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症候群-追放王子ト亡国王女-
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同時刻、東京―――

空襲警報が鳴り響き、共に爆撃音と人々の悲鳴が響き渡る東京の空は真っ赤に染まっていた。真っ赤な空から降注ぐ真っ黒な悪魔達は、人々の命をこれでもかという程次々と容赦なく奪っていく。
しかし、日本もやられてばかりではいられない。東京基地だけでなく神奈川基地や千葉基地からの援軍もやっと到達した日本軍が立ち向かう敵は、マリソン率いるB隊。真っ赤な空を飛び交い、飛行形態から人型形態へと変型し、ぶつかり合う戦闘機達。


キィン!!

マリソンが日本軍と、火花を散らしサーベルとサーベルでぶつかり合っている。ここでわざと敵の日本軍パイロットへ映像付きのオープンチャンネル通信を繋げた。


ガー、ガガッ、

「あははは!ちょーっと準備不足だったんじゃない?ほらほらぁ!援軍が来るのが遅いから日本の辺り一面焼け野原よ?」
「黙れ!」
「ふふ、その言葉そっくりお返し…するわ!!」
ガッ!と鈍い音がしたかと思えば、サーベルは日本軍戦闘機の調度コックピットを貫通。機内でどのような事態が起きているかなど想像がついてしまう。
サーベルをおもむろにくらった日本軍戦闘機から青の火花がバチバチと音をたてれば、マリソンは自分のサーベルを引き抜き、日本軍戦闘機から離れた。と同時に盛大な爆発音をたてて塵となった日本軍戦闘機。


ドン!!ドン!



























「あ…あぁ…そんな…」
同胞の残虐な最期を前に怖気付いてしまったのか其処に日本軍は居るが、一向に近付いてはこなくてこちらとの距離をとっているのだ。機内でマリソンは声高らかに笑う。まるで、いや本当の狂者。
「あははは!"黙れ"って貴方達でしょう?私達ルネについていれば万が一他国に攻められても私達が守ってくれる。経済面だって何処の国よりも安定。なのに裏切っちゃったんじゃない。貴方達日本が。ねぇ?」
「こちらヴィルードン、こちらヴィルードン」
「ヴィル君?そっちは順調?」
「順調過ぎてつまんないっすよ!」
「ふふ!じゃあお次は何処を潰しにいきましょーか?」
未だ日本軍が居るというのに。東京戦は終わっていないというのに。マリソンはヴィルードンをはじめとするB隊の半分以上を東京から帰し、別の県へと向かわせたのだ。
あからさまになめられている。だから怒りの沸点に触れた日本軍達。先程までの萎縮していた様子は何処。
「日本をなめるなぁあああ!!」


ドンッ!ドン!

今は怒りを露にした為、高速度でこちらへ向かって砲撃を繰り返してくるし、先程まで躊躇っていた接近戦まで仕掛けてこようとしているではないか。息を吹き返した日本軍を前に、マリソンは不敵に笑うのだ。
「そう。貴方達にやる気を出してもらう為わざと人員を減らしたのよ。…でもまあこのくらいでも時間が余っちゃうくらいかしら?」
マリソンが砲撃用のレバーを力強く引く。


ドン!ドン!ドン!

何と、横一列に並んでこちらへ向かってきていた日本軍戦闘機を砲撃だけで約10機、端から順に綺麗に撃墜させたのだ。
その後1時間が経過し、東京は本当の焼け野原と化してしまったのだった。


















































時は経ち、
約1ヶ月後―――――

1ヶ月が経過しようとしているルネVS日本の戦争。
ルネ相手にここまで保てているというのは奇跡としか言い様が無い。しかし日本軍の方は多くの戦没者を出してしまっているし、現在健在の軍人達も疲労困憊の色を隠しきれない。
軍人だけではない。国民の犠牲者は日々増加していく上、焼け野原と化した都道府県は多数。しかし最も狙われやすい王家の在る都の京都は未だ何とか健在だ。それはやはり守りが堅いからだろうが、それも時間の問題だろう。
































京都、都城―――

「くっ…!現在戦闘不能地域はどのくらいだ!」
イラ立ちと焦りを隠せない国王に妾が寄り添うのだが、今日ばかりはそれすらも邪険に扱う国王の動作からして、本当に危機的状況という事が目に見える。
国王に問われた司令部の若い男性軍人が資料に目を通しながら淡々と答えていく。
「現在戦闘不能地域を答えるよりも戦闘可能地域を答える方が早いでしょう」
「ええい!どちらでも良い!早くしろ!」
「承知致しました。現在戦闘可能地域は京都、福島、神奈川、山口、福岡、佐賀、鹿児島、沖縄の8つとなっております。梅様が政治学を学ぶ為滞在中の神奈川は未だ大丈夫の様子です」
10も無いその少なさに国王は驚愕。言葉を失った。
「国王陛下如何なさいま、」
「国際電話だ!」
そう怒鳴り、慌てた様子で立ち上がった国王が手にした電話の受話器。彼が何処へ電話をかけるつもりなのか分からずにいる若い男性軍人が首を傾げている間にも城は縦に大きく揺れる。国王は舌打ち。
「国王陛下。我が国に他の同盟国など、」
「まだ分からんのか!連盟軍だ!国際連盟軍に援軍を要請するのだ!」
言葉の通り、国際連盟軍加盟国内のとある一国に電話をかけている間も落ち着かない国王からは相当の焦りと不安が伺える。
























その時。連盟軍加盟国の国イギリスが電話に出た。途端、今まで死んだ魚のような目をしていた国王の目が輝きを取り戻す。
「何じゃ」
「国際連盟軍!今すぐ我が国日本を助けてくれ!1ヶ月もあのルネとやり合えてはいるが、我が国が沈むのももう時間の問題だ!人助けだと思って。なぁ?同胞よ…!」
「連盟軍代表兼責任国家はアメリカじゃ。我国ばかりに頼るな。アメリカを頼れ」
「そ、そんな事を言うでない…!いや、やはり米国とは過去に…なぁ?」
「……」
黙り込んでしまった相手イギリス代表に対し内心イラ立ちを隠せないが、ここでこちらが腹を立たせてしまえば確実に援軍を出してはもらえなくなってしまうから、堪えるのだ。国王はイギリスのご機嫌取りをしようと必死。それは引きつった笑みを浮かべる彼の表情からも分かる。
「そこを何とか頼む!これから同胞となるのだろう?貴国が危機的状況の時は勿論我が国から援軍を出す!なぁ、イギリス代表!」
「アホじゃな」
「な…!?」
電話の向こうから聞こえてきた、フッ、という小馬鹿にした嗤い声とその一言に国王の堪忍袋の尾が限界。
「どういうこ、」
「日本お前達の連盟軍加盟の手続きはされておらぬ。返答期限もとうに過ぎている故、日本は連盟軍の一員では無かろう。戯れ言も大概にしろ。我国は貴様らのように暇では無、」


ガチャン!

乱暴な通話の切り方。国王はイラ立ちを露にして受話器を力強く置くと立ち上がり、若い男性軍人の脇を足早に通り過ぎながらこう口にした。
「遠藤大尉と岡田少将を呼べ!」
「こ、国王様!どちらへ向かわれるのです?」
慌てた様子で国王に駆け寄った妾が肩に触れるがそれをも振り払うと、足早に駆けて行き、部屋を出て行ってしまった。


































廊下――――

「私だけでも…!いや、私だからこそなのだ…!」
「国王様…?」
廊下を忙しなく歩いていた国王は、慶司の母親である本妻と鉢合わせる。
しかし身体の弱い彼女などもう相手にもしていない国王は、ばつが悪そうに舌打ちをすると、その脇を通り過ぎようとしてしまうのだが…。
「貴方はそれでも武士の血を引く日本人ですか」
「なっ…!?」
本妻の低く力強い声。初めてだ。いつも穏やかで優しい彼女からこんなにも力強さを感じるなんて。


ガシッ!

国王は今行った道を引き返し、本妻を後ろから肩を思い切り掴み、強引にこちらを向かせる。
「貴様!誰に向かって口を聞いて…い、る…」
国王が口籠もるのも納得できる。何故ならば本妻の黄色の瞳は力強く、国王を睨み付けていたのだから。いつも穏やかで怒った事が一度も無い本妻が。まるで慶吾となった時の咲唖の顔付きに、とてもよく似ていた。


パァン!


ドサッ、

口では彼女の威圧感に勝てそうにないから、手を出した。頬を強く打てば、やはり身体の弱い本妻は打たれた衝撃でその場に座り込んでしまうが、未だ彼を睨み付けていた。























「っはぁ…はぁ。わ、私はお前と遊んでいる時間など無い!」
遠くだった爆発音もだんだんと近付いてくる。
「凛様も梅ちゃんも信之君も菊ちゃんも霞ちゃんも…咲唖も慶司も国民も誰1人として逃げなかったというのに、貴方が逃げたら示しがつかないでしょう!」
「黙れ!!」


パァン!!

二度目の頬を打つ音は一度目より酷い音がした。なのに本妻はやはり未だ、国王を睨み付けていた。
「私は国王だぞ!王制国家が王無しで今後どう成り立っていくと言うのだ!それ故日本の中で最も死んではいけないのが私だ!私だけなのだ!違うか!!」


しん…

2人の間に沈黙が起きる。外からの戦争の音と国王の乱れた呼吸音しかしない。ついに何も言い返す事ができなくなった本妻を見下し勝ち誇った笑みを浮かべると、くるりと背を向け、無線片手に再び歩き出す。
「私だ。遠藤大尉、岡田少将準備は良いか?ならばプライベートジェットで私をルネとは一切関わらない国へ送り届けろ。成功すれば貴公らは2階級特進だ。では頼んだぞ」
そう彼が今口にしたように日本が危機的状況の今まさに、国王は自分だけでも国外へ逃亡しようとしているのだ。


グラッ…、

「なっ…!?」
国王が木製の階段を一段降りたその時、彼の大柄な身体は大きく傾く。咄嗟に後ろを振り向けば…
「やはりお前か!私の邪魔をするな!!」
本妻だった。本妻が全身の力を振り絞り、国王の身体を後ろから逃がしはしまいと掴んでいたのだ。暴れ狂う国王の姿は、まるで子供のよう。
「離せ離せ!何故だ!何故私の代だけこのような戦乱に巻き込まれなければいけなかったのだ!!」
「ご自分が産まれた時代を決して恨まないで下さい!」
「生意気な事を言うでない!」
「国民はこの戦乱の時代から逃避する事なく今尚生き続けております。勿論国王様も充分この戦乱の時代を生きました。ならば最期まで生き抜いて下さい!」
「ふ、ふざけた事をぬかすな!」
「私は、死を恐れ敵前逃亡するような貴方に惹かれたのではありません!!」






















































同時刻、
京都上空――――

「っはあ…、はあ」
「慶司君、無事か」
「っ…、はい!」
武藤からの通信に、呼吸を乱しながら返答する慶司も限界だという事を声から察した武藤は口をきる。
「…慶司君。将軍命令だ」
「…はい?」
「君は撤退したまえ」
「なっ…!?待って下さい!僕は軍人だ!王子として見ないで下さい!僕は、」
「上司の命令を無視するようならば軍規違反により、訓練生としてまた一からやり直しのようだな」
「っ…!」
――そう言って僕を撤退させようとしている事くらい分かる!僕はもう子供じゃない。武士なんだ!――
「将ぐ、」
「京都部隊。これより作戦を第3段階へ移行する」
「了解」
慶司をまるで無視するかのように皆に通信を繋げた。同時に皆一斉に、ダイラー率いるルネ軍D隊へ立ち向かって行くその姿はまるで最後の力を振り絞って飛んでいる鳥のよう。
「ぐっ…!」
慶司は口を噛み締めると、飛び立って行った武藤の後に続こうとレバーを握るが…。


ビー!ビー!

「レーダーに敵機の反応…?」
ふと視界に入った、敵機を意味する赤の点が二つだけモニターの端ギリギリに映っている事にたまたま気付いたのだ。慶司がそれに気付かず武藤達の後に続いていたら慶司の機体は敵機観測域から外れ、敵機を見落としていたところだろう。
それは運が良かったのか、はたまた…
「くっ…!!」
敵機を観測した位置それは都城の在る場所から30kmキロ離れていない位置だったのだ。慶司は1人、都城へと飛び立って行った。









































その頃、都城へ向かって旋回中のルネ軍戦闘機2機のパイロットは通信を取り合っていた。パイロットはマリソンとヴィルードン。
「最初からこうすれば良かったじゃないすか」
「えー!デビルナイトともあろうヴィル君はそれで満足なの?」
「はは、いいえ。楽しみが無くて出撃前から憂鬱になるっす」
「でしょ?」
2人が話す内容それは、日本との戦闘が1ヶ月経とうとしていた先日アマドールからダイラーへ直々に届いた通信。その内容は『島国相手にいつまで時間をかけているつもりだ!』とのお叱り。
ルヴィシアンが言ったのかもしれないし、ただ単に腹を立たせたアマドールが言ったのか。誰の言葉かは分からないが、取り敢えず今戦を早く切り上げなければいけないようだ。
連盟軍の件もある。のんびりしてはいられないのだろう。故に、ダイラーは急遽戦術を変更。その為マリソンとヴィルードンは本来ならば今福岡に居るはずだが、こうして京都に居り、都城へと向かっている。
「京都周辺は将軍の部隊が囮となってくれているのよね?」
「マリソン大将、それくらい覚えていて下さい…」
「はいはーい、失礼しました。もうっ!ルネ王室は本っ当せっかちよね」
「あ、見えてきたっすよ」
灰色の煙の切れ間から薄ら見えてきた都城。途端、2人は口元を笑みながらも目付きは軍人のモノへと変わる。
























速度を上げようとレバーを前に倒す力を込めた時。2人の目の前に、雲の下から突如現れた日本軍の白い戦闘機1機。
「なっ!?」


キィン!キィン!!

「ぐああ!」
油断していた2機に向かって近距離でとにかく何度もサーベルを振り下ろし斬り付けてくる日本軍戦闘機。パイロットは勿論慶司だ。
「っ…!マリソン大将大丈夫っすか、ぐああ!」
「ヴィル君!」
慶司の標的がヴィルードンに変われば、彼の機体に容赦なく武士の天誅が下される。それをマリソンが黙って見ていられるはずがなく、すぐ様慶司の背後をとりサーベルを振り上げるのだが、慶司はものの見事にかわしてしまいすぐ様マリソンの背後をとり、斬り付ける。


ドン!!

「きゃあああ!」
西洋の騎士とはまた違った武士らしい剣裁きに、2機は翻弄される。
「ぐっ…!フルーレとは違い武士のちゃんばらにはルールが無いようだな!!」
「武士を侮辱するなぁぁあ!!」
互いのサーベルから青やオレンジの火花を散らし、ぶつかり合うヴィルードンと慶司。それをヴィルードンとマリソンは笑った。
「今っす!マリソン大将!」
「OK!」
「卑怯な真似を…!」
ヴィルードンが慶司と戦い囮となり、その隙にマリソンは都城へと飛び立って行こうとするから、慶司は機体右手でサーベルを持ってヴィルードンと戦い、左手に持った銃機でマリソンへ向けて砲撃する。


バァン!バンッ!

だが、それを彼女は綺麗に全弾避けてしまう。
「くっ…!」
「おっとっとー。余所見は厳禁じゃないんすか武士さーん?」
「ぐあああ!」
ヴィルードンは慶司の機体が傾いた隙を見つけると、間髪を入れずコックピット目掛けてサーベルを突き刺す。























キィン!

けれど、サーベルはコックピットの右側に刺さった為即死は免れた慶司。だが、今の衝撃により大破した機体右側から上がった火花と爆発によって慶司の右腕からは大量の血が流れ、ヘルメットはヒビが入り、額からは生々しい血が流れてそれが視界を霞ませる。
「ぅ…、…だ…、まだ…」
それでも慶司は目を見開き立ち向かっていこうと砲撃レバーを倒すが、起動しない。


ガチャ、ガチャ、

レバーを動かす無惨な音だけがする。
「そんな…!」
今の衝撃により砲撃機能が壊れてしまったようだ。様子のおかしい慶司の機体を前に、ヴィルードンはデビルナイトの顔を取り戻す。
「日本の王子様超パニック状態って感じっすかー?」


ガチャッ…、

向けられたヴィルードン機の砲撃口。こんな近距離じゃサーベルではやり合えない。
自分はここで終わってしまうのか…そんな思いと走馬灯までもが慶司の脳裏に浮かぶ。黄色の目は目の前の恐怖に見開かれている。
「だから英雄の座を独り占めしないでほしいと言っただろう?」
「…え?」


ドン!ドン!

ヴィルードン機が灰色の煙に包まれ、その切れ間から見えた、今慶司に通信を繋げてきたパイロットの機体を視界が捉えた途端、光を失っていた慶司の瞳に光が戻ってきた。
「武藤将軍!!」
そう。慶司のピンチを救った英雄こそ、日本軍将軍武藤。





























一方のヴィルードンはというと、新手であり力のある敵の出現にさすがの彼も顔を歪ませた。
「裏切りモノの分際、で、」
自分の背後に居る武藤の方を振り向き様にヴィルードンが口にした言葉は途中で詰まった。


ドスッ…!

「将軍…!」
慶司の目の前の光景。それは、振り向き様のヴィルードン機コックピット左側を貫通した武藤機のサーベル。


バチッ…バチ…

散り出す火花。武藤はサーベルを引き抜きすぐ様ヴィルードン機から離れると、慶司の機体を連れて都城へ飛び立つ。


ドン!ドンドン!!

武藤と慶司の機体2機は、ヴィルードン機が爆発した爆音を背に聞いていた。爆音した一瞬、花火のように辺り一帯が明るく照らされた。焼け野原と化しつつある京都の町に火だるまとなったヴィルードン機が落下していった。







































一方のマリソン――――

「ヴィル君。ヴィル君。そっちはどう…あら?通信不能?無線が故障したのかしら」
一方のマリソンはというと都城まで後少しという所まできたのだが、ヴィルードンが一向に戻ってこない為、通信を繋げるが彼とは通信不能。奇妙なエラー音が無線機から繰り返す。
「ちょっと苦戦しているのかしら?ヴィル君らしくないわね。じゃあ私がお先に戦果頂いちゃうわよ?」
ふふ、と微笑んだマリソン機の前に広がる都城。それを前に、マリソン機はあちこちに砲撃の発射口を露にするとそれら全てを都城に向けた。
「ダイラー将軍の新戦略それは…都城の破壊。それは日本王室の破滅でもあるわ。そうすれば諦めの悪い日本も降伏。はい一件落着!ってね!!」
「させるものか!!」
「英雄気取りは嫌いよ?」
背後から接近していた武藤機と慶司の機体に気付いていたマリソンは不敵に笑みながらすぐ様後ろを向けば、2機目掛けて砲撃をする。


ドン!ドンッ!ドン!

「ぐっ…!」
「気付いていましたとも。まずは貴方達に攻撃する為に砲撃体勢に入っていたのよ?…ルネ軍なめんじゃないわよ!!」
都城後方で繰り広げられるマリソン対武藤と慶司の戦闘。
2人は感じていた。ヴィルードンの時と同じ2VS1だというのに、マリソンと対峙している今はこちらの方が人数が多く有利だと全く思えないのだ。それくらいマリソンは強敵。
























武藤と慶司の2機を前にしても圧倒的力を見せ付けるマリソンに苦戦を強いられる。彼女は視野が広い。故に、相手が2機だろうが、安定した戦闘ができるのだ。
「我々の国内で好き勝手やってもらっては困る!!」


ドン!!

「っ…!最低!今ので無線機が壊れたじゃないの!」
武藤の一撃により、通信不可能となった無線機を踏み潰すとマリソンは目の色変えて武藤に突っ掛かるが…
「挟み撃ちしようが私には効かない事を学びなさい!」


ドスッ!!

「ぐああ!」
マリソンの背後をとった慶司もマリソンのサーベルにより、機体は大破しつつある。
――この女…他の兵達とはまるで格が違う!――
――あの武藤さんでさえ苦戦を強いられている…これがルネなのか…!――








































その頃のダイラー――――

日本軍の相手は部下達に任せ、都城正面に1人で到着していた。
「何だ。マリソンとヴィルードンの奴、城一つ未だ倒壊させられずにいたのか。…ならばその戦果、私が頂こう」
都城後方で戦闘しているマリソン機は調度城の陰となり隠れてしまっていて、ダイラーは気付かなかったのだ。
ダイラーは砲撃体勢に入る。機体に組み込まれた砲撃用発射口6つが城に向けられた。


ガチャッ、

「これで終わる」
砲撃用レバーを前へ押し倒す。発射口に熱が蓄積されていき今まさに砲撃開始というところで、タイミングが良いのか悪いのか、都城後方で戦闘を繰り広げていたマリソン機と武藤機と慶司の機体が城正面へ姿を現した。
「なっ…!マリソン其処に居たというのか!?」
しかし時既に遅し。ダイラー機の発射口からは真っ赤な色をした砲弾が放たれた。


ドンッ!!

マリソン機を捉えたダイラーの全身の血の気が引き、目はこれでもかという程見開かれた。
「マリソン!!」
許婚であり同胞である彼女の名を叫んだ彼の声は、無線機の壊れた彼女に届く事は無かった。


























一方、3機の中で最も早く砲弾の熱反応を感知した武藤機。辺りが突然みるみる明るくなってきた。それはダイラーが放った砲撃の赤が眩し過ぎたから。
都城目掛けて迫り来る砲撃。武藤はわざと慶司の機体付近に砲撃をする。


ドン!ドンッ!

「ぐあ!?」
慶司は、仲間である武藤が何故自分に向け攻撃してきたのかは分からずにいるが、武藤は自分が放った砲撃の爆風で慶司の機体をダイラーの砲撃被害域の外まで吹き飛ばしたのだ。
都城の外へ吹き飛ばされた慶司が目の当たりにしたのは、都城に迫り来る6つの炎の悪魔という名の砲弾。
「慶司君!」
「!?将軍?将軍、何故、」
「どうか日本という国を地図から消さないでくれ…上官の命令だ!」





































都城内――――

迫り来る砲弾の炎は城内にも明かりとして認識されていた。未だ国内を掴んで離さない本妻。
「ああああ…!嫌だ嫌だ!私は死にたくはない…!」
「国王様」
「あああ…!」
半狂乱な国王には本妻の掛けた言葉など届いていない。しかし本妻は優しく微笑むと優しく抱き締め、目を瞑った。






































同時刻、
都城外――――――

迫り来る砲撃を前にマリソンは無理にでも逃げようとしたのだが、それを武藤が逃すはずが無い。後方からマリソン機をがっしり掴んで離さないのだ。
「貴様だけでは物足りないが、貴様だけでも日本国民を殺した罪を死んで償え!!」
「あんた達に道連れにされるような柔じゃないのよルネ軍人ってのは!!」
互いは通信を取ってはいないものの、会話が成り立っている機内。何とマリソンは迫り来る逃れられない死を直面した今でもサーベルを繰り出したのだ。これには武藤も驚愕。


キィン!

迫り来る砲弾の熱は異常で、機体を通しても伝わる。マリソンの身体から吹き出す大量の汗。熱さ故に視界が霞むが、マリソンは悪魔のように微笑む。それが合図。
「これが私の最期の戦果だ!!」


ドスッ!ドス!!

容赦なく武藤の機体をコックピットを、サーベルで滅多斬り。その様は人間の心など持ち合わせていない悪魔。最後の一撃を…とサーベルを振り上げた時。マリソンの目の前が真っ赤に染まり、身体は熱に耐えきれなくなっていた。だが、彼女は微笑んでいた。それは勝ち誇った笑み。



























「父上、母上!!」
一方慶司の裏返った叫び声も虚しく。爆発音も無ければ最期の言葉も無く、一瞬にして砲撃の熱により消え去った都城。城周辺は爆風による被害で木々や家屋が吹き飛ぶ。
都城が在った其処は跡形も無く地面が抉られており、ぽっかり空いている。辺りは木々も家屋も吹き飛ばされており、此処に町が在ったと誰が思えるだろうか。





























一方のダイラー機は空に浮かびながら呆然。機内でダイラーは初めて動揺して身体が震えていた。目は見開かれている。
「私は…同胞を巻き込み…」
しかしそこでマリソンのいつものあの明るく強気な笑顔が浮かぶと、ハッ!として我に返る。目に力が宿り、いつもの将軍ダイラーの顔つきに戻った。何処か人間らしさがチラついてはいたが。
「一国の勝利と同胞1人。どちらが大切かは十二分に分かっている…」
ダイラーは声をくぐもらせながら、残る県へ移動しようと飛び立つ体勢に入る。
「…!敵機!」しかしその時。慶司が搭乗した機体がダイラー機の背後から近寄ってきたのだ。ダイラーはすぐ様戦闘体勢に入ろうとするのだが、慶司の機体はサーベルをしまい、両腕を挙げたのだ。
「戦闘の意思は無い…と言うのか?」
しかし疑わずにはいられない。ルネに隠れて連盟軍へ加盟しようとしていた国の人間など信じられない。


ガー、ガガッ、

その時、ダイラーの無線機からノイズが聞こえ。通信相手は今、彼の目の前に居る慶司。距離が近ければ敵機と通信を取る事が可能だ。




























「何だ。このような状況下で突然戦意喪失とは本当か?貴様らの事だ。どうせまた我々を裏切ろうと、」
「日本国はルネ王国との今戦を降伏する」
「…!」
慶司の力強い一言にダイラーは目を見開く。
そんな間にも、慶司を狙ってくるルネ軍達の接近が確認されるとダイラーは慌てて部下達に通信を取る準備をするが、最後にもう一度慶司に問い掛ける。
「日本軍よ。声からしてお前はまだ若人であろう。それならば戦意喪失は早くはないか?」
「僕は…」
「……」
「僕は結局争いなんて大嫌いな弱虫なんだ…。お前達ルネに降伏したが故に日本が世界の笑い者になろうとも、これ以上日本国民が血を流さないのなら僕は胸を張って降伏する…」
ノイズ混じりの無線から聞こえてくるまだ若い少年の声なのにしっかりとした意志はダイラーの心の奥底に響き、ダイラーは懐かしさを感じた。それが何故かはまだ分からなかったけれど。
「…了承した」
すると、ルネ軍全機へ通信を繋げた。
「今戦は日本国の自主的降伏により、我がルネ王国の勝利だ。以降、この国での戦闘行為を禁ずる。帰還するぞ」
「了解」
勝利に歓喜を上げる事も無く、勝って当たり前の如く帰還を始める航空部隊と海上部隊。
跡形も無くなってしまった都城を前に呆然と動けずにいる慶司の機体を最後一度見てからダイラーは発進した。
「国民が死ななければそれで構わない…か。日本人らしいな」
行きは3人で飛んでいた空を帰りは1人で飛ぶダイラーは、未だ真っ赤に染まる日本の空を後にした。



















































同時刻、
神奈川県――――

「嘘…うそ…そんな、そんな…!」
一早く流れた情報それは、日本の降伏と跡形も無くなってしまった都城跡地の映像。
神奈川県の大学に政治学を学びに来ていた梅はテレビを前に崩れ落ちる。
「梅様!」
若い女性の侍女が彼女の背を撫でてやっても、梅は呆然。涙すら流せない。それはまだこの現実を受けとめたくないからだろう。
「お父様、お母様、本妻様、菊、霞、慶司さん…!皆私を置いていくなんて酷い…酷過ぎるわ…」
ルネVS日本の戦は、1ヶ月と3日でルネ王国が勝利を収めた。



















































































ルネ王国―――

「まったく。あんな小島相手に1ヶ月もの時間を費やすなど、貴様は何を考えている!」
城内を先導して歩くアマドールはイラ立った様子でダイラーにぐちぐち嫌味たらしく言うが、ダイラーは浮かない表情だ。アマドールはそれに感付くと、また嫌味たらしく笑む。
「…そうだ。ダイラー貴様。今戦でルビィ大将とドル少尉が殉職したようだが?」
彼が最も信頼していた部下の死。だからこそ、アマドールは嫌味たらしく話題に出したのだ。最近ルヴィシアンの気紛れでストレスでも溜まっているのだろう、その捌け口をダイラーにしている様子。
しかしあのダイラーがこの程度の事で怯むはずが無い。それは同時に、アマドールの機嫌を損ねる原因にも繋がる。
「ふん!」
鼻を鳴らしたアマドールはやはり機嫌を損ねたようで、スタスタと足早に暗い廊下を駆けて行く。その背に向かってダイラーは、ポツリ…と呟いた。
「…私はいつから国民を犠牲にしてまで戦うようになったのだろうか…」
慶司の国民第一のあの言葉は、これからダイラーを苦しめるのだろう。


































それからの日本はルネの植民地と化した。
東京、京都、神奈川、大阪をはじめとする各地にルネ軍駐屯地が置かれ、日本国民は自由を奪われ、昼夜問わず軍事工場でルネの為の労働を強いられていた。また、ルネ本国の軍事工場へ強制連行される者も居た。
















































ルネ城内、
国王の部屋――――

「どうかな。ルネ領日本の様子は」
真っ昼間から赤ワインを口にして、ふんぞり返ったルヴィシアンは機嫌が良さそうにアマドールに問う。
彼が機嫌が良い事を嬉しく思うアマドールにも笑みが浮かんでいる。
「順調でございます。あそこは連盟軍参加国であるアメリカへ攻め込む際の中継点ともなります故、アメリカとの戦闘を控えるのであれば戦闘機の補給場としても最適」
「はは。まるで我がルネ王国の中継約になる為に在る国だ!」
「左様でございます」

ルヴィシアンはアマドールに空のワイングラスを差し出す。すぐ様それに注ぐアマドール。ルヴィシアンはワインに映る自分の顔を見て酔い痴れた。
「まずは連盟軍の馬鹿共を叩きのめしてからだ。お前の最期は盛大にしてやるから楽しみにしていろ、我が弟ヴィヴィアン…!」













































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あきゅろす。
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