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GOD GAME
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――昨日はあんなに大胆だったのにな…。でもこれがアガレス君らしいといったららしいんだけどね…――
「アガレス君いつも何読んでるの?」
メアが隣から本を覗き込めば、あからさまにサッ!と本の背表紙を向けて見せない意地悪っぷり。

「ムカッ。見せてくれたって良いのにっ」
「貴様が見たところで貴様の知能指数では理解不能だ」
「ムッカーー!!」


ガタン!

メアは怒り、椅子から立ち上がる。
「アガレス君に言われたくないよ!そりゃ私もバカだけど、偽名も使わずに神の名前を堂々と名乗ってヴァンヘイレンに転入してきたアガレス君に言われたくないもんね!バーカ!バーカ!アガレス君のバー、!」
立ち上がり、ぐっ、とメアの頭を抱き寄せたアガレス。メアはアガレスの胸で目をぱちくり。ドッ!ドッ!ドッ!と速く鳴る鼓動。
「ア、アガ、アガレス君!?な、なな何?!え!?」
そのまま椅子に座り、メアも座らせて抱き寄せた頭から手を離し、向かい合う。だがこんな事をした直後でも無表情な彼にメアは顔を真っ赤にして困惑。
「ア、アガ、、アガレス君!その!ねっ!?私恋人は初めてだからっ!いきなりじゃなくて事前に予告をしてほし、」
メアの言葉が遮ぎられる。メアの顎を持ち上げてアガレスが静かにキスすれば、メアは目を見開き、ぱちぱち何十回と瞬き。
「ん!」
軽いキスが終わり、アガレスから口を離せばぐるぐる目を回したメアが椅子に座ったまま両手両足をジタバタ。暴れる。
「アガアガアガレス君っ!!前に予告してって言ってる最中にややややめてよもうっ!!わっ!?」
また頭を抱き寄せて、メアの背中を赤子をあやすように軽くポンポン叩く。
「ア、アガレス君?」
「本当。ギャーギャー騒がしい雌豚だ」
「だから雌豚って言っちゃダメって…!」
「だが。その明るい笑顔に毎日救われている」
「…!アガレス君がそんな言葉言うと何か気持ち悪いよ。優しすぎて!」
またくいっ、とメアの顎を持ち上げるとメアの予告してくれ発言は無視して唇を重ねるアガレス。嬉しいのに恥ずかしくてやめてほしくてでもやめてほしくないメアは目をぎゅっと強く瞑って恥ずかしさを堪える。反対に、至って冷静なのはアガレス。
さっきより長いキスの後メアが目をとろんとさせてポーッとしていると、アガレスはメアを軽く抱き上げる。メアはハッ!と我に返る。
「アガレス君!?」
ベッドにそっ、と降ろしてメアの顔の両脇に両手を着いて上からメアを見下ろす。逆にメアはアガレスを見上げて何が起きているのか全く分からずアガレスを見ている。
「アガレス君な、何?」
「……」
「アガレ、…!」
キスをしながら上に重なってくるアガレス。キスがだんだんと口から頬、首筋、鎖骨と下へ下へ下がるのと同時進行で彼の手が制服の上からメアの体を愛撫すればメアはビクッ!とし、目に薄ら涙を浮かべ、体を右へ左へ捩らせる。


















「アガレス君!」
相変わらず無視。
「アガレス君!ちょっと聞いて!ね?アガレス君!っ…!!」
制服の上からだった愛撫が制服の中へ手が入ればメアは更にビクッ!として、
「嫌!やめて!!」


バシン!

「っ…、」
衝動的にアガレスの頬を叩いてしまった。アガレスは目深にかぶったフードの下で、打たれた頬の痛みに「っ…、」と唇を噛む。
「…ハッ!ア、アガレス君ごめんね!わ、私無意識の内に…!」
慌てて上半身を起こすメア。自分の上に乗っているアガレスのフードを外そうとするが、それより先にアガレスが顔を上げる。
「アガレ、」
「すまん」
「え?」
「聞かずに勝手に…すまなかった」
目を合わせずに言うとメアからおりて、背を向けてベッドに腰掛ける。何だか俯き、彼らしかぬ落ち込んだ背中にメアは悪くないのだが罪悪感を感じる。
「私も…私もごめんね?私の方から好きになったのにアガレス君の事受け止められなくて嫌がってごめんね?」
「いや。俺だ。すまなかった」
「何回も謝らなくて良いんだよ」
「いや。すまん」
「……。私、手を繋ぐので精一杯で、それに…ちゅ、ちゅーまでしか知らなくてびっくりしちゃっただけなんだ。アガレス君が嫌だからじゃないんだよ。な、仲直り!そうだ!仲直りしよう。ね?」
後ろから顔を覗き込み、右手を差し出すメア。アガレスも指輪の外れた左手を差し出し、握手。メアはいつもの明るい笑顔。
「はい!これで仲直り。ね?」
「ああ」
メアの様子を伺いながら少し遠慮がちに抱き締める。月明かりがちょうど、2人を照らす位置に射し込んでいる。
「ヴァンヘイレンの奴らには絶対言うな」
「え?からかわれるから?」
「だけじゃない。勘の鋭い人間に、俺達が人間ではない事を気付かれかねない」
「大袈裟だよ。でも、ヴァンヘイレンではお付き合いしているコト内緒にした方が良いかもね」
カナやアイリーンの顔が浮かび、メアは罪悪感に駆られるからアガレスの胸に顔を埋めて2人の顔を脳内から振り払う。アガレスはメアを抱き締めながら頭を撫でている。
「アガレス君好きっ…」
「ああ」
「そういえばアガレス君から好きって言ってもらってない気がするよ」
「黙れ」
「酷いっ…」
「そういえばだが」
「何?」
アガレスは頭を撫でながら口を開き。メアは顔を埋めたまま聞く。
「本当ならこうなる前に言うべき事だったのだが」
「キユミちゃんの事?詳しく聞いても大丈夫?」
「詳しくというか…。キユミは恋人ではない」
「え?!じゃあ何で?何であんなに心配してるの?何で、」
「妻だ」
「!?」
メアは胸に顔を埋めたまま目を見開く。アガレスは淡々と続けるが。
「それと…。これが俺が堕天された最大の理由だと思うのだが。その…」
「……」
「キユミとの間に息子が1人いるんだ」
「!?」
「まあ…両親が両親なだけあり俺に反発して、今はアドラメレク側についているのだが。あいつはアドラメレク側についているし俺を受け入れないし、キユミはキユミで過去の記憶が無く今は人間の恋人と幸せに暮らしているからもうどうこう関わる事は無いから安心してほしい。…言うのが遅くなってすまん。だが言わないままいるのはもう嫌だったから、」
「何それ…」
「…?ダーシー殿?」
バッ!と顔を上げ、アガレスから離れたメア。何とも言えない表情で、アガレスからはわざと目を反らしている。メアの心情が読み取れないアガレスは首を傾げるが。
「どうした。ダーシー殿」
「どうしたじゃないよ!どうして先に言ってくれなかったの?!どうしてお付き合いする前に言ってくれなかったの?!」
「すまん。だがもう俺を忘れたキユミとも、俺を嫌う息子とも関わりが無くなるから安心しろ」
「そうじゃない!そうじゃないよ!アガレス君おかしいよ!?」
「おかしい?何がだ」

「キユミちゃんが記憶が無くなって人間の恋人がいるから!?息子君は神様と人間の両親に嫌気がさしてアドラメレク側についたから!?だからアガレス君は2人の側にいなきゃダメなんでしょ!」
「何を…、」
「アガレス君逃げてるだけだよ!キユミちゃんに忘れられて恋人までできて、息子君に嫌われて…だから逃げてるだけだよ!2人に関わるのが怖いだけなんだよ!自分を守っているだけだよ!そんなの私が知ってるアガレス君じゃない!!キユミちゃんに忘れられてもキユミちゃんを気にかけているアガレス君が好きだったもん!優しいんだな、って!」
泣きながら声を荒げるメアに呆然のアガレス。まさかここまで大事になるとは思っていなかったのだろう。甘さだ。
「どういう事だ?俺がキユミを気にかけて嫉妬すると言ったのは貴様だろう」
「アガレス君、こんな大事な事どうしてお付き合いする前に教えてくれなかったの!?アガレス君に私、騙されたよ!!」
「!!」

『アガレスさんに私、騙されていたのですか…?』

メアの言葉がアガレスの脳裏で、昔キユミに言われた言葉と重なる。アガレスの心臓がキュッ…と締め付けられ、痛む。















「どうして先に教えてくれなかったの?どうして騙したの…」
「騙してなんかいない」
「騙したよ!だって私そんな大事な事知っていたらアガレス君とは…」
「嫌われるから言えなかったんだよ!!」
珍しく声を荒げて言ったアガレス。しかし表情は怒っておらず、寧ろ哀しそうだったからメアはびっくり。
「アガレ、」
「嫌われたくなかったんだ…嫌われたくなかったんだよ。俺は人間ではないからキユミとは一生一緒になれない。俺は過去があるから清廉潔白なダーシー殿とは釣り合わない。だが…」
「アガレス君?アガレスく…、」
「どうしていいか分からないんだよ…!」
「!」
下を向き、震える拳を握り締めたアガレスの唇が、歯で噛み締められ血が滲んでいるのが見えた。メアは目を見開くが、アガレスは背を向けると再び椅子に腰掛け、読書を始める。本の内容など全く頭に入ってこないが。
「すまなかった」
「……。アガレス君も辛いのは分かるよ。アガレス君不器用だからどうしていいのか分からなかったんだよね。だから自分の知られたくないトコロを隠しちゃうのもよく分かるよ。でも…私、キユミちゃんと息子君の事を考えたらアガレス君とはお付き合いできないよ…。アガレス君にも、キユミちゃんと息子君を一番大切に思ってほしいし早く気付いてほしいから…ばいばいだね」
「……」
背を向けたまま読書を貫く。
メアはドアノブに手をかける。
「でもこれからも班のメンバーとして。お友達として仲良くしようね。でも…」
「……」
メアはアガレスには背を向けたまま扉を開く。白い月明かりが、ボロボロ流れるメアの涙に反射していた。
「でも私みたいな天界の嫌われ者を好きになってくれて本当に本当に嬉しかったの。ありがとうアガレス君。大好きだから、アガレス君には気付いてほしいからばいばい」


バタン…、

扉が閉まり、メアの足音が聞こえなくなると。


バサッ…、

力無く本を床に落としたアガレス。椅子の背もたれにだらん、と力無くもたれかかり、蜘蛛の巣が張った天井を見上げる。フードで顔が隠れていて表情は見えないが。
「これからも班のメンバーとして…友人として…か」


ガンッ!

椅子に腰掛けたまま、壁を蹴る。
「今更できるわけないだろ…雌豚…」






























翌日、
ヴァンヘイレン
1E教室―――――

「メアちゃん昨日お友達とのお泊まり楽しかった?」
「う、うん。楽しかったよ…」
「…?メアちゃん?」
チラッ。とアガレスの席を見るが、始業5分前になっても来ていない。
「アガレス君?」
「え!?」
「アガレス君の席見てたから。アガレス君まだ来ないね。どうしたのかな」
「そ、そうだねカナちゃん…」


ガラッ、

「うっし。今日も1日頑張っていこー」
教師が教室へ入ってくればメア、トム、カナ、アイリーンは席に着く。だが4人共、まだ来ていない一名の席を見る。しかし教師は全くその事に気にしていない様子。
「よし。じゃあ授業…の前にだな。今日は1Eに復帰したっつーか何というか、長期の任務から帰還した1Eの生徒がいる。入れ。椎名」
「椎名?」
――確かトム君が言ってたな…。ヴァンヘイレンのエースであり1Eの問題児って――


ガラッ、

「あ!」
入ってきた椎名を見て、思わず立ち上がるメア。
「ん?どうしたルディ。椎名がかっこよくて興奮しちまったか?」
「クスクス。まあ。メア様ったら」
「メアちゃんってば〜!」
「ち、違うよ!違うもん…」
顔を真っ赤にして席に座るメア。メアが思わず立ち上がった理由。それは、椎名が、昨日科学室から出てきたあの男子生徒だったからだ。メアは頬杖つく。
――何だ。自分も1Eだったんじゃん。ならあの時はぐらかさなくてもいいのにっ!――
「椎名は元いた席なー」
椎名は隈が酷い目をして(片目は眼帯だが)ぼーっとしたままトムの隣の席に座る。心なしか、トムは嫌そうに顔を歪めている。
「トム君久し振りだね…。またよろしくね…」
「お前みたいな猟奇的なのとは離れていたかったけどな!」
「ん、じゃあ椎名も戻ってきたことだし。授業始めるぞー」
「せ、先生!あの!アガレス君がまだ来ていないんですけど、風邪ですか?」
メアが挙手して聞けば。教師はカツカツとチョークを鳴らして黒板に文字を書き生徒に背を向けたまま淡々と返答する。
「あいつか?今日付けでヴァンヘイレンを辞めたよ」
「え…?」

































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