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GOD GAME
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首都アンジェラの街―――

「し、椎名君に2回もお誘いされちゃった…!」
掃除終了後。宿舎へは帰らず、制服と鞄を担いだまま1人で街を歩いているメア。
「椎名君意外に積極的だな…って!!何考えてるの私のバカバカバーカ!!」
顔を真っ赤にして自分の頭をポカポカ叩くメア。ふと顔を上げると。自分の足が無意識の内に赴いていた。アガレスとお揃いのくまのキーホルダーを購入した雑貨屋に。
「あ…」
ショーウインドウ越しから見える店内には。あの日の2人がぎこちないながらも仲睦まじくキーホルダーを選んでいる姿が幻想としてメアにだけ見える。
スゥッ…とその幻想も消えると、メアはショーウインドウに右手を添えたまま悲しげに目尻を下げ、ただただ店内を見ていた。


カラン…カラン…

「どうかしたかい?お嬢ちゃん」
「え!?」
メアが外から店内をガン見していたからだろう。店内からは店主である腰の曲がった老婆がにこやかに出てきた。
「ご、ごめんなさいっ!つい…!」
「おやぁ。この前くまのキーホルダーを買っていた女の子だねぇ。今日はボーイフレンドは一緒じゃないのかね?」
「あ…。えっ…と…。き、今日は私1人でお買い物なんですっ!」
「おやおや。そうかいそうかい。また来ておくれな。今度は2人一緒にね」
「は、はいっ…」
「日が暮れない内に帰るんだよー」
老婆が優しい笑顔で手を振るから、メアも歩きながらぎこちない笑顔で手を振る。
「はぁ…」
1人になると、肩を落とし前屈みになってしょんぼり歩く。行く宛も無いのだがこの道を歩いているだけで彼と歩いている気持ちになれるから。
「でね、昨日ー」
「そうそう!」
夕方という事もあり、行き交う学校帰りの学生や主婦、サラリーマンの波にのまれながらメアは1人歩く。
「フッ…」
そんなメアが歩いてくるのを、曲がり角の裏路地から観察して不敵に笑む1人の人陰。
「はぁ…。こんな事をしててもアガレス君が帰ってくるわけじゃないのにな…。宿舎に戻ろ…。カナちゃん待ってるだろうな…」
メアが曲がり角を曲がると角から1人のヒトが飛び出してきた。
「きゃっ!?」
「わあ!?」


ドスン!

お互い正面衝突。メアは尻餅ついてしまう。
















「痛たた…」
「大丈夫!?ごめんね!俺が前を見ていなかったばっかりに!」
「あはは…大丈夫です大丈夫…」
メアは自分のお尻を擦りながら笑って立ち上がる。曲がり角を飛び出してメアと正面衝突した人物は。真っ白い綺麗な髪に金髪のメッシュが一部分入っていて、両耳にピアスをして、身長が高くスラッとしており白い服を着て顔が整った少年。(15〜17才くらいだろうか)申し訳なさそうにしている少年。誰がどう見ても"かっこいい"の部類に属する少年に、メアは思わずポーッ…と見惚れてしまう。メアでなくとも、女性なら擦れ違えば思わず振り向く容姿だ。
「…?どうかした?」
「…ハッ!あ!いいいえ!いえ!な、何でもないです大丈夫!大丈夫!」
恥ずかしそうに頬を赤らめて去ろうと背を向けるメア。メアの右腕を掴む少年。メアはギョッ!と目を見開く。
「あああのっ?!」
「お詫びにご飯でも奢らせてよ!」
「えぇっ!?いえいえ!そんな!お詫びなんていらないですよ!怪我もしてないですし!」
「怪我をしたしてないは関係無いよ。俺の不注意だから。ね?夕食だけ。どう?」
バチン!とウインクされてメアは顔を真っ赤にする。キザな素振りなのに嫌悪感を抱くどころかトキメいてしまうのはやはり容姿がかっこいいからか…。メアはドキマギ。
――ご飯って言われてもなぁ〜私ご飯食べれないし…でもせっかく言ってくれているんだから断ると失礼かな?人間ってよく分かんないよ!うんと…えっと…―
「…あれ?」
ふ、と。少年の瞳を見ると。少年の瞳は真っ青で、渦巻きのような瞳をしていた。アガレスの瞳とよく似ている。

『俺とキユミの間には1人、息子がいるんだ』

アガレスの言葉を思い出すメア。
「え…?」
「ん?どうかした?」
「あ…い、いえ!いえ!ちょっと…似てるなって…」
「え?俺が?誰に?」
「え?!えっと…会った事は無いんですけど、会ったらこんな瞳しているのかなぁって」
「あはは。会った事無い人なのに似てるの?君面白い事言うね。それより夕食。是非奢らせてよ。ね」
「あの!もしかして清春君ですか!?」
「うんうん。違うよ」
「あ…そ、そうですよね?ごめんなさい!見ず知らずの人に突然…」
メアは恥ずかしそうに下を向く。が、少年は相変わらず貴公子張りのにこやかスマイル。

















「俺の名前はハルだよ。俺が清春って人に似てるの?ごめんね。その人じゃなくて」
「いえ!こちらこそ突然ごめんなさい!」
「でさ。夕食なんだけど何処か行きたい店ある?何処でも良いよ!」
「あ…!あのっ私お腹減ってなくて…ごめんなさい!」
メアが頭を下げれば、鞄の中から教科書が雪崩のようにドサドサ!と落ちてくる。
「ぎゃあ!?鞄のチャック開けっぱなしだった!?」
顔を真っ赤にして、屈んで教科書を拾うメア。
「クスクス」
「やだ〜あの子」
行き交う人々にクスクス笑われるから、余計顔が真っ赤になり恥ずかしさで泣きたくなるメア。
「大丈夫?」
「あっ…」
少年も屈んで、一緒に教科書を拾ってくれた。
「いいですよ!貴方まで笑われちゃいますよ!」
「そんなの笑う人達が悪いよ。気にする事ないよ。はい!これで全部拾いおーわりっ!」
少年は笑顔で拾い終えるとメアの鞄の中へ教科書を片付けてくれた。かっこいいだけでなく優しい姿に、メアはまたポーッとしてしまう。
「お腹減っていないならさ。街の外れに美術館があってその裏手の丘から見える夜景がサイッコウに綺麗なんだよ。そこでもどう?」
「あっ…えっと…は、はいっ…」
「キーマリ!じゃあ早速行こう!」


ぐいっ!

「あっ!」
無邪気な子供のようにメアの右腕を掴むと少年ハルはその美術館がある方角へ駆けていく。メアは連れられるがままに、ついていくのだった。
























街外れの美術館――――

「わあ…綺麗な絵…」
夕方という事もあり、客はメアとハルしか居ない。展示されたキリストなどの美麗な宗教画の数々に目を輝かせるメア。その隣で相変わらず貴公子スマイルを浮かべて、右手を自分の腰にあてているハル。
「えっと…名前。まだ君の名前聞いていなかったね。何ていうの?」
「メアです!メア・ルディ!」
「メアちゃんね。見たところ年も近いみたいだしタメ口で呼んでよ。俺、堅苦しいの嫌いだからさ」
「は、はいっ!」
「あ〜敬語使った〜」
「あっ!」
パッ!と自分の口を両手で覆うメアを、ケラケラ笑うハル。
「あはは!メアちゃんおちゃめだね!」
「そ、そんなことないよっ!」
ハルはある1枚の絵画の前に立つ。
「この絵画は最後の晩餐っていってね。真ん中のイエスが"ここに裏切り者がいます"って言っている絵なんだよ」
「へぇ〜」
「あ!こっちは神様達の絵だね!」
ハルに手を引かれついていくと、そこには化け物にしか見えないが神の空想画がたくさん展示されていた。
――私の絵あるかな。無いか…マイナーな神だもんなぁ…――
自分が描かれた絵をこっそり探すが、残念ながら無くて自嘲するメア。
「これ、何ていう神様の名前か分かる?」
メアの顔が途端に険しくなる。
「アドラメレク…」
「ピンポーン。良く分かったね。ラバとクジャクの姿をしているんだよね。えーと、あっちの神様は…」


ピンポンパンポーン…

「ん?」

『館内に居るお客様にご案内致します。当館は間もなく閉館の時間となります。またの御来館をお待ちしております』

館内アナウンスが入り、ハルは肩を竦めてウインク。
「どうやら閉館のようだね。そろそろ出よっか」
「う、うん!」





















美術館裏手の丘――――

街灯が1本と、その下にベンチが1台。人気の無い裏手の丘からは、街の夜景が見える。
「綺麗!」
店や家のオレンジ色の灯りが闇夜に浮かぶその光景は何にも変えられない美しさと感動を与えてくれる。
目をキラキラ輝かせ感動するメアに、ハルもにこやかに微笑む。右手を自分の腰にあてながら。
「良かった。喜んでもらえて!ぶつかっちゃった時、メアちゃんしょんぼりしていたからさ」
「え?私?」
「うん。この子何か悲しい事でもあったのかな?って思ったんだ」
「……」
下を向いてしまうメアに、ハルは慌てる。
「ごめん!俺、余計な事言ったよね!?ごめんね!会ったばっかりの奴が馴れ馴れしくして!」
「うんうん…。ハル君ありがとう。私のね…友達が突然いなくなっちゃったの」
「さっき言ってた清春って人?」
メアは首を振る。
「そのヒトは違うの。いなくなった友達はね、私が酷い事言っちゃったからいなくなったのかもしれないんだ」
メアはベンチに腰かける。ハルも、ゆっくり腰かける。
「今は友達だけどちょっと前まではそのヒト、私のか、か…えっと…!」
「彼氏?」
「ぶっ!!」
思わず噴き出すメア。
「そそそ、そう。彼氏…かなぁ…?うん。彼氏だったんだけど色々あって私が酷い事言っちゃったから…。うん…」
「何か連絡手段とか無いの?」
メアは首を振った後、顔を両手で覆う。















「どうしよう…。私のせいで大変な目にあっていたりしたらどうしよう…。あんな事言わなきゃ良かった…」
「……。大好きなんだねそのいなくなっちゃった彼氏のこと」
「うん…。いないと私1人じゃどうしたら良いか分かんなくなっちゃうくらい大好きなの。なのにどうしてあんな言い方しちゃったんだろう…」
「もしかしてさ。メアちゃんの彼氏って」
「え?」
メアは顔を上げる。ハルはにっこり微笑む。
「アガレスってヒト?」
「!?ど…どうして分かるの…ハル君…?」
ハルの優しい笑顔が邪悪な笑顔に変わる。
「だってそいつ俺の親父だからね」
「え!?あ"ぅ"っ!!」


ドガッ!

メアの腹部をハルが長い脚で蹴れば、目を見開いてメアはベンチの下に転がる。
「ゲホッ!ゲホッ!あ…、貴方はもしかして…!」
メアが地に伏したまま見上げれば、ハルは右手人差し指で自分のこめかみをトントンと叩きながら口が裂けそうな程笑う。
「そうだよ。メアちゃん大正かぁい。俺が清春だよ!!」


ドスッ!

「あ"ぁっ!!」
メアの頭を思いきり踏みつけてから、更にぐりぐりと踏みつけ高笑いするハルではなく清春。
「ハハハハ!初対面で名前呼ばれた時はぶっちゃけマジ焦ったわ。俺が馬鹿親父と同じ瞳してるからっしょ?マジないわー」
「っ…、清…春…く…ん…」
「あ?うっぜぇ。馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ雌豚」


ガンッ!

「あ"ぁ"ぁ!!」
更に強く踏みつける。
「アンタが裏切り者のダーシーっつーんだろ?今は偽名使ってるんだって?ハハハハ!ホンットアンタも馬鹿だよなー。アドラメレクの姉ちゃん敵にまわして、あんな馬鹿親父と親しくして。マジもんの馬鹿っしょ?ハハハハ!」


キィン!

「っ、とー」
清春の足を払いのけ立ち上がったメアは、武器の白い短剣を清春に向ける。しかし清春も武器を繰り出す。アガレスと色違いの白い槍。その槍でメアの2本の短剣を受け止めた。
「アガレス君に何かしたの!?」
「はぁ?知らねぇよあんな馬鹿親父の事なんざ。知りたくもねぇしな」
「清春君はアドラメレク側についているって本当!?ダメだよ!アドラメレク達は間違っているんだよ!?人間を自分達の気紛れで殺して操るなんて神のする行為じゃない!アドラメレク達は間違ってるよ!きゃっ!」

ドガッ!

槍を大きく振って、メアを弾き飛ばした清春。尻餅ついたメア。その隙にメアの短剣を蹴り飛ばす。丘の下の街へ。


ガンッ!

「ああ!剣が!きゃあ!?」
再び頭を踏まれ、地に伏したメア。清春は相変わらずこめかみを右手人差し指でトントン叩きながら、邪悪な笑顔で笑う。
「ピーピーうぜぇんだよ。馬鹿親父の愛人の分際でさぁ?」
「っ"…、ぅ"ぐっ…」
「は?何?その目。俺に喧嘩売ろうってんの?ムーリムリ。やめといた方がイーし。骨まで砕かれるだけだから」
「っ"…!」
「ねぇねぇ。アンタ馬鹿親父とヤった?あの馬鹿親父見た目に反してチャラいからさぁー。でも可哀想だわアンタ。知ってる?悪魔とヤるとその相手が悪魔以外の場合、その相手は悪魔の薄汚ねぇ血に犯されて早い内に死ぬらしいよ?ってー事はさぁ悪魔化した馬鹿親父とヤったんならアンタ次期に死ぬじゃん?親父そういう事すら分かってないっぽいマジもんの馬鹿だからさぁー。アンタマジ可哀想ー!あー!可哀想ー!」
「っ…、アガレス君はそんな酷いヒトじゃないもん!!」
「あっそ。ヤってないんだ?それならそれでいーや。アンタ使えるし」
「アガレス君にも悪いところはいっぱいあったけど、お父さんをそんな言い方するのは良くないよ!!」
「あ?知ったふうな顔してほざいてんじゃねーよ雌豚」


ガッ!

清春はメアの前髪を掴み、顔を近付けて笑う。メアは睨み付ける。
「チャラい馬鹿親父の一時の快楽のせいで俺が産まれたんだよ。分かる?神と人間のガキだぞ?フツーに考えてヤバいっしょ?神にも人間にもなりきれねぇこんなクソな体になる事分かって産みやがって。ざけんじゃねぇってんだよ」
「っ…!」
「人間の輪の中には入れねぇ。天界じゃ半端モンだって笑われる。…ま。俺を笑う奴らはみぃんなぶっ殺したけどさぁ」


ゾクッ…!

清春の笑顔が悪魔さながらいやそれ以上に恐ろしかったから、メアの背中に悪寒が走った。

















「アンタはどうすっかなー。あ。親父今行方不明なんだっけ?ならアンタ囮に親父を誘き寄せてからアンタも親父もぶっ殺すのがいっちゃん笑えるかなー?それだ!それがイイ!」
「やめて!!私には何しても構わない!けど!アガレス君には何もしないで!」
「そういう少女漫画ぶった台詞マジうぜぇんだよ。やっぱやーめた。アンタ超うぜぇから今ここでぶっ殺すし」
「!!」
清春は笑いながら、槍をメア目掛けて振り上げた。メアは恐怖で体が動かない…のではない。

『俺とキユミの間には1人、息子がいる』

「っ…!」
清春はアガレスの大切な子供だから、手が出せない。
「死ねよ!!」
「っ…!!」
メアは目を強く瞑った。


ガンッ!

「あ?」
背後から飛んできた1本の矢が、清春の槍を吹き飛ばした。清春は不機嫌そうに後ろを振り向く。
「誰だよアンタ」
メアは、目を見開く。
「し…椎名君…!?」
そこには真っ黒い弓矢と槍が合体した禍々しい武器を構え、弓矢を射った体勢の椎名が立っていた。無表情な椎名が別人のような歯茎を覗かせ、瞳孔を開ききり、狂人のように笑う。
「神様…見ぃっけたぁ…」















現れた椎名。普段のぽけーっとしていて掴み所の無い彼とは違い、今の椎名は瞳孔を開ききり歯茎が見えるくらい笑うまさに狂人。
まさかの助っ人登場にメアは呆然。
一方の清春は眉間に皺を寄せ、酷く機嫌が悪そうだ。
「誰だよアンタ、…!?」


ダンッ!

清春が問い掛け中にも関わらず椎名はタンッ!と踏み込むと空中で一回転しながら清春に武器を突いてきた。清春は目を見開き、寸のところで避ける。
「くっ…!!」
椎名はそのままメアの前に立ち、清春と向かい合う。
「し、椎名君!ありがとう!でもどうして分かったの?」
「ありがとう…?僕はメアさんを助けに来たわけじゃないよ…。神のニオイがするからやって来たら…たまたまメアさんが居ただけ…」
「そ、そうなんだ…」
「メアさん…足手まといは邪魔なだけだから…早急に此処から消えてくれる…」
「わ…、私だって戦えるよ!椎名君!私の事なら心配しなくて大丈夫だよ!だから、」
「邪魔って言ってるの分かる…?君の心配なんてこれっぽっちもしてないから…」
「!!」


ゾクッ…!

メアに顔を向けた椎名の顔。瞳孔が開ききり、悪魔のように恐ろしかったからメアは顔を青くさせてゴクリ…唾を飲み込む。
「わ、分かったっ…」
メアは清春よりも椎名に怯えながら、パタパタと丘を降りて逃げていく。
「へぇ。優しいじゃんあんた。心配してないとかウソついて女の子逃がしてあげるワケ?チョーうぜー」
「本当に邪魔なだけだよ…」
「あっそ。つーかあんたヴァンヘイレンの人間?」


ズズズズ…

「は?」
椎名は全く清春の話など聞かず、鞄の中から2つの瓶を取り出すとその蓋を開ける。
「何ナニそれ?俺に見せ…、…!!」
「ギィッ!!」


ザクッ!

「っつー…!?」
瓶からは得たいの知れない生物が飛び出し、清春の顔を引っ掻いて飛んでいく。清春の青と赤が混ざった血がピチャ!ピチャ!と、椎名の顔に飛び散る。
















「痛ってぇな…マジうぜぇんだけどあんた…」
清春は血が流れる右頬を手で押さえながら、目を鋭くさせて椎名を睨み付ける。堪忍袋の緒が切れた表情だ。しかし、椎名の前に立つ2体を視界に捉えた瞬間、清春は目をギョッと見開く。
「は…?何だよそのキモい奴らは?」
「ギェッ!ギィエッ!」
「ギャッ!ギャッ!」
不気味な鳴き声を上げながらバサバサと天使の羽のような翼を羽ばたかせる得たいの知れない生物2体。どちらも体は白い羽だったり牛だったり虎だったり…とにかく、様々な動物が混ざった体をしている。椎名はニィッ…と笑う。
「キメラだよ…」
「キ…メラ…?」
「例えば…ウサギとライオンを合成させた生き物は…キメラと呼べる…。僕のキメラ達はね…全部…神と神のキメラなんだよ…」
「!?」
そう言われてみれば、キメラ達は鳴き声を上げながらも清春に切な気な視線を送っている気がする。まるで同族の神でもある清春に"助けて"と目で訴えているよう。
「は…?そんな事人間風情ができんのかよ…?」
「できるよ…。だから君も僕のキメラの一部分にしてあげるね…」
「!!」
いつの間に。たった今の今まで目の前に居たはずの椎名は清春の背後にまわり、ニヤッ…と笑う。焦り冷や汗を伝わせる清春は椎名の方を向き、武器である槍を振り上げる。
「調子に乗るんじゃねぇよ人間風情が!!」
「ギィエッ!!」


ドスッ!

「うぐ"あ"あ"!!」
椎名に気をとられている間に。先程の神と神で作られたキメラ2体の攻撃を背後から食らった清春。ズザザザ!と地面が抉れるくらい吹き飛ばされる。
「っぐ…!!」
地面に顔を伏させられるがすぐに起き上がろうとする。


ダンッ!

「ぐあ"!!」
「君…面白いね…青と赤の血が混じってる…」
起き上がろうとした頭を椎名に思いきり踏みつけられてしまい、起き上がれない清春。


ギロッ!

起き上がれないながらも椎名を睨み付ける。頭から額へかけて青と赤の混ざった血を流しながら。














「その足退けやがれ人間!!」
「ふんふん…。言われてみれば君…神とはちょっと違ったニオイがするね…。不思議なニオイ…。どうしてかな…」
「退けろっつってんだろ木偶の坊!!」
――チクショウ!!何でだよ!?マジありえねーし!何でこんなひょろっこい人間に踏まれてるだけで俺が立つ事すらできねぇんだよ!?――
「さっき聞こえたけど…君…清春っていう名前の神…?」
椎名は鞄から取り出した聖書をパラパラ捲る悠長っぷり。
「うぜぇんだよ!!いいからその汚ねぇ足退けろよ木偶の坊!!」
「清春…そんな名前の神は聖書には載ってない…ね…。でも…血に青が混じっているなら…君が神である事は…逃れられない事実だね…」


キィン…!

「!」
清春の青い目玉スレスレのところに槍の尖った先端を向ける椎名。清春は目を見開き固まる。
「青と赤…面白いね君…。青は神の血の色…。赤は人間の血の色…。まさか…君…神と人間の子供とか…あり得ない…よね…そんな…非現実的な事…。あり得ない…よね…そんな…気持ち悪い生き物…」


ドスッ!

「あ"ぁ"ぁ"あ"!!」
椎名は容赦なく清春の右目…ではなくそれより少し上。眉間を槍で突き刺す。ビチャ!ビチャ!と飛び散る清春の返り血が椎名の顔にかかる。その血を手で掬うと。やはり青と赤が混じった色をしていたから、椎名はまた瞳孔を開いて笑う。
「やっぱり君は…僕のこれくしょんになるべき神だよ…!」
振り上げた槍を。今度こそ清春の目玉目掛ける。


ドガッ!

しかし清春が椎名の腹部を長い脚で蹴れば、軽い椎名は蹴り飛ばされる。その際、ベンチにガツン!と背中を打ってしまったが。















「っぅあ…!血が…!血が…!くっそ!覚えてろよ木偶の坊!!」
清春はドクドク血が流れる額を押さえながら、椎名を指差して宣戦布告するとスゥッ!と消えてしまった。


ガタン…、

ベンチに引っ掛かった鞄を背負い直して立ち上がる椎名。いつものぽけーっとした顔に戻っていた。さっきの狂人らしさは消えていたし、既に瓶2つの中に神々のキメラを片付けていた。
「清春…清春…。神の青い血と…人間の赤い血を持つ…神…?人間…?バケモノ…」
椎名は、先程浴びた清春の返り血を見る。手のひらにべっとり付着した青と赤が混ざった何とも不気味な血液を見て、笑う。
「欲しいな…あの神欲しいな…僕のキメラにしたい…したい…フフフ…フフフフ…清春…清春…ね…フフフフ…」
カポン…、
青と赤が混ざった清春の血を空き瓶の中へ入れる椎名。


タン…タン…タン…

何事もなかったかのようにそのまま丘を降りてヴァンヘイレンへと歩いていくのだった。





























天界――――――

「あ!居たぞ!おい清春!てめぇどこほっつき歩いて…うぇえっ!て、てめぇ人間クセェぞ!?」鉄の扉と鎖を破壊して逃げ出した清春を、天界中探し回っていたベルベットローゼ、御子柴、下級神々。
下を向き、よろめきながら帰ってきた清春を見つけるとベルベットローゼは怒鳴り声を上げながらも駆け寄る。相変わらず清春は下を向いたまま。
「おい清春!てめぇまさかあの部屋をぶっ壊した後、下界へ行ったんじゃねぇだろうな!?」
「…だ…が…お…」
ぶつぶつ呟きながら下を向いたままベルベットローゼと御子柴の脇を通り過ぎる清春。カチン!ときたベルベットローゼは清春の肩を掴みながら無理矢理向かせる。
「おい!清春てめぇ!ぶつぶつ言ってんじゃねぇよ!逃げ出した事謝りやがれてめぇ!」
「だよ…なん…だよ…。人間の分際で…俺を小バカにしやがって…気持ち悪い生き物…?マジありえねーし…俺の気持ち知りもしねぇくせにあの人間…」
「お…おい。清春?おい!清春!?」


バタン!!

ぶつぶつ呟きながら、自分が破壊した扉の奥にある部屋へ再び戻ってしまった清春。物音一つたてず部屋へ籠ってしまった清春に、拍子抜けしたベルベットローゼと御子柴はぽかーん。不思議そうに顔を見合わせる。
「何だったんだ…?今の…?」
「さ、さあ…?でも…戻ってきて…おとなしくなったならそれに越した事ないわよ…」
「ああ…。ま、まあそうだな。そうだよな!アドラメレクにはバレなかったんだし!あ〜危なかったぜ〜!清春がいなくなった事知られたらどうなる事かと思ったぜ全くよ!」
何故かは分からないが清春が戻ってきた事により、アドラメレクに叱られる事は免れたベルベットローゼと御子柴はひと安心すると、講堂を出ていった。


パタン…

講堂の扉が閉まると。スゥッ…と講堂内に現れたのは穏やかな笑みを浮かべたマルコ。マルコは、清春が封じられている鉄格子の扉の前に音も無く立つ。すると室内からは…















「あ"あ"あ"あ"!!くっそ!くそ!くそ!くそがぁあ!!あ"あ"あ"あ"!ダメだ!マジムリだ!血が止まらねぇ!熱い!苦しい!あ"あ"あ"あ"!」
ベッドにうつ伏せになった清春が、シーツを爪でビリビリに引き破りながら苦しみに悶えていた。先程椎名から食らった攻撃による傷口から未だにドクドク流れる血が止まらないし、全身が焼けるように熱い。呼吸がしにくくて苦しい。
「はぁ"はぁ"!くっそが…!!何でだよ…何で俺だけこんな体に産みやがったんだよ親父!母さん!あ"あ"あ"!体が焼ける!焼ける!」
「清春君」
「あ"…?はぁ"…はぁ"…マルコのオッサンかよ…。あんた勝手に部屋入ってくんじゃねーよ…はぁ"…はぁ"…」
暗闇の室内に、マルコの穏やかな笑顔がぼんやり浮かぶ。清春は顔を真っ青にして苦しいのに、挑発的な目でマルコを睨み付ける。
「清春君。君にはまだ戦闘は無理ですよ。ですからまだお嬢様から下界へ降りて良い許可がおりないのです」
「う…るせぇ"!はぁ"…はぁ"…、あんたも…アドラメレクの姉ちゃんも…はぁ"…、そう言って…俺をずっとこの部屋に閉じ込めてきたじゃねーか!はぁ"…はぁ"…、」


ガシャン!

ベッド脇に置いてあった花瓶をマルコ目掛け投げつける清春。しかしマルコはあっさり避け、にっこり微笑んだまま。
「はぁ"…はぁ"…人間と神のガキだからって…物珍しいからって…はぁ"…てめぇら全員…はぁ"…俺を実験道具としか見ちゃいねぇんだろ!さっきの人間だってそうだ!ぅ"ぐっ…、」
清春は再び、ベッドに顔を伏す。
「はぁ"…はぁ"…てめぇら…、俺を物珍しいモルモットとしか思っていねぇくせに…はぁ"…仲間面してんじゃ…、」


ぐいっ、

「!?」
にこやかな笑顔のマルコにぐいっ、と顎を持たれ、顔を上げさせられる清春。すぐさま睨み付け、罵声を浴びせる。
「触んじゃねー!汚れんだろ!」
「お嬢様に拾って頂いた分際で、口答えしないで頂きたいですね」
「は?うぜぇ…、ぐあ!!」


ガシャン!

マルコが軽くトン…、と清春を押しただけで清春は窓ガラスまで吹き飛ばされる。衝撃で割れた窓ガラスにぶつかり、割れたガラスの破片が清春に突き刺さる。














「あんた何すんだよ!ふざけんじゃ、」
「ふざけているのは清春君。貴方ですよ。お嬢様の許可が下りていないにも関わらず勝手に下界へ降りて人間と接触したり。これ以上神々の…お嬢様の面汚しを行うのはおやめなさい。父親からも母親からも助けに来てもらえない分際で偉そうに。拾ってくださったお嬢様にこれ以上ご迷惑をおかけする事無く、モルモットとして扱われるのを待ちなさい。神と人間の間に産まれた不気味な化け物」
「…!!」


バタァン!!

扉を強く閉めると、外からはマルコがカチャカチャと再び扉を頑丈な鎖で封じる音が聞こえてくる。
真っ暗な室内で俯いて座る清春の額や、先程ガラスの破片が突き刺さった箇所からは青と赤が混ざった血がドクドク流れ、灰色の床を濡らしていく。
「化け物…かよ…」


ダァンッ!!

座ったまま清春はベッドを蹴る。一蹴りしただけで何とベッドは木っ端微塵に。俯いたまま清春は静かに呟く。

「アンタらのせいだぞ…。会ったらぶん殴ってやっからな…親父…母さん…」






























ヴァンヘイレン――――

「はぁ、はぁ…はぁ〜!」
あれから丘を降り、街を駆けてようやくヴァンヘイレン宿舎前まで逃げてきたメア。乱れる呼吸を整える為立ち止まり、左胸に手をあてながら深呼吸を繰り返す。すると…途端に悲しげな顔をするメア。
「清春君…。あの子が清春君なんだ…」
脳裏では、良い顔をして自分を誘き寄せてから本性を表した邪悪な笑みを浮かべる清春が蘇る。


きゅっ…、

苦しくなる胸を服の上から掴んで何とか堪える。
「こんな体に産んでって言ってたな…。清春君本当は…」


ザッ…、

「!」
背後から物音がして、自分の前にもう1人分の人影が現れる。清春かと思いメアはビクッ!とするが、ゆっくりゆっくり後ろを振り向くとそこに立っていたのは…。
「…!!アガレス君!!」
パァッ!と目を輝かせたメア。そこには、闇夜の中街灯の下でメアを見て立っているアガレスの姿があったのだ。額から左目にかけて包帯を巻いていたり、右脚に包帯を巻いていたり顔には無数の傷がついていたりと痛々しい彼。だがメアは溢れる涙を指で拭い、駆け寄る。
「アガレス君!アガレス君!!良かった!本当に良かったよアガレス君!!ごめんね!私のせいだよね?私があんな突き放した言い方したせいだよね?本当にごめんね!」
「……」
アガレスは口を開くが、言葉は出さない。
「でも良かった…アガレス君がこうしてまた帰ってきてくれて本当に良かった!怪我してるよ!どうしたの?誰にやられたの?早く宿舎へ入ってゆっくり休もう?もう私、酷い事言わないから。だからアガレス君ももうどっかに行っちゃダメだよ」
「すまない」
「うんうん!アガレス君は何も謝る事ないよっ!私のせいだもん。全部ぜんぶ私の…、」
「すまない…。君は誰で此処はどこかな?」
「え?」
「何も分からないんだ。俺の名前しか…。何も分からないんだ。此処が何処で、君が誰で、俺は誰なのか…何も分からないんだ」
「……」






























1週間後。
ヴァンヘイレン
1E教室―――――――

キーンコーン、
カーンコーン

「うっし。今日の授業は終わり。寄り道しないでさっさと宿舎へ帰れよ」
「はーい」



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あきゅろす。
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