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GOD GAME
ページ:3
チラッ…とキユミを見てすぐ、目線を反らすアガレス。
「本当にいつもありがとうございま、」
「…よく似合っている」
「え?」
「〜〜〜っ、よく似合っている」
「!!」
顔を下にするが、顔は勿論耳まで真っ赤に染まるアガレスを見てびっくり。いつも仏頂面で声に抑揚が無くて、やっている事は優しいのだが正直アガレスの雰囲気は怖くて近寄りがたかったキユミ。
だが、今までのそんな怖さも吹き飛ぶとキユミも顔を真っ赤にしてぼろぼろ涙を流して泣きながら微笑む。
「ありがとうございます!!本当にありがとうございます!!私の家貧しいからプレゼントを貰った事一度も無くて…。だから、アガレスさんがくださったこのリボンが生まれて初めてのプレゼントです!ありがとうございます…!」
「〜〜、」
「私からも何か贈らせてもらいたいんですけど…。アガレスさん何かお好きな物とかありますか?あまり高価な物は買えないんですが…」
「いらん」
「え…そ、そんな事言わないで下さい!まだ何もお礼をしていないので…。本当、何か欲しいものがあったら遠慮せずに言ってくださいね!」
「お前」
「え?」
体育座りした膝に真っ赤な顔を埋めてボソッ…と呟いたアガレス。キユミは、全く理解できておらず…。
「オマエ?オマエって食べ物か何かですか?」
「だからキユミ・オト」
「キユミ・オト………え?え…ええぇえ!?あああああのっ!!アガレスさん!?」
さん!?の部分が裏返ってすっとんきょうな声を出すキユミ。全身真っ赤に熱くなる。
アガレスはまだ、真っ赤な顔を埋めたまま顔を上げようとしないし見せようとしない。















キユミは真っ赤になりながら両手を前に突き出して振る。
「いえいえいえいえ!私なんて私なんて!そそ、それに私男性とお付き合いした事が無いですし、そういう事は私にはまだ早いのでですからごめんなさ、」
「絶対幸せにしてやる!」
「えっ!」
立ち上がったアガレスは、キユミの目をジッ、と見て声を上げて言う。今まで顔を見せようとしなかったし淡々とした喋りしかしていなかった彼の変化に、キユミは顔を真っ赤にしたままキョトン…。
「あああのっ!私!ごめんなさ、」
「絶対幸せにしてやるしそんな古びた服ではない新しい服を買ってやるし、食べたい物だって買ってやるし毎日重い荷台を引いて野菜を売りに行く過酷な事は俺が代わってやるし、それにだ!俺が行かなければ町で野菜が売れない事が判明しただろう!」
「あ…は、はい!あれってどうしてなんですか?」
「教えん」
「がーん…!」
「だから俺が売りに行けば野菜が売れて貴様の家の生計も成り立つ。一石二鳥なんだから、断るな!俺が絶対幸せにしてやる!」
「…!」
キユミは少し照れくさそうな笑顔を浮かべながら涙を流す。
「は、はい!わ、私で良ければ…!よ、よろしくお願いします!」
「ああ。よろしくな」
頭を撫でながら優しくキユミを抱き締める。お互い恥ずかしそうに…だが幸せそうに微笑んでいた。
向かい合って両手を繋いだまま微笑み合う。
「とても嬉しかったです!私達ココリ村の住人は母国から嫌われていますから…」
「国王や町の人間が馬鹿なだけだ。体に障害があるにも関わらず毎日懸命に生きるココリ村の住人を疎外する国王や町の人間はいつか天罰が下される」
「神様からですか?」
「ああ」
「ふふっ。アガレスさん何だか神様みたいな事言いますね。私、ずっとアガレスさんの事を神様だと思っていたんですよ」
「……。何故だ」
「だってアガレスさんが来てから私の家で作った野菜が途端に売れるようになったんですよ。アガレスさんはオト家を助けに来てくださった神様なんじゃないかな、って。家族も全員そう言っています」
「残念だが俺は神なんかではない」
「ふふ。分かってます。でも神様みたいな存在って意味ですよ」
「……」
「あ。そうだ。家族といえば。これからずっと一緒にいれるのですし、私の家族に会って下さい!今までのお礼も兼ねて…あ。」


スッ…、

手を自ら離してしまうアガレス。しかし、微笑んだまま。
「明日でも良いか」
「今日じゃダメですか…?」
「すまん。これから所用があってな」
「分かりました!じゃあ明日またこの川縁で待ち合わせしましょう」
「ああ。そうだな」
「ふふっ。お父さんもお母さんもお兄ちゃんも喜びます。オト家を救ってくれたアガレスさんが私とずっと一緒にいてくれるって言ってくれて。幸せ続きです!」
幸せそうににこにこするキユミを見ている事が幸せなアガレス。
















「おーい。キユミちゃーん」
「あ。牛飼いのおじさんだ。おはようございまーす!」
川縁から、向こう岸で牛を連れて手を振る老父に手を振り返すキユミ。朝靄で老父の姿は時折隠れてしまうが、そこに居る事ははっきり分かる。
「キユミちゃーん1人で何しているんだーい?」
「え?私は1人じゃないですよー!あ。ちょうど良かった。おじさーん!私の隣にいらっしゃる方が私とこれからずっと一緒に居てくれるって言ってくださったアガレスさんです!」
「隣に?キユミちゃんの隣には誰も居ないよ?」
「え…?」
キユミがバッ!と隣を見ればアガレスはちゃんと立っている。しかし、下を向いているが…。
「ま、いいかー。キユミちゃーん。わしは町へ牛乳を売ってくるからまたねー」
「あ…は、はーい…!」
ガラガラ…ガラガラ…
荷台を押して村を出ていった老父。
「あはは…へ、変…ですよね…おじさん…。アガレスさんは此処に居るのに…。見えなかったのかな…?」
「朝靄で見えなかったのではないか」
顔を上げたアガレスは優しく微笑んでいた。隣にちゃんと居た。キユミはホッとした笑みを溢す。
「あ!なるほど!きっとそうですよね。霧がすごい濃いですもんね。おじさん側からだとちょうどアガレスさんが霧に隠れて見えなかったんですよね!」
「じゃあ。明日此処にな」
「はい!」
にこっ…、微笑むとアガレスは踵を返して去っていった。朝靄の中、消えるように。
「……」
その背中が見えなくなるまでキユミはどこか悩ましげに見つめていたそうな。























天界―――――――

「はあ?!今度は人間に姿が見えるようになる方法を教えてくれだぁ!?」
天界でまたもベルベットローゼに頼みにやって来たアガレス。マルコと御子柴とトランプ中のベルベットローゼ。
「アガレスてめぇ、そんな事して何がしてぇんだ?つーかこの前はヒトガタになる方法。今日は人間に見える方法。てめぇどうかしたか?」
「ベルベットローゼ殿達はできるのだろう。俺もその方法を知りたくなっただけだ」
「てめぇなぁ…。てめぇとオレらとじゃ30億も年の差があるわけよ。だからまだ2000才の生まれたてヒヨッコのてめぇはそんなにたくさんの技を取得できなくて良いんだよ。安心しろ」
「頼む。今日中に取得させてくれ」
「てめぇなぁ…」
「良いじゃないの…向上心があるのは良い事よ…」
御子柴がトランプで口を隠してクスクス笑いながら味方になってくれた。
「お嬢様もアガレス君をいずれ幹部入りさせたいご様子ですし善は急げと言います。教えておあげなさいベルベットローゼ神」
「御子柴!マルコ!てめぇら自分が教えなくていいからって…!はぁ…。分ーったよ。教えてやんよ。こっち来いアガレス」
パアッ!と目を輝かせるヒトガタのアガレス。
「本当か」
「ああ。ベルベットローゼ様直々に教えてやるよ」
「感謝する。ありがとう」
「〜〜っ、んな笑顔向けんなよ調子狂うだろうが!」
「フフフ…ベルベットローゼ貴女今…顔真っ赤よ…」
「んなわけあるかよ御子柴ァ!!」


























翌日、ココリ村――――

「よくお出で下さいました!キユミから話は聞いています。狭い家ですが、どうぞお食べ下さい!」
ついにオト家へやって来たアガレスを、幸せな笑みで迎えた母親、兄ヒビキ。そして車椅子に腰かけて喋れないながらもにっこり微笑む父親。
アガレスはペコリ、頭を下げるとキユミの隣の椅子に腰掛ける。テーブルには、とてもご馳走とは呼べないがオト家にとったらご馳走のスープや、パンの山、サラダがある。
「アガレスさん…でしたよね?」
にこにこした母親の問いに頭を下げるアガレス。
「すごい!アガレスは神様の名前ですよね?アガレスさんが来てくれてからうちの野菜が売れて、しかも名前は神様の名前アガレスさん。私も夫もヒビキもずっと会いたがっていたので、今日お会いできて本当に良かったです!」
「ああ。こちらもだ」
「そ、そしてキユミから昨日伺ったのですがアガレスさんはうちのキユミを貰ってくださると…?」
「良いんだよな。キユミ」
「ははは、はい!!」
パアッ!と明るくなる両親と兄ヒビキの顔。
「良かったねぇキユミ!」
「本当に良かった。僕も嬉しいよキユミ」
「良が…だ…キユ…ミ…」
父親は喋る事が困難ながらも涙を流して祝福してくれるから、キユミはつられてもらい泣き。
「さあさあ。アガレスさん。まだ料理にお手をつけておられませんよ。是非お食べください」
「申し訳ない。今日は体調が優れない故、いただけない」
「そうでしたか…」
「キユミ。俺の分をお前にやる」
「え!?」
「普段と違い今日はご馳走なのだろう。ならキユミが食べろ」
「は、はい!」
家がボロボロでも。身なりがボロボロでも。貧しくても。今日のオト家は皆が、一流貴族には負けない満面の笑みを浮かべて幸せを分かち合っていた。



























「おーい!アガレス君やー!こっちも手伝ってくれるかねー!」
「分かった。今行く」
月日は流れ。あれから6年が過ぎた。ココリ村にすっかり馴染んだアガレスは、村人全員と打ち解け、今はオト家のみならず村の住人の農産物や畜産物も町へ売りに行くようになっていた。
やはりアガレスが町へ売りに行けば、今まで全く売れなかった品が完売。それ故、アガレスはココリ村全員から"神様"と崇められていた。


ザクッ!ザク!

牛飼いの老父の家で一緒に鶴嘴で畑を耕すアガレス。
「いやぁ。アガレス君本当毎日ありがとうね。妻も子供もいない独り身のわしには本当に助かるよ」
「そうか」


ザクッ!ザク!

「昔は、キユミちゃんがアガレス君と一緒に居ると言ってもわしには見えなかったんだよ。けど今はこうしてちゃんと見えて会話もできる。あの当時はアガレスという神様の名前もあって、わしにはキユミちゃんは普通の人間には見えない神様と話しているように見えたんだよ」
「…そうか」
「アガレス君出身は何処だい?」
「……。ヴァイテルのイースト地方だ」
「ほう。何故またこの村に?体に障害を抱える人間が疎外されるこの村に、アガレス君のような五体満足な人は珍しいねぇ」
「……」


ザクッ!ザク!

炎天下の中、黙々と田畑を耕す2人。
「おーい!そろそろみんなで休憩にしないかー」
「お。良いねぇ。ほら。アガレス君も」
「ああ」
他に農作業や家畜の世話をしていた住人達と広場に輪になって休憩をとる。皆がぐびぐび喉を鳴らして水分補給をとるのに、アガレスは一滴も飲まない。いや、飲めない。















「ぷはぁ!それにしてもアガレス君が売りに行ってくれた商品が全部売れて。お陰でココリ村の経済は右肩上がりだよ」
「アガレス君様々だねぇ」
「よっ!ココリ村の救世主」
「そういえば。清春君は元気にして、」
「お父さーん!」
「お。噂をすればなんとやらだ」
パタパタ足音をたてて農夫達の輪の中へやって来たのは。アガレスと同じ青い髪に青い瞳をした、小さな男児。
「お父さん!」


バフッ!

アガレスに一直線。抱き付くと子供の無邪気な笑顔で甘える。この男児は、アガレスとキユミの息子『清春』当時5歳。
「清春」
「お父さんあのね!お母さんがお父さんにこれ持っていきなさいだって!」
清春が持ってきた黄色い風呂敷の中には、タッパに入ったイビツなクッキーが5枚。清春は照れる。
「お母さんと一緒に作ったんだよ。お父さん食べてね!」
「ああ。後で貰うな」
アガレスが笑顔で風呂敷に包み直す。
「清春君こんにちわ〜」


ササッ!

農夫達が優しい笑顔で清春に挨拶をすれば、清春はアガレスの後ろに隠れてしまう。これはいつもの事。だから農夫達は優しく笑う。
「おやおや。清春君は恥ずかしがりやさんだね〜」
「すまない。キユミに似たらしい」
アガレスの後ろに引っ付いて顔を真っ赤にして恥ずかしがる清春を、前へ出す。
「清春。挨拶しろ」
「〜〜〜!」
「挨拶もできんと世間に出れないぞ」
「〜〜!ここ…こんにち…はっ…!」
「おお!よく頑張ったね清春君!」
「頑張った頑張った!」
「こんにちは清春君!」
パチパチパチ!
農夫達は優しく盛大に拍手をしてくれた。清春はアガレスを見上げる。アガレスが頭を撫でてやれば、また甘えて抱き付くのだった。























晩―――――――

「清春の人見知りはどうにかしないとだな」
3階建ての自宅オト家の3階がアガレスとキユミと清春の部屋。
小窓から月夜を眺めるキユミの膝の上で読書をする清春。アガレスはベッドに腰掛ける。
「ごめんなさい。私に似ちゃったんです」
「悪いとは一言も言っとらんだろう。だが今日は頑張ったな、清春」
「う、うん…!」
「え?清春どうしたの?」
「〜〜〜!」
清春に聞いても清春は本で顔を隠してしまう。
「農夫達に挨拶ができた」
「まあ!すごい!清春頑張ったね。偉い偉い」
キユミが頭を撫でてあげれば更に顔を真っ赤にして本で頭まで隠してしまう清春。
名前が何故清春という日本名かというと。キユミの母親が日系人であるからだ。父親はヴァイテル出身。だからキユミの名前も本来『清癒美』という漢字名を元に付けられた。兄のヒビキは『響』を元に。
母親のキユミから一文字とり、そして産まれた時期が4月1日=春という事から『清春』と名付けた。














「お父さんお父さん!この字、何て読むの?」
パタパタ走ってきてアガレスに本を差し出す清春。
「家族の中だと元気が良いんだがな」
「ふふ。清春は本当に人見知りだね」
「お父さん!!」
「分かった分かった。これはspringと読む」
「へぇ〜。ありがとうお父さん!」
「そろそろ寝る時間だぞ」
「はーいっ!」
清春は本を背伸びして本棚へ片付けるとベッドにゴロン。と横になり、1分と経たない内に眠ってしまった。アガレスは肩を竦め、キユミは微笑ましそうに笑う。
「もう寝ちゃいましたね」
「人前で疲れたのだろう」
アガレスは清春に布団をかけてやるとベッドから下りて、キユミが腰掛けている椅子の隣に腰掛け、一緒に月夜を眺める。
「本当…アガレスさんがこのココリ村に来てくださってからココリ村もオト家もそして私も…幸せ過ぎて怖いくらいの毎日を過ごせています」
「何だ。突然」
キユミは笑顔なのに、どこか切ない目をして満月を見る。
「この幸せがこのまま…一生続かないような気がして…」
「本当、悲観的だな」
「ご、ごめんなさ…、…!」
腰掛けたままきつく抱き締める。キユミはアガレスの胸の中で目をぱちぱち。顔は真っ赤。
「絶対幸せにしてやると言った」
「は、はい…でも…」
「信じろ」
「……。アガレスさん…」
「何だ」
「アガレスさん…幸せを運んでくれるから…何だか神様みたい…ですよね…」
「……。またそれか」
「アガレスさん…神様じゃないですよね…?」
「はずがない」
「名前が神様のアガレスと同じな事も…昔、牛飼いのおじさんに見えていない事があったのも…私達の前で食事をとらない事も…、」
「俺は人間だ」
「…ごめんなさい。変な事…言って…」
「大丈夫だ」
ぎゅっ…、
更にきつく抱き締めてから見つめ合う。
「アガレスさん…」
キユミからキスをすれば、アガレスがキユミの頭を抱き寄せて、互いに深いキスを繰り返す。
「んっ…、お父さ…ん…お母…さん…だいすきっ…スー、スー…」


ビクッ!

清春が寝返りを打ちながら寝言を言うものだから、2人はビクッ!として離れる。
「ね…寝言か…」
「びっくりしました…ね」
「俺達も寝るか」
「はい」
清春を真ん中にして、ベッドに川の字になって幸せそうに眠る3人だった。だがアガレスだけは寝たふりをかれこれ6年間続けていた。人間ではない、睡眠をとらない神だから。





















その頃、ココリ村の上空からオト家を見下ろす4つの影が。
「…いきますわよ」


ドンッ!!ドンッ!!

「!?」
「な、何だ!?」
突然、巨大な地震が起きたかのような大きな縦揺れが起こり、アガレスは勿論、キユミも飛び起きる。
「うーん?なに〜?」
寝惚けている清春をきつく抱き締めるキユミ。
「アガレスさん…!?」
「地震か?」
「あ…!ア、ア…アガレスさん外を見てください…!」
「何?…!!」
小窓から外を覗けば何と、オト家の田畑やオト家の1階から真っ赤な火が上がっているではないか。顔を真っ青にし、炎を清春に見せないようにぎゅっと抱き締めるキユミ。
「お前の両親の元へ行く!」
「アガレスさん!」
1階は体の不自由な両親の寝室がある。アガレスは部屋を飛び出して階段を駆け下りていく。すると、2階の自室からヒビキも部屋を飛び出してきた。
「あ!アガレス君!」
「義兄さん」
「キユミと清春君は!?」
「無事だ。俺は両親の元へ行く。義兄さんはキユミと清春を連れて2階の窓から飛び降りてくれ」
「に、2階の窓から!?」
「1階は火の手が上がっている。ならば飛び降りて骨折するくらい、命に代えれば安いものだろう」
「う、うん。でも僕も手伝うよ!」
「いい。キユミと清春を頼む」
「あ!アガレス君!」
ゴオゴオと上がる炎の中を飛び降りていったアガレス。
「ヒビキお兄ちゃん!お父さんが…!お母さんが…!うわああん!」
「キユミ!」
泣き崩れるキユミを支えるヒビキ。清春には何が起きたのか全く分からない。
「大丈夫だ。アガレス君が助けに行ってくれたから。1階は無理だ。2階から飛び降りよう。この高さなら大丈夫だから」
「ひっく…ひっく…うん…!」






















1階―――――

「くっ…!一体何故火災が起きた!火は使っていないというのに!」
ゴオゴオと上がる炎の中。熱さに呼吸ができなくなりそうになりながらも、両親の部屋を見つけたアガレスは扉を蹴破る。


バァン!!

「義父さん!義母さん!」
「ああ!アガレスさん!」
「アガ…アガ…レス…さん"…!」
抱き合ってガタガタ震えていたキユミの両親。しかし無事な事にアガレスはホッとする。自分の上着を脱いで2人の頭にかぶせると、小窓のガラスを割り、先に母親を外へ出させる。
「外へ出たら俺が義父さんを連れて行くまでそこで待っていてくれ」
「は、はい!」
体の自由が全く利かない父親を車椅子から抱き上げるアガレスは、何とかそのまま小窓から外へ出る。義母と義父を外へ出してから、義父の車椅子を家の中から取り出していると。
「お父さん!お母さん!」
2階から飛び降りて無事だったキユミが清春を抱えて、ヒビキと一緒に駆けてくる姿が見えた。
「キユミ!ヒビキ!清春君!」
「おお…お…おお…!」
喜び駆け寄る両者を横目で見ながら、ホッと胸を撫で下ろすアガレス。炎が充満している寝室から車椅子を取り出した時。
「義父さん。これに乗、」


パンッ!

「なっ…!?」
キユミの両親の頭と体がまるで水風船が破裂したかのように、割れた。


ビチャビチャッ!

体内から真っ赤な血が飛沫となってアガレスとキユミ、ヒビキの顔に飛び散る。
「義父…さ…、」
「お父さん!お母さん!!」
「!」
ヒビキを押し退けて、涙を溢れさせて両親の元へ駆けてきたキユミ。しかしもうそこには、血塗れの肉片となった両親の残骸しかないから、アガレスはキユミの前に立ちはだかる。















「駄目だ。お前は見るな」
「嫌です!まだ…まだ!まだ治るかもしれない!今すぐ病院に行けば!」
「無理だ」
「そんな事ない!!きっと、きっと…!」
「無理だと言っている」
「そん…な…」


ガクン…、

「キユミ!」
真っ青な顔をして方針状態となったキユミはその場に力無く崩れ落ちる。駆け寄り、肩を支えてやるのはアガレスとヒビキ。
「アガレス君…これは一体何が起きたんだい…?」
「分からん」
「もしかしたら…ココリ村がここ数年繁盛している事に、ココリ村を毛嫌う国王が仕掛けたんじゃないかと思うんだ」
「それは一理あるな。まずはこんな目に合わせた犯人を見つけ、」
「こんな目に合わせた犯人?ふふ。よく言いますこと面汚しの分際で」
「!?」
聞いた事がある甲高い声にアガレスはゾワッ…!背筋に悪寒が走る。バッ!と振り向くと…。暗闇から現れたのは、ラバとクジャクの姿をしたアドラメレク。ドラゴンの姿をしたマルコ。大蛇の姿をした御子柴。そして、コウモリの姿をしたベルベットローゼが現れた。





















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あきゅろす。
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