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GOD GAME
ページ:2
「あいつが連れて来た庶民の女2人というのも気になるしな…」
「…?貴方、今何か仰いました?」
「いや。何も」


























2階廊下―――――

「ふん。このわたくしを愚弄するなど。あの場で殺してやりたかったですわ」
真っ暗な2階廊下の隅。出窓に身を乗せ、ウォッズの夜景を見下ろしながら苛立った様子のアイリーン…いやアドラメレク。彼女の後ろにはトム達人間には見えないがマルコがついて来て居る。
「まあまあ。そうカッカなさらずとも。今宵のターゲットは今宵中に儀式を行うのですから。そう焦らずとも。あのような低俗な人間のペースに呑まれ苛立っては、お嬢様のお美しいお顔が台無しですよ」
いつでも優しい神父の笑顔で微笑むマルコ。アドラメレクはマルコに背を向けて夜景を見下ろしたまま、フッ。と不敵に笑む。
「フッ。そうですわね。わたくしとしたことが。マルコ。トムの両親に行う儀式は2:00。両親の寝室に致しましょう」
「畏まりました」
アドラメレクは青い瞳に夜景を映し、黒い笑みを浮かべた。
「たっぷり可愛がってあげますわよ低俗な人間共…」
「おい!アイリーン!」
「!」


パッ!

後ろからトムが呼ぶ声がし、振り向くアドラメレク…いや今はアイリーン。あの不敵な笑みは消え、すっかりいつもの天使のような笑顔を浮かべている。
「何ですの?トム」
「何ですの?じゃないだろ!お前が居ないから、てっきり俺の両親に…。はぁ…。悪かったなアイリーン。さっきはあんなところを見せて」
「いえいえ。大丈夫ですわ。あら?カナ様は?」
「ナタリーか。ナタリーは奥の別室で寝かせた。明日も調査で朝早いしな」
トムは手摺に身を乗り出しながら、窓の外の夜景を見下ろす。遠い目をしている。
「俺は…さ。昔からあの両親の言いなりだ。それこそ造り直しの儀を施された人間みたいに神の言いなり…。親の言いなりだ。…って。こんな話聞かなくても良いよな。悪い悪い」
頭を掻いてヘラヘラ笑うトム。しかしアイリーンは後ろで手を組み、微笑む。
「いいえ。聞かせて下さいな。トムのお話。それでトムのお気持ちが少しでも晴れるのなら」
「アイリーン…」
ポッ…。
微笑むアイリーンを見つめながら頬を赤らめつつ、トムは再度夜景を見下ろし、語り始める。
















「父親が…というか代々ハンクス家は議員でさ。ガキの頃から英才教育?よく分かんないけどまあ無理矢理頭に叩き込まれた。ここまでならどこの家でもあるだろうけどよ。俺は出来が悪かったんだろうなぁ。なかなか勉学ができない俺に両親はだんだんと暴力をふるい始めたよ」
「まあ」
トムはやはり、遠いような切ないような…悲しい目をする。
「俺もすっかり暴力に支配されちまってさ。親の顔色伺いながら生きるようになった。そんな時、神々による造り直しの儀が世界各地で頻発し出した。犠牲になった奴等には悪いけど、これがチャンスだったな。両親の配下から抜け出す」
「それでお家を飛び出してヴァンヘイレンへ?」
「ああ。そうさ」
トムは手摺に頬杖着く。
「先程トムはお母様に"造り直しの儀に合ってしまえ"と仰っておりましたわ」
「あれは違う!」
「?」
バッ!と勢いよくアイリーンに顔を向けたトム。トムの顔が、別の意味で哀しみに満ちていた。
「あれは…違うんだ…。確かに両親の事はそのくらい恨んでいる。でも…俺のたった1人の父さん…。たった1人の母さんだから…根っこはそんな事思っちゃいないんだよ。先生から"ウォッズで造り直しの儀が頻発"って聞いた時、真っ先に両親の顔が浮かんだ。ははっ。あいつら性悪だからさ。真っ先に犠牲に合ってるんじゃないか?って…。心配になったよ…。だから俺が立候補したんだ。ウォッズの任務は俺らトム班に行かせてくれ、って」
「分かりませんわ」
「え?」
アイリーンは両手で頬杖着き、溜め息を吐く。
「トムに酷い事をなさったご両親をそこまで心配する意味が、わたくしには分かりませんわ。この世にたった1人だとしてもわたくしでしたら憎くて憎くてたまりませんわ」
「はは…。アイリーンは案外怖いな。俺はさすがにそこまで思えないんだよ」
「それこそ、ご両親にまだ心を恐怖で支配されておりますわよ。トム」
「そうかもな」
ははっ、と笑うトム。アイリーンはやはりトムの心情が分からず、口を尖らせ、首を傾げていた。















「そ、そういえばアイリーン」
「?何ですのトム」
たった今まで真剣な顔付きをしていたトムの表情が一変。頬が赤らみ、アイリーンを直視できない。逆にアイリーンはキョトンとしていて、トムを真っ直ぐ見ているが。
「て、転入生の事を随分気に入っているようだが!しょ、初日のように誰構わず頬にキキキスをしたり抱き付く事は控えろ!」
「どうしてですの?」
「お、お前はヴァンヘイレンのみならず男に人気があるんだから!誰構わず愛想を振り撒いたせいで、お前がどこの馬の骨かも知らない男に酷い目に合わされたら可哀想だから忠告しているんだよ!!」
「まあ!お優しいのですねトム!ご心配して頂けて、わたくし嬉しいですわ」
顔の前で両手を合わせてにっこり微笑むアイリーンにトムは、ハッ!として顔を真っ赤にし、すぐ反らす。腕を組むとくるりと背を向けて、廊下を歩いていく。
「ま、まあ!言いたかったのはそういう事だっ!な、何か不安な事や嫌な奴がいたらすす、すぐ俺に言えよな!俺は班長だから!」
「ありがとうございますトム!頼りにしておりますわ班長!」
自室のドアノブを掴み、アイリーンに顔を向ける。
「お、おう。早く寝ろよ。部屋はナタリーの隣の部屋を用意したからな」
「はい!おやすみなさいませトム」
「お、おやすみアイリーン」


パタン…

部屋へ入るトム。廊下で1人になったアイリーン…いやアドラメレクはまた不敵な笑みを浮かべる。
トムには見えないが、今までずっとアドラメレクの後ろに居たマルコ。
「トム・ハンクス君という人間。完璧、お嬢様に不浄な恋心を抱いておりますね」
「ふんっ。殿方に気を付けろと仰るご自分が一番不浄ですのに。よく言いますわ」
マルコは首にかけた十字架を握り、笑む。
「どうなさいますか。今すぐにでも儀式の対象に」
アドラメレクは背を向けたまま、スッ…と、マルコの顔の前に右手を出す。
「いいえ。彼はもう少し泳がせましょう」
「その方が、裏切られた時のトム・ハンクス君の表情はお嬢様にとってこの上ない至福の表情となりますからね」
アドラメレクは腕を組み、微笑む。
「ええ。わたくしの最高の玩具に仕立てあげて差し上げますわよトム」


キィ…

「あら?」
廊下の奥。真っ暗な中動く1人の人影を見付けたアドラメレク。
「あそこは確かカナが寝ている部屋ですわ」
「おや。ですが今入ったのはトム・ハンクス君の父親でしたよ」
アドラメレクはフッ。と笑む。
「マルコ」
「はい。何でございましょうお嬢様」
「儀式の準備を」
マルコはアドラメレクの背後で膝まづく。
「畏まりました」

















キィ…

ミーと一緒にベッドで眠るカナの部屋の扉が静かに静かに開かれる。
窓からカーテン越しに射し込む月明かりに照らされ眠るカナもミーも熟睡している事を確認すると、所々ある金歯を覗かせてニィッ…と笑む招かざれる客はトムの父親。
「スーッ、スーッ…」
「ミー…、ミー…」
寝息をたてるカナとミー。カナの茶色の髪を手で撫でるように鋤く父親。
「よし…よく眠っておる。ほう。これはまた庶民の代表とも呼べる庶民顔をした素朴で不細工な女だな。…ちょうどいい。ウォッズの女共には飽きてきたところだ。暇潰しに庶民の女でも味見するとしよう…」
不気味な笑みを浮かべ、カナが眠るベッドに乗り、上着を脱ぐ。カナの顔の脇に両手を着く。


キィ…

「!誰だ…!」
「まあ。カナ様だけかと思ったらトムのお父様もご一緒でしたの?」
「…!!」
静かに開かれた扉にビクッ!とし、カナを起こさぬ程度の声で父親が言えば、訪問客はアイリーン。口に右手をあてて、目をぱちくり。
父親はばつが悪そうに「チッ」と舌打ちすると、ベッドから降り、脱いだばかりの上着を羽織る。
上着の皺を伸ばして整えながら、扉の元に居るアイリーンの前に立つ。議員らしい厳格な顔付きで。
「何だ。お前は。トムの仲間…と言ったか」
「はいっ。わたくしアイリーン・セントノアールと申しま、」
「そんな事は聞いておらん。お前の部屋は此処ではないだろう。早く戻れ!」
「まあ。それではお父様もこのお部屋ではございませんよね?何をなさろうとしていらしたのでしょう?」
「っ…!生意気な庶民だ…!」
怒りに顔を真っ赤にする父親。アイリーンはフッ。と笑むと父親の両腕に、自分の色白で細い指を這わせる。
「なっ…!?」
「無垢なカナ様では少々退屈だと思いますわ。口も軽そうですし。わたくしで宜しければ…。奥様には内密に致しますわよ?」
「…!!」
トン…トン…、と指をゆっくり這わせて妖艶な笑みを浮かべながら上目使いで誘い文句を説くアイリーンに父親の握った拳がプルプル小刻みに震え、顔は別の意味で真っ赤に染まり、目はアイリーンから離せなくなる。


ガッ!

「まあ!」
アイリーンの細い肩を強引に掴むと、そのまま部屋を出て自室がある3階へと連れて行く。
「来い。庶民娘。庶民の分際で貴族のこの私を誘おうなど。100年早い事を教えてやろう」
肩を掴まれ、3階へと階段を登る途中。アイリーンはチラッ…と後ろを見る。そこには、父親達人間には見えていないマルコがしっかりとついてきている。
コクッ…、
不敵な笑みを浮かべてマルコに相槌を打ち頷けば、マルコも穏やかな笑顔で頷き返した。

























「はぁ…はぁ…」
カーテン越しに月明かりが窓から射し込む室内。他の室内よりだだっ広い父親の寝室。室内に響くのは、父親の荒く興奮した息遣い。
真っ暗な室内。天窓付きのベッドの上に座り伸ばした細く色白なアイリーンの脚。アイリーンが履いているニーハイソックスを脱がしながら露になっていく細い脚に舌を這わせる父親。上着を脱ぎ、上半身裸で目は見開き、興奮が隠せない。そんな父親を見下ろしながら不敵に微笑むアイリーン。
「そう…足の裏まで。きちんとしてくださる?」
「はぁはぁ、はぁ…」
脱がせたニーハイソックスを床に投げ、言われた通り一心不乱に脚を裏まで舐め回す父親。
「あ…、そう…そうですわ…きゃっ!」
突然アイリーンの上に重なってきた父親。しかしアイリーンはあまり動じず、不敵な笑みを浮かべながら父親の汗ばむ顔を両手でつかんで微笑む。やはり不敵な笑みで。
「どうして辞めてしまわれたの?まだ途中ですわよ」
「はぁ…はぁ…、庶民の小娘の分際で…、はぁ、私に指図しおって…!」
「あら。そんな庶民の小娘に興奮なさっているのはどちら様ですの?」
「…!生意気な女だ!」
「きゃっ」
アイリーンの挑発に父親は目をカッ!と見開けば、それがスイッチとなった様子。アイリーンのベージュの制服(ブレザー)を乱雑に脱がし、ブラウスの隙間とスカートの隙間から両手を入れ、愛撫する。アイリーンは父親の頭を両手で持ちながら目を瞑る。室内にベッドの軋む音と父親の荒い息遣いと、アイリーンの上ずった高い声が聞こえる。
「あっ!あん!もっと優しくなさって下さいな。わたくし初めてですの。あん!」
「ふん。嘘吐き庶民が。初めての女が言う誘い文句ではなかったぞ」
「あん!あん!あぁっダメですわそんな…!」
「庶民だが先程の女よりはまあ美人だな。お前にして正解だったか」
ブラウスとスカートの中から手を抜くと、カチャカチャとズボンのベルトを外し出す。ズボンと下着を脱ぎ捨てるその様子を、ベッドに寝転がり、指をくわえて頬を上気させたアイリーンが見ている。


ギシッ、

再びベッドに乗り、覆いかぶさる父親を見上げるアイリーン。
「はぁ…んっ…、お次は何をなさるのです?」
「カマトトぶるな。分かっているだろう」
アイリーンは嫌そうに目を瞑り、首を横にフルフル振る。それが更に父親の欲を掻き立てるから、父親はアイリーンの髪を引っ張り、顔を近付けさせる。
「きゃっ!」
「無垢を気取りおって」
「い、嫌ですわ、やめて下さいな。わたくしそんな…初めてですの…そんな…怖い」
「庶民はおとなしく貴族に従っていれば良い。貴族様が庶民を抱いてやると言うんだ。光栄に思え」
ぐっ、と父親の顔が近付くと、嫌嫌と首を横に振るアイリーン。その表情に欲を掻き立てられた父親がアイリーンの脚を開かせると。アイリーンの表情が一変。不敵な冷たい笑みを浮かべた。

「まあ。卑しいクズですこと」
「何!?ぐあっ!!」


ドガン!!

アイリーンの色白で小枝のような細い右脚が、自分の倍はある体格の父親を一蹴りで部屋の壁まで蹴り飛ばしてしまった。
壁まで蹴り飛ばされた父親は何が起きたのか全く理解できない。目をぱちくりさせ、壁に打った背中を押さえていると。


ストッ…、

「!」
目の前に、ブラウスとスカート姿のアイリーンが腰に右手をあてて立つ。父親の事を蛆虫を見るかのような目で見下し嘲笑しながら。
「ぐっ…!!庶民の小娘が!!私に何をした!?ぐあ!ぐあああ!」


ガン!ガン!ガン!

アイリーンはその細い右足で父親の頭を何度も何度も軽々しく蹴り続ける。蹴り続ける度に父親の頭がカーペットを敷いた床に埋まっていく程の力。
「粗末なものを見せないでくださる?わたくしの目が汚れて失明してしまったらどうなさるおつもりですの?」
「ぐあ!ひぃ!やめ!ぎゃあ!やめてくれぇえ"!!」
「フフフフ。まあ。良い声で啼くこと。もっと苦しんでもっと啼いてくださる?」


ガン!ガン!ガン!

「ひぃい!ひぃ!ぎゃああ!やめ"、や"、ぎゃあ!」
「わたくし不浄な行為は大嫌いですの。貴方、ウォッズや近郊で不特定多数の女性と不浄な行為をなさっていましたでしょう?やめてくださる?貴方のような低俗で醜悪な人間を殖やすような愚かな行為は」
「ぐあ!ひぃ!ぎゃあ!」
「フフフ。まあ…貴方に限らずとも。全人類の不浄な性行為にはヘドが出ますわ。低俗な人間共が低俗な人間共を産み出す無駄な行為。獣のように己の欲望を掻き立てる男。獣のようにそれを求める女。気持ちが悪い。今すぐ皆殺しにしてやりたいくらいですの!!」


ガンッ!!

「ぐあっ!!」
背中を貫通する程の最後の一蹴りで、父親はもうピクリとも動かなくなった。














ピチャッ!
その際飛び散り、アイリーン…いやアドラメレクの頬に付着した赤い血を指ですくい、後ろへ指を差し出すアドラメレク。
「マルコ。汚れてしまいますわ。今すぐ拭き取って」
「畏まりましたお嬢様」
指に付着した父親の血を、純白のハンカチですぐ拭き取るマルコ。
「この室内の音が外に洩れる事は?」
「無いよう、この部屋に細工をしておきましたのでどうぞご安心下さい」
「そう。優秀ですわマルコ」
「有り難きお言葉」
「あ…あぁ…そん…な"…あな…た…あぁ…」


ガクン…、

中年女性の声が聞こえ、アドラメレクは微笑みながら後ろを振り向く。そこにはマルコが神の力を使い、寝ていた体をこの部屋まで誘導して連れて来た母親が。息絶えた父親を前に、腰を抜かしガクガク震える母親にアドラメレクは微笑み、母親の顎をくいっ、と持ち上げる。
「ごきげんようお母様。そして奥様。貴女の旦那様を殺してしまいましたの。ごめんあそばせ」
「な…な…、何…?何者よ…小娘あんた…!小むす、ぎゃああああ!」


ズプッ!

アドラメレクは笑みながら母親の両目に指を2本突き刺す。悲鳴を上げる母親。ブシュッ!と真っ赤な血がアドラメレクの顔や髪にまで飛び散ればすぐさま後ろから純白のハンカチで拭き取ってあげるマルコ。
「ぎゃああああ!見えない"い"ぃ"い"!目が見えない"い"ぃ"!」


ブチュッ!

「ぎゃあ!」
目玉をくり貫けば、母親は目があった穴からドクドク血を流しながらピクピク痙攣してその場に倒れる。
ギョロッ。とした2つの目玉を見て、アドラメレクは笑む。
「汚ならしい人間の目玉」


ベチャッ!!

反対側の壁まで思いきり投げつければ、目玉は血を噴き潰れ、潰れた目玉の残骸が壁にべっとり付着している。














「あ"…ぁ…目…見え…な…い"…」
「お母様」
「あ"…」
目玉が取られ、真っ黒い空洞の穴のままアドラメレクの方とは真逆の方を向く母親。
「貴女の大事な大事な息子さん。わたくしがちゃあんと可愛がって差し上げますわ。ですから、心置きなく殺されて下さいな」


ズズズズ…

ヒトガタのアドラメレクの影が映っていた壁。アドラメレクのヒトガタの影が、クジャクとラバがかけ合わさった姿の影に変形していくと。その影が室内を呑み込んだ。
「造り直しの儀。開始ですわ」

























翌朝―――――

「ん〜…。おはよう…」
「おはよう!トム!カナさん!アイリーンさん!」
「!!?」
目を擦り、各自同時に部屋から出て来たトム、カナ、アイリーン。そんな3人を明るく出迎えたのは別人のように不気味な笑顔を浮かべる父親と母親。3人は目を擦るのをやめ呆然。驚愕だ。見た目は同じ人間なのに、表情が別人だから。
「父さん…母さ…」
「トム!いつまで突っ立っているのですか。ハンクス家の跡継ぎとしてご友人方を応接間へご案内致しなさい」
「そうだぞトム。さあ。お嬢さん方も。朝食なんかよりも起床したらまず始めに行うべき事それは偉大なる大神アドラメレク様を讃える事!アドラメレク様万歳!」
「アドラメレク様万歳!!」


バタン!

両親が背を向けた時。トムは武器の槍で2人の背中を突き刺した。呆気なくその場に崩れ落ちる両親。
「ト、トム君…!」
「トム…!」


ブシュ!ブシュ!

「きゃっ…!」
すると、崩れ落ちた両親の体からは血が噴き出し、やがて両親はただの肉片と化してしまった。


しん……

静まり返った館。外から朝を告げる小鳥のチュンチュン鳴く囀りが聞こえてくる。槍を手に握ったまま下を向き黙りのトム。カナとアイリーンは顔を真っ青。
「ト、トム君…これっ…て…」
「…ナタリー」
「は、はいっ…!」
「イエガータ村長の時と同じだっただろう。前日まで神々を敵視していた俺の両親が。前日とまるで別人に…アドラメレク神を讃えていた。これが…」
「造り直しの…儀…」


バタン!

「アイリーンちゃん!」
「アイリーン!」
また顔を真っ青にして倒れてしまったアイリーンに駆け寄る2人。
「アイリーン!大丈夫かアイ…、…!!」
アイリーンは顔を真っ青にしながらも、目からポロポロ涙を流していたからトムとカナは目を見開き驚く。
「アイリーン…?」
「ああ…ああ…そんな…!そんな…!トムのご両親がそんな…!そんな…!」
「アイリーン…。ありがとう…。泣いて…くれるんだな」
「トム…」
悲しそうに泣くアイリーンを抱き締めて頭を撫でるトム。つられてか、カナもポロポロと涙を流す。
「うっ…ひっく…トム君のお父さんとお母さん…!ひっく…」
「お、おいナタリーお前まで…!…ありがとう。ありがとうな。こんな、造り直しされて当然の両親に泣いてくれて…ありがとうなお前ら…」
トムはカナとアイリーンの頭を撫でながら下を向く。その頬には一筋の涙が伝っていたそうな…。
「ああトム…可哀想なトム…。大丈夫ですわ…トムは1人じゃありませんもの…わたくし達がついておりますわ…」
「そうだよ、ひっく、だから…ひっく、大丈夫だよトム君!ひっく」
「ありがとう…ありがとうなお前ら…」
両親の犠牲を泣く2人の頭をいつまでも「ありがとう、ありがとう」と礼を言いながら撫でていたトム。
下を向いたアイリーンの表情が「クスッ…」と薄ら笑いを浮かべているとはトムもカナも知らず…。






















ヴァンヘイレン――――

「え!トム君のご両親が造り直しの儀に…!?」
帰還したトム班。1Eの教室でカナの机の周りに集まったメア、アイリーンがウォッズでの任務を話している。相変わらずアガレスは自分の席に着いて1人で黙々と読書中だが。
「うん…。私達ヴァンヘイレンはどうしたら良いのかな…。造り直しの儀の対象になった人が被害に合う前に神を倒さなきゃいけないんだけど…」
「わたくし達人間では神の姿を見る事ができないので太刀打ちができませんの…」
「そ、そっか…そうだよね…」
自分は人間ではないから神の姿が見えるメアは、どう返事をしたら良いか分からないから曖昧な返事になる。
「そういえばトム君は?」
「トムでしたらご両親の件と今回の任務報告を職員室で先生になさっているところですわ」


ガラッ、

「トム君!」
噂をすれば何とやら。教室の後ろ扉が開いて現れたトム。平然としているトムに対し、逆に目を反らしてしまう女子3人。可哀想だと思っているからだろう。(相変わらずアガレスはトムに目もくれず、黙々と読書中)トムは片手を挙げて、いつもより明るい調子で挨拶をするから、それが逆に辛い。
「よっ。おはよう」
女子3人の前を過ぎ、席に着くトム。
「ト、トム君あの…」
「ああ。大丈夫大丈夫。気にしなくて良いから。逆にそういう顔された方がこっちもしんどいしさ」


ガラッ、

「おーし。授業始めるぞー」
教室に入ってきた教師。チラッとトムの事を見たが、敢えて声は掛けずに授業を開始した。毅然としてはいるものの、やはり肩は小刻みに震えていたトムの後ろ姿。トムの後ろの席に座っているアイリーンは教科書で顔を隠しながら誰にも聞こえない声で「クスッ」と笑っていた。






























その日の晩。
ヴァンヘイレン宿舎―――


ザァー……

通常ならば宿舎は2人で一部屋。だが、たまたま人数の関係上端数が出てしまいアイリーンだけ1人部屋。シャワーを浴び、かれこれ10回は頭から爪先まで洗うアイリーン。
「ふぅ」
頬を赤く上気させ、バスローブ姿でベッドに腰かけるアイリーン。
「ああ。汚らわしかったですこと」
誰も居ない空間に笑みながら話し掛けるアイリーン。だが、それは人間が見たら…の話であって。神のアイリーンから見たらマルコはウォッズからずっとアイリーンの側を片時も離れずに付き添っていたのだ。マルコはベッドの後ろに直立不動。表情はやはり、優しい神父そのもの。
「お嬢様でしたらあのような事をなさらずとも、トム君の父親を瞬殺できたのではありませんか?」
「ええ。そうですわ。でもそれでは楽しくありませんもの。わたくしの虜になった人間を裏切る。その瞬間人間が浮かべる驚愕で呆然で絶望の表情。あれが最高なんですもの」
神父は、やれやれといった様子で肩を竦めて笑う。アイリーンはベッドに仰向け大の字で寝転がる。
「人間に触れられたお身体の消毒は済みましたか?」
「ええ。全て」
「それはようございました」
「次は誰をどうして遊びましょうか。ふふふ。遊びが尽きないから楽しいですわね人間殺しって」
「おいたも程々に…ですよ」
「忠告ありがとう。ふぅ。今日はもう寝ますわ。貴方はもう天界へ戻ってよろしくってよマルコ」
「畏まりました」
膝まづくと、マルコはスウッ…と、まるで残像のように消えていった。
アイリーン…いやアドラメレクは横に寝転がり、自分の美しい白い髪を指に巻き付けて微笑む。
「次は誰で遊びましょう?次は…わたくしに好意を抱いているヴァンヘイレンの人間共。その次はそれ以外のヴァンヘイレンの人間共。更にその次はトム。そして最後は…。わたくしに楯突いたダーシー氏と、神々の面汚しアガレス氏…。ふふふ。遊んでも遊んでも楽しみが尽きませんわ」


















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