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症候群-追放王子ト亡国王女-
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カイドマルド王国―――

「日本国は実質ルネ領日本となり…」

「日本負けちゃったんだってー」
カーテンを閉めきった真っ暗な部屋のテレビから流れるニュースを見ながらワイシャツのボタンを閉めていくヴィヴィアンの顔が、テレビ画面の明かりに青白く照らされている。
そんな彼の後ろに在るベッドの中から、毛布に包まったラヴェンナが怠そうに顔を覗かせる。髪を解いた彼女は長いその髪を乱したままボーッとした眼差しでテレビ画面を見つめている。
一方のヴィヴィアンはというと、白のワイシャツに黒のスラックスという簡単な服装のまま、テレビ画面の前で右腰に手をあてながらニュースの内容に釘づけだ。


キュッ、

紅色のネクタイを絞める。すると画面に、日本を自分の領地とした事を盛大に伝えるルヴィシアンの姿が映し出された途端ヴィヴィアンは目の色を変え、不敵に笑む。左拳に力が込められた。
「…テレビ消せ。眩しくて眠れない」
「はいはい。失礼しました」
ラヴェンナの擦れた小さな声に返事をし、軽い調子でリモコンでテレビの画面を消す。


ブツッ!

テレビには背を向け、ラヴェンナが包まっているベッドの上に膝立ちをして乗り、彼女を見下ろす。キザな笑みを浮かべながら。


ぐいっ、

するとラヴェンナは気怠そうにしながらも彼の方を向き、紅色のネクタイをぐっ、と自分の方へ引っ張った。
「何?」
ヴィヴィアンが尋ねれば、ラヴェンナは彼にしか聞こえない小声で囁く。途端ヴィヴィアンは、ふっ…と笑み、ベッドから下りる。床に散らばった彼女の服や下着を几帳面というくらい綺麗に畳めば、ベッド脇のテーブルの上に重ねた。
「じゃあね」
紅色の分厚いカーテンの間を通り、ヴィヴィアンは部屋を後にする。













































カイドマルド城廊下―――


カツン、コツン、

夜分遅いという事もあってか、静まり返った暗がりの廊下にヴィヴィアンの靴のヒール音だけが響く。
「ルネ、連盟軍、日本…。はは、僕の国は全く眼中に無いみたいだね。まいったなぁ。まぁカイドマルドを建て直すまではそっちの方が有難いんだけど少し残念かな」
「相変わらず独り言が多いわね!」
刺のある言い方と声で自分の背後に現われた人物が誰かすぐに分かった。ジャンヌだ。
すぐ様そちらへ振り向けば愛想よく振る舞ってみせるが、ジャンヌはやはり嫌そうにヴィヴィアンを見ている…というより睨み付けている。
「やあやあこんばんはベルディネ嬢。こんな夜分遅くに女性が1人出歩いていたら城内といえど危ないですよ?」
「そうね。あんたみたいな変態がこの城には居るものね!」
べっ、と舌を出すジャンヌを前にしてもヴィヴィアンは、ははは、と軽く笑い飛ばすだけだから彼の心情を探り辛い。
するとヴィヴィアンは突然手をポン、と叩く。何かを思い出したかのように。
「あ、そうだそうだ。この前君に言った言葉を取り消しておいてくれないかな?」
「…はあ?何よ?あんた私に何か言った?」
「いや、覚えていないなら良いんだけど。あの日は酔っていたからって君にあんな事を言ってしまったのは僕が僕を許せなくてね」
「はぁ!?あんたねぇ!女の子にあんな事を言っておいてやっぱり取り消しておいてだなんてよく言えるわね?男の風上にも置けないわね!最っ低!」
「え、覚えているんじゃないか」
「!!」
「君って結構面白い性格しているよね。腹立つけど」
「うるさいー!!」
顔を真っ赤にし、元からつり上がった目を更につり上げて、ヴィヴィアンの足を白のヒールでグリグリと力強く踏み付ければ、ヴィヴィアンは目を見開きとても痛がるから、ジャンヌは勝ち誇った笑みを浮かべながら腕を組む。























だが、何かを思い出したかのようにあっ、と声を洩らした。
「痛っ…」
「そういえば。今日であんたとはお別れ。じゃあね」
「痛っ…え?」
痛みが癒えてきたのか、顔を上げたヴィヴィアン。ジャンヌはくるりと背を向けた。
「日本だってルネ領になったし、もう君を引き取ってくれる場所は無いよ?」
「私はアンネと2人で生きるわ。もうね、ベルディネが戻ってこない事も充分分かった」
「今更?」
「うっさいわね!とにかく私はね、アンネみたいな戦災孤児の子達の母親になりたいの」
「はは、また君らしい平和主義な考えだね。そっか。じゃあやっと君とは永久に会う事が無くなるってわけだね」
「そうね。あーあ。清々したわ本ッ当!」
長い髪を靡かせスタスタと歩いて行くジャンヌの細い背が遠くなっていく。ヴィヴィアンも背を向け、互いに別方向を歩いて行った。だが、突然2人足を止めて同時に振り返る。そのタイミングが同時過ぎて最初は目を見合わせ、ポカン…としていた2人だったが、いつの間にか2人からは笑い声が上がっていた。
「はは、何?まだ何か言い残した事でもあったの?」
「それはあんたの方でしょ?あはは!」
笑いもおさまり、2人は呆れたように…だがどこか人間らしい明るい笑顔を向け合う。すると、打ち合わせでもしていたかのように2人声を揃えて、同じ言葉を口にした。
「今までありがとう」
同時に背を向け、今度こそ互いに別々の方向を歩いて行った。




































ヴィヴィアンが1階へ降りて書斎へ向かおうとしたその時。人の気配を感じて、顔を上げた。
「マリー、おかえり」
この前程の冷たさは無いが、やはりどこか彼との間に冷たい距離感を感じながらもやって来たマリーは、エミリーを抱き抱えたままヴィヴィアンの前に立つ。
「お疲れ様。イギリスとの同盟はどうだった?」
「も、申し訳ございませんヴィヴィ様…わたくしもう一度イギリスへ行かなくてはいけませんの…」
それは未だ同盟を締結できていないという意味。ヴィヴィアンは目元をピクッ…、と痙攣させるが、気味悪い程の明るい笑顔を保つ。
「はは、大丈夫だよ。何も焦る事はないんだしさ。じゃあ二度手間になるけど、また頼んだよ」
「そ、それでヴィヴィ様!エミリーを預かっていてはもらえませんか?」
突然慌てた様子で早口でそう言い、エミリーをヴィヴィアンに差し出すマリー。彼女は先程から一向にヴィヴィアンと目を合わせようとはしない。
「エミリーを?良いけど…次イギリスへ行く時は長旅になりそうなの?」
「…はい。とても長旅になりそうなのですわ…」
そこまでかかるものか?と疑問を抱くがそれはすぐ一瞬の事で、結果的に同盟を締結してもらえればそれで良い。と考えたヴィヴィアンはエミリーを受け取る。
途端エミリーはぐずりだし、終いには泣き出してしまうからヴィヴィアンはしどろもどろ。
しかしマリーはあやし慣れているからエミリーの頬をツンツンつつけば、エミリーは嘘のようにきゃっきゃとはしゃぎ出す。



























「あ、そうすれば泣き止むんだね」
「はい。でもお腹が減っている場合はこうしても泣き止みませんの。ね、エミリー?」
笑顔を向け、また頬を突けばエミリーはご機嫌。ヴィヴィアンのネクタイをぐいぐい引っ張り出したかと思えば、お次は一つに束ねた彼の髪を引っ張りだすから、マリーはあわあわしている。さすがのヴィヴィアンも赤子相手に苦戦中。
「痛たた、エミリーは本当に元気だね」
「エミリーは何でも引っ張りたがりますの。だからわたくし、髪を結んでいるのですわ」
「そっか。じゃあ僕は髪を切ろうかな」
エミリーをあやす2人の間に昔の暖かな雰囲気が漂っていた。このまま時が止まれば…とさえ思ったマリーだったが、ハッ!と目を見開き我に返ると、重たい鞄を手に持ち、ヴィヴィアンに背を向けてしまう。
「わ、わたくし行ってきますわ」
「あ、うん。気を付けてね」
忙しなく…どこか逃げるように駆けて行くマリーだが、ふと立ち止まると咄嗟にヴィヴィアンとエミリーの方を振り向いた。
「ヴィヴィ様…!」
「ん?」
口籠もりながらも紫の瞳を何故か潤ませながらもやっとの事で口を開く。
「徹夜ばかりして風邪をひかないで下さいね!お仕事も無理をし過ぎないで下さいね!悩みを1人で抱えたりしないで下さいね!どんなにお忙しくても三食きちんと摂って睡眠もしっかり摂って下さいね!」
早口で言ったマリーを前にポカン…と唖然のヴィヴィアン。
「あはは。そんな、一生の別れじゃないんだから」
思わず笑ってしまったヴィヴィアンに対し、マリーは未だしょんぼりしていて紫の瞳からは涙が今にも零れてしまいそう。
そんな彼女の心情が読めないが、ヴィヴィアンはにっこり優しい笑顔を向けてあげた。
「でも…心配してくれてありがとう」
その言葉はマリーの胸を痛めたが彼女は返事はせず…いや、返事をしたら涙が溢れてしまうから返事ができず背を向け、駆けて行ってしまった。


タタタタ…、

美しく輝いていた満月に黒く重たい雲がかかり、月明かりを頼りにしていた廊下が陰る。ヴィヴィアンはエミリーをあやしながら自室へ戻ろうと歩き出すが、一度後ろを振り向いた。しかし其処にはもうマリーの姿は無かった。














































































「マリー!」
雲一つ無い青空の下。ピンクや黄色、白の小さな可愛らしい花々が咲く花畑。
ヴィヴィアンは摘んだばかりのピンクと白の花を束にして、少し離れた所で蝶々と戯れているマリー目掛けて駆けて行く。
そんな彼の足元では、彼が踏んだ為萎れてしまった花達。そんな花達の事はお構い無しにマリーの元へ駆けて行けば、マリーはヴィヴィアンに気付くと顔を上げてこちらを見て優しく…そうまるで天使の如く微笑みかけてくれる。2人しか居ない世界。
「マリー!君の為に花束を作ったんだ!」
「まあ!とても嬉しいですわヴィヴィ様」
「っ!?」
後少しでマリーの元へ辿り着くそんな距離でヴィヴィアンは目を見開き、歩みを止めてしまう。何故ならマリーはこの平和な花畑にはとても似合わない、そしてマリーにはとても似合わない拳銃の銃口をヴィヴィアンに向けたのだ。

























「マリー…?はは…何の冗談?何でマリーが僕に銃を向けているの?」
「ヴィヴィ様、足元を御覧下さいな」
「足も…っ!!」
言われた通り足元に視線を落とせば、先程踏み潰した花達が血を流した死体に変わっていたのだ。死体達はヴィヴィアンの脚に掴まり引っ張りながら、まるで彼を死の世界へ導こうとしている。底無し沼にはまったかのように藻掻くヴィヴィアン。
「やめろ!気味の悪い奴らめ!僕に触れるな!」
「その方達はヴィヴィ様に殺された方達です」
「マリー!?」
声を裏返らせ必死に彼女の名を呼ぶが、マリーは未だ銃口を向けたまま。彼女の視線が酷く冷たい。
「ヴィヴィ様がわたくしの為に花束を作って下さったのなら、わたくしはヴィヴィ様の為に貴方を撃ちます」


カチャッ…、

マリーの手が拳銃の引き金を引く。
「マリー!!」


パァン!
































「マリー!!」
彼女の名を叫びながら飛び起き、目を見開いたままで乱れた呼吸。全身に冷や汗をかいていた。
肩で呼吸をしながらゆっくり辺りを見回せば其処は自室の寝室で、真っ暗な静かな夜。自分の隣では、すやすやと寝息をたてて眠るエミリー。ヴィヴィアンは安堵の溜息を吐く。
「夢、か…」
今見ていた花畑でのマリーとのやり取りは全て夢だった。
冷や汗でぐっしょりの気持ち悪さを排除する為、フラフラと覚束ない足取りでシャワー室へ歩いて行く。


バタン…、

静かな深夜にシャワーから勢い良く噴き出すお湯の音。髪をずぶ濡れにしたまま鏡を見れば、光を失った右目に手をそっ…、と触れ、久々に自分の顔を見た。途端自嘲する。
「誰かさんみたいな目付きになってきた気がする事とあの夢は僕に対する神からの警鐘…かな」


バサッ、バサッ、

お湯に打たれながらヴィヴィアンは自分で自分の長く伸びた髪を切っていった。足元に散らばる自分の真っ黒な髪。昔のボブへアーに戻した。だが、自分が昔の自分とは全く違って見えたヴィヴィアンは鼻で笑う。
「…もう後戻りできない。そういう意味なんだね」
















































































1年後―――――

「御覧下さい!あれが我らがルネ王国軍新型戦闘機です!」
第三次世界大戦から1年後の3月。快晴の下、大量の戦闘機と大勢の軍人がルネ城前を大行進。新型戦闘機のお披露目会を含めた所謂軍隊パレードが行われていたルネ王国。これは国威を世界へ示しているとも捉えられる。
































ルネ城―――

赤ワイン片手に前後左右から若い女に囲まれ、窓の外を眺めるルヴィシアン。その足下で跪いているアマドール。ルヴィシアンは嗤った。
「第四次世界大戦開戦の鐘が鳴る日も近いだろうな」
































ルネ城前、
軍隊パレード――

行進する軍人達の先頭で先導するダイラー。彼は空を見上げ、力強く敬礼した。亡くした部下達に捧げる敬礼を。

















































ルネ王国クルーレ町
とあるバー―――

「ったくよぉ!何が新型戦闘機だ!何がパレードだ!全部俺ら庶民の金巻き上げて作ったんじゃねぇか!」
農夫達は軍隊パレードを中継しているテレビを前に、文句を繰り返す。


ギィッ…、

そんな時バーの扉が開く音がして、1人の金髪に近い茶髪の女性レイラ・ユスハ・リーラが、やって来た客を案内した。すると客人を農夫や農婦達は拍手喝采で迎え入れる。客人は息を吸った。
「僕は国民の為、兄上達に抵抗する為、革命軍を発足する!」
「よっ!その言葉を待っていました!ヴィクトリアン・ルイス・ルネ!」






















































ルネ領日本、
京都日本革命軍秘密地下室―――

「慶司様、こちらでございます」
水の滴る灰色のコンクリート製階段を中年男性に連れられ降りていくと、最奥部の重たい扉が開かれた。


ギィッ…、

「…こいつか」
「左様でございます。ルネへ抵抗する為こやつからルネ軍の情報を吐かせる為、この地下室で日本対ルネ戦から1年間拘束しておりました」
身体を灰色の手枷や足枷で壁にくくりつけ拘束され口を塞がれた1人の金髪に緑色の瞳のルネ軍人を前にした慶司は、鬼の形相でその人物を睨み付けた。





















































イギリス―――

快晴の下、学生達が集う賑やかな大学。ブルームズベリーカレッジは由緒正しき歴史ある大学であり、まるで大聖堂を思わせる造りが有名だ。
教科書を抱えながら楽しげに友人と校舎外へ出ていく学生達の中、1人の金髪に青い瞳の無表情な学生は眼鏡を外して教科書を鞄にしまうと、白の愛車に乗り込み、大学を後にした。















































カイドマルド王国カイドマルド軍本部―――

今日も汗水流し軍事訓練に励むエドモンド達カイドマルド軍。右腕を失ったが技手を付けて軍人に復帰した彼エドモンド。だが、やはり技手と自分の肌とが触れ合う箇所に何度も堪え切れぬ激痛が走る。しかしそれを笑顔で吹き飛ばしてしまうところは彼にしかできないだろう。
「はい!じゃあ今日の訓練はここまで。お疲れ様!」
訓練終了。軍人達は皆宿舎へぞろぞろと戻って行く。そんな軍人達に紛れてやって来た3人の客人を見つけた途端、エドモンドは微笑みかける。
「三世代お揃いでようこそフェルディナンド社様!」
やって来たのは軍事会社フェルディナンド社社長ロバートとドロシー、ケイティの3人だ。ヴィヴィアン即位後初対面となる彼らを前に、エドモンドはケイティの頭を撫でてやる。
すると、相変わらず無愛想なドロシーが新型戦闘機の図案資料を数枚黙ってエドモンドに手渡せば、彼はそれらに一通り目を通した後、ロバートとドロシーを見る。2人はただコクン、と頷くだけだ。
エドモンドは資料片手に、快晴の空を見上げた。
「この新型が空を舞う頃、世界はどこまで乱れているんだろうね…」
















































カイドマルド城内―――

3階のとある一室テラスにてコーヒーを口にしている珍しい黄緑色の髪をした少年が1人。その少年のティーカップに新しい温かなコーヒーを注ぐ黒髪の少女が1人。
少年は少女に頭を下げてコーヒーを口にすると、快晴の空を見上げた。憂鬱そうな瞳をして。












































カイドマルド城内、
一方――――

「ちょ、痛い痛い!」
エミリーを抱き抱え赤い服に正装し、右目を黒の眼帯で隠したヴィヴィアンと、その隣を歩くアントワーヌ。切ってから髪は伸ばさないと決めたヴィヴィアンだが相も変わらず髪を引っ張ってくるエミリーにはお手上げ状態の彼を、アントワーヌは笑む。
「僕が子守りだなんて絵にならないよ」
「はは、やはり貴方様は前線へ出ているお姿がお似合いかもしれません」
そんな他愛ない会話はここで終わり。歩きながらアントワーヌは資料に目を通し、話し出す。
「ヴィヴィアン陛下即位後約1年が経ちますが、国民からの現在の支持率は78%。順調と言えましょう」
「でも下がったよね」
自嘲しながら言うヴィヴィアンには微笑みかけてその場を流し、アントワーヌは次の話題を持ち出す。
「家屋等の建造物の復興にはもう少々時間がかかりますが、徐々に復興しつつあります」
「うん。じゃあまだ戦禍に加わらない方が良いよね。出費がまだまだあるわけだし。まあ、何処の国も僕らなんか眼中に無いみたいだけど」
また自嘲したヴィヴィアンには返す言葉など無いアントワーヌ。



























「ふぇっ…ふぇ…」
そんな時、突然ぐずり出したエミリーをあやすヴィヴィアン。そこで彼がポツリ…と呟いた言葉は。
「マリー、どうしたんだろう…」
マリー。彼女がヴィヴィアンに使われて同盟を結ぶ為にイギリスへ向かってから約1年。音信不通なのだ。彼女がエミリーを自分に託した事や、去り際に今生の別れのように自分に告げた言葉も気になるし、何より、あの悪夢も気になる。
浮かない表情のヴィヴィアンを横目で見ながらもアントワーヌは続いて最後の話題を持ち出す。
「最後となりますがやはり連盟軍でしょうか。彼らの標的はあくまでルネ。しかし要注意対象の一つで、」
「お取り込み中失礼致します国王陛下!」
アントワーヌの言葉を遮りやって来た中年男性は軍人上がりのヴィヴィアンの側近の1人『ゴーガン』だ。敬礼をしてヴィヴィアンの前にやって来たゴーガンは黒の受話器の子機を持っている。
「電話、かな?」
「左様でございます」
ヴィヴィアンが子機を受け取るとアントワーヌは一歩後ろへ下がり、ゴーガンも同様に下がる。
























「…もしもし」
「初めての会談となるな。ヴィヴィアン陛下」
高い声は少女のものか少年のものか。名乗らない相手に対し、ヴィヴィアンの目元がピクッ…、と痙攣する。名乗れ、そう口にしようと口を開き欠けたが…
「名乗らぬ私に苛立ったじゃろう」
「…っ!」
お見通し。その口調にすら腹立たしいヴィヴィアンはギリッ…!と歯を鳴らす。
「どなたかは存じ上げませんが、相手の心情を読み取った上でまた相手を苛立たせるだなんて素晴らしいですね。はは、僕にはそんな事とてもできませんよ」
ヴィヴィアンお得意に皮肉ってみせる。相手が黙り込んだので内心ガッツポーズのヴィヴィアンだったが…
「常にそのような挑発的態度を続けるようならば、お前の国はいつか我が国際連盟軍の標的になるであろう」
「連盟…軍!?」
思わず口に出してしまったヴィヴィアンの言葉に、傍に居るアントワーヌとゴーガンも目を見開いて驚愕する。
「まあ今のは軽い冗談じゃが、もしも我が軍に抵抗するなんて事があればその時はお前の国が海に沈む時だろう」
「今世間を騒がせている国際連盟軍の方が僕…いや、カイドマルドに何の御用でしょう?」
「私は用など無い。お前に用がある奴が居る。それだけじゃ」
そう言うと通話の相手はヴィヴィアンに用があるという人物を呼びに行ったのだろうか、しばらく応答が無い。ヴィヴィアンは眉間に皺を寄せて待つ。

























だが、再び先程の通話相手が出たのでがっくり肩を落とす。
「待たせたな。やっぱり話したくはないそうじゃ」
「はぁ?何ですかそれは。そちらもお忙しい事と思いますが、僕も暇ではありませんので」
そう手短に済ませ、通話をこちらから一方的に切ろうとした時。電話の向こうから声が、した。聞き覚えある大切なあの声が。
「ヴィヴィ様…」
「…!マリー!?マ、」
「平和主義で口先だけのわたくしも平和の為に行動を起こしてみましたよ…」
「マ、」
「わたくしマリー・ユスティーは国際連盟軍平和維持部官庁。カイドマルド王国が不当に他国を侵略するようならば、わたくしはヴィヴィアン・デオール・ルネ貴方の敵です」






























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あきゅろす。
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