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GOD GAME
ページ:2
「キーッ!」
「フォッフォッフォッ」
様々な形容をした一見妖怪のような下級神々は御子柴に言われると、鳴き声を上げ、一斉に本殿の中へ突入。由樹を探す為。


ドスッ!

御子柴神はカッと見開いた薬物中毒者のような血眼でなめ回すように御殿を見ながら、御殿の腹に自分の人差し指を突き刺す。
「御殿氏ィ〜…?少女を見つければアナタも少女もアガレスの二の舞になるわよ〜…?今の内に覚悟しておきなさいィ〜…?」
「……」
――御子柴神達が社殿を探している間の時間は、由樹ちゃん達が逃げる為の確実な時間稼ぎになるはずです…!――
闇夜に浮かぶ真っ白い月に祈るように見つめた。
「御殿氏ィ…アナタ…企んでいる目をしているわ…」
「え…!」
――しまった!動揺を見せてしまった…!――
開ききった目で御殿をなめ回すように見ながら御子柴はガタガタの歯を覗かせて笑った。


くん、くん

すると犬のように鼻で辺りのニオイを嗅ぐ。
「アナタ達社殿捜索は中止よ…。人間のニオイはこの本殿の裏を降りていってるわ…」
「…!!」
ビクッ!
あからさまにビクッ!としてしまった御殿を見て御子柴はまた笑う。
「それと…他に2人分人間でも神でもないおかしなニオイも一緒だわ…。アナタ達早急に本殿裏を降りなさい…」
「キーッ!」
下級神々達はぴょん!ぴょん!と飛び降り、本殿裏に広がる急斜面な雑木林を走り降りていった。
――まずい…!!――
本殿裏に体を向ける御殿。
「結界…斑…」


バシッ!

「あ"ぁ"!!」
しかし、素早く印をきった御子柴の手から放たれた10枚の御札が御殿の体を拘束。御殿はドサッ!と倒れる。両手両足に御札の形をした鉛をくくりつけられたかのように身動きとれず、地面で倒れたままもがく御殿。御子柴は口に手を添えて嘲笑う。















「地面の上をもがく芋虫みたいでお似合いよ御殿氏…フフフ…フフフ…」
「くっ…!」


バチンッ!!

「あら…」
御札の結界を弾き飛ばした御殿。粉々になった御札の残骸が御子柴の目の前に桜のようにヒラヒラ舞う。
「おかしいわ…。衰退した神社の神にこの結界は解けないはず…」
「御殿神社は渡しません。由樹ちゃんも。…調度良いです。3000年間の争いに決着をつけましょう」
ゴゴゴ…
御殿の背後に伸びる影の形がヒトガタから鷹に変わっていく。御子柴はガタガタの歯を覗かせてニィッ…と笑み、黄色い肩掛け鞄の中をガサガサ漁り出す。
「良いわよ…そうね…そろそろ決着を着けたいと思っていたとこ…。ものの数秒で終わらせてあげるわ…」


カラン!カラン!

鞄の中から色とりどりの金平糖を地面に散りばめると。御子柴の背後に伸びる影の形がヒトガタから大蛇へと変化していった。
「フフフ…フフフ。行くわよ…御殿氏…」
「挑むところです…!」






























同時刻。AM2:50、
きさらぎ駅―――

「って言ってもこんな真夜中じゃ電車なんてくるわけないよ御殿さーん!!」
町外れの駅とあって、駅のホームのぼんやりした街灯の明かりしか無いきさらぎ駅。無人駅の改札を飛び越えるアガレス。それに続いてメアは由樹と手を繋いだまま改札を何とか乗り越える。
ゲコゲコ、ゲコゲコ、
蛙の鳴き声だけが聞こえる。街灯の明かりしか無い不気味な駅のホーム。由樹は後ろ御殿神社がある方角を振り向く。
「御殿さん…」
此処からでは到底見えないが、由樹は御殿から貰ったピンク色の御守りを胸にぎゅっ…と押しあて、今にも泣き出してしまいそう。だからメアは複雑な胸中ながらも、由樹の両手をぎゅっと握り締めてあげる。
「大丈夫。朝になって由樹ちゃんを電車に乗せたら私達また御殿神社へ向かうから。その前に御殿さんがあいつらみーんなやっつけちゃっていると思うけどねっ!」
「はい…」
だがしかし由樹の目は涙で濡れており、メアの励ましの言葉なんかでは由樹の情緒は安定させられない。
「由樹ちゃん…」
「よっ、と」
「アガレス君何やってるの!?」
ホームから線路へ飛び降りるアガレス。メアはホームから呼ぶ。
「線路の向こうが見えない程暗いが線路を辿れば此処からは離れられるだろう」
「だから朝になれば電車が来るんだって!それまで、」
「待てんな。未だ遠いがあの祭り囃子が聞こえる」
「え!嘘っ!?」
メアと由樹は自分の耳に手を添えて耳を澄ませる。蛙の鳴き声しか…いや、よく耳を澄ませば聞こえる。祭り囃子が。ぼんやり浮かぶ街灯しかない闇夜に聞こえる祭り囃子はより一層不気味さを引き立たせる。
「こっちに向かってるって事は…じゃあ…御殿さん…やられて…!?」
「いや。ただ貴様を探しに兵力を分散させただけ、」
「由樹ちゃん!!」


ダッ!

メアの手を振りほどき、改札を跳び越えて御殿神社の方角へと走っていってしまった由樹。
「アガレス君!」
「チッ。これだから人間は」
アガレスが線路からホームへ登るとメアも走り出す。来た時と同じように改札を飛び越えて…
「おーい。夜中に子供が外に出ちゃいかんよー」
ホームから聞こえた男性老人の注意に振り向きもせず、
「ごめんなさーい!」
と口だけの謝罪を言うメア。
「…え?今、駅に誰も居なかったのに…?」
「ダーシー殿伏せろ!」
「え?」
「伏せろ!!」
珍しくアガレスの強い口調にメアは何が起きたのか分からないが慌てて屈む。


ドガン!!

「!!」
するとメアの頭上を天狗が八手の葉団扇を持ちながら飛んでいった。アガレスはメアの腕を引っ張り引き寄せる。すると、さっきまで無人だったきさらぎ駅のホームにはシャン、シャンシャンと鈴や太鼓を鳴らしている下級神々がズラリ。天狗や架空の生き物のような…何とも形容し難い妖怪のような容姿の神々が全員祭り囃子を奏でながらアガレスとメアを見て居た。
バッ!
後ろを振り向いても前同様。下級神々がズラリ並んでいる。
「由樹ちゃんを助けに行かせないつもり!?」
「フォッフォッフォ。あの人間自ら神社へ戻ってくれて手間が省けたぞい」
「死にに行った!死にに行った!あの人間死にに行った!ばーか!ばーか!」
「あとは。元・神々を始末すれば御子柴様から褒美が貰えるぞい」
「元・神なんてオレラの敵じゃねぇ!かかれー!」
「ギャア!ギャア!」
ワアアア!
深夜に響く神々の鳴き声。神々は前後左右からアガレスとメアに襲いかかる。アガレスとメアは背を向け合い、武器を繰り出す。
「ダーシー殿。マルセロ修道院で武器は大破したのではなかったのか」
「すぐ修理したもんね!でも…いつもより力は発揮できないだろうけど…」
「足手まといの雌豚が」
「ふーん!アガレス君よりいっぱい倒してみせるもん!」


ゴゴゴ…

アガレスが武器の槍を取り出せば、槍が纏う黒い闇だけで「ワアアアア!」と吹き飛ばされてしまう下級神々。しかしアガレスは容赦なく槍で神々を凪ぎ払っていく。


ドス!ドスッ!

「ウギャァアア!」
「私だって負けていられないんだから!」


スパン!スパン!

「ウワァアアァアア!!」
メアも武器の短剣を繰り出し、神々の集団の中を回転しながら突き進んで攻撃。
神々は青い血を噴いてバタバタ倒れていく。















「ぐっ…!くそぅ…!」
下級神々の中ではリーダー的存在の天狗だけとなる。天狗にジリジリ迫る2人。天狗の後ろは線路。もう後ろへは下がれない。
「あっという間なら私達に歯向かわないでくれる?」
「くっ…!ここまで…か…。…と言うとでも思ったか小僧共!!」


バサァ!

天狗は葉団扇を振ると強風が吹く。
「きゃあ!」
吹き飛ばされてしまいそうになる軽いメアの腕を掴んでやるアガレス。だが、そのアガレスも踏ん張っていないと吹き飛ばされてしまいそうな強風。ぐぐぐ…、踏ん張っているアガレスの両足が押される。
「ホレ!ホレ!吹き飛べ小僧共!フォッフォッフォ!」


バサァ!バサァ!

葉団扇をこれでもかと振る天狗。風圧で息がうまくできなくなる。
「っく…!この程度…、堕天前なら敵でもない…、のに…、!!」


ブワァ!

「きゃああ!!」
ついに強風で2人の体が浮き上がると、そのまま吹き飛ばされていってしまった2人。
「フォッフォッフォ。よく飛びましたなぁ」
額に手を翳して、闇夜に吹き飛ばされていった2人を満足気に眺める天狗。
「お楽しみまでの良い時間稼ぎになった事ぞい。吹き飛ばされた先でとくと御覧になるが良い、御殿と人間が堕ちる姿を。フォッフォッフォッ」
天狗の不気味な笑い声が闇夜に轟いていた。






















御殿神社―――――

「通リャンセ。通リャンセ。ココハドコノ細道ジャ。天神サマノ細道ジャ。チョット通シテクダシャンセ。御用ノナイモノ通シャセヌ。コノ子ノ七ツノオ祝イニオ札ヲ納メニ参リマス。行キハヨイヨイ。帰リハ怖ヒ。怖ヒナガラモ通リャンセ。通リャンセ」
「う"…ぐっ…、」
「お嬢に従わないからそうなるのよ…」
下級神々に囲まれた輪の中に、全身に無数のお札が張り付けられ真っ黒くドロドロしたケロイド状の生き物が苦しそうに呻きながら地面に伏している。ヒトガタの姿も本来の姿もどちらの面影も無くなったこのケロイド状の生き物こそ、御殿。
「通リャンセ。通リャンセ。ココハドコノ細道ジャ。天神サマノ細道ジャ。チョット通シテクダシャンセ。御用ノナイモノ通シャセヌ。コノ子ノ七ツノオ祝イニオ札ヲ納メニ参リマス。行キハヨイヨイ。帰リハ怖ヒ。怖ヒナガラモ通リャンセ。通リャンセ」
下級神々は通りゃんせを歌いながら輪になってぐるぐるぐるぐる、御殿の周りを回る。苦しむ御殿を喜びながら。
「う"…ぐ…、」


ビチャ…、ビチャ…、

ケロイド状のドロリとした真っ黒い腕で地面をゆっくり這う御殿。そんな御殿を御子柴はフッ…と見下し嘲笑う。
「いい気味ね御殿氏…フフフ…衰退する前の御殿氏ならワタシの御札だけでそんなになる事なんて無かったのに…呆気なくてつまらなかったわ…。3000年の戦いに決着を…なんて言うものだからもっと楽しませてくれると思ったのに…残念だわ…フフフ…」
「ぐ…、う"…」
「これでよく分かったでしょう…お嬢に逆らうとどうなるか…ってね」
「ハァ、ハァ!ご、御殿さん…!」
「!!」
「あら…」
本殿裏から息を切らして登って現れたのは、由樹。真っ黒いケロイド状の中に目玉だけ浮かび上がる御殿はその目玉で由樹の方を見て大きく見開く。一方、御子柴はニンマリ。

























「来タ!来タ!人間来タ!」
「御子柴様!人間来タヨ!」
「え…、な、何これ…」
下級神々達が一斉にワァ!と盛り上がり、手を叩きピョンピョン跳ねて喜ぶ。初めて見る下級神々の姿は勿論、そこで地面に伏しているケロイド状の生き物にも呆然としている由樹。
しかしぐっ、と御守りが握り締められた右手を強く握り締めて意を決す。顔を上げ、御子柴を睨み付ける。足も手もガタガタ震えているのが一目瞭然だが。
「ご、御殿さんは…御殿さんは何処ですか…!」


スッ…

「え…、」
御子柴は意地悪なニンマリした笑みを浮かべながら、ケロイド状になった御札まみれの御殿を静かに指差す。由樹はゆっくり視線を動かす。そこには、真っ黒いドロドロした体に2つの目玉だけが浮かぶ不気味な生き物しかいないから、もう一度御子柴を見る。
「ご、御殿さんは何処に居るのかを聞いているんです…!御殿さんに何かしたなら私、」
「だから教えてあげたじゃない…そこに居る御札まみれのが御殿氏よ…」
「そ…そんな…これが…御殿さん…?」


ガクッ…、

顔を真っ青にして膝から崩れ落ちると由樹は、ケロイド状の真っ黒い生き物と化した御殿に呆然。御殿は一度は上げた顔をまた下げ、地面に伏す。その様はまるで、御子柴にやられた自分を恥ている。





















一方、そんな2人を見て計画通りだと楽しげにニンマリ笑う御子柴。
――フフフ…この光景が見たかったのよ御殿氏…――
しかし…


ビチャ…、

「…!」
由樹は、ケロイド状の御殿の両手を包み込むように強く握る。これには御殿も御子柴も目を見開く。
「御殿さん…ごめんなさい…私が…私がお詣りに来なければ御殿さんがこんなになる事もなかったんだよね…」
目をきつく瞑り、切なげにぽつりぽつり言葉を絞り出す由樹。真っ黒い体に浮かび上がる目玉を丸めて由樹を見る御殿。
「…ハッ!何をボサッとしているのよ貴方達…!さっさとあの歌を歌いなさい!」
ケロイド状の御殿を見ても引かず、手を握る由樹に下級神々も回るのも歌うのもやめ、ぽかん…としていたから、御子柴が催促。そうすればハッ!と我に返った下級神々は再び通りゃんせを歌いながら、今度は御殿と由樹を囲んで周りをぐるぐる回り出す。そんな周りの喧騒を気にせず、由樹はただひたすら、祈るように御殿の両手を強く握り締めている。
「御殿さんごめんなさい…人間の私なんかが御殿さんを助けられるかは分からない…でも、ずっとこうしてお祈りします…。御殿さんが元の元気な姿に戻れるように…って。…えへへ。おかしいね。私、誰にお祈りしているんだろうね。御殿さんが神様なのに」
今にも溢れ出しそうな涙を浮かべながら笑う由樹に、御殿の目玉からも光るモノが浮かぶ。




























「さあ…そのくらいで終わりよ…」


ザッ…、

地面を歩く音がして御子柴が2人に近寄る。すると由樹は御殿の前に立ち両手を広げ、御子柴を睨み付ける。ガタガタ震えているが。
「フフフ…御殿氏には触れさせない…そんな感じかしら…?」
「っ…、御殿さんは何も悪くないです…!天罰は神域に踏み込んだ私だけで充分です…!だから…だから、御殿さんには何もしないで下さい!私に造り直しの儀を行って良いですから…!」
「…!!由樹ちゃん、いけませ…、」
「良いも何も人間…貴女が決める事じゃないのよ…」


ザワッ…!

風も無いのに御子柴の周りを御札が舞うと、御子柴からは言い知れぬ恐怖が漂い出す。
御殿はケロイド状になりながらも何とか立ち上がり、由樹をぐっ、と引き寄せ、御子柴の方を向く。御子柴は真っ赤な歯茎が見えるくらいケタケタ笑う。
「あらあら…この子には指一本触れさせない…そんな感じかしら…。御殿氏もその人間も相思相愛ね…妬けるわ…フフフ…」
「ご、ご、御殿さ…、」


ぎゅっ…、

怖がる由樹を強く抱き締める御殿。由樹は目を見開き、ツゥ…と涙を伝わせて御殿の胸に顔を埋めて御殿の背中に両手をまわす。御殿の体はケロイド状でビチャビチャ感触の酷く悪いモノだが、そんなもの由樹は全く気にしていない。
「人間…造り直しの儀を行うのにアナタの許可をとる必要は無いのよ…お嬢がしろと言えばする。いいえ、しなくちゃいけない…そういう決まりなの…。それに今回は普通の人間の造り直しの儀とは訳が違うわ…不浄で汚らわしい恋愛。その相手が御殿氏…神だもの…。普通なら…恋愛をしている人間両者に造り直しの儀を行うだけで、はい終了…。でも今回は違うわ…御殿氏…アナタには堕天してもらわなくちゃいけない…」
スッ…
静かに御殿を指差す御子柴。

『俺と同じ末路を辿る』

御殿は、先程アガレスに言われた言葉を思い出す。
御子柴は瞳孔が開ききり歯茎剥き出しのままケタケタ笑う。
「堕天神アガレスと同じになるのよ…フフフ…アハハハハハ!良い気味よ御殿氏…3000年間ワタシに敵対した天罰が今下されるの…!御殿氏と言い争いできなくなるのはつまらないけれど…ね…フフフ…アハハハハハ!」
「御殿さんが堕天…!?」
「由、樹…ちゃん…」
「御殿さん…!」
「ああ…水を差すようだけれど…堕天されてアガレス氏は悪魔になったけれど普通は違うのよ…」
「…?」
「あの時はたまたま悪魔に邪魔されてアガレス氏も相手の人間も悪魔にされただけ…。本来なら堕天された神は…」
今までにない程笑う御子柴。
「祟り神となるのよ…人間を祟る…ね…!」
そう言いながら由樹を指差す御子柴。祟り神となった御殿が由樹を祟ると言いたいのだろう。御殿は再びぎゅっ、と由樹を抱き締める。

















「由樹ちゃん…、」
「通リャンセ。通リャンセ。ココハドコノ細道ジャ。天神サマノ細道ジャ。チョット通シテクダシャンセ。御用ノナイモノ通シャセヌ。コノ子ノ七ツノオ祝イニオ札ヲ納メニ参リマス。行キハヨイヨイ。帰リハ怖ヒ。怖ヒナガラモ通リャンセ。通リャンセ」
「!」
御子柴は再び周りに御札を舞わせ、今度は御子柴が通りゃんせを歌い出す。まるで呪文を唱えるかのように。すると、下級神々は先程よりうんと速い速度で御殿と由樹の周りをぐるぐるぐるぐる回り出す。
「通リャンセ。通リャンセ。ココハドコノ細道ジャ。天神サマノ細道ジャ。チョット通シテクダシャンセ。御用ノナイモノ通シャセヌ。コノ子ノ七ツノオ祝イニオ札ヲ納メニ参リマス。行キハヨイヨイ。帰リハ怖ヒ。怖ヒナガラモ通リャンセ。通リャンセ」
「御殿さん…!」
顔面蒼白で震える由樹をきつく抱き締めるものの、どうすれば良いか分からない御殿。しかし、右手の平を御子柴に向ける。
「はあ!!」


シュボッ…、

しかし、御殿の手の平から噴いた火は燃料切れのライターの火のように呆気なく消え、御子柴に届かず。
「フフ…アハハハハハ!ただでさえ神主不在の御殿神社は力を無くしているというのに…ワタシに奪われて神の力はもう残っていないのよ…悪足掻きは自分を虚しくさせるだけ…嗚呼可哀想な御殿氏!嗚呼可哀想な人間!…行キハヨイヨイ。帰リハ怖ヒ。怖ヒナガラモ通リャンセ。通リャンセ!!」


ゴオッ…!!

「御殿さん!!」
「由樹ちゃん!!」
御札と禍々しい黒い煙に包まれた御殿と由樹は引き剥がされる。
「アハハハハハ!そう!それ!それなのよ御殿氏!!その悲劇の主人公のようなその表情!最高よ御殿氏!お嬢にも見せてあげたいくら、」
「お邪魔しますよ。神」
「…!?」
その時。御子柴の背後から少年の高い声が聞こえ、バッ!と振り向く御子柴。すると、そこにはあの日ヴァンヘイレンに現れた青髪シルクハットの悪魔が居た。
















御子柴は歯をガチガチガチガチ鳴らしながら眉間に皺を寄せて、青髪悪魔を睨み付ける。どちらが悪魔か分からない表情をして。
「悪魔…!アガレス氏の時のようにまた邪魔をする気…!?アナタ達低俗な悪魔がワタシ達神に逆らおうなんて10000年早いのよ!!」


ドッ!

御子柴が青髪悪魔に御札を吹き飛ばす。しかし、ひょいと簡単に避けた悪魔は何と、由樹の背中に引っ付くから御子柴は目を見開く。
「そいつは…!その人間はワタシ達神が造り直しの儀を行う人間…!!」
「悪いですが。こちら魔界も人手不足なのです。アガレスさんが来てくださらないから。ですからこの人間は頂いていきます。そちらの神はもうこちらでは手の施しようがございませんから…」


パンッ!

何かが破裂したような音と共に由樹は意識を失い、その場に倒れる。
「待ちなさい悪魔ァア!」
しかしもう青髪悪魔は忽然と姿を消していた。




















「チッ…!悪魔…!許さない許さない許さ、」
「ヴヴヴヴ…」
「あら…」
背後から獣のような呻き声がすれば、超絶不機嫌だった御子柴もケロッとし、笑顔になる。そこには、真っ黒いケロイド状で全身に御札が貼り付けられた姿の御殿が、浮かぶ目玉を真っ赤にして唸っていた。雰囲気だけで分かる。あの、優しく穏やかな御殿ではなくなった事が。
「あら…あら…御殿氏…アナタは悪魔に持っていかれなかったのね…。そうよ…憎き生意気御殿氏さえ不幸になれば…あの人間が悪魔になろうが構わないわ…嗚呼御殿氏おめでとう!今日から貴方は祟り神御殿氏として生まれ変わったのよ!!」
「祟り…神…?」
「あら…」
意識の戻った由樹がゆっくり体を起こしながら呟く。由樹の茶色かった瞳は悪魔の真っ赤に染まっており、目の下には青髪悪魔と同じ赤い不気味なペイントが。そして背中には悪魔の黒い羽。爪は真っ黒。
「っ…!!」
御子柴が差し出した紫鏡に映し出された悪魔化した自分に、由樹は顔面蒼白にしながら自分の頬を押さえる。ニィッ…。御子柴は笑う。
「イヤ…!イヤ…!私…どうなったの…!」
「おめでとう!人間アナタも悪魔として生まれ変わったのよ…おめでとう!おめでとう!」
「っ…!」
泣く由樹を喜び、瞳孔が開ききり歯茎剥き出しのまま笑う御子柴。頭上でパン!パン!拍手する。
「イヤ…!イヤ…!私、」
「ヴヴヴヴヴ!!」
「…!!」


ガッ!

「あら…!」
堕天し祟り神となり我を忘れ、由樹の事も何もかも忘れた御殿が由樹に襲い掛かる。御神木に由樹の背中を打ちつけて由樹の頭を掴む御殿に、御子柴はもうこれ以上ない幸せ!とばかりに笑む。一方の由樹は、涙がボロボロひっきりなしに流れる目を丸めて、御殿を見る。変わり果てた御殿を。
「御殿…さん…?」
「ヴヴヴヴヴ!!」
「御…殿、さ…ん…?私のせいで…祟り神に…なっちゃった…の…?」
「そうよそうよそうよォ!ワタシからしたら人間!アナタのお陰よォ!!」
「堕チタ!堕チタ!」
「御殿ハ堕チタ!」
「堕チテ祟リ神ニナッタ!オメデトウ!オメデトウ!」
下級神々も、やんややんや喜びの舞を踊る。
獣のように唸り、由樹の頭から血が滴る程強く掴む変わり果てた御殿。由樹は涙を伝わせる。
「御、殿…さ…ん…。私の事…分かる…?」
「ヴヴヴヴヴ!!」
「私の事…忘れ…ちゃった…?」
「ヴヴヴヴヴ!!」
「御、殿…さ…ん…」

























今から
時を遡る事3年前―――

「よっし!綺麗になりました!これでいつでも参拝者の方々をお出迎えできますよー!」


しーん…。

「って…かれこれもう1000年も参拝者さんがいらしていないのでした…」
神社の石段から本殿まで竹箒で綺麗に掃き掃除をした御殿。だったが、人間の参拝者が来る気配ゼロ。静まり返っていて、風に吹かれて擦れ合う木々の葉音しか聞こえてこない。毎日毎日気合いを入れて掃除をし、いつ参拝者が来ても良いように準備をしているのだが…。御殿はがっくり肩を落としてしまう。
「はぁ…。無駄な努力なのでしょうか…。いいえ!そんな事はありません!では一仕事終わりましたし、お茶の時間に致しましょう」
箒を置くと、本殿へ入っていくのだった。


















「ふぅ…。神専用煎茶はやはり美味しいですね…。今度ダーシーちゃんにもお教えしなくてはいけませんね」


カラン…カラン…

おや…?」
本殿の中縁側で1人、煎茶を啜っていた御殿の耳に届いた音。それは、拝殿の鈴を遠慮がちに鳴らす音。


ガバッ!

御殿は立ち上がり、湯飲みを置く。


ドクン!ドクン!ドクン!

高鳴る心臓を右手で押さえながらド緊張。
「まままま、まさか1000年振りの人間の参拝者さんが!?い、いえ…!期待してはいけません僕!風で鈴が鳴っただけかも…い、いえ!でももし本当に参拝者さんがいらしていたとしたらそのお願い事を叶えるのが御殿神社の神の僕の役目ではありませんか!」
ミシ、ミシ…
畳を踏みながらゆっくりゆっくり緊張しながら、社殿の中を歩く。


カラン…カラン…

賽銭箱と鈴のある拝殿との扉を遮る所まで来た。まだ、鈴は鳴っている。

ドクン!ドクン!

緊張しつつ、賽銭箱と本殿とを隔てる扉の隙間から外を覗く御殿。
「!!」
そこには、風ではなく。神社の鈴を鳴らしている1人の少女が居た。
――ほほほ、本当に人間の参拝者さんが1000年振りに来てくださった…!!――
ドクン!ドクン!心臓を高鳴らせながらも、嬉しそうに笑む御殿。すると…

『死にたい…死にたいよ神様…私を殺して下さい…もう生きてても辛いだけだよ…』

「…!」
御殿の脳に直接聞こえてきた参拝者からのお願い事。たった今まで1000年振りの参拝者に心踊っていた御殿の表情が真剣になる。



















扉の隙間から再度外を覗くと、そこには空虚な目をしてただただカラン…カラン…と力無く鈴を鳴らす制服姿の少女が1人。
――人間のお願い事といえば、豊作祈願、商売繁盛、家庭円満など…幸せを願うものばかりでしたが…この子のお願い事は聞けそうにありませんね…――
御殿達神は人間には姿が見えないから、御殿は拝殿の扉をすり抜けて外へ出る。やはりまだ、ぼーっ…と空虚な目をして鈴を鳴らす少女。人間の少女には自分の姿は見えないから…御殿は少女に近付く。
「…!きゃっ…!」
「え?」


バタン!

突然少女が驚くと、後ろへ転んでしまった。その時一瞬…
――目が合ったような…気のせいですよね…?だって僕達神は人間には見えないですから――
「だ、だ、誰…ですか」
「え!?」
まさかの少女の発言に、御殿は辺りを見回す。しかし、此処には自分と少女しか居ない。
「え!?え、え!?あ、貴女まさか僕が見えて…?」
コクコク、
驚いた表情のまま頷く少女に御殿も驚いた表情。


しん…

2人の間に沈黙が起きる。
「あの…」
「は、はい!」
沈黙を破った少女の言葉に御殿は語尾が上ずってすっとんきょうな声。
「神様…ですか…?」
「い、いかにも…です」






















本殿の縁側に少女を案内した御殿。人間用のお茶も菓子も無いから何も出していないが。
「えっと…由樹…ちゃんですね。渡邉…由樹ちゃん」
コクコク、
頷く少女由樹。しかし、恥ずかしいのか顔はそっぽ向いている。
「由樹ちゃんはすごいですね。神が見えるんですか?」
コクコク、
「僕はかれこれ3000年生きていますが、神が見える人間は初めてお会いしました」
コクコク、
「霊感のある人間は稀に居らっしゃると聞きますが…。あ。由樹ちゃんはもしかして幽霊も見えたりしますか?」
コクコク、
「ふふ。すごいですね」


しん…

再び起きる沈黙。御殿は優しい笑顔から、真剣な表情になる。
「由樹ちゃん」
「?」
「先程はご参拝ありがとうございます。この神社はもう1000年も人間の参拝者さんがいらしておらず…由樹ちゃんが来てくださり僕はとても嬉しかったのです」
コクコク、
「でも…先程由樹ちゃんがお願いしていたお願い事は叶える事はできません」
「え…」
やっとこちらを見た由樹の顔がまた、鈴を鳴らしていた時の空虚な目に戻っていた。


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