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症候群-追放王子ト亡国王女-
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「ダビド・デオール・ルネ。デイジー・デオール・ルネ。宮野純 咲唖。宮野純 信之。ミバラ・ルイ・ジェリー。フランソワ・レイニ・アシュリアント。ビスマルク・ベルナ・バベット。ティファ・ベルナ・バベット。ダリア・レイ・ディーン。コーテル・フォル・マティアス。ポール・レノン。クリス・イネス・シャンドレ。薬剤師。ダミアン・ルーシー・カイドマルド。ルーベラ・ロイヤル・アン。ハーバートン・ミラ・ダビド。ジュリアンヌ・ルーシー・カイドマルド。以上が今戦の、僕が知る名が知れた戦没者。中には行方不明っていう奴も居るけれどそれはイコール死亡が妥当だろうね。例え全ての人間が死んだって、僕だけは生き残ってみせる。だって僕みたいな人間の手本が死んだら、それこそ世界の終焉でしょ?」
第三次世界大戦の終戦の鐘が鳴った。
主に欧州諸国に多大な被害をもたらした今戦で地図から消え去った国の数6。戦死者総勢7500万人行方不明者5000万人。大まかな数値というだけで実際のところこれよりもプラス200〜300万人の人間が死亡又は行方不明。
生死だけでなく今戦がもたらした被害の数々は計り知れない。軍事費に費やした故、財産が底を突いてしまった国々は先立つ物が無い故復興への希望すら持てずに、荒れ地と化した母国で呆然と立ち尽くしていた。
そんな時。発足された連盟が立ち上がり、生きる希望すら見失っていた敗戦国へ手を差し伸べるのだった。



















































アメリカ合衆国
ワシントン――――

会議室に集ったスーツ姿の4人。彼らが使用していたテーブル上に散らばった書類に目を向けてみる。
ルネ王国の暴れ様に痺れを切らした国アメリカ、イギリス、中国、アンデグラウンドの4国家は、このままでは何れ自分達も巻き込まれ兼ねないと判断。その前に先手を打つべきだ。平和の為にも。…というのは建前であり、本心、ルネ王国を潰す時だけ手を取り合い、最終的には自国がルネの領地であった国々を奪いたいが為である。
「ははっ、少し目立ち過ぎたようだぜルネキングダム?」
それ故に、他国の目に留まってしまう事になる。











































日本―――

「国際連盟軍…でありますか」
同時刻。国王から武藤と慶司が聞かされた話それは国際連盟軍である4国家から、"日本も連盟軍へ入らないか"との誘いを受けたとの話だった。
「しかし我が国は連盟軍が標的としているルネと同盟を結んでおります」
「うむ…それで悩んでいたのだ。連盟軍参加国はアメリカ、イギリス、中国、アンデグラウンド…と、何処も軍事面経済面からして不足は無い。だが、果たしてルネに対抗できるのか?ルネが繁栄するまではアメリカが大国だった。しかしルネが出てきてからはどうだ?」
「…国王陛下が頭を抱えるお気持ち、十二分に分かります。私もここはルネについた方が良いのでは…そうも思いますが、近頃のそう、ルヴィシアン陛下即位後のルネの政治や侵略には、ルネ国民だけでなく他国からの非難の声が聞こえない事もありません。…私目の意見ではありますが、些か連盟軍に参加しないと後々我が国は世界を敵に回す事になり兼ねない…そんな気がしてなりません」
「ふむ…まあ返答期限は1週間だそうだ。私ももう少し、ルネや他国の出方を伺おうと思う」
「承知致しました」
深々頭を下げた武藤の後ろに立つ慶司は浮かない表情をして、震える拳を力強く握り締めていた。

















































ルネ王国―――

いくら勝者とはいえ、戦争がもたらした爪痕はルネにも多数残っている。それは建造物に言える事だけではなく、人間の生死にも言える事。
「うぅ…ううっ…」
「どうしてこんなにもお早く逝かれてしまったの…どうして…うぅ…」
ルネ城前に立った献花台には乗り切らない程の真っ白な花束の数々。
黒いスーツにサングラスを装着した強面の警備達に誘導される国民達は啜り泣き、果てはその場に泣き崩れてしまう者まで居た。
献花台中央にある大きな遺影は優しく微笑むデイジー・デオール・ルネ。そう。デイジーの国葬が行われている最中なのだ。先代国王に続き、殺害された先代国王王妃。悲しみが渦巻く参列者だが、それは王党派の国民のみに限られている。
近年のルネ王室の悪政の被害者である下級身分の国民達は、悲しみの涙一粒さえ流さない。人の死を哀れんでいるそんな余裕など無い。自分が今この瞬間を生きていく事だけで精一杯なのだから。































そんな反王党派の国民数10人が、田舎町クルーレの路地裏に位置するこじんまりとしたバーに集っている。老若男女問わず皆が眉間に皺を寄せた険しい顔付きだ。
小太りで鼻の下に髭を生やしてサスペンダーの付いたズボンを履く農夫は太い拳でドン!とテーブルを力強く叩く。
「どいつもこいつもルネの言いなりになりやがって!他国の奴等は頼りにならねぇ!なら、俺達が何か行動を起こすしかねぇだろう!そうしなければ世界は変わらねぇ!皆仲良しこよしでルネの言いなりだぁ!」
ぐびっ、とウイスキーを飲み干す農夫の隣で、カウンターテーブルを何度も強く叩く、白い腰巻きエプロンをした太めの農婦もうんうんと頷く。
「本当だよ全く!日本だったっけぇ?あそこは人が良いから、ルネの馬鹿共の言いなりだよ!ルネが召集をかければその後ろをへこへこついていく。何だい!情けないねぇ!」
そんな農婦の後ろで立って居るいかにも生真面目でな眼鏡の細い中年紳士は眼鏡をくいっ、と上げる。
「しかし我々庶民が行動を起こしたところで自殺行為ではありませんか。それこそ、ルネ議会の二の舞だ」
「じゃあどうするってんだ!俺は構わねぇ!発足させるぜ。革命軍をな!」
「その必要無いかもよ?」
1人の金髪に近い明るい茶色をしたロングヘアーの若い女性の一言に全員が一斉に彼女の方に目を向ければ、彼女はカウンターテーブルに頬杖を着きリモコンを片手に、小さなテレビ画面を見つめている。やる気が無さそうに。


























画面に映る若い女性アナウンサーの表情は硬い。何を隠そう、伝えるニュース内容がルネにとって腹立たしいモノだったからだ。
「日本国、国際連盟軍へ加入の見込み…?」
画面に大きく表示された見出しを、目を見開き声に出してゆっくりと読む農夫。そんな中、アナウンサーは話を続ける。緊迫した雰囲気が視聴者にも伝わる程。
「先程入りました速報を繰り返します。日本国国王は国際連盟軍代表との会談を既に終え、連盟軍加入への姿勢を見せているとの事です。国際連盟軍は先日発足した連盟であり参加国等の詳細は未だ不明ですが、彼らの目的は確かです」
「目的、は…?」
農夫を始めとする面々はゴクリ…と唾を飲み込み、画面に釘付け。
アナウンサーの小さな口が静かに開かれた。
「ルネ王国の鎮圧」








































同時刻、
ルネ軍本部2階会議室―――

「ルネ王国の鎮圧」
静かにそう口にしたダイラー。その周りには、険しい顔付きをした上級階級軍人達が腕を組み立っている。
彼らが取り囲む中央の台上にダイラーがスイッチを入れると其処に、3Dで表示された日本全体の大まかな地形。それをダイラーが表示したという事は…。
「第三次世界大戦が終わったかと思えばお次は仲間割れ、ですか」
「デイジー王妃の死に涙を流している暇は軍人の我々には無いって事ねぇ」
軍人達は各々の言いたい事を口にしながら溜息を吐く。だが彼らの顔に笑みが薄ら浮かんでいたのは、見間違いなんかではない。
「国王陛下はカイドマルドの新国王への宣戦布告をしたくて堪らないようだが、国際連盟軍などという低能集団が発足した以上、カイドマルドなど眼中に無い。今我々が目前としている事それは、国際連盟軍の崩壊だ」


ドン!

ダイラーは力強く黒板を叩く。


しん…

一瞬沈黙が起きたが、パチパチと1人分の拍手が聞こえた。マリソンだ。
すると、ヴィルードンも拍手をする。いつの間にか会議室内は上級階級軍人達の拍手喝采。この拍手達はダイラーの考えに賛同を意味する。ダイラーはふっ…、と不敵に笑んだ。
「賛同感謝する。我々の力を再び世界に見せ付けよう」




















































4日後―――――

「なっ…!ダイラー貴様!ルヴィシアン国王陛下の意見を最優先しないとは一体どういう事だ!」
軍本部へ息を切らして駆け付けたアマドールは、軍服に身を包んだダイラーに対し目を見開いて怒鳴り散らす。
しかしダイラーは平然と機体調整を機内で行っている。外から聞こえてくるアマドールの怒鳴り声など左耳から入って右耳から抜けていっているかのような素振り。そんな彼の態度に、アマドールが憤慨しないはずも無くて。
「ダイラー貴様は軍規違反だ!貴様は軍人共を率いる長というだけで、決して軍隊統帥の権利など持っていないのだ!軍隊統帥権を所有しているのは、」
「ルヴィシアン国王陛下」
背後からした声にアマドールが咄嗟に振り向けば、黒のヘルメットを脇に抱えたマリソンがニコニコした笑顔で立っていた。























「ぐっ…!マリソン貴様もダイラーの身勝手な作戦に従うというのか!ならば貴様も、」
「軍規違反、でしょ?」
アマドールが言いたい言葉を全て先に述べる且つ見下したような笑顔を浮かべるから、彼の怒りは沸点に達する。思わず手を挙げようと太い腕を振り上げたが、その腕を背後から掴まれてしまう。


ガシッ、

「やめろ!私、は…」
咄嗟に振り向き、制止してきた者を怒鳴り付け欠けたアマドールだが、制止してきた者の顔を見た途端血相変えて深々頭を下げる。制止してきた者それは、黒服のSP達を引き連れたルヴィシアンだったから。
「こ、これはこれは…!国王陛下とは知らず私アマドールは無礼を、」
アマドールの謝罪は無視をして彼の脇を通り過ぎたルヴィシアンは、ダイラーの前に立つ。
一方、初めて国王から無視をされただけだというのに目を見開き落胆のアマドール。
「これはこれは国王陛下。このような場所へ陛下自らお越し頂けるとは。次戦の励みとなります」
「ダイラー」
「はい」
「お前はこれから裏切りモノの排除に向かうのか?」
"裏切りモノ"それは日本を意味する。
ダイラーは頷く。するとルヴィシアンはふっ、と笑み、マントを翻しながらこう言う。
「期待しているぞ」
「はっ!」
ダイラーを始め、この場に居合わせた出撃部隊の軍人達は一斉に力の籠もった敬礼をしてみせた。スタスタと足早に歩いて行ってしまうルヴィシアンの後を、慌てた様子で追い掛けるアマドール。
「こ、国王陛下」
「何だ」
「日本など後回しにし、国王様を侮辱した奴の抹殺が先では…!」
「貴様は私の身に万が一が起きても良いと言うのか!」
「!?」
立ち止まり振り返るなり、物凄い剣幕で怒鳴られたアマドールは頭上にハテナマークを浮かべるから、ルヴィシアンは呆れた溜息を吐く。
「はぁ。アマドールお前には失望した」
そして、歩き出す。
「なっ…!?ももも、申し訳ありませんでした!し、しかしながら私目は国王陛下の希望を優先したまでの事…」
ルヴィシアンはまた立ち止まり、振り返る。向けられたその表情はアマドールを哀れんでいる様。
「日本が国際連盟軍へ加入し、私の国と敵対する。イコール戦争が勃発する。イコール私の身が危ない。奴の国カイドマルドなど、今は戦争をする金も残っていない。となると今最も最優先すべき事は奴の抹殺か?日本の孅滅か?」
やっとルヴィシアンの言いたい事を理解したアマドールだったが、口が開けずにいる。そんな彼を見下し鼻で笑い、背を向けて歩き出したルヴィシアン。
「年老いたせいかお前も最近使えなくなってきたな」
物扱い…。そんな彼ルヴィシアンの一言は、アマドールの心の奥深くにナイフの如く突き刺さった。





























そのやり取りを少し離れた場所から眺めていたダイラーは腰に手をあてて、深い溜息を吐く。
「はぁ…」


ぐっ、

そんな彼が右肩に人の体重を感じ、嫌そうに顔を歪める。
「なーんか険悪ムードですよね、あの師従」
「肩に腕を乗せるなマリソン大将。大体お前は緊張感が全く無い。戦をゲームと思っているのなら、」
「ていうかその顔の痣、どうしたんですか?」
「!」
ニヤニヤ笑みながら指摘するマリソン。
少しは腫れが引いたものの、未だ左目や頬は青紫色をして腫れているダイラーの顔。他の軍人達も気になってはいたが聞く勇気が無く見て見ぬ振りをしていたというのに、怖いもの無しのマリソンはお構い無しに聞いてきたのだ。ダイラーの眉間に皺が1本増える。
「…大将。今はそれどころでは、」
「あー!俺も気になっていたんすよね将軍の痣!」
追加されたヴィルードンの無垢な声のトーンに、ダイラーの眉間に皺が2本増える。
「でしょでしょ?接近戦なんてあり得ないし、これはもう恋人に殴られたとしか思えないわよね?」
「ダイラー将軍痴話喧嘩している暇なんて無いっすよこの時代!しっかりして下さいよ将ぐ、」
「貴様らまとめて宙に舞う藻屑となりたいのか!!」


しん…

寡黙なあのダイラーの怒りが沸点に達した。軍人達は静まり返り、マリソンとヴィルードンはポカン…としている。

























年甲斐もなく少々声を張り上げすぎたせいか呼吸を乱すダイラーだが、整えると2人には背を向ける。
「…このような状況下で声を荒げるなど、少し大人気なかったようだ…しかしだな。お前達2人はもっと軍人としての緊張感、を!?」
突然背後からマリソンが抱きつき、ヴィルードンが肩に手を乗せてきた為、体重でガクッとなってしまったダイラー。そんな彼を余所に、マリソンとヴィルードンは微笑む。
「知ってますよー。本当はアマドールに殴られたって事くらい!」
「なっ…!」
「ほらねヴィル君。あたしの言った通り図星だったでしょう?」
「さすがマリソン大将っす!戦術のみならず人間関係の予測まで完璧!」
「あはは!もっと誉めなさい!讃えなさい!」
「っ…、貴様ら!もっと軍人としての自覚を、」
マリソンとヴィルードンを振り払い2人の方を向いたダイラーだったが、今の今までの2人のふざけた雰囲気は何処。2人は優しく…しかし何処か寂し気に微笑んでいた。
「なっ…!?」
「顔の痣、心配していたんですよ。将軍自分の事は何も話さないから」
「そうっすよ。でもそこがダイラー将軍らしくてかっこ良くて憧れちゃうんすけどね」
「でも少しくらい弱音吐いたって良いのに!将軍は機械じゃない。人間だもの」
「っ…、何を言い出すかと思えばお前達は…!早く出撃体勢に入れ!こうして無駄口を叩いている今、日本がルネへ向かっているかもしれないのだぞ!」
照れ隠しなのだろうか。2人には背を向け、自機の元へスタスタ歩いて行ってしまうダイラーを見てマリソンとヴィルードンは顔を見合わせクスッ、と笑う。そして2人同時に、言った。
「帰還したらディナー楽しみにしていますから!」
それは自分達の勝利を戦前から確信しているという証。そしてディナーとは恐らく、勝利の暁としてダイラーにディナーを奢ってもらおうという事だろう。


バッ!

ダイラーは背を向けたままだが右腕を挙げた。それは"了承"を意味するのだろう。
顔を見合わせ、子供のように喜び合う2人の声を背にしっかり受けとめていた。




























「ダイラー部隊全機に通達する。海上部隊は日本海側から攻め込め。私率いる航空部隊に関しては先程振り分けた通り、王家が在住している京都をはじめ、東京、福岡、北海道の4部隊だ。作戦実行は今から2時間後。国王陛下が日本へ宣戦布告する時間も含めている。同盟国だった故戦法のデータは無いが、普段通りやれば良い。裏切りモノへの天誅を開始する」
各々一斉に機体を起動させる。空へ飛び立つ機体。海を駆け抜ける機体。どれも真っ赤なルネの国旗を印字していた。

































「こちらヴィルードン少尉こちらヴィルードン少尉」
「ふふ、対カイドマルド戦の功績から、ヴィル君ももう少尉なのね」
無線相手はマリソンだった。出撃したというのにこの余裕っぷりには、あのデビルナイトも苦笑い。
「マリソンさ…あ、いや、マリソン大将相変わらず余裕っすね」
「緊張でガチガチになっていたら勝てる戦も勝てないわ」
「それもそうっす」
「…良かった」
「?」
「こうしてまた3人で空を飛べて」
映像は無いものの、柔らかい声の調子からしてマリソンの表情が想像できる。
「…正直この前の戦は自信無かったのよ。ヴィル君の過去も分かっちゃったし、色々…」
「色々…?」
「色々複雑なのよ女ってモンは!あーもう!ヴィル君!さっさと日本蹴散らして将軍からとびっきり高級ディナーおごってもらうわよ!」
「はは、了解!」
――仲間として俺を受け入れてくれる人が居る。俺はいつまで忌まわしい過去を引き摺っていたのだろうか。この人達とこの国と、俺は生きていくんだ――
「過去は忘れヴィルードン・スカー・ドルとして俺は生き抜く!」
ヴィルードンが搭乗している戦闘機はパイロットのやる気を表すかのように、勢い良く飛び立つ。

























一方のマリソンは。
「ふふ…戦争狂女と言われた昔のあたしが嘘みたい。機械のように戦っていた空も、将軍とヴィル君と飛んでいると楽しめるもの!」
マリソン機も他の機体の間を縫って勢い良く先頭の方へと飛び立つ。

























一方先頭を飛ぶダイラー。
「全くあいつらは。…世話が焼ける」
いつもの厳格な彼がヘルメットの下でふっ…、と微笑んでいた。


























































日本軍上層部、
軍本部―――――

「日本海にレーダー反応」
「太平洋上空にもレーダー反応」
「どちらも到達まで2時間はかかるかと思われますが如何なさいますか」
無線を付けた若い男女の問い掛けに、胡坐を組んでいた武藤は静かに立ち上がる。
「決まっているだろう。武士の誇りをかけ、戦う」






































京都、都城――――――

一方の国王はというと、袴を引き摺り、慌てふためいていた。そんな彼を妾が何とか宥めようとするが、駄目だ。彼は混乱状態に陥っている。
「何という事だ!我々日本はまだ連盟軍へ加盟していないというのにルネが攻め込んでくるだと!?」
「国王様お気を確かに。大丈夫ですわ。連盟軍が助けてくれます。きっと、きっと」


タン!タン!タン!

国王と妾のやり取りが障子戸から筒抜けの部屋の脇を足早に駆けて行く、腰に古びた刀を付けた人物それは、慶司。
――父上は本当に馬鹿だ。日本の恥だ。連盟軍と会談を行うなら極秘にすれば良いものを、公にするだなんて!――
「父上のせいで日本国民が再び血を流すだなんて僕は許せない!」


タンッ!

階段残り3段を飛び降りた彼が向かった場所それは離宮。



































本妻方離宮―――――


ガラッ、

静かに戸を開け、下駄を脱ぐ。ミシミシと軋む板張りの廊下を歩き、一室の障子戸を静かに開けば、慶司の母親である国王の本妻が窓の外のまだ肌寒いが雪も溶けた庭を眺めていた。慶司に気付くとゆっくりこちらを振り向き、いつもの暖かい笑顔を向けてくれた。
「慶司、座って」
自分の隣をトン、と手で叩いた母親に従い、隣に正座した慶司。太股に両手を着き、母親と向き合う。
「母上。僕は戦など賛成しません」
「そうですね」
「武力で平和を目指すだなんて上流階級の我儘だ。戦によって最も被害を被るのは蚊帳の外のシビリアンです。…しかしやはり、武力でしか平和は生まれない。平和を求めた姉上がそれでも戦っていた意味がやっと分かりました」
「ふふ、そう。聞かせて?」
「大切な人が居るから。大切な国民が居るから。大切な母国が在るから守りたいものがこんなにもたくさん有るから、今は僕は戦います」
慶司は立ち上がり部屋を出ていこうとするが、母親の一言に引き止められてしまう。
「今は、ですか?」
慶司は力強く両手拳を握り締めた。
「今の時代に戦う事を否定し、平和だけを求めたところで待つのは死だけです。だから戦う…仕方なく戦うんです。結局は戦いたくはないんですけど戦うんです…戦うしかないんです。矛盾してますよね」
はは、と自嘲気味に笑った慶司は静かに障子戸を閉めた。


カタン…、

慶司が離宮から出て行く足音がだんだんと遠退き、そして聞こえなくなる。
残された母親は立ち上がり窓を開け、庭を眺めた。
「矛盾を繰り返し、その果てに真実を突き止めるのです」
雀が1匹、母親の足元に舞い降りた。
「立派になりましたね、慶司…」


















































墓地―――――――

咲唖の墓前に立つ慶司。長い髪を一つに束ねる。彼女…いや、宮野純慶吾が使用していた紅色の額当てを後ろできつく結ぶと腰を下ろし、両手を合わせて静かに目を瞑る。
それはほんの一瞬の事で、すぐに目を見開けば、力強い眼差しが覗いた。
「姉上、行って参ります」
墓前に力強く敬礼をした。





























ビー!ビー!

レーダー反応後間もなくしてアジアに浮かぶ小島の四方八方を、黒の殺人兵器達が取り囲んだ。










































ダイラー率いるルネ軍航空部隊はこの中から更に3つに分かれる。
ダイラー将軍が隊長を務めるD隊は京都を。
マリソン大将が隊長を務めるB隊は東京を。
ジニー少佐が隊長を務めるG隊は北海道を襲撃。
しかし、この都道府県を襲撃成功後も未だ尚日本が抵抗を続けるようならば、他の都道府県を襲撃可能。要は、日本が白旗を挙げるまでルネは容赦なく潰しに掛かるというわけだ。












































日本軍総司令部―――

「東京、北海道空襲警報間に合わず被害拡大!」
オペレーターの若い女性の慌てる声は各軍人へ無線で繋がっている。王家が在り軍本部が在る都の京都で待機中の武藤将軍率いる部隊通称京都部隊の慶司は、機内を力強く殴り付ける。


ダンッ!!

「くっ…!同胞であった故機体性能は把握しているけれど、戦法が読めないなんて…!」
その時。慶司をはじめとする京都部隊面々の機体に音声のみの無線が繋がるノイズがして慶司はハッ!とし、顔を上げる。


ガー、ガガッ、

「京都部隊総員に通達する。京都部隊総員に通達する。只今から本隊はルネ軍への攻撃を開始する。武士の血を引く誇りを持ち、戦え。敵前逃亡など馬鹿な真似だけは絶対にするなよ」
「了解」
隊員達の力強く低い声を受け取った武藤だったが、彼らの声の調子が些か緊張気味であった事が気掛かりであった。


ゴオォッ…!

真っ青な空へと飛び立って行く、白を基調とした日本軍戦闘機。
一方慶司は静かに目を瞑り、深呼吸をしていた。するとカッ!と目を見開き、機体を起動させる。機体全体にライトが点灯してすぐ他の機体の後に続き、戦場へと踏み出したのだった。






































一方のD隊――――

「来たか裏切りモノ共め」
余裕の表れ故のハンデなのだろうか。日本軍が向かってくるまで攻撃せず、京都上空で待機していたダイラー率いるD隊。
各機体、レーダーに敵機を意味する無数の赤い点がこちらへ近付いてくるのを確認するとダイラーはヘルメットをかぶり一呼吸置いた直後、機体を起動させた。そして部下達へ司令を下す。
「アジア初のルネ王国植民地とさせてやろう日本」
その不気味な一言が皮肉にもD隊出撃の合図。




























そして一方の日本軍――――

「来たぞ!」
もうレーダーの観測ではなく、自らの目で捉えられる程まで迫ってきたルネ軍D隊。
日本軍はすぐ様2手に分かれ、左右からルネ軍を囲む体勢をとろうと各々のフォーメーション位置へ移動するのだが、移動途中で雲の切れ間から見えたサーベルの刃先。
敵機だ!避けなければ!そう大脳へ命令が通達する前に、1機の日本軍戦闘機はオレンジ色の炎を上げて爆破。


ドンッ!!

「佐藤少尉!!」
爆破した戦闘機のパイロットの名を、目を見開き叫ぶ慶司。感情的になってしまうのも納得できる。何故ならば佐藤少尉は慶司の目の前を飛行していたのだから。
しかし、仲間の死に嘆き悲しんでいる時間など戦場には1秒たりとも無い事を痛感していく。


ビー!ビー!ビー!

敵機を観測したレーダー音が危険音になっている事に気付き我に返った慶司が機体を振り向かせ欠けたその時。コックピットから見えた。目の前で敵機が真っ黒のサーベルを、慶司に向かって今まさに振り下ろそうとしているところを。
攻撃しなくちゃいけないのに思考が停止する慶司。見開いた目。だらしなく空いた口。


ドン!

大きな音と同時に大きく傾いた機体。
「ぅぐっ…!」
機内で慶司はその激しい揺れに何とか持ち堪える。
「集中しろ!!」
「武藤将軍…!」
突然繋がった武藤からのオープンチャンネル。モニターに映る武藤の表情はいつも以上に険しく、怒っているように見える。
今の大きな音と揺れは、敵機のサーベルが慶司の機体に振り下ろされる直前で、横から敵機を振り払った…つまり慶司を援護した武藤機によるものだったのだ。



























「武藤将軍、佐藤少尉が…!」
「仲間の死に動揺している時間は無い!」
「!」
初めてだった。無線を通してだが、武藤が慶司に対し怒鳴り声を上げたのは。
慶司は呆然。しかしその間にも、動きの止まっている慶司の機体を撃墜させるチャンスとばかりにルネ軍が迫ってくるから、武藤は慶司に無線を繋げながらも戦っている。慶司を庇う為。
「武藤将、」
「仲間の死を悲しまぬ人間など居ない。しかしそれは今すべき事か!?違うだろう!今すべき事を考えろ!そして実行しろ!宮野純慶吾は戦場で仲間の死に動揺するような柔な人間ではなかったはずだ!」
「!」
"宮野純慶吾”その名に過剰反応した慶司の脳裏で蘇る映像それは、前回のカイドマルド戦で血塗れで戦っていた慶吾の名を使った姉の姿。
「…っ!」
下を向いた慶司の身体が小刻みに震え出す。
武藤がこう言ってくれたのは、慶吾の額当てをつけて今戦へ出た慶司を宮野純慶吾として受け入れているからだろう。それならば、彼が怒鳴り声を上げる理由が分かる。分かったからこそ武藤のその優しさに応えなければという強い思いが込み上げる。
「どうした宮野純慶吾!お前は所詮この程度の武士であっ、ぐあ!」
「!」


ガガッ、ザーッ…

突然のノイズと砂嵐で、武藤との通信が切断された。目の前で武藤の機体がルネ機4機に四方から砲撃を食らっているではないか。慶司が平常心を保てていたらこんな事にはならなかったはず。



























「ははは!ざまぁねぇぜ日本人!こんな奴らが俺達ルネの同胞だったと思うと泣けてくるぜ、なぁ!」
「ぐっ…!」
わざと通信を繋げてきたルネ軍軍人の音声は、此処に居る武藤と慶司にダイレクトに聞こえてきた。


ドン!ドンッ!

ルネ軍は容赦なく武藤機を羽交い締めにするから、右側からは灰色の煙が上がり始める。
機内では、衝撃で打ち付けたのだろう武藤が額から血を流していて視界は霞んでいた。故に傾き、抵抗できなくなった武藤機を前に、若い1人のルネ軍人は白い歯を見せ、ニヤリと嗤う。
「戦果頂きだぜぇ!!」
「させるものか!!」


ドンッ!!

砲撃体勢に入っていたルネ軍戦闘機の何と懐に特攻を仕掛けた日本軍戦闘機が1機。慶司だ。
「ぐあ!?」
あまりにも無謀な体当たり。だが、誰もが予想しない攻撃だったからこそ、特攻をくらったルネ軍戦闘機は大きく突き飛ばされる。


ガー、ガガッ、

「慶司…君…か?」
ノイズと共に繋がった武藤からの通信。武藤の声に先程までの力強さが感じられない事に罪悪感を抱く。
だが、ここでまた立ち止まったら振り出しに戻ってしまう。慶司は耳にかけている小型無線機にそっ…、と触れた。





























前方に、先程突き飛ばした敵機に加え、新手が5機こちらへ高速度で向かってくる姿が見える。
「今までの宮野純慶吾よりは格段頼り無いですが、僕宮野純慶吾は、武藤将軍の右腕と成れるよう全力で努める次第です」
顔を上げた慶司…いや、慶吾の黄色の瞳が力強く輝いていた。
「うわああああ!!」
叫びにも似た掛け声を上げて、5機のルネ軍戦闘機へ立ち向かって行った母国の王子の背を見た武藤はフッ…、と笑み、額から流れる血を乱暴に拭うと、高速度で慶司の機体と並ぶ。そして通信を繋げた。


ガー、ガガッ、

「1人で英雄の座を横取りする気か宮野純慶吾?」
「将軍…?」
「将軍の私にも、若造の君には負けられないプライドがあるのだ」
「…はは。僕も貴方に負けたくない。いつか貴方を越えたいプライドがあります!」
「仲良しこよし2機で向かってくんのか?戦争はチームワークなんていう生温いモンじゃあ勝てねぇ!実力勝負の世界だって事をルネ王国様直々にご指導してやんよ日本人!!」
ルネ軍5つの刃と日本軍2つの刃が、今まさにぶつかり合った。


キィン!!





































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