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症候群-追放王子ト亡国王女-
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ルネ城―――――

昨晩の事件以来、未だに騒ぎの静まらない城内の廊下を人の兵士を両脇に歩かせ、靴の踵を鳴らして歩くルヴィシアン。
国王が死んだ事で泣き続けていたのだろう、よく見ると分かるのだが目が赤く腫れている。嘘の涙を流した嘘の腫れ。
足早に歩くルヴィシアンが目に入ると使用人や軍人、貴族は目を丸めて彼を見た後すぐ一歩後ろへ下がり、道を開けて頭を下げる。ルヴィシアンが向かう先は、かつてのルネ国王が使用していた部屋。
王妃のデイジーは部屋に使用人と一緒に閉じ籠もってしまっている。ルネ王国は、王位継承者第一位のルヴィシアンに任されたのだ。


























バタン、

部屋の重たく大きな扉を軍人2人が閉めた音が聞こえるとルヴィシアンは椅子の肘掛に頬杖を着いて、不気味に笑った。先程廊下を歩いていた時の憂いの顔はもう此処には無い。彼が今見せている顔こそが、本当のルヴィシアン・デオール・ルネ。
足を組み、堂々とした態度のまま窓の外に目を向ける。
「コール国へは何班送ったのだ?」
「はっ、大将率いるB班からD班までの3班です」
「充分じゃないか、今回も我が国ルネは勝利だな」
満足そうに笑みを浮かべ鼻で笑う。
軍人2人は背筋をピン、と伸ばしたまま微動だにしない。その内の1人が静かに口を開いた。
「ルヴィシアン様、ヴィヴィアンの件は…」
「何、焦る事は無い。たった1人の人間の捜索など容易い事。それに、日が経てばそこらで野垂れ死んだ姿で現われるだろう」
「はい、しかし…」
軍人は下を向き、言葉を詰まらせる。ルヴィシアンは人の態度や表情の変化を少しでも見ると不機嫌になる。その為、眉間に皺を寄せて目を細め、その軍人を見る。
「何だ。まさかお前あいつの肩をもつというのか?」
「め、滅相もない!そのような事は私アマドール・ドリー、一度も思った事はありません!」
「ははっ、酷い焦り様だな」
両手と首を左右に大きく振って否定するのは、ルヴィシアンの側近で強面で年齢は50代後半の男性アマドール。
アマドールの姿を見て嘲笑うルヴィシアンの態度は冷酷そのもの。もう1人の軍人は何も言わず、兜の面頬で自分の目が隠れている事をただ幸運に思っていた。
ルヴィシアンと目が合う事は、ルヴィシアン派の人間でもとても恐ろしい事なのだ。自分の為なら逆らう者、邪魔になる者が例え家族でも捨てる人間ルヴィシアンに妙な態度をとったが最期なのだから。



























「で。お前は私に何を申したかったのだ」
「はい、ヴィヴィアンの事ですが彼の才能はルヴィシアン様も御認めの様に並外れております。王家を国を追放された彼ですから、ルネを恨んでいる事は確実です。もし彼が他国へ渡り、新たな戦法を考えルネに戦争を挑んできた場合を考えますと…」
「ふむ。軍事面ではこちらが勝っているとはいえ、力のある者が才能ある者に負ける場合も…有り得無くはないな。ではこうしよう。戦争を続ける傍ら、あいつの捜索も続ける。良いな?」
「はい!」
軍人2人は力強く返事をし、敬礼をする。
ルヴィシアンは再び窓の外に目を向けた。空は雲一つ無い美しい夏空が広がっている。その晴れ晴れとした天気は、やり方が汚いが国王の座に上り詰めたルヴィシアンの満足な心境を表しているかの様。
その時彼の視界に飛び込んできたのは、4羽で飛んでいた白い小鳥の内2羽が突然落下した光景。
ルヴィシアンは椅子から素早く立ち上がり、窓に両手の平を付けて2羽の小鳥が落下していった木々の中を見下ろす。しかし落下した2羽の小鳥の姿はもう見えなかった。
残った2羽の小鳥の内1羽は落下した小鳥達を追おうとしたが、1羽の小鳥に無理矢理連れられ、2羽の小鳥は青空の中へ飛んで行ってしまった。その光景を見たルヴィシアンの口元が不気味に微笑む。
「落下し、見捨てられた小鳥達はまるでお父様とヴィヴィアンのようだな」




































































廃墟病院―――

あっという間に茎だけとなった林檎を、埃塗れの汚らしいテーブルの上に置き、腕と足を組んで椅子に座るジャンヌ。
「まあ、要するにあんたは兄弟喧嘩をして家出した良いとこの御坊っちゃんって事ね?」
結局急かされて、ジャンヌが林檎を食べ終えない間に質問攻めにあっていた。今までジャンヌが何も使わず林檎を噛っている姿に苦笑いを浮かべながらも、問われた質問一つ一つに答えていくヴィヴィアン。
まず始めに。暗くて不気味で良くない言い伝えのある森へ1人で来た理由を根掘り葉掘り聞かれた。
真実なんて言っていられないし言いたくもなかったから、嘘を吐いて質問に答えた。他人に嘘を吐く事は慣れっこだったし、自分の気持ちに嘘を吐く事も慣れっこだった。悲しい事にいつからか、嘘を吐く事が悪い事だと思わなくなっていたから口からは自然にスラスラと嘘の答えが並べられていった。
最愛の人が最も嫌う嘘。だからいつかは嘘を吐かない人間にならなくてはいけないという思いも、まだ片隅にある事はある。


























ヴィヴィアンがジャンヌに話した嘘の自分は、名の高い貴族であり、父親は戦死して母と兄との3人で暮らしていた事にした。そして先日、兄との口論で家を飛び出してきたという事に。
ヴィヴィアン自身、我ながら馬鹿げていてふざけた話を作ったと思い、疑われる事を百も承知でいた。戦略や勉学の事なら大得意だが、こういう変な嘘の話を作るのは少々苦手だ。
しかし驚く事にジャンヌはこんな作り話をあっさりと信じ、挙げ句の果てには哀れんでくれた。そんなジャンヌを逆に哀れんで苦笑いしてしまいそうになるが、堪える。感情を堪えるのも戦略を立てる事と同じで大得意なモノの一つとなっていたから。
「でも帰った方が良いわよ、絶対」
「え?」
「だってどんなに酷い事をされたって家族よ?今頃あんたを探してるわ」
ヴィヴィアンは思わず鼻で笑ってしまった。
「普通の家族ならそうだろうね。でも僕の家族は異常だから、そんな事は無いんだよ。そんな人間ばかりのルネが僕は大嫌いだな」
笑いながら立ち、窓の外を見る。木々が覆っていて太陽の光すら射し込んでこない為外の様子も分からないし、木々の葉が風に揺れる音しか聞こえてこないので、今外で何が起こっているかも判断できない。
――たまには外の世界を忘れて生きるのも良いかもしれないな――
病んでいき、終いには現実逃避という手段に逃げようとする自分を笑う。こんな人生に、こんな人間にした者の顔や高笑いが頭を駆け巡ると、頭痛がする。
「あんた」
「何?」
相変わらず乱暴な呼び方のジャンヌにもそろそろ慣れてきたヴィヴィアン。まだ少し抵抗はあるが、だいぶすんなりと笑わずに返事ができるようになった。慣れというものは早いものだ。
ジャンヌはヴィヴィアンの隣まで来ると、割れた窓から食べ終えた林檎の茎を外へ放り投げる。
「不法投棄だよ」
「煩いわね、後で拾いに行くに決まってるでしょ!ちょっとしたストレス解消法なのよ!」
「物にあたるんだ、女の子なのに」
「あんた本当、男とか女に拘り過ぎで腹立つのよ!煩いわね!そんな事より。あのね、あんたに伝ってほしい事があるのよ」
「嫌だね」
「言う前から断るんじゃないわよ!本っ当!これだからルネの人間は!」
ジャンヌはぷんすか頭から湯気を出して怒りつつも、ヴィヴィアンを見る。

























「ベルディネ王国の再建。手伝ってほしいの」
「無理だよ」
「何でよ!?」
ヴィヴィアンは肩を竦めて呆れた笑みを浮かべ、頬杖を着きながらジャンヌを見る。
「無理だけど仮に再建できたとするよ。再建した後、君みたいな頭の弱い王女様1人に何ができるの?国民の衣食住は?外交は?費用は?」
「くっ…!」
「少しは現実を見たら如何です?夢見がちなベルディネ王国の王女様」
ニヤリ。白い歯を覗かせて笑むヴィヴィアン。


ガタン!!

ジャンヌはテーブルに両手を着いて立ち上がるとくるり、と背を向ける。
「あんたに…非情なルネに話した私が馬鹿だったようね」
「そうだね」
「っ…!勝手にしなさいよ!私は必ずベルディネ王国を、母国を再建させる!あんたとは此処でサヨナラね!」
「ええ。では短い間でしたがさようなら。頑張ってね?再建?」


バァン!!

ジャンヌは廃墟の扉を乱暴に閉めて飛び出すと、1人で一気に森を駆け抜けて行った。









































ジャンヌはあっという間に森から出て、人が少ない田舎町に出た。
他国とルネの国境にあたる森からルネへやって来たジャンヌはルネの田舎町の荒廃振りに驚いた。都市部はあんなに栄えて華やかだというのに、少し外れへ来れば此処がルネなのかと目を疑う程の貧しい土地があるのだ。
「ルネの王族や貴族達は自分達さえ良ければ、他の人間達はどうでも良い御様子。ふざけてる!」
眉間に皺を寄せて力強く言い捨てると、永遠と続くかのように広がる荒れた畑の先に見えた町を目指して走って行く。





























しばらく走った所に広がっている町『ガイ』の様子に唖然とする。
「何よ、これ…」
荒れ果てていて、今にも倒れてしまいそうな古ぼけたテントの店に並べられた魚や野菜はとても食べられた物ではない。腐敗していて腐敗臭までする。
店の人間や客の服装は都市部の華やかな服装とは全くの正反対で、汚らしくて所々破けている。人々の顔色だって土の様。
――ベルディネは特別裕福でも大国でもなかったけど、ここまで貧富の差は無かったわ――
強く握り締めた拳が小刻みに震えている。取り敢えず腹拵えになる食料、腐敗していない食料を得る為ゆっくり歩いて店を1軒1軒見て回る事にした。これ以上、ルネの人間のヴィヴィアンから食料を貰う自分が嫌だったから。
店々を眺めているジャンヌの目は切なそうだ。店の人間もジャンヌが店の前を通っても声を上げる気力も無いのか、光の無い死んだ目で見てくるだけ。胸が痛んだその時。


ドンッ!

足に何かがぶつかった感覚がして、後ろを振り向く。
視線を足元に落としていくと其処には、痩せ細った為目が異常に大きく見える茶色の髪を二つ結びをした幼い少女が尻餅を着いていた。ジャンヌにぶつかった為だろう。
「大丈夫?ごめんね、怪我しなかった?」
声を掛けても小さな口がゆっくり開閉するだけ。喋る力も無い様だ。少女の骨と皮だけの細い手に触れる。
こんな真夏だというのに手は冷えきっている。少女の背丈に合わせて屈んだ時。


ドン!

「うあ"っ」
誰かが少女に強くぶつかった。頭上から男性と女性の高笑いが聞こえてくる。顔を上げると、頭がどうかしているのではないかと思う程派手な服装の貴族達4人が、ジャンヌやガイの人間を嘲笑っていた。
「はは、やはりガイはまだこんな状態か。頑張れ頑張れ。早く我々のように綺麗な服を着て綺麗な家に住むのだよ」
自分の服の胸元を引っ張り自慢して見せる1人の男に、3人の女は黄色い声を上げる。
店々に暴言を吐き、又、商品が乗った台を蹴り倒して歩いて行く貴族達の背をジャンヌは睨み付ける。我慢をしていられる時間にも限界がくる。それにジャンヌは他の人間より気が短い。特に悪事に関しては。
道端に転がっていた泥で汚れた大きな石を咄嗟に手に取り、貴族の女の1人の背に向けて投げると見事に命中した。


ガツン!

「痛ぁっ!何よぉ!」
耳障りで何とも腹の立つ甲高い声を上げ、一斉にこちらを振り向く貴族達。
「貴女でしょう?そんな薄汚れた手で投げた汚い石が私にあたったんだけど!」
「あたったんじゃ偶然みたいじゃない。狙ってあんたにあてたのよ」


























その頃のヴィヴィアン。
良い考えが浮かんだヴィヴィアンは考えを実行する為にジャンヌが必要だったので、仕方なくもジャンヌを追って、田舎町のガイまでやって来た。訓練のお陰か、森から出る事は容易だった。
姿を隠そうとも考えたが、ガイにはテレビがある家も片手の指におさまる数しかない事を思い出した為、自分の素顔に気付く者は居ないと勝手に考えて、変装せずにそのままの姿にした。
ガイが未だに貧しい事は知っていたが、ここまでだとは思ってもいなかった。左右どちらを見ても今にも死んでしまいそうな人間ばかりが、彷徨うようにゆっくりヴィヴィアンの脇を通り過ぎて行く。
そんな光景に寒気がして、体は一瞬大きく震えた。苦しんでいる人間が道端で蹲っていても気味悪がって見て見ぬ振りをして通り過ぎて行く。

































ヴィヴィアンの考えた事は一つ。
ベルディネは小国ながらも大国にも小国にもあてはまらない国々と同盟を結んでいたりと、他国からの評判は良かった。
だから王女だったジャンヌを利用して、かつてのベルディネ王国と同盟を結んでいた国のどれか一国にでも入国したいと思っていた。
――何処でも良い。ルネに一切関わらず、自分の才能を発揮できて本当の自分を出せる国で暮らしたい――
このまま自分を押し殺して死ぬなんてそんな人生だけはもう送りたくなかった。
しかし大国ルネ王国を滅ぼそうだなんて無謀な考えは無かった。いや、無かったといえば嘘になるだろうか。本人が気付いていないだけで心の何処かにほんの少しはあるだろうけど、大国ルネ王国が恐いのだろう。































「ヴィヴィ様…」
「!?」
囁くような聞き覚えのある声に鼓動が大きく鳴って咄嗟に後ろを振り向く。其処には、一般庶民の様に質素な淡いピンク色のワンピースを着て高い位置で髪を二つに結んでいる少女がこちらを微笑んで見て立っていた。かけているレンズの分厚い眼鏡が重たそうだ。
変装をしているつもりなのだろうけれど、ヴィヴィアンには一目で分かった。彼女は正真正銘マリー・ユスティー。
「ヴィヴィ様…良かった御無事、」
マリーが話している最中にヴィヴィアンは口を強く結んで背を向けて、他人の振りをして1人で歩いて行ってしまう。
今まで一度もされた事の無かった冷たい態度に驚いて目を丸めるマリー。
壁の陰で隠れて様子を伺っていたマリーのお付きの兵士2人も、驚きを隠せない様子。
「ま、待って下さい!」
追い掛けてくるマリーの方を振り向くと、腕を力強く掴んで路地裏へ連れ込んだ。



























こちらを見てこない近寄り難い雰囲気のヴィヴィアンに、マリーは目を泳がせたまま言いたい事の一つも言えないでいる。
「何でこの町の近辺だって…」
「そ、それは…わたくしの国の兵士が…」
「ふざけるな!」
初めて聞いた怒鳴り声、恐ろしい表情。
マリーの体は大きく震えて、目からは込み上げてくるものがある。
そんなマリーの様子に胸が痛み、怒鳴り続けようとした自分が消える。何か心配された時は自分の心情を隠す為にいつもマリーの頭を優しく撫でてやり、無理をして笑みを見せる。いつもなら微笑み返してくれるマリーも、今日は返してくれないどころか目も合わせてこない。
「勿論兵士と一緒に来たんだよね?」
マリーは小さく頷く。
「…早く帰るんだよ。そして今後、一切此処へ来てはいけないからね。それにヴィヴィアン・デオール・ルネの事を思い出してはいけないよ。もうそんな名の人間はこの世界に居ないのだから」
最後にもう一度優しく頭を撫でると、マリーの脇を通って再び町の中へ歩いて行った。



























「ヴィヴィ、」
「マリー様…」
追い掛けようとするマリーを、変装した男性兵士2人が前に出て止める。
素直に静かに頷いたマリーは兵士と共に町の出口へ向かって歩いて行く。後ろを何度も振り返りながら。
「御伝えしたかったですわ…」
「御伝えできなかったのですか」
「ええ。ヴィヴィ様がとても恐くて言い出せませんでしたもの…」
目から光るモノを流して、戦闘機が飛んでいく空を見上げた。













































町を歩いていたヴィヴィアンは、派手な服装をした4人の貴族達と擦れ違う。同時に、その中の1人の女性に思い切り肩をぶつけられて罵声を浴びせられた。貴族達の姿が遠くなっていく。
何と言われたかなどは興味が無いから、聞いていなくて分からない。ヴィヴィアンにぶつかる前からとても怒っている様子だった事は分かった。
貴族達を見て、自分も身分の低い庶民から見ればこんなにも腹の立つ恐い存在だったのか…と初めて知った時。前方に人々が集まっている光景が目に入ってきた。
――娯楽の無い身分の低い庶民は些細な事を大事に捉えるからな――
冷めた目で人々を見てこのまま通り過ぎようとした時。人々の間から見えた。人々に囲まれた中心で座り込んでいる顔や腕にたくさんの傷を負い、白いワンピースを着て栗色の長い髪をした少女。
ヴィヴィアンの目が見開いた。その少女はジャンヌ。





























先程の貴族達に1人で喧嘩を売ったが、周りの人々は見て見ぬ振りをしていた。誰の助けもないまま、悪に立ち向かった。
傷だらけとなって守るように幼い少女を抱き締めているジャンヌを見てもヴィヴィアンは駆け寄る事もせず、ただ立ち尽くしていた。集まっただけで助けもしないガイの人々と同じ様に。
――何をやっているんだあの女は。あの少女を助けたのか?またか…またベルディネ王国のくだらない型にはまって…――
少量ではあるが傷口から血を流し、ふらつきながらも立ち上がるジャンヌは、幼い少女を抱き上げて人々の間を無理矢理抜けて出てきた。その時たまたま不運にもジャンヌと目がばっちり合ったヴィヴィアン。
しかしジャンヌはすぐ外方を向き、少女を抱えたままあの森の方へと歩いて行く。たくさんの傷を負い、人気の無い不気味な森へとふらつきながら歩いて行くジャンヌの姿は、森で野犬に追われていた時の自分と重なる。


タタタ、

小走りでジャンヌの元へ駆け寄り黙って隣を歩く。ジャンヌは横目でヴィヴィアンをチラ、と見た後フン!と鼻を鳴らして歩く速さを上げる。
「ベルディネ」
周りの人間に気付かれぬ様に小さな声で呼ぶが、ジャンヌは返事一つせず歩いて行く。ヴィヴィアンも歩く速さを上げ、再び隣を歩く。
「ベル、」


ゴオッ…!

呼び欠けた時に強風が吹き出して、前へ進めない。陸上では古びたテントは吹き飛び、上空ではルネ軍の戦闘機が何機もコール国のある方角へと速い速度で飛んで行った。
それを見ていたジャンヌは歯をギリ、と鳴らして再び歩き出す。
「ベルディネ」
「…微妙な呼び方しないでよ。何よ」
「再建、手伝うよ」
「本当!?」
振り返ったジャンヌは満面の笑みを浮かべて、キラキラ輝く瞳をしていた。
「考えたんだけどまずはね。ベルディネの国がかつて同盟を結んでいた国へ入国した方が良いと思うんだ。どっち道今のままじゃ餓死するだけだし。そうしたらその後は僕はその国の軍へ入って、」
「あー…よく分からないけど。ありがとう!えっと。あんた名前何だっけ」
「ヴィヴィアンだよ」
「嗚呼そうね!ありがとう、ヴィヴィアン」
嬉しさでいっぱいのジャンヌは、詳しい話は流して少女を抱き抱えたままスキップをして森へ入って行く。その姿は、先程までとはまるで別人の様。
ジャンヌの背を見ているヴィヴィアンは悪意のある笑みを浮かべた。
再建…なんて言葉は、一刻も早くルネから離れて他国へ入国したいが為に使って、ジャンヌを釣った言葉に過ぎないから。
































森の中へ溶け込むように入って行ったヴィヴィアン達を町の出口付近にある路地裏に隠れて見ていたのは、黒い帽子をかぶり、夏だというのに白いコートを着て長いオレンジ色の髪を後ろで一つに束ねた少女。コートの内ポケットから無線機を取出して、連絡先の相手コードへ繋げる。
「やはりあの森だ。裏から先回りができるだろう」
「はい」
「よし、頼んだぞ」
「了解致しました、ラヴェンナ様」



























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