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GOD GAME
ページ:2




翌日、早朝―――――


チチチチ…

「ん…」
小鳥の囀りとテントに射し込む朝陽が優しい朝。
「おーはよ。奏」
「あ…おはよう…」
眠たい目を擦る椎名の顔を太陽のように明るい笑顔で覗き込んできたのは白いおかっぱヘアーに、黒を基調としたモデルのようなお洒落な服装の少年。
「奏ー服何着んの?」
「んぅ…」
簡易パイプベッドで上半身を起こして目を擦りながら少年の背を寝ぼけ眼で見ている椎名。すると、少年は椎名の私服の中から白いシャツと黒のスラックスを取り出して「よし!これだ!」と満足そう。
「決ーまり!奏の今日の服装はコレな!」
「うん…ありがとう…天人…!!?」
今までぼんやりしていた椎名の目がギョッと見開く。同時に少年が白い歯を見せてくるりと笑顔で椎名を向く。
「んじゃあさっさと着替えろよな!」


ガシッ!

「ん〜?何だよ奏」
少年の肩を掴む椎名。
「何だよじゃ…ないよ…!何で…天人が此処に…居るの…しかも…普通に…!」
「言っただろ〜?昨日電話で!近々サーカス見に行くって!」
「近々が…翌日なんて…普通あり得な、」
「ヨーシッ!奏のヒーロー天人クンが来てあげたんだ!奏!お前がヴァンヘイレンでエースって呼ばれてる武器を見せてみろ!なっ?」
ニカッ。やはり白い歯を見せて底無しの明るい笑顔を浮かべる少年『天子 天人』(あまこ あまと)18歳。
反対に、椎名はいつもの隈の酷い左目で天人を嫌そうに見ている。
「冗談じゃないよ…何で天人が…よりによって…こんな朝早くから…。僕…低血圧なの知ってるよね…?」
「お前いっつも血圧100代だもんなー!」
「なら…朝から天人みたいな…騒がしい人…迷惑…だから…帰って…」


ガサッ、

「何や何や?朝から騒がしいなぁ椎名…!?あ、天人!?」
「!!」
「オーっす!明!」
朝早くから椎名のテントが騒がしいので様子を伺いにやって来たババロア(明)。天人の姿を見つけた途端顔を林檎のように赤く染めるババロア。手を挙げて明るい笑顔で挨拶をする天人。一番会ってほしくない人同士の再会に顔を歪める椎名。


















まだステージ用のメイクをしていない素っぴんだし、ピンクのウィッグもかぶっていない素の自分だから慌てて天人に背を向けるババロア。
椎名にはいつも平気で素っぴんをさらけ出しているというのに、天人の前ではそれを恥ずかしがるババロアに椎名は口を尖らせご機嫌斜め。そんな椎名の気など知らぬ天人とババロアは、久しぶりの再会にお互い喜ぶ。
「ちょ、ちょお待ちぃな天人!どないしてアンタが居るんや!?ちゅーか!アタシ素っぴんなんやで!?せやから後でなっ!」
「別に素っぴんだろうが化粧ばっちりだろうが俺気にしねーし!」
「あ、天人…」
2人の間に良いムードが流れる。
「ちょっと…失礼っ…」


ズイッ、

「ちょっ、何するんや椎名!」
そんな2人の間にわざと割り込んで体を入れた椎名は2人をビシッと指差す。
「2人共…人の部屋で朝から…邪魔だよ…。僕…着替えるから…出てって…」


ピシャン!!

テントのカーテンを閉めて2人を外へ追い出す椎名。
「な、何や椎名の奴?えらい不機嫌やなぁ?」
「奏の機嫌が秋の空なのは365日だろっ。つーか明チョー久しぶりじゃん」
「せ、せやなっ!椎名がMARIAサーカス団に入団して以来やから…5年振りくらいやろか?あ、天人アンタでっかくなったやんか!昔はアタシと同じくらいやったっちゅーに」
「何!?明お前朝っぱらからでかくなったとかどこの話してんの!?キャー!明ちゃんへんたーい!」
「身長の話に決まってるやろエロ河童!!」
顔を真っ赤にして怒るババロアを、頭の後ろで手を組んでケラケラ笑う天人。
「あっきれた!アンタ寺の跡継ぎやっちゅーのに相変わらず煩悩の塊やな!アタシこれから朝食とってそれから今日の講演のリハーサルしてくるさかい!じゃあな天人」
「なぁ明」


ぐいっ、

「なっ!何や!?いきなり手ぇ引っ張るなっ!」
背を向けたババロアの右腕を引っ張る天人。顔を更に赤くしたババロアがあわあわしながら天人を見れば、天人はただ笑顔を浮かべていた。いつものふざけた調子ではなく、ちょっと真剣に。
「天人…?」
「ちょっと。ほーんのちょっと!話があるから付き合えって。な?」
「う、うん…?」
そんな2人の遠ざかっていく足音と会話を、テントの中で1人俯きながら聞いていた椎名。


ぎゅっ…!

強く両手拳を握り締めていた。



























一方。
「……」
「おはようございます。カナ様」


ビクッ!

「あ…お、おはようアイリーンちゃん…」
アガレスとメアが眠るテントの前でノックをしようかしまいか迷っていたカナの背後から声を掛けたのは、アイリーン。
カナは目の下が酷い隈で浮かない表情ながらも空元気で笑う。
「どうなさいましたの?」
「え…えっと…。メアちゃんにおはようを言いに来たんだけど…けど…」
下を向いてしまうカナに、アイリーンはクスッと悪魔のように笑む。
「中へ入れないご様子ですわね。何故?そう。貴女の親友メア様は貴女が恋しいアガレス様とお付き合いをなさっていると昨日知ってしまったから」
「!!」
バッ!と顔を上げたカナにアイリーンは優しく微笑む。
「ち、違っ…」
「怖いのでしょう?お2人と関わる事が。恐ろしいのでしょう?自分の親友だと謳っておきながら。自分の恋しい相手と知っていながら。お付き合いをなさったメア様とアガレス様お2人と関わる事が怖いのでしょう?」
「ち、ちがっ…違うよっ…」
顔を真っ青にして後ずさるカナの耳元でアイリーンは囁く。
「そんな不浄で下劣なお2人など、神による造り直しの儀を施されてしまえば良いのに」
「違うよ!!私はそんな事思ってないよ!!」
顔を横に大きく振り、珍しく声を張り上げたカナ。はぁ、はぁ…と呼吸を乱しながら下を向いているカナをカナには気付かれないようにクスッと笑うアイリーンの表情は、まさにアドラメレクの時のよう。
「違う…私は…私は2人の事が大好きなお友達だからそんな事思ってなんかいないよっ…」
アイリーンはいつもの気品ある表情に切り替える。
「あら。そうでしたの?でしたらわたくしの早とちりでしたわ。カナ様。御不快な思いをさせてしまいごめんあそばせ。あ。そうそう。わたくしそういえば今回の任務でトムにお話があるのでしたわ。では、失礼致します」
ニコッ。天使のスマイルで微笑み、カナの脇を通り過ぎていくアイリーン。カナには気付かれないよう、自分の下唇に人差し指を添えて「クスッ…」と笑っていた。



















ヒビキ&アーノルド
テント―――――

「ムキィイイィイ!!何故だい!?何故ボクをメアが眠るテントへ行かせてくれないんだいヒビキ!?」
「何故って、まだ寝ているかもしれないからだって」
長い赤毛をかきむしりながらヒビキを指差すアーノルド。
「大体ッ!ヒビキが、ボクのメアと貧弱が同室になる事を許可したんだぞッ!?嗚呼!ボクのメア!一晩の間に貧弱に何かされているんじゃないだろうか!?ボクは心配で心配で任務どころじゃないよォオ!!」
「はぁ…。ところでアーノルド。昨日話したピエロが使う獣の事だけど」
「ああ。あの珍獣が組合わさったキメラ使いのピエロの事かい?あれから悪魔のニオイがするんだろう?何回も聞いたよヒビキ!」
「トム君達にも話したんだけれど。今日、MARIAサーカス団を強制捜査しよう」
「強制捜査?はっ!ヒビキ、君はまた警察のような事を言うな!」
「警察のようなものだね」
ヒビキは腰を掛けていたベッドから立ち上がり、ヴァンヘイレンのブレザーを羽織る。
「このMARIAサーカス団は悪魔の恩恵を受けている。捜査を開始しようアーノルド」
「はぁ。了解さ、ヒビキ」


























その頃。
団員達のテントの外れ。小高い丘の端で朝靄のかかる街を見下ろしながら並んで立っている天人とババロア。
「いやぁ。明には本ッッ当世話になったと思ってる!何せ、奏を救ってくれたんだからな!」
相変わらず、周りが疲れる程の明るい調子の天人。
「当然やろ。あの日…お父さんとたまたま京都の見世物小屋を見つけて入ってみたら…。アタシと近い年の子供が欲にまみれた気持ち悪いオッサン共の下で働かされていたんや。助けたい思うのが常人っちゅうもんや。…天人の家はまだ、椎名を迎え入れてはくれへんのか?」
「まあ、な。俺は昔からいつでも大歓迎なんだけどよ。親父とお袋が言うわけよ。"神聖な天子寺に呪われた椎名家の人間を入れさせるわけにはいかない"ってさ。バッカみてぇ。あいつは俺の大事な従兄弟だってのによ。親類がそんな扱いするんだぜ?赤の他人の明達サーカス団が奏に優しくしてくれて、俺はマジで感謝してるよ。ガキの俺だけの力じゃあ、奏を無理矢理俺ン家に住まわせる事はできないし。親父とお袋に猛反対されるからな。だから明」
くるっ。ババロアの方を真剣な顔をして向く天人。ババロアは慌てて目を反らす。
「な、何やさっきから!アンタが真顔になると気色悪くて鳥肌たつやんけ!」
「俺、お前のそういう優しいトコにマジで惹かれたっぽい」
「え…?」
「良かったらさ。付き合ってくんねぇかな?天人クンに身を託せば、明の将来チョー安泰だぜ!」
親指をグッとしてウィンクする。真剣な言葉の時にまでおちゃらけてみせる天人に、ババロアは顔を赤くして声を出して笑う。
「アハハッ!何やそれ!どれだけ自分に自信があるんや!」
「えー!安泰だと思ったんだけどなぁー。ホラ。よく言うじゃん?坊主丸儲けって。俺ン家寺だし?将来安泰じゃね!?」
「あははっ!アンタん家が寺だろうとそうじゃなかろうとっ。アンタみたいな明るい奴が一緒なら将来安泰やな!」
笑い合う2人の会話を、2人には背を向けて木陰から聞いていた椎名は唇をきゅっ…!と噛み締めると、2人には気付かれないようこの場を去っていった。
































その日の晩―――――

「ワアアア!」
「レディース&ジェントルマン!本日はMARIAサーカスへようこそ!」
昨日に引き続き、夜に公演を行うMARIAサーカス団。チケットは完売。満員御礼のこのきらびやかなテントの中。ステージ衣装に身を包んだババロアがステージ中央に現れてシルクハットを外して一礼をすれば、押し寄せた観客からの割れんばかりの拍手が送られる。たくさんの観客の中でもババロアが天人を見付けられたのは、2人が今日この日晴れて恋人同士となれたからだろう。
天人が観に来てくれたから顔を赤くしていつもより張り切るババロア。その隣にはピエロの姿をした椎名がトテトテ歩いてきた。ババロアは椎名に耳打ち。
「何や椎名?まだアンタの出番ちゃうで?」
「テントに…キメラ達の入った瓶…忘れてきたから…すぐ取ってくるね…」
「早よせぇな。椎名は次の次の出番なんやからな」
コクッ。と頷けば、ピエロ姿の椎名はトテトテと再び楽屋へ戻っていった。
「それでは皆さんお待たせしました!まずは我が団一の人気者ホワイトライオンの火の輪潜りから見てもらいましょう!」
「ワアアア!」






















「瓶…瓶…」
月夜の下。楽屋から外へ出て、自分のテントへ走る椎名。しかしなにぶんピエロの大きな手袋と大きな靴に太った体型に見せる厚い生地の衣装を着ている為、うまく走れない。まるで亀が走るスピードでトテトテ走る。すると…。
「もう!アガレス君が寝坊するから公演始まっちゃってるよ!私せっかくサーカス見たかったのに〜!」
「ごめんごめんメア」
夜道を大テント目指して走ってくるアガレスとメアを見付けた椎名。
――あの2人だけ…?…そうだ…調度良い…ね…――
「任務にも遅刻しちゃうなんてヒビキ先輩に怒られちゃうよ〜!」



ザッ、

「え?ピエロさん…?」
アガレスとメアの前に立ったピエロ(の姿をした椎名)。2人はピエロが椎名だとは知らないから、首を傾げる。だがすぐにメアは子供のように顔をパアァッと輝かせ、ピエロ椎名の手を握る。
「ピエロさんまたこんなに間近で見れちゃった!感激だよ〜!だよね?アガレス君!」
「え?あ、ああ…そ、そうだねメア」
「ピエロさん可愛い〜!」


バキッ!

「バ…キッ…?」
何かが折れる鈍い音がしてアガレスとメアがきょとんとして…ゆっくり視線を落としていくと…。ピエロ椎名の手を握ったメアの右手がおかしな方向に折れ曲がっていた。
「きゃあああ!?」
「メア!?」


ドサッ!

右手を折られた痛みに思わずピエロ椎名から手を離したメアが尻餅を着く。メアに駆け寄り、おかしな方向に折れ曲がってしまったメアの右手を必死に撫でるアガレス。
「痛い!痛いよアガレス君!きゃあああ!」
「しっかりしてメア!メア!くっ…!メアに何するんだ!」
ピエロを睨み付けるアガレス。ピエロ椎名は狂者の如く血走った目を見開き、口裂け女の如くにんまり笑う。
「へぇ…。本当に記憶喪失みたい…だね…」


カツ、カツ…

笑いながらゆっくり2人に近付いてくる椎名。椎名が近付けばそれに比例してアガレスは椎名を睨み付け、メアをぎゅっ…と抱き締める。
「ピエロの姿…お前はMARIAサーカス団の団員だろう!観客にこんな事をしていいと思っているのか!」
「観客…ふふふ…あはは…笑わせてくれるよ…堕ちた神…アガレス…」
「!!」


ビクッ!

その言葉にアガレスは勿論、痛みにガクガク震えていたメアもビクッ!とする。


















真っ青な顔で目を見開いてゆっくりピエロ椎名を見上げる。
「な…何を言ってるのピエロさん…!?誰が神、」
「そして…」
「え…?」
スッ…。とメアを指差したピエロ椎名。
「名前は分からないけど…君も…神…だね…。メアさん…」
「…!!その呼び方、その声…!まさかピエロさん貴方は椎名君!?」
「ピンポーン…。大正解…」


パチン!

「な、何!?」
椎名が指を鳴らした途端、闇夜からバサバサバサと羽音をたてて何者かがこちらへ近付いてくる音が聞こえ出した。
アガレスとメアはお互い抱き締め合ったまま辺りを見回す。
「何!?何の音!?」
「さあ…何でしょう…」
「!!メア下がって!」
「え、」


ガキィン!!

メアを後ろへ弾き飛ばしたアガレスは、突如襲い掛かった椎名の真っ黒い槍を自分の槍で防ぐ。互いの槍と槍がぶつかり合い、互いの顔がすぐそこにある。ピエロのおちゃらけたペイントを顔に施しているというのに、血走った左眼球を見開いた椎名からはピエロのおちゃらけた雰囲気など一切漂ってはこない。例えるなら今の椎名の形相は、獲物を見付けた肉食獣。
「くっ…!」
「本当…記憶喪失みたい…だね…。でも…そんなの関係無いよ…。記憶喪失でも…そうじゃなくても…君が…神である事は…人間でない事は…違いない…。だよね…?堕ちた神…アガレス!!」


ドスッ!!

「ぐあああ!!」
「アガレス君!!」
今まで互角にぶつかり合っていたはずなのに。一瞬の隙をついてアガレスの腹に槍を突き刺した椎名は、歯茎を覗かせる程笑っていた。楽しんでいた。


ブシュウウ!

「アハハッ…!」
「ぐっ…!」
黒い血を腹から噴き出し、腹を押さえながら片膝着くアガレス。
「黒…。アハハッ…!やっぱり…ね…?大正解…アガレスは…堕神アガレスで…違いなかったんだ…!」
「アガレス君!」
アガレスに駆け寄るメアを椎名の左目が捉える。
「アガレスく、」
「そういえば…メアさんも…神…だったね…」
「え…、」
ヒュン!と、頭上を空中でバック転をしてメアの背後に回った椎名。メアはダラダラ冷や汗をかきながら、ゆっくり後ろを振り向く。


ヒヤッ…!

しかし、後ろを完璧には向けなかった。何故なら、背後から椎名が槍の先端をメアの顎に突き付けていたから。動けば、貫通させられる…。



















「この前…僕が…夕食を…誘った事…。フレンチトーストに…誘った事…。全部ぜぇんぶ…メアさんが…神かどうか…判断する為…試していたんだ…よ…」
「ッ…!!」
「たまたま…ヴァンヘイレンに一時帰還した時…ね…。入学早々…食堂で…食事をした時…嘔吐したアガレス…を…見ていたんだ…僕…。そんなアガレスを…食堂の外へ連れ出したメアさん…。ただでさえ…2人からは…人間じゃないニオイがしてたから…。正解だった…ね…。だって…神は…食事を摂れない生き物…。それに…アガレスの血は…堕天されて…悪魔になった…悪魔の…黒…」
ぐいっ、と顎に突きつけた槍を更に押し付ける椎名。
「メアさんの血は…何色…?」
椎名は目を見開き、歯茎を見せて笑い、槍を持つ手に力を込めた。メアはきつく目を瞑る。
「メア!!」
血を腹から噴き出しながらも顔を真っ青にしたアガレスがメアの元へ駆け出す。


カランカラン!

「う"っ…あ"あ"ぁ"…!」
「!?」
しかし突然椎名は槍を落としてしまうと、眼帯を付けた右目を両手で押さえながら苦しみ、その場に踞ってしまった。
「メア!」
「アガレス君!」
その隙に駆け寄る2人。きつく抱き締め合う。
「メアごめん。俺が…」
「アガレス君お腹から血が!あのね、天界には神様の病気も怪我も治せるラズベリーちゃんっていうお医者さんが居るんだよ!だから今ラズベリーちゃんを呼ぶから待っててね!」
「あ、ああ…。でも、その人は…?」
チラッ。2人の視線の先はやはり、椎名。
「う"っ…あ"ぁ"あぁ"…!」
踞って苦しそうに唸る椎名。たった今自分達を殺そうとしてきた相手ではあるが、彼は人間だ。神がいや、アガレスとメアがアドラメレク達悪神から守ってあげなければならない人間だ。メアは椎名に駆け寄り、屈みながら椎名の震える肩を掴む。
「椎名君大丈夫?どこか痛むの?病気を持ってるの?椎名く、」


パァン!

メアの手を振り払った椎名は元から血色の悪い顔を更に真っ青にし、はぁはぁ呼吸を乱しながらもメアとアガレスを睨み付けた。
「椎名く、」
「はぁ"…触る…な…はぁ"…神の…くせ…に…、う"ぁ"!!」
「椎名君!!」
再び膝を着き、踞る椎名の背中を擦るメア。
「キャアアアア!」
「神だ!神が造り直しの儀を施しにやって来たぞ!」
「!!」
すると、先程まで陽気な音楽が流れていた大テントから悲鳴が聞こえ出したではないか。しかも…
「神…!?神が来たの!?サーカスのテントに!?」


バッ!

「あ!椎名君!待って!」
椎名はメアを振り払うと、大テントへと走っていく。
「メア!追おう!彼はヴァンヘイレンのエースのようだけど人間の彼や8年生達だけじゃ無理だ!」
「う、うん!でもアガレス君お腹の怪我…あれ?」
メアが見ると何と。先程椎名から受けた傷がみるみる閉じていっているではないか。
「え?え?アガレス君どうして?」
「本当だ…。分からない…でもとにかく今は行こう!」
「う、うん!」


ガサッ、

「何処へ向かわれるのですか?」
「…!!」
背後から声がした。記憶喪失のアガレスは忘れてしまっている声だが、メアは覚えている。男性の穏やかな声。ビクッ!としたメアがゆっくり振り向く。そこには、聖職者のような衣服を身に纏い、穏やかな笑みを浮かべる神父のような中年男性風貌の者が1人立っていた。
メアは震える小さな口で、彼の名を言う。
「マ…マルコ神…」
「お久しぶりです。アガレス君。ダーシーさん」




























一方、公演が行われている大テントでは――――

「ウワアアアア!」
「キャアアアア!」
「逃げろ逃げろぉおお!神々が!神々が現れたぁああ!」
ショーが行われるステージに大きなコウモリ姿のベルベットローゼ、大蛇姿の御子柴が、サーカスを観に来た観客の人間を次々と殺して、新しい…そう。アドラメレクに忠実に従う人間を造る"造り直しの儀"を施していた。
忠実に従う操り人形を造る為、無惨に殺した後もその人間の皮をベリッ!と引き剥がすその無慈悲な光景に人々はバタバタと気絶していく。だから、神々にとって捕まえやすいのだ。
「人間の皮1枚〜2枚〜」


ベリッ!ベリッ!

「3枚…4枚…フフフ…」


ベリッ!ベリッ!

「あぁ…ああぁあ…!エクレア…!プディング…!ココナッツ…!」
ステージ裏の楽屋から目を見開き涙を流して、大切な団員達が殺され、皮を引き剥がされていく姿を見ている事しかできないババロア。
「明!」
「あぁっ!」
背後から天人に腕を引っ張られ、崩れ落ちるババロア。ババロアをおぶると天人は走ってテントを出ようとする。
「待つんや!待つんや天人!何しとんのや!アイツらが…アタシの大切な団員達が殺されてるんや!アイツらの元へ帰せ!アタシをアイツらの元へ帰せぇえぇええ!」
発狂して泣き叫ぶババロアの意見など無視をして、天人は大テントを走って出て行く。
――くっそ!何だよあの化け物共!!奏…!お前は何処に居るんだよ奏!――






















大テント外―――――

「キャアアアア!」
「イヤアアア!死にたくない!死にたくない!」
「お、落ち着いて下さい皆さん!そちらから街へ!できるだけ遠くへ逃げて下さい!」
一方。何とか大テントの外へ逃げられた観客達を街へと逃がして誘導をしているのはカナとトム。
「ヒビキ先輩とアーノルド先輩2人だけに任せてだ、大丈夫なのかなトム君…!」
「は、8年生だぞ!?ヴァンヘイレンの最高学年なんだぞ!?対神戦は先輩達を信じて、俺達はまず観客をできるだけ遠くへ逃がす事に専念するんだ!」
「う、うん分かったよ…!」
「くっ!それにしてもこんな時にアイリーンと転入生とルディは何処行ったんだよ!」
























大テント内―――――

「完ー了っとォ!」


ベリッ!

最後の人間の皮を剥ぎ終えたベルベットローゼ。ステージにはズラリ並んだ今殺された人間達の皮をかぶった、神々の言いなりになり人間を殺す殺戮兵器と化した操り人形達が。
シュルシュルとヒトガタの姿に戻るベルベットローゼと御子柴。
バキバキ肩を鳴らすベルベットローゼ。
「あ〜肩凝ったぜ全く。殺して皮を剥がして操り人形に貼り付ける。案外ダルいんだよなぁこの作業!皮を剥がしてからの作業なんて下級神々共にやらせりゃ良いってのによ!」
「フフフ…お嬢に告げ口するわよベルベットローゼ…」
「シーッ!ぜってぇ黙ってろよ!?あいつ、最近眼帯したシイナっつー人間の事で超機嫌悪りぃんだからよ!…ところで」
ベルベットローゼは腰に手を充てて大テントを見渡す。
「アドラメレクはアイツと眼帯を探しに行ったんだろ?マルコはどーこでサボっていやがるんだよ?」
「さぁ…?」
「チッ!あの優男ジジィ!アドラメレクに贔屓されてるからって調子乗ってるよな最近!」
「調子に乗っているのは君達の方じゃないかなぁー!下劣な神々!」
「…あ?」
青年の甲高い声が聞こえてベルベットローゼと御子柴は大テント入口を振り向く。


ドガッ!

「かはっ…!!」
その瞬間。目にも止まらぬ速さで腹に穴を開けられたベルベットローゼと御子柴。


ドガン!!

テントの反対側まで吹き飛ばされた。
「ハハハハ!恐るるにたらないようだなヒビキ!」
「慢心はいけないんじゃない?アーノルド」
2人の腹に穴を開け吹き飛ばしたのは、ヒビキとアーノルド。
ヒビキは両手に黒い手袋をはめて。アーノルドは右手薬指に白い指輪をはめている。
「慢心?ハハハーッ!違うなヒビキ!ボクのコレは慢心ではない!自信だ!」
「へぇ…じゃあその自信とやらを見てやろうじゃねぇの人間」
「!!」



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