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GOD GAME
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ドサ!ドサッ!

「ふぅ…」
燃え盛る大テント内。そのステージ中央には、何と背中に大きな穴を開けられたベルベットローゼと御子柴がうつ伏せで倒れている。先程ヒビキとアーノルドから食らった攻撃の直後息を吹き替えした2人も、今度こそ息絶えたようだ。ピクリとも動かない。そんな2人を冷たい目で見下ろしながら椎名は2人の頭を…


グシャッ!

躊躇い無く踏みつける。


グシャッ!グシャッ!

気が済むまで踏みつけると、そこで倒れているヒビキとアーノルドの頸動脈に触れる。


しん…

「死んでる…」
まさかの出来事。対神組織ヴァンヘイレンの最高学年所謂ヴァンヘイレンの中で教師の次に力を持つ8年生の呆気ない死に普通ならば顔を真っ青にして放心状態となるはず。しかし、相変わらず椎名は無表情で、2人の頸動脈から手を離すとテントを見上げる。
ゴオオッ!と音を上げて燃え盛る炎や、その炎に焼きつくされ続々と倒れていく鉄柱。


ズルッ、ズルッ…

椎名は息絶えた8年生2人を引き摺りながら大テントを出た。






















テントの外へヒビキとアーノルドを引き摺り出したまま、息絶えた2人をただ無表情に見下ろす椎名。
「おい!奏!はぁ、はぁ」
「椎名ー!」
「……」
暗闇の背後から息を上げてこちらへ駆けてきたのは、ババロアをおぶった天人。

『良かったらさ。付き合ってくんねぇかな?天人くんに身を託せば、明の将来チョー安泰だぜ!』
『あははっ!アンタん家が寺だろうとそうじゃなかろうとっ。アンタみたいな明るい奴が一緒なら将来安泰やな!』

2人のその仲睦まじい姿を見た瞬間、椎名の脳裏を今朝の光景が過り、眉間に皺を寄せた。
「はぁ、はぁ、奏お前ッ!心ッッ配させんなバカちん!!」
「せやで椎名!神が襲撃してきたっちゅーのに、どないしてわざわざ自分から燃え盛る大テントへ行ったんや!」
「僕は…神殺し機関…ヴァンヘイレンの…人間だから…」
「そりゃよーく分かる!分かってる!けどな!」
ガシッ!と椎名の右肩を掴む困った表情の天人の左手を椎名はパッ!と払い、外方を向く。だから天人とババロアは首を傾げる。しかし天人は大して気にもせず、椎名の右肩を相変わらずバシバシ豪快に叩く。
「神が1体じゃないの分かってたんだろ?なら、いくらヴァンヘイレンのエースのお前でも無理なのは充分分かるだろが!お前にもしもの事があったら明が悲しむ。勿論俺だって!俺はもう奏に悲しい思いをしてほしくねーんだよ。かな、」
「悲しい思い…させてるじゃん…」
「は!?マジで?あ!分ーった!奏お前1人で神に挑んだから怪我したんだろ!?そうだろ!?カ!天人クンが出遅れたせいだなー!悪いっ!」
パンッ!と自分の顔の前で手を叩き、謝る天人を微笑ましそうに後ろから見つめるババロア。天人は椎名の腕や脚を見回す。
「んー?見たところ怪我したように見えねーけど…。あ!中か!ふんふふーん♪かなは昔っから怪我しただけでビービー泣いてたからなぁ。本ッ当にかなはヒーローの天人クンが居ないとダメなお子ちゃまでちゅね〜」


パァン!

「!?」
椎名の腕に触れようとした天人の右手を左手で強く払った椎名。その音に天人とババロアがギョッとして椎名を見れば、眉間に皺を寄せて天人を睨み付けていた。ババロアは怯んでしまうが、天人はいつものヘラヘラした調子のままからかう。
「何だよ奏〜。今更反抗期かぁ?今それどころじゃないだろっ!反抗期なら後で聞いてやるか、」
「天人は僕の欲しいモノを全部奪っていく!!」
「奏…?」
いつもボソボソと小さな声でしか喋らない椎名が声を張り上げて(とは言っても常人の小声並みの声量)口調が荒かったから、ヘラヘラしていた天人の顔もキュッと引き締まり、真剣になる。

















握りしめた拳をぷるぷる震わせる椎名。いつも感情表現の乏しい椎名がババロアの前で初めて怒りを感情を露にした。だからババロアは酷く心配そうに目尻を下げつつ、椎名の怒りに怯んでもいる。
「し、椎名…どないしたんや?アンタらしくないやんか…」
「…奏。俺に怒ってんのか」
「……」
への字にした口。上唇で下唇をキュッと噛み締める椎名。
「なら関係無い明の前で怒んな。明を心配させるだろ」
「そうやって…いつもいつも…かっこつけて…。…天人の金魚の糞だった僕が…ヴァンヘイレンのエースになって…悔しいから…。1人で神に挑むなって…言ったんでしょ…」
「はあ?お前何言ってんだよ。どんだけネガティブ!?はぁ…。あのなぁ。俺がさっき奏に1人で挑むなっつったのは、奏が大切な従弟だからだよ。ヴァンヘイレンのエースで1人で大量の神を殺した功績を奏にとられたくなくてさっきああ言ったわけないだろがバカちん!従弟を心配しただけでキレられたらヒーローの天人クン泣いちゃうぞ?」
「天人はいっつもそうだよ!いつも余裕ぶっていつも兄目線でいつも僕を見下して!僕の欲しいモノをいっつも奪う天人は、僕の心配なんて本当はしてないくせに!!」
「おい、奏何ヒス起こして…つーか、ちょ!?奏の足元に居るのヴァンヘイレンの奴ら!?死んでね!?奏おい、」
「天人なんてもう僕のヒーローなんかじゃない!天人なんてあのまま呪われ死んじゃえば良かったのに…天人が死んじゃっていれば僕は今悲しい思いをしなくて済んだのに!」
「……」
「ちょ…!椎名!」


ガシッ!

天人を差し置いて、ババロアは椎名の両肩を強く掴む。



















「椎名アンタほんまにさっきから何ヒス起こしとんのや!?アンタと天人に何があったかなんてアタシは何も分からへん。けどな!天人が死ねば良かったなんて何で言えるんや!?」
「……。団長分かってないよ…。天人なんて…僕の気持ち知ってて…団長に…」
「!」
その一言に天人は目を見開く。だがババロアは首を傾げて何がなんだかさっぱり分からない様子だ。
「…?椎名の気持ち?アタシ?何や?何が言いたいんや椎名?」
「明」
ババロアの右肩に触れつつババロアを椎名から離すと天人は2人の間に立ち、椎名に対し優しくしかしどこか申し訳なさそうな罪悪感に満ちた表情を浮かべた。
「ごめん。奏が明の事そう思ってたなんて俺…。マジで気付いてなかったんだ」
「……」
「アタシ?何や2人共?何が言いたいんや?アタシばっかり仲間外れにすんな!」
「本当だよ奏。奏には俺がかっこつけでお前にライバル心を抱いている悪い奴に映っているのかもしれない。そう思っているんならそれで良いや。俺、よくヘラヘラしてて本心が分からない腹黒い奴とか言われてたしな」
「……」
「…でもな。奏の事大事に思ってるつもりだぜ。俺が叔父さんと伯母さんの代わりになれたらって思っているし。本当はヴァンヘイレンなんて危険な組織に入ってほしくないし。でも奏が俺を嫌うって事は、俺からの奏への愛情が足りないんだろうな」
「……」
「奏、悲しい思いさせてごめんな」
直立不動のまま頭を深々下げて謝る天人。ババロアは目をぱちくり。椎名は外方向いたままだった。





















深々謝罪する天人。外方を向いたままの椎名。
2人を交互に見ながら何がなんだか未だに分からないババロア。すると、天人はようやく顔を上げ、そこで伏しているヒビキとアーノルドの前に屈む。
「息…してねーな」
「ひっ…!」
ババロアは思わず口を手で覆い、青ざめる。
「ヴァンヘイレンの制服か。奏。仲間なんだろ?」
「……」
「俺はこの銀髪の兄ちゃん担ぐから、奏は赤髪の兄ちゃん担げよ」
「……」
黙ったまま。そして相変わらずツンとしたままだが、天人に言われた通りアーノルドを担ぐ椎名。
「っ…、」
黙ったまま遺体を担いで歩き出す2人に、ババロアはまだ顔を真っ青にしたまま硬直。初めて間近で見る人間の遺体に、体が動かないのだ。
「明。行くぞ」
そんなババロアの右手をヒビキを担ぎながら繋いでやり、歩かせる天人。


ドォンッ!!

「…!」
すると、背後で燃え盛っていた大テントから一際大きな…まるで爆弾が投下されたような爆発音がした。3人は振り替える。そこには今までの炎が、テント内のボンベに引火した事により大爆発を起こし、テントの面影すら無くなりゴオゴオと燃え盛る元テントがあった。
「アタシ達のテントが…!あぁ…」
「明」
ババロアの目を右手で覆ってやる天人。
「中に居た神はぶっ倒したんだろ?」
コクッ…、
頷くだけの椎名。
「なら今の大爆発は、炎がボンベか何かに引火した事による爆発だろうな。…奏。ヴァンヘイレンの仲間も此処に来てるんだよな。一先ずそこへ合流しようぜ。まだどっかに神が潜んでいるかもしれ、な"っ、」


ドサァアッ!

「…!?」
「なっ…?天、人…?」
話しの途中で、ヒビキを担いだまま前へ滑り込むように倒れた天人。たった1秒前まで普通に話していたのに本当に突然倒れたものだから、椎名とババロアは目を丸めて、そこで倒れている天人を見る事しかできずにいる。
脳がまだ、理解できていない。よく見なくとも天人が何故突然倒れたかその理由は一目で分かるのに。天人の背中には禍々しい黒い光を纏う御札が貼り付けられており、貼り付けられた箇所から赤黒い血がドクドク流れているというのに。
「天、人…?」
「久々に利いた攻撃だったぜぇ人間!?」
「!!」
声と同時に椎名の眼前に現れたベルベットローゼ。椎名が背中に担いでいる槍を取り出すよりも早く…
「オラよォ!!」


ドガン!!

「があ"っ!!」
「椎名!!」
たった一蹴りしかし、まるで鉄柱で背中を突かれたかのようなそれ程までの強大な力で蹴られた椎名は派手に吹き飛んでしまった。





















「し、しい…な…?あま…と…?」
「あぁん?」


ガタガタガタガタ…

顔は真っ青で脚がガクガク震え、しまいには脚がすくんでぺたり…座り込んでしまったババロア。ベルベットローゼは腹を抱えてババロアを笑う。
「ギャハハハハ!こりゃあ傑作だぜ人間!いくら俺達カミサマ相手だからって、脚がすくんで座り込んじまう程恐れおののいているのかよ!?ギャハハハハ!アドラメレクにも見せてやりたいぜ!なぁ?御子柴!」


ストン、

ベルベットローゼの隣に突如現れた御子柴は古臭い藁半紙に書かれたメモを読み上げながら、ババロアの前に立つ。
「MARIAサーカス団団長ババロア…いえ…本名・早矢仕明18歳。と…そこで伏している白髪の人間尼子天人18歳。不浄な恋愛関係にある為…造り直しの儀対象…。フフフ…こんなブスとブサイクが恋愛関係だなんて…本当、鳥肌が立つくらい穢らわしくて不浄ね…フフフ…」
御子柴は天人の前髪をガッ!と掴み、顔を上げさせる。気を失った天人の顔をまじまじと…まるで舐め回すように見て、いつものあの不気味な笑いを浮かべる。
「フフフ…本当にブサイク…。まだ若いのに…こぉんなに白髪で…。…んん?」
「おい。どうしたんだよ御子柴」
天人の顔をまじまじと見ながら、突然眉間に皺を寄せ出した御子柴。ベルベットローゼは首を傾げる。
「この顔…この白髪…昔…何処かで見たような気がするわねェ…?」
「ンな人間のガキに興味持つなんざお前らしくねぇなぁ御子柴。お前もそんなお年頃か?ギャハハハハ!」
「失礼しちゃうわねェ!!誰がこんな穢らわしい人間なんかに!ワタシはアドラメレクお嬢一筋よぉ!お嬢は誰にも渡さないわ!!」
カッ!と目を見開き力説する御子柴に、ベルベットローゼは自分の耳に指を突っ込みながら「はいはい」と面倒くさそうに流す。
「大体こんなまだ乳臭い人間の子供なんか、ギィヤア!?」
「あー?何、殺されそうな声出してんだよ御子し、!?」
ベルベットローゼの瞳に映った光景は、青白い光を纏う無数の長い数珠で体を縛られ、首を締められた烏のような声を上げて苦しみもがく御子柴が。
「ギェエエッ!ギィエエエ!」
「お、おい御子柴!一体どうしちまったって…、…!」
御子柴を縛り付ける数珠の先をベルベットローゼの目が辿っていけば、数珠はそこで伏している天人の左手から繋がって伸びていた。
「てめぇかよ…死に損ないの人間が!」
ベルベットローゼは天人目掛けて、自慢のキック力を持つ右脚を振り上げる。
「人間風情が神に抗うんじゃねぇ!おとなしく造り直しの儀を受けやがれガキ!」


ガシャン!!

「ガシャン…だと?」
振り落としたはずの脚。しかし、天人に振り落としたにしては金属的なガシャンという音がして、ベルベットローゼはゆっくり視線を落としていく。すると、ベルベットローゼの脚の下には槍で脚を受け止めた椎名の姿があった。
「てんめぇ…!」
「蹴りしか…技が無いの…?神も案外…単調で…単細胞なんだね…。これなら…勝てそう…」
ニヤリ。
椎名は隈の酷い目で、ベルベットローゼを挑発させながら笑った。


ブチンッ!

その椎名の言動に、ベルベットローゼの中で何かが切れる音がした。
「調子乗ってんじゃねぇぞ死に損ないの眼帯がぁああ!!」
青筋をたて血眼になったベルベットローゼの右脚が今度は椎名へ振り落とされる。


ドガァン!!























しかし、脚の下には椎名の姿が無く。ベルベットローゼは舌打ちをしながら辺りを見回す。
「チィッ!何処行きやがったちょこまかと、ぐあぁっ!」


ドスッ!!

頭上からベルベットローゼの頭部に飛び蹴りを食らわせ、よろめいた隙にベルベットローゼの背中に槍を突き刺す。それも容赦無くぐりぐりと抉りながら。
「ぐあぁああぁ!ヤメロヤメロヤメロ人間がぁあ!」
「ふぅ…」


ブンッ!

「ギャア!!」
槍にベルベットローゼを串刺したまま槍ごと後ろへ大きく降れば、辺りの森林の中へ派手に吹き飛ばされていったベルベットローゼ。そんな彼女を、額に手を翳して「よく飛んだ…ね…」と、瞳孔の開ききった目をしてにっこり笑む椎名。


バシィッ!!

「……」
「アハハハハ!余所見しているからよ人間ンンン!」
すると椎名の体に、輪になり黒い邪悪な光を纏った御札がまるで鎖のように縛りつき、椎名の身動きをとれなくしてきた。


ギシ、ギシッ

御札の鎖をほどこうと椎名が身を捻らせるが、御札は微動だせず。そんな椎名を見て御子柴は目玉を剥き出して笑う。
「フフフ!アハハハハ!手も足も出ないようねェ人間!?どんなに対神武器でワタシ達を殺そうったって無謀なのよォ!ヒヒヒヒ、アハハハハ!」
「仏説摩訶般若羅蜜多心経」
「何ッ!?読経!?」
何処からともなく聞こえ出した御経と共に、椎名を縛り付けていた御札がバリバリッ!と次々真っ二つに裂けていき、やがて全ての御札が裂け、黒い禍々しい光も消えて椎名は自由の身となる。
「そんな…まさか…!?ワタシの呪縛が解かれるなんてそんな…ハッ!」


ゴオッ!

殺気を感じた御子柴が咄嗟に背後を振り向いた。同時に、襲い掛かってきた龍の形をした青白い光を見事に跳んで回避した御子柴。
「っ…!」


ドクン!ドクン!ドクン!

回避したものの、御子柴の鼓動がこれ以上無い程大きな音をたてて跳ね上がる。それ程までに己の生命の危機を感じたのだろう。
自分を攻撃し、自分の呪縛をも解いた者が居る背後を振り向き、キッ!と睨み付ける。眉間に幾重もの皺を寄せて。そこには、右手にエメラルドグリーンの色をして無数の長い連なった数珠を左手に掛けて構え、余裕の笑みを浮かべて御子柴を見る天人の姿がある。
「人間風情がァアア!」





















一方。天人の数珠が纏う青白い光を初めて見たババロア。そして、二度目に見る椎名も目を点にして口も開いたまま呆然。
「天人…それ…」
「俺だってこのくらいできるんだぜ!ま、奏には及ばねーけどなっ!」
「思い出した…思い出した…思い出したわ…」


カツカツカツカツ!

黄色い靴を鳴らして天人の目の前。互いの睫毛と睫毛が触れ合いそうな程顔を近付け、人差し指の爪を天人の腹に突き付け、天人を見上げる御子柴。目玉を剥き出して。
しかし全く動揺しない天人とは対称的に、椎名とババロアは心配して駆け寄ろうとする。
「そうはさせねぇんだよ!!」
「!!」


ドガァン!!

「椎名ァ!!」
椎名の背後に突如現れたベルベットローゼ。椎名が振り向く瞬間、椎名の右頬をベルベットローゼの脚がヒット。椎名は地面が抉れる程弾き飛ばされる。


ガシッ!

「う"あ!!」
「つーかまえたぜ?」
一方、ババロアはベルベットローゼに首を右腕で固められた体勢で捕まえられた。
「明!」
「呪縛!!」


バシィッ!!

「くっ…!」
ババロアのピンチに一瞬気を乱した天人は先程椎名が受けた攻撃と同じく体に御札を鎖のように縛りつけられる。もがくが、身動きの取れない天人を歯茎が見えるくらいケタケタ笑う御子柴の姿はまるで呪いの日本人形のよう。





















「思い出した思い出した思い出したァア!」
天人に顔を近付けたまま御子柴は狂者の如く目を見開き、笑う。
「人間…アナタ達は10年前ワタシの神社にやって来た京都の童!!ワタシの神聖な地へ踏み入れた罰として造り直しの儀を施してやろうと思った時も!さっき同様の読経でこのワタシから逃げたわ!嗚呼!思い出しただけで虫酸が走る忌々しい読経!!…でも…」
御子柴は、身動きの取れない天人の真っ白い髪を指に挟めてパラパラと触れる。
「この髪色は人間。アナタにワタシの呪いが続いている証拠よ…」
「……」
「フフフ…アハハハハ!」
「ぐっ…、天、人から…手ぇ放せっ…ドアホ神…!」
「黙ってろよ人間が!」


ギチッ!

「あぁあああ!」
「明!」
ベルベットローゼに首を締められ、悲鳴を上げるババロア。駆け寄りたくて仕方ないが、なにぶん先程より強力になった御子柴の呪縛を解けず身動きの取れない天人。一方のババロアは気を失いカクン…、と項垂れる。
「明ァア!!」
「バーカ。死んじゃいねぇよ。この女とてめぇはシイナを誘き寄せる為の餌だからな。なぁ?シイナ」


ザッ…、

ベルベットローゼが笑いながら後ろを振り向けば。暗い森の中からユラリ…姿を現した椎名。しかし、何やら先程と雰囲気が違う様子。椎名の周りを、御子柴の御札とはまた違った黒く…無数の人間の腕の形をした靄が纏っているのだ。
「奏…?」
「ベルベットローゼ…やっぱりシイナは…お嬢が予想した通りだった…ようね…ククク…!」
「ああ。その証拠があの右目だぜ御子柴」
先程まで付けていたはずの右目の眼帯を外した椎名の露になった右目。左目の藤色の人間らしい瞳とは全く異なり、本来白目の部分が真っ黒くて本来黒目の部分が真っ赤に染まった不気味な瞳をしてベルベットローゼと御子柴を静かに睨み付けていた。
その瞳を見た瞬間御子柴は震え上がる。
「ヒィイイ!あああ、あれはぁああ…っ!悪魔の瞳じゃないのよベルベットローゼぇ!!」
「狼狽えてんじゃねぇ!本体は人間だ。…くるぜ」
「!」


グワアッ!!

椎名の周りを纏っている黒い無数の腕の靄がベルベットローゼと御子柴に襲い掛かる。
「ヒィイイ!!」
「くっ!」


ドガァン!!ドガン!

完璧に物怖じして頭を抱えて座り込む御子柴の前に立ったベルベットローゼは目にも止まらぬ速さで無数の腕の攻撃を蹴りつけ、地面に叩き付けていく。
「ヒィイイ!」
「おい御子柴ぁ!人間ごときに狼狽えてんじゃねぇっつっただろ!」
「だだだだって!!人間じゃないわよォ!?悪魔の瞳だし悪魔の力を使っているじゃないシイナは!!」
「まあな。けど…」
正面を向くと。すぐそこ眼前にいつの間にか椎名が迫っており、不気味な悪魔の赤い左目を光らせ、禍々しい黒い靄に包まれた槍をベルベットローゼ目掛け振り上げる。
「ベルベットローゼ!何ボサッとしているのよ!?避けなさいよォオ!」


ガシャン!!

























「あ…あぁ…嘘…何で…」


バラバラッ…、

ベルベットローゼによるたったの一蹴りで槍を粉々にされてしまった椎名。同時に、椎名の周りを纏っていた黒い腕の靄が消える。
「オラよ!」


ドガッ!

放心状態の椎名の顔面にベルベットローゼの蹴りが入れば、椎名は吹き飛ばされる。起き上がろうとしたところをまたベルベットローゼは、椎名の頭をガン!ガン!何度も何度も蹴り、その蹴りの威力によって椎名の頭が蹴られる度に地面に埋まっていく程。
「ヒャハハハハ!どっこまで埋まるかなァ?ヒャハハハハ!」
「やめろぉおおお!!」
「あー?」
相変わらず身動きが取れない天人が目を見開き声を上げる。ベルベットローゼは蹴るのをやめ、天人の方に顔だけを向ける。
「シイナはてめぇの従弟っつったか?ンな鬼みたいな顔すんなよ。返してやるって。可愛い可愛い従弟をてめぇにな!オラよ!」


ゲシッ!

椎名を天人の所まで蹴り飛ばしたベルベットローゼ。
「奏!奏!!おい!返事しろよ奏!!」
しかし、頭から赤い血をドクドク流して顔は地面に伏したままピクリともしない椎名。


サァッ…!

天人の全身の血の気が引いていく。
「ヒャハハハハ!最っ高だぜ人間てめぇのその面!あー良かった。てめぇに造り直しの儀を施す前にその死にたいくらい辛そうな面を見れてよ!」
「ベルベットローゼ…!?シイナの血は赤いわよ!?でもシイナは悪魔の力を持っているってお嬢が言っていたじゃない…!?一体どういう事よ!?」
「一度に聞くなよ御子柴。この人間シイナはどうやら右目にだけ悪魔の力を宿している。いんや、借りてるっつった方が的確か?」
「借りてる…?」
御子柴の声と天人の声が重なるから、ベルベットローゼは「ぶっ!」と吹き出して笑いながら天人を指差す。
「ヒャハハハ!何だよシイナの従兄!てめぇ従兄のクセにシイナの事オレらより分からねぇんだな!?」
「っ…!」
















「理由は分からねぇが、シイナは何かを得る為に悪魔の力を借りた。この右目はその時悪魔から力を借りる代わりに受けた代償つまり呪いのようなもんだわな。悪魔はタダじゃ力を貸さねぇ種族だ。力を貸す代わりに、悪魔も得をしたい。だから貸した相手が将来悪魔になる呪いをかけたわけだ。シイナにな」
「!?」
「今シイナは呪いの悪魔の力をオレらカミサマ殺しの力として使っているようだなぁ。そりゃあ人間離れした力が使えりゃヴァンヘイレンのエースにもなるわなぁ!今は良くても、シイナが受けた呪いは右目だけじゃなくいずれ頭を、首を、腕を、上半身を、足を…全身を支配してシイナは悪魔になる!それ程までして悪魔の力を借りたかったアホってぇ事だシイナは!ヒャハハハハ!」
「そん…な…、奏…どうしてだよ…!」
「何でや…」
「…!明!?」
すると意識が戻ったババロアが、ベルベットローゼに首を腕で固められたまま真っ青な顔をしてカタカタ震えながら椎名を見ていた。
「明!意識が戻って、」
「何でや椎名…!悪魔の力を借りたアタシが悪魔からの代償…呪いを受けたはずや!なのに、どないして椎名が呪いを受けとんのや…!!」
「!?」
「お?おー?これはまったまたぁ。面白い事になってきたんじゃねぇの人間?ヒャハハハ!」
「明…何だよそれ…何だよ呪いとか悪魔の力って…おい…!!」
カタカタ歯を震わせながらババロアは、そこでピクリとも動かない椎名を見つめたまま震える唇で口を開く。
「MARIAサーカスを…アタシのサーカス団を大きくしたかったんや…」
「サーカス団を…」
「天人なら知ってるやろ…ウチのサーカス団は売れない…客足も遠退いたしがないサーカス団や、って…。お父が死んでから…残された団員や…椎名を飢え死にさせたくなかったんや…みんなを…団員を守りたかったんや…。せやから…せやからっ…!そんな時アタシの前に現れた悪魔の囁きに乗ってしまったんや…!」

『サーカス団を有名にしたいのですか?それでは僕が力を貸してあげましょう明さん』

「明お前…!」
ポロポロ涙を流し、ババロアは首を横に振る。
「悪魔の力を借りたのはアタシや!悪魔の力を借りたお陰でMARIAサーカス団が世界一のサーカス団になった事も!その代償にアタシが悪魔から呪いを受けた事も!知っているのはアタシだけの筈やった!アタシが全部被る筈やった!なのに…なのにどないして椎名がアタシの代わりに悪魔の呪いを受けとるんや!!」
「明…」
大粒の涙を溢れさせたババロアの泣き声しか聞こえない。


パチパチ…パチパチ…

「!?」
「いやぁ。良い話じゃねぇか。なぁ?御子柴」
「ええ。そうねェ、ベルベットローゼ。うっ、うぅっ〜」
拍手をしながら涙を手で拭うベルベットローゼと、涙を白い木綿のハンカチーフで拭う御子柴。
「あれだ。あれだぜ人間の嬢ちゃん。シイナは嬢ちゃんの事が好きだから、何で嬢ちゃんが悪魔と契約したかは分からねぇけど、嬢ちゃんに内緒で嬢ちゃんが受けるはずだった悪魔からの呪いを代わりに受けたんだろ?」
「そん…なっ…椎名…が…?アタシの代わりに…?」
「そうねぇ、そうねぇ。きっとそうよォ。うぅっ、うぅっ」
「シイナも嬢ちゃんに恋愛感情を抱いていたってわけかぁ。…アドラメレクが嫌う不浄な感情をなァ?」
「!!」
嘘の涙も枯れたベルベットローゼが見せた黒い笑みに天人とババロアの血の気が一瞬にして引いた。


ビシッ!

ベルベットローゼは白い歯を覗かせて、そこでピクリともしない椎名を指差す。
「シイナァ!めでてぇなァ!てめぇも晴れて今!この瞬間!嬢ちゃんに対する不浄な感情を抱いている事が発覚した暁に!造り直しの儀の対象者となったァ!」
「てめっ…、ふざけんな神!!奏にこれ以上触れんじゃねぇ!!」
「じゃあ触れさせないように自分で何とかしなさいよ人間?」


バシィッ!!

「う"あ"あ"あ"あ"!!」
「天人!キャアア!!」
御札の締め付けがより一層増して苦しむ天人。ベルベットローゼに更に首を締められるババロア。



















2人の悲鳴が飛び交う中、ベルベットローゼと御子柴から放たれる神々しい白い光が辺り一体を包み込む。
「御子柴!」
「フン…。本当ならお嬢としたいのだけれどね…」
そう言いながら何とベルベットローゼと御子柴は、本来の姿である巨大コウモリと大蛇の姿になったまま合体した。何とも表現し難い化け物の姿となった2人を前に、天人とババロアは呆然。
バサバサと羽音をたてて闇夜に浮かぶ右半分ベルベットローゼ×左半分御子柴の瞳は、椎名と天人とババロアを映す。
「本来ナラココデスンナリ造リ直シノ儀ヲ施スンダケドナァ、コイツラ楯突イテキテムカツクカラ、死ナネェ程度ニイタブッテカラニスルカ!」


バサバサ!

纏う光は神々しいモノなのに。神2人は、人間3人に殺しに掛かる。ベルベットローゼと御子柴の声が重なって聞こえる不気味さ。
一方。腰が抜けて座り込み、絶望を目の当たりにした表情のババロア。身動きが取れず、自分より大切な2人を前にしても守れない自分の無力さに唇を噛み締める天人。そして、地に頭が埋まりながらもゆっくり顔を上げる椎名。額から流れ落ちる真っ赤な血。悪魔の力を宿した右目には、迫り来るベルベットローゼ×御子柴の姿が霞んで映る。

『早矢仕明は自分のサーカス団を有名にしたいが為に悪魔の僕に力を借りました。本来なら、力を借りた明さんが代償として悪魔の呪いを受けるのです。何故貴方は自ら、人間としての死を待つだけの呪いを明さんに代わって受けようと思うのですか?』
『団長には…生きていてほしい…から…。ただ…それだけ…だよ…』
『…はぁ。僕はかれこれ40億年生きていますが、未だに人間の考える事は理解できませんね。…では椎名奏。貴方に悪魔の力を授けましょう。悪魔の呪いを。いずれ椎名さん貴方はこの呪いに体を蝕まれ、悪魔となる。けれどそれは人間が悪魔に力を借りた代償ですから仕方のない事です。…本当に明さんの代わりに呪いを受けるのですね?』
『うん…。その代わり…団長には…絶対に…内緒…だよ…』
『Happy Birthday椎名奏!貴方は今日から毎日少しずつ悪魔へと変貌していくのです!僕の名前はユタ。いつでも相談に乗ってあげましょう。悪魔についての、ね』

シルクハットに青髪の少年悪魔ユタとの会話を思い出し、迫り来る敵を捉えながらも椎名はやはり無表情。
「団長と…今日死ぬなら…僕が呪いを受ける事…代わった意味…無かった…かも…ね…」
「最期ハイイ声デ啼イテモ良インダゼ(イノヨ)人間!!」


ブシュウウウウ!!

ベルベットローゼ×御子柴の攻撃を喰らった事により、辺り一体に真っ黒い血が噴水のように噴き上がる。
「ヒャハハハハ!アハハハハ!盛大ニ血ヲ噴イタナ!真ッ黒イ血ヲ!ヒャハハハハ!アハハハハ!…ア?真ッ黒イ…血…?悪魔ノ…血…?」
自分達の腕に付着した真っ黒い血を見た瞬間。
「ギィヤアアアア!焼ケル焼ケルゥウウ!悪魔ノ穢らわしい血ダァアア!体中ガ焼ケルヨウに熱イ熱イ熱イィイイ!!」
バサバサ!羽音をたてて暴れてブンブン体を捻らせながら、付着した血を吹き飛ばそうとするベルベットローゼ×御子柴。
「ハァ、ハァ"!コノ血…コノ感覚…」


ザッ…、

すると椎名達の背後から2人分の足音が聞こえた。椎名が額から血を流しながらゆっくり後ろへ顔を向ける。
「…!」
驚いた椎名の見開かれた瞳と。ベルベットローゼ×御子柴の睨み付ける瞳に映った2人はアガレスとメア。
アガレスはたった今椎名達を庇った為にベルベットローゼ×御子柴から喰らった攻撃により、右腕から真っ黒い悪魔の血をボタボタ流しながらもベルベットローゼ×御子柴を見つめる。その表情はいつも無愛想だった記憶喪失前の表情でも無いし、記憶喪失後の好青年な表情でも無い。目を見開き嘲笑う彼らしかぬ狂者の表情。


ゾッ…!!

その表情に見覚えがあるベルベットローゼは血の気が引いた。
「アガレス氏達…ヤッテシマウワヨ、ベルベットローゼ」
「ッ…、」
「…?ベルベットローゼドウシタノヨ?」

『ハハハハ!死ね死ね死ねェエ!!てめぇら全員死に絶えやがれ!ハハハハハ!!』

マルセロ修道院でのアガレスの豹変振りを思い出すこの感覚に、珍しくベルベットローゼが口ごもる。マルセロ修道院でのアガレスの変貌振りを知らない御子柴は、ベルベットローゼが口ごもる理由を知らない。
一方のアガレスとメア。
「ア、アガレスく、」
「口挟むんじゃねぇよ堕天神風情が」
「っ…!」
「てめぇの大好きなアガレス君なら今はいないぜ。てめぇは俺の邪魔しないようそこの人間共3匹連れて消えやがれ」
「ア、アガレス君…?どうしちゃったの…!?変だよ!?また記憶喪失しちゃったの?アガレ、」


ギロッ

「ひっ…!」
いつもの青い瞳では無い黒目に赤目(椎名の右目と同じ)悪魔の瞳をしたアガレスに睨まれたメアは萎縮してしまい、後退り。
「目障りなんだよ堕天神。今すぐ俺の視界から消えろ。人間共を連れてな」
「っ…、」


ボキッ、ボキッ、

アガレスは自分の両手の骨を鳴らしながら、ベルベットローゼ×御子柴を見上げて笑む。
「さぁてと。元神のこの体と悪魔の力のシンクロ率をもう一度確かめてみるかぁ!」



































その頃―――――

「はぁ、はぁ"…アガレス君の…あの瞳…はぁ…あの力…。堕天された時に悪魔化した…力のよう…ですね…」
先程までアガレスとメアの前に立ちはだかり、一方的に2人を攻撃していたマルコ。
しかし突然覚醒したかのように豹変した悪魔アガレスの力に、防戦一方となり逃げたマルコは青い血をあちこちから流して足を引き摺り、木によりかかりながら歩いていた。
「マ、マルコのオッサン!?どうしたんだよその怪我!」
「はぁ…はぁ…清春…君…ですか…」
そこに現れたのは、走って何処かへ向かおうとしていた清春。
「超強ぇマルコのオッサンがそんなになるなんて、どんな人間が居たんだよ!?」
「…君のお父上ですよ…」
「…!?親父…!?親父とやり合ったのかよ…!?」
「…コホン。時に清春君。君は今急いで何処かへ向かおうとしておりましたね」


ビクッ!!

全身を震わせ、目を反らすあからさまな清春。
マルコは鼻で笑う。
――フッ。これだから低能は――
「お父上の元へ行くのでしたらお嬢様に禁じられている筈では?」
「っ…、殺しに行くんだよ!俺を神と人間の体に…化け物に産みやがった親父を殺しに!」


スッ、

「退けよ!」
マルコは清春の前に右手を出し、行かせないようにする。
「果たしてそれは清春君。君の本心でしょうか?」
「はぁ!?」
「清春君、君は先日勝手に1人で下界へ降りたりと信用なりません。それに。君の本心は丸見えだ。口ではご両親を憎みつつも、本当はご両親の元へ帰りたい本心が」
「!?ンなわけねーじゃん!!ふざけんなジジィ!ぐはっ!!」


ガンッ!ガンッ!ガンッ!

何とマルコはいつもの神父さながらの笑顔のまま、清春の事を殴り蹴り出したのだ。
「ぐはあっ!な"っ、や、やめ、やめろジジィ、ぐああああ!」
清春が声を上げても、ただただ笑顔で彼の事を殴り蹴り続ける。




















「はぁ…、はぁっ…」
清春が虫の息となってようやく暴行をやめてくれたマルコ。汚物に触れた後のように、手足を消毒してから再びドスッ!と清春の頭を踏みつけて見下ろす。やはり神父さながらのあの優しい笑顔を崩さないまま。
「私は君のお父上にあのようにされて今とても腹が立っておりました。けれども、大嫌いで吐き気のする清春君。君を殴り蹴れてスッキリしましたよ。ありがとうございます清春君。君が居てくれて助かりました」
「ゼェ…、ハァ…、」
「返事もままなりませんか?殴り甲斐の無い子ですね。この怪我は人間…ヴァンヘイレンの人間にやられたとお嬢様には仰って下さいね?私がしたとは死んでも口にしてはいけませんよ?お嬢様は何だかんだで君を気に入っていますから」
「ゼェ…ハァ…」
「分かりましたね清春君?」
「ハァ…ハァ…、」


ドスッ!

「ア"ア"ア"!」
また頭を強く踏みつけるマルコ。
「分・か・り・ま・し・た・ね?」
「分…分がっ…だ…、分がっだ…が…ら"…、ハァ…ハァ…」
「宜しい。では私は、今頃逃げ惑っているサーカスの観客の人間達に造り直しの儀を施しているお嬢様と合流する任務がありますので。低能は低能らしくおとなしくしていて下さいね、清春君」


シュッ!

マルコは笑顔で言い残して消える。
遠くで梟の「ホー、ホー」という鳴き声しか聞こえない真っ暗な森の中。清春は地に顔を伏したまま。マルコからの暴行により微かにしか動かない右手をピクピクと動かして、地面の土を掴んだ。
「っ…、」


























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あきゅろす。
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