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症候群-追放王子ト亡国王女-
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ルネ王国――――

コーサ・ノストラ。俗に言うマフィアの正式名称だ。
先代ダビド国王陛下は戦争狂ではあったものの、国民への課税はしておらず又不当な理由で国民を殺害する事無く…つまりは今のルヴィシアン陛下のような残虐振りは見せていなかった為、庶民はそれなりの生活を送る事ができていた。100%ではないが国民からの信頼も厚かった。
そんな陛下に対し、欲望の塊である貴族達は表では良い顔をしつつも、裏では一般庶民のみへの課税を計画し、その税金を自分達にまわすよう企んでいた。企みで終わってしまえば良いのだが、その案を陛下に発案し却下された事への恨み、そして端から自分達の家の繁栄の為、陛下にまとわりつく貴族達は少なくはなかった。






















そこで設立されたコーサ・ノストラはダビド陛下や政治に不利益となる人物の抹消を第一とする秘密結社である。
この組織にはダビド直々に妹アンリエッタを招き、アンリエッタはアンジェリーナも参加させていた。その為ダヴィド陛下の側近でもなかった一般兵であったアマドールは先日、アンリエッタがアントワーヌと同胞であった事を聞かされたばかりなのだ。その為、アマドールもつい最近コーサ・ノストラの存在を知ったばかりであるからして、ルヴィシアンが知らないのも無理はない。
「けどけどー。ヴィヴィ君がコーサ・ノストラの存在を知っていたのは何でなのママ?」
「兄上はヴィヴィアンのブレインを買い、軍人からの訓練を彼に受けさせていたのです。身体能力、銃の腕前もコーサ・ノストラに相応しい基準まで達した頃彼をコーサ・ノストラへ参加させようとしていたのですよ。だからじゃないかしら。直接的にではないけれど、コーサ・ノストラの存在を事前に兄上から間接的に聞かされていたから、ヴィヴィアンはコーサ・ノストラの存在を知っているのかもしれないですね。このままヴィヴィアンを軍人にさせ、軍隊の人間となった彼に暗殺を命じさせていた事が内部から洩れてしまっては、国民からの支持率を失い兼ねないでしょう?だから、近年稀に見る彼のブレインと軍隊仕込みの身体能力。これで兄上のコーサ・ノストラとしてのヴィヴィアン育成計画は成功…のはずだったのだけれどね…」
「ダビド叔父様は殺されちゃったって事?それって暗殺者なんかじゃなくて、自分は王子なんだからマフィアなんて嫌だ!ていうヴィヴィ君の恨みで叔父様を殺したんじゃないの?」
たかがそれだけで人間を殺しちゃうなんて恐ろしいねー、と椅子に腰を掛けながら脚をばたつかせるアンジェリーナ。そんな娘に対し、アンリエッタはいつもの笑みを浮かべているだけだった。


カツン…、コツン…、

そんな妻子を扉の隙間から覗いてすぐ、音もたてずにこの場を後にしたアマドール。暗い廊下でアマドール1人分の足音だけが響く。
――アンリエッタもアンジェリーナもダビド陛下殺害の真犯人を知らない…。私はその真犯人に肩を貸したと知ったら、アンリエッタはどう思うであろうか…私は間違っていたのだろうか…――
ふと、アマドールの脳内でフラッシュバックされた数々の記憶達。まだ若い青年ダビド国王の護衛隊の1人でしかなかった自分。決して側近ではなかった。



























18年前―――――

「君にも是非見せたい美しい花なんだよ」
「まあ。陛下ったら」
前を歩くダビド陛下の隣には、ヴィクトリアンの実の母であり陛下の妾であるエカチェリーナ。
陛下とエカチェリーナに近ければ近い程上級階級の軍人である。この時点で中将であったアマドール。この日は、ダビド陛下の側近が遠征に出ていた為、護衛隊の中ではアマドールが隊長を務めていた…そんな緊張しっぱなしの悪夢のあの日…。
「…!?」
悪寒がして辺りを見渡せば茂みに隠れながらも、ライフルの銃口が陛下に向けて光ったのをアマドールは見逃さなかった。
「御下がり下さい陛下!」


パァン!

「きゃああああ!」
「エカチェリーナ!」
「なっ…!?」
「貴様!アマドール貴様がついていながら、何故エカチェリーナ様をお守りできなかった!!答えろ!!」
「私は…!私は陛下を庇う為…!」
「陛下だけご無事ならば良いと思ったのか!」
「私は、私は…!」
「この事をヴィクトリアン様にどうお伝えすれば良いというのだ貴様ぁぁあ!」
「いや、アマドール。君は懸命な働きをしてくれたよ」
「しかし陛下私は…!」
「はは、何もそう怯える事はないよ。ただ君には一生軍人からは離れ、そして死んだ方が楽な程の拷問が待っているだけだからね」
「なっ…!」

































現在―――――

「ぐっ…!」
忌まわしいあの記憶を思い出してしまい、途中立ち止まり、床を力強く殴るアマドール。そんな時、再び脳内で蘇った記憶は忌まわしいものからは遠ざかり、光だった。




























再び時は遡り18年前―――

「アマドール中将、将軍昇格も目前だったのにねぇ」
「はっ、陛下を御守りする事に集中し過ぎたが故、エカチェリーナ様を見殺しにした奴を処刑せずにいて下さった陛下にアマドールは死ぬ迄感謝せざるをえないな」
数ヶ月にも及ぶ卑劣な拷問後城へ戻ってきたアマドールはやつれ、身体には拷問の卑劣具合が一目で分かる程の傷跡。
――黙れ黙れ!貴様らはダヴィドの笑顔に騙されているだけだ!何が死ぬ迄感謝せざるをえないだ!?こんな屈辱的拷問を受けるくらいならば、一生軍人になる事を許されないならば、処刑された方がマシだ!ダビドはそれを分かっていて私を処刑しなかった卑劣な悪魔だ!私は奴を…!――
「大丈夫?」
怒りで血管が切れ憤死寸前であったアマドールに掛けられた声。まだ子供の声だ。辺りを見渡すが人の姿は見受けられない。…とすれば?
アマドールが視線を下に向けると其処には、煌びやかな紫色の衣装に包まれた1人の幼児ルヴィシアンが大きな赤い無垢な瞳で自分を見上げていた。
――黒髪に赤い瞳…!ダビドと同、――
「おじさんひとりぼっちなの?僕がお友達になってあげる!」
この日からアマドールは軍人としての資格を剥奪されたが、ルヴィシアン自らの要望によりルヴィシアンの護衛兼側近となった。
ダビドからは反対をされたが、やはり子には逆らえぬのだろうか、ルヴィシアンが駄々をこねるものだから仕方なくダビドは、アマドールをルヴィシアンの側近と認めた。



























そして現在―――

「父王の王座を奪う事を目論むルヴィシアン様と、あの屈辱・恨みを晴らす事を目論む私との意見は合致したのだった…」
最後ニヤリと笑みを浮かべ暗闇の中、足音をたてて姿を消したアマドール。





















































ルネ城サロン―――

ソファーに向かい合う形で腰掛けたルヴィシアンとアントワーヌ。ルヴィシアンは脚を組み、背凭れに豪快に背を預けている。
一方のアントワーヌは背筋がしっかり伸びており、グーに握った両手を太股の上に乗せ、一瞬たりともルヴィシアンから視線を反らさない。
「しかしまあ、久しぶりの再会を果たした弟…いや殺人犯があのような女の真似事をしていたとは実に無様で笑いを通り越し、哀れみの情を抱いた!」
「ドリー伯爵婦人と私が繋がっているとは知らず、ドリー伯爵殺害の潜入捜査で素性を隠す為好都合だと薦めたところ、ヴィヴィアン・デオール・ルネは少しも怪しむ事なくあのような無様な格好を致しました。本来は彼の動作を鈍らせる為の目論みだったというのに。人を疑う事を知らない実に純粋な弟さんですね」
ははは、と表情一つ変えず哂うアントワーヌからは人間味が感じられなかった。
「ところでだバベット。」
話を戻したルヴィシアンがテーブルに両手で頬杖を着く。
「本題に入る。コーサ・ノストラの事貴様の事は今貴様から聞いた話で理解した。…で?だ。貴様は今後私を殺す予定はあるのか?」
笑み、赤ワインを口にしながら問うルヴィシアンにも、アントワーヌは表情一つ崩さない厳格さ。
「何度も申しますように、私は誰の同胞でもございません」
「はっ、要は私が貴様を巧く使えば良いのだな?」
「陛下からしてみたらそういう事になりますね」
「ははは!これは悪友なんてレベルではなさそうだな!」
天井を見上げ大笑いをするルヴィシアンを、まだ尚厳格な表情で見つめているアントワーヌであった。

















































同時刻、
国際連盟軍アメリカワシントン上空―――


ビー!ビー!


ドン!ドンッ!!

サイレンと戦闘機から爆弾投下の音が響くワシントン。近代的なビルが所狭しと並ぶこの街も真っ赤やオレンジの炎に包まれている。
今戦の指揮をとる中年男性のアメリカ軍ジョバンニ大佐は、耳に付けたイヤホンマイクで仲間と通信をとりながらも、目の前に迫りくるルネ軍に向けて爆撃。
「世界に誇る我が国が1週間でこのような結果…!?映像で世界に流されては笑い者にされ、更にルネに花を持たせてしまう事になろう。そんな事させられぬ!良いか、1機1機を確実に仕留めろ!そうすればいつか必ず道は開ける!」
ジョバンニから部下全員へ繋がった無線。途切れてすぐジョバンニは息を吸い、静かに吐き出す。
静かに顔を上げたジョバンニの眼は据わっており、其処には前方より横に並んで飛行してくる黒い機体4機…ルネ軍が映る。
「他国との協同というところが気に食わんが、新兵器の餌食となれルネ軍!」


ドドドド!!

機体下部から赤の光を放ちながら発射されたミサイル。しかも連続だ。
それをルネ機は2・2に分かれて左右に回避するが、次々と発射された計6発のミサイルは3発3発に分かれて各機を追う。しかし、この曲がるミサイルの性能は見抜かれてしまっている為、更に回避…するかと思いきや、突如人型に変形したルネ機達は繰り出したサーベルで何と、ミサイルごと斬ったのだ。
「何…だと!?」


ドォン!!

その瞬間、案の定爆発したミサイルによる灰色の煙が上空に立ち込める。



























その光景をフロントガラス越しから見ていたジョバンニは驚愕し、目を見開く。思わず身を乗り出していた。
「馬鹿な!自殺行為ではないか!一体何を考えているというのだ!?」
「勝つ事だけですよ」
「なっ…!?通信…!?」
音声のみではあるが、敵ルネ軍からの男性の低い声で入った通信に機内をジョバンニが見渡した時、左右の窓とフロントガラスを見て硬直した。何故なら、前後左右を先程のルネ軍4機に囲まれていたからだ。血の気が引く。


ドガン!!

「ぐああ!」
正面から機体頭部を思い切り掴まれ、その衝撃で大きく揺らぐ機体。


ガー、ガガッ、

その時モニターからノイズがして、画面は砂嵐からオープンチャンネルを繋げた人物の姿に変わる。ルネ軍将軍ダイラーだ。瞬間、ジョバンニは目を見開き画面に食い付く。
「貴様がルネ軍指揮官か!」
「正しく言えば軍の統帥権は国王陛下が有するのだがな」
「何が国王陛下だ!貴様らはあの国が非人道的だという事に何故気付かない!貴様らはそれでも人間かぁぁあ!」
「!」
叫び声を上げたと同時に憤慨し理性までも失ったジョバンニの機体は、目が覚めたかのように突如人型へ変形すると同時にサーベルを振り回し、爆撃を開始。闇雲にも見えるがここはやはり大佐。しっかり敵に命中するのだ。

ドン!ドン!

「マーフィー少尉!」
ダイラーも攻撃を食らったが、その中でも逃げ遅れた1機がジョバンニ機から放たれた爆撃を真正面から食らい、立ち込める灰色の煙。
…分かるのだ。経験を積んだ戦士だからこそ、どの程度の攻撃なら生存できてどの程度の攻撃なら死ぬのかという事が。
オレンジの炎を上げ、ワシントンの街へと落下していくマーフィー少尉の機体を歯を食い縛りながら横目で見たが、すぐに目をつり上げ、半狂乱な目の前の敵機へと突き進んで行く。


ビー!ビー!

しかしそんな中でも容赦なく鳴り響くのは、敵機を感知したレーダーの音。ばつが悪そうに舌打ちをする。
「くっ!中尉達は新手の対応を!ここは私だけで充分だ!」
「了解!」
中尉達に素早く無線で司令を下せば、他の2機は後方より接近してくる新手の方へと高速度で飛行して行った。


キィン!!

ダイラーとジョバンニのサーベルがぶつかり合い、青の火花が激しく散る。
「侵略を重ね領土を広げるなどという古くさいやり方は第二次世界大戦で終わったのだルネ!!」
「古くさい云々以前に、歴史は繰り返される。ただその時がきただけの事だ!」
語尾を強めたと同時にダイラーはサーベルで何度も何度もジョバンニ機に襲い掛かる。応戦するジョバンニ機だが、どこからどう見ても圧されている。これにはさすがのジョバンニの額から冷や汗が滴る。だが、ここで引き下がらないのが大国の威信。ジョバンニはニヤリと笑む。

























「中世騎士のような戦い方は近代的な我がアメリカは好まなくてね」
一歩後ろへ下がったジョバンニ機の体制からしてすぐ察したダイラーは目を見開き、すぐ様この場から離れるが…
「発射までのタイムランなら我が国の機体は世界最速だ。悪く思うなよ?」
「ばかな…!」


ドン!ドン!

「ははは!先進国の中でも我が国は最も戦闘機製造に力を注いでいる事を忘れたかルネ!!」
ダイラーがこの場から離れきるよりも先に、ジョバンニ機から発射されたミサイルは全発見事ダイラー機に直撃。
遠くで灰色の煙を上げるダイラー機を眺めていたジョバンニだったが、眉間に皺を寄せる。モニターで拡大してみれば、左半分を大破しながらも煙に紛れて離脱していったダイラー機が見えたからだ。舌打ちする。
「チッ!しぶとい奴だ。あれだけ真正面から食らっておきながら生きているなど…!しかしまあこちらも調度ミサイルが無くなったところだ。見逃してやろう今だけは」


ガー、ガガッ、

「ジョバンニ大佐ジョバンニ大佐。こちらワシントン駐屯地」
「何だ?」
ノイズと共にイヤホンに繋がった駐屯地からの通信。ジョバンニはイヤホンを右手で押さえる。
「用があるのならば調度良い。私は今、駐屯地へ燃料補給に向かおうとしていたところだ」
「それは調度良かったです。先程、平和維持部に引き続きアンデグラウンド王国軍が加勢にきた模様です」
「アンデグラウンドか…はっ、またイギリス代表は自分の家ではなく自分の植民地を使ったという事か。とんだ俺様な国だ」
「この隙に、我が国の機体全機一度駐屯地にて燃料補給致しましょう」
「承知した。すぐ向かう」
「お気を付けて」
ジョバンニが機体を再び発進させ、炎が上がるワシントン上空を駐屯地へ向かって飛行している最中、西の方角から飛行してくる赤地に黒い鷲の国旗が描かれた群青色の戦闘機が視界に入れば、鼻で笑う。アンデグラウンド王国の機体だ。
「…はっ、やっと来たか怠け者共め」
音をたてて炎の合間をジョバンニ機が勢い良く飛び立って行った。


































アメリカ合衆国ワシントン駐屯地格納庫―――

紅く光る棒で、次々と着陸するアメリカ軍戦闘機を誘導する駐屯地の軍人達。
燃料補給中、負傷したパイロット達の救護に向かう救護隊や軍人達の声、着陸した戦闘機のエンジン音がこの広く天井の高い駐屯地格納庫に響く。
「やっぱり自軍を要請しなかったんだねロジー」
駐屯地ビル内から格納庫へ繋がっている階段を並んで降りながらやって来たジェファソンが呆れて笑いながら言う。その隣には溜め息を吐き、つまらなそうな表情のロゼッタ。
「当然じゃ。女王陛下が戦闘を嫌っているというのに軍を出せるものか。それに貴様の国の防衛の為に、我が英国軍を出撃させるようなボランティア精神は生憎持ち合わせておらん」
「ははは、言ってくれるねぇロジー」
談笑しながら2人は格納庫を見渡す。2人の眼に映るのは、攻撃を食らった跡の生々しい戦闘機や片腕や片足を失ったパイロット達の姿。しかし2人は微動だにしない。
「それにしてもこんな早期に援軍を要請せざるを得ない状況になるとはね。少し予想外じゃないかい?こんなに多勢でも一国に適わないだなんて」
「かつての英国軍とスペイン軍の戦争の様じゃな」
「はは、それに例えるなら独立戦争の方が相応しくないかい?」
「…首都貴様自分の命が不要のようじゃな…?」
ジェファソンは笑み、ロゼッタは睨み。2人の間に見えない火花が激しくバチバチと散っていた時だった。
「お、お久しぶりですわロゼッタ代表…!」
挙動不審に呼ぶ少女の声に2人が顔を向ける。其処には、国際連盟軍の下官達が着用する白地に黒の短パンの軍服に身を包んだ少女が、慣れない手つきながらも敬礼をして立っていた。マリーだ。























彼女を知らないジェファソンは頭上にハテナマークを浮かべるが、一方のロゼッタは珍しく笑みを浮かべて両手を脇にあてるとマリーを見上げた。
「ロジーが笑っているところ初めて見たかも…」
この時ばかりは地獄耳のロゼッタも、ジェファソンの呟きは耳に入らなかったようだ。
「直接対面するのはお前がまだ我が軍で訓練をしていた時以来か」
「は、はいそうですわ。その節は大変お世話になりました…!」
「久しぶりの再会じゃ。堅苦しい話は抜きに…む?」
マリーの脇から向こうを覗いたロゼッタの視線の先を、マリーは肩を竦めて申し訳なさそうに。ジェファソンは興味津々に見る。
ロゼッタの視線の先其処には、既にボロボロの国際連盟軍戦闘機が1機。
「…なかなか苦戦したようじゃな」
「も、申し訳ありません!わたくしその、」
「誰も初陣で戦果など期待しておらぬ。初陣というものは戦場に慣れるだけで良い」
くるり、と背を向けたロゼッタの小さい背を上目遣いで申し訳なさそうに見るマリー。
「申し訳、」
「謝る必要は無い。機体修理の間少し身体を休める事も戦果を挙げる事に繋がる」
そう言い再びこちらを向いたロゼッタが彼女としては珍しい…いや珍し過ぎる笑みを浮かべ、右手をマリーに差し伸べた。一方のマリーは、キョトンとしている。
「調度私も海外旅行で休息を欲していたところじゃ」
それは"一緒に少し休息をしよう"との誘いという事に気付いた途端、曇っていたマリーの表情に太陽の日射しが射し込む。
「は、はいっ!」
マリーの健気さを、優しく笑みながら鼻で笑ったロゼッタの後ろを、パタパタ足音をたててついて行くマリー。























「ちょ、ちょっと待ってくれよロジー!君、今がどんな状況か分かって休息を摂るだなんて馬鹿な事を言っているのかい!?それに何故その少女だけ別格扱いするんだい、冷血な君らしくない!」
ジェファソンの大声を背に受け、階段を歩く足をピタリ…と止めたロゼッタがゆっくり後ろを向き、ジェファソンを見下ろす。さっきまでの優し気な表情とは違ういつもの冷めた表情。
「休息も無しでは戦果には繋がらぬ。それに馬鹿は貴様じゃ首都」
「なっ…!」
ロゼッタはマリーを自分の前に立たせた。
「彼女マリー・ユスティーは故ユスティーヌ王国第一王女であり、ルネ王国第三王子ヴィヴィアン・デオール・ルネ王子の婦人じゃ」
ロゼッタの大声は格納庫一帯に響き渡っていた為、この場に居合わせた軍人や救護隊の人間は一瞬呆然としてロゼッタとマリーを見る。しん…と一瞬の沈黙の直後…
「えええ!?」
ジェファソンの驚愕した叫び声と共に格納庫一帯がどよめいた事などロゼッタは気にもせず、マリーを駐屯地ビル内へ連れて行くのだった。



































ワシントン駐屯地
ビル21階―――

上層部達所謂ゲストルーム階はまるで高級ホテル。立ち並ぶ部屋の扉の一室にロゼッタとマリーが居た。
暖色のライトの下、テレビで世界情勢をチェックしつつ、深緑色の分厚い書物をソファーに脚を組んで腰掛けながら厳格な表情で読むロゼッタ。
すると、バスルームからタオルでまだ濡れた髪を拭きながら白のバスローブ姿でやって来たマリー。湯上がりの為か頬がほんのり紅い。マリーはロゼッタの指示に従い、彼女の隣に腰を掛ける。
「わたくしのような下官がロゼッタ代表に御贔屓にして頂けて申し訳ありませんわ…」
「贔屓などしておらぬ。良いようにてなづけているだけじゃ」
「えっ…」
本に目を向けたままのロゼッタの一言にドキッ、と不安になるマリー。しかしロゼッタは目線を本からマリーに向け直し、微笑する。
「冗談じゃ」
マリーは安堵したのか肩を落として息を吐く。その隣でロゼッタはまた本に目を向け、呟いた。
「私にも子供がいればお前くらいの年の子じゃろうからな」
「は、はい…」
しばらくの休息はほぼ沈黙ではあったが、無口なロゼッタなりに飲み物や簡単な食事を出したりとその細やかな気遣いに、マリーは肉体的にも精神的にも休まる事ができたのだろう。立ち上がり、自ら軍服を着用し出すのでロゼッタは腰を掛けたままマリーを見上げた。
「何じゃもう出撃か」
マリーはどこか不安気ながらも、決心した眼差しを向ける。
「皆様が身を呈して戦っておられるのにわたくしだけ長くこうしてはおられませんわ」
「…それもそうじゃな。どっこいしょ」
老婆のように掛け声を呟いてソファーから立ち上がったロゼッタには見られぬようマリーは口に手を添えてクスッ、と微笑んでいた。

























ロゼッタがリモコンを手にし、テレビの電源を切ろうとしたその時突然今まで放送していたニュースの映像が乱れ、砂嵐となる。


ザー、ザザー、

2人は目を丸める。
「戦闘機による電波障害か?」
不審に思ったロゼッタはすぐチャンネルを変えていくのだが…
「何じゃ。どこも砂嵐ではないか。全く。何がどう、」
その時だった。乱れて砂嵐だった映像に何かが映った。それは…
『全世界の皆々様御聞き下さい!先代国王殺害犯のヴィヴィアン・デオール・ルネを遂に遂に!捕らえる事に成功したのです!』
「!!」
「…なっ!?」
映った映像それは、ルネ王国の赤い国旗を背に満面の悪魔の笑みで声高らかに演説するルヴィシアンの姿だった。
「…っ!」
マリーは目を見開き、身体はカタカタと小刻みに震え出す。
一方のロゼッタはチャンネルを切り替えるのだが、どのチャンネルもルヴィシアンが映っている。つまり同じ映像が流れているのだ。
『嗚呼!世界中からこの世のものとは思えない程の盛大な拍手が聞こえてくるようです!』
「チッ。何じゃこのくだらん演説は!何処のテレビ局もハッキングされておるというのか!?あの小僧、余程痛い目にあいたいようじゃな!」
ロゼッタが文句を言っているすぐ隣のマリーの身体の震えは既に尋常ではない。そこで、画面に映るルヴィシアンは両手を大きく広げた。
『殺人犯といえど彼も私達と同じ人間。いっそ楽に最期を迎えさせたいというのが私の考えなのですが国民いえ世界中の民からは、それでは生温いとの声が聞こえてきて仕方ありません。不本意ではありますが私が彼ヴィヴィアン・デオール・ルネに下した刑罰それは…』


ドクン…!

マリーの鼓動が鳴ると同時に画面に映るルヴィシアンは白い歯を見せ、嗤った。
『世界引き廻しの刑でございます』
それは神から権力を授かったと謳う悪魔が下した判決。

















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