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症候群-追放王子ト亡国王女-
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ヴィヴィアン・デオール・ルネ実刑当日、
ルネ王国ルネ城前――――

「皆々様!この者が私の最愛の父そして世界の父先代ルネ王国国王ダビド・デオール・ルネ殺害犯です!」
ルネ王国城前に集った王党派の貴族達から石を投げ付けられるのは、城のテラスに両脇をルヴィシアンの側近にがっちり掴まれ終始俯いているヴィヴィアン。
捕らえられ監獄行きとなった時と同じ、ベージュの汚れた薄い半袖シャツと長ズボン。拷問でも受けたのだろうか、腕や脚など身体中には無数の生々しい傷痕。髪はボサボサで清潔感など一切感じられない。
「国王様を返せ反逆者!」
「無様な最期だな反逆者!」
民衆から投げ付けられた石が当たっても顔は上げずピクリともしないその様から、まるで生気が感じられない。
一方、ヴィヴィアンが居るテラスの更に上のテラスでは、ド派手な王冠にド派手な衣装のルヴィシアンが心の底から嬉しそうにマイク片手に演説だ。
その少し後ろで後ろに手を組んで立っているのがアマドール。厳格な顔付きの下には、自分がヴィヴィアンを捕えた事によりルヴィシアンからの株が上昇。それが嬉しくて仕方がない様子。
「これから私達は引き廻しの刑実刑の為、イタリアを出発地にルネ王国の同盟国や中立国を引き廻しそして最後このルネ王国で最期を迎えさせましょう!嗚呼!これで世界の皆様のヴィヴィアンへの憎しみがようやく!ようやく消え去るのですね!それでは皆様!行って参ります!」
ルヴィシアンの陽気な声を合図に、側近達はヴィヴィアンを強引に引っ張り城内へと引きずり込んだ。

































同時刻――――

この様子を小さなテレビで見ていたルネ王国クルーレ町のバーでは…
「おいおいどうすんだよ!我等が王子ヴィクトリアン様がヴィヴィアンを助けに向かったんじゃなかったのか?」
農夫達の言う通りだ。あの雪降る晩、増税を防ぐ為と言いつつもヴィヴィアンを助けたいが為レイラを押切り、1人でヴィヴィアンを助けに向かったヴィクトリアンがあれから帰ってこないのだ。更には音信不通。
彼の帰りを待ちそうこうしている間に、テレビ画面で今流れた映像はこれから実刑されるヴィヴィアンの姿。レイラは首を傾げ、タバコを吹かす。
「おかしいわね…逃げ出すなんて事するような性格じゃないし…」
「おいおいどうすんだよ!実刑始まっちまったぞ!ヴィクトリアン様は俺達なんぞ置いて、ばっくれたんじゃねぇのか!?」
ギャーギャー騒ぎ出す農夫や農婦達に一喝するレイラだが、誰1人として聞きやしない。





















そんな中、バーのカウンター席一番隅に、昼間から1人でウイスキーを飲む黒の帽子をかぶり黒のスーツを着用した見慣れない青年の客に気を利かせたレイラが隣に座り、声を掛ける。
「あはは。悪かったねこんな騒がしい店で。ところであんた。あたし達の今までの会話を聞いていたんだろ?それでも動じないって事はあんた王党派じゃないよね?ならさぁ、あんたもあたしらと手を組まない?ルヴィシアン国王から増税と戦争を廃止させる為。そして平和の為」
「うおーい!レイラ!んな客放っておいて酒持ってこい!」
「あいよ!今行くから待ちな!…な?良いだろ。このままあの暴君の言いなりになってちゃ今みたいに昼間からウイスキーも飲めなくなっちまうよ?」
顔を覗き込むが、青年は帽子をかぶっているし、下を向きながら飲んでいる為顔が見えない。話し掛けても口元を笑ませるだけで返答無しの青年に呆れ、レイラが立ち上がり背を向けた時。
「ヴィクトリアン・ルイス・ルネは愚かだ」
「!?」
笑みながら突然発した青年の一言に、レイラは眉間に皺を寄せて振り向くし、農夫達もギロリ!と睨み付けながら一斉に振り向いた。






















レイラが行くよりも早く、1人の大柄な農夫の太い腕が青年のワイシャツ胸倉を掴み上げる。だが帽子が邪魔で、青年の口元しか見えない。
「んだとてめぇ!ヴィクトリアン様馬鹿にするたぁ王党派の人間でもなけりゃ俺達の同胞でもねぇ!てめぇは何もんだぁ!?」
レイラや農夫、農婦達からの睨み付ける視線を受ける。
「さあ皆様!今から私ルヴィシアン・デオール・ルネはお父様の仇を討ちにこのヴィヴィアン・デオール・ルネをギロチンや電気椅子で即死よりも遥かに上の苦痛を与え続け最期を迎えさせる旅へ向かいます!」
テレビからのルヴィシアンの高らかな声だけがする静寂のバー内に、謎の青年の不気味な笑い声が響き出す。
「くくく…ははは!あははは!」
そのあまりの狂喜振りに農夫達は引いてしまうが、青年の胸倉を掴んでいる農夫は唇を噛み締めながら、青年に突っ掛かる。
「な、何がおかしいんだこのガキ!」
「あははは!」
「っ…!てめぇは王党派のスパイか?あぁ!?何処の誰だ!名乗りやがれ!!」


バッ!

農夫が勢い良く手荒に青年の帽子を剥ぎ取った瞬間。
「んなっ…!?」
露になった青年のその顔に一同全身から血の気が引き呆然。青年の帽子が、音も無く床に落ちる。
青年は眼帯をしていない方の真っ赤な左目を悪魔さながらに輝かせ、不気味に微笑んだ。
「僕?僕ですか?僕はルネ王国ダビド国王陛下第三王子ヴィヴィアン・デオール・ルネです」
「…!?じ、じゃあ今実刑されるあのヴィヴィアン・デオール・ルネは…!」
瞬間、レイラと農夫達は一斉にテレビ画面に目を向けた。調度、画面いっぱいに映ったヴィヴィアンであるはずの人物の顔を見た瞬間、農夫達全員の血の気が引いた。























「最期にはまだ早いが道中死ぬと悪いからな。取り敢えず。何か言い残す事はあるかヴィヴィアン」
ルヴィシアンの問いに、ヴィヴィアンであるはずの人物がゆっくり顔を上げた。
「…これで良いんだよね…これで良いんだよね?ヴィヴィアン…」


カチャ…、

背後からした拳銃の構えられた音に、テレビを見ていた無防備な農夫達の背筋が凍り付く。
「そうです。今まさに実刑を行われるのは僕じゃない…可愛い可愛い弟の身代わりとなってくれた弟思いの優しい優しいヴィクトリアン・ルイス・ルネ…ヴィクトリアン兄上なのです」
「っ…!貴様あああ!」


パァン!

ヴィヴィアンを除く、バー内に居た人数分の銃声が、響き渡った。


































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あきゅろす。
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