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症候群-追放王子ト亡国王女-
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「ははは!そうだったなそうだったな!お前はあの日もルヴィシアンお兄様が怖くて恐くて結局何一つ逆らえず、ダビド国王殺害の罪を着せられたのだったな!お前は昔から私が恐ろしくて私の言いなりで、ただの駒に過ぎない何もできない弱虫だったな!ははは、」


パァン!

銃声。しかしただの威嚇。マリーが居るからわざと外したのだが、ルヴィシアンの髪を束ねていた紫色のりぼんが弾けた。同時に、彼の長く真っ黒な髪が広がる。
外したが、あの何も自分には逆らえずにいた弟ヴィヴィアンから発砲され驚愕で呆然としているルヴィシアンから、手荒にだがマリーを奪い返す。
「マリー!機内へ!」
マリーには機体に乗るよう言うが、マリーはオロオロしてヴィヴィアンを気に掛けていて、なかなか乗ろうとしない。
「マリー早く乗るんだ!」
「で、でもヴィヴィさ、」
「僕も今すぐ行くから早く!」
「わたくしは…わたくしは…!」
「いいから早く乗れ!!」
彼の初めての乱暴な口調にただコクコクと頷く事しかできず、パタパタと小さな足音をたててエミリーを抱き抱えたまま、機内へ搭乗した。




















一方のヴィヴィアンはというと、マリーがちゃんと搭乗した事を横目で確認していたほんの一瞬。ほんの一瞬のその隙に。
「ヴィヴィアンンンン!」
「!」
叫びながら懐から取り出した果物ナイフを、ヴィヴィアン目掛けて闇雲に振り回してきたルヴィシアン。持ち前の瞬発力で尽く躱すヴィヴィアンの顔には、薄ら笑みすら浮かんでいた。
「はぁっ!はあっ…!」
ルヴィシアンは疲れたのか呼吸を乱しながらも、未だナイフを振り回しているからチャンスだ。動きも鈍くなっているルヴィシアンの頭部に銃口を向けるヴィヴィアン。


カチャッ…、

ルヴィシアンの真っ赤な瞳に映った銃口。途端、顔を真っ青にして目を見開き、立ち止まってしまうルヴィシアン。
絶好のチャンスだ。兄を殺す絶好のチャンス。


パァン!

「くっ…!」


カランカラン!

銃声はしたが、ヴィヴィアンの拳銃の銃口からではなく、落石したコンクリートの合間を何とか擦り抜けて駆け付けたアマドールの拳銃の銃口から灰色の煙が噴き出していた。
ヴィヴィアンが拳銃を持っていた左手首を狙って発砲したアマドール。しかし、狙いから少し外れ、手首下の腕に命中してしまったが問題ない。撃たれたせいでヴィヴィアンは思わず拳銃を落としてしまったのだから、結果的に見れば命中だ。



















「アマドール!!」
「国王様、今です!」
アマドールの言葉にコクンと頷くと、果物ナイフを持った右手を大きく振り上げながら、ヴィヴィアン目掛けて突進。
「うわあああああ!」
慌てて拳銃を拾おうと床に手を伸ばして身を屈めようとしたが、そんな間にもルヴィシアンがやって来てしまうだろうからここは避ける方が無難。そう咄嗟に脳内整理したヴィヴィアンは珍しく冷や汗を伝わせながらも、ルヴィシアンの攻撃を右へ避けようとしたのだが…何と読みが外れてしまい、ルヴィシアンも右へナイフを振り上げたのだ。
「ヴィヴィアンンンン!!」
「…!しまっ、」
銀色に輝く果物ナイフに映ったヴィヴィアンの顔は、普段余裕綽々の彼らしかぬものだった。目の前の死に恐怖した顔。






















「うあ"あ"あ"あ"!」
「ヴィヴィ様…!?」
機内に搭乗したマリーの耳にも届いたヴィヴィアンの悲痛な叫び声。
あのヴィヴィアンでも、これ程までの叫び声を上げてしまうのは当然だろう。ルヴィシアンが振り上げたナイフの刃先が、ヴィヴィアンの右目を大きく切り裂いたのだから。


ビチャッ!ビチャッ!

彼の瞳と同じ色をした真っ赤な血が噴き出す。右手で右目を覆い、よろめく隙だらけのヴィヴィアン。
「国王様!」
アマドールから投げられた物をルヴィシアンが巧くキャッチすれば、彼はそれを右手で構え、ヴィヴィアンに向けた。アマドールから受け取った物それは拳銃。


パァン!パァン!パン!

「ははははは!」
何発も何発もヴィヴィアンを撃つ。右目を押さえたまま、撃たれる度に肩や腕や脚から血を噴き出しながら、右へ左へよろめくヴィヴィアンの姿を前にしたルヴィシアンの表情は、この上ない幸せに満ち満ちていた。






















「あはははは!楽しいぞ!私は今心の底から楽しいぞアマドール!余興の始ま、」
発砲されつつも、キッ!と鬼のようにつり上がったヴィヴィアンの恐ろしい左目とルヴィシアンの目が、ばっちり合った。
すると同時に、右目を押さえていた右手を離し、武器も何も持たないままルヴィシアン目掛けて駆けてきたではないか。
これにはさすがのルヴィシアンも目を丸めるが、とにかく撃つ。撃つ。撃つ。
「なっ…!低能が!死にたいのか貴さ、ぐっ…!」
「国王様!」


ガッ!

ヴィヴィアンはルヴィシアンの手から拳銃を放り投げると、彼の胸倉を思い切り掴み上げたのだ。


ガラガラッ!

アマドールが咄嗟に駆け寄ろうとするが、またしても彼の行く手を拒む落石。





















「うっ…ぐっ…!」
苦しむルヴィシアンの目の前にあるヴィヴィアンの顔。血に塗れた右目は開いてはいるが、見えていないだろう。右目から引っきりなしに流れる血を舌でペロッ、と舐めたヴィヴィアンは嗤った。見下しながら。
そんな彼に、ルヴィシアンが腹を立てずにいられるはずがなくて。
「ヴィ…ヴィアン貴様っ!ぐっ、このっ…私に何一つ逆らえず、何もかも奪われたままの負け犬がっ!低能がっ!汚い手で私に触れるな!!」


しん…

沈黙。
下を向いたヴィヴィアンが自分に怯えたのだと思ったルヴィシアンにも笑みが浮かんだのだが…。
ヴィヴィアンは顔を上げた。嗤っていた。悪魔さながらに。
「黙れ無能」
「っな…!?」
「貴様ああああ!!」


パァン!パァン!!

アマドールは腕や脚から血を流しながら無理矢理にでも落石を乗り越え、先程ルヴィシアンがヴィヴィアンに放り投げられた拳銃を拾い、それでヴィヴィアンを発砲。
さすがに生命の危機感に迫られたヴィヴィアンは決して背は見せず、逃げるようにカイドマルド戦闘機に搭乗。


ガタン!

右目だけでなくあちこち血塗れのヴィヴィアンを前にしたマリーは目を見開き口を両手で覆い、声を失う。
「…!ヴィヴィさ、」
「マリー、しっかり掴まっていてね」
「きゃっ!」
マリーを後ろに座らせ、彼女の両腕を自分の腰に掴まらせると、レバーを思い切り前へ倒す。


ゴオォッ!!

機体は大きな音と強風を吹き、勢い良く城内から飛び立って行った。




























ヴィヴィアンが乗った戦闘機が飛び立って行くその様と、ぽっかり開き外が丸見えとなったルネ城を前に、呆然のルヴィシアン。
一方のアマドールはというと、すぐ様ダイラーを始めとするルネ軍へ無線で通信をとっていた。
「貴様ら何をしていた!奴が現れた!しかも国王様と接触させたとは!貴様らがカイドマルド軍の阻止を怠ったからだろう!このっ、低能共が!」
後ろでアマドールの怒鳴り声がするが、そんな事よりもルヴィシアンの脳内で何度も何度も繰り返される言葉。

『黙れ無能』

「ぐっ…!」
ルヴィシアンは歯ぎしりをする。
――殺す殺す殺す殺す殺す!必ずあいつを必ずヴィヴィアンを殺す!この私が!――











































同時刻、
ダイラー機内――――

「申し訳ありませんでした。一応全敵機とオープンチャンネルを繋げたのですが。今後このような事が無いよう、全力を尽くします」


ガン!

アマドールとの通信後すぐに機内を左拳で殴り付けたダイラーの顔には、珍しく怒りが露になっているではないか。
そんな彼のブラウンの瞳に映るのは、1機のカイドマルド戦闘機。それを目で追う。
「貴様らのせい…?それを言う前に貴様は王の側近であろうアマドール!!」
アマドールへの怒りのはずなのだが、それを敵機に八つ当たりだ。


ドドドド!!

ミサイルを連射すれば、ダイラーが捉えた敵機は真っ赤な火を噴いて空中で大破。


ドンッ!!

爆発音。
火と灰色の煙を上げる敵機のすぐ脇を、高速度で通り抜けて行ったダイラー機が辺りを旋回。


















薄くなってはきているが、まだ充満する毒ガスと交戦の証である灰色の煙が充満するが、もう敵機は見当たらないし、レーダーも感知していない。
「ダイラー将軍ダイラー将軍。敵機の反応無し。帰投しますか?……?ダイラー将軍?ダイラー将軍?」
部下からの通信だけが響く機内。ダイラーは下を向いたまま、ポツリ…と呟く。
「…だろう」
「…?将軍?何か仰いましたか将ぐ、」
「奴を連れ戻せば良いのだろう!!」
「ダイラー将軍!?」
突然急発進したダイラー機。案の定、何事かと部下達からダイラーへの通信が一斉に繋がるが、それら全てを切断した無音の機内でダイラーは眉間に皺を寄せたまま、ただただ前方だけを見て、最高速度で機体を飛行させている。
「見せつけてやろう!ルネ軍の偉大さを!二度と低能などと言わせんぞアマドール!!」
自軍を貶されたから…いやそれよりも、超大国の将軍ダイラーの自尊心を傷つけられたから故の行動だろう。



































その頃、
ルネ王国パロマ地方―――

車を走らせるアントワーヌを、助手席に腰掛けたラヴェンナは気難し気な顔をして横目で見ている。
「やはり恨みますか」
彼女からの視線に答えるアントワーヌは前方を向いたままハンドルを左にきる。
ラヴェンナは腕組みをしてツン、として外方を向く。


ゴオォッ!!

その時。頭上から轟音がして、2人はフロントガラス越しに頭上を見上げる。するとこの車の進行方向に向けて飛行して行ったカイドマルド戦闘機が2機。
「まずいぞ!進行方向を変えなければ奴らに出くわしてしま、」


キキィーッ!

ラヴェンナが言い欠けている間にもアントワーヌはアクセルを最高値まで踏み込むから、急発進の衝撃でラヴェンナは思わず前のめりになる。
「危ないだろお前!というかそっちへ行ったらカイドマルドの奴らに、」
「ヴィヴィアン…」
「え?」
「もしかしたらヴィヴィアン・デオール・ルネかもしれません」
アントワーヌの笑みから微かに邪気を感じた。































2機のカイドマルド戦闘機が着陸したパロマ地方高原――――

既に着陸していたもう1機のカイドマルド戦闘機内から出てきたのは、右目や負傷ヶ所を包帯で巻いたヴィヴィアン。
ヴィヴィアンは、出撃した10機の内、1機にもう1人の兵と2人で搭乗していたが、途中で降りてルネ城へやって来たのだ。招かれた舞踏会に参加する為。
本当ならばこの時にルヴィシアンを始末しておく予定だったのだが、マリーが居た為、ルヴィシアン殺害よりもマリーを優先したので計画が狂った。だが、これはこれで良かったのかもしれない。情緒不安定なヴィヴィアンにとって、マリーは唯一の特効薬であるから。
そして、ルネ城へ突入してきたカイドマルド戦闘機は最初にヴィヴィアンが搭乗していた戦闘機であり、生身のヴィヴィアンを迎えに行く為にオートで操縦させていた為無人だったのだ。オートにする前に搭乗していた兵は別の戦闘機に乗った。
「…?おかしいな。出てこない」
10機出撃し、ヴィヴィアンとマリー達が搭乗した1機を除く9機がこの地点に合流するはずだったのだが、2機しか合流できていない。どういう意味かはヴィヴィアンにだって分かる。
取り敢えず、アウェイだというのに1機だけでも合流できた事を喜んでいたのだが、合流した機内からパイロットが出てこない為、どうしたものかと機内を見たのだが…

「…これが超大国との差か」
パイロットは最期の力を振り絞って此処へ着陸したのだろうか。ヘルメット内は血の海と化していて、操縦席でぐったりとしていて既に息をしていなかった。




















ヴィヴィアンは機内から降り、カイドマルドへ帰投しようと自機へ乗り換えようとした時。


キキィーッ!

「!?」
すぐ其処で紺色の普通乗用車が音をたてて、急停車したのだ。すぐに緊張感を漂わせるが、車内から降りてきた人物にヴィヴィアンは目を丸める。
「ヴィヴィアン!」
「ラヴェンナ!?」
長いオレンジの髪を靡かせて勢い良く車内から降りてきたラヴェンナ。その直後、静かに降りてきたアントワーヌはヴィヴィアンに向かって慎ましく一礼。
「お久しぶりです、ヴィヴィアン王子。お会いするのは貴公が16の時以来でしょうか」
「何故議会のお前がラヴェンナと…」
「当ったり前だろ?あたしもこいつも、ルネ王室つまり王党派の惨さに反対する人間だ!というかお前、その右目大丈夫か?」
「これで大丈夫なわけないじゃないか。つまりラヴェンナ。君とバベットは同類同士…って事ね」
じゃあ僕はこれで…とでも言うように2人にくるりと背中を向けて機体に搭乗しようとしたヴィヴィアンの軍服の後ろをぐいっ、と引っ張るラヴェンナは顔を近付ける。
嫌そうに顔を引き離そうとするヴィヴィアンにもお構い無しだ。





















「何?早く帰還しないと」
「ヴィヴィアンお前!まずあたしに謝る事があるだろう!」
「はぁ?」
「新生ライドルであたしはルネに連れ拐われて、監獄行きだったんだぞ!」
「ああ、あの時ね。ごめんごめん」
「ふざけるな!お前なぁ!あれがあたしだったから良かったものの!マリーだけはちゃんと守ってやれよ!」
「分かってるよ。いちいち煩いなぁ」
今度こそ…というところでアントワーヌが出てきた。
「何?」
「ヴィヴィアン王子。貴方は今後どうなさるおつもりで?カイドマルド国王は死んだと聞いておりますが」
「簡単だよ」
ニィッ…と笑んだ時ヴィヴィアンは何か閃いたのか、ハッ!としてすぐ、アントワーヌを見る。
「議会派のお前にも是非協力してほしい」
彼のこの一言はどういう意味なのかすぐに察したアントワーヌは、また丁重に一礼するのだ。
「実は私も以前から、ヴィヴィアン王子。貴方と手を組みたいと考えておりました」
「はっ、なら話は早いね。何分人手不足だからさ。冷静沈着且つ頭脳明晰なお前なら、僕の下臣に相応しいと思うよ」
「貴方がこれからどうするかは分かりませんが、貴方もお考えなのでしょう、アレを」
ニヤリと笑むアントワーヌの知的な笑みに、ヴィヴィアンはご機嫌だ。話の分かる奴が現れてくれたから嬉しいのだろうか。




















「そうだね。こんなくだらない戦争を終わらせる為の策はアレしかない」
2人が何を言いたいのか全く分からず2人に挟まれているラヴェンナは、頭上にハテナマークを浮かべている。
「調度良いや。ラヴェンナ、君は戦闘機を操縦できるよね?」
「あ?ああ、まあな」
「じゃあその戦闘機に乗って。定員が2人までだからバベット、君も乗れる。僕の後ろについて来て」
そう言うと、自機からぶらさがっているロープに掴まり、コックピットへと昇っていくヴィヴィアン。
ラヴェンナはブツブツ言いながらも先にコックピットへ乗り込む。アントワーヌはというと、ヴィヴィアンが後少しで機内へ搭乗するというところで、見上げながら声を上げた。
「ヴィヴィアン王子。確認させて下さい」
「何?」
「貴方が仰るアレと私が仰るアレ。それは、ルネ王室の崩壊即ち、王政廃止という事で宜しいですか」
背を向けたままのヴィヴィアンは顔だけをアントワーヌに向けて、笑った。
「勿論」
その返事を聞いたアントワーヌも、嗤った。
























ガタン、

「ヴィヴィ様」
「ん?」
コックピットへ搭乗すれば、ずっと機内で待っていたマリーが尋ねる。
それを聞きながら、ヴィヴィアンは機体の調整を進めて機体を起動する。
エミリーは彼女の膝の上でスヤスヤ眠っていた。
「どなたかとお話をされていたようでしたけれど、お知り合いがいらしたのですか?」
「ラヴェンナと議会派の奴だよ。一緒に来るらしい」
「ラヴェンナさん達が?」
ぱぁっ!とマリーに笑顔が浮かべばヴィヴィアンは一安心したのか、息を吐きながら微笑む。
"機体正常化"の文字が表示されている画面に背を向けて後ろに座るマリーと向き合えば、彼女に顔を近付ける。ヴィヴィアンの真っ赤な瞳に映るマリー。
「…!」
ヴィヴィアンの唇が触れる直前で、マリーはヴィヴィアンからバッ!とあからさまに顔を反らしてしまった。拒んでいる。






















目をぎゅっ!と瞑り顔を反らしたマリーは、ガタガタ小刻みに震えていた。
だからこれ以上足掻こうとはせずヴィヴィアンは彼女に背を向けると、操縦レバーを前へ押し倒す。機体が地から浮き上がる。


しん…

沈黙。
何も話してこないヴィヴィアンの背中が恐くて、マリーは小動物のようにビクビク怯えている様だ。
「ヴィ、ヴィヴィ様あの…助けて下さり…あ、ありがとう…ございました…」
「当然だよ。礼を言う事なんかじゃないよ」
良かった。優しい彼だ。内心少し安心できた。肩に乗っていた重たい岩が少しとれた気分のマリーだった。
「あ、あの…わたくしその…まだヴィヴィ様が…あの日から恐くて…。だから…ごめんなさい…」
拒んでしまって…後に続けようと口を開いたが、先にヴィヴィアンが呟いた。
「いいよ。別に君だけじゃないし」
「え…?」


ゴオォッ!

戦闘機2機の飛び立つ轟音がパロマ地方高原一帯に響き渡っていた。


























ビー!ビー!

「…来たか」
機内に広がる敵機接近を知らせるサイレン。機内右下の画面にこちらへ向かって進行してくる赤い点が二つ。パイロットは戦闘機のサーベルを構え、静かに息を整えた。
「汚名返上といくぞ!反逆者ヴィヴィアン!」
パイロットのダイラーが乗る戦闘機は、迫りくる2機の敵機へ向かって高速度で猛進していった。



































ルネ城―――

「ははは…ふはははは!」
「こ、国王様…?」
半壊したルネ城の瓦礫の中に立ち尽くしていたルヴィシアンに真っ赤なコートを羽織らせたアマドールだが、ルヴィシアンの突然の高笑いに目を丸めて唖然としてしまう。
「無能、か…。はは…奴の才能全てを奪い、それを己のものとした時点で私は私自身の無能さを認めていたのか…」
「こ、国王さ、」
「しかし私には才能がある…」
今まで俯きながらブツブツ呟いていたルヴィシアンは突然顔を上げると、アマドールの方を振り向いた。
「私は有能者を見分ける才能がある!そうだろう、アマドール!」
狂気に満ちた高笑い。狂気に満ちた表情。なのに、ルヴィシアンの真っ赤な両目からは、頬を伝う涙が引っきりなしに流れていた。
アマドールは静かに目を瞑り、狂気に満ちたルヴィシアンの前に静かに跪く。
「国王陛下…貴方様は有能者でございます。私アマドールには分かります」
"年上なのだから。兄なのだから。弟より何でも優れていて当然でしょう?"
そんな固定概念から逃れたくて逃れたくて、不安に押し潰されてしまいそうな小さな身体が辿り着いた道はもう後戻りのできない、底無し沼だったのかもしれない。





































ベネツィア海上――――――

「せんば山には狸がおってさ、それを猟師が鉄砲で撃ってさ、煮てさ、焼いてさ、食ってさ」
「すごいすごい!慶司すごいですね」
蹴鞠を両手で持ち、若干息を荒げた僕の髪がくしゃくしゃになるくらい頭を撫でてくれた優しい姉上。
「のんびり寝ていた兎さんは頑張り屋さんの亀さんに追い越されてしまいましたとさ」
父上と母上が外交で飛び回っている幼少の頃。膝の上に僕を乗せてよく絵本を読んでくれた優しい姉上。
…そんな優しい印象しかなかった貴女が返り血に塗れた宮野純慶吾だと知った時、正直僕はショックでした。争い事や戦争が大嫌いと常日頃口にしていた貴女自身が戦争に手を染めていただなんて、考えたくもありませんでした。当時は。
でもそれも全て、優しい貴女故の結論と行動だったのですね。早くこんな茶番劇はやめて、皆平和になりましょう。仲良くなりましょう。…その意を込めて貴女は戦場へ出向いていたのですね。


















「…ならば問わせて下さい姉上…。優しい貴女ならこのような場合、どうしますか…」
「誰…嫌、私は誰?ねぇ…私は誰なのですか…教えて…誰かっ…」
目の前の大破したカイドマルドの小型戦闘機コックピット内で頭を抱え、擦れた声で何度も何度も自分が何者なのかと繰り返すルーベラ。
彼女を前に未だ慶司は拳銃を構えられず、刀すら構えられずにいた。強く目を瞑る。
「こいつは姉上貴女の仇だ…。でも今こいつには記憶が無い…。そんな相手を僕が殺めた時、貴女は僕を叱りますか。それとも褒めますか…」
「慶司君」
「…!武藤将軍…!」
背後から、ポン…、と肩に乗った手。後ろに立っていたのは日本軍武藤将軍。






















彼が戦闘機で此処に来ていた事にすら気付かなかった。
どうしようどうしよう。慶司の目が泳ぐ。武藤の茶色の瞳に映るのは、記憶喪失のルーベラ。
「…カイドマルド軍か」
「し、将軍!しかしこいつは記憶を失っていて…!」
「だから何だと言うんだ。こいつは確か…先の対戦で咲唖様と信之様を殺めた軍の女…。日本人がいくら優しく温厚だといってもその長所は今、活かすべき時じゃない。…慶司君。君が敵を庇うというのなら、それは重大な軍規違反に値する。それならそれで、私にも武士としてやらねばならぬ事がある」


パァン!

森林に、1発の銃声が響き渡った。





























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