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症候群-追放王子ト亡国王女-
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ルネ領日本、
日本革命軍本拠地京都―――

何とか京都だけはルネの支配下から免れてはいるが、それも時間の問題だろう。第三次世界大戦で崩壊させられた都城跡地が見える位置に設立された木造3階建て地下2階まである日本革命軍本拠地。
ルネ軍のほとんどがアメリカへ出撃している為、久々に戦闘機が飛行する爆音が聞こえてこない静かな朝。

































日本国革命軍本拠地――――


カポン、

障子戸の向こうに見える庭から鹿威しが鳴り、雀達の鳴き声がする風流な朝。畳の部屋で黒の和服を着用した慶司は湯気のたつ番茶を、音をたてず飲む。御膳には白飯とねぎと豆腐の味噌汁、大根おろしが添えられただし巻き玉子と焼き鮭。
王子であった慶司からして見れば質素な朝食だが、ルネに占領された今の日本の中では一番裕福な朝食。その事をしっかり理解しているからこそ、慶司は一口一口しっかり噛み締めて食す。
「……」
ふと顔を上げた目線の先には左から順に先代日本国王、本妻、妾、咲唖、信之、菊、霞の遺影。
「くっ…」
どれも皆笑顔だからこそ、胸の傷が痛む。
正座した太股の上に力強く握り締めた拳を乗せた慶司の脳内では、日本VSルネの戦争場面が音声まで生々しい程蘇る。
自分を砲撃範囲外まで吹き飛ばした代わりに、炎に包まれ殉職した武藤将軍。そして、日本で他国でその命を散らした日本人達の悲鳴が聞こえてくる。慶司は目を見開くがぐっ、と両手拳を力強く握り締め、精神を安定させる。






















そんな時。
可愛い鳴き声をあげてトコトコ室内へ入ってきた1匹の雀。顔を上げた慶司が雀に微笑みかける。
「おいで」
しかしパタパタと羽を広げ、外で待っている親雀の元へ飛び立って行ってしまったから慶司は自嘲気味に笑う。
「姉上のようにはできないな。はは…」


コンコン、

障子戸をノックする音。障子に映る人1人分の影。顔を上げる。
「誰だ」
「はっ、新田見でございます。殿下に一早くお知らせしたい情報がありお訪ね致しました」
「新田見君か!入って良いよ」
「失礼致します」
"新田見"その姓を聞いた途端、久しぶりに慶司の顔が年相応の少年の嬉しそうな顔付きに変わる。


カラッ、

開かれた障子戸の向こうには、板張りの廊下に正座をして律儀に深々頭を下げ少年が1人居た。顔を上げた少年は栗色の外にはねた短髪で、右目の下に黒子が二つ。オレンジ色の瞳は穏やかそうで、いかにも生真面目な日本人らしい。右手には新聞。
慶司は新田見を手招く。新田見は慶司に一礼をしてから、隣に正座する。
「羽下将軍から新田見君が革命軍に参加してくれた事は聞いていたんだ。久しぶりだね。中学校以来かな」
久しぶりの友人との再会に目を輝かせて話す慶司は子供らしさを取り戻していた。慶司が話すようにこの少年『新田見 総治朗(にたみ そうじろう)』は現在17歳。慶司の中学校時代の同級生であり、彼の唯一の友人だ。
中学校卒業後は軍隊への入隊と共に王子としての意識に芽生えた慶司は以降、進学を辞めた。
神奈川の中学校に在学していた慶司。新田見の父親は神奈川でも有名な貴族の家の人間だ。しかし中学の時両親が離婚したらしいが。


























「僕達王室が不甲斐ないばかりに、新田見君をはじめとする学生達には卒業式を迎えさせられない事になってしまって謝罪してもしきれないね…」
慶司が言うように、高校生だった新田見だが第三次世界大戦でルネに敗戦し尚且つ支配下となってしまった日本では、日本国教育を受けさせる事をルネに強制的に廃止させられてしまったのだ。つまり、新田見をはじめとする学生達は卒業式を迎える事ができなかった。
それからは学生の中でも革命軍に参加する者もいたがそれはほんの一握り。しかし、新田見はそのほんの一握りの中の1人だという事に慶司は心から嬉しく思い感謝すると共に、心から申し訳なく思った。






















そんな慶司が黙ってしまい俯いたので、慶司の心情を察したのか新田見は話題を持ち出す。
「宮野純殿下」
「前みたいな呼び方で構わないよ」
「そうはいきません」
「はは、相変わらず真面目だね新田見君は。僕の誇るべき親友だよ」
新田見は深々一礼する。そしてすぐ、右手に持っていた新聞を広げて差し出す。慶司が新田見と新聞を交互に見れば、新田見はただコク、と頷く。


ガサッ…、

新聞を受け取り、慶司が目を通した時。大きく取り上げられた重大ニュースに慶司の黄色の瞳が大きく見開かれた。
「…!ルネ王国国王がヴィヴィアン・デオール・ルネを捕獲!?世界引き廻しの刑!?」
声を張り上げ驚愕する慶司を、新田見はただ黙って見つめる。慶司の脳裏では、先代ダビド国王を殺害した後も尚ヴィヴィアンを友人だと言い張り擁護する言葉を発していた姉咲唖の顔が浮かぶ。

『慶司は偽りの笑みを見抜けるようになりなさい』

「姉上は何故あのような事を言ったのだろう…」
その時ふと、フラッシュバックした。血塗れで自分を庇った為命を落とした宮野純慶吾…否、宮野純咲唖の血に濡れた姿。直後、城内で自分が取り押さえたヴィヴィアンが演技をしていてヴィクトリアンを騙し、逃げた時のヴィヴィアンのあの悪魔の笑みを思い出せば、慶司は目を見開き新聞を力強く握り締めてテーブルを両手で叩き、立ち上がる。


ダンッ!!

「殿下…」
「ははは!良い様じゃないか!父を殺し友人を殺し、民を殺した感情の無い悪魔にはぴったりな最期だ!」
慶司は人が変わったかのように高笑いを上げる。しかしその脳裏では……































慶司当時6歳―――

姉咲唖に手を引かれたまだ幼い慶司。
「慶司。私の初めてのお友達ですよ」
そう満面の笑みで咲唖が手を伸ばした先には、日本人には見慣れない西洋貴族の衣服に身を包んだヴィヴィアンが居た。優しい笑みを浮かべる彼を、慶司はただ見上げる。
「初めまして慶司君。僕はルネ王国第三王子ヴィヴィアン・デオール・ルネと申します」
人見知りな慶司はすぐ咲唖の後ろに身を隠してしまうから、ヴィヴィアンは目を見開き驚くが、すぐ咲唖と2人で微笑ましげに笑い合う。
「ふふ。慶司はお城の外の方とお会いするのは初めてなのです。許して下さいね?」
「はは、僕も初めはそうでしたから」
しばらく、日本の四季の美しい庭園で椅子に腰掛けながら三食団子を食べ談笑していたヴィヴィアンと咲唖。慶司は緊張しているのか黙ってばかりで、団子もお茶を飲まなければ喉を通らない。
「そっか。慶司君は武士に憧れているんだ」
「はいっ!お祖父様と一緒によく時代劇を見ていた影響だと思います。でもまだ木刀しか持った事がないのですけれど、武藤将軍から素質を買って頂けたのですよ」
ふふ、と着物の袖口で口を隠しながら弟自慢の咲唖に慶司の頬が赤らむ。
するとヴィヴィアンは少し屈み、慶司と顔を合わせて微笑んだ。優しい赤の瞳だった。
「慶司君は大きくなったら咲唖や日本を守る、歴史上最も強い武士になる事を期待しているよ」
「ほら慶司、お返事は?」
「あ、あ…ありがとうございますっ!」
「はは、将来有望な武士がいていずれ同盟を結ぶルネとして頼もしいよ」
頭を撫でられ、慶司は照れ臭そうにけれど満面の笑みを浮かべていた。





























現在―――――


パリン!

そんな幸せだった過去も、慶司の中で音をたてて粉々に砕け散る。
――過去は過去だ。良い悪いどちらにせよ過去ばかりを引き摺っていたら僕は前へ進めない。強くはなれない。だから…――
「僕は…!」


ビー!ビー!

「な、何だ…!?」
突然辺りいや、日本全域に外から鳴り響いた警報に日本中が目を丸める。慶司も辺りを見回す。
「ルネ領日本!ルネ領日本!只今我々ルネ軍は一度、駐屯地である日本にて燃料補給に向かう。従ってその間、貴様等に国際連盟軍アメリカの相手をさせてやろう」
「なっ…!?」
警報直後響き渡り繰り返されるルネ軍からの強制的指令。それに慶司や日本中が怒りを覚えないはずがなくて。


ドン!

慶司が力強く壁を殴れば、庭の雀達が一斉に飛び立っていく。
「くそ!くそっ!!何故、何故日本はこのようになってしまったんだ!くそ…!」
「殿下…」
それは敗戦したから。その事くらい身に染みる程理解しているけれど、どうしても何故だ、と口にしてしまう。慶司は肩をカタカタ小刻みに震わせながらも目は据わっていた。
「…新田見君…いや、新田見少尉…」
「はい」
「このままでは軍隊経験の無い男女、子供、老人まで強引に戦闘に駆り出されてしまう。ルネの言いなりの下、命を落としかねない」
「はい…」
「…日本人皆が命を落としてほしくはない、そう言った僕がこう申すのは矛盾だ。矛盾だ。けど…革命軍に参加してくれた君達に力を借りたい」
ここで新田見は慶司の言いたい事が分かったが敢えて口にせず、彼から発せられるまで黙って待つ。
「…シビリアンの日本人達を守る為日本国革命軍は今、ルネと対峙する!」
「了解!」
力強く敬礼した新田見を、申し訳なさそうに見つめながら気弱な笑みを浮かべて敬礼を返す慶司だった。













































同時刻、アメリカ合衆国
ワシントン上空―――

国際連盟軍戦闘機で飛行するマリーは機内で思い出していた。それは今から3日前の事…。
























3日前―――――

「いやああああ!」
ビル内一室にて、ヴィヴィアンの刑を聞いたマリーは半狂乱で叫びその場に蹲った。目が開ききっている。
「いや、いや…いやですわ…ヴィヴィ様…ヴィヴィ様!」
「…そんなに心配かヴィヴィアン・デオール・ルネの事が」
「勿論ですわ…!だ、だって…ヴィヴィ様は…!」


パァン!

音が、した。
ロゼッタに顔を上げた瞬間マリーの左頬をロゼッタが一発叩いた音だ。
涙を流しながらマリーは目が点。そんな彼女を、目をつり上げて見下ろすロゼッタ。
「馬鹿者!お前自らヴィヴィアン・デオール・ルネと世界と敵対し平和を望み、連盟に参加しておきながら何じゃその言い草は!誰しも矛盾する事はある。人間じゃからな。しかし口にして良い事と悪い事がある!お前はもう国際連盟軍平和維持部官庁マリー・ユスティーじゃ!それが嫌でただのマリー・ユスティーに戻りたいのならば好きにするが良かろう!」


バタン!

力強く扉を閉めて出て行ったロゼッタの足音がだんだん遠ざかっていく。
部屋に1人残されたマリー。
「わたくしは…わたくしは…」
赤く腫れた左頬にそっ…、と手を触れれば、外から再び戦争の音が鳴りだした。






















現在―――

ロゼッタから叱咤を受け、再び戦闘機に搭乗したマリーは炎渦巻く空を飛行する。
「ユスティー官庁」
通信が繋がり慌ててすぐイヤホンに触れる。
「ルーイさんですか!?」
通信相手は平和維持部官庁補佐『ルーイ・ダレス・グルノヴァ』だ。
「機体修理はお済みになられましたか」
「は、はい!ご心配ありがとうございます」
「いえ。それよりもロゼッタ代表が英国へ緊急帰国なさったとのお話は既に知っておられますか?」
「え…!?」
その一言にマリーは目を丸めて言葉を詰まらせる。そんなマリーの口振りからして知らなかったと察すると、ルーイは話し始める。
「何でも、第三次世界大戦にてルネに敗戦した聖マリア王国が息を吹き返し、同盟を結んでいたにも関わらず援護してくれなかった英国に対し、聖マリア王国を主体とした小国が結集し一つの軍隊となり英国に宣戦布告を申したそうです」
その話にマリーは愕然と肩を落とす。操縦桿を握る右手が震え出した。
「そんな…そんな…どうしてですの…」
「…?ユスティー官庁?」
「どうして人間は人間を憎み合わなくてはいけませんの…!」












































同時刻、
ワシントン駐屯地滑走路―――

燃料補給後次々と再び飛び立って行く国際連盟軍アメリカ戦闘機。


♪〜♪〜♪

その様子を眺めていたジェファソンの携帯電話が鳴る。
「こんな時に電話など悠長な愚か者だな!」
スーツの胸ポケットから携帯電話を取出し、着信相手の名も見ずに電話に出る。
「もしもし?」
「はーい!ご機嫌如何です?ジェファソンさん!」
「…何だお前か」
「それはこっちの台詞ですね!せっかく俺の所の王様が援軍を出してやったっていうのに!」
通話相手の青年の高いテンションには、あのジェファソンでさえも肩をがっくり落とす程溜息を吐く。
「ところでお前は出撃していないようだな」
「勿の論!俺が出る幕じゃないですからね!」
「はぁ…お前という奴は」
「そういえばそっちに姐さんが居るって聞いたんですけど、もしや兄さんも居たりするんですか!?そしたら俺だけ仲間外れ?マジかよーショック!」
「いや、ロジーだけだったぞ」
「姐さんだけ…だった?」
突然通話相手の青年が黙ってしまったので、ジェファソンは溜息を吐きながらも彼との会話を早く切り上げたいが為、渋々説明してやる事にした。
「ロジーの国が小国共に宣戦布告されてな。つい先程急遽帰国したのだ」
「えええ!マジですか!じゃあじゃあ今、エリザベス女王陛下の危機って事ですか!ヤバイ!俺、王様に許可出してもらって今すぐイギリスへ向か、」


ブツッ!

青年がまだ話途中にも関わらず、無残な音をたててジェファソンから一方的に通話をきった。また溜息を吐く。
その時、後ろから若いスーツの男性がジェファソンの元へ駆け寄ってきた。
「ジェファソン国防大臣。大統領がお呼びです。至急ホワイトハウスまでお越し下さい」
「ほほう。彼からお呼びがかかるなんて嬉しいな。どれ、久しぶりに友人の顔でも拝みに向かおうか」
若い男性と共に、駐屯地内にある小型ジェットに搭乗し、戦禍の中を飛行して行った。


























































戦場はワシントン上空からニューヨーク上空へと舞台を移す――――

「一度日本へ向かい燃料補給か…その際機体修理をした方が良さそうだな」
ルネ軍日本駐屯地からルネ戦闘機全機に一斉送信された通信。それは、一度日本駐屯地で燃料補給をしている間連盟軍の相手を日本に任せるというものだった。しかし内心ダイラーは不安気だ。
「日本の中には軍隊経験がある者も居るが、ほとんどが徴兵制度で掻き集めたシビリアン…これは私の部隊かブーランジェの部隊どちらかが残った方が良いな」
「私もその意見に賛成です」
「ブーランジェ!?」
いつの間にかオープンチャンネルを繋げていたブーランジェ大将の声がして、驚いたダイラーが顔を上げればモニターには、不敵な笑みを浮かべるブーランジェ大将の姿。
「駐屯地の人間の脳みそは空ですね。私達が後半部隊となります。まずはダイラー将軍の部隊がお先に燃料補給にお向かい下さい。私達は将軍の部隊がニューヨーク到着後、補給に向かいましょう」
「ああ、そうしてもらえると助かる。では一先ずの間任せた」
「将軍部隊が補給の間にこの戦を終わらせておきますよ」
「…はっ!生意気な。しかし頼もしい。安心してこの場を任せられる」
そう笑みダイラー部隊は彼の通信の下、連盟軍と対峙しながらも日本駐屯地へと飛び去って行くのだった。
































一方のブーランジェ大将率いる東京駐屯地部隊。
戦闘機内モニターで、群青色の敵機をいくつか拡大したブーランジェ。顎に生やした立派な黒い髭に触れ、楽し気に笑む。
「ほう。これはこれはアンデグラウンド王国まで呼びましたかアメリカ。相当苦戦しているようですね。メッテルニヒ君」
「は、はいっ!」
突然ブーランジェから繋がった通信に、相変わらず挙動不審なメッテルニヒ少佐は慌ててイヤホンを耳に付ける。
「見えますか。前方から向かってくる群青色をした機体。あれがアンデグラウンド王国戦闘機です。メッテルニヒ君には数人の部下を率いてアンデグラウンド王国戦闘機の殲滅をお願いしましょう。大丈夫ですよねメッテルニヒ少佐?」
少佐、とわざと強調する。
「り、了解!」
ニューヨークの空に東京駐屯地部隊が横一列に並べば、隊長であるブーランジェは笑みを浮かべる。まるで舞踏会を待ちわびていた紳士のように。
「それでは私ブーランジェが披露致しましょう。最高のショーを!」


パチン!

指を鳴らす。それはショータイムの合図。


ドン!ドン!

東京駐屯地部隊一斉に発射されたミサイル。国際連盟軍のように曲がる特殊なミサイルは兼ね備えてはいないものの、威力は世界一と言っても過言ではない。
「ぐあああ!」
「チッ!ミサイルごときで死んでいては王に合わせる顔がないだろう!」
「アンデグラウンドの底力を見せ付けてやるぜ!」
まずは群青色の戦闘機つまり、国際連盟軍加盟国アンデグラウンド王国の戦闘機多勢が向かってきた。

























「此処は任せますよメッテルニヒ少佐!」
「り、了解!」
ぐん、とアンデグラウンド機の合間を縫って飛び立って行ったブーランジェ部隊を、案の定追い掛けるアンデグラウンド機達。
「逃げるなんざルネ様のやる事じゃねぇだろう!?」
ブーランジェの機体を、アンデグラウンド機がロックする。アンデグラウンド機パイロットは白い歯を見せて笑む。
「あばよルネ様?」


ガン!

「ぐあ!チッ、邪魔すんじゃねぇ!!」
砲撃ボタンを押せばブーランジェをロックオンだったというのに。寸のところで背後からサーベル攻撃を食らったアンデグラウンド機パイロットは、眉間に皺を寄せて怒りを露にし、すぐ人型へ変形するとルネ軍戦闘機と対峙してオープンチャンネルを繋げる。


ガー、ガガッ、

敵パイロットはメッテルニヒ少佐。ヘルメット越しだが、まだ19歳の若い彼の顔がモニターに映し出されれば、鼻で笑うアンデグラウンドパイロット。
「はっ!ははは!何だ何だぁ?こんなお坊ちゃん前線出して勝てると思ってんのかルネ王国様ぁ!?」
「くっ…!ち、挑発になど…!」


キィン!!

歯を食い縛り、込み上げる怒りを抑えて再びサーベルで攻撃。互いのサーベルから散る青い火花が眩しくてメッテルニヒは片目を瞑る。



























「挑発だぁ?違うなぁお坊ちゃん!俺はただ真実を述べただけだぜ?てめぇみたいなガキは戦場に相応しくねぇってなぁ!!」
「うあああ!!」
通信だというのに耳の鼓膜が切れてしまいそうな程怒鳴られ、同時に、サーベルでコックピット部分を集中して攻撃される。


ドン!ドンッ!!


ガシャン!

フロントガラスが割れ、機内には青の火花が散る。操縦桿を動かして何とか体勢を整えようとするのだが、敵の圧しが強過ぎてその隙すら与えてくれない。
割れたヘルメット越しに見えるメッテルニヒの額から右目を伝う血。
「うっ…うぅ…!僕は…!」

『はぁ?軍人になりたいですって?馬っ鹿じゃないの!せっーかくダビド叔父様からコーサ・ノストラへのお誘いがあったっていうのにあんたはそれを蹴るの?』
『ぼ、僕は…!僕はただ…!』
『メッテルニヒ。アンジェリーナの言う通りですよ』
『い、嫌だ…!あ、暗殺だなんて僕は嫌だ!ぼ、僕は王子を、ルネ王室をお守りしたいだけで…!』
『コーサ・ノストラだってそうじゃない!王室を狙う奴等を暗殺する。これはルネ王室をお守りする事にはならないって言いたいの?』
『ぼ、僕はそんな卑劣なやり方をしたくない…!ただ僕は…!』

脳内でフラッシュバックした姉と母親とのやり取り。メッテルニヒはアンデグラウンドの攻撃を食らいながらも、カッ!と目を見開いた。
「僕はルネ軍軍人だぁぁあ!!」
「なっ…!?」
目覚めたかのように、闇雲だが息を吹き返したメッテルニヒ機。アンデグラウンド機をサーベルで滅多撃ち…にしようとするが相手も強敵。そう簡単にはやられない。息を吹き返した敵に対し、喜びを感じている程だ。
「いやっほう!そう!そうだよこれこれ!超大国ルネ様はこうきてもらわなくちゃ遣り甲斐がねぇってんだ!!」
メッテルニヒ機とアンデグラウンド機は未だ尚火花を散らし、対峙していた。



























































カイドマルド王国
カイドマルド城―――

「な…何て事だ!」
新聞を広げた両手が震えるエドモンド。目は点で、顔からは血の気が引いていた。
彼が見ている新聞記事の内容は簡単だ。ヴィヴィアンがルネ王国に捕らえられたあの記事。
「という事はアントワーヌ君もか…?くっ…!今ルネへ出兵したところで未だ国を建て直す事で精一杯な我が国は歯もたたない…!ルネ君はカイドマルドの人間ではない…しかし!国民から支持を得る事のできなかった王室の支持を回復させたルネ君を…王を失ってはカイドマルドは…!」


































カイドマルド城内2階
とある一室―――

ベランダの椅子に腰掛けた1人の少年は、新聞のヴィヴィアンの記事に目を向けている。そんな少年にホットコーヒーを運んできた少女に、少年は新聞から目を離さず一礼。
「全く…アントワーヌ君も己の野望の為にヴィヴィアン君を利用していたという事ですか」
「あの…それは一体どういう事でしょうかマラ様」
マラ。そう、新聞に目を向けている少年はマラ教教皇マラ17世だ。紺のスーツを着用しているマラはコーヒーを口にしてから、口を開いた。真っ青な空を見上げて。
「早い者勝ちされてしまったという事ですよアダムスさん」
「はい…?」
頭上にハテナを浮かべた少女アダムス・ロイヤル・アン。黒の長い髪を横でまとめており、黒地に白エプロンという女中の服装。
2人は…というよりも1年前マラがとある提案をしてヴィヴィアンに認められた為、ヴィヴィアン自らマラをこの城へ呼んだ。その際、1人となっていたアダムスをマラが連れてきた事が始まりだ。
しかしマラがこの城に居る事を知っているのはアダムスを除くヴィヴィアンとアントワーヌだけ。だから…


コンコン、

「アダムスさん。ラヴェンナ嬢の朝食の準備をお願いしても宜しいかな?」
「は、はいです!只今!」
エドモンドから扉越しに話されて挙動不審にドキッ!としつつも、女中としての仕事に取り掛かろうとするアダムス。
マラがこの城に居る事をヴィヴィアンとアントワーヌとアダムス以外が知らない理由…いや、知ってはいけない理由それは、8年前カイドマルド王室を一度崩壊させたと知られているマラ教徒のしかも教皇マラだからこそ。
8年前の真相を知る城の人間は先代ダミアン国王に暗殺された為、この城内には8年前の真相を知る人間はマラ以外居ない。つまり、たった今訪ねてきたエドモンドもそうだ。マラにとってアウェーなこの城にマラが居る事が城の人間に知られてしまっては…想像がつく。


パタン…、

扉を閉めて出て行ったアダムスは最後、しっかりと部屋の鍵をかける事を忘れなかった。
1人となったマラはベランダの白い手摺りに両手を乗せ、溜息を吐く。
「私の代で決して終わらせはしません…」
青空に、呟いた。




















































太平洋上空――――

東京駐屯地へ向かう機内でダイラー部隊は途中、駐屯地から入った情報に歓喜の声を上げる。
「やったぞ!先代国王を殺害した奴が遂に捕らえられたそうだ!」
「本当かい?それはめでたい!」
「今頃本国は祭り騒ぎだろうなぁ」
パイロット達は通信を使いこんな事を会話していた。普段なら、無線を私用に使うな!と叱咤するところだが今日ばかりはとダイラーは目を瞑る。
「イタリアに居る所を捕えたとは国王陛下は一体何処から情報を得たのかが分からん。だが、何れにせよこれで国際連盟軍共の殲滅に集中できるというわけだな」
雲の切れ間から見えてきた島国日本。各ルネ機の燃料メーターも残り僅かだ。戦闘に熱中していたら今頃燃料切れ…という何とも情けない敗北を屈辱を味わっていただろう。燃料補給提案をした駐屯地の人間に礼を言わなければ、そうダイラーがふっ…と鼻で笑っていた時ノイズがした。


ガー、ガガッ、

「こちらダイラー」
「し、将軍でありますか!こちら東京駐屯地」
繋がった通信相手は東京駐屯地の若い女性。
「焦るな。次期着陸す、」
「それがですね、きゃああああ!」


ドン!ドン!

「!?どうした!一体何が、」
女性からの悲鳴と爆発音がイヤホンから聞こえてし、そこで通信は途絶えてしまったのだ。






























目を見開くダイラー。こちらから駐屯地へ何度も通信を繋げてみるのだが、やるだけ無駄だ。一向に繋がらない。
「チッ…!一体何が起きている!」
ダイラーは舌打ちし、イヤホンを足下へ投げ捨てると、操縦桿をぐっ、と前へ押し倒して、飛行速度を最高速度まで上昇させる。ダイラーのその突然の行動に部隊軍人が不思議に思わないはずが無くて。
「将軍?どうかなさいましたか」
「構うな!これは私が、」
続くはずの言葉は詰まる。予想はしていたが、まさか予想的中とは。前方よりレーダーが感知した戦闘機数十機。
「やはり貴様等か日本軍の残党共…!」
ギリッ…、と歯を鳴らして眉間に皺を寄せたダイラーが言うように、まだ太平洋上空だというのにこちらへ猛スピードで向かってくるのは、日本国革命軍戦闘機。
先手を打たれた。そして国内ではなく、領空で戦を起こそうという革命軍らしいやり方にダイラーは鼻で笑う。
「ふっ、旧式の機体に敗戦国の残党に何ができる!」
声高らかに叫び、部下を率いてこちらも速度を上げ、日本国革命軍に迎撃という名のプレゼントを降り注いだ。







































同時刻、ルネ領日本
東京駐屯地―――

「ああああ!」


ドドドド!!
パァン!パァン!

「ぎゃああああ!」
鳴り響くライフル銃や戦闘機からの銃声。そして人々の悲鳴。駐屯地施設一帯のレーダーが敵を感知したが、時既に遅し。
上空から戦闘機で砲撃されてしまっては、駐屯地施設は次々と炎を上げ、全焼。すぐ様隣県駐屯地から援軍が来たが、階級ある上官軍人達ほぼ全員がアメリカへ出兵している為、階級の無い所謂下っぱ軍人ではさすがのルネも軍隊のプロフェッショナル揃いの日本国革命軍の足下にも及ばないのだ。
パイロット経験者が少ない為、オペレーターまでもが搭乗するから一溜まりもない。オレンジの炎に包まれる東京駐屯地や、ルネ軍戦闘機をフロントガラス越しから見下ろした革命軍は、機内で声高らかに笑った。
「はははは!ざまあみろ!ざまあみろ!!俺達がおとなしく従うと思っていたら大間違いなんだよルネェェエ!」


ドンッ!!

既に大破寸前のルネ戦闘機にも容赦なく砲撃する革命軍の残虐なその様は、ルネに似ていた。
「このまま他の駐屯地もぶっ潰すぜ!武士の力思い知らせてやろうぜ!なぁ!」
「了解!」
1人の中年男性を筆頭に東京駐屯地を後にし、残るルネ軍駐屯地を潰しに各自散る革命軍。




































同時刻、
太平洋上空――――

「羽下将軍不在で大丈夫でしょうか殿下」
遠方に確認されたルネ機へ向かって飛行する中、新田見から慶司へ繋がる通信。
「不在だからこそ僕達が勝利をおさめるべきなんだ」
「?よく意味が…」
「来る!各自先程話したフォーメーションで迎撃!奴等を日本へ入国させるな!」
「了解」
慶司が率り、三つに分かれて飛行し、雲に隠れながらルネ機へ爆撃。
「はっ!身を隠しながらでしか立ち向かえない事を自ら晒すとは、とんだ恥晒しだな!」
わざと日本国革命軍戦闘機全機に挑発の通信を繋げたルネパイロットに怒りが込み上げる面々だが、ここで理性を失わせるのが相手の目的。だからこそ敢えて、このままの雲に身を隠し遠方からの爆撃体勢を変えず戦う。
だが、やはり旧式の戦闘機では発射までのタイムランは遅い上爆撃の威力は小国の爆撃機とどんぐりの背比べだろう。毎日常に進歩し続ける戦闘機性能に、ルネに侵略された日本は追い付く事はできないし追い掛ける事ができない。先立つモノが無いから。
「旧式でどの程度俺達ルネ軍を楽しませてくれるのかが唯一の楽しみってところか。つまんねぇなぁ!」
「ぐっ…!」
雲に身を隠しながらの爆撃。そんな戦略なんて数分も保たない。自軍に自信があるからお国柄だから、ルネ軍は雲の中を高速度で突き進み、なんと特攻してきたではないか。
分かってはいる。ルネは逃げも隠れもしない真っ向勝負の軍隊だと。しかしこうも早く正面からこられるとは想定外。至近距離では、最新鋭の戦闘機に適うはずが無い。



























目の前に現れたルネ機には、経験豊富な男性軍人でも目を見開き勝手に逃げてしまっている程。しかしそんな敵をも逃がさず仕留める事に全力を尽くすのがルネ。モニターで拡大し、離脱しようとする日本国革命軍の機体を捉える。パイロットは石塚准尉。准尉の機体を片目を瞑りながらロックし、白い歯を見せて嗤った。
「追い駆けっこは終ー了」
「…ハッ!」
その時、離脱しようとしている機体付近で交戦していた新田見がハッ!とし目を見開くと、離脱しようとしている石塚の機体に慌てて通信を繋げた。
「石塚准尉!敵にロックされています!すぐに右旋回で回避して下さい!」
「嫌だ嫌だ!俺はこんな所で死にたくない!」
「正気を取り戻して下さい石塚准尉!早く右旋回、」
迫りくる死にパニック状態に陥った准尉には新田見の声など届いていない。


ドドドド!!

そうこうしている間にロックした敵から発射されたミサイル。それを捉えた新田見は目を見開くと、すぐさま操縦桿を右へ倒し右旋回。
「嫌だ嫌だ俺は、」
「准尉!」


ドン!

「ぐあああ!」
「えっ…!?」
准尉を庇った為、ルネ機が放ったミサイルを食らった新田見機。
フロントガラスに映る同胞の機体から吹き上がる灰色の煙を目の当たりにした准尉は呆然。一体何が起こったのか、まだ脳が理解し切れていないようだ。
























「はーはっは!熱いね熱いね熱い場面だね!さすが日本人優しいねぇ!緊急時は仲間を庇うなんてルネ軍じゃ教えてもらわなかったぜ?だって自業自得だろ!」
今度は接近してくると、損傷が激しく煙を出している新田見機に容赦なくサーベルを振り下ろすルネ機。その容赦ない残虐振りに、准尉は機内で目を見開き、口はパクパク。言葉が出ないのだ。
「そそそんな…!俺を庇ったのか?庇ったばかりにこの若造は、」


ドン!ドン!

「あはは!独り言を呟く余裕あるなら背後気にしろってね!」
レーダーは准尉の背後から迫ってくる敵機を感知しサイレンが機内に鳴り響いていたのだが、完全に情緒不安定だった准尉にその危険信号は届かなかった。
届かなかったばかりに、背後からミサイルを数発食らい機体は炎上し、大破。破片となり太平洋に降り注いだ。


ガシャン!

「ははは!やってくれるなお前も!その容赦ないところ評価するぜ!」
「光栄っ!」
同胞と通信を取ったルネ軍達がその間、新田見機への攻撃をしていなかったそのほんの一瞬の隙。新田見はカッ!と目を見開く。同時に息を吹き返した新田見機は起動すると、サーベルを繰り出す。先程准尉を撃ったルネ機を滅多斬り。


キィン!!キィン!

「きゃああああ!」
「っ!ちくしょう!油断大敵ってか!でもなぁ!!」
すぐもう1機のルネ機が仲間の援護にまわり、新田見機を背後からサーベルでコックピット部分を一突きしようとしたのだが、


ガン!

「んなっ…!サーベルが2本だと!?ぐあああ!」
女性ルネ機を右腕に構えたサーベルで滅多斬り中に背後を男性ルネ機に狙われたのだが、新田見機の左腕から繰り出されたのは何と、もう1本のサーベル。


























寸のところでコックピットを一突きされるところだったが、何とか回避する事に成功した男性ルネ機。さすがのルネでも冷や汗が滴り一瞬呆然とするが直ぐ様我に返り、目をつり上げる。
「くっそ!二刀流だなんて卑怯くせぇんだよ!!いくぞ!」
「り、了解!」
男性ルネ機は女性ルネ機と合流すれば新田見機を左右から挟み撃ちにし、サーベルで立ち向かってくる。
一方の新田見は額や口端から血を流しながらも、厳格なあの顔付きのまま唇を、血が出る程力強く噛み締めた。




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あきゅろす。
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