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症候群-追放王子ト亡国王女-
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ガン!ガン!

激しくぶつかり合う音。何と新田見は、左右から挟み撃ちにしてきたルネ機2機を自慢の二刀流で対応。それにルネ機が驚いた一瞬の隙を見つけると、容赦なく2本のサーベルで2機を滅多斬り。相手に攻撃させる隙さえも与えない。
「ぐあああ!」
「ああああ!」
ルネ機2機から火花が散り、損傷が酷い箇所からオレンジの火が上りはじめる。ルネ機2機も時間の問題だ。そう新田見が勝利を確信した時。


ガタン!

「なっ!?」
何と2機は脱出ポットを使ったのだ。機体の背中部分からポットが飛び出したのをモニターで拡大。普段穏やかな新田見が眉間に皺を寄せた。
ぐん、と速度を上昇させ二つの脱出ポットの前へ到達。2本のサーベルを大きく振り上げる。
ルネ軍戦闘機のコックピットのフロントガラス越しに映るのは、ヘルメットの下で鬼の形相で二つの脱出ポットを睨み見下ろす新田見。
「貴様等はそれでも戦士か!」


ドン!ドン!

武器を所持できない脱出ポット二つは、振り下ろされた新田見機の二本のサーベルの餌食。爆発音と灰色の煙を背に、すぐ別の敵機との交戦を再開する新田見だった。





































一方の慶司はというと。


ドン!

爆発音をたて、2機目のルネ機の破壊に成功。
機内では呼吸を乱し、汗を吹き出して目を見開く慶司。しかしそんな彼を余所に間髪あけずに敵機接近の嫌なサイレンが機内に響き渡る。ハッ!として顔を上げれば、真正面より急接近してくる人型のルネ機2機。
「く…!」


キィン!

1機をミサイルで引き離しもう1機とサーベルでぶつかり合う。青の火花が眩し過ぎて思わず片目を瞑ってしまう程。
一方の、慶司の機体にぶつかり合った敵機ルネパイロットはダイラー将軍。右端に表示されている燃料メータが残り少ない。それを横目で見やりながら慶司の機体と交戦するのだが、内心のみならず、歪んだ表情からは焦りが見受けられる。
ミサイル積載量も残り4発。爆撃をするにも飛行の為の燃料も考えて計算すると2、3発爆撃したら燃料切れだろう。そのまま自爆だなんて天下のルネ軍…ましてや将軍がそんな最期迎えたくはないし、迎えるなんて想像もつかない。しかし…
「予期せぬ事態が起こる事も計算に入れておかねばならぬという事か…」
――この歳になってそんな基本すら忘れてしまっているとはな…――
自嘲しながらも目をつり上げて意を決すると、サーベルで慶司の機体を突き、自分の機体からわざと大きく突き放す。
























ドガッ!

「っ!?」
一方の慶司はというと、ダイラーのこの行動の意味が理解できず目が点。しかしフロントガラスの向こう真正面には、敵機ルネが居る。立ち止まっていたら、負ける。
「何を考えているのかは知らないがかかってこないのならばこちらから、行く!」
ぐん、と操縦桿を前へ押し倒せばぐんぐん加速してゆく慶司の機体。比例してダイラーの機体にみるみる近付いていくのだが、迫ってくる慶司の機体をコックピットのフロントガラス越しから見て微笑するダイラー。
「かかったな」
「!!」
慶司の機体が急接近し、ダイラー機目掛けてサーベルを大きく振り上げたと同時だった。


ガコン、

ダイラー機の中央から爆撃の発射口が開いたのだ。まずい…そう慶司の脳が指令を下すよりも先に発射口からオレンジの炎が噴き出す。


ドンッ!!

すると、悲鳴を上げさせる時間も与えず一瞬にして慶司の機体はダイラーが放った爆撃のオレンジの炎に包まれ、太平洋に浮かぶ火だるまと化してしまった。その炎の明かりが眩しくも美しく、誇らし気にその様をコックピットから眺めるダイラー。
しかし悠長にしてはいられない。すぐ燃料メータに目を向ける。
「今放った爆撃1発…残るミサイル4発を撃ったところで燃料が底を尽くだろう。…そうと分かれば!」
ダイラーは顔を上げる。遠方より接近してくる日本国革命軍戦闘機7機。
「ミサイル数は足りぬが、3機巻き添えにすれば足りる!」
燃料ギリギリでも勝ちに行く強い眼差しで、敵機目がけ操縦桿を前へ押し倒したのだが…





























「な…?動かない、だと…!」
その通りだった。本来ならばここからぐんぐんと機体が加速し華麗に飛行するはずなのだが、何度操縦桿を前へ後ろへ左右へ動かしても機体は一向に動かないのだ。
もう燃料が底をついてしまったのか?とメータに目を向けるが、ほんの少しだがまだある。では何故?そう思った瞬間。


ビー!ビー!

先程から鳴り止まぬ敵機急接近時の危険サイレン。ダイラーの頬に冷や汗が一滴伝う。
「まさか…!」
そのまさか、だ。先程迎撃成功したと思い込んでいた慶司の機体はダイラー機の頭部を2本の腕でがっちり掴んで離さかなかったのだ。
今も尚がっちりと掴んでいる慶司の白い機体をダイラー機の上カメラが捉えると、あのダイラーの目が悪魔のようにつり上がる。
「敗戦国の分際で反逆行為など調子に乗るな!!」


ドン!

ミサイルが1発放たれたその風圧で、思わず慶司は掴んでいたダイラー機を手放してしまう。それこそダイラーの戦略だ。





























今まさに拘束から放たれたダイラー。しかじ背後から迫りくる7機もの日本国革命軍機。本来ならばここは8VS1と分が悪いから、援護を要請せざるを得ない場面。しかし理性を失った今のダイラーはそんな事は思いつかないのだ。据わった瞳がヘルメットの下で光る。
「旧式8機など、私1人でも時間が余るくらいだ!」
「なっ…!」
するとダイラー機は慶司には背を向け、迫りくる7機の革命軍戦闘機の中に高速度で特攻したかと思えば何と、爆撃機能を一切使わず見事なまでの剣捌きで革命軍を圧倒。その様子を少し距離のある場所からただ呆然と見ている事しかできなかった慶司。
すると、モニターに表示されていた仲間の機体が次々とLOSTしていくではないか。その数7つ。ハッ!と我に返った時既に革命軍7機を全滅させたあのダイラー機が目の前まで迫っており、サーベルを振り上げていた。


ガン!

何とか反射的にサーベルを振り上げた為刃を交えた慶司だが、たった一瞬で軍人経験ある7機のパイロットをしかもサーベルだけで全滅させてしまったダイラーに、半ば呆然。口が開いたままだ。
「集中していないと命取りという基本すら身に付いていないならば、我が国に敗戦するのも無理はないな日本人!」
「っぐ…!黙れ侵略者!」
若い慶司はこれがダイラーの挑発だとも知らず、まんまと乗せられてしまう。
その慶司の声を通信越しから聞き取ったダイラーは目を細める。
「…!その声…先の大戦で降伏宣言した若者か…?」
ダイラーの脳裏で蘇るのは第三次世界大戦終戦間際、日本国京都で都城を失った後の無い日本。
そこで機体同士ではあるが出会った日本軍の少年。降伏した少年慶司。わずかあの場だけだったが、あの時慶司が発した国民第一の言葉に考えさせられるものがあったダイラーは、慶司の声を覚えていたようだ。それに何より、こんな戦場で若い兵は珍しいというのも、慶司を覚えていた理由の一つでもあるだろう。




























しかし一方の慶司はダイラーの声など覚えてはいない様子。


キィン!!

互いは間合いをとり、再びサーベルでぶつかり合う。
「国民第一ならばなぜ革命軍などを発足させる!それこそルネを挑発させ国民に被害が加わるだけだろう!」
「なら何も行動を起こさずルネに死ぬまで働かされる国民を黙って見てろと言うのか!僕は僅かだろうと可能性を見出だしたから革命軍を発足しただけだ!お前達をこの国から排除する可能性を見出だしたから!」


ガン!

「っぐ…!」
こちらも理性を失っている慶司の攻撃は残虐だ。コックピットを一突きしようとしたが、寸のところでダイラーは左旋回。しかし右部分を擦ってしまった為、損傷を受けた箇所から散る青い火花。
「はっ、間違っているぞ若造!民というものは戦闘が起きなければそれで安心。そうだろう!?」
「違う!これは国を!日本を!民を守る為の戦闘だ!それなら国民も納得、」
「していない故に革命軍は少数規模なのではないか!?」
「…!」
ダイラーのその一言に目を見開く慶司。確かに…だ。国民が戦闘を嫌う事くらい充分承知していた。けれどよくよく思い返してみれば、革命軍に参加した人間全員軍人経験者。しかしだからといって軍人全員が参加してはくれなかった為、軍隊と呼べない程の規模なのだ日本国革命軍という組織。
――何故僕は今まで気付かなかったのだろう…。そうなのか?国民は僕達革命軍など頼りにもしていなければ認めてもいないそうい事なのか…?――
「考察は戦闘終了後にしろ!」
「ぐあああ!」


キィン!!キィン!

ダイラーに隙を与えてしまい、サーベル攻撃で圧倒されてしまう。慶司の機体から灰色の煙が吹き出し、火花や火まで上がる。ダイラーはニヤリ…、と笑んだ。
「君の考えには考えさせられるものがあった。それだけは礼を言おう若造…」


ドン!ドン!

放たれた1発のミサイル。命中した慶司の機体はミサイルによる爆風と灰色の煙で見えなくなってしまった。
その様をコックピットから目を細めてしばらく眺めてからダイラーは背を向け、モニターで次の敵機を探す。
「ミサイルはあと2発…無駄遣いはできんな」


ビー!ビー!

「熱源反応!?位置は…後方!?」
目を見開いたダイラーが瞬時に後ろを振り向いた時。


ドンッ!!

「ぐあああ!」
後方から勢い良く放たれたオレンジの炎の爆撃は、振り向いた瞬間のダイラー機右部分を焼き尽くす。その為右腕を火傷し重傷。そして機体右側は大破した為露となり、コックピットからは生身のダイラーが見える。
自分の右部分を匿うものがない。火傷の熱で腕は真っ赤。異常なまでの汗を流すダイラーの視界が曇り出して呼吸が不規則。
それでも尚、モニターを拡大して捉えたのは慶司の機体。こちらも損傷が激しいが、ダイラー機程ではない。
「っはあ…はあ…ぐっ…!貴様まだ、生きて…」
再び再開されたダイラーと慶司の戦闘。慶司は爆撃やミサイル攻撃を繰り返す。何故ならダイラー機は一向にこちらに近寄ってはこなくて、遠方で慶司の攻撃を回避するだけなのだ。これには経験の浅い慶司でもおかしい事に気付く。同時に、これは好機という事にも気付く。慶司は白い歯を見せて笑った。

























するとエンジンがかかったように慶司は勢い良くダイラーの懐へ飛び込みサーベルを振り回すが、ここは経験豊富なダイラー。この機体損傷状態でも回避する。しかし、回避する事しかできないのだ。
大破した右部分からダイラーの姿をコックピット越しに見付けた慶司はキーボードを手早く打ち、ミサイルの射程位置をコックピットに設定。ロックした。
「卑劣と言われようが先にやらなければこっちがやられる!」
機体下部から勢い良く発射されたミサイル。ダイラーはそれが、曝け出された自分の生身目がけて発射されている事に気付き、ばつが悪そうに左旋回で回避。しかし…
「なっ!?」
「それも予測済みだ!」


ドスッ!!

「ああああ!」
ダイラーが自分のミサイルを左旋回で回避するとの慶司の予測は見事的中。ミサイル発射後、即座にダイラーの前に現れ、サーベルで滅多斬り。ミサイルは囮だったのだ。勢い良く、ダイラー機頭部までも凪ぎ払った。その時。
「殿下!」
「新田見君!?」
遠方より加勢にやって来た新田見からの通信。ダイラーは新手の出現に顔を歪めるも、慶司に圧倒される傍ら、新田見の機体をロックしていた。
「殿下、只今私が、」
「運が悪かったな日本人」


ドン!ドン!

「ぐあああ!」
「新田見君!!」
慶司の元へ辿り着く前にダイラーにロックされていた新田見機は油断していたのだろう、真正面からダイラーのミサイル2発を食らってしまった。





























仲間であり親友である新田見の負傷に慶司は周りが見えなくなり、思わず新田見機の元へ急加速。その際ダイラーに背を向けてしまったとも気付かず。
「新田見君!新田見君無事か!」
通信を繋げて機内の様子を映像で見れば、新田見機のコックピットには機体の破片が散乱。戦闘不能のサイレンが鳴り響く機内は新田見の血痕が飛び散っている。ヘルメットは割れており、その下では頭から血を流して顔中が自分の血に塗れた新田見。しかし慶司の問い掛けに、唸りながらも薄ら目を開いたのだ。
「うぅ…殿下…申し訳、ございませ…ん」
「何言っているんだ新田見君!僕が僕がもっとしっかりしていれば新田見君に援護してもらわずに済んだものを、」
「!」
その時、新田見の目が大きく見開かれた。
「殿下、後ろです!」
「え、」


ドン!

「うああああ!」
「殿下!」
背後より接近していたダイラー機が慶司の機体頭部を凪ぎ払った。しかし慶司は揺らぐ機体の中、すぐ様決断してこの場をわざと離れ、ダイラー機を誘う。それは新田見機を巻き添えにしたくないが為に、わざと離れたのだ。
遠ざかっていく慶司の機体とダイラー機が、青の火花を散らし交戦する様をコックピットの割れたフロントガラス越しに霞む視界で眺める事しかできない新田見は、力が無いなりに右拳で機内を力強く殴った。


ダンッ!

「ぐっ…!機体が戦闘不能なばかりに…殿下を…御守りする事…さえできな…」
目の前が真っ暗になった。




































一方のダイラーVS慶司――――

「ぐあああ!」
「同胞を気遣う場面などフィクションの世界のみで充分!現実の戦場はそんな時間さえ無い事を覚えておけ若造!」
空前の燈のようにダイラー機は息を吹き返し、サーベルのみで慶司機を圧す。だが慶司も反撃をする。
しかしわざと慶司機と接近戦をダイラーが強いるのには理由がある。慶司に砲撃やミサイルを発射させない為だ。だから、息を吹き返したダイラー機も内心、慶司に距離をとられないようにする事で緊迫しているのだ。顔には出さないが。
「ほう…若造のくせに根性だけはあるようだな!」
「ぐあっ!喋る余裕などないくせに!」
慶司にサーベルをかわされてしまった。
――まずい…!――
慶司はやっと、という様子でダイラーから距離をとろうとしたのでそこをすぐ様ダイラーが接近…するのだが、


ビー!ビー!

「燃料が!」
機内に鳴り響く嫌な音にハッ!として目を見開くダイラー。燃料が底をついてしまう直前の音。



























突然ペースダウンして速度が落ちていくダイラー機を前に、慶司は首を傾げる。だが、これはチャンスだ。キーボードを打ち、ミサイル射程位置をダイラーに定めようと開始。
一方のダイラーはロックされぬよう右へ左へ旋回するのだが、燃料が残り僅かな為、速度が出ない。このままでは…
「チッ…!」
「ロックオン!」
ピピッ!と音が鳴り、ダイラー機をロック。ミサイルが発射されるその瞬間。
「させるものかぁぁあ!」
「なっ…!?」


ガッ!!

最後の力とばかりに真正面から慶司機に突っ込み、コックピットを掴んで離さないダイラー機。故に慶司は操縦桿をガチャガチャ動かすが、操縦不能。先程とは立場逆転。今度はこちらが動きを封じられてしまったのだ。
その間にもダイラー機と共に高速度で落下していく慶司の機体。


ビー!ビー!

「くそぉぉお!」
鳴り響く操縦不能のサイレンに目をつり上げる慶司。一方のダイラーは鼻で笑う。
「ふっ…敵を巻き添えにする最期などマリソンと同じか…」
近付いてくる太平洋の海面。あと少しで東京だというのに、このままでは2機共に海に浮かぶ藻屑となってしまう。
「…聞こえるか若造。貴様の功績は素晴らしいものだ。あのルネ軍の将軍を倒したのだからな。2階級特進なんてものではすま、」
「そんなものどうだって良い!僕は、僕はこんなところでまだ殉職できないんだ!何故ならば…!」
「なっ…!?」


ガコン!

不可能なはず。だが何と、慶司の機体下部からミサイルの発射口がダイラー機の方を向いたのだ。ダイラーは呆然。
「日本を取り戻す使命があるからだ!!」


ドンッ!!

ダイラー機と慶司機が太平洋に沈んだと同時に、海中でミサイルが爆発した。











































































国際連盟軍加盟国
イギリスロンドン上空―――

「ぐっ…!一足遅かったようじゃな…!」
プライベートジェットに乗り、部下と共に母国イギリス上空を飛行中のロゼッタ。下に見えるのは、聖マリア王国を主体とする近隣諸国の集まり。
第三次世界大戦時のイギリスへの怨恨で起きた戦闘。誇るべきイギリス軍も出兵している様子。しかし既に建造物は倒壊したり、炎が上がっているではないか。ロゼッタは歯をギリッ!と鳴らしてジェット内を殴る。


ダンッ!!

「女王陛下が出兵なさる前に私が…!」
その時だった。


♪〜♪〜

ロゼッタのスーツの胸ポケットに入った携帯電話が鳴る。すぐ電話に出た。
「何じゃ」
「ロゼッタ様ご心配なく!私達イギリス軍兼連盟軍が居る限り、女王陛下を出兵などさせませんから」
通話相手の少女の高い声にロゼッタは不安気ながらも小さな溜息を吐き、顔を上げた。
「…その言葉に期待しておるぞルーベラ・ロイヤル・アン」
「了解!」





























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