椎名は火だるまになりそうな程熱く真っ赤になる。
「椎名の事大好きなお姉ちゃんやさかい。嫌われてるかも〜なんていらん心配これから一ッッ生すんな。な?世間は今、神の造り直しの儀っちゅー事件に怯えているようやろも。アタシが天国のお父さんとお母さんの代わりに、椎名の事ずっと守ってやるかんな!」
「…!」

『俺が叔父さんと叔父さんの代わりに、かなの事ずっと守ってやるからな!だって俺はずっとかなのヒーローだから!』

ババロアの言葉が天人の言葉と重なる。
「うんっ…!」
「あー!椎名今泣いたやろ!?」
「泣いてない…よ…」
「いーや!泣いたで!アタシ見たもん!やーい!泣き虫椎名〜!あははは!」
「お、お姉ちゃん…」
「何や。まだ何かあんのか」
「き、き、今日…一緒に寝ても…いい…?」
「ええで!ほなこの前みたいに子守唄歌ってやるさかい!」
「それはいらないっ」
「何でや!!」





























「奏!!」
「天人…!?」
本日の公演も観客5人という団員の数の方が多かった寂しさ。
公演終了後、テントを出た椎名とババロアの元へ、お洒落なコートを着た天人が目を見開いて駆けてきた。まさかの6年振りの再会に椎名も目を見開いて驚く。信じられない!といった様子で。
「奏!」
「あ…天人…?」
「友達がさ!近くに来てるサーカス団でお前の従弟に似た奴がナイフ投げしてたって教えてくれたから!母さん達に内緒で来たんだよ!そしたらお前だもんなぁ!良かった!マジで良かった、かな!!」
息が止まりそうな程奏を抱き締める天人。締め付けが強過ぎるから、奏は生気を吸いとられた枯れ木のようになっている。
「かなが行方不明になったって聞いて、ずっと、神の造り直しの儀にあったんじゃないかって心配してたんだぞ!」
「ごめん…ね…」
「由樹ちゃんも毎日毎日心配して俺に電話掛けてきてたんだからな!由樹ちゃんに"ありがとう"って言えよなっ!」
「うん…そう…だね…。今度…会えたら…かな…」
「今度ってお前…。お前はもう、」
「椎名。誰やコイツ?」
ババロアが天人を指差して椎名に聞く。
「僕の…従兄…」
「従兄!?」
「奏。こいつ、サーカス団の仲間?」
「うん…。そう…だよ…」
すると天人はババロアの手を取り、持ち前の明るい笑顔で礼を言う。勝手に天人から握ったババロアの両手をぶんぶん振りながら。
「あざっしたーー!!」
「はあ!?」
「奏を拾ってくれてありがとうございましたっ!!」
「い、いやな!?アタシが団長ちゃうで!?アタシのお父さんが拾ったんや!見世物小屋で働かされていた椎名をな!」
「見世物小屋!?おいぃいい!奏お前此処来る前そんな所で働かされていたのか!?かなーーっ!!辛かったな!辛かったよな!?ごめんなかなーーっ!!うわーーん!」
「何で…天人が…泣いてる…の…」
椎名を抱き締めて前後にガクンガクン揺らして泣き喚く天人に椎名は「やれやれ…」と呆れ状態。一方のババロアはポカーン…と見ていたがあはは!と楽しそうに笑う。
「何やアンタ!お笑い芸人みたいにリアクションでかいなぁ!面白いやっちゃ!」
「マジで!?いや〜褒められると照れるって〜。はっはっはっは!」
「褒めとらん」
「ガーン!」
「ぷっ!あはは、あはは!やっぱ面白いやっちゃ!」
「…!」
ババロアが頬を赤らめて心底楽しそうに笑う姿を初めて見た椎名は、心の一番深いトコロがズキッと痛む。天人とババロアが仲睦まじく談笑する光景を、服の上から左胸にぎゅっ…と爪を立てて見ていた。
――天人の事好きだけど…ちょっと…嫌いになった…かも…――



















それからすぐ、ババロアの父親でありMARIAサーカス団団長早矢仕剛が事故死。サーカス団員の食料調達の帰りに歩道を歩いていたところを、飲酒運転の車に轢かれたという何ともショッキングな事故だった。
「うっ、うぅ…団長…!」
「俺達が食料調達に行っていればこんな事には…!」
残された団員達の啜り泣く声の中にババロアの姿が無いから、椎名はテントの裏外へ出る。
「お姉…ちゃん…」
ババロアは毅然として、星空を眺めていた。
「心配かけてごめんなぁ椎名」
「え…」
「お父さん、なぁにコロッと逝っちまっとんのやなぁ。こーんなに大事な団員達抱えといて。飲酒運転の車くらいお父さんならバーン!って跳ね返せたやろ!」
「お、お姉ちゃ…、…!」
ババロアの目から大粒の涙がボロボロ流れるのを見てしまっ椎名。口では強がっていても、心が追い付かないババロアは肩をひくつかせて泣く。

「ご、ごめんなぁ椎名っ…。アンタの前ではっ…、お姉ちゃんやさかい平常心を保とうって…、ひっく、泣かないようにしようって…思っとったんやけど…うっ、ひっく…」
「お姉ちゃん…」
椎名はオロオロしながらも意を決して、ババロアの右手を握る。不思議そうに顔を上げるババロア。
「椎名?」
「僕は…車に轢かれても…死なないように…するから…。死んでも…死なないから…。お姉ちゃんが…僕のお父さんとお母さんの代わりになって…くれたみたいに…。僕が今度は…お姉ちゃんのお父さんの代わりになる…。から…」
「ぐすっ、へへっ。ありがとな椎名!アンタはアタシの傍に居てくれるっちゅー事やろ?」
「う、うんっ…」
「顔真っ赤にさせて可愛いなぁお前は!せやな!いつまでもうじうじしとったってお父さんが天国で泣くだけや!おーしっ!椎名!絶っっ対MARIAサーカス団を世界一有名にするで!お父さんに見せつけるんや!」
「うんっ…!」
ババロアは椎名の両手を握ってぶんぶん振るから、椎名も嬉しそうに笑う。
「あ。そうや」
パッ。ババロアは椎名の両手を放すと、くるりと椎名に背を向ける。
「天人にも報せへんとなぁお父さんが事故死した事」


ズキッ…、

椎名の笑顔がその一言で一瞬にして歪んだ。


























団長死後の晩――――

「これからどうすればええんやアタシは…」
団員達が寝静まってから。星空の下、外で踞ってまた涙を流しているババロア。
「椎名にはああ言うたけど…まだ16のアタシがサーカス団員を食わせていけるんやろか…?世界一のサーカス団になんて…できへんよ…」
「1人の力ではできないのなら。他人を頼れば良いですよ」
「!?誰や!?」
バッ!と顔を上げると。いつの間にかババロアの目の前には、シルクハットに青い髪の少年が1人立っていた。


ザッ、ザッ…

歩み寄る少年。後退りするババロアはまるで敵を威嚇する猫のように目をつり上げる。
「来るな!!」
ピタッ。ババロアの一言に立ち止まる青い髪の少年。
「何や…アンタは…!いつからそこに居った!?」
「はじめまして。僕はユタと申します。お父様が不運な形で他界してしまった貴女に力を貸せにやって来た悪魔です」
「悪魔やと!?」
人間造り直しの儀を行う神の存在なら知ってはいたが、まさか悪魔まで実在するとは思っていなかったババロアは目を見開き驚愕。
青い髪の少年ユタはババロア真横に立つ。
「僕の力を貴女に貸せればMARIAサーカス団はあっという間に世界一有名なサーカス団となるでしょう」
「だ、誰が悪魔の言う事なんて信用するか!!」
「では宜しいのですか。家族同然の大切な大切な団員達がこのまま路頭に迷い、餓死しても」
「っ…!」
「まだお若い貴女お1人では到底団員達を養っていけるようには見えないのですが」
「くっ…!」
プルプル震える拳を握り締めるババロアをチラッと、感情の無い瞳で見るユタ。
「しかし残念な事に魔界にも決まりがあります。悪魔の力を貸せる代償として、貴女がいずれ悪魔になる…つまり悪魔化する事を引き換えにしなければなりません」
「はっ…。でもそれだけで済むんやろ?アタシが悪魔になるだけで、あとのみんなは幸せに暮らせるようになるんやろ?」
「ええ。そうです」
ババロアは顔を上げる。迷いの無い強い眼差し。
「ならアタシに力を貸せ悪魔!代償なんていくらでも受けてやるで!MARIAサーカス団が世界一になってみんなが幸せに暮らせるんなら安いもんや!」
「クスッ…。何とも物分かりの良い方だ」

グワッ!!

ユタから放たれた真っ黒くて無数の靄の人形達がババロアごとテントを飲み込む。ほんの一瞬。すぐにいつもの景色に戻れば、ユタはにっこり笑う。
「な、何や?今の…!」
「Happy Birthday早矢仕明!貴女はいずれ悪魔となるでしょう!」
「こ、これでMARIAサーカス団は世界一になるんか!?おい!待て!悪魔!」


ヒュン!

姿を消したユタ。呆然としたまま1人残されたババロア。だが、ぎゅっ…と左胸を掴んだ。
「みんなには内緒にせなアカンな。しがない日本のサーカス団がある日突然世界一になるんやもんな。…死んでもアタシが悪魔から力を借りたなんて言わへん。ええんや…。これで本当にみんなが幸せになれるんならアタシ1人の命なんて安いもんや。…みんなと一緒に居れる時間が減ったのは寂しいけどなぁ…」
























「見てしまっていたのですね、少年」


ビクッ!

テントの陰からババロアと悪魔ユタの契約を隠れて見ていた椎名の背後に、突然ユタが現れる。椎名はガタガタ震えた真っ青な顔をしてユタを見るが、ユタは相変わらず無表情。
「貴方は見て、」
「お、お姉ちゃんが…!」
「…はい?」
「お姉ちゃんがっ…!受けた…代償…を…僕に…僕に!代えられない…の…!?」
椎名の突拍子も無い一言にユタはぽかん。しかしすぐ微笑する。
「…なるほど。明さんの事が大切なのですね貴方は。面白い!良いでしょう!では早矢仕明さんに与えた代償を貴方に移し代えます」
「ほ、本当に…!?僕が…代償を代われば…お姉ちゃんは…悪魔にならなくて…済むの…!?」
「ええ。勿論。その代わり貴方が代償を引き受け、いずれ悪魔化して頂きますが」
椎名は首を横にぶんぶん振る。
「平気…!平気!お姉ちゃんが…幸せに…人間のまま暮らせるなら…平気…!」
「ふふ。血は繋がっていないというのに素晴らしい姉弟愛ですね。それでは…」


グワッ!

先程同様の黒い無数の靄の人形達が椎名を一瞬包み込んだ。
「Happy Birthday!椎名奏!貴方は早矢仕明の代わりに代償を引き受けた!貴方はいずれ悪魔となるでしょう!」


ヒュン!

姿を消したユタ。
「う…あ"…!」


ガクン!

右目を押さえて屈み込む椎名。足元にある小さな水溜まりに映った自分の右目の白目が黒く、黒目が赤くなっていて驚く。
「ひっ…!」
思わず尻餅を着き、カタカタ小刻みに震える。そっ…と右目に触れた。
「でも…これで…お姉ちゃんが…長生きできるなら…」






























「明ーっ!」
「ぎゃー!今着替え中や!引っ込んでろ天人!!」


ドガッ!

「げふっ!?」
テントにやって来た天人を蹴って追い出すババロア。蹴られて、テントの外で引っくり返った蛙のように倒れている天人を呆れて見ている椎名。
「…大丈夫?」
「平気平気〜!はっはっはっは☆」
ガバッ!と起き上がり、いつもの飄々とした笑顔で腰に手を充てて笑う天人。
団長死後、ババロアが団長となった。MARIAサーカス団は日本のみならず海外でも人気を博し、一気に世界一のサーカス団となった。何故?と不思議がるのは観客よりも団員達の方だったそうな。椎名以外誰も知らない。ババロアが悪魔の力を借りてサーカス団を世界一有名にした事など。
誰も知らない。ババロアの代償を椎名がこっそり引き受けた事を…。
一方で。団長死後、心配して今まで以上に頻繁にサーカスの公演を観に来るようになった天人。母親にはバレないようこっそりと。父親が亡くなったババロアを気にかけて。両親を殺害された椎名を気にかけて。天人は2人に少しでも元気になってもらいたいから、持ち前の明るさで2人を笑わせて元気付ける為に頻繁に公演を観に来るようになっていた。
しかし、椎名は気付いていた。天人が頻繁に公演を観に来るようになった事にはもう一つ理由があると。それに、天人が頻繁に来るようになってから今まで化粧気の無かったババロアがお洒落に気を遣うようになった事…。
「でさぁ!そいつがこの前釣りしたらチョー大物がかかったわけよ!でもそいつ慌て過ぎて海にダイブ!逆にそいつが魚に釣られたみたいな!?」
「あははは!おっかしいやっちゃなぁ!」
「だろだろ!?明も見てたら爆笑したぜきっと!」
談笑する2人はとても楽しそうだし、互いに笑顔を浮かべた頬が薄ら赤い。
「おーい!奏もそんな所に居ないでこっち来いよー!天人クンの釣り名人トーク聞かせてやるからさ☆」
「うん…」
乗り気じゃないが、2人の元へ歩み寄る椎名。

『死ね死ね!目障りなお前達家族は全員死ね!!』


ザワッ…!!

「奏?」
その時。天人を瞳に映した椎名の脳裏で6年前両親を殺害され自分も殺害されそうになった悪夢が蘇り、悪寒が走る。
「どないした椎名?顔真っ青やで」
「うん…うん…。何でも…ない…よ…」
「そういや奏。ずっと眼帯付けてるけど。どした?」
「!」
天人が心配そうに眼帯に触れる。


バシッ!

「奏?」
椎名が天人の手を振り払えば、キョトンとする2人。
「ど、どないしたんや椎名さっきから?」
「あ…えっ…と…」
「ははーん☆分かったぞ!お前物貰いでお岩さんになってるから恥ずかしいんだろ!?だから眼帯で隠してるんだろ!?しゃーないなぁ!奏のヒーローの天人クンが治してやるよ!痛いの痛いの飛んでけー!ほら!治っただろ!?」
「全然…。寧ろ悪化…」
「おいっ!!」
「あはは!アンタらやっぱり良い従兄弟やわ!」




























その日の晩――――

「お姉ちゃ…団長…」
「お姉ちゃんのままでもええんやで?」
「…絶対呼ばないっ…」
ニヤニヤしてからかうババロアに、ブスッと頬を膨らませて不貞腐れる椎名。
ババロアと椎名は公演後。小高い丘の柵に身を乗り出して街の夜景を見下ろす。
「綺麗やなぁ…」
「……」
「世間は神の造り直しの儀っちゅーモンに怯えているようやけど。神様に会った事もあらへんから実感沸かんなぁ」
「……」
「お姉…、団長…僕…対神機関のヴァンヘイレンに…入学しようと思う…」
「ヴァンヘイレンにか!?」



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