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GOD GAME
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「どうしてですか!神だからと言って何をしても良いなんて事はないはずです!!」
此処は雲より遥か上。天界。人間を創造した神達が集う神聖な聖域。
人間界(下界)の中世ヨーロッパを連想させるゴシック調建造物。円柱が立ち並ぶ広い部屋には各国の神達が円になり集う会議。一国の神から小さな村の神までが集っており、その数は下手すれば小国の全国民数にも及ぶであろう。
ズラリ並ぶ神々から冷ややかな視線を受けても好戦的な眼差しを向けるピンク色の髪をした小柄な女の神。
「神だからと言っ、」
「お言葉ですがダーシー・ルーダ氏」
ガタン。
他の神々とは明らかに異なる豪勢で金色の椅子中央に腰かけた神が、肘掛けに頬杖着きながら口を開く。
「わたくし達は清く正しく人間を創造致しました。しかしどうです。最近の人間の暴挙は。私利私欲にまみれ愛欲にうつつを抜かす穢らわしく不浄な生き物に成り下がってしまった人間…。これは謀反です。人間による神への謀反です。罪ばかり犯す人間を造り直す事の一体何がいけないというのでしょう」
「これは善行なんかじゃない!元の人間を殺めて貴方の命令しか聞けない都合の良い性格に人間を改造するなんて、それは貴方の傲慢です!!神だからと言って気に入らない人間を簡単に殺めて良いなんて許されません!」
「ダーシー・ルーダ氏は罪人の肩をもつと仰るのですか?近年、愛欲による猟奇的事件も起きておられますよ?」
ダーシーと呼ばれる小柄な神は首を横に振る。
「違います!そうじゃないです!事件が起きたとしても下界にはちゃんと罪人を裁く機関があります!下界には下界のルールがあるんです!それを、私達が神だからと言って下界を天界の力で歪ませてはいけないんです!!それに、人間が人間を愛し合って幸せになる事の何がいけないんですか!」


ザワッ…

ダーシーの熱弁に神々は両隣の神々とヒソヒソヒソヒソ…。
「何て神だ」
「信じられない」
「私達神だからこそ醜悪な人間を裁いて良いというのに」
「ハッハハハ!さっすが正義感しかないダーシー神だぜ!」
「まだ若い神だ。経験が足りんのだろう」
「ダーシー様の地域はどちらで?」
「確かイングランドの…」
「イングランドの人間が哀れだな。あのような神が司る地域に生まれて」
「アガレスのようになるんじゃないか?」
「堕天されるでしょうね。ふふふ」
「しかしアガレス氏は別の理由で堕天されたのでは…?」
好奇の目を向けられても動じない強気なダーシーに、中央の席の神が立ち上がる。
「呆れました。さすがは愛欲神ダーシー・ルーダ氏。貴女のような醜悪な心の持ち主はこの聖なる天界に不要です」


ズズズズ…!

「!?」
中央の席の神がそう言った直後。ダーシーの体が真っ黒い闇に覆われてゆく。闇から顔を出そうと必死にもがくダーシー。












「きゃあ!?嫌…!何これ!?やめて!」


ザワッ…

初めて目の当たりにする光景に、神々は頬を赤らめ、涎を滴らせ楽しげに眺める。
「おお…!何と素晴らしい!さすがはアドラメレク様!!」
「反逆者に相応しい末路!」
「そうよ!アドラメレク様に逆らい、醜悪な人間共の肩をもつダーシー氏にはお似合いの末路だわ!」
「きゃああああ!!」
真っ黒い闇に飲み込まれたダーシーからの悲鳴に喜び、やんややんや歓喜の声を上げたり頭上で手を叩く神々。
闇の中が激しくボコボコ蠢く様を見て、中央の席の神"アドラメレク様"と呼ばれる神は頬杖を着き、フッ、と笑みを溢す。
「神の力を奪われ。しかし神の体であるが故に下界で人間と同じようには暮らせない。わたくしに逆らった罪。生き地獄の中で味わいなさい」


フッ!

黒い闇が晴れたそこには。たった今ダーシーが居たはず。しかしそこにはもう、ダーシーの姿は見当たらなかった。









































下界(人間界)――――

ヨーロッパ地方に位置するヴォルテスという名の国。その首都アンジェラは、まるで中世ヨーロッパから歴史が止まっているかのような街並み。その中でも一際目立つ屋敷のようなゴシック調の建物。此処は全世界に在る、対天界機関"ヴァンヘイレン"。
機関と言いつつも此処は対天界に備えた戦闘員を育成している学園でもある。軍隊と学園がいっしょくたになった場所と思ってもらえれば分かり易いだろう。
全世界にあるヴァンヘイレンの中でも、此処ヴォルテスのヴァンヘイレンは中心。謂わば、本部だ。
















1Eの教室――――

「神はー。信じるものではない」
「神はー!信じるものではない!」
「神こそがー。悪魔」
「神こそがー!悪魔!」
スーツ姿の白人教師の言葉を復唱する生徒達。生徒達と言っても年齢はバラバラだ。ヴァンヘイレンには1から順に8までの学年がある。数字の少ない方が新米だ。普通の学校とは違い入会は任意であるからして、5歳の時に入会して8年目の人間は今年8年生。
逆に50歳の人間が今年入会したら1年生。つまり、学年は年齢が関係無いのだ。
ただし、先に5歳の〜と説明したが、入会できる年齢は10歳〜70歳の男女に限る。まず始めに、入会条件を説明しよう。
◆人間である事。神、天使、悪魔は絶対に入会させてはならぬ。
◆10歳〜70歳の男女
◆裏切らない者













国籍も肌の色も年齢もバラバラな生徒達に、教師は教壇に立ち授業を進める。
「えー。各国で今持ちきりの話題。それは何だ?」
「はいッ!」
「来伝。答えろ」
「罪を犯した人間が醜悪な神の手により殺され、代わりに、悪神アドラメレクの事を讃える事しかできなくなった殺された人間の皮をかぶった操り人形が造られる。"造り直しの儀"です!」
「よーし。さすが総合成績トップの来伝だ。座って良し」
ふふん。と、鼻高々な黄緑色のいかにもガリ勉風貌な生徒来伝は席に座る。
「えー。今、来伝が説明してくれたように。最近世界中で話題のニュース。いや事件と呼んだ方が良いか。それは神による"造り直しの儀"だ。不浄を嫌う大神アドラメレクをはじめとする神々はえっとだな…簡単に言えば気に入らない人間を神がぶち殺しにきてるってわけだ。だが、ただ殺すだけじゃない。殺した人間の代わりを置いていきやがる。見た目も声も癖も殺された人間そっくり…だが人格は神が造った操り人形をな」
「先生!神が造った人格って何ですか?」
「おいおい。そんな事も知らないのか?はぁ。まあいい。説明するぞ。神が造った人格ってのは清く正しくまあ欲望の無い清廉潔白な人格ってところだ。それだけなら、俺達人間にとっても都合が良いよな?悪人も善人になるんだ。怯えて暮らさなくて済む。しかしだ。清廉潔白ってのはアドラメレクに対してっつーだけで。謂わばアドラメレクの命令しか聞けないように改造された人格。ま、神の下僕ってところか。で、だ。不浄を嫌う大神アドラメレクをはじめとする神々は人間の愛欲を最も忌み嫌う。だから、独り身より恋人持ちの方が狙われ易いっつー事。独り身はイイぞ〜」
「あはは!そうやって先生自分が独身だからって仲間を増やそうとして〜!」
教師は頭をポリポリ掻きながら笑う。
「はっはっは。ま、恋人持ちの奴も心配すんな。大丈夫大丈夫。まだヒヨッコのお前らが神に狙われたら俺が何とかしてやる。ま、ヴァンヘイレンの教師になるような人間は下級神程度なんざ相手じゃねぇってとこだ」
かっこいい!さすが先生!と、生徒達から歓喜の声を受け、鼻の下を指で得意気に擦る教師。













「つまるところ、神様ってのは欲望を嫌悪し、清廉潔白を好む。人間でいう潔癖性みたいなもんだ。だから特に男共ー。エロ本なんて持ってる奴の所には神様がすーぐ造り直しに来るから気を付けろよー」
「世界中の男が殺されるじゃないですか!」
皆が笑う。
「ま。そういう事になるな。異性で付き合うのも結婚すんのも造り直しの儀の対象に入る。って事は人間全員に死ねと言っているようなもんだ。無理だろ?欲があるから。だから。そんな頭のとち狂った神々と戦う為の機関がヴァンヘイレンって話。神は人間の敵だ。ま、お前らみたいなまだヒヨッコの1年坊主は戦闘経験積むまで、せいぜい神様の逆鱗に触れないように慎ましやかにしていろよー。っとっと。話し込んじまったな。授業時間はとうに過ぎている」
「やったー!休み時間!」
「の前に」
「?」
席を立とうとする生徒達に手の平を見せて制止する教師。生徒達は首を傾げる。
「今日は転入生が来るんだった。長々教室の外で待たせたな。おーい。入ってこいよーアガレスー」
「アガレス!?」
「アガレスだって!?」

ザワッ…!

生徒達が顔を青くしてざわめく。そんな中、教室の扉が開かれる。


キィッ…、

現れた転入生はヴァンヘイレンの制服…を改造した制服を着ており、黒いフードをかぶり、ポケットに両手を入れ。カツカツと長いブーツを鳴らしながらやって来た。鮮やかな青い襟足の長い髪。瞳は普通の人間には見えないぐるぐる模様の青色。年は15、6の男子。
それより何より、生徒達が顔を青くして驚いたのは彼の名前。














教壇の横つまり教師の隣に立ってもまだポケットに手を入れたままという、今すぐにでも造り直しの儀にあいそうな態度の悪さ。感情の薄い表情を浮かべながら一礼する。

「アガレスだ。よろしく」


しーん…

沈黙の後…。
「アガレスだって!?」
「やっぱり聞き間違いじゃなかったんだ!!」
「アガレスって言った!アガレスって言った!!」
ガタガタ!席を立ち、血相変えて口々に言う生徒達。を横目に、教師が去っていこうとすると先程のいかにもガリ勉くん来伝が教師の前に立ちはだかる。
「先生!どういうおつもりでしょう!?アガレスという名の者をヴァンヘイレンに入会させるなどという暴挙は!」
「いやいや。俺は知らないよ。俺みたいな下っぱはお上が入会させた生徒達を育てるだけが仕事だからな。ま、審査は通っているし。親にアガレスなんていう名前つけられただけのちゃんとした人間だ。仲良くしてやれよー」
「先生!」


ピシャッ!

揉め事大嫌いな教師はさっさと教室を出ていった。
教室に残された生徒達は、平然として廊下側一番後ろの空いてる席に腰かける転入生アガレスを睨み付けていた。
「ただ名前が同じだとしても信じられない…!」
「でもあの変な目、おかしいよ!」
「人間じゃない!」
「でも先生は、審査は通っているって言って…」
「でも信じられない!神の名…よりによって堕天された元神、現悪魔と同じ名前の奴を入会させるなんて!!」
【アガレス】とは―――
堕天した神。もともと農耕神であり、同時に時間を司る神。とある理由により異教の神であることからやがてキリスト教に悪魔と見なされ、復権することなく現在に至るという。

















飛び交う罵声を受けても尚ポケットに手を入れたまま感情の薄い表情を浮かべ、ぼーっと椅子に座っているアガレス。
ガタッ。
「やあ転入生君」
そこで立ち上がり、アガレスの机に片手を置いて不敵な笑みを浮かべ近付いたのは先程のガリ勉『来伝 白(らいでん はく)』17歳。
皆、一目置いている様子。
「転入初日。5分と経たない内にクラスの注目の的だね。羨ましいなぁ」
皮肉たっぷり。来伝の清々しいまでの皮肉っぷりにクラスの生徒達は口に手を添え、クスクスクスクス…。
「ところで。君のその名前。ははっ。随分面白いね。今は堕天した神…いや今は悪魔と同じ名前なんて。失礼だけど、君は娼婦の子かい?望まれない子供にしか付けれない酷い名前だ」
「ごちゃごちゃ煩わしいぞ木偶の坊」
「木偶のッ…!?」


ザワッ…!

小柄な見た目に合わず、案外低いアガレスの声。
しかもかなりの口の悪さに生徒達はざわめき。来伝は目尻をピクピク痙攣させている。
イライラを何とか堪えているひきつった笑み。
「はは…ははっ。こ、これはこれは…。さすがは堕天神の名を付けられるだけの事はある口の悪さだ…。初めてだよ…僕に楯突く人間なんて…。ああ、そうか。君はまだ分からなかったね転入生君。僕は来伝白。アジア有数の名家来伝家の長男で1年生ながらにヴァンヘイレンでも総合成績トップの、」
「木偶の坊が23つ…雌豚が14匹…。名を覚えるのに3ヶ月はかかりそうだな」


ブチィッ!

男を木偶の坊。女を雌豚と平然と比喩するアガレスに生徒達の堪忍袋の緒の切れる音がした。


ガタッ、

しかし生徒達からの殺気を感じもせず、席から立ったアガレスは教室を出て行こうとする。やはりポケットに手を入れたまま。


ガシッ!

「む」
そんなアガレスの服を後ろから引っ張り、引き留めたのは笑顔がとっくに崩れてしまっている来伝。その後ろにはゴゴゴゴ…という擬音と共に殺気を漂わせるクラスメイトのほとんど。













しかしアガレスはやはり感情の薄い無表情ともとれる表情で振り向く。
「何だ来来軒」
「ラ・イ・デ・ン!!」
「ああ。そうだったな。来来軒では中華料理屋になってしまうか」
「転入生君!!君は、僕をはじめクラスメイトを怒らせてしまったようだね!?君のような、神の名をし、瞳も人間らしかぬ瞳をした奇妙な君をヴァンヘイレン上層部が何故入会させたかは知らない!でも僕達生徒は君のその怪しい名前、そして横柄な態度に憤りを募らせているんだ!そんな君をこの神聖なる1Eの仲間として歓迎し難い!よって!今日の午後22時!裏の聖堂に来たまえ!君が神であるのか人間であるのか暴いてみせる!人間であるなら今までのその横柄な態度を改めさせてあげるよ!!」
アガレスに宣戦布告した来伝達は鼻息を荒くして足音たてて教室を出て行った。
「何なんだあの騒がしい奴は」
溜め息を吐いてからアガレスもまた、スタスタと教室を後にした。





















廊下――――

中世ヨーロッパの屋敷を思わせる絵廊。絵画が飾られ床には紅色の絨毯が敷かれた廊下を、窓の外を眺めながら歩くアガレス。
「アガレスくーん!」
「ん」
呼ばれ、振り向くと。ヴァンヘイレンの制服を着た黒髪ツインテールに右頬に黒い蝶のタトゥーを付けた小柄な少女が走ってきた。アガレスは首を傾げる。
「何だ?知らん奴、」


ガシッ!

「む」
「ちょーっと来てくれる…かなぁ!!」


ドガッ!

「〜っ!?!」
アガレスの腕をにっこり笑顔で掴んだ少女は、講義室Aと書かれた部屋にアガレスの背中を力強く押して部屋へ投げ入れた。
「なっ…!?何を、」


ピシャンッ!

講義室の扉を乱暴に閉め、鍵までかけた少女。ふっ飛ばされて頭上にハテナマークを浮かべ、何が起きたのか全く分からず目をぱちくりさせ腰をついているアガレス。少女はにっこり笑みながらアガレスの前に立ちアガレスの右耳をフードの下から引っ張り…
「バカーーッ!!」
「〜〜〜っ!!?」
キーン!
耳元で大声で罵声を浴びせられたら、無表情に近い表情の薄かったアガレスの表情も痛みに歪んだモノに変わる。
「ななななっ!?何だ貴様!初対面で尚且つ、他人の耳元で大声で叫ぶとは!貴様、造り直しの儀を受けたいのか!」
「堕天神アガレス」
「!」
少女の一言でアガレスの目が見開き。ピクッと反応。いつもの表情の薄い顔付きに戻るが、目は真剣。敵を見る眼差し。












じりっ…
一歩後ろへ下がるアガレス。しかし少女は一歩前へ近付く。
「貴様…俺の素性を知っているな。アドラメレク殿の使いか…」
「ダーシー・ルーダ」
「何?」
「ダーシー・ルーダ。知ってるよね」
「ダーシー…知らんな。そんな名のや、」
「知らない!?」
「!?」
ギョッ!目を見開くアガレス。それもそのはず。少女が、睫毛と睫毛があたりそうな程顔を近付けて叫んできたから。
「知らないの!?本当に知らないの!?ダーシー・ルーダ!!」
「し、知らん」
「本当!?嘘つかないの!照れなくて良いんだよ!」
「知らんと言っているだろう!煩わしい雌豚だな」
「雌豚って言うなーッ!」


ドゲシッ!

「ぶはっ!」


ズザザザザ!

少女に蹴られただけで部屋の壁まで吹き飛ばされ、背中を打ち付けたアガレス。背中を手で撫でながら、「一体何なんだ」と呟きながら立ち上がる。
「何なんだ貴様、さっきから」
「ダーシー・ルーダって言ったらいっっちばん優しい女神様として有名なんだよ!それなのに、知らない。だなんて!やっぱりアガレス君って鈍感でバーカだよね!」
「貴様さっきから俺の素性を知っているような口振りだが、一体何なんだ」
少女は胸を張り、得意気に自分を指差す。
「私はイングランドマリアージュ聖堂の神ダーシー・ルーダだよ!」
「…!?やはり貴様神か。俺の素性を知っているから俺の事を裁きに、」
「違う違う違ーう!」
「!?」
ハイテンション過ぎる少女にさすがのアガレスも先程から表情が驚いたり険しくなったりギャグ調になったりコロコロ変わって大忙し。少女はアガレスをビシッ!指差す。













「私はね。アドラメレク達の造り直しの儀に反発したの!天界会議で!」
「2ヶ月に1度行われるあの会議か」
「そうだよ!そしたらもーっっこのザマ!私本当はピンクの可愛いロングヘアーに青い瞳だったんだけど天界から追放されてこんな姿にされちゃって…。しかも神の力を奪われたから力が出せないの!」
「いや、先程の蹴りを感じた限り寧ろ力が倍増されていた気がしたが」
「もーっ!アドラメレク神達ムカつくムカつくムカつくよー!!」
じたばた暴れてキーッ!と癇癪起こす少女否、元女神ダーシーに、アガレスははぁ、と溜め息。胡座をかいて床に腰を下ろす。
「ではダーシー殿は造り直しの儀に反対派なのだな」
「当っ然!だっておかしいよ。神だからって下界に勝手な施しをしちゃいけないもん。そりゃ、昔より下界では不浄な猟奇的な事件が頻発しているよ。だからって、神が勝手に殺してその人の代わりを勝手に造っていたら下界の均衡が崩れちゃう。しかもね!最近は、人間がお付き合いしただけで"不浄な強欲者だ"ってアドラメレク神は言って造り直しの儀を行ってたんだよ!もうこれってさ。アドラメレク神の気に入らない人間をただ殺しているだけだよ。そう思わない?」
「神は私欲を嫌うからな。特に世界を創った大神アドラメレク殿は」
「私、間違ってるかな?」
「いや。間違ってはいないだろう」
「だよね!はぁ〜。それなのにこれだよ。正しい事を言っただけなのに追放されちゃった」
ダーシーは膝を抱え、座り込む。
「もう神様でもないから天界へは戻れない…。でも下界で人間としても暮らせない…。私どうしたら良いんだろう…」
「1つ良いか」
「なに〜?」
くたびれた顔を上げるダーシー。アガレスはポケットに手を入れたまま、ダーシーを薄い表情で見下ろす。
「何故此処に居る」
「それは、人間をアドラメレク達から守りたいからだよ…。神に立ち向かう機関の此処なら私と目的が一緒でしょ?それより私が聞きたいのはアガレス君の方だよ」
「俺か」
「俺か。じゃないッ!!」
また立ち上がり急に元気になって声を張り上げ、アガレスを指差し、睫毛があたりそうな程顔を近付けるからアガレスは目をギョッ!とさせる。













「アガレス君バカなの!?バカだよね!?」
「失礼な奴だな。俺のどこが」
「バカだよ!バカーーッだよ!だって普通、下界しかも打倒神の人間が集まるヴァンヘイレンで神の名前アガレスを使う!?使わないよ普通!神が下界に殴り込みに来たと思われるよ!実際、宣戦布告されていたでしょ!?」
「ダーシー殿も同じクラスだったのか。よろしく」
「うん!よろしくね。…って!違ーーう!!」
握手を交わしてからハッ!としたダーシーが騒ぐからそのテンションの上がり下がりにアガレスは既にくたびれている。
「ヴァンヘイレンの人間は対神の武器を所持しているんだよ!神を殺せるんだよ!アガレス君がバカだから実名を名乗ったせいでアガレス君、殺されちゃうかもしれないんだよ!?」
「ダーシー殿は偽名を名乗っているのか」
「当っ然!メア・ルディっていう名前でヴァンヘイレンでは通っているよ。だから2人きりの時以外はメアって呼んでね!ダーシーって呼んじゃダメだよ!?私が神だってバレちゃうからね!」
「面倒だな」
「面倒じゃないよ!大事な事!アガレス君はもう名乗っちゃったから、たまたま神アガレスと同じ名前って通すしかないね…。あ!アガレス君どこ行くの!」
扉を開け、スタスタさっさと講義室を出て行くアガレスを追い掛けるダーシー。
「はぁ、はぁっ!」
「ダーシー・ルーダ…。聞いた事無いな。会議で会っているはずだが」
「アガレス君が鈍感なだけだよ!ねぇねぇ。ところでアガレス君ってどうして堕天されちゃったの?」
「堕天は堕天だ」
「だから!理由を聞いているの!堕天された神って今までいなかったから…」
「忙しい奴だなダーシー殿は。そんな事どうでも良いだろう」
「良くないよ。アガレス君がヴァンヘイレンに来たのも私と同じ目的?アガレス君は堕天されたから悪魔になったって本当?アガレス君はもう神の力は使えないの?」
「煩わしい煩わしい煩わしい」
「もーっ!煩わしいじゃなくて答えてよ!!」
「メアちゃーん!」
ビクッ!
後ろから少女の声がし、ビクッ!とするダーシー。否以降ダーシーをメア、と表記する。















――今の話聞かれちゃった!?――
立ち止まり、恐る恐る振り向くメア。立ち止まらずさっさと行ってしまいそうなアガレスをガシッ!と掴んで引き留めるメア。
振り向くと、そこにはショートヘアで可愛らしい女子生徒メアの友人で人間のカナ。メアと同じ制服姿。1Eの生徒だ。
「カ、カナちゃんどうしたの?休み時間…」
「メアちゃんが教室を飛び出して行っちゃったから。どうしたのかな、って。メアちゃん、アガレス君と仲良くなったんだね!」
「違うよ!えっと…校内を案内してあげてただけだよ!来たばかりだからね!」
「そっかぁ」
「アガレス君紹介するね。同じクラスのカナ、あれ?!アガレス君いない!?」
キョロキョロ見回すメアにカナは優しい笑顔を浮かべる。
「アガレス君ならメアちゃんが喋っている間に階段を降りて行っちゃったよ」
「バカーーッ!!」
頭を抱えてじたばたするメア。対照的におしとやかなカナは口を手で隠してクスクス微笑む。
「はぁ…。何考えてるのか分かんないよもう〜」
「メアちゃんアガレス君好きなの?」
「ありえない!!」
バッ!勢いよく顔を上げて真剣な顔で言うメア。
「どうしてそう思ったのカナちゃん!!」
「転入早々追い掛けてお喋りに行ったから、一目惚れしちゃったのかなぁって」
「ないないないない!ぜーっったいない!!私もうずーっと前から好きな人がいるからね!」
「そうなんだぁ。ずーっと前ってどのくらい?」
「かれこれ230年かなぁ」
「に、230年?」
「ハッ…!」
――しまったー!私達神は普通に何千年も生きているからその調子で答えちゃった!――
メアは冷や汗ダラダラかきながら両手を横にぶんぶん振る。
「あはははは!そそ、それくらい好きって意味だよ!」
「あはは。メアちゃん面白いね。神様みたいな事言うからびっくりしちゃった」
「あは…ははは…」














メアとカナは並んで回廊を歩く。

「カナちゃんはアガレス君の事怖くないの?」
「うん。ただ神様と同じ名前ってだけだもん。みんな過剰になり過ぎだよね」
――本当に神様(だった)んだけどね…――
「それだけでアガレス君を仲間外れにする来伝君達みんなの方が神様みたいだよ」
「でも過剰反応しちゃうのも仕方ないかなぁ。ヴァンヘイレンに集まってるほとんどが、神に家族や友達が造り直しの儀の被害にあった人達だから。神の"か"の字を聞くだけでも嫌な気分になる人はいると思うんだよね」
「そっかぁ。でも来伝君達のしている事は神様と同じ。酷い事だよ」
「カナちゃん優しいね」
「うんうん。そんな事ないよ。それに…」
「?」
カナはメアの一歩先にぴょん、と出ると後ろに手を組みながらメアに顔を向ける。その頬は薄らピンク色。
「アガレス君ちょっとかっこいいよねっ」
「はぁあ!?カナちゃん!あんなのに騙されちゃダメだよ!それに、恋愛したらカナちゃん造り直しの儀に合っちゃうよ!」
「うーん…」
「それにカナちゃん…趣味悪いッ!!」
「えー!」






















22時、聖堂―――――

「やあ。怖じ気づいて来ないと思っていたよ」
月明かりしか差し込まない真っ暗な聖堂。壁に打ち付けられている黒く塗り潰された大きな十字架を背に、来伝をはじめとする1Eほとんどの生徒達が集まっていた。出入口の扉を背に、やはり薄い表情で現れたのはアガレス。
「来ただけでも褒めてあげようか」
「ははは!」
「ふふふ!」
「あははは!」
生徒達の不気味な笑い声。
「僕達はね。ほとんどの人間が神による理不尽な人殺し"造り直しの儀"の被害者遺族なんだ。神の"か"の字を聞くだけで虫酸が走るんだよ。それなのに君ときたら神の名前をしているんだからもういてもたってもいられないよ。殺したくてね」
「ほう。では全世界の神と同名の人間が哀れ極まりないな」
「この世界じゃもういないよ。神の名をつける人間は。だって人殺しの神の名を愛しい我が子に付けたいと思う?思わないでしょう?それに君のその瞳。人間のモノじゃないね。怪しさ倍増だよ。君が神なら、戦えば一発で分かる。僕達の武器は神にしか利かない。けど君の武器は人間にしか利かないからね」


ズズズズ…!

来伝の背中から巨大な白い矢が出てくる。他の生徒達も同様に、体内から白い巨大な武器(形や種類は様々)を出す。中には、既に所持した剣やバールなどの武器の者もいるが。
「ほう。これは初めて見る光景だな。これは凄い。これなら神に対抗できる」
「うるさいんだよ!人殺し神の分際でェエ!!」
ダッ!
武器を片手に一斉にアガレスに走ってくる生徒達。アガレスはただただ薄い表情を崩さず立っている…


カンッ!

「なっ…!?」
来伝達の武器を振り落とした。しかし、鉄にあたったかのようなカンッ!という高い音と共に武器はアガレスの体にあたってすぐ跳ね返った。これは、対神用の武器を神以外の生物に使用した時になる現象。(神にだけ通用する武器だから)


カラン!カラン!

跳ね返った武器を床に落とし呆然の来伝達生徒一同。
「なっ…?神…じゃない…?」
アガレスはふぅ、と溜め息を吐くとやはりポケットに手を入れたままくるり背を向け、扉へ歩いていく。
「残念だったが見当違いだったようだな」
来伝は歯をギリッと鳴らし震える拳を握り締める。
「ぐっ…!神じゃないとしても、僕を木偶の坊呼ばわりした横柄な態度の君を歓迎するわけにはいかない…いかないんだよぉお!」
武器が通用しないなら。武器を捨て、素手で背後からアガレスに殴りかかりにいく来伝とその他複数。
「うおおおお!」


バキッ!ベコッ!ドガッ!

「ぐあっ!?」
しかし、寸前で振り返ったアガレスに足や腕をバキバキに痛め付けられ、床に叩きつけられ瞬殺された来伝達。
「仲間をいびる時間があるなら神対策でも練っていろ木偶の坊」
「ぐぐぐっ…!」
カツン、カツーン…
足音を鳴らして聖堂を後にしたアガレスの背を、悔しそうに睨み付ける来伝達だった。
















聖堂外ー――――

闇夜に浮かぶ白い三日月をポケットに手を入れたまま見上げるアガレス。
「あいつら…気にくわない仲間を何人か殺っているな。生意気な人間という理由でアドラメレク殿に目をつけられていなければ良いが」
カツーン、カツーン…
静寂の夜にアガレスのブーツの踵の音が響いていた。






















聖堂―――――

「何なんだあの転入生は!」
「っあ、あ、あ!」
先程の聖堂では。聖堂で成すべき事ではない光景が繰り広げられていた。先程のクラスメイト達複数人の男女が欲望のままに交じり合い、卑猥な声を上げている。
一方の来伝達複数人は、教壇に片膝立てて座りながらイライラしつつ壁に張り付けた他クラスの気に入らない生徒目掛けナイフを投げる。まるでダーツ感覚。


ブスッ!

「う"ぐあ"あ"!」
「おっと。心臓に命中してしまったかな。これは失礼。僕のダーツの腕前が高過ぎたせいかな。ははは!嗚呼、ムシャクシャする。全ては転入生のせいだ!神のせいだ!」
来伝は教壇から降りる。
「不浄を犯したら造り直しの儀に合うから極力己の欲望を抑え、対神の事だけを考えろ?…はっ。そんなもの。死にながら生きているも同然だ」
来伝は天高く両手を広げる。
「みんな!己の欲望のままに生きるが良いよ!そして神を出迎えてやろうじゃないか!」
その地獄絵図とも呼べる光景を、聖堂の隅に腰かけてにこにこまるで女神のような笑みで見つめている1人の少女。白い長髪に白い睫毛のアルビノが儚げで美しい少女は1Eの生徒アイリーン・セントノアール。
「アイリーン」
アイリーンに近付くのは小学生くらいの背丈に金髪短髪、鼻と頬にかけてそばかすのある少年トム。
ヴァンヘイレンでは3人1組の班を作り、実戦を行っている為アイリーン、トムは来伝と同じ班のメンバー。この班では来伝がリーダーだ。














「ふふ。何です?トム」
「アイリーンは参加しないのかよ」
男女が入り乱れ、気に入らない人間をダーツの的のように撃つ光景を、くいっ、と親指で指差すトム。アイリーンは相変わらずにこにこ笑顔を崩さない。
「わたくし初めてですから…」
「そ、そうなのかよっ!ま、まあ俺も来伝達のああいうバカな行いは気にくわないからなっ」
「ふふ」
ポッ…と顔を赤らめ爆弾発言投下のアイリーンに思わずトムの頬も赤く染まる。カツン、カツン、ヒールを鳴らしてアイリーンは聖堂を後にする。男女が入り乱れる喘ぎ声と、ダーツの的にされた生徒達の悲鳴を背にして。
























首都アンジェラの外れ――

アイスランドのNupsstadur教会を連想させる、町外れの小さな小屋。ヴァンヘイレンや街の明かりが丘の下に見える。
ぽつん、とあるこの小屋。屋根や壁に草が生えており蔦が巻き付いている廃墟。その二畳半の小屋内には、古びた木製ベッドに横たわって天井を見上げているアガレスの姿が。
本来、ヴァンヘイレンに所属する者はヴァンヘイレンと同じ敷地内にある宿舎で寝食を送る。だが、人と群れる事を嫌うアガレスは自ら、宿舎ではないこの小屋に帰っている。また朝が来れば丘を下りて遥々ヴァンヘイレンへ通う…という形だ。
「ダーシー・ルーダ…。天界を追放されたから堕天というわけではないようだな。それにしても」
アガレスは寝返りを打つ。打つと調度窓があり、小窓の外を眺める。遠くにヴァンヘイレンの明かりが闇夜にぼんやり浮かんでいるのが見える。
「来来軒達木偶の坊共は造り直しの儀の被害者の分際で、わざわざ神に目をつけられるような行いをしているとは。本当のバカなのか」
「オオオオオオ」
「!!」
バッ!
アガレスは目を見開き、飛び上がる。
「オオオオオオ」
三重になって聞こえる何者かの雄叫び。ノイズがかかっているような不気味な雄叫びに、アガレスは小窓の外を左右見回す。
「…!あれは…!」
すると闇夜に溶け込むように真っ黒い影のような巨大な生き物が3体、のっそりのっそり教会の脇を通り過ぎ、丘を下っている光景が見えた。3体の内、帽子をかぶっている者、髭を生やした者、杖を持った者。


バンッ!

「トラロック卿!エエカトル卿!ウェウェテオトル卿!」
扉を開き、外へ飛び出したアガレスが3体の生き物の名を呼ぶ。名の通り彼らは神だ。











ズズズズ…
3体の神はアガレスの方にゆっくりゆっくり顔を向ける。
「造り直しの儀を行うつもりか。そんなもの、許されるはずが無い行いだ。下界には下界の均衡がある。神は直接下界に手を加えて良い生き物ではない。神は、不遇な人間にそっと背を押してやる存在で良いと何億年も前からの決まりだろう」


ズズズズ…、ズズズズ…

「トラロック卿!エエカトル卿!ウェウェテオトル卿!」
アガレスを無視し、前を向き直した神々はのっそりのっそり丘下りを再開。
「チッ…!」
舌打ちするとアガレスはポケットから手を出すのと同時に、禍々しい真っ黒い闇にを放つ真っ黒い矢と槍と人間のおぞましい顔が付いた武器を取り出す。
「元同胞に手をくわえたくはないが」


タンッ!

踏み込み飛び上がる。人間では到底不可能なジャンプ力(5階建ての建物の高さ)で飛び上がると、神々の頭上目掛け武器を振り上げる。しかし。
「オオオオオオ!!」


バンッ!

「ぐあ"!!」


ドゴォンッ!!

人間が蚊を振り払うのと同様の形。手で振り払われただけで、地面が抉れる程吹き飛ばされたアガレス。
「く"っ…、くそっ。堕天前ならこの程度、掠り傷すら付かない攻撃だというのに…」
腕や肩の黒い服にじわり黒い血が滲み、額からはツゥッ…と黒い血が滴る。
「オオオオオオ」
「オオオオオオ」
おぞましい雄叫びを上げながら神々は丘を下りていってしまった。
鉛のように重たい体に鞭打ってアガレスは立ち上がろうとするが、足がふらついてまるで生まれたての小鹿。
「う"ぅっ…!」


ドスン!

立てず、尻餅ついてしまう。そんな間にも神々はヴァンヘイレンへとのっそりのっそり歩いていくのだった。



























ヴァンヘイレン宿舎―――

「スー、スー…」
寝静まった夜。0:11。
2人1組の部屋を割り当てられる為、二段ベッド下の同室カナの寝息を聞きながらメアは目をぱっちり開いたままベッドに横たわり天井を見上げていた。
「神って寝ないから夜が一番つまんないんだよね…。カナちゃんと遊べないし…」
「オオオオオオ…」
「何…?」
遥か遠くから聞こえる微かな雄叫びに耳をピクッと動かし、メアはゆっくり上半身をベッドから起こす。窓の外を見てもそこはイングリッシュガーデン(中庭)が広がっているだけで、いつもと変わらない静かな夜。
「オオオオオオ…」
しかしどこからか聞こえてくる雄叫びと、感じる胸騒ぎにメアはベッドに横たわれずに神経を尖らせていた。
「この声…。まさか…」


ドガンッ!!

「きゃあ!地震!?」
爆発音がし、同時に宿舎が縦に大きく揺れる。
「な、なにっ?」
カナも飛び起きる程。
「あれは…!」
メアが覗いた窓の外には宿舎を突き破って中庭を通過していくトラロック、エエカトル、ウェウェテオトル3体の神の姿が。
「造り直しの儀!?」
「メ、メアちゃんあれ何…?」
目の当たりにした不気味な神々にカナは顔が真っ青。ハッとしたメアはカナを心配させないよう、両手をきゅっ、と握って微笑む。
「大丈夫!カナちゃんは此処で待ってて!」
「え?メアちゃ、」


バンッ!

部屋を飛び出していくメア。
「メアちゃん!待って!危ないよ!メアちゃん!」


ドガンッ!!

「きゃあ!?」
再び揺れた宿舎。メアを追い掛けようとしたカナは思わず頭を抱えて座り込む。ガタガタ震える体を自分で抱き締めて。
「メアちゃん…!メアちゃんは行っちゃダメだよ…!メアちゃんまでいなくなったら私っ…!」
























ウーウー!
ヴァンヘイレン中に鳴り響くサイレン。
「あっちだ!」
「聖堂の方へ行ったぞ!」
「はは!神をぶち殺すのが楽しみだ!」



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あきゅろす。
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