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症候群-追放王子ト亡国王女-
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ヴェントン将軍邸―――

日陰の存在であった第三王子は超大国ルネ・ダビド国王殺害犯として皮肉にも全世界にその名と身を轟かせる事となった。
たかが仮面舞踏会されど仮面舞踏会。そう告げたアントワーヌの提案により、ワインレッドのドレスに身を包みエクステーションで髪を長く見せた…所謂女装という名の変装でヴェントン将軍邸仮面舞踏会に参会したヴィヴィアン。
発案者アントワーヌは楽しんでいると疑ってやまないヴィヴィアンではあったが、先程アマドールと近距離でしかも会話まで交えたというのに自分の正体がバレなかった事に関しては、アントワーヌに礼を言わなければならないだろう。それより何より一国の王が変装ならまだしも女装で潜入操作という事に羞恥心を抱き、着慣れないドレスを引き摺り、大股で歩くのも一苦労だったヴィヴィアンも、もはや今はそんな悠長な事を口にしていられる時ではない。























特別ゲストとして現れた憎くき敵であり兄であるルヴィシアンが、今この空間に居る。そうなってしまえば宮殿のように広いヴェントン将軍邸もちっぽけな空間に思えた。
アマドール目当てで参会したがヴィヴィアンの標的はルヴィシアンへと移り変わったその時だったのだ。背後から、しばらく聞いていなかった…しかし聞き覚えがある女性のゆったりとした声が自分の名を、身分を、呼んだ。
「お久しぶりです。ルネ王国第三王子ヴィヴィアン・デオール・ルネ」
「貴方は…!」
振り向き、彼の真っ赤な瞳にその女性が映ったと同時だった。


パァン!

庭園の方から、数発の銃声が響き渡る。
途端邸内の紳士淑女は銃声がした方を向き、目を見開き顔を青くさせ悲鳴を上げるので別の意味でたちまち騒がしくなった邸内。
「な、何だこれは!ヴェントン将軍!私はこのようなイベントがあるとは聞いていないぞ!」
「も、申し訳ございませんルヴィシアン陛下!直ちに警備の者を召集させ、」


パァン!
ガシャン!

「きゃあああ!」
次から次へとだ。再び聞こえた銃声。お次は庭園と邸内を仕切るガラス張りの窓ガラスを銃弾が突き破り、そのまま数発の銃弾が邸内のシャンデリア3つに命中。落下こそ免れたものの、邸内唯一の明かり源であったシャンデリアは発砲され壊れ、明かりが消える。

























「きゃああ!」
「一体何が起きているというのだ!?」
たちまち真っ暗となった邸内には、先程よりも一層恐怖に怯えた紳士淑女達の悲鳴が轟き渡る。
人間という生き物は、目の前に恐怖が立ちはだかった場合脳が伝達するよりも早く、我先にと逃げ出してしまうものであるからして、現にこの場もまさにその状態。
美しく着飾った紳士淑女が血の気の引いた顔で、助かる為に我先にと出口目掛けて駆け出すその様は何とも人間らしくて醜い反面、美しくもある。こんな戦乱の世でも彼らはまだ人間の心を持ち合わせているのだから。
「くっ…!バベットの仕業か!?それならば何故此処まできてこのような事態へ事を運ぶ理由がある!?」
「ふふ。頭脳で状況把握をしようとするところは相変わらず兄上にそっくりですね」
「こ、このような状況下で何を思い出に浸っておられるのですかアンリエッタ婦、」
「アンリエッタ叔母様で構いませんよヴィヴィアン」
ニコッ。その笑みは、あのヴィヴィアンでさえ苦手だ。
左右前ときっちり切り揃えられた黒髪、真っ赤な唇、深いグレーのアイシャドウ。そしてヴィヴィアンと同じ位置左目脇にある泣き黒子。背丈はヴィヴィアンより少し高めで、真っ黒でまるで魔女のようなドレスを身に纏ったグラマラスなこの熟女、名は『アンリエッタ・オルディティ・ドリー』婦人。
彼女はアマドール伯爵婦人であり、今は亡き先代ルネ国王ダヴィド国王の実の妹。つまりヴィヴィアンにとって叔母にあたる。


























アマドールと結婚した為王室から抜けたので、ヴィヴィアンが幼少の時以来の再会となるアンリエッタではあるが、久しぶりの叔母との再会に喜んでいられる身分ではない。いや、寧ろこの再会は最低最悪な再会だ。
叔母の実の兄を殺害したとされている義弟。目の前で笑顔を浮かべている彼女アンリエッタが、何故自分に気付き、何故自分に声をかけてきたかなど馬鹿でも分かる。
この運命の番狂わせのような再会にヴィヴィアンは思わず顔を歪め一歩後ろへ後退りしつつ、左手ではドレスを持つフリをして、ドレス内に隠し持った拳銃に手を触れている。
――くそ!アマドールの奴自分の妻を使ってまで僕を捕らえ、あの馬鹿な国王から讃えられたいというのか!?けれど僕が参会した情報は一体何処から洩れて…、――
ヴィヴィアンが頭の中で自分で自分と会話をしていたその時。


パァン!

もう1発の銃声がして、突然自分とアンリエッタの足下が陰ったのでまさか…と思い咄嗟に後ろを振り向けば、案の定。銃で破壊された巨大なシャンデリアがこちらへ落下してこようとしているではないか。目が見開かれる。


ガシャアン!

「きゃあああ!シャンデリアの下に人が下敷きに!」
「他のシャンデリアが落下する前に逃げなければ!」
紳士淑女達の悲鳴は止まない。一方のアマドールはというとルヴィシアンの元へ駆け寄り、自分の部下達を引き連れて呆然としているルヴィシアンを一刻も早くこの場から離れさせようと必死だ。
「ルヴィシアン国王様!ご安心下さい!私アマドール・ドリーが居る限り国王様には傷一つ、」
「ヴェントン将軍か!?奴が私を殺す為に仕掛けたのか!?中立国と謳っておきながらイタリアはルネを、この私を始末しようとしていたというのか!?」
半狂乱。その言葉が相応しい今のルヴィシアンに、アマドールは動じる事なく優しい…そう、例えるならば保護者のような眼をして声をかける。

























「いえ。そのような事は決してございません」
「何故だ!?何故そうも言い切れる!?単純に考えて、私をこの会へ招待したヴェントンの奴が仕組んだに違いないそうだろう!?」
座り込み、アマドールのグレーのスーツに皺をつけるまで引っ張るその様からはとても超大国の王には見えず、哀れにも思えてくる。だがしかしアマドールはやはり保護者のように優しい眼をして、ルヴィシアンの不安定な情緒を落ち着かせる為、ゆっくり話す。
「私がこの会で国王様の護衛を下級兵士に任せ、国王様から離れて一参加者として参会していた理由を御教え致しましょう」
まるで、これからとびきりのショーを見せるかのような期待を持たせる口振りで言い口元をにんまり笑ませたアマドールはスッ…、と自分の太い右腕を天へ向けて伸ばし…


パチン!

中指と親指を擦り合わせて指を鳴らす。その彼のふざけた様にルヴィシアンが怒りを覚えないはずがなかったのだが…。
「国王様。あちらを御覧下さい」
「何?」
アマドールが指を差した方へルヴィシアンが興味津々に目を向ける。その視線の先には先程落下したシャンデリア。その付近で、何とかシャンデリアの下敷きにならずに済んだアンリエッタの肩を支えている、ワインレッドのドレスに身を包んだ黒髪の少女の後ろ姿がルヴィシアンの赤い瞳に映るが、ポカン…と口をだらしなく開いたままだ。
「アマドール。貴様の妻を見て何の意味が、」
「アンジェリーナ!」
「アンジェ…?!」
声高らかにそう呼んだアマドールに、目が点のルヴィシアン。何がどうなっているのかさっぱり分からない。その間にもショーは第二部へと滞りなく進行しているのだ。


























一方。
「っ…!アンリエッタ叔母様ご無事、で…!」
掠り傷を腕に負っただけのヴィヴィアンが腕を押さえながら起き上がり、庇ったアンリエッタの様子を伺おうと顔を上げたが、いつの間にかアンリエッタの後ろに立っていた人物を見つけた途端目は見開かれ、ヴィヴィアンの顔から一瞬にして血の気が引いた。何故なら…
「ヴィヴィ君みーっけ!」
「…!?アンジェ、」


パァン!パァン!

「っ!!」
現れた人物は水色のドレスに身を包み黒の仮面を付けて、アマドールと同じ黄土色の髪をしたパーマがかかったロングヘアーで頬にそばかすのある細身の少女。名は『アンジェリーナ・オルディティ・ドリー』
アマドールとアンリエッタの長女であり、ヴィヴィアンの従妹である。
「キャハハ!」


パァン!パァン!

アンジェリーナがドレスを捲り、左右の太股に装着していた拳銃2丁を素早く繰り出せば、楽しむかのような高笑いを上げながらヴィヴィアン目がけ乱射。
「くっ…!」
一方のヴィヴィアンはというと、両腕を顔の前でクロスさせながら何とか持ち前の瞬発力で逃げて柱の影に身を潜めるのだが、何分着慣れないドレス姿では逃げ足も落ちてしまう。現に、普段ならば掠り傷程度で済むところを腕や太股からは出血が酷い。ワインレッドのドレスさえも更に紅く染める出血量。



























参会した紳士淑女をはじめ、主催者であるヴェントン将軍は勿論、ルヴィシアンでさえ何が起きているのか分からず目が点。
そんなこの状況を理解しほくそ笑んでいるのは、アマドールとアンリエッタとアンジェリーナと…。そしてこの状況を理解して息を荒げ、絶体絶命の危機に追いやられているヴィヴィアン。


カツン、コツン、

「ヴィヴィ君ど〜こに隠れてるの〜?キャハハ!」
柱の陰で息を調えて拳銃を手にし、ヒールを鳴らして近寄ってくる従妹を撃つ準備をする。
――くっ…!口振りからしてアマドールの奴は既に僕に気付いていたというのか!?一体誰が情報を流し込んだ!いや、それ以前に僕はルヴィシアンではなく、アマドールが参会すると聞いたから舞踏会に参会したんだ。…となるとどうしてドリー伯爵一家が僕が参会する事を知っている…!?―
「キャハハ!ヴィヴィ君やっぱりダビド叔父様の息子なだけあるよね、すごい瞬発力!アンジー惚れちゃう!けどねぇ?」
その瞬間ヴィヴィアンが背後から感じた悪寒。ゾワッ…!と身震いがして目を見開くと同時に、咄嗟に振り返れば…其処には、いつの間にだろう。銃口をヴィヴィアンの頭部に向けて、嘲笑いの笑みを浮かべたアマドールが立っていた。
「!」


パァン!パァン!

「っぐ…!」
「キャハハ!ヴィヴィ君超かっこ良いー!バック転で避けちゃうなんて何処かのスタントマン?」
「ふふ、アンジー。あれは兄上が仕込んでいたに違いありませんよ」
「さっすがママ!何でもお見通しなんだねぇ!」
アンジェリーナとアンリエッタが言うように、アマドールが発砲した銃弾をドレスを着用しながらだというのにバック転で回避したヴィヴィアン。
すぐに体勢を整え、アマドールが銃弾を補充しているその隙に拳銃を構える。


パァン!

「!」
だがそこで、1発の銃声。 下手な腕ではあるが、運良くと言うかたまたまというか何とかヴィヴィアンが手にしていた拳銃に掠った銃弾。
「っ…!」


カラン!

それによりヴィヴィアンは一瞬痛みに目を瞑り、拳銃を床に落としてしまう。拾おうと屈んですぐ拳銃に腕を伸ばすのだが、


パァン!パァン!

「っあ"!」
アンリエッタの放った数発の銃弾がヴィヴィアンの右腹部と右脚命中。血を噴き出し、前へと倒れ込むヴィヴィアン。
「チャーンス!アンジーがいっただ、」
「アンジェリーナ伯爵令嬢。それ以上は私に任せなさい」
その低い声に、今まさにヴィヴィアンに止めをさそうと2丁の拳銃を構えていたアンジェリーナもピタッ…、と動きを止める。動きを静止させた主はルヴィシアン国王陛下。


























「陛下!」
倒れているヴィヴィアンの元へ一歩一歩ゆっくりヒールを鳴らして歩み寄るルヴィシアンに声を掛けついてこようとしたアマドールの顔の前に右手の平を出す。"ついてくるな、私1人で構わない"の意。
アマドールは静かに一礼し、一歩後ろへ下がる。

カツン、コツン…、

床に倒れこんだヴィヴィアンに床から直に聞こえてくるヒールの音は振動となって床から伝わる。
――っはあ…くっ…そ…このくらい普段なら…どうって事ない…出血の…はず…――
なのにどうして?マリーが敵対して以降まともに食事が摂れず点滴からの栄養だったから?だからその間にも自分の身体はこんなにも衰えていたの?
動きたくても石のように硬直して重たい身体に怒りと歯痒さを感じるものの、やはり身体は精神的なものからの悲鳴を上げてピクリとも動かない。
霞む視界。歪む視界。映るのは嘲笑いもせず、哀れみながら自分を見つめ、歩み寄ってくる兄ルヴィシアンの姿。
真実を改竄したあんな奴に哀れまれるくらいなら嘲笑われた方がまだマシだ。こいつに哀れまれるだなんて最悪の屈辱だ!…そう心中で怒鳴り散らすのだが、声も枯れていた。陸にあげられ命乞う魚のように、口をパクパク開閉する事しかできない。
























コツン…、

ヒールの音が止まる。
曇った瞳でゆっくりゆっくり視線を上げていけば、すぐ其処に自分の人生を壊した悪魔が哀れみながら自分を見下ろしている。
こんなにも憎い相手がこんなにも近くに居るのに。殺しても殺しても尚殺し足りないあいつが、こんなにも近くに居るのにヴィヴィアンの身体は動かない。
「…はあ、はぁ…」
「何故こいつがこの会へ参会する事が分かっていたのかは私にはまだ理解できぬが、アマドール。見直した。貴公こそが私の求めていた王に忠実な側近だ」
「そのような有り難きお言葉を頂戴できた事誇りに思いま、」
「忠実…?はっ…、ただの犬じゃないか…」
「!」
アマドールの方に顔を向けて誉め讃えていたルヴィシアンは、足下から聞こえた蚊の鳴くような…けれどしっかりと聞き取れたヴィヴィアンの暴言にすぐさま振り向き、足下で瀕死状態のヴィヴィアンを睨み、見下す。悪魔の目付き。
「…犬は貴様だろうヴィヴィアン!!」


ドスッ!!

「ぐあ!っあああ!!」
残虐な音がした。尖ったヒールでヴィヴィアンの頭部を踏みつけたルヴィシアン。その光景を前にしてもアマドールもアンリエッタもアンジェリーナも、顔色一つ変えない。参会者が去ったこの邸内に響き渡るヴィヴィアンの悲鳴にも似た叫び声。


























「ぅあ…あ…!」
そんな時。背後からした怯える声に気付いたアマドール。振り向けば、扉に身を隠しながらこの残虐な舞踏会の第三部を見ていた主催者ヴェントン将軍。
アマドールと目が合えば挙動不審に大きく身体を震わせて逃げようと背を向けるが、アマドールは彼のスーツを引っ張り、逃がさない。強引に向かい合い、ヴェントンの骨張った手の中に数十枚の紙幣を持たせる。
「あ…ぅあ…」
「これで如何でしょうヴェントン将軍」
これは見なかった事にしてくれますよね?…その意味を込めて再度アマドールが、持たせた紙幣が落ちぬようヴェントンの手に紙幣を握らせた時だった。
「甘いですよドリー伯爵」
「!!」
庭園と邸内との仕切りの割れたガラス張りの窓の向こうからやって来たブラウンのスーツの男の声に、たった今まで死んだ眼をしていたヴィヴィアンの眼がカッ!と見開かれる。待ち焦がれていた助けがやって来て、希望を見出だした眼だ。頭から額にかけて血を流し、まだルヴィシアンに踏まれながらもヴィヴィアンは少しだけ顔を上げる。
「バベット…!」
「ご無事ですかヴィヴィアン陛下」
ブラウンのスーツ所々に返り血を浴びながらも、拳銃片手にやって来た無防備なアントワーヌ。瞬時にルヴィシアンは目をつり上げ見開き、叫ぶ。
「何をしているアマドール!議会の人間は1人残さず抹消しろと言っただろう!特にこいつは!!早く!一刻も早くこいつを私の前から消せ!!」
ルヴィシアンの叫び声の後しばらくの沈黙が起きるが動じないアマドール達に、ルヴィシアンとヴィヴィアンは目が点。呆然としている。

























「な…!何故だ?アマドール!早くこいつを、」
「ははは。早く弁解して頂けませんか。陛下の忠実な側近アマドール・ドリー伯爵」
「!?」
アントワーヌの冷めた笑い。アントワーヌのブラウンの眼はアマドールの方を見ており、アマドールは難しそうに険しい表情を浮かべている。
――弁解?何の…事だバベット…?――
この状況に最も理解できずにいるのはヴィヴィアンだろう。助けに来たはずのアントワーヌが、敵対していたアマドールと親し気に会話をしているし、自分を救助する素振りすら見せないではないか。
――一体何がどうなって…――
そんな中、アンリエッタが口を開く。微笑みながら。
「ルヴィシアン陛下。貴方はまだ小さかったからご存知ないのも無理はありません。アントワーヌは兄上つまり、先代ダビド国王の下水面下で結成されていた裏組織コーサ・ノストラの一員なのよ」
「…!!コーサ・ノストラだと!?」
アンリエッタの言葉に一早く反応して顔を上げ目を見開いたのはヴィヴィアン。一方のルヴィシアンは頭上にクエスチョンマークを浮かべて、首を傾げている。
「バベット貴様!コーサ・ノストラの一員であったのなら何故議会は王室と敵対し、」
「虫けらは黙っていろ」
「ぐああああ!」


ドスッ!

またしても残虐な音。ルヴィシアンは苛立った様子で腕組みをしながらヴィヴィアンの頭を踏みつける。その様を見下し、鼻で笑ったアントワーヌがヴィヴィアンの赤の瞳に映れば、意識朦朧の中だがヴィヴィアンは怒りが込み上げた。
「はっ。ご無事で何よりですよヴィヴィアン陛下。これから処刑される陛下がこんな処で死んでしまっては物語は成り立たない」
「バ、ベッ…ト貴様僕、を裏ぎ…、」
続くはずの言葉を発する為口を開き欠けたが視界が霞み、やがてヴィヴィアンの目の前は真っ暗になった。

























しん…

静寂に包まれる邸内。アンジェリーナはトコトコ歩き屈んで、目を瞑り倒れたままのヴィヴィアンの顔を覗き込む。
「あれれー?ヴィヴィ君死んじゃった?死んじゃった?ここまで逃げてこられたんだからもう少し楽しめる子だと思ったのになぁ。あたし残念!」
「ふふ、アンジェリーナは早とちりね。大丈夫。気を失っているだけですよ」
「なーんだ!良かったぁ」
キャハハ!と低年齢の幼児が楽しむように笑うアンジェリーナのその姿はもはや人間ではない。例えるなら悪魔。
一方、王室に敵対していた議会の人間アントワーヌがこの期に及んで何故根返ったのか分からず、不信感剥き出しの表情でアントワーヌを見るルヴィシアン。相変わらず動じない余裕綽々のアントワーヌの顔に、イラ立ちを隠しきれずにいる。
「アマドール。コーサ・ノストラとは一体どのような働きをしていた組織なのだ?私はお父様からそのような話、一度も聞いた事はない。そしてこいつを部下にした覚えもない」
「陛下に無断でこのような刺客を呼んでいた事への罰は幾らでも受ける所存でございます。しかしこの者は先代ダビド陛下の時から…いえ、正式に申しますとダビド陛下の時のみ王室に従えておりまし、」
「勘違いをしないで頂きたいですねルヴィシアン陛下、ドリー伯爵」
「何だと…!?」
相変わらず生意気な口振りのアントワーヌに対し、ルヴィシアンの堪忍袋の緒が切れかねない状況だ。身を乗り出してまでアントワーヌを睨み付ける彼とアントワーヌ2人の間にアマドールが立ち、仲介者となる。
























「私は今も今後もどちらの部下でも刺客でもございません。私は先代ダビド陛下の方針に同意しコーサ・ノストラの一員でいただけ。つまり陛下亡き今、新国王つまりルヴィシアン陛下の方針には些か同意し兼ねます」
「ぐぐ…!貴様ぁぁあ!」


ガチャッ!

ガタガタ震える両手でルヴィシアンが構えた拳銃。だが震えが大き過ぎて威嚇にもならないその様を、フッ…、と鼻で笑うアントワーヌはルヴィシアンが構えた拳銃をいとも簡単に奪ってしまうものだから、ルヴィシアンの堪忍袋の緒は切れた。
「アマドール貴様!何を傍観者になっている!今すぐこいつを殺せ!!」
「どうぞご自由に。しかしコーサ・ノストラであった私ならば陛下が処刑をお望みの憎き人物をお連れ致しましょう。まさに彼のように」
「なっ…!?」
アントワーヌは不敵に笑みながら、自分達の足下で気を失っているヴィヴィアンを見る。つられてヴィヴィアンに視線を向けたルヴィシアンは、アントワーヌが言っている意味をようやく理解したのだろう。
確かに、今回はアマドールと手を組んでいたアントワーヌがヴィヴィアンを騙してこの舞踏会に参会させたからこそ、こんなにも早くヴィヴィアンを捕獲する事ができたのだ。そう考えると…。
歯をギリッ…!と鳴らしながらも顔を上げるルヴィシアン。
「金か?報酬の為だけに貴様は敵対していた私達王党派にも頭を下げるような人間なのか?」
「まさか。私にもプライドというものはございます。別に私を雇えとは申しません。ただ、私はコーサ・ノストラであった故にこういう事もできますよ、とお話しただけのこと。故にコーサ・ノストラである私は陛下の部下でも仲間でもありません。陛下が捕獲を求める人物が私にも利益があるのならば捕獲又は殺害致します。全ては私に利益があるか否か次第」
「はっ…報酬でなければ議会の再建が目的か?」
「そうですね。しかし議会というものは端から王室に敵対するものではない事をご理解して頂きたい」
「ほう…。では私の政治次第では同胞となるという事か?」
見下しながらルヴィシアンが言えば、アントワーヌは不敵に笑う。
「かもしれませんね。私に利益があるのならば」
「…雇うか雇わぬかは」
「陛下次第となりますね。私はそれに従うまで。どうぞご決断下さい。ルヴィシアン陛下の権力は王権神授説に基づくのですから」
アントワーヌのその言葉が皮肉だと気付きもしないルヴィシアンは、高笑い。
「ははは!面白い!ふざけた奴だ!建前ばかり並べているが実のところ、もう行き場が無くなったから私に頭を下げにきただけなのだろう?ははは!良い。雇ってやろう。しかし貴様には24時間365日体制有能な監視役を5人つけるとしよう!そうなれば万が一の事など考えずに貴様が過労死するまで駒として使える!そうだろう?」
高笑いが邸内に響く。アマドールとアンリエッタとアンジェリーナは些か不信感を抱きながら眉間に皺を寄せてアントワーヌを横目で見ているが、そんな彼らの視線など気にもせずアントワーヌは不敵に笑むだけだった。
























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