[携帯モード] [URL送信]

症候群-追放王子ト亡国王女-
ページ:2
遅ればせながらも人型へと変型したマリー機もサーベルを繰り出せば、敵機は待ってましたとばかりにサーベルで攻撃をしてくる。敵機が笑っているようにさえ見えた。


キィン!キィン!!

互いのサーベルがぶつかり合い青い火花が散るが、素人が見てもマリーが押されている事が分かる。イコール、カイドマルド軍の強さは圧倒的。力の差は歴然だ。
「うっ…!カイドマルド軍は連盟軍とは無関係のハズ…」
苦しみ顔を歪ませながらもマリーが呟いたその時。


ザー、ザザーッ、

ノイズがして敵が音声のみの通信を繋げてくる。恐る恐る…だがそれを開いたマリー。
「他国の領空を旋回するだなんて連盟軍はどうやら基礎知識さえ知らない素人集団みたいだね」
「ヴィヴィ様…!?」
マリーの紫色の瞳が見開かれ叫びにも似た声で敵パイロットであるヴィヴィアン・デオール・ルネの名を呼べば、案の定彼も目を見開き驚いた様子を見せる…だがそれはほんの一瞬の事。彼はオープンチャンネルつまり映像での通信も繋げてきた。
























ガー、ガガッ、

映し出されたヴィヴィアンの映像。赤の豪勢な服を羽織っており、下には1年前とは変わり紺色の軍服を身に纏い、右目には黒の眼帯を付けた姿。
彼女がモニター越しで見た彼は下を向いていた。


バチ、バチバチ…!

その間にも、2人が交えた刃からは青い火花が散る。
「ヴィヴィ…様?ヴィ、きゃあああ!」


ドン!ドンッ!!ドン!!

突如猛攻に出たヴィヴィアン機。応戦に励むマリーだがやはり彼の力は圧倒的で為す術無しなマリーの機内に響き渡ったのは耳を塞ぎたくなるモノだった。
それは、ヴィヴィアンの人間を見下した高笑い。モニターに映る彼の赤の瞳は狂気に満ち満ちており、彼女の知っている彼ではなかった。
「あはははは!お久しぶりですマリー王女!覚えておられますか?僕です、先代ルネ国王ダビド国王殺害犯のヴィヴィアン・デオール・ルネです!」
声が出なかった。彼をモニター越しに見つめるマリーの紫の瞳は視線が泳いでいる。しかしここは意を決し、頬を伝い始めた涙を乱暴に拭うと、真っ赤に腫れた目でモニターではなく彼が搭乗した機体を見つめた。
























「ヴィヴィ様!ヴィヴィ様わたくしは…!」
「舞台や映画なら敵対した悲劇の王子様とお姫様の対峙は最後の最後まで引き摺る。あははは!神はそんな悠長な時間すら僕達には与えてはくれないようだね!」


キィン!!

ぶつかり合うサーベル。相手がマリーと知りながら…いや、知っているからこそヴィヴィアンは全力で挑むのだろう。
マリー機の破損したあちこちから灰色の煙が上がる。マリーがサーベルを振り上げたその時、何故かヴィヴィアンは一歩身を退いてしまう。
「え?」
実戦経験など無いマリーにはヴィヴィアンの意図が分からない。
そんな素人の彼女のポカン…とした顔をモニター越しに見てヴィヴィアンは口が裂けんとばかりに笑んだ。
「僕はね、マリー。嫌なんだ。舞台や映画のように最後の最後まで対峙を引き摺るだなんて精神が保たないんだ。ならさ、いっそ無かった事になるように僕が今ここで…」
ヴィヴィアンの機体の右腕がスッ…、と天を指差した。
「君を逝かせてあげる」


ドン!ドン!

「きゃああああ!!」
合図に発射されたミサイルはマリー機を直撃。上がる灰色の煙。しかし何故だろうヴィヴィアンはコックピットをわざと狙わなかったように思える。
























ビー!ビー!

マリー機内に響き渡る戦闘不能のサイレン。マリーは俯き、コックピット内に自身の涙の水溜まりをつくっていた。すると…


ガコン!!

「!?」
何かを破壊する音がした。
マリーが顔を上げれば、何とヴィヴィアン機はサーベルでマリー機のコックピットを抉じ開けようとしているではないか。すぐ様モニターで彼を見る。
「ヴィヴィ様…!?」
「マリー」
彼の優しい笑み。内心、彼が私を連れ戻してくれるのだ…そんな童話のお姫様の考えが過ったマリーの顔に薄ら笑みが浮かぶ。
「ヴィヴィ様わたく、」
「僕にはマリー、君だけだった。なのに信じてくれず自らの意志で敵対した悪魔の君には…僕だけに顔を見られながら殺される最期がお似合いだよ」
「ヴィ…さ…、」


ガコン…!

砲撃口がマリー機コックピットに向けられた。
「…や、いや…」
走馬灯が、過る。産まれて間もない自分…最後に映った映像はヴィヴィアンとエミリーの穏やかな笑顔。
「いやあああああ!!」


ドン!ドン!

「っ…!」
情緒不安定となったマリーは叫びながら自分でも自分が分からない程ミサイルや砲撃を闇雲にヴィヴィアン機目掛けて繰り返していた。
























「くっ…!」
接近していた為近距離で攻撃を食らってしまったし油断していたヴィヴィアンは体勢を崩すが、す攻撃体勢に入ろうとする。だが…
「な…!何だよこのミサイル!」
避けても避けた方に追ってくる連盟軍開発の新兵器には、あのヴィヴィアンでさえ直撃されてしまう。


ドン!ドンッ!!

機体左脚部破損。故に機体速度は落ちる。彼の高い自尊心に傷がついた。
「くっ…!僕を侮辱するのも大概にしろマリー!!」
目を見開き狂者の顔で、彼女の機体しか見えていないヴィヴィアン。


ビー!ビー!

新手の敵機を感知したレーダーの音など耳にも入っていない。
しかし、一方のマリーには見えていた。ヴィヴィアン機の背後から迫ってくるドイツ軍戦闘機1機の姿が。途端彼女は涙で溢れた目を見開き、擦れた声を張り上げる。
「ヴィヴィ様後ろですわ!!」
「なっ…!?」
その言葉に我に返ったヴィヴィアンは敵機の存在に気付いてはいないが、反射的に左旋回。


ドドドド!!

それ故、背後から迫っていたドイツ軍戦闘機のミサイル攻撃を避ける事ができたのだ。


























「国際連盟軍!カイドマルド軍!これ以上我が国の領空内にて戦闘行為を続けるのであれば私は両軍を墜とす!」
「チッ…!」
2人に繋げられたドイツ軍兵士からの警告。ヴィヴィアンは罰が悪そうにドイツ軍戦闘機を一睨みして舌打ちをすると、すぐ様母国の方へと高速度で飛び立って行った。後方に見えるマリー機をミラー越しに睨みつけながら。しかしその睨みつけも、彼女の機体から遠ざかっていく毎に無くなり、今、彼は憂いの表情を浮かべていたそうな。
一方のマリーも任務の為にボロボロの機体のままではあるが、アメリカへ向かって飛び立って行く。しかしまたしてもオートで操縦。何故ならば…
「うっ…ひっく、うっ…」
俯き両手で胸を押さえ、ボロボロと大粒の涙を流していたからだ。先程から何度も何度も脳裏で浮かぶのは最愛の夫と最愛の子の笑顔。
「この殺人兵器に乗った以上わたくしには普通の妻にはお母様にはなれない…ただの殺人者なのですわ…。でも…」
それでも戦闘機という兵器に乗り連盟軍に参加したのは、他の誰でもない平和主義者マリー自身の意志であった。
























































カイドマルド王国―――

「陛下!」
カイドマルド軍基地本部へ帰還したヴィヴィアンは左右にふらつきながら城内の長い長い廊下を歩く。赤のマントを引き摺りながら。
そんな彼の帰還に一早く気が付いたアントワーヌが彼を呼ぶも、聞こえているのかいないのか彼は返事もせずそのまま歩いて行ってしまう。そんな彼を、ブラウンのスーツを身に纏ったアントワーヌが書類片手に追い掛けていたらヴィヴィアンはその場に倒れこんだから、慌てて駆け寄る。


ドサッ、

「陛下!」
大丈夫ですか、大丈夫ですか、そう何度も声を掛けて身体を起こそうとするが、ヴィヴィアンは虚ろな赤の瞳でアントワーヌを見るだけで呼吸は乱れ、顔は真っ赤だ。
ぐったりして話す気力すら無い彼は、目を開いている事も辛そうだ。ここ最近の彼の様子からしてすぐ様察したアントワーヌは城内のメイドを無線で召集した。







































20:52―――――

「…っはぁ、」
「お目覚めになられましたか陛下」
ゆっくり目を開いたヴィヴィアンが捉えた人物は、彼が眠っていたベッド脇に立っていたアントワーヌ。
「風邪、との事です。戦禍による伝染病や流行り病などではなく安心しました」
アントワーヌの平淡な言葉はただ並べただけという感じで、人情味が全く感じられない。しかし変に人情味をもたれてもヴィヴィアンが喜ぶはずが無い。寧ろ煩わしがるだろうが今の彼にはそんな余裕すら無いようで、身体を蝕む高熱に負けている。
「情緒不安定故、食事を摂っても戻してしまうからとは言え点滴からの栄養摂取だけではいつかこうなるとは予期しておりましたが」
相変わらず平淡な調子で話すアントワーヌの言う通り。国王に即位当初は順調であったが、マリーが連盟軍に加入して以降表では彼女を毛嫌いする様子を見せてはいたヴィヴィアンだがそれは意地を張っていただけであり、実際彼女が加入して以降食事を摂っても全て戻してしまうし夜になれば半狂乱になり、睡眠薬を服用しなければ眠れないという情緒不安定な状態である。
表向きはそんな一面は一切見せず政治も軍事も有能な国王ではあるが、実情はこのような状態。
そんな脆い彼を黙って見下ろすアントワーヌのブラウンの瞳は何を思うのか。






















「はぁ…はぁ…」
「病中こんな事を申すのもどうかとは思いますが陛下。5日後イタリア、ヴェントン将軍邸にて開かれる仮面舞踏会にドリー一家が招かれているとの情報です。如何なさいますか」
ヴィヴィアンは虚ろな瞳で真っ白い天井を見上げる。
「…っはぁ…アマドール…か…」
「そうなりますとアンリエッタ婦人も御見えになられる可能性が高いでしょう」
ヴィヴィアンはハッ、と吐き捨てるように笑った。
「良いだろう。僕を侮辱したアマドール・ドリーに制裁を下す絶好の機会だ。それにバベット、君達ルネ王国議会の復讐の機会でもある。違うかな?」
ヴィヴィアンのその強気な笑みに、アントワーヌはフッ…、と笑えば彼もまた強気な笑みを浮かべる。
「お供します陛下」


パタン、

静かに閉じた扉。
室内で1人となったヴィヴィアンは大きな溜息を吐き、カーテンから射し込む月明かりに目を向けた。
「制裁…復讐…はっ、本当はそんなの下らない事でしかないのに挑んでしまう僕はこれが勝ち戦だと思っているから挑むのか、それとも…」
そっ…、と自分の左胸に手をあてる。


トクン…トクン…

微かな鼓動が聞こえた。それだけで安堵の表情を浮かべてベッド横のテーブルに手を伸ばし、錠剤の睡眠薬を口内へ放り込む。
いつしか静かなこの室内には、ヴィヴィアンの右手に付けられた点滴の液が雫となり滴る音と静かな寝息だけが聞こえた。

































カイドマルド城内廊下―――


コツ、コツ

深夜に響く1人分の足音。月明かりに照らされた城内廊下を歩く男アントワーヌ。彼の手の中にはイタリア、ヴェントン将軍邸にて開かれる舞踏会の日程が記された書類が1枚。アントワーヌはハッ、と嗤う。
「女1人に裏切られただけで精神崩壊する貴方は未だ未だ充分人間らしい。…はは、良かったですね」

































5日後、早朝―――

小鳥の囀りが心地良い雲一つ無い快晴の下、太陽の日射しに照らされるカイドマルド城を背に、鉄道に乗りイタリアへ向かったヴィヴィアンとアントワーヌの2人。

















































イタリア、フィレンツェ
ヴェントン将軍邸―――

真っ暗な夜空の下、一際輝く眩しいライトや貴族達の賑やかな声に包まれたこの大きな屋敷がヴェントン将軍邸。屋敷と呼ぶのに相応しく、頭上には幾つものシャンデリア。金色の壁のあちこちに埋め込まれた宝石達が眩しい。宮殿のホールを思わせる造りだ。
髭を立派に生やした紳士や髪をアップにした貴婦人達は皆各々独特の仮面を身に付け、素性も分からぬ者達と談笑している。そんな光景を世界中で目にする日が訪れた時こそが、真の終戦記念日となるのだろう。
























「…バベット。僕にはこの必要性があるようには思えない」
そんな貴族達からは少し距離を置いた位置でヒソヒソと話すヴィヴィアンには、何か不満でもあるのか眉間には皺が寄っている。その隣には厳格な表情をしたアントワーヌ。周囲の楽し気な貴族達とは一風変わった雰囲気漂う2人。
「ございます。幾ら中立国イタリアと申しましてもそれは国の方針というだけであり、其処に生きる人間が我々の事をどう思っているかも分からなければ、今宵の会にはドリー伯爵をはじめとする他国の王侯貴族が参会されております。陛下、表沙汰ではありますが貴方様はルネ王国に追放された犯罪者という事を御忘れのないようお願い致します」
淡々と話してしまうアントワーヌにはあのヴィヴィアンでさえ口籠もってしまうから、言い返す言葉がすんなりと出てこない。


♪〜〜♪〜♪

そんな間にも貴族達の談笑に混じって聞こえ出した盛大なメロディ。
「今宵は遠方より私目主催仮面舞踏会への御参加、心より感謝致します」
ステージ中央のスポットライトを浴びた黒スーツにシルクハットの紳士がヴェントン将軍だ。
「今宵は皆様にとって忘れられぬ会となる事を願います」
それを合図に音楽は切り替わり、夜会が開催された。皆あちこちに用意された丸テーブルに乗るイタリア料理を皿に少しずつ盛り、食す。
「仮面舞踏会か…。晩餐後に舞踏会というシステムみたいだね。そしてこの曲…ハチャトゥリアンのMasqueradeかな」
「陛下あちらを」
「ん?」
周囲に溶け込むよう、皿を片手にしていたヴィヴィアンに耳打ちしたアントワーヌが目で合図する方に顔を向けると…。
「夜会なんて実に久しぶりだ」
「アマドール・ドリー…!」
視線のその先に居た肩幅の広いグレーのスーツ姿の男こそ、ルヴィシアンの忠実な側近アマドール・ドリー。仮面を付けていようともすぐに分かる。

























彼を見た途端ヴィヴィアンの脳裏では、1年前彼と直接対峙したあの忌まわしい場面がフラッシュバック。
「くっ…!」
思わず眉間に皺が寄り、右拳を力強く握り締めるヴィヴィアンに落ち着くようアントワーヌが声を掛けるが、至って無視だ。
「見たところ1人のようだね。なら隙を見て、」
「そちらの紳士殿。少し、宜しいかな」
後方で中年男性の声がして振り向いてみると、何とアントワーヌが警備員に検問されているではないか。これにはヴィヴィアンも目を丸め驚くが、アントワーヌが右手で後ろつまりヴィヴィアンに合図。"他人のフリをしろ"の意。
すかさずヴィヴィアンは貴族達に紛れこの場から離れて行くが、内心焦り出しているのは事実。
――バベットの奴気付かれたのか?いや、そうだとしてもイタリアは中立国。…だからこそルネの人間であるバベットを捕虜に?――
「っあ!」


ガシャン!

考え事をしていた前方不注意により、丸テーブルに乗っていたヴォジョレーを瓶ごと落下させてしまったヴィヴィアン。
「まあ!」
「拵えたスーツが汚れてしまう!」
紳士や貴婦人達は声を上げその場から離れていく。辺りに広がるヴォジョレーの紅。紳士や貴婦人達の視線が、それを落下させたヴィヴィアンに集中する。
冷や汗が滴るヴィヴィアンは焦る反面、元からの高い自尊心により、非難の眼差しで自分を見つめてくる貴族達に対する怒りが込み上げてくる。
――何だよ!何だよその目は!零れたヴォジョレーを僕に処理しろと言うのか?はっ、そんなもの召使の仕事だよ?僕のような人間の仕事じゃ、――
「服に染みは付いていないようだな」
「アマ…!」
思わず言い欠けたが、自主規制で何とか堪える。そう。ヴィヴィアンの前に現われたのはあのアマドール・ドリー。






































一方、
屋敷の外庭園――――

一方のアントワーヌはというと1一人の男性警備員に屋敷の庭園まで連行されていた。屋敷からの灯りと賑やかなメロディが少しだけ遠くに感じる暗がりの庭。


カチャッ…、

すると警備員は突然アントワーヌに銃口を向けたから、アントワーヌは両手を挙げる。余裕の笑みを浮かべて。
「入口の身体チェックを行った若造警備員には後できつく指導せねばならんな」
「何か?」
「言い訳は聞かん。貴様からは金属反応がした。所持品全て出せ」
「貴金属では?」
「ふざけるな。出す気が無いのならば…」
警備員の白の手袋が軋み、引き金に手を掛けた。





































屋敷内―――――

「そこの君。ヴォジョレーが零れている。床を拭け」
場面は戻り、屋敷内。
ボーイに床を拭くよう命じるアマドールの様子からして全くヴィヴィアンに気が付いていないのは、ヴィヴィアンの素性を隠したアントワーヌの策略のお陰か。しかしヴィヴィアンの鼓動はアマドールに対する怒りにより、高鳴る。ギロッ!と睨み付ける。しかし。
「ドリー伯爵!」
「おお!久しぶりだなセヴィント子爵!」
白髪の紳士に呼ばれて再び貴族達の波に消えようとしたアマドール。ヴィヴィアンは慌てて、追い掛けようとする。
「待て!アマドー、」
「It's show time!!!」

ヴェントン将軍の高らかな一言を合図に辺り一帯の明かりが消え、ステージ中央だけに照らされたスポットライト。其処には深々頭を下げているヴェントン将軍。今まさに始まるであろう事に騒めき、期待に満ち溢れる貴族達。
「チッ…!」
しかしヴィヴィアンだけはこの状況に不満。それもそのはず。暗がりのせいでアマドールを見失ってしまったからだ。
――ショーだか何だか知らないけど、舞踏会なら舞踏会らしくおとなしく踊り狂っていろ凡人共!――


























「ようこそいらっしゃいました紳士淑女の皆様!本日はサプライズゲストをお呼びしております!」
期待に満ち溢れた笑みを浮かべ、隣人とヒソヒソ話し出す貴族達で騒つき出すが、ヴェントン将軍は口の前に人差し指をたて静まらせる。
「シー。Be quiet」


しん…

静寂に包まれたホール内にはいつの間にかメロディも消えていた。無音の中、ヴィヴィアンはゲストなどに全く興味は無く、ただ1人で辺りを見回していた。アマドールを探す。
――くそ!何処行った!アントワーヌも何処へ…――
「カーテンオープン!」
ステージには背を向け、アマドールを探しているヴィヴィアン。その間に上がった幕。
「わああ!」
「まさかあのお方が居らっしゃるなんて!!」
貴族達は歓声を上げ、ホールは拍手に包まれる。
「good evening.イタリアの皆様お初に御目にかかります。私ルネ王国第20代目国王ルヴィシアン・デオール・ルネと申します」
「なっ…!?」
聞き覚えがあるなんてものでは済まされない。憎くて憎くてたまらない実兄のマイクを通した声に、瞬時にステージを向いたヴィヴィアン。ゲストであるルヴィシアンのまさかの登場により、ヴィヴィアンの丸まった真っ赤な瞳には怒りの炎が宿る。
「キャアア!ルヴィシアン様ぁ!!」
「麗しゅうございますわ!」
ルヴィシアンの美貌に歓声を上げる紳士淑女の歓声に掻き消されてしまいそうだが、彼ヴィヴィアンにだけはしっかり聞き取れた女性の声が背後から聞こえていた。
「お久しぶりです。ルネ王国第三王子ヴィヴィアン・デオール・ルネ」
「…!?貴方は…!」




















































同時刻、
カイドマルド王国インヴェン地方―――


♪〜♪〜♪

闇夜の下、修道院前にて響き渡る少女の歌声。魅了され各々が想像する平和を瞳に映す。


ゴオォッ…!

だがそんな歌声も、上空にて赤のライトを点滅させているルネ軍戦闘機の飛行音が掻き消す。それらが飛ぶ空を見上げ、少女は睨み、唇を強く噛み締める。
「ルネ…!」
少女の名はベルディネ王国第一王女ジャンヌ・ベルディネ・ロビンソン―――。



























[*前へ]

2/2ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!