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GOD GAME
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「なっ…!?何故ベルベットローゼ殿達が此処へ…!?」
「アガレス君知り合いなのかい!?どう見ても化物達だよ!」
「化物…?」
「ひぃっ…!」
ヒビキの一言に、アドラメレクはギロッ…とヒビキを睨む。アガレスはヒビキとキユミそして清春の前に立つ。
「家に放火し、両親をこのようにしたのはアドラメレク神…貴様らなのか」
「ええ。いかにも」
「何故こんな事をした!!」
「何故?ふふふ。アガレス氏。貴方本当にオマヌケさんですわね。人間と婚姻を結び。人間との子供を作り。そんな事をした愚か者はこの惑星(ほし)ができて46億年で貴方が初めてですのよ。神が人間と婚姻を結び、子供を作るだなんて愚かで低俗で下衆な行いをした面汚しはお黙りなさい」
くいっ、アドラメレクが翼でアガレスの口をなぞるとブシュウ!と、アガレスの口が切れ、青い血が噴き出した。
「ぐあ"あ"!!」
「!?あ、青い血!?」
「それに今…神って…。アガレスさんやっぱり神様だったんですか…?」
「っ…、」
青い血を流し、アドラメレクには"神"と呼ばれるアガレスに、ヒビキとキユミは呆然。アガレスは口を押さえながら、ばつが悪そうに顔を歪ませる。















「嗚呼、お可哀想な人間達。アガレス氏に騙されていなければこうして死ぬ運命を辿らなかったというのに。ですが、神の存在を知り得てしまった貴方達オト家は天界の決まりで抹殺しなければいけませんの。痛くはしませんわ。一瞬であの世へ送って差し上げます。ですから、おとなしく死んでくださいな」


バサァ!

アドラメレクが翼を広げればそれに続いてベルベットローゼ、マルコ、御子柴も戦闘体勢に入る。
「っ…!キユミ!義兄さん!村の方へ逃げろ!ここは俺が食い止め、」


ドサッ…

「なっ…!?」
すると、ヒビキが突然白眼を向いて倒れた。その背後には青い髪をしてシルクハットをかぶり、背中には悪魔の羽を生やした少年が1人。
「お兄ちゃん!!」
「ま、待てキユミ!行くな!」
ヒビキに駆け寄ろうとするキユミを押さえつけるアガレス。
一方。アドラメレクは、青髪の悪魔の少年を見るとチッ…、と舌打ち。
「低俗な悪魔が何の用ですの。その人間はわたくし達が裁く堕ちた人間ですことよ!」
「本来46億年前から、堕ちた人間を拾うのは悪魔とされてきました。それを、アドラメレクさん…。貴女が大神となってから堕ちた人間も神々が拾い、自分達の操り人形にすると方針を変えた。これには僕達魔界は異を唱えます。ですから残った人間は僕達が持ち帰ります。それに…。堕ちた神というのは初めてですね。ついでにそちらも僕達が持ち帰りましょうか」


パンッ!

青髪悪魔少年が手を叩けばヒビキは消えてしまった。
「お兄ちゃん!!」
「キユミ!」
「あぁっ!」
清春を抱いたキユミの細い腕を力強く引っ張ると、人間離れした速さで村の方へと逃げていくアガレス。
「お嬢様」
「分かっていますわ!ベルベットローゼ!マルコ!御子柴!アガレス氏とあの人間の少女、そしてアガレス氏の実子を悪魔より先に我が手に!」
「お、おう」
「畏まりました」
「合点承知よ…お嬢…」
アドラメレクはキッ!と青髪悪魔少年を睨み付けるとベルベットローゼ達を引き連れてココリ村の中へ入っていった。そんな彼らを見て「はぁ」と肩を竦める青髪悪魔少年。
「本当。血の気が多いヒトが多いですよね神って」


バサァ!

漆黒の悪魔の羽を羽ばたかせて、青髪悪魔少年もココリ村の中へと入っていくのだった。























「はぁ…、はぁ…、」
「そ、それは本当かいアガレス君!キユミちゃん!」
村の中へ逃げてきたアガレスとキユミの血相変えた顔を見て、夜だが集まってきてくれた住人達。灯籠を照らして、闇夜の下、輪になる。
「しかし何故神々がオト家を襲撃に…?」
「アガレス君もキユミちゃんもヒビキ君もご両親もこんなに良い人なのに!」
キユミは真実を知っているが言えなかった。アドラメレク達が襲撃に来た理由は、神であるアガレスが人間と親しくしていたからだという真実を。清春をぎゅっ…と抱き締める。
一方、アガレスはアガレスで住人には自分が神であるせいで襲撃された…とは言わない。
「とにかくこの村を出た方が良い」
「そうだね!こんなに小さい村、神々に呆気なく潰されてしまうね。皆が同じ方向に逃げたら共倒れも有り得る。四方に別れよう!アガレス君とキユミちゃんは東門から!」
「ああ。行こう。キユミ」
「……」
「キユミ」
「…ハッ!あ、は、はい…」
アガレスが差し出した手をわざと握らず、アガレスの後を走ってついていくキユミだった。





















東門―――――

ココリ村の東門を抜けて、城下町がある方角へ走るアガレスとキユミ。深夜というだけあって、辺りは真っ暗。街灯一つ無い田舎道だから、目が慣れるまでは走る事は困難だ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
2人の走る足音と荒い呼吸音だけが闇夜に響く。
「キユミ。大丈夫だ。お前は絶対に俺が、」
「アガレスさん…やっぱり人間じゃなかったんです…ね…」
「…?キユミ…?」
キユミは清春を抱いたまま下を向き、立ち止まってしまう。
「何をしている。立ち止まっている暇など無い。早く走れ」
「アガレスさんに私、騙されていたのですか…?」
「……」
「だって…だってこれって…さっきの神様達が言ってたじゃないですか…。アガレスさんが神様なのに…人間の私と結婚したから…子供を作ったから…。アガレスさんがオト家に関わったから…オト家は抹殺しなければいけない…って…」
「…すまん。知らなかったんだ。俺はあいつらより30億年も後に生まれた神で。人間と関わる事が罪になり、関わった人間やその家族までこんな目に合う事になるとは本当に知らなかったんだ」
「知らなかったで済まして良いんですか!?」
「…!」
顔を上げたキユミは涙を溢れさせているのに顔は怒っていた。親の仇を睨み付ける顔をして。初めて見たキユミの怒り顔に、アガレスは口ごもる。
「確かにアガレスさんのお陰で今までオト家もココリ村も、人生が変わりました。みんな幸せになりました。でも!でも!こんな結末を迎えるなら今までの貧しくて疎外されたままで良かった!!大切な人達が血を流す事になるなら、助けてもらわなくて良かった!」
「キユ、」
「何でですか!?どうしてなんですか!?どうしてココリ村だったんですか!?どうしてオト家だったんですか!?どうしてこの村にアガレスさんは目をつけたんですか!!」
「っ…、」
「貧しい人間を助けてそれから地獄へ突き落とす様が見たかったんですか!!」
「違う!!本当に助けてやりたかっただけなんだ!!ヴァイテル国王や裕福な国民が、お前やココリ村の人間が障害を持っているというだけで嘲笑っている様を見たくなかったんだ!お前達が頑張っているのに誰も救ってくれないから、俺が…神の俺が救いたかったんだ!!俺が行った時だけ野菜が売れただろう、それも神の力を使ったんだ。売れればココリ村も裕福になる。お前達を救う事ができる。ただ救いたかった…ただそれだけなんだ!!」


しん…

沈黙が起き、キユミはまた下を向いてしまう。声を荒げたアガレスは、はぁ、はぁと呼吸が荒い。
「…だからといって俺が未熟なせいでお前もお前の家族も…村人も巻き込んだ事は本当にすまない。けどもう誰の血も流させない…。流させないから、キユミ…!」
手を差し出す。しかし、キユミは握ってはくれない。
「キユミ…!」
「もう…嫌です…私…」
「キユミ…?」
「アガレスさんの顔も見たくない…」
「…!」
「だって…だって良い言葉を並べて正論に見立てているだけじゃないですか…!自分がまだ未熟だからこうなる事が分からなかったなんて…言い訳にもなりませんよ…!」
「……」
「清春も可哀想だと思わなかったんですか…?人間と神様の子供ですよ…。世界でたった1人の特殊な子供なんですよ…。特殊な子供故に、人間でも神様でも治せない病気にかかったりしたらとか考えなかったんですか…!」
「それ…は…、」
「この子の将来が不安にならなかったんですか…!それともまたですか…。自分は生まれたばかりの神で未熟だから、人間と神の間に生まれた子供がどうなるか分からなかったでまた済ませるつもりだったんですか…!!」
「キ、キユミ…、」
キユミはアガレスを睨み付け、清春をきつく抱き締める。
「この子は私が守ります…幸せにします…!だから貴方はこの子にはこれからもう一生関わらないで下さい…!この子の事を何も考えてあげていない貴方はこの子の父親じゃありません…!!」
「っ…!」
アガレスは目を見開き、今までで見せた事のない表情をする。絶望過ぎて、涙すら出てこない程の辛さ。
「っ…、分かった…」
アガレスは下を向く。
「だが…最後に…最後に関わらせてくれ。あいつら神々から逃げ切るまでは俺をキユミと清春に関わらせてくれ…」


ゴオッ!!

「!!」
すると、真っ暗だった辺りが一瞬にして明るくなり、辺りが真っ赤に染まった。2人が顔を向けると。
「あ…ああ…!村が…!みんなが…!!」
ココリ村が真っ赤な火の海にのまれていた。

















アガレスは更に顔を青くして目を見開く。
「っ…!」
「アガレスさん…アガレスさん…!貴方が…貴方がした事の罪の大きさに気づきましたか…!」
「っ…、」
「アガレスさん!!」
「お父さんもお母さんも仲良くしようよぅ…うっ…、うわあああん!」
「!」
「清春…!?」
キユミに抱かれてずっと黙っていたから、眠っていたと思っていた。しかし清春はずっと起きていて、大人達の醜い言い争いを聞きながら涙を堪えてジッ…と我慢していたのだ。途端に険しい顔をしていたアガレスとキユミも親の顔に戻る。
「うわあああん!うわあああん!」
「ご、ごめんね清春。ごめんね。大丈夫だよ。大丈夫だから」
「うわあああん!」
「き、清春すまん。大丈夫だ。お父さんもお母さんも仲良しだから心配するな。な」
「違うもん!!だって今お父さんもお母さんも怒ってたもん!喧嘩してたもん!僕はどっちか片方なんて嫌だよ!今までみたいにお父さんとお母さん両方がいなきゃ絶対嫌だもん!うわあああん!」
「き、清春…」
「清春…」
村が燃える炎のバチバチ煩い音にも勝る清春の泣き声に2人は口ごもり、切なそうに眉尻を下げる。
「お父さんも!お母さんも!喧嘩しちゃダメ!!仲直りして!早く!うっ…う…うわあああん!」
泣き喚く清春。アガレスとキユミは互いに切なそうな表情を浮かべたまま、ゆっくり向き合う。
「キユミ…その…」
「ア、アガレスさん…私…」
「では僕が家族3人をご一緒致しましょう」
「!?」
バッ!振り向くアガレス。声がした背後の高い木の上には、青髪悪魔少年が見つめていた。咄嗟に、キユミと清春の前に立ちはだかるアガレス。
「貴様悪魔か!!」


スーッ…、

青髪悪魔少年が何もない空間を指でなぞり、パンッ!と両手を叩く。
「遊んでいるな!俺の問い掛けに答え、」


パンッ!

「…!?キユ…ミ…?」
背後でパンッ!と物音がしてゆっくり振り向くと…キユミに抱かれていた清春が目を丸めキョトンとしてぽつんと地面に座っていて、キユミの姿は忽然と消えてしまっていた。
「キユ…ミ…?」
「なるほど。神と神の血を引く貴方がた父子には通用しませんでしたか」


スタッ、

青髪悪魔少年は木の上から飛び降りると、無表情のまま2人にゆっくりゆっくり近付いてくる。
















一方ヒビキの時同様、突然姿を消したキユミにアガレスは目を見開き、壊れた機械のようにキユミの名前を繰り返す。
「キユミ…?キユ…ミ…?キユミ…?」
「ご安心下さい。ちゃんと生きております。キユミさんは彼女の兄と共に僕達悪魔の巣窟魔界に飛ばしました」
「悪魔の…巣窟…?魔界…?」
「ええ。そこで生かしております。悪魔として」
「!!」



ドガッ!


アガレスは目を見開き血相変えると、体内から人骨の刺さった黒い槍を取り出し、それで青髪悪魔少年を殴る。しかし青髪悪魔少年は顔色一つ変えず、打たれて赤く腫れた頬に手を添えるだけ。
「貴様!キユミに何をした!!」
「救ってあげただけです。アドラメレク達神々の手に渡れば確実に彼女も彼女の兄も先程の彼女の両親のように抹殺されていましたよ」
「救ってあげただと!?人間を悪魔にしておいて救ってあげただと貴様!!」
「そんなに目くじらたてて。全ては貴方が蒔いた種ではありませんか。アガレス神」


ズドッ…!

「が…!はっ"…!!」
青髪悪魔少年はやはり顔色一つ変えないまま、アガレスの口内に腕を突っ込んだ。口内からボタボタ!と青い血を流すアガレス。


ズルッ…、

腕を口内から引き抜くと、アガレスの青い血で汚れた腕を真っ黒いハンカチで拭う青髪悪魔少年。
「ゲホッ!ゲェッ!ゲホッ!!」
むせかえり、踞るアガレス。
「お…お…お父さん!!」
駆け寄って来た清春。
「来るな清春!!」
「おやおやこれは。清春さん自ら僕の元へ来てくださるとは」
「!」
アガレスに駆け寄ってきた清春の前に立ち、頭を撫でる青髪悪魔少年。アガレスは目を見開き…


ガンッ!

青髪悪魔少年の頭を槍で殴った。青髪悪魔少年はやはり顔色一つ変えず、アガレスをジッ…と見る。
「……」
「はぁ"…はぁ"…、清春に…俺達の息子に触れるな下劣な悪魔が!!」
清春を抱き締める。しかし先程の攻撃で口内からはボタボタと青い血がひっきりなしに流れ、体がよろめくアガレス。清春はアガレスに抱き付きながら涙を流し、アガレスを心配する。
「お父さん!お父さん!血がいっぱい出てるよ!お父さん死んじゃダメ!死んじゃ嫌だよお父さぁん!!」
「……。大罪を犯した身分で父親面をするとは。面白いヒトですねアガレスさん貴方は。ですが。清春さんにも我が魔界へ来て頂きたい。清春さんのようにこの地球上初めての、神と人間の子供をアドラメレク達に奪われるわけにはいかな、い"ぃ"っ"!?」


ドスン!

「!!」
青髪悪魔少年がギョロン!と白眼を向いて頭から真っ黒い血を噴いて倒れる。背後には、青髪悪魔少年の頭を殴ったベルベットローゼの姿が…。


スゥッ…

しかし。青髪悪魔少年はスゥッ…と消えてしまう。ベルベットローゼはガン!と地面を蹴り、悔しそうにする。
「くそっ!今まで見せていた姿は幻影だったかあの悪魔小僧!」
「っ…!」
「よお…。アガレス。てめぇ散々な事してくれたじゃねぇか。先輩のオレに内緒でよぉ」


ダッ!

アガレスは清春を抱き抱えたまま、顔を真っ青にして森の中へと逃げていった。
「何だよ。あいつあんなにへっぴり腰だったか?まあどこに逃げようが、オレらに捕まる運命なんだよ。だろ?アドラメレク」


スタッ…、

ベルベットローゼの背後にヒトガタではないアドラメレクが現れる。
「ええ。勿論ですとも。わたくし達神々の面汚しアガレス氏は葬り去らなくては」

























森の中―――――


ゴオォッ…!

ココリ村の方からは、ゴオォッやバチバチといった、村が燃える音が聞こえてくる。真っ暗な森の中に身を潜め、清春をきつく抱き締めるアガレス。
「キユミ…!キユミ…!俺のせいだ…、キユミ…!」
「お父さん…」
「清春…大丈夫だ。俺が守る。お前は俺が絶対に守、」
「どうしてお母さんいなくなっちゃったの…?」
「清春…?」
清春がアガレスをドン!と押し退けるから、アガレスは目を丸めて清春を見る。
「清春…?どうした?清、」
「どうして!?お父さんどうしてお母さんを守ってあげなかったの!?」
「…!」
両手を強く握り締め、顔は怒っているのに涙をボロボロ流す清春。アガレスは口をパクパクさせるだけで、清春に何と言えば良いか分からない。
「喧嘩してたから!?だからお母さんを守ってあげなかったの!?お父さん!嫌だよ!お母さんいなくなったら僕嫌だよ!」
「……。すまん。全部…全部俺のせいなんだ清春」
「お母さんを取り返してこようよ!お父さん!ねぇお父さん!」
「…すまん」
「…!」
清春は目を見開き、一歩また一歩後ろへ下がり、アガレスから離れていく。アガレスは、そんな清春の右手を掴む。
「清春。だがお前は大丈夫だ。お前は俺が絶対に守ってやる。だから安心しろ」
「お父さんのせい…なの…?」
「…ああ」
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが死んじゃって…ヒビキ叔父さんと…お母さんがいなくなったのも…僕達の村が燃えているのも全部…お父さんのせい…なの…?」
「……。すまない」
「本当ほんとう。可哀想な子ですわ清春君」
「!その声は…!!」
頭上から聞こえた声。アガレスは一目散に清春を抱き締めに走るが…、


ひょいっ、

「!」
「あらあら。貴方にはお渡しできませんことよアガレス氏」
アドラメレクが清春をひょいっ、と持ち上げてしまった。
「返せ!アドラメレク殿!」
「なぁにが返せ!だ。クソアガレスがよォ!!」


ドガン!

「ぐあ"あ"!!」
背後からベルベットローゼに頭を蹴り飛ばされ、地面が抉れる程吹き飛んだアガレス。しかしすぐに武器である槍を取り出し、ベルベットローゼに向ける。
「俺はただ!ココリ村やキユミ達を幸せにしたかった!それだけなんだ!神として何が間違っていたというんだ!」
「貴方本当に煩わしいですわよアガレス氏」


バキッ!

「なっ…!?槍が…!」
背後からアドラメレクに呆気なくへし折られてしまったアガレスの槍。
「余所見してる余裕ねぇだろ!クソガキ!」


ガン!

「う"あ"あ"!!」
再びベルベットローゼに蹴られ、そのまま頭をぐりぐり踏みつけられる。















「嗚呼。何て気持ちが良いのでしょう。ベルベットローゼ。もっとおやりなさい」


ガン!ガン!

「ぐあ"あ"あ"あ"!!」
強く何度も何度も踏みつけられるアガレスの頭。
「へっ!いいザマだぜクソアガレス!てめぇがバカしたお陰でヴァイテルを仕切るオレまで天界の神々から笑い者にされたんだぜ。死んで償えよ天界の面汚しが!!」


ガンッ!!

「あ"あ"!!」
トドメの一撃。今までで一番強く踏みつければ、アガレスはもうピクリとも動かなくなる。
「へへ。どうよ?アドラメレク」
「素晴らしい蹴りでしたわベルベットローゼ!さすがわたくしの親友ですわ!」
「へへ。こんなまだガキの神の1人や2人、朝飯ま…ぎぇえええ!!ななな何だよこいつの血!!」
「血?」
アガレスの頭を踏みつけた足の裏を見ると…ベルベットローゼの足の裏には真っ黒い不気味な血がべっとり付着していた。それを見たアドラメレクも青ざめる。
「きゃあ!そ、その薄汚い黒い血は悪魔の血ではありませんこと!?」
「ぎぇえええ!!気持ち悪りぃ!気持ち悪りぃ!汚れる汚れる!体が腐る!ぎぇえええ!!」
ベルベットローゼはまるで潔癖性のように、足の裏を何度も何度も地面に擦り付けて汚れを拭う。アガレスは身動きがとれず、地に付したままぼやける視界で彼らの様子を見ていた。
「アドラメレク!!こいつは此所に捨てて行こうぜ!悪魔化したこんな薄汚ねぇ奴、天界へなんて連れて行けねぇぜ!!」
「そ、そうですわね…。まさかさっきの悪魔が既にアガレス氏を悪魔化させていたなんて…。…ふふ。でもまあ…。わたくしの元にはこの、地球上初めての子供がいますからね」
アドラメレクに気絶させられた清春が、アドラメレクに抱えられている。
「行こうぜ!アドラメレク!」
「ええ。では村を焼いているマルコと御子柴と合流致しましょう」


バサッ…!

アドラメレクとベルベットローゼが互いの翼を羽ばたかせ、空を飛んでいく。
「あ"…あ"…ま"…て…待って…くれ"…きよ…は…る…」
動けない右手を、遠ざかっていく清春に伸ばす。しかし、その思いと右手は届かず。
「清…春…、を…返…じ…く…れ…、」


バタン…、

右手は力無く落ち、アガレスの視界は真っ黒になった。


バチバチ…、

皮肉な事に、新しい朝を迎えた優しい朝陽が雲の隙間から射し込んだと同時にココリ村をココリ村の住人を焼き付くした炎は消えた。辺りには、まだ微かに燻る火の音と人間の焼けた生々しい臭いが充満していた。




























そして現在―――――


ゴオォッ…!

「あの時…と…同じ…だ…」
ベルベットローゼとダイノワ神が去った直後。
ココリ村からは真っ赤な炎が上がり、人々の悲鳴が聞こえてくる。体を破裂させられたアガレスは、254年前のあの日と同じように体が動かせず情けなく地に伏している事しかできずにいる。
ただ一つあの日と違う事と言えば。意識が遠退いていく感覚…心臓の鼓動がゆっくり終わりに近づいていく感覚…そう、死が迫っている感覚に襲われているという事か。
手の中をゆっくり開くとそこには、もう原型を留めていないくまのキーホルダーと、錆びた指輪が。
「ぁ"…、だ…い"…、死にた…ぐ…な"…い…」
「生きたいのですか?」
「…?」
ぼやける視界をゆっくり上に向けると。いつの間に現れたのか…あの時の青髪悪魔少年が立っていた。やはり無表情で。
「だ…い"…、」
「だから言ったではありませんか。貴方は魔界へ来るべきだと。神だった貴方が。悪魔となった貴方が。人間を装って下界で暮らすにはその体は不便過ぎる、と…」
青髪悪魔少年は手を差し出す。しかし、瀕死の状態でもアガレスは悪魔の手をとろうとはしない。
「強情ですね。僕ならいえ僕しか今の貴方を生かす事はできないというのに。大神アドラメレクでも無理なのに。…それならそれで良いのですよ。貴方には死んで頂きましょう」


ガンッ!!

「ぐあ"あ"!!」
瀕死の状態のアガレスの頭を、高いヒールで容赦無く踏みつける青髪悪魔少年。アガレスは血を噴く。長時間陸にあげられて死ぬ寸前の魚のようにピク…ピク…としか動かなくなったアガレスの耳元で囁く。
「お辛いでしょう。貴方はもうこれでは5分と経たない間に息絶える事でしょう。辛いでしょう…。ならば僕に乞いましょう。生かして下さい…と」
「っ"…ぅ"…、」
「いつまで強情を張っているのです。悪魔に頭を下げる事はプライドが許しませんか?貴方はまだ神気取りだ。神でも人間でも天使でもない悪魔となった貴方が頼るべき種族はたった一つのはずですよ…」


ガッ!

力は無いものの、青髪悪魔少年の足首を掴んだアガレス。ゆっくりゆっくり顔を上げ、白く濁ってきた瞳で青髪悪魔少年を見上げる。
「れ"…、」
「聞こえません…」
「だ…げ…れ"…、」
「嗚呼…もう5分が経過してしまいますよ」

『私も…幸せ過ぎて怖いくらいの毎日を過ごせています』
『アガレス君好きっ…』

キユミとメアの笑顔と言葉を思い出せば、アガレスは目を見開き、口を大きく開けて最期の力を振り絞る。
「生きたい!!助けてくれ!!」
無表情だった青髪悪魔少年が、初めてニィッ…と笑った。
「Happy Birthdayアガレス!貴方は今日から正式に悪魔となりました」
すると青髪悪魔少年は今までの無表情から別人のようににこやかに微笑むと、胸に手をあて、紳士さながらに一礼する。
「嗚呼申し遅れました。僕は魔界でヒビキ様にお仕えする従者ユタと申します。以後、お見知りおきを…」













































18:30、
ヴァンヘイレン宿舎――

「はぁ…」
宿舎の屋上で1人。手摺に腕を乗せて溜め息吐くメア。首都アンジェラの美しい夜景が、悲しいメアの心情を更に悲しませる。
「あの夜景が見える街でアガレス君と買ったんだよなぁくまさん…」
ポケットから顔を覗かせるくまのキーホルダーを手に取るメア。今にも泣き出してしまいそうな顔をして。
「アガレス君…まだ持っていてくれていると良い…な…」
メアは手摺に乗せた腕に顔を伏せる。
「私が言ったせいだよね…。あんな言い方しなきゃ良かったよ…。アガレス君…寂しいよ…」


キィ…

屋上の鉄の扉が微かな音をたてて開かれる。しかし、メアはその音にすら気が付いていない。
「ぐすっ…、ぐすっ…」 腕に伏せた顔からは、小さな泣き声が聞こえる。
「メアさん…」
「!」


ビクッ!

誰も居ないと思っていたのに突然名前を呼ばれ、ビクッ!と体を震わせるメア。急いで涙を拭ってから、振り向くと…。
「し、椎名君…?」
まさかの来客。そこには、右目に眼帯をつけたあの椎名が立っていた。長期任務から帰還したまだ1年生にも関わらずヴァンヘイレンのエースと呼ばれる椎名が。
相変わらず目の下の隈が酷いしどこを見ているか分からないしアガレスとは違った意味で無表情な彼。
「ど、どうしたの?」
「さっき先生から言われたんだけど…僕…今日から…メアさんのメア班に入ったから…挨拶…しようと思って…。メアさんが…班長だって…聞いたから…」
「え…。あ…そ、そうなんだ!うん!よろしくね!別に挨拶なんて明日学校ででも良かったのにっ!」
――怖い人かと思ったけど…実は良い人なのかな――
律儀に挨拶を来る姿に少し驚きつつも、持ち前の明るさで笑顔を向けるメア。












「夕食…」
「え?」
「夕食…行かない…?メアさん夕食まだだって…ナタリーさんから…聞いた…よ…」
「あ…わ、私は今日いいや。何か食欲…無くて…」
「……」
メアは顔の前で両手を合わせて謝る。
「ごめんねっ!せっかく誘ってくれたのに」
「腹が減っては…戦は…できぬ…」
「え?」
「少しでも良いから…食べないと…戦えないよ…」
「あ…。そ、そうだよね。うん…」
――私は人間じゃないから食べなくて平気なんだけどね…。寧ろ食べれないもんね…。でも食べに行かないとこいつ神なんじゃないのか?って怪しまれるかな?それに…せっかく椎名君が声を掛けてくれたんだもん。私もいつまでもアガレス君を引きずっているわけにはいかないよね…。椎名君は私とアガレス君に何があったかは分からないけど、椎名君がきっかけを作ってくれたんだから…アガレス君の事は忘れなきゃ。ヴァンヘイレンとして人間をアドラメレク達から救うのが私の仕事でしょ!――
自分に言い聞かせると、メアはニコッと微笑む。
「うん!ありがとう!私も一緒させてもらうねっ」
メアの返答に、椎名の口元が少し笑った気がした。























夕食後―――――

「ふぅ。ごちそうさま!」
時間が遅かったからか、食堂には生徒はメアと椎名の他に数人しか居なかった。夕食を食べ終えた2人は、食堂を出て廊下を歩く。
「美味しかったねっ。今日のコーンポタージュ!」
「僕は…ああいう西洋の食べ物は苦手…かな…」
「あ…そ、そっか…。あ!椎名君って椎名奏君っていうんだよね?もしかして日本人?」
「もしかしなくても…日本人だよ…」
メアは両手を合わせる。
「やっぱり!私ね、日本に知り合いがいて…、」
知り合いとは御殿と由樹の事なのだが、そこでメアの脳裏に2人の悲惨な結末が蘇ってしまい、一瞬にして表情が曇る。
「し…知り合いがいて…うん…に、日本に行った事あるんだぁ…」
「……」
「椎名君どこの出身?」
「京都…」
「京都…」
御殿が祀られていた京都。またしても御殿を思い出してしまい、しゅん…とするメアを椎名は顔色一つ変えずただただ隣を並んで歩きながら、ジッ…と見ていた。
「そういえば…」
「え?」
「メアさんの班…もう1人いたんだよね…」
「あ…。う、うん…。でもヴァンヘイレン辞めちゃったみたい」
「どうして…?」
「分かんないっ。元からよく分かんないヒトだったから」
「……。ふぅん…」
「あ。私の部屋、こっちのA棟なんだ」
別れ道に差し掛かるとメアは立ち止まり、左を指差す。椎名は右を指差す。
「僕は…B棟…」
「じゃあここでばいばいだね。明日からよろしくねっ」
「うん…よろしくね…」
メアはタタタ…と走りながら、笑顔で椎名に手を振り階段を登っていく。
椎名も顔と性格に似合わず、無表情だがメアに手をゆっくり振っていた。
メアが見えなくなると、くるり…と踵を返して自分の部屋があるB棟への階段を登っていく。


スッ…

登りながら、ブレザーの内ポケットから1冊の小さな手帳を取り出し、何やら書き込んでいるようだ。
「メア・ルディ…食欲良好…。神である可能性は低い…がまだ油断は禁物…と」






























翌日、放課後――――

「はぁ〜。今日の仮想訓練疲れた〜」
「ふふ。でもトム、パーフェクトで素晴らしかったですわ」
「あ、あ、ありがとなっアイリーン!」
授業が終わり、1Eの生徒達はぞろぞろと教室を出ていく。
「メアちゃん。一緒に宿舎戻ろう」
「あ!ごめんねカナちゃん!私今日掃除当番なんだ。先行ってて!」
「分かったよ。また後でねメアちゃん」
「うんっ!」
カナにばいばい、と手を振るとメアは鞄を担いで掃除場所へ行こうと席を立つ。前の前の席には、まだ座っている椎名の背中が見えるが。
「メアさん…」
「ふぇ!?な、何?椎名君?」
背中を向けたまままた突然名前を呼ばれ、すっとんきょうな声が出てしまったメア。椎名は座ったまま無表情のまま、ゆっくり後ろを向く。
「アンジェラの街に…美味しい…フレンチトーストをおいている喫茶店があるんだって…。掃除が終わったらどう…かな…」
「え!?あ、あ、私フレンチトースト苦手なの。ごめんね?本当にごめんね?また明日ね!」
「分かったよ…」
また顔の前で両手を合わせて謝ると、メアは走って教室を出ていった。教室の中からメアを目で追い、姿が見えなくなると椎名はまた内ポケットから手帳を取り出して書き込む。
「失敗…。昨日は食事後…手洗い場に一度行っているからメア・ルディはまだ怪しい…。様子を見て次…再度食事に誘い…神かどうかを…見極める…」




















同時刻、天界―――

「ッシャー!これでバカな後輩クソアガレスはおっ死んだぜ!」
「あら…よくやったわねぇベルベットローゼ…」
講堂にて。ソファーに大股を開いて座るベルベットローゼ。向かいには床に敷いた座布団にちょこん…と座って神用のお茶を啜る御子柴。
自分達の持ち場から帰ってきた2人が談笑していると。ふ、と御子柴が目線を右に移した途端、御子柴は顔を真っ青にしてガタガタ震え出す。ベルベットローゼは「あん?」と言う。
「あ…ああ…ああ…な…何てことなの…」
「あん?顔青くして。どうしやがったよ御子し…んなっ…!?何でだよ!?」


ガタン!

立ち上がるベルベットローゼ。
2人が顔を真っ青にして見つめる先には。頑丈な鉄の扉と頑丈な鎖で封じられていた部屋。その扉と鎖が見事にバラバラに破壊され、扉が空いているのだ。
以前2人が談笑している時に扉の中からダン!ダン!と叩く音がしたあの扉だ。(9話参照)
「あんなに頑丈にした扉…!中からぶっ壊したってのかよオイ!?」
「そそ、それより…!中には誰もいなくなっているわよ…!?あの子まさか逃げたんじゃない…!?」
「チッ!クソが!!親もクソなら子もクソってか!!まずいだろこれ。アドラメレクお気に入りのあいつが逃げたなんて事がバレちまったらオレら説教くらうぜ!」
「ひぇえ〜…」
「御子柴!下級神々を呼んで天界中を探すぞ!マルコには言うなよ!あの野郎ぜってぇアドラメレクにチクるからな!」
「が、合点承知よベルベットローゼ…!」
「くっそが…!どこへ逃げやがった清春!!」
ベルベットローゼと御子柴は講堂を飛び出し、天界中を探しに行った。



































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