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症候群-追放王子ト亡国王女-
ページ:1



AM7:12、
ルネ王国―――――

「アマドール!アメリカへは何部隊送ったのだ」
昨日と打って変わって今日は朝だというのにまるで夜のような真っ黒な雲が空を覆っている。早々と灯りの灯った城内廊下を歩くルヴィシアンの後ろをついていくアマドールは手元の書類を1枚捲った。
「アメリカ合衆国へは12部隊プラス増援7部隊の計19部隊になります」
「増援…?はっ!これだから馬鹿共の集まりの軍隊は!」


ガシャァン!!

廊下隅に飾られている趣味の悪い壺に八つ当りしてそれを蹴れば、壺は見事破片となる。そんな彼の後ろでアマドールは目を泳がせてばかりだ。
「自殺したのも全てあいつ如きを捕らえられずにいた馬鹿な軍人共のせいだ!そうだ全て軍人共のせいだ!私がこんなにも有能だというのに、軍人共は私の足を引っ張るばかりだ!」
その時。曲がり角でヴィクトリアンと鉢合わせた。
「あ…ご、ご機嫌ようお兄様…」
「…何だ。邪魔だ退け」
ヴィクトリアンにだけは作り笑顔を向けていたルヴィシアンも、あの日ヴィクトリアンがヴィヴィアンに替玉とされた日から彼に対しても本性を見せようになったのだ。ルヴィシアン自ら彼を避けようとはせず、彼が退くのを睨み付けながら待っている。一方ヴィクトリアンは、ルヴィシアンの後ろで"早く退け"と目で訴えてくるアマドールをオドオドしながら見ているが、歯を食い縛って顔を上げた。
「お兄様!国民を出兵させるというのは本当ですか!?」
――馬鹿王子が!今の国王様にそのような愚問を問うとは…!――
太い拳を握り締めたアマドール。一方のルヴィシアンの目元がピクリ…と痙攣したが、彼は口を開かず。




















「ぐ、軍隊を送っているのならもう充分だと思います!これ以上軍事費を得る為増税をしたりその上、出兵させたら国民がお兄様に反発する事は目に見えているはずです!それに何故ですか。ルネ軍は今優勢であるにも関わらず何故こんなにもまるで兵を増やすのですか…!」
「はっ。馬鹿なお前も急に政治に口出しするようになったではないか。私の政治に」
「そ、それ…は…」
目を反らさざるを得ない。
「何も分かっていないなお前は。これから出兵させる民衆は我が軍が今優勢であるかどうかや国際連盟軍との戦況を知らない。故に、我が軍が危機的状況である為、本国へも連盟軍に攻め込まれる恐れがあるからこれは民衆を守る為のやむを得ない出兵なのだ。…と民衆へ演技すれば良いだけの話だろう?何せ私は民衆思いの国王陛下だからな!」
「それではお兄様にとって国民とは何ですか!」
「駒さ」
「え…」
「貴族も庶民も皆、私に金と娯楽を献上するだけの駒に過ぎないのだよ」
静まり返った廊下でルヴィシアンは2人に背を向けて窓ガラスに手を触れた。見上げた空は闇夜のように真っ暗なのに、其処に兆しが見えたかのように見上げている。
「今戦で軍をほぼ送り込んだ事も民衆を出兵させる事も。あいつとダイラーを処刑する娯楽が無くなった今の私にとっての娯楽は一体何か?そう考えた。そうなれば残るは、世界一の大国我がルネ王国へ刃を向ける最も愚かな国際連盟軍を早急且つ、無慈悲なまでに殲滅させる事。そうだろう?」
向けられた笑顔に悪寒さえしたヴィクトリアンを、彼は鼻で笑うだけだった。
「では行くぞアマドール」
「はっ!」
「ああそうだ。ヴィクトリアン。国際連盟軍殲滅後のルヴィシアンお兄様の娯楽を考えておくように。はははは!」
高笑いが静かな朝の城内に響き渡った。








































ルネ城3階、廊下――――

AM7:45。
暗がりの廊下隅。人気の無い廊下柱の陰に2人の人影が見受けられる。アントワーヌとヴィクトリアンだ。ヴィクトリアンの手の中の黒い小型盗聴器。
「…これで良いんだよねアントワーヌ」
挙動不審且つ青ざめた顔で問い掛けながら顔を見上げるヴィクトリアンの視線の先には、盗聴器を受け取るアントワーヌの冷静な姿。
「ええ。ばっちりです。しかし申し訳ありませんでした。ご兄弟とはいえヴィクトリアン様にあの国王へあのような質問をして頂くよう、一庶民の私が指示を下し…」
「うんうん。そんな事どうだって良いんだ。お兄様へのさっきした質問内容も全部アントワーヌが考えてくれたし、何よりこの計画を立ててくれたのもアントワーヌだし。僕は馬鹿だからいつも思っているだけで何も行動に起こせなかったんだ。革命軍だって…すぐ…駄目になっちゃったし…さ」
視線を落としつつ自嘲する彼を見下ろすアントワーヌは表情一つ変えず至って冷静。盗聴器をスーツの内ポケットへ片付ける。
「いえ。私は国王と直接口を利ける権利すらありませんから。ここはご兄弟であられるヴィクトリアン様が直接国王へご質問して下さったお陰でこの計画が成功へ大きく近付きました」
「本当に!?」
「ええ、勿論です」
良かったぁと肩を落としてホッとした笑顔を浮かべるヴィクトリアンの笑顔はキラキラ輝いて純粋。だからこそ…。
「あ。そういえばアントワーヌ。見張りの兵士達の姿が見えないけど何かあったの?」
「ええ。私の見張り役はアンジェリーナ嬢となりましたので動きやすくなりましたよ」
「あはは。相変わらずアンジェリーナちゃんは美形好きだなぁ」
「ヴィクトリアン様。ヴィクトリアン様。どちらに居られるのですか?」
まずい。自分を呼ぶアマドールの声が聞こえた。まだ遠くからではあるがアントワーヌと話しているところを見られるわけにはいかない。





















「どうしたのアマドール。僕なら此処だよ」
柱の陰からパッ、と姿を現したヴィクトリアンはアントワーヌが隠れている柱の方へアマドールを近付かせないようわざと自分からアマドールへ歩み寄る。
「そんな所に居られましたか。ヴィクトリアン様。国王様からのご伝達です」
「あ。もしかしてさっきの事へのお説教?嫌だなぁ。僕怒られるの嫌いなんだよね。って、好きな人なんていないかぁ」
「大変急で申し訳ないのですがヴィクトリアン様。貴方様は本日13時25分発プライベートジェットで元カイドマルド王国へ飛び立って頂く事になりました」
「え…」
2人の会話は勿論アントワーヌにも聞こえている。だがアントワーヌはピクリ…と反応しただけで表情はそのまま。逆にヴィクトリアンは目を丸めた。
「え?それってどういう事?だってもうカイドマルドはルネの領地になったって…」
「だからこそ貴方様が必要なのです」
「え?」
アマドールのその言葉の意味がヴィクトリアンにはさっぱり分からず。しかしアントワーヌはその言葉の意味に気付いていた。一方アマドールは手元の書類を手渡す。受け取りそれを見たヴィクトリアンの目が見開かれた瞬間だった。
「カイドマルド総督…?僕が?」
「さようでございます。植民地は支配した我々側への抵抗組織が結成される恐れが大きい為、植民地の治安を守る為ルネの人間の総督が必須となります。ご安心下さい。ルネ軍カイドマルド駐屯地総督は、ヴィクトリアン様もよく知っておられるヴィルードンをつけましたので、ヴィクトリアン様お1人ではございません。何かご不明な点があればすぐ彼に…ヴィクトリアン様?」
書類を持った手をガタガタ震わせていたヴィクトリアンだったが、アマドールに首を傾げられてすぐハッ!として顔を上げる。頭を掻きながらいつもの調子でヘラヘラ笑ってみせるが、いかにも作り笑い。傍から見れば動揺を全く隠しきれていない。
「へへっ…僕みたいなのと一緒でヴィルードン少尉が可哀相だよね…。で、でも僕頑張るよ。僕もルネの王子だし。…一応」
口は笑っているのに空虚な瞳の彼をジッ…、と見てからアマドールは「お願い致します」それだけ告げるとさっさと去って行った。



























「どうしようアントワーヌ!」
案の定すぐアントワーヌの元へ駆けたヴィクトリアンは紙屑になるまで書類をしわくちゃに丸めている。故意では無く動揺している為、力の籠った両手が勝手にそれを丸めていたのだ。
「落ち着いて下さいヴィクトリアン様。貴方様が本国から離れるからといって早まってここで計画を実行しては早過ぎます。準備が全く整っておりません。だからといって国王の命令に従わなければ貴方様のお命が危ない」
「アントワーヌ…君は僕を…殺さないの?」
「え?」
「だって…ルネ王室の崩壊それは、ルネの王族全て殺す事で初めて成功するこの計画だよ?だから僕達と同じ計画を望んでいたヴィヴィアンに僕は殺されそうになったんだ。ほら、だって僕はこんなんだけど一応ルネの王子だから…王族だから」
彼の弱々しい言葉に目を丸める。だがすぐ彼を見て口を開いた。
「何を仰っているのですか。私と貴方様は同じ計画を遂行する者。つまりは共犯者。殺めるなんて事をするはずがありません」
「あ…ありがとうアントワーヌ!君みたいな頭の良い人が味方になってくれて僕すごく心強いよ!僕頑張るね!」
光が射し込んだヴィクトリアンの笑顔。キラキラ光る瞳。純粋そのもの。
「ヴィクトリアン様が総督をお務めになられるルネ領カイドマルドはご存知の通りルネに侵略された土地。そうとあれば、彼らカイドマルド人を利用する事も可能です」
「そっか!頭良いねアントワーヌ!そうすればカイドマルド人は僕達の計画の仲間になるって事だ!」
「その通りです」
「すごいや!こんな世界にもようやく平和が訪れるんだね。待っててねヴィヴィアン。君の無実が証明されて皆でまた昔のように暮らせる穏やかな日々を、兄の僕が取り戻してあげるよ」
自殺と伝えられているというのに、弟がまだこの世界の何処かに居ると信じて語り掛けていた。
「ではヴィクトリアン様。私の通信機のコードをお教え致します」
「これで僕がカイドマルド監督になってもアントワーヌとやり取りできるって事だよね?」
「そうなりますね」
資料の端切れに走り書きで印されたアントワーヌの通信機コード。それを満面の笑みで受け取るヴィクトリアンはいつもの純粋無垢な笑顔を向けた。
「ありがとう!僕と一緒に世界平和の為に頑張ろう」
アントワーヌはただ、薄らとした笑顔で返すだけだった。
























ヴィクトリアンはスキップをしながらこの場を去って行く。一方のアントワーヌは書類片手に自室がある方へと体を向けるが、ピタリ…と足を止める。
「盗み聞きの悪趣味をお持ちでいらしたとは意外ですね」
此処にはアントワーヌしか居ないはず。しかし誰かに話し掛ける彼の言葉の直後。大きな窓ガラスを覆っている紅色の分厚いカーテン裏から顔を覗かせたのはアンジェリーナ。八重歯を覗かせてニヤリと笑んだ表情はまるで魔女。後ろで両手を組みながらアントワーヌにぴったりくっ付けば、まじまじと顔を見上げてくる。やはりあの意地の悪そうな笑顔を浮かべながら。
「あーらそおー?国王陛下護衛組織コーサ・ノストラである貴方が陛下の会話を盗聴する方が余程悪趣味じゃない?アントワーヌ?」
首筋から顎へ滑らせる彼女の白く細い指にすら動じず真っすぐ前だけを見ている。顎に触れた手にぐっ、と持ち上げられればアントワーヌの視線の下には、本性を現した魔女のつり上がった瞳が。
「盗聴器を渡しなさい。あんた本当にルネ王室の崩壊なんて馬鹿げた計画企んでんの?」
普段の猫撫で声も今ばかりはとても低く怖さがある。
「やっぱりあんたが寝返ったのは陛下やあたし達を殺そうとしているからなんでしょ?敵陣地に潜り込む事程やり易い事なんてないもんねぇ?」
「……」
「何とか言ったらどうなのよ!言っておくけどね、あんたら庶民がどうレジスタンス起こしたところでルネを動かせるわけな、」
早口でまくしたてていたアンジェリーナの言葉が嘘のようにピタリと止まる。何故ならばあのアントワーヌが、黙ってアンジェリーナを抱き締めたのだ。これにはさすがの彼女も一瞬にして年相応の少女の顔付きに戻り、果てには目を見開き顔は勿論耳まで真っ赤に染める。彼の胸に埋めた顔の火照りが自分でも分かる。
「ちょ、何…!」
「アンジェリーナ嬢。貴女のようなまだお若い女性が何故自らの手を血に染める事をなさっているのですか」
「そ、そんなの仕来たりだからに決まってるじゃない!陛下のきょうだいの家族は皆陛下をお守りする暗殺者になる事が仕来たり、」
「貴女はお考えになられた事はないのですか」
「え…?何を…」
「貴女と同い年の人間が年相応の暮らしを送っている。学校に通い、友人と遊び、買い物をし、他愛ない会話をし…そんな普通の日々を過ごしたいと。何故自分は人を殺めているのかと」
「っ…それ、はっ…!」
じわりと滲んだ熱い涙。アンジェリーナの目がだんだん赤く腫れていけば大きな瞳からは堪え切れなかった涙が溢れて両頬を伝う。鼻を啜り顔を更に埋める。
「あっ…あたしはっ…ダビド叔父様の妹のママの子だからっ…普通の女の子の生活なんて望んじゃいけなくてっ…」
「誰が決めたのですか」
「し、仕来たりだからって何度も言ってるじゃないっ…!!」
「そんなモノは人を縛り付ける呪いでしかないでしょう」
「けどっ…メッテルニヒが裏切ったから…姉のあたしがコーサ・ノストラとして頑張らなくちゃ、って…」
「でも私は貴女に普通の生活を送ってほしい」
「っ…!!」
見開けば更に溢れ出す涙。彼の胸から顔を離して彼を見上げれば、至っていつも通りの冷静な表情が其処にあるだけだったけれど。





















「貴女も私も表面上このままコーサ・ノストラとして活動を続けましょう。貴女が私の見張り役となった今、私も貴女も行動を取り易い」
「けど…」
自分の胸に手をあてて濡れた目を泳がせるアンジェリーナ。
「ご心配なさらず。私に協力して下さるのなら、私がアンジェリーナ嬢に普通の日常を与えましょう」
「じ、じゃあアントワーヌ貴方もあたしとずっと一緒に居るのよ!?」
その言葉にフッ…、と微笑む。
「私で良ければ」
アンジェリーナから抱きつく。見開いた目をゆっくり閉じれば、彼の鼓動が聞こえた。自分の速く不規則な鼓動とは違い至って普通だったけれど。
顔を離して背伸びをしたアンジェリーナが、彼の顔に自分の顔を近付ける。だがアントワーヌは彼女の頭を軽く撫でるとすぐにくるっ、と背を向けてしまう。何気なく避けられた事に口を尖らせるアンジェリーナ。
「では私はこれから細かな計画を立てますので」
「あ、あたしも!」
「お心遣い感謝致します。しかしアンジェリーナ嬢は確か午前はアンリエッタ様と外出のご予定では?」
背を向けたアントワーヌが顔だけをこちらに向けて微笑んだその笑みが優しいだけではない事に気付かないアンジェリーナ。また口を尖らせる彼女をフッ…、と笑うと今度こそ背を向けてしまいブーツのヒールを鳴らしながら歩いて行くアントワーヌ。
「ご安心下さい。必ず普通の日常を献上致します」
遠退いていく大きなその背中。アンジェリーナはへへっ、と笑うと後ろで両手を組み、彼が歩いていった方向とは反対方向を鼻歌混じりでスキップまでしながら去って行くのだった。
「へへっ。普通の女の子…か。まず可愛いお洋服買うでしょー、お化粧もしてーそれから何処へ行こうかな?あっ。アントワーヌの行きたい所も聞こうっと♪」













































ルネ城5階、屋根裏――――


バタン…、

薄暗く小汚いこの部屋へ戻ってきたアントワーヌ。すぐデスクに向かいブラウンの縁をした眼鏡をかけて、分厚く古びた本を開いてすぐ自嘲する。
「はっ…私があんな恥ずべき事までしなければいけない程追い込まれるとは」
先程アンジェリーナを偽りの感情で抱き締めた事を消すかのように服を払ってからページを捲る。すると黄ばんだ古いページの間に挟まっていた1枚の写真に手が止まる。それにはアントワーヌの父ビスマルクとその隣には母。両親の後ろにはまだ大学生になったばかりのアントワーヌが写っていた。家族3人が背にして写っているゴシック調の黄色い大きな建物はアントワーヌが合格したルネ一の名門バネット大学。確かこの写真は合格発表の時の物だ。当時は合格発表だけで両親がついてくる事に恥ずかしさを覚えていたが、今となっては…。


パタン…、

写真を挟んだまま本を閉じる。
「これは復讐でも仇討ちでもない。議会である自分がルネ王国を想っての計画」
計画達成の為には幾つもの嘘こそが最大の武器となるだろう。








































































アメリカ合衆国、
ロサンゼルス上空―――――


ドンッ!

大きな爆発音と共に機体はオレンジ色の炎を上げて破片が落下していく。近代的な高層ビルが所狭しと立ち並ぶ此処も、灰色の煙で覆われている。そんな中を飛び交うのはルネ軍と国際連盟軍の各国戦闘機達。


ドン!

発射したミサイルによって宙に舞う藻屑と化した敵機ルネ軍と対峙中の赤色の戦闘機が次の敵機へと飛行。この機体を操縦するパイロットは、国際連盟軍アンデグラウンド王国代表バッシュ。
耳から顎にかけて装着した小型通信機を左手で押さえながら大声で会話をしている。爆発音で通信が上手く聞き取れないのだ。
「え?!何すか超聞こえないんですけどジェファソンさん!」
「だ…らな、ザーッ、…が今…ザーッ、流…」
「はぁ!?ノイズ混じってて全く聞こえませんから!…って、最悪!!」
上手く聞き取れない通信に気を散らしていた間にバッシュの周りにはいつの間にか3機のルネ軍戦闘機。1VS3だなんて、さすがの自画自賛バッシュも顔を歪める。操縦桿を自由自在操り、3機の合間を上手く回避して飛行し、間合いをとった瞬間ミサイル発射。


ドドドド!

国際連盟軍特有の曲がるミサイル。だがもうその威力を知っているルネ軍にとったらそれはもう凶器ではない。


ドドドド!ドン!ドン!

上手く回避し更に回避した敵機が前、左、右からこちら目掛けてミサイルを発射してきた。




















「くっそ!3対1とかふざけんなっつーの!」
こちらも迎撃しつつ、敵のミサイルを回避する。ミサイル全て迎撃をする事に成功して安堵の息を吐いたのも束の間。


ビー!ビー!

機内に鳴り響いた敵機接近音。後方からサーベルを繰り出した敵機とサーベルでぶつかり合えば敵コックピットを真っ二つ。しかし、左右からも敵機。
「しまった…!」
相手をしきれない。いつも余裕綽々の彼の顔に冷や汗が伝い、振り向いた時。


ドン!ドン!

「え!?」
左右から接近してきた敵機が、彼の目の前で爆発し炎上したのだ。
「援軍の要請はしていないのに?え?何!?」


ガーッ、ガーッ、

ノイズが聞こえて機内正面モニターが二分割して映し出された映像には、各機体コックピットに搭乗しヘルメットをかぶったロゼッタと劉邦の姿。2人を見た途端バッシュの目がみるみる開かれると満面の笑みを浮かべ、モニター相手に身を乗り出す。
「姐さん!兄さん!助けに来てくれたんすね!可愛い弟の為に!」
「自惚れるな。やはりバッシュのバはバカのバだな」
「なっ…!兄さん!?」
「うむ。バーディッシュダルトのトはトンマのトでもあるぞ」
「ちょっ、姐さんまで何なんすかそれ!可愛い弟だからってあんまりいじめないで下さいよ!俺こう見えて結構ナイーブっすから!若干傷付いて、」
「この周辺のルネ軍勢力は始末できたな。劉邦。一旦連盟軍基地へ戻るぞ」
「了解」
「え、ちょ、え!?何?何の事?!」
会話の意味が分からないバッシュを余所に、ロゼッタと劉邦は通信を取り合っているのでバッシュはモニターを前にキョロキョロ。そんな中、さっさと此処から離れていくロゼッタの青色の戦闘機と劉邦の朱色の戦闘機。
「ちょっ、何なんすか!何で撤退しちゃうんですか!まだルネ軍を倒したわけじゃないですよ!」
「おっと。お前に言い忘れていたなバッシュ。我が連盟軍は陣営を崩された為、一旦ロサンゼルスの連盟軍基地へ撤退し策を練り直すぞ」


ブツッ!

ロゼッタの通信がすぐ切れるとバッシュは、彼女が言った"お前に言い忘れていた"この一言に頭を抱えて「超ひでぇ…」と唸っていたが、すぐ切り替えて2人の後ろをついて行くように飛行する。
フロントガラスから辺りを見下ろせば灰色の煙が覆っており、あちこちのビルからはオレンジ色の炎が上がっている。その惨状を目の当りにすればバッシュの顔付きも真剣なものへと切り替わる。
「姐さんと兄さんも合流したって事は結構ヤバい…のかな?」









































国際連盟軍
ロサンゼルス基地―――――

高層ビルの20階。広い応接室の奧には国際連盟軍参加国4国の国旗が掲げられている。


ガチャッ、

扉を開けば、向かって右奥のソファーにどっしり腰掛けたジェファソンが待っていた。3人を見ると彼は太い右手を挙げて手招きをする。
「おお。やっと4人揃ったな。連盟を結んだ時以来か?まあまあ座れ」
「言われなくても座りますよー!」
相変わらず23歳とは思えないバッシュはジェファソンの向かい側ソファー左奥にソファーが沈む程勢い良く腰を掛けたから、他3人は呆れて注意する気にもなれず首を横に振って溜息。バッシュの隣に劉邦。ジェファソンの隣にロゼッタが腰掛ければ、真剣な顔付きに切り替わったジェファソンが組んだ両手をテーブルに置いて前のめり気味に口を開く。
「皆も知っているとは思うが先日ルネ軍ダイラー将軍と先代ダビド国王殺害犯ヴィヴィアン・デオール・ルネが自害した」
「えぇー!!マジっすかそれ大ニュースじゃないっすか!!」


しん…

沈黙。茶菓子を早々に口へ放り投げたバッシュはまだ口をモゴモゴ動かしながら大声を上げて驚いたのだ。それはともあれ、この情報をまだ知らなかった時代遅れの彼にはもう溜息すら出ない3人。
目を見合わせてからバッシュを冷めた瞳で見つめる3人に、彼は首を傾げつつ笑顔。
「え?何すか皆さん揃って!そんなジロジロ見ないで下さいよー俺がイケメンだからって!照れるじゃ、」
「…という事で、それによりルネからの圧力がより一層我々国際連盟軍にかかったと思われる」
「そうじゃな。粗方、娯楽の無くなったルヴィシアンが次の娯楽として我々の殲滅を娯楽に切り替えただけじゃろう」
「私も同じ事を思っていました」
「ちょっ…3人揃ってスルーとか!有り得ないんすけど!マジへこむ…」
「はぁ…。有り得ないのはお前の方だろうバッシュ。奴らが自害した事を知らないのはアンデグラウンドではお前だけか?」
ジェファソンの問い掛けに、テーブル上で顔を伏せてうなだれるバッシュは蚊の鳴くような声で応える。
「王様も軍の仲間もそんな事全っ然言ってなかったっすねー…」
「最低だなアンデグラウンド王国」
ボソッ、と呟いた劉邦。対してピクッと目元を痙攣させたバッシュ。
「ちょ!何すか兄さん!その言い方は無いんじゃないっすか!」
バン!とテーブルを叩き立ち上がって声まで張り上げるバッシュ。劉邦は外方を向いている。そんな2人に深い溜息を吐くジェファソンが「ほらほら喧嘩するなお前達」と呆れきった様子で落ち着かせる傍ら、ロゼッタは紅茶を啜っているだけ。





















バッシュを何とか座らせたところでジェファソンは額に手をあてて既に疲れ切った様子で話を結論へと運ぶ。
「はぁ。取敢えず。奴らの勢力は上がっている。それに今は我が国だけだが、近日中にお前達の国イギリス、中国、アンデグラウンドへも攻撃を仕掛けてくるだろう。特に劉邦」
「はい」
「お前の国は先日ルネ領であった日本を侵略したな」
「えー!マジっすか兄さんナイスー!」
「…バッシュお願いだ…黙ってくれ…。取敢えず劉邦。お前の国が今最も攻撃される可能性が高い。充分気を付けろ」
「了解」


ドン!ドンッ!

遠くからまだ戦争の音が此処まで届く。一方ロゼッタはティーカップをテーブルの上に置くとようやく口を開いた。
「となればアメリカへは我がイギリス軍の1/6とアンデグラウンド軍1/3で良いか」
「そうだね。取敢えず劉邦の所は自国防衛と、占領した日本でルネ軍駐屯地の鎮圧を頼む」
「ところで!姐さんも兄さんも来るとはマジ驚きでしたよー!」
「ああ。私はもう帰国するが」
「え!?姐さんもう帰るんすか?!」
「だとさ。私が引き止めたんだけど。ほら、ロジーは母国命だろ?」
ジファソンは肩を竦めてみせるが、ロゼッタは全く動じない。
「えー…せっかく姐さんに会えたのに…」
「何じゃバッシュ寂しいのか?可愛い奴じゃな」
「寂しいっすよ!1年間も会えなくて我慢して我慢してやーっと会えたのに!」
「はは、別に死ぬわけじゃない。またすぐ会えるさ」
「すぐ会う事になるならいっそ此処に駐留して少しは連盟軍の仕事をしていったらどうだいロジー!?」
「来てもらえただけでも有難いと思わんか。ところで首都。おかわり」
ティーカップを差し出してきたロゼッタに、ジェファソンの中で何かが音をたてて切れた瞬間。


バン!!

大きな両手でテーブルを叩けば3人のティーカップが大きく揺れるし、バッシュがビクッ!とする。劉邦は動じなかったけれど。
「こんの、我儘紅茶女があ!!」


ガシャァン!

ジェファソンに引っ繰り返されたテーブルを瞬時に避けた3人はさすが鍛えられた人間と褒めるべき状況だっただろうか…。









































連盟軍基地廊下――――

「いやージェファソンさんってマジ短気っすよね!俺の母ちゃんみたいですよ」
頭の後ろで両腕を組み、笑いながら話すバッシュ。その隣に劉邦更にその隣にロゼッタの3人が応接室を後にし、並んで歩いている。
「ところで姐さん。俺の所に居る王妃さんの側近のイギリス人の…えーと。名前何でしたっけ?」
「トーマスの事か」
ポン!と手を叩くバッシュ。
「そうっす!トーマスさん!その人と王妃さんが最近マジ仲良くってまるで俺とエリザベス女王陛下みたいっすよねー?」
「はいはい。そうだな」
「ちょ!何でそこで兄さんが入ってくるんすか!」
ギャーギャー子供のように騒ぐバッシュはいつもの事。階段を降りて右方向へ行くバッシュと、左方向へ行くロゼッタと劉邦。久々に集まったがもう此処で別れだ。別に友人同士でもないというのにバッシュは何だか寂し気な目をしている。
「じゃあ…俺そろそろ前線に戻りますわ。姐さんと兄さんは本国へ帰国するんですよね」
「ああ、そうじゃな」
「じゃあ次4人で集まった時は兄さんお手製中華料理パーティしましょっ!」
「何故企画立案者のお前が振る舞わないんだ」
「まあまあー!そう堅い事言わないで下さいよ!じゃ。次会うのを楽しみにしてますから!」
敬礼なんてして笑顔で歩いて行ったバッシュを、顔を見合わせて微笑まし気に笑う2人だった。

























カツン、コツン、


ドンッ!ドン!

左方向へ歩いていったロゼッタと劉邦。2人分の足音と外遠方からの戦争の音しか聞こえてこない静かな廊下。
「ロゼッタ姉さん。ヴィヴィアン・デオール・ルネは本当に死んだと思いますか」
「さあな。あいつは幾度と生きていたある意味強運の持ち主じゃ。またひょっこり現れるんじゃないか?どうでも良い事じゃな。あんなガキ1人に翻弄されるルネが私には理解できん」
「確かに」
そこで会話が途切れて歩いていけば、また道が二つに分かれていた。左へ進めばロゼッタが着陸させた戦闘機置き場で、右へ進めば劉邦が着陸させた戦闘機置き場。此処で別れだ。ロゼッタは挙げた右手をヒラヒラ振り、早々に背を向けて歩いて行く。
「じゃあな劉邦。私もお前の中華料理を楽しみにしておるぞ」
「ロゼッタ姉さん」
「む?」
あの劉邦が珍しく声を張り上げて尚且つ自分を呼んだのでロゼッタは立ち止まり、体ごと振り向く。腰に右手をあてて。
「何じゃ劉邦。私達に中華料理を振る舞うのがそんなに不服じゃったか?」
茶化してみるが、劉邦は視線を下へ向けたまま口を瞑っている。こんな彼は初めて見るからロゼッタは首を傾げつつ、右腕につけた金色の腕時計に目を向けた。
「どうした。悪いが私もそんなに時間が無いからな。できるだけ簡潔に話してほしいのじゃが」
「簡潔に…ですか」
「そうじゃな。要件だけの方が有難い」
ニコッと笑顔を見せてそう言ってあげれば、劉邦はやっと顔を上げた。そして口を開くと…
「ルネを鎮圧させたらロゼッタ姉さん、私と付き合ってもらえませんか」
「へ?」
























しん…

沈黙が起きたのは言うまでもない。しかしロゼッタはこういった類に全く縁が無い為、彼の言っている言葉を真に受ける事ができていないのだ。
「ええと…それは一緒に中華料理を食べに行くという意味で良いのか?」
「茶化さないで下さい。こんな時に不謹慎なのは百も承知です。しかし、ロゼッタ姉さんとは結婚を前提にお付き合いして頂きたいと思っています」
「けっ、結婚!?」
ロゼッタは目を丸めると腹を抱えて笑い出すではないか。背伸びしながら劉邦の肩を何度も叩く。
「はははっ!何じゃそれは。あいつらとの罰ゲームか何かか?あまり年上をからかうなよ。特にこの私じゃ」
ロゼッタはもう一度腕時計に目を向けると、
「おっとそろそろ出ないとな」
と言いながら劉邦に背を向けてしまう。笑われても顔色一つ変えない劉邦に。また右手をヒラヒラ振る。
「じゃあな。次会う時までな」
「次会う時まで真剣に考えておいて下さい。私は真剣ですから」
ロゼッタが振り向く事はなかった。一方の劉邦もやはり顔色一つ変えず、彼女とは反対の道を歩いて行った。


カツン…コツン…、

そんな2人のやり取りを、柱の陰に隠れてこっそり聞いていた1人の人物は口に手をあてて目を丸めて冷や汗を伝わせている。バッシュだ。
「やや、やばいっ…!まさかあの超堅物兄さんが姐さんを!?マジで色々と…やばいっ!!」




































































ヨーロッパ地方――――

枯れた木々は倒れ、紫色の湖に浮かぶ無数の魚の死体。中世ヨーロッパを思い出させる荒廃した建造物が並ぶ村。村のあちこちには人間のものの骨が散乱。
腐敗臭漂う荒廃したこの村に、栗色の髪をした1人の少女が1人の青年をおぶっている。重たいのか、覚束ない足取りながらもしっかりと一歩ずつだが前へ前へ歩いている。少女は重たさよりもこの腐敗臭に催す吐き気に顔を歪ませながらも、自分がおぶっているぐったりとして意識も無ければ生気も感じられない青年へ声を掛けた。
「本っとに…。あんたとは腐っても腐っても風化する事の無い腐れ縁よね!私の国を再建させるまで勝手に死ぬんじゃないわよヴィヴィアン!」






























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