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症候群-追放王子ト亡国王女-
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コール国―――――

ルネとの戦争が始まってもまだ間もない。
ルネ軍の大将率いるB班からD班までの三班はコール国の中心コール城を囲むように攻めていった。この戦略はかつてルネ王国王子だったヴィヴィアンが立てたもの。
戦略はコール国の地形、城周辺の地形をよく把握してあるもので、作戦通りに行っている兵士達も目を丸める程大戦はルネが圧倒的有利となった。























ライフルを構え、無謀にもこちらへ向かって走ってくるコール国の軍人達を簡単に射殺していくルネの軍人達。
「うわあ、血臭ぇ」
「しかしまあ、ルヴィシアン様はすごいよな。テレビや会議に出たりと忙しそうだけれど。いつの間にこんな戦略を立てているんだか」
「おい、前方!」
「分かってる!」
死ぬと分かりながら頭から血を流して叫びながらこちらへ向かってきたコール国軍人を一発で射殺。
城周辺を囲んだのは『ヴィルードン・スカー・ドル』率いるC班。
ヴィルードンは無階級軍人としてはずば抜けた力の持ち主で、いずれ階級取得者候補としても名の高い28歳の軍人。
オレンジがかった綺麗な金髪に黄緑色の瞳。背が高くがっちりしており、体力もある上筋力は並大抵のものではない。そして一番の持ち味は、足の速さと動体視力の良さ。遠くから向かってくる兵士の姿をすぐに見付け、持ち前の足の速さで駆けつけて射殺をするのが彼のやり方。
























彼の口元は黒いマスクで覆われている。彼は6年前まだルネ軍に所属していない傭兵だったらしい。その際、赴いた戦地カイドマルド王国での戦の際、カイドマルドの現国王ダミアン・ルーシー・カイドマルドから口が裂ける程の酷い傷を受け、マスクで口元を覆わねばならない醜い姿となってしまったらしい。
実戦以外ではとぼけた雰囲気で比較的誰とでも仲良くなれて、争い事では中立の立場になる事が多い彼だが実戦となると血も涙もない殺人兵器と化する。それはルネ王国の方針上良い事なのだが。
ルネ軍は愚か、他国の軍からもヴィルードンは異名"デビルナイト"と呼ばれるようになっていた。
ヴィルードンは血が流れ出るまで口を噛み締める。ライフルを肩に担ぎ、一歩前へ足を踏み入れる。勝つ為に。
「コールの少年兵君。ライフル担いで軍のお仕事出発〜!てな感じっすか」
「ルネ軍…!」
少年兵は仲間内でも聞いた事の無い低い声に悪寒がし、血の気が引きながらも咄嗟に振り向く。


ドン!

振り向いた時には少年兵の前は自分の血で真っ赤で何も見えなかった。
背後から聞こえたライフルの音に驚いた2人のルネの軍人は、顔を真っ青にして咄嗟に後ろを振り向く。2人の目に入ったのは、返り血を浴びても平然としてライフルを肩に担いだまま立っているヴィルードンの姿。彼を見ると一瞬にして2人の顔に笑みが浮かぶ。
「ヴィルさん!」
声を揃えて敬礼をする2人に、ヴィルードンも敬礼を返す。その後すぐ2人に背を向けて、木々が生い茂る暗い森の中へ1人で入って行ってしまった。2人は顔を見合わせて目を輝かせる。
「かっこ良いー!!」









































一方。城の裏F地点ではヴィヴィアンがいなくなった事で、現場指揮官に位を上げた『マリソン・ディナ・ルビィ』大将率いるB班の兵士達が戦っていた。
早くもコールの兵士達は一斉にバタバタと倒れていき、B班の敵は数えられる程しかいなくなってしまった。
「つまらないわね」
マリソンは長く朱色の髪をかきあげて余裕の笑みを浮かべる。そして右手を前に差し出し眉間に皺を寄せ、険しい顔付きになる。
「B班、全員直ちに作戦二を実行せよ!」
「はい!」
マリソンの響き渡る指令を聞き、B班の兵士達は力強い返事と力強い敬礼をして足並み揃え、城へと駆けて行く。
炎燃える中、1人残ったマリソンは腰に片手を充てて微笑する。
「そうねぇ…。御顔は美しいから避けておきましょうか。そっちの方が有難いわよね、一女性として」
独り言のように誰も居ない場で話し出す。
そんな彼女の頭上にある木の枝の上から、木と同色の緑色のコール軍服を着たコールの女性軍人が襲い掛かってきた。マリソンは頭上を見上げまた微笑する。
「あら、本当に美しい御顔」
「馬鹿にするなあああ!!」


パァン!パン!

敵は小さな拳銃で発砲しながら地面に着地をした。しかし、既にマリソンの姿が無い。目を丸めて忙しなく辺りを見回す。
「何処だ!大国ルネの軍人だろう!隠れるなんて卑怯な事はせずに早く私と、」
「隠れる卑怯な事をしていたのはそちらからよ?」


ドッ、

コールの女性軍人の腹部からは大量の出血。マリソンが右手に持つ、敵の血が付着したナイフは軍人の腹部を後ろから貫通させていた。
「っぐはぁ"!」
苦しむ声を上げ血を吐いた後、軍人は真っ青な顔のままその場に倒れ込み、二度と動く事は無かった。
顔を覗き込み、小さな溜め息を吐くマリソン。
「私は隠れてなんていなかったわよ。貴女、前方と左右しか見ていないんですもの。私はずっと貴女の後ろにいたのに」
不気味に微笑んだ後、内ポケットから無線を取り出して繋げる。
「ヴィル君?C班は今何処に居るの」
「えー他の奴等はコール城へ。俺はえー、そこら辺をウロウロと」
「また方向オンチ炸裂ね。良いわ。私達B班が済ませておく」
「申し訳ないっす」
無線を切り、マリソンは腰に片手をあててもう片方の手で髪を掻きあげ、城を見上げた。

































先にコール城へ突入し戦っていたC班とB班のルネ軍人達――――

「きゃああ!」
部屋の扉を勢い良く蹴り開けると、室内では身を寄せ合っている貴族の親子がいた。親子に哀れな思いも抱かず、ルネの軍人達は激しい発砲音を鳴らし続けた。


パァン!パァン!

自分達とは別の発砲音が背後から聞えてきた時には意識は遠退き、目の前は真っ暗闇だった。
ドサッ、と大きな音をたてて前に倒れ込んだルネの軍人2人の背後には、1人の若くて細身のコールの男性軍人。目の前の光景に思わず、両手で持っていたライフルを落としてしまう。
「ルーヌ、スザン…!」
この室内で隠れていた目の前でたった今射殺された妻子の名を涙ながらに叫ぶ。駆けつけるのが遅かったのだ。
狂ったように大声を上げながら、敵は死んだというのに妻子の命を奪ったルネの軍人2人の事を未だ撃ち続けていた。


パァン!パァン!





































城外―――

やっとコール城が見えてきた事に安堵の息を吐くヴィルードン。
生い茂る草々を踏みつけ、駆け抜けていたその時。こちらへ向かって息を切らしながら走ってくる大柄のコール国王、王妃、コール兵士2人。王妃に抱えられているのはまだ幼い王子2人。
ヴィルードンは大木の後ろに身を隠し、ポケットの中から新たな銃弾を取り出すと静かに拳銃に詰め始める。国王達の荒い息遣いや話し声がだんだんと近付いてくるが、平然として木々の合間から見える真っ赤なコールの空を見上げている。
「国王様こちらです!」
「父上、母上熱いです…」
「もう少しだ、我慢するのだよ」
コールの幼い王子2人の声に、ふと昔の記憶が思い出される。所々ではあるが、ルヴィシアンとヴィヴィアンがまだ子供の頃。2人の世話をしている自分の姿が頭の中で思い出されていた。
思い出される記憶が途絶えたと同時に、コール国王達がヴィルードンの隠れていた大木の脇を通りがかる。
「コールの王様みんな揃って亡命っすか〜?」
「なっ…!?ルネぐ、」


パァン!パァン!
パァン!

3発もの銃弾がコール国王の命を一瞬にして奪った。目の前で国王が射殺された為、王妃は口に両手を充てて体を大きく震わせる。しかし、2人の幼い王子達は大粒の涙を流しながらも、王妃の元から飛び出して無意味にもヴィルードンへ立ち向かって行く。
「おやめなさい!」
王妃の裏返った切ない叫び声にも耳を傾けず、向かってくる王子達。その2人が母国の王子2人の幼き日と実の弟と重なり、不覚にも銃を構えるヴィルードンの手が小刻みに震えてしまうが、目を瞑り、気を集中させて引き金を引いた。


パァン!

王子達を射殺後、王妃には躊躇いも無く平然とした顔付きで銃口を向け、何発も発砲し射殺した。
まだ引き金を引くが、カチャカチャという情けない音しか聞こえてこなくなり、内ポケットを探って銃弾を補充する。





























「血も涙も蘇ってきたみたいね」
「いえいえ、コールの王子2人がルヴィシアン様とヴィヴィアン様の御姿と被っただけっすね。あの王子2人が男女又は女2人の王女でしたら、すぐ撃っていましたよ」
「あらそうなの?良かった。不安になっちゃったじゃない。戦場に人間らしい心は不必要だからね」
「御最も」
背後に現れたマリソンの方を向かず、銃弾を詰めながら会話をする。
マリソンは何かを思い出したかのように目を見開いて口を"あ"の形に開く。
「あ、ヴィル君。さっきヴィヴィアン様、って言ってたけどダイラー将軍の前では様付けしちゃ駄目よ?勿論将軍の前に限らずルネの人間の前ではね。ヴィヴィアンはもうルネの王子ではないのですもの」
「あーそうでした。ついつい癖で。以後気を付けまっす」
真剣に聞かず、銃弾を全て詰め入れた事に満足そうに微笑む。そんなヴィルードンに呆れながらも微笑んで見ている。


ガー、ガガーッ、

その時、内ポケットにしまっておいたマリソンの無線からノイズが鳴り出し、B班の軍人と繋がった。
「こちらB班マリソン」
「大将、コール城の地下に核爆弾の実験跡が見つかりました」
「何ですって?」
興奮した軍人の声は無線から外にまで洩れていた為、ヴィルードンにも聞こえていた。
「コールは以前、核を所持していないと宣言したはず…。良いわ、もう国王達も殺害したのだしコールは後数日で壊滅よ」
「はい!」
マリソンが無線を切り、内ポケットにしまったのを確認してから近付く。頭の後ろで両手を組み、木々の間から赤いコールの空を見上げて。
「核、っすか」
「危なかったわね。核所持を宣言していない諸国も隠れて所持している事はよく有り得るわ。調べましょう、核の威力にはルネの優れた戦略も軍事面も敵わないもの」
先程までのマリソンの口調、顔付きとは一転し、険しくなっているのが分かる。イラだっている事だって感じ取れた。敢えてその事を口には出さず空を見上げていた。













































ルネ城、国王室内――

足を組み、頬杖を着いて堂々たる態度で椅子に腰掛けているルヴィシアンの前に、ルネ軍将軍『ダイラー・ネス・エイソニア』が跪く。
濃い茶色の短髪、贅肉の無い筋肉質な体付きに、190cm越えの長身という充分な背丈。そして敵を怖じ気付かせる険しく恐ろしい顔付きには、仲間内でも恐れる者がいる程。
将軍の座に上り詰めるまでのダイラーの顔付きと将軍となった今の顔付きとでは全くの別人の様だ。写真で比べれば一目瞭然。一般軍人の時は然程険しくもなくあどけなささえあったのだが、今となってはその面影は全く見られない。


























「ダイラー。顔を上げよ」
「はっ」
ルヴィシアンに向けられたダイラーの表情はとても険しい。
「ダイラー、国王殺害犯のヴィヴィアンの件なのだが。戦争と並行して軍の方で彼を探し出してほしい」
「どちらか片方が疎かになってしまわぬよう、私達ルネ軍総出で国の為に尽くす事をここに誓います」
胸に拳をあてて一礼する。気分が良さそうに微笑するルヴィシアン。


パチパチパチ!

ダイラーの忠誠心に感激したルヴィシアンは、思わず拍手をする。広い室内に1人分の拍手の音が鳴り響く。ダイラーは頭を下げ続けたまま黙って胸に拳をあてていた。
「そうだ。他の者達へも伝えておいておくれ」
「はっ、何事を」
ルヴィシアンは自分の顎に手をやり、口を開く。
「ユスティーヌ王国王女マリーいや、ユスティーヌ王国はとても愚かだという事を」
「御もっともです。国王陛下殺害犯と未だに関わっている可能性は高いですし」
「そうだ。奴等ユスティーヌはお父様のお考えでルネに占領されてしまう事も分からず、国の繁栄の為にルネと関われたと思っていた」
鼻で笑い、窓の外に目を向ける。空が青い。
「私ルヴィシアン・デオール・ルネはお父様と血が繋がってはいるが、1人の人間だ。考えも異なるし、思想も異なる。だから私はお父様の様に抵抗されてから戦争を仕掛けるのではなく、私達ルネにとって邪魔な国々を排除する為、ルネ自ら戦争を仕掛けていく事を宣言する!」
ダイラーは頭を下げたままの状態で一瞬ルヴィシアンの発言に驚いて目を見開いたが、妙な態度は見せぬように…とすぐに気持ちを切り替えて平常心を装った。


パチパチパチ!

ルヴィシアンの宣言に、室内に居る軍人達は大きな拍手をする。
例え彼の考えと自分の考えが正反対であっても抵抗する事など許されないのだから、外面だけでも賛成を表しておかないと自分の命が危うい。
満足そうに窓の外を眺めるルヴィシアンの事をチラ、と見た後ダイラーは静かに立ち上がり、一歩後ろへ下がって敬礼し、部屋から出て行った。


































「今は亡きお父様が考えて下さっていたユスティーヌの件。お前は勿論賛成してくれるよな?」
「先代ダビド国王陛下、現ルヴィシアン国王陛下のお考えに背く筈がございません」
「さすがだ」
アマドールはルヴィシアンに跪く。室内にはアマドール以外にも、ルヴィシアンが真の国王殺害犯だという事実を知る軍人達だけとなった。
「お前達」
「はい」
「次の大戦ではネーナ国の時の戦略を使え。今までの戦略を繰り返して使っていけば、ヴィヴィアンが居なくたって何の問題も無く我が国は勝っていく事ができる。そうだろう?」
「御もっともです、国王様」
力強く敬礼をして返事をした軍人達に満足し、窓の外を見て微笑んだ。

























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