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症候群-追放王子ト亡国王女-
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「飛行状況良好、周囲に敵反応無し」
「F27の初陣だ。謂わば実戦での機体性能を体感できる初の機会」
「傷でも付けたら戦闘機馬鹿のブーランジェ大将に怒鳴られかねん」
「それもそうだ」
純粋且つ汚れのない真っ青な太平洋に浮かぶ空母から次々と飛び立つ漆黒の悪魔達が進む進路は、国際連盟軍加盟国アメリカ合衆国。
ノイズ直後繋がる通信を拾う軍人達は私語を慎む様子などこれっぽっちもない。漆黒の悪魔所謂戦闘機に印された赤地に黒の十字国旗…ルネ王国。







































ルネ領日本東京
ルネ軍駐屯地―――

「こちらへも出撃命令ですか。分かりました。超大国の我らと言えど国王陛下もやはりアメリカの戦力は尊敬に値するのでしょう。面白い。私の愛機F27ルーヴルでアメリカの空を真っ赤に染めて差し上げましょう」
「期待している。ブーランジェ大将」
「了解ですダイラー将軍」
通信切断後黒光りした軍帽子をかぶると椅子から立ち上がり、パソコンの電源を消す。


バサッ、

黒の軍服の上着を羽織る。薄くかかったパーマの黒の長髪を後ろで白リボンで一まとめにしており顎は少し出ていて鼻が高く穏やかな目をし、スラッとした細身の中年男性。彼はマリソン大将殉職後、ダイラー直々にルネ軍新大将に任命された『デュレフュス・ジョルジュ・ブーランジェ』
50代前半の彼の後ろをついて来る短髪茶髪でそばかすの外見気弱そうな少年の方に顔だけを向けて微笑むブーランジェ。
「少佐としてのメッテルニヒ君の初陣は長期戦になりそうですが、その覚悟は?」
メッテルニヒ、そう呼ばれた少年はおどおどしながらも、自分の左胸を力強く叩き、胸を張ってみせた。
「はっ!メッテルニヒ・オルディティ・ドリー少佐!マジェスティの為全力を尽くす次第であります!」
ブーランジェはにこっ、と微笑む。
「良かった。それでは、いきますよ」
「はっ!」




























ルネ領日本―――――


ゴオォッ!!

ルネ軍東京駐屯地から飛び立つ無数のルネ軍戦闘機の爆音に、近隣住民である日本人庶民は今日もまた耳を塞ぎ、それらが飛び立つ空を睨み付けている。
日本の空からルネ軍戦闘機が飛び立つその光景は現実であるからこそ、日本が敗戦し侵略された事を痛感させられるのであった。
「アメリカへ出撃するぞ!」
ルネ軍駐屯地格納庫で自分の機体に乗り込み、次々と滑走路を駆けアメリカ合衆国へ向かい飛び立って行くルネ軍人達は知らない。自分達の背後で魔の手が忍び寄ろうとしている事など。


ガー、ガガッ、

ノイズ混じりで途中途切れたりと聞き取り辛いが何とか聞き取り、仲間と通信をやり取りをする3人の中年男性達は格納庫付近の茂みにうつ伏せになりながら、格納庫へ向かうルネ軍人達を睨み付けている。彼らは正真正銘日本人だ。
「こちら東京部隊こちら東京部隊。大将と思われる人間の確認はできず。如何なさいますか」
「上官を狙えば危ういが、下士官ならば見込みはあると考えられる。出撃の許可は下す。が…くれぐれも命を落とすような真似はしないでほしい」
「了解。お国の為全力を尽くす次第であります、慶司様」
「武運を祈る」


ブツッ!

通信切断後、日本人男性の1人は後の2人を手招けば隙を見てすぐ様立ち上がりライフル銃を担ぎ、叫び声を上げながら草村から姿を現す。






















「母国の仇!うわああああ!」
「なっ…!?日本人だと!?」


ドドドド!!

ほぼ出撃した為、若くまだ経験の浅いルネ軍人達だけとなった隙を狙い、ライフル銃で敵を乱射する日本人男性3人。
いつの間に侵入していたのか、とにかくこちらも抵抗しなければ。そうすぐ様ルネ軍人達の大脳に指令が下ると若いルネ軍人5人は懐から拳銃を取り出すが、何分威力でいえば日本人男性達のライフル銃の方が格段上であった。素早い動きと巧みな身のこなしで攻撃してくる。


ドドドド!

生身同士の戦いは次期に決着がつく。何故ならば、5人居た若いルネ軍人の内3人の胸をライフルの弾が貫通。3人は口から血を吹き出し、白目を向いて死んだ。
























「チッ!戦線布告も無しに反逆行為などらしくないのではないか元日本人共!」
「俺らの国を奪ったてめぇらルネにだけは言われたくねぇ!!」
ルネ軍人が拳銃を構えるが、腰に付けた鞘から銀色に輝く日本刀を引き抜いた日本人男性の1人は、ルネ軍人が拳銃を手にしていた右腕をそのまま斬り払ったのだ。


キィン!

天へ勢い良く吹き飛ぶルネ軍人の右腕。
「ぐああああ!!」
「ディーラー!」
同胞の叫び声を聞いた若いルネ軍人が見せた一瞬の隙。日本人男性はニヤリと笑った。それは、目の当たりにした何かを得たかのような幸せに満ちた笑み。
「同胞の心配をするなんざ案外優しいところあるじゃねぇか!なぁ!?悪魔のルネ軍人さんよぉ!」
「させるか!!」
日本刀を繰り出すが、相手のルネ軍人はなかなかのやり手のようで小柄な体格を生かし屈んで、日本人男性の攻撃をかわす。日本人男性が刀を振り下ろしたその僅かな短時間はルネ軍人にとってチャンスである。
「背後をとられた!」
慌てて後ろを振り向く日本人男性が刀を構えようとするが振り向いた彼の両目に映ったのは、自分の後ろへ回り込んだルネ軍人が構えた銃口。
「なっ、」


パァン!パァン!

最期の言葉を呟かせる時間も与えず、日本人男性の顔面向かって何発も発砲。

























「鈴木!!」
同胞の残虐な殺され方を目の当たりにした残りの日本人男性2人は驚愕し目が点になるがそれも一瞬の事で、すぐ様2人の身体は怒りに満ち溢れる。
「ルネェェエ!!」
刀を構え、叫び声を上げながら立ち向かってくる2人。そんな時、たった今日本人男性を殺害したルネ軍人へ上官からの通信が繋がった為、耳に装着しているボタンを押して通信を開くその余裕っぷり。
「侵略国がぁあああぁあ!!」
その間にも日本人男性達は刀を振り上げ、鬼の形相でこちらへ向かってくる。
「はい。こちらルネ領日本東京駐屯地トニー少尉であります」
「こちらダイラー将軍。貴公を含め他5名が未だ合流していないとブーランジェ大将から通信があったのだが。機体調整不良でも起きたか」
ダイラーからの問に、トニーと名乗る若いルネ軍人は一瞬戸惑いを見せたがすぐ様切り替る。その間にも縮まる日本人男性達との距離。
「問題ありません。直ちに出撃致します」
「そうか。あまり遅刻するなよ」
「了解」


ブツ!

通信切断の音がして、すぐ様拳銃を構える。トニー少尉の目は悪魔のようにつり上がる。

























「これで終いだルネェェエ!」
「ディーラー!」
「了解!」
「なっ…!?」
トニー少尉が呼べば、先程右腕を斬り落とされたルネ軍人ディーラーがいつの間にか日本人男性2人の背後にまわっており、2人の頭部目掛け銃口を向けていた。挟み撃ちにされ、たった今までの威勢を失った日本人男性2人の顔に戸惑いが見受けられた。
トニー少尉は日本人男性2人を見下し、悪魔のようににんまり微笑む。
「ディーラー」
「了解!」
挟み撃ちにされてしまった日本人男性は目が見開ききっており、言葉すら出ない。
トニー少尉とディーラー2人の白手袋がキシッ…、と音をたて引き金を引いた。


カン!カン!

「!?」
通常ならば辺り一帯に銃声が鳴り響くのだろう。しかし違ったのは、銃弾が何か金属のようなものに当たった音。
「宮野純殿下!」
日本人男性2人の間に現れたのは、紅色の額当てをつけてはいるが1年前とは違い短髪になった宮野純 慶司の姿。
うちかけに似た裾の長いグレーの和服を羽織り、ネクタイを付けた西洋風の黒地の軍服を着用している彼が構えている古びた日本刀がルネ軍人達の銃弾を弾き返したのだ。
























慶司の凛とした瞳を目の当たりし、トニーとディーラーは舌打ち。
「チッ!侍の時代は終わった事そして、日本は終わった事を認めろ!!」


カチャッ、

トニー少尉とディーラーの銃口が、慶司と日本人男性2人に向けられる。しかし慶司は動揺せず、まず第一に男性2人を助ける為、銃口の範囲外へ2人を突き飛ばす。そして、駆け出す。


パァン!パァン!

「ぐっ…!」
2人の背後をとろうと駆け出すが、2人が放つ銃弾が慶司の肩や腕を掠め、そこから着物を破き血が噴き出す。だが今は痛みに動揺していられる場面ではない。慶司は歯をぐっ…、と食い縛りそのまま2人へ立ち向かって行く。
そんな慶司の自殺行為にトニー少尉とディーラーは悪魔の笑い。
「ははは!さすがは侍!卑劣な手を使いたくないが故、真っ向勝負を挑か愚か者!」
「僕はもうとっくに卑劣な人間になってしまっている!!」
そう叫んだ慶司は手にしていた日本刀をディーラー目掛けて投げた直後、懐から拳銃を2丁取り出せば、トニー少尉とディーラー目掛けて乱射。


パァン!パァン!パァン!

「ぐああああ!」
投げた日本刀はディーラーの左腕をふき飛ばす。そして発砲した弾は、トニー少尉とディーラーの身体に無数の穴を空ける。




























しん…
静まり返った東京駐屯地格納庫。足元のルネ軍人達と日本人男性1人の死体が、慶司の黄色の瞳に映る。
呼吸一つ乱していない慶司を後ろから呆然と見ていた日本人男性2人は目を合わせると、すぐ様彼に駆け寄る。
「慶司様!」
「宮野純殿下!お見事でございました!」
慶司はゆっくり2人に顔を向ける。だが、向けられた慶司の顔はやつれており、幼さ残る黄色の瞳もどこか濁って見えた。
「鈴村さん、田渕さん…」
「殿下の剣捌き!あれは本当武士の捌きでございやした!」
「しかし僕は砂川さんを殺してしまった…」
砂川、というのはトニー少尉に殺された日本人男性の1人だ。
慶司が手を掛けたわけではないというのに妙な言い方をする彼に困惑の2人は慌てて、慶司の細い肩を何度も叩き、必死に励まそうとする。
「な、何を仰るのですか殿下!砂川はルネ野郎にやられちまった。俺らが不甲斐ないばかりに。殿下のせいじゃありませんよ!」
慶司は男性の手をそっ…、と払い、自分の両手の平を空虚な瞳で見つめた。
「いいや、僕だ。僕が砂川さんを殺したも同然なんだ。僕が日本国革命軍を発足したが故に、参加してくれた日本人が血に染まってしまったんだ」
そう、この男性達も慶司が発足した"日本国革命軍"の参加者の内の1人。
日本国革命軍とは、1年前ルネに敗戦し侵略されルネ領日本となってしまった日本を取り戻す為、ルネに抵抗する軍隊…程の規模は無い故、組織と述べた方が妥当であろう。























自虐的なかつての日本国王子を前に2人は眉毛を垂れ下げ、切な気に顔を歪める。
「殿下…」
「これ以上日本人が死んでほしくなくてルネに降伏した。これ以上日本人が死んでほしくなくてルネに抵抗する組織を発足した…。何なんだ、僕は何がしたいんだ!!」
「殿、」


ビー!ビー!

「侵入者感知。侵入者感知」
あまり派手に暴れ回ったせいか、拳銃から放たれた火薬の煙にセンサーが感知したのか。
今更ではあるが、慶司達が居る格納庫を始めとする東京駐屯地一帯に鳴り響く奇妙なサイレン。
慶司はハッ!と我に返ると砂川の死体を担ぎ、鈴村と田渕を案内し、ルネ軍に見つかる事無く駐屯地の外へ逃げ出す事に成功。慶司をはじめ、鈴村達が此処までの移動手段として乗ってきた旧式の日本軍戦闘機飛行型に乗り込むと、白地に日の丸の国旗が刻まれた戦闘機3機は京都方面へと飛び立って行った。





























同時刻、太平洋上空――

太平洋上空を埋め尽くすかのように飛行する無数のルネ軍戦闘機。
「ブーランジェ大将も合流したか」
「はい。東京駐屯地部隊只今ダイラー将軍部隊との合流に成功」
「しかし先程通信をとったトニー少尉率いる若い者達の姿が見えないようだが」
「その件につきましてはたった今東京駐屯地管理部から報告を頂戴しましたが、今は連盟軍との戦闘に集中すべきであります」
ブーランジェのその一言でトニー少尉達の身に何が起きたのか一瞬で把握できたダイラーは機内で静かに目を瞑り、彼らへの祈りを捧げた。殉職者への祈りを。
「…そうか。では今は目の前の戦に集中するとしよう。ブーランジェ大将、殉職したマリソン大将の分の働きを期待している」
「それ以上、をご期待下さい」
「将軍!大将!前方から熱源反応有り!」
メッテルニヒの慌てた声の通信が2人に繋がるが2人の上官は機内でフッ…、と不敵に笑む。
「気付いている!」
2人同時に同じ言葉を発せば、ダイラー部隊はダイラー部隊のフォーメーションを形成。同じくブーランジェ率いる東京駐屯地部隊もフォーメーションを形成。

























迎え撃つ敵は、国際連盟軍のシンボルカラーでもあるシルバーの戦闘機。その数ざっと50。


ドン!ドンッ!!

国際連盟軍戦闘機から放たれる機関銃は勿論、ミサイルの速度はあのルネ軍を上回っており尚且つかわしても、一度だけだがかわした方まで追い掛けてくる。イコール、ミサイルが一段階曲がるのだ。
「ミサイルを操作できるだと!?」
特殊なそれを高速度で避けながら機内で、上がる機体速度に堪えるダイラーが発する言葉。
「面白いじゃありませんか!」
戦闘機馬鹿である為か普段温厚なブーランジェは身を乗り出し、目は狂者のように見開き興奮状態。


ドドドド!!
ドンッ!!ドン!

積極的過ぎるくらい連盟軍へ自ら勝負を仕掛けるブーランジェの狂戦士振りにマリソンやヴィルードンの姿が過るダイラーは、深い溜息を吐く。
「はぁ…何故こうも我が軍隊には狂戦士ばかりが居る。お国柄とまとめてしまえばそうなのだが!」
独り言を呟きながらも、迫り来る敵への対処法を脳内で整理している。


キィン!

飛行形態から人型へ変型し、サーベルを引き抜いた連盟軍戦闘機と刃を交わせば激しく散る青の火花。





















「悪を制す神にでもなったつもりか哀れな国際連盟軍!」
「戯れ言を抜かす暇があるならば己の背後を気に掛けたらどうだルネ!!」
言われ、ダイラーは機内で不敵に笑む。
「忠告されずとも既に対処の最中だ!」
「なっ…!?」
ダイラーは後方から接近してきた敵機へ、機体下部からミサイルを発射。操作次第では後方へもミサイルを発射できるよう改良されたルネ軍戦闘機に一瞬唖然とする連盟軍軍人であったが、自分達のミサイルの方が性能が高い事を自信に笑う。
「はっ!4国集えば貴様等の戦闘機技術など簡単に越えられる!他国と手を組むのは不本意ではあるがな!」
また発射されたあの曲がるミサイル。ダイラーは避けて避ける。
「避けた後も敵機を追える面は大したもの。だが一度しか曲がれないと分かれば弱点がはっきりした弱小ミサイルでしかなかろう!」
「妬みは聞かん!!」
まるでアメリカへの侵入を防ぐかのように太平洋上空に配置された国際連盟軍の包囲網突破に向け、ルネ軍と連盟軍が空を赤く染めていく。












































同時刻、
アメリカ合衆国ワシントン国際連盟軍駐屯地――――

ズズッ…、とはしたない音をたてて紅茶を口にする、銀色をしたショートへアーで黒のスーツを身に纏った一見小学生のように小柄な女性。彼
女の向かいには黒のソファーに偉そうに腰掛けて脚を組み、書類に目を通しながら紅茶を口にする中年男性。内巻きのブラウンの短髪に丸い眼鏡。ふくよかな体型をしたこの中年男性は、機嫌が悪そうに唸りながら書類をテーブルの上へ放り投げる。


バサッ、

一気に紅茶を飲み干し、ガチャン!とはしたない音をたててティーカップを置く。そんな彼を、紅茶を飲みながらジーッ…と見ている女性。
「…このアールグレイはトワイニング社のものじゃろう?珍しいな。首都貴様がジャクソン社以外の茶葉を調達するなど」
「はいはいはい!ロジーの紅茶うんちくはもうたくさんだ!今はそれどころじゃないんだ!」
「ダージリンも良いが最近はブラックベリーも気に入っておる。ホワイトティーは香りは良いがあれは香りを楽しむだけのものじゃな」
ベラベラと紅茶話を喋り続ける女性に痺れをきらした男性は、叫び声を上げながら自分の髪を掻き毟り出す。だが、女性は至って平常心。全く動じないマイペースっぷりだ。






















「ああああ!」
「煩わしいぞ。良い歳した男が声を上げるなどはしたない奴じゃな」
「だからロジーは紅茶女と呼ばれるのだろう!?全く!これだから英国人は!!ロジー!君をわざわざ米国へ招いたのには訳がある!」
立ち上がり身振り手振りで熱く語るこの男性。名を『ジェファソン・マイケル・ワシントン』という。国際連盟軍アメリカ代表生粋のアメリカ人41歳。
「我が国の軍隊を出動させろ、じゃろう?」
「そうさ!連盟軍へ加盟している4大国家の中で未だ軍隊を出動させていないのはロジーの国だけじゃないか!これじゃあ連盟軍へ加盟した意味が無いだろう!?」
「女王陛下が争いを毛嫌いしておる」
「じゃあ連盟軍へ加盟しなければ良かったじゃないか!全く!ロジー、君達英国人の考えている事は理解できない!」
バフッ!とソファーに腰を掛けて諦めた溜息を吐くジェファソンを、未だズズッ…とはしたない音をたてて紅茶を飲みながら見ている女性。彼女の名は『ロゼッタ・ブルームズ・ブリテン』
愛称ロジー。身長139cm、童顔な外見故小学生に見えるが42歳の国際連盟軍イギリス代表。生粋のイギリス人である。
「はぁ…。ロジー…君は本当に…!」
相も変わらずなロゼッタに我慢弱いジェファソンは諦めがついてしまい、がっくり肩を落とす。直後鋭い眼差しに切り替われば、まだティータイムをお楽しみ中であったロゼッタの子供のように細い左腕をぐい、と引っ張り無理矢理立ち上がらせたのだ。


ガシャン!

案の定、ティーカップを手にしていたロゼッタの右手からカップが落ちて床へ落下。
ガラス特有の割れる音と共に辺りに散らばる破片。しかしそれらを気にもせずロゼッタを引っ張り出し、この応接室を出て行くジェファソンであった。








































廊下―――――

「何じゃ。愛の逃避行にしては少し強引過ぎやしないか」
「だからロジーはどうしてそんなに余裕綽々なんだい!私には理解できないね!」
応接室を出てジェファソンに腕を引かれながらのロゼッタ。2人の…というよりもジェファソンの甲高い声が何処までも続くこの長い廊下一帯に響き渡る。
「ほら。いい歳こいた男がギャーギャー騒ぐなと、」


ドン!ドドン!

「うわあああ!」
「お?」
ロゼッタの言葉までも遮った爆発音と共に横に大きく揺れた建物内部。足元をふらつかせながらも廊下を進む2人。
余裕綽々というよりも感心した様子で揺れる建物内部を見回すロゼッタと、泡を噴いてブツブツ愚痴を呟いているジェファソンは対照的だ。
「ほう。これはルネの奴等が連盟軍の包囲網を突破したという事じゃな」
「感心している場合かいロジー!?あの国際連盟アメリカ軍の鉄壁をも突破したんだ!奴等の力は尋常じゃない!」
血相変えて目を見開きロゼッタへ叱咤すると彼女の腕を強引に引きながらももう片手で、今戦の指揮をとるアメリカ軍ジョバンニ大佐へ通信を繋げた。
「ジョバンニ大佐!あの悪魔共にアメリカ本土への侵入を防げとの大統領のお言葉を忘れたか!侵入されたものは仕方がない。故に全身全霊をかけ奴等を我国から摘み出せ!!」


ブツッ!

通信相手へは嫌な音をたてて通信を切断するジェファソンは眉間に皺を寄せ、相当イラ立っている。






















そんな彼を隣で背伸びをしながらまじまじと覗くロゼッタ。
「随分とお怒りじゃな首都。昔はもっと穏やかで可愛らしい小僧だったというのに。歳をとってから短気になったんじゃ、」
「煩い!ロジー、君本当煩いよ!そんな事を言っている暇があるなら君の国の軍隊を呼ぶとかしたらどうなんだい!?」
「ほう。首都貴様なかなか言うようにな、」
「ロジー危ない!!」


ドン!!

「!?」
今度ばかりは建物が揺れただけでは済まされぬ揺れ。何と、ガラス張りの窓の廊下のこの窓からルネ軍戦闘機が突っ込んできたではないか。
辺り一帯は窓ガラスの破片のみならず、駐屯地であるこの建物の白い壁のコンクリートや、突っ込んできたルネ軍戦闘機の破片が散乱。
窓の方を見ながら歩いていたジェファソンは、突撃してくるルネ軍戦闘機を捉えていた為、寸のところでロゼッタに覆い被り、2人共死を免れた。


ドドドド…!

戦闘機のエンジン音が直ぐ傍で地響きのように聞こえる。


ビー!ビー!

駐屯地内には侵入者を感知したレーダーが作動した故、鳴り響く奇妙なサイレン。
パラ、パラ…、と建物の天井からコンクリートの破片が崩れ落ちてくるから、ジェファソンは今も尚ロゼッタに覆い被さり彼女を庇っている。
だが小柄なロゼッタはスルリとジェファソンから離れると、突撃してきたルネ軍戦闘機へ生身のまま自ら駆けて行くのだ。ジェファソンは目が点になり、声を裏返らせて叫ぶ。
「ロジー!!」



























一方のロゼッタがルネ軍戦闘機前に辿り着くと、調度機内コックピットが開いて勢い良く現れた軍人。


ガコン!

「いやっほう!久しぶりの飛行は楽しすぎるぜ!なぁ、ガキんちょ!!」


パン!パァン!

コックピットから飛び出してきたと同時に、両手に構えた拳銃でロゼッタ目掛けて乱射してきた半狂乱なルネ軍人。正体は傭兵部隊所属ジャック・ヴォル・グラッドであった。
「っく…!」
「はははは!やっぱり俺みたいな傭兵にはお姫さんの護衛なんぞより実戦の方が性に合うってもんだぜ!」
1年前カイドマルドにてミバラの護衛をして以降行方をくらましていた彼は、カイドマルドと隣国との国境を彷徨っていたところをダイラーに拾われた。愛情は無くなったとはいえ国王ルヴィシアンの妾であったミバラと共に承諾得ず海外へ渡った事やミバラを守れなかった事に対する罰は受けたが、その内容は1年間軍隊から離れる事と給付金額の半減。それだけで済んだのは、哀しくももうルヴィシアンがミバラへの愛情を無くしていたから故であろう。
ジャックとしてそれは命拾いした事ではあるが、ミバラの魂は報われないままだ。




























場面は戻り、ジャックからの乱射を壁に隠れて回避するロゼッタ。ジェファソンは彼女救出の為近付きたいのだが、何せジャックは拳銃を2丁も所持している。とてもではないが、生身では近付けない自分に歯痒さと情けなさで失望。
「ははは!しっかしまあ驚いたぜ。国際…なんつったっけなぁ?そんな大層な組織っつーからもっとこう、プロレスラーみてぇなおっさん軍人達で構成されてんのかと思って来てみれば何だ!?女だしガキんちょが居るじゃねぇか!ははは!こりゃもう国際なんたら様は終わったな!」


ドン!ドン!

まただ。お次もジャック同様、駐屯地へ機体ごと突っ込んできたルネ軍戦闘機。今度は2機同時だ。ジャックをはじめとする全員血の気の多い傭兵達。3VS2となる。
コックピットから姿を現す2人のルネ軍人。
ジェファソンの表情に焦りが見受けられる。新たに現れたルネ軍人達とジャックを交互に見回すジェファソン。
「よぉ、おっさんも国際なんたらの人?じゃあさぁ、」
「首、くれない?」
「国際なんたらの奴の首を持ってこれたら俺ら傭兵から正式な軍人に昇格できるんだぜー」
「ま、俺ジャック様は正式な軍人所謂階級なんつーくだらねぇ称号よりも給料アップすれば良いだけだけどなァ!」
いつの間にか3人のルネ軍人に囲まれ銃口を向けられていたジェファソン。
ガタガタの歯を覗かせ悪魔の如く嗤う3人を前に、ジェファソンは死を見たかのような表情…から一変、声高らかに笑い出す。
「ははははは!」
「なっ…!?」
「何だこのおっさん!死ぬ目前でビビり過ぎて気が狂っちまったのか!?」
「へっ!精神崩壊だか何だか知らねぇけど!撃ちまくろうぜ同胞共!!」


パン!パァン!

一瞬ほんの一瞬の惨劇。
鳴り響いた銃声。吹き飛んだ真っ赤な血液。足下に転がる敵の亡骸をぐっ、とブーツのヒールで踏み潰した勝者は…。
「小僧共が生意気な。ルネの人間は躾がなっていないようじゃな」
「全くだね。狂者ばかりの国だからああなる」
勝者はロゼッタ、ジェファソン。























足下に転がる傭兵3人の亡骸を順々に踏み付けていくロゼッタの悪魔振りに、ジェファソンは溜息。
「それにしてもロジー。拳銃を2丁持っていたんだね。用意周到ってやつだ!」
そうジェファソンが言うように、拳銃を2丁懐に所持していたロゼッタはジャック達がジェファソンを襲撃する直前、彼に向かって拳銃を1丁投げ渡し、同時に自分も合流。素人とは思えぬ銃の腕前で3人を一瞬にして亡き者としたのだ。
ロゼッタはジャックの上に乗りながら拳銃をくるり、と一回転してみせる。
「女王陛下直属警備兼英王国軍軍人ならば当然じゃ」
得意気な彼女に対し、肩を竦めて微笑むジェファソン。
「しかし奴等の機体を見る限り、ミサイル積載数量が異常だ。これではさすがの我国も少し不安じゃ、」
「人様の身体を椅子代わりにしてんじゃねぇええ!!」
「!」
ジャックの身体の上に立っていたロゼッタに対し怒り叫んだジャックは何とまだ生きており勢い良く立ち上がれば、ロゼッタの首を締め付け、壁に背を強く押しつけた。


ダァンッ!!

「ロジー!」
「おっさんは引っ込んでろよ!!」


パァン!

「ぐあっ!」
空いている左手でジェファソンの右腕を発砲すれば彼が手にしていた拳銃も破損。ジャックは嗤う。
























「おいガキんちょ!大国ルネ様に逆らおうなんざ100年早ぇん、」
「たった100年か。ならば大した国ではないようじゃなルネという国は」
「っ…!このくそガキ!」


ドッ、

首を締め付けているジャックの緑の瞳から徐々に光が失われていく。
「っかはっ…、あっ…!」
「ルネ。貴様等の弱点。何となくではあるが薄ら分かってきたぞ」
ジャックの腹にめり込んだロゼッタの持つ拳銃の銃口。銃声も聞こえず彼の腹にめり込ませたまま5発は発砲したロゼッタ。彼女の細い首を締め付けていたジャックの手は放れ、彼はそのまま其処へ倒れた。


ドサッ…、

白目を向いているジャックに顔を近付けてじっくり見ているロゼッタに繋がる無線の通信。


ガー、ガガッ、

黒の小型無線機から繋がるイヤホンを両耳につけるロゼッタの表情は厳格。
「…了解した」
低い声でそれだけ言うと、ジェファソンを手招きして走り出す。しかし先程ジャックに撃たれグレーのスーツの右腕部分が真っ赤に滲むジェファソンは腕を押さえながら彼女の後に続くが、顔色は真っ青。
「ロジー!言っておくけれど私は負傷している事を知っているかな!?」
「熟知しておる」
それでも尚彼について来い、とばかりに駐屯地内を駆け抜ける彼女には、怒鳴る気力すら失せてしまったジェファソンであった。




















































国際連盟軍加盟国
アメリカ合衆国ワシントン上空―――

連盟軍の包囲網をあっさり突破してしまったルネ軍と連盟軍との激しい交戦が繰り広げられている。


ドン!ドンッ!

上空から次々と降り注ぐ火の粉の雨は、近代的な高いビルなどいとも簡単に倒壊させていく。国中に鳴り響くサイレンは鳥肌をたたせる奇妙さが漂う。
「ワシントンの空が赤く染まる…」
交戦中のジョバンニ大佐が機内から覗いた空は、まるで夕焼けが広がっているようだった。






























一方のダイラー。
「くっ!ジャック達傭兵部隊が連盟軍駐屯地に特効を仕掛けただと!?あの馬鹿共。勝手な事をし、戦力を減らすだけのお荷物部隊ではないか!」
その腹立たしい怒りの矛先は彼に攻撃してきた連盟軍戦闘機に向けられた。


ドンッ!!

真っ赤な炎を上げて大破した連盟軍戦闘機の脇を通り過ぎようとしたその時。レーダーが感知するよりも早く、連盟軍のあの曲がるミサイルがダイラー機の目の前に現れた。爆発の煙に隠れ、ミサイルを見つける事ができなかった。体勢を崩しながらも何とか左旋回して避けてみせるが、これはあの曲がるミサイル。
体勢を崩しやっとの事で回避したダイラー機に二度目の回避は困難。
「ぐっ…!」
――こんな子供騙しの玩具ごときに私が…!――
「ダイラー将軍!」


ドン!

通信に繋がった少年の若々しく高い声と同時に、ダイラー機の目の前で、あの曲がるミサイルが爆発。
何事かとダイラーが目を開閉すると接近してきた同胞の機体。こちらから映像付きのオープンチャンネルを繋げる。
「メッテルニヒ少佐か!」
「お、お怪我はございませんか将軍」
ダイラーのピンチを救ったのは、東京駐屯地部隊のメッテルニヒ少佐であった。少佐に着任してから日は浅くオドオドしている若者にピンチを救われた事に、将軍である自分の不甲斐なさを痛感。
「まだ未熟な若造に救われるなど私は将軍失格…反面」
ダイラーは顔を上げる。其処にはメッテルニヒが搭乗した機体。
「ルネ軍の未来は明るいという事でもある!」
些か前向き過ぎるか?とほくそ笑みながら呟いたダイラーは、まだ若い少佐メッテルニヒに戦場での上官の役目を教える為、連盟軍と再び激しい交戦を繰り広げるのだった。




















































同時刻、ワシントン
連盟軍駐屯地内―――

「ご無事でありましたかジェファソン国防大臣!ロゼッタ警部!」
「我国は軍と警察は分化しておる。故に私はもうスコットランドヤードの人間ではない」
「し、失礼致しましたロゼッタ代表…」
2人の安否を気に掛け駆け付けてきた連盟軍の部下にも容赦ないロゼッタに、ジェファソンは肩を竦めて笑う。だがすぐに真剣な顔付きに切り替わる。
「平和維持部は!?」
「彼らとの合流報告はまだ受けてはおりません。が、イギリス軍によりますと既に出撃したとの報告。次期に合流するものと思われます」
ジェファソンはそうか、と安堵した。













































太平洋上空――――

「待機してろと言われてもイギリス軍が来る気配は無いじゃないか」
他国の連盟軍加盟国がアメリカ本土へ援軍として到達する前に迎撃せよ、とのダイラーからの命令により太平洋上空にて待機中の若いルネ軍。暇そうに機内で欠伸をする者も居る。そんな時だった。


ビー!ビー!

待機部隊全機に鳴り響いたサイレン。モニターに目を移せば、敵機を示す赤の点が無数にアメリカへと迫っているではないか。迫り来る敵機をカメラで捉えて拡大。
「白地に…連盟軍国旗!ビンゴ!」
ルネ軍人は捉えた敵機を見つめた途端、口が裂けんとばかりに嗤った。迫り来る敵へわざわざこちらから立ち向かって行く。一斉にミサイルを乱射。


ドドドド!!






















一方の敵機は、国際連盟軍内に設立された平和維持部の機体であった。
アメリカが襲撃された事により出撃した平和維持部。何を隠そう平和維持部の役目それは、不当な理由で他国を侵略しようとする国に対し、制裁を下す事。故に、行動範囲が現場のみに限られる部隊だ。
平和維持部官庁補佐である大柄でブラウンの肌をして、黄土色の長髪を三つ編みで一つに束ねた男性『ルーイ・ダレス・グルノヴァ』彼の厚い唇が薄く開き、部下達へ発した言葉。
「…行く」
ただそれだけを合図に、平和維持部は寡黙なルーイ官庁補佐と共に戦禍へと加わった。





















































ヨーロッパ上空―――

国際連盟軍国旗が描かれたシルバー基調の戦闘機で旋回する平和維持部の人間1人。カイドマルド王国上空を通り過ぎ、只今ドイツ上空を旋回中。


ガー、ガガッ、

通信が繋がるノイズがして、耳に装着した無線機のイヤホンに手を添える。
「こちら平和維持部官庁」
「出撃したようじゃな。お主は後攻部隊らしいが」
「…はい」
「緊張しているようじゃな。何、すぐに慣れる」
ロゼッタからの通信。
彼女の"すぐに慣れる"この一言に平和維持部官庁はピクッ…と反応すると今以上に顔は青ざめ、震え出す。
「慣れる…というのは何にで、」
「人を殺す事じゃ」
「!!」
官庁の言葉を遮ったロゼッタのその回答。官庁はショックと不安のあまり過呼吸にも似た症状を起こすが、通信の向こうのロゼッタは平常心。
「っはぁ、はぁ…!」
「…初陣じゃ。英国軍で鍛えた貴公の健闘を祈っておるぞマリー・ユスティー官庁」


ブツッ!

耳障りな通信遮断の音。



























「はぁ…はぁっ…」
未だ機内で胸を押さえ、乱れた呼吸のままの平和維持部マリー官庁。
機体はオートで飛行させ、まずは自分の精神状態を安定させる事を最優先させる。連盟軍軍服である白地の軍服を着用した彼女は静かに目を瞑り、自分の鼓動を聞く。


トク、トク…

生きている。
生きた心地など欠片もしない機内ではあったが、自分の生を確信すると静かに目を開く。
「…大丈夫。大丈夫。わたくしはもう…矛盾しないと決めました。だから…」


ビー!ビー!

「!?」
機内に響き渡った敵機感知のサイレン。初めてのこの音に目を見開き機内をキョロキョロ見回すマリー。だが落ち着き、イギリス軍で訓練した内容を順々に思い出していく。
「敵…機。モニターを見て敵機の位置と速度を確に…!?」
モニターを確認してみれば、敵機を示す赤い点は一つではあるが、接近速度が異常だ。たった今までモニターにも映っていない程の遠方に居たというのにもうマリーの機体のすぐ傍まで接近している。速過ぎる。

























まるで獲物を見付けたチータのような高速度の敵機にマリーは不安でいっぱいだというのに、敵機が急接近する故サイレンも速くなり、更にマリーを不安にさせるのだ。


ビー!ビー!ビー!

「いや…いや…わたくしには…!」


ガッ!

「きゃあああ!」
そうこうしている内に、人型形体へ変型した敵機のサーベルをおもむろに食らったマリーの機体。
大きく揺らぐ機内で悲鳴を上げるマリーに容赦なく攻撃してくる機体を、前方のカメラが捉える。深い緑色をした戦闘機に記された青地に黒十字の国旗…
「カイド…マルド軍…?きゃあ!」


ドンッ!

容赦ない攻撃にやられっぱなしのマリーではあったが、手探りでミサイルや砲撃を繰り返す。だが相手はそれらを難なく回避し、サーベルのみで立ち向かってくる。その姿はまるで西洋の騎士。





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あきゅろす。
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