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症候群-追放王子ト亡国王女-
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『まあ!ルーベラ、軍隊の御本を読んでいたの?偉い偉い』
『うん…』
『私は軍隊や戦争って分からないけれどルーベラは偉いわ。兄弟の中でたった1人でお父様とお母様のお役にたとうと頑張っているんだもの。きっと喜んで下さいっているわ』
『うん…ルーベラ頑張る。けど…アダムス姉様』
『なあに?』
『きょ、きょうルーベラと遊んでくれる?ルーベラねお人形遊びしたくて、』
『アダムス様ー舞踏会の御支度を致しますよー』
『あ。はーい。ん?ルーベラ今何か言った?』
『…なんでもない』
『そう?私はお兄様やお姉様達と舞踏会へ参加してくるけれどルーベラはお部屋で軍隊のお勉強頑張っていてね』
『うん…ばいばい』

――嗚呼私は駄目な姉ですマラ様…。お父様がルネへ輸出しようとしていた奴隷さん達を助け、身寄りのない方達を助け…。でもそれよりももっともっと先に、昔から助けて守ってあげなければいけない存在がこんなにも近くに居たというのに…。今になって気付かせるなんて神様は酷い方なのですね…今になって気付くなんて…私は駄目な姉でしたね…――
「あははは!」
アダムスの返り血を顔や髪や軍服に付着させても尚それを喜ぶかのように響くルーベラの笑い声の中。
「…ね…ごめんね、ルーベラ…」
アダムスのか細い声が妹に届く事は無かった。


パァン!

脳天一撃。もうこれだけ撃っているのだからこれ以上殺さなくても良いというのに。


ドサッ、

鈍い音をたてて俯せで倒れ込んだアダムスの遺体を見下ろすルーベラ。
「ふふふ…あははは!これで良いのよ…余計な記憶は要らない…情なんて戦争に要らないの…私にはあいつの記憶だけ…殺したい程愛しくて愛しいから殺したいあいつへの情だけで良いのよ…」
「ふざけた事を!!」


パァン!

「…え、」


ドサッ…、

マラの震える左手に握られた拳銃の銃口から吹き出す灰色の煙。目を見開いて彼らしくない程怒りに満ちた顔のマラの足元には、今マラに撃たれた背中からドロドロした赤黒い血を流すルーベラ。





















「っはぁ…はぁ…」
何が起きたのか分からない間に発砲されたルーベラはもう無抵抗のようだ。その時。


ガーッ、ガガッ、

「!!」
ルーベラの腰ポケットの無線機やらノイズがして、マラは挙動不振になる。まるで殺人を犯した家の電話が鳴り驚いた時の犯人のようなマラ。


ガー、ガガッ、

「…尉、少尉。応答して下さい。ルーベラ少尉?ジュリアンヌ兵士はご無事ですの?少尉?」
無線機からのエリザベスの声にビクッ!と身震いするマラ。
一方のルーベラがその通信にも無反応なところから察すると…。もうこれ以上彼女を撃つ必要性は無いと見たマラは階段を駆け降りる。後ろからは未だエリザベスの声がノイズと共に聞こえてくるが。
「はぁ、はぁ…この場所はイギリス軍に知られているのでしたね。そうゆっくりしてはいられません」
1階の壁に立て掛けておいた真っ赤な十字架を手に取ると家を飛び出し、カイドマルドから奪取した戦闘機に乗り込めば雨音の中エンジン音が鳴り出す。
「ぐっ…!」
機内のモニターやキーボードを操作していたらやはり痛む右腕のせいで吐き気まで催しながらも、マラは唇を噛み締めて自分で自分の顔を上げさせる。
「まだ…まだです。まだあと1人…カイドマルド王室の人間を殺してはいません…。けれど…」
フロントガラスから真っ暗な夜空を見上げた。
「皆さんを失った私はこれから復讐の為だけに生きるのでしょうか?これがマラ教皇である私のする事なのでしょうか?」


ザー…ザー…

雨は容赦なく降り続ける。

















































ブルームズ宮殿――――


ブツッ、

「…使えない人ですわ」


コンコン、

無線の通信を切りながら呟いたエリザベスの自室にノック音が聞こえてくる。
「はい。どうぞ」
たった今の呟き声とは全くの別人の可愛らしい声で返答すれば、開いた扉の向こうにはウィルバースとイーデン。
「イーデンちゃん!」
「うわ!わっ、姉上…あ。じゃなくて!陛下!お止め下さいっ」
先日マラ教が宮殿へ襲撃した時負傷していたイーデンだったが、今はもう左腕に包帯を巻いているだけでほぼ回復だ。そんな大切な弟を見た瞬間一目散に駆け寄り抱き付くエリザベスには慣れっこのイーデンも恥ずかしがり、何とか押し退けようとする。ウィルバースも慣れっこだが呆れて思わず苦笑い。
「良かった。イーデンちゃん良かった。わたくしにはロゼッタちゃんとイーデンちゃんだけが支えですよ。だからずっと味方でいて下さいね!」
「〜っ陛下!」
「ゴホン。えー、陛下?お取り込み中失礼致しますが先程からルーベラ少尉とジュリアンヌ兵士との通信が繋がっても応答がございません。如何なさいますか」
エリザベスはまだイーデンに抱きつきながらも、大きな目をパチッと開く。憂いの表情を浮かべて。
「何かあったのかもしれませんね…すぐに大尉以下の者を現場へ送って下さい。場所はお分かりですよね」
「はい。では大尉へ通信を繋げておきましょう」
「あ!大将僕も行きます」
やっとと言った表情でエリザベスから離れる事に成功したイーデンはウィルバースと共に敬礼をすると部屋を後にした。


バタン、

「ふう」
ソファーに横たわり煌びやかなたくさんの宝石が付いた扇で仰ぎながら、天井に描かれた過去の大英帝国時の植民地が記された世界地図を見つめて不敵に笑む。
「ただの争いを嫌うから国際連盟軍へ入る事を快く思わないのではありません。我国が、ルネのような力無き国に他国と協力して戦うという無意味な争いを嫌うだけです。ルネの鎮圧よりもわたくしが欲している事それは…過去の栄光を取り戻す事。さて。お次は何処のお国を抑えましょう?」


ギシッ…!

ソファー隣に置いてある地球儀が軋む程握り締めた。



























































翌日。
アフリカ大陸
アンデグラウンド王国――――


チチチチ…

小鳥の囀りが、日々の荒んだ心を穏やかにしてくれる。
ロココ調造りのシャングリラ宮殿1階中庭。白い円柱がいくつも建ち並ぶ其処に広がるのはまるでイングリッシュガーデン。宮殿はロココ調だがこの国の街の建物や街並みはゴシック調で、人々の服装もまるで中世ヨーロッパにタイムスリップしたかのよう。アフリカ大陸の国とはとても思えない文化だろう。
それもそのはずこのアンデグラウンド王国はその昔にイギリスの植民地となった国なのだ。現在のエリザベス女王20世時に植民地から解放され国も返還され同盟国となったものの、派遣されたイギリスの人間がアンデグラウンドの政治に携わっているなど、実際のところアンデグラウンドはイギリスには逆らえない状態。未だにイギリスの支配下…と呼んだ方が正しいかもしれない。同盟国とは名ばかりだろう。
























場面は戻り、宮殿内中庭。白い円柱の吹き抜けのテラスには宮殿同様白を基調としたテーブルや椅子が並ぶ。


カチャ…、

ほのかに湯気のたつティーカップを置き、中庭の可愛らしい花々に目を向けるのはグレーのスーツを着たジェファソン。
「いやあ。手入れが行き届いていて良いじゃないか。ロジーの国のやり方はあまり誉めたものではないけれど、ガーデンだけは気に入っているよ。ガーデンだけは」
ズズッ…、隣で紅茶を啜る音に、ジェファソンの笑顔が呆れに変わる。そう。隣ではしたなく紅茶を啜るのはブラックのスーツを着たロゼッタ。脚まで組んでいてやけに大きい態度の座り方はいつもの事。
「当然じゃ。我国は食べる事にばかり力を注ぐお前の国とは違うからな」
「ふぅん。ロジーそんな事を言って良いのかなぁ?昔は君のところはそりゃああの無敵艦隊を破る程の力を持っていたけど、今は私の国の方が明らかに技術が上じゃないかなぁ?」
「あーっもう!ジェファソンさんも姐さんも!せーっかくのアフタヌーンティーなんすから仲良くしましょーよ!ね!?」
大声を上げて笑顔で、両サイドの2人を交互に見てウインクまでする青年。藤色地にブラックのストライプの入った派手なワイシャツ姿のバッシュだ。そんな彼の若過ぎる反応に、
「お前は本当相変わらずだな…」
と深い溜息のジェファソンに対しても満面の笑みで頭を照れ隠しの為に掻いて、
「あはは!そんな誉められる程のもんじゃないっすよー!」
なんてとんだ勘違いをするから、紅茶を飲み終えたロゼッタから、
「平和ボケの間違いじゃな」
と低い声で突っ込まれる。するとまた頭を掻きながら、
「姐さんやっぱキツいっすねー!」
なんて騒ぐものだから本来ならばここで「煩わしい」と言いたい2人ではあったが、これ以上彼と会話をしていたら話に脱線に脱線を重ねるだけなので敢えて黙っていたという。

























カチャン、

飲み終えた紅茶のティーカップを置き、ジェファソンのカップに新しい紅茶を注ぎ足すメイド。
「ところでだ。ルネの将軍が死んだとの事だけどロジー、バッシュ。それは真だと思うかい?」
「さあな。しかし現地の者の話によれば、開戦当初は他機とは多少異なる装備の機体が2機見受けられたそうじゃが、今は1機しか見なくなったそうじゃ」
「つー事は、そのスペシャルな2機の戦闘機は将軍と大将クラスの機体って事っすよね?って事はやっぱりその内のどっちかが死んだって事じゃないっすか?」
「安易な考えだけどそれが一番妥当だろうね」
「しかし、そんな将軍不在のルネ軍相手にアメリカは随分苦戦していたようじゃな」
ニヤリ。ロゼッタの笑みにジェファソンの目尻がピクピク痙攣する一方、能天気なバッシュは目をキラキラ輝かせ、
「さっすが姐さんかっこ良いっすね!」
なんて言うものだから、ジェファソンがバッシュの頬を力強く摘むというかなりのおかんむりだ。


ギュウゥ…!

「いででで!ジェファソンさん痛い!超痛いんすけど!」
「バッシュお前どっちの味方なんだ!」
「み、味方も何もないっすけど、ってか超痛い!痛いっす!これってもしや愛の鞭!?」
「ああそうだな!出来損ないの同胞への愛の鞭だ!」
「やっべー!俺って超愛されキャラ!」
ジェファソンが皮肉で言っている事にも気付かないバッシュ。



















「ふぅ」
短気と天然の繰り返されるやり取りにロゼッタは空を見上げて溜息。そしてふと顔を上げて、目の前に広がるイングリッシュガーデンさながらの中庭に目を向ける。テーブルに頬杖を着き、満足気な微笑。穏やかな笑みだ。
「ふ…我が英国の文化が浸透しているだけあって他国だというのに母国に居る気分じゃな」
「ロゼッタ少将!」
「む?」
パタパタと足音が聞こえると甲高い男性を呼ぶ声がして、ロゼッタは勿論、ジェファソンとバッシュも手を止めて声のした方を振り向く。
こちらへ笑顔で声を掛けてきた40代後半から50代前半の中年男性は天然パーマの金髪で鼻の下には立派な髭が外に跳ねている。身なりの良い黒の服にスラリとした背丈。そんな男性を見ると、ロゼッタはすぐ椅子から立ち上がる。
「トーマス!」
お互い挨拶の抱擁を交わすし満面の笑顔なので、ジェファソンもバッシュもポカン…と空いた口が塞がらないまま、2人を見ている。
「…ジェファソンさん。何ですかアレ?俺ら見せ付けられている的な?」
「いや、戦闘機愛好家のロジーにその類の感情は無いだろう。というかバッシュお前、あの男は宮殿の人間だろう?誰だあいつは」
「え!?えーと…えーと…うーん。俺、美人なお姉さん達の顔しか覚えていないっすから」
「はあ…お前のような奴と協闘していると思うと恥ずかしくなる…」
「何を詮索しているのじゃお前達」
声が大きいからか2人の会話はすぐ其処に居るロゼッタとトーマスには筒抜け。右腰に手をあてて半ば呆れた表情のロゼッタに言われ、2人はハッ!と我に返る。そんな2人にもにっこりと優しくまるで貴公子のように微笑むトーマスは紳士さながら。
「紹介しよう。我がイギリス軍トーマス少佐だ」
「ジェファソン国防大臣ですね。お初にお目にかかります。お話はロゼッタ少将から兼々お聞きしております」
「こ、これはこれはこちらこそ…!」
英国紳士という言葉がまさにぴったり。丁寧が服を着て歩いているかのような礼儀正しさ。気の良さそうな笑顔。これには、あの短気で風変わりなジェファソンもつられて丁寧な礼になる。
一方、トーマスが笑顔のままバッシュに視線を移せば…。
「バッシュ。君は私の事を嫌でも知っているだろう」
「う"っ…そうっすねトーマスさん…」
「全く。バッシュ。トーマスはお前の所の国の王妃側近じゃろう。馬鹿者が」
「へへっ。すんませーん」
愛敬で許されると思っているのかいや、彼バッシュがそこまで計算をしているとはとても思えない。つまり天然。頭を掻きながら笑む彼にロゼッタは肩を竦め、トーマスと顔を見合わせて苦笑いを浮かべざるを得ないのだった。































シャングリラ宮殿正門―――

先にワシントンへ戻るジェファソンとバッシュの迎えのリムジンが宮殿前の階段下に停車している。そんな2人を見送る為正門前に並ぶのはロゼッタとトーマス。
「せっかくの会合だというのに劉邦は来れなかったな」
「じゃな。あいつは生真面目じゃから宦官に良いように使われて多忙なのじゃろう」
「はーあ!久々に兄さんの昇竜拳見たかったー」
「とりあえず!私とバッシュはワシントンへ戻るけどロジー!君の国はいつになったら参戦してくれるんだい!?」
「来週辺りで良いじゃろう」
「何だって!?そうやって参戦時期を友人との外出のように簡単にまとめないでくれるかい!?それに先週は明日中に、先々週は今日中に、と何度君達イギリスに騙された事か!」
「まあまあジェファソンさん落ち着いて下さいよー。エリザベス女王のわがまま小悪魔なところも可愛いじゃないっすか!」
「ふむ。話の分かる奴じゃなバッシュ」
「でっしょー!」
「いい子いい子」
「やべー!照れる!」
屈ませたバッシュの頭を背伸びをしながら撫でてやるロゼッタ。
「姐さん、もう1回いい子いい子してー!」
「全く。とんだ甘えん坊じゃな。いい子いい子」
「あざーす!」
そんな2人の事を、肩を震わせ顔を真っ赤にして睨み付けるのはジェファソン。
「うるさーい!ロジー!バッシュ!イチャイチャするな!黙ってくれないかい!?とにかくロジー!来週は必ず援軍を頼んだからな!今後イギリスが援軍を寄越さないのならルネより先にイギリスを襲撃する!」
ビシッ!と一指し指をロゼッタに向けて指差すジェファソンは顔を真っ赤にして1人で焦って1人で怒っているものだから周囲の温度と彼の温度とでは差があり過ぎて、思わず笑ってしまいそうになる。だが彼は至って真剣のようなので、ここは大人の対応。笑顔で「分かった分かった」と返事をしてやればほら、彼の怒りがおさまる。少しだけ。まだ鼻を鳴らしていたような気もするけれど。





















「じゃあな、2人共」
「はいはーい!また集まりましょ!今度は兄さんも一緒で!」
「ああ、そうじゃな」
まるで友人が友人に手を振るかのようにロゼッタにぶんぶん腕を振りながら階段を降りて行くバッシュと、その隣にはジェファソン。


バタン、

正門の扉の閉じる音とロゼッタとトーマスが宮殿内へ戻った事を確認すると、ジェファソンは真剣な顔付きに切り替わる。リムジンまでの長い長い階段を降りながら小声でバッシュに話し掛ける。前だけを見て。
「バッシュ」
「はいはーい。何すか」
「規制緩和が施されたとはいえ、お前は母国が事実上未だ尚イギリスの支配下であるこの現状をどう思う」
「え?何すか急に難しそーな顔して!んー?別に教科書に載る歴史みたいに強制労働を強いられる事も無いし人権はあるし普通に暮らせるし。仲良くやれてるなって思ってますけどね。あ。でも税金がちょっち高いかなーって!これくらいっすかね」
「…そうか。あまりこのような事は言いたくないが…バッシュ」
「はいはーい。ていうかどうしちゃったんすかジェファソンさーん!」
歩みは止めず、しかしジェファソンの顔付きが今まで以上に険しくそして瞳に力が込められる。バッシュに顔を向けた。
「イギリスはお前が思っている程暖かく優しい国ではないという事を胸に刻んでおくんだ」
「え…」


ドクン…、

悪寒がした。それはジェファソンの言葉もそうなのだが、その言葉を発した彼の顔付きがやけに真剣で恐かったから。
目は点で呆然のまま階段を降り切ったバッシュがリムジンの後部座席ドア前で呆然と立ち尽くしているので、
「バッシュ。早く乗れ」
そうジェファソンに促されればドアを開き車内へ乗り込んだが、それはバッシュの身体が意志とは無関係に勝手に動いているだけであって、彼の心此処に在らず。


ブロロロ、

大きなエンジン音をたててリムジンはアンデグラウンド空港へと走って行くのだった。





























































同時刻、
シャングリラ宮殿内応接室―――

まるでブルームズ宮殿に居るかのようなそっくりな内装。紅色の壁には歴代アンデグラウンド王国国王の肖像画が飾られているし、天井の煌びやかなシャンデリア。英国貴族バーリーハウスを思わせる内装にご満悦のロゼッタはテーブルに着くとまた紅茶を口にする。その向かい側にはトーマス。テーブルの上に組んだ両手を置いたトーマスはやはり貴公子張りの笑顔。不思議過ぎる程の笑顔。
「いやあ。少将にお会いするのは3年振りでしょうか。私はずっとアンデグラウンド王妃の側近としてこの国へ送られていましたから」
「貴公のお陰でアンデグラウンド王国全土まるで母国に居るかのような気分じゃ。感謝する」
「これはこれは。有難きお言葉、光栄です」
律儀に礼をするトーマスの事など見もせず、室内の素晴らしい内装をキョロキョロ見回すロゼッタ。
「そういえば少将。女王陛下からお聞きしていますか?次に我ら英国が支配する国の件を」
「む。聞いていないな。トーマスお前は知っておるのか」
「はは。そうでしたか。ならばまだその時期ではないという事でしょう。お気になさらず。それでは僕は王妃の元へ行きますので、お帰りの際はプライベートジェットパイロットをお呼び下さい。失礼致します」
淡々と一方的に話され、終いには笑顔で敬礼をして部屋を後にしたトーマス。ロゼッタはティーカップに口を添えたままポカン、と何度も瞬き。
「何じゃあいつ…。それにしても女王陛下が私とウィルバースより先にトーマスに話すなど…。まあ良いか」
ズズズ…。紅茶を啜る音だけが聞こえた。





































































ルネ領日本、
神奈川県――――

「うっ…我々は一体どうすれば良いんだ…!」
日本国民が避難している神奈川県の学校体育館内。あの日、慶司と共に戦闘機ごと海へ墜落したダイラーは生きていて尚且つ意識不明の慶司を人質に、梅達日本国民の前に姿を現した。それからというもの、体育館内の日本国民役40人は皆、両手両足上半身を10人一まとめにされ縄で拘束されている状態が数週間続く。
あの日、慶司を連れて来たダイラーに食って掛かった命知らずの中年男性2人が居た。
「貴様のような血に塗れ汚れたルネの人間が慶司様に触れるなあああ!」
「今此処で朽ち果てろおお!」


パァン!

ひとたまりもない。目を血走らせた日本人2人を、顔色一つ変えず普段の険しい顔付きで頭部1発。2人なので計2発の銃弾で2人を射殺したのだ。相手はダイラー1人。こちらはシビリアンが役40人は居るのだが、この光景を目の当たりした為日本人達はその日からダイラーに刃向かう事ができなくなっていたのだ。
何とか水分だけは与えて貰えてはいるが空腹だし10人で一まとめにされ拘束されているという窮屈な毎日。そして、いつ殺されるのだろうという不安に押し潰されてしまいそうで心身共に衰退しきっている日本人達。皆の目の下の隈がそれを表している。梅もその中の1人だ。顔が真っ青の彼女をこんな時でも職務全うの小町が声を掛ける。小町も相当辛いだろうに笑顔だ。
「梅様大丈夫です。きっときっと、神は私達を助けてくださりますよ」
「小町…いいのよ…私に気を遣わなくていいの…神なんて居ないのよ…」
「梅様…」
























同時刻、校内2階の
とある教室内――――


カタカタ、

室内では破損した無線機を修理するが一向に直らない為、校内で見付けた旧日本軍のパソコンを修理して起動させようと奮闘するダイラー。そんな室内の片隅には体育館の日本国民同様、両手両足上半身を縄で拘束された慶司の姿がある。
海へ墜落する瞬間戦闘機の脱出ポットを使用していた慶司は命こそあったが、身体のあちこちや頭部の傷が酷く包帯だらけだ。それに、目の下の隈も尋常ではない。慶司はダイラーを睨み付ける。
――此処のテレビやパソコンもルネが占領していたから使用できなくされてしまい、現在の世界情勢が全く分からない…!革命軍の皆は無事だろうか。新田見君は無事だろうか。そして日本国民は…!――
「宮野純…と言ったか」
ポツリ…。ダイラーの低い声が静まり返った室内に聞こえれば、慶司は顔を上げるがやはり睨み続ける。
「気安く呼ぶなルネ!」
「さすがにまだ若いというだけあって恐れを知ら無いようだな。その性分は戦場では自殺行為だぞ若造」
「ぐっ…!」
「まあ良いだろう。若造。1年前の大戦時、金色の髪に黄緑色の瞳をした大柄の青年のルネ軍人を見なかったか」
――捕虜にしたあいつの事か…!――
ダイラーの言った特徴だけですぐにヴィルードンの事だと気付く慶司だが顔には表さないようにする。決して。
「知らないな」
「そうか。どうも顔はそう言っていないがな」
「…!!」
「動揺を隠しているつもりのようだが、こうも長く生きていればそのくらい見抜ける。何処だ。お前達日本人が捕虜とした我が同胞の居場所を教えろ」


カチャ…、

立ち上がったダイラーの銃口が遠くからではあるが、慶司の頭部目掛けて構えられる。
「はっ…脅しのつもりか。手法の汚いルネらしいな」
「生意気な若造だ。まるでヴィヴィアン・デオール・ルネを見ているようだな。だがしかし奴は今頃ルヴィシアン国王陛下の実刑を受けている頃だろう」
「なっ…!?」
慶司が目を見開けば、ダイラーは鼻で笑う。
「はっ。敵の安否の心配か。そういえば奴は、確かこの国の王女と交友関係があったと聞いていたが。それでも奴はお前達日本の最大の敵だっただろう。敵へも情を抱くところがお人好しで哀れな日本人らしいな」
「黙れ!貴様等ルネのような血の通っていない人間が日本国民を侮辱するなどこの僕が許さ、」


ドドドド!


パリン!パリン!

「!?」
「くっ、何者だ!」
突然の事だった。マシンガンの銃声が轟き、廊下と室内とを仕切る白いスモークがかった窓ガラスが次々と割れていく。ダイラーは咄嗟に屈み、床を這う。拘束されているものの慶司も何とか床に伏せて、流れ弾を回避。

























しん…

たった今のマシンガンの銃声は夢だったのだろうか…と問い掛けたくなる程静まり返る。しかし、割れた窓ガラスの向こうに1人の人影がユラリ…と映れば、ダイラーは構えていた拳銃の引き金を迷わず引く。


パンッ!

「くっ、外したか!」


パァン!パァン!

何度発砲しても、窓ガラスの向こうの人物は俊足で回避してしまうから、あのダイラーの顔にも焦りとイラ立ちが見え隠れする。もう一度引き金に手を掛けようとしたその時。


ガシャン!

教室の扉が吹き飛び、辺りは破損した扉のコンクリート片が粉々になって舞う。
「う"っ…」
運悪くその扉の下敷きになってしまったダイラーは顔を歪めながらも床に手を這い起き上がろうとする。
その一方で、今まさに扉を蹴り飛ばした人物の姿が露となる。青年に見える外見の男性で黒く長い髪を後ろで一つに束ねており服、は丈の長い朱色の物を着用。彼を目の当たりにした慶司は頭上にハテナマークを浮かべる。ダイラーはというと、扉の下から上半身を起こし欠けた時。


カチャ、

現れた男性のマシンガンの銃口が、ダイラーの頭部に突き付けられる。
「マシンガンを突き付けられたのは初めてだな…」
「残念ながらヴィヴィアン・デオール・ルネは実刑を受けていない」
「何!?」
男性の低い声に、ダイラーも慶司も目を見開いて驚愕。
「どういう事だ…!そしてお前のような中国の人間が此処へ何をしに来た!」
ダイラーの乱暴な問い掛けにも、顔色一つ変えず生真面目な表情を変えず男性の口が静かに開かれる。
「国際連盟軍中国代表李・劉邦。ルネ王国より、日本国を奪取に来た」


パァン!

銃声が轟いた。





























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