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症候群-追放王子ト亡国王女-
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現在―――――

「ねぇ誰!誰なの私の機体に乗っているのは誰なの!通信を繋げてよエドモンド先生!」
時は戻り、現在。
互いのサーベルがぶつかり合い、火花を散らす。
頭上モニターに映る敵パイロットジュリアンヌの通信を通しての必死の呼び掛けとサーベルがぶつかり合う機械音だけが響くジュリアンヌ機内で、ダミアンは右手を震わせる。
敵機に通信を開線するつまりオープンチャンネルのボタンを押せずに、震える右手人差し指は留まっている。


ドドドド!!

そんなもたもたしていたら、我慢の限界なのかジュリアンヌは今までにはなかった高速で的確な攻撃を仕掛けてきたではないか。これには、実戦経験など無いダミアンは対応できず、押されっぱなしだ。ダミアンが搭乗している青色の機体頭部をジュリアンヌが搭乗している黒い機体に鷲掴みにされる。空中で身動きがとれなくなる。


ガッ!

「ぐっ…!」
カタカタと、機内のありとあらゆるボタンやキーボードを操作するが、右下に設置されているモニターには真っ赤な文字でERRORと表示される。


ビー!ビー!

同時に、嫌なサイレンまでもが機内に響き渡るから悪い予感しかしない。
「エドモンド先生だから今までちょっぴり手加減してあげていたけど、どうやら先生じゃないみたいだね。なら…ここからは手加減無しの真剣勝負!」
「ぐぁ!」


ドスッ!ドスッ!

その言葉を合図に、ジュリアンヌは今まで押し殺していた力を全開。サーベルで何度も何度もカイドマルド機を斬り付けるから、カイドマルド機はバチバチと火花と灰色の煙を噴き出し、されるがまま。





















しかしダミアンはチャンネルを開線するボタンを押す事をきっぱりとやめた。何が何でも通信を開かないと決めたのだ。今ジュリアンヌに通信を繋げたら自分は…。
「何処の誰だか分からないけど!あなた達が従っているカイドマルドの王こそがカイドマルドを崩壊に導いた狂者なんだから!」
通信越しに聞こえてくるジュリアンヌの声は怒っているようで、捉え方によっては辛そうにも聞こえる。
一方、フロントガラスの左部分も大破に機内のあちこちも火花が散る機体の中でダミアンはただ俯いているだけだ。ジュリアンヌの叫びを聞いているのかどうなのかは分からない。


ドン!

また爆発音をたててダミアンの機体の右半分が大破し火花が散る。火花の熱が熱くて耐えられないはずなのだが、ダミアンは未だ俯いたままただ黙って敵の猛攻を受けているだけ。
そんな間にも、ジュリアンヌは少しダミアンの機体から距離をとると、機内でニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべる。
「さようなら大好きなカイドマルドの人…」
ルネ機の下部が開く。ジュリアンヌは赤いボタン即ちミサイルが発射されるボタンを押した。



















カタカタカタ!

それと同時だった。ダミアンは顔を上げ目を見開くと人が変わったかのようにキーボードを右手だけで素早く打ち込む。
非常事態用の機能が作動すれば、最後の力というのだろうか、その力を振り絞ったダミアンの機体が機能し出す。


キィン!

真正面からサーベルを振り上げて突っ込んでくるダミアンの機体は生まれ変わったかのように移動速度が速い。衝撃的でジュリアンヌは目を見開き、唖然。
しかしダミアンの機体がルネ機にサーベルを振り下ろそうとしたと同時に、ルネ機下部からミサイルが数十発発射されたのだ。しかもこんなにも至近距離で。


ドン!ドン!

至近距離の為ミサイルの爆風を自分も食らってしまうルネ機だが、こちらは丈夫。
「ぐあああ!!」
しかし直に至近距離でミサイル攻撃を食らったダミアンの機体は、右部や左部を街の方へと落下させ、火花と灰色の煙を上げながら、急降下していく。
そんな中でも、ダミアンは意地でも通信を開かなかった。























急降下していくその様を、上空で機内のフロントガラス越しから見下ろすジュリアンヌは肩を上下させ、呼吸を整えている。
「ごめんねごめんね。名前も顔も分からないカイドマルドの人…でもね、私はもうルネの人間なの。だからこうするしかないの…ずるいよね。エドモンド先生が知ったら、呆れて怒りもしないよね…」


ドン!

爆発音がしたかと思えば、急降下していったダミアンの機体のエンジンオイルが洩れ、爆発したのだ。
オレンジの炎を上げて急降下していったダミアンの機体を切なそうに目を細めて見送り、背を向け、他の外国人部隊との合流ポイントへ飛び立とうと後ろを向くと。其処には、呆然と立ち尽くしているかのように空中で浮かんでいる黒色のルネ軍戦闘機。機体ナンバーからしてパイロットは、ヴィルードンだ。


ガー、ガガッ、

パイロットが誰なのか気付くと、ジュリアンヌは彼にオープンチャンネルを繋げる。
「ウィリアムく…ヴィルードン一等兵…だったね。ねぇ私はもう戻れないね。カイドマルドの人間なのにカイドマルドの人間を今殺しちゃったんだよ…」
しかし彼からの応答は無い。不思議に思った彼女は首を傾げる。
「ウィリアム君?」
するとヴィルードンが搭乗した機体が急発進。急降下していったダミアンの機体目掛けて飛び立って行くのだ。彼の意図が掴めぬジュリアンヌは、彼を追いながら通信を繋げる。





















「ウィリアム君!ウィリアム君!?どうしたの!ねぇ、」
「ジュリアンヌさん。貴女には辛い事実ですが…」
「ウィリアム君…?」
「貴女が今大破させたカイドマルド機のパイロットは貴女の息子です」
「…!?」
声にもならない悲痛な叫びを上げるとジュリアンヌは頭を抱え、顔を真っ青にさせる。そんな彼女がモニター越しに映るから、心を痛めるヴィルードン。
「私はっ…わた、しはっ…」
「ジュリアンヌさんよく聞いて下さい。俺が今からあいつを追います。救出する為ではありません。俺はもうルネの人間だ。だから、あいつの…カイドマルド国王ダミアンの首を持ってくる、ただそれだけです。貴方は外国人部隊の方達と合流して下さい。いくら俺達の方が戦力は上といっても、カイドマルドも腕を上げてきている。だから、」
「…ミアン、ダミアン…いや…私のせいなの…また私が考えも無しに…」
「ジュリアンヌさん?」
「今の私にはあの子しか救いがないの!!」
「ジュリアンヌさん!?」
ヴィルードンの説得に耳も傾けず、ダミアンが搭乗していたカイドマルド機が落下していった森林目掛けて高速度で飛び立って行くジュリアンヌの機体をヴィルードンが追おうとした時だった。





















「待って下さい!ジュリアンヌさ、」


ドン!ドン!

「なっ…!?」
今まさにヴィルードンが追おうとしていたジュリアンヌの搭乗したルネ機が、何者かによって攻撃された。目の前で真っ赤な炎を上げて爆発し落下していくのは、ジュリアンヌが搭乗しているルネ機。
ヴィルードンの身体が小刻みに震え出したその時。


ガー、ガガッ、

静かに通信が繋がった。音声と映像共に。機内モニターに映ったのは、自分の命を拾ってくれた恩人マリソンの笑顔。
「マリソン…さん…」
「ごめんなさいね、ヴィル君。各部隊隊長は、率いる部下達全員の機体に盗聴器を設置させているの。隊長には部下達の通信のやり取りが筒抜け。裏切り者がいたら国の一大事でしょう?今の用に、ね?」
にんまりと微笑んだマリソンの笑顔は自分が憧れる笑顔のはずなのに、今だけは悪寒がし、身震いがしたヴィルードン。
「これで一先ず裏切り者は居なくなったし。さて、他の部隊と合流しましょうヴィルードン君?」
"ヴィルードン"
あの日、彼女から貰った新しい名前をわざとらしく強調して呼ばれた。


ブツッ!

同時に、マリソンからの通信が途絶える。
彼女の搭乗した機体のすぐ後ろをついて行くヴィルードンの機体はどこか力が抜けているようにも見えた。そんな彼らの遠く後ろにある森林からは、灰色の煙とオレンジ色の炎が上がっていた。
それでも戦いは続く。誰かの命が消えていこうとしても、それは他人事のように無慈悲なまでに続くのだった。





































その頃、
ルネ王国上空―――――

「はい。こちらヴィヴィアン曹長。エドモンド将軍ですかお疲れ様です。こちらはロストした機体は12機。戦況としては僕達の方が優勢と言ったところでしょうか。はは、お褒めのお言葉光栄です。…え?国王様の機体がロスト…通信が繋がらない…?…承知致しました。僕はダミアン国王様に命を拾って頂いた身。彼亡き今もカイドマルドの為に全力を尽くす次第です」


ブツッ、

通信を切断する。
ルネ上空を旋回するヴィヴィアンは機内で身体を小刻みに震わせ、俯いている。すると突然顔を上げ、満面の笑みを浮かべ機内中に響き渡るくらい大笑いをした。
「あははは!馬鹿だ!前線へ出る国王が世界の何処に居るっていうんだよ!?本当に馬鹿な奴の下にいたんだなぁ僕は!僕が惨め過ぎる!あははは!やった…手間が省けたよ。これで計画は滞りなく進行…いや予想以上に速く進行するんだ」
ヴィヴィアンは機内に転がっていた小型通信機を使用する。
「予想通り…いや、予想以上に馬鹿な国王だったよ。君の判断は正しかったね。僕も計画実現に最善を尽くす。だから君もそっちも最善を尽くすようお願いするよマラ17世」
通信を切断後も、ヴィヴィアンの高笑いが真っ赤に燃え上がるルネ上空に響き渡るのだった。




























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あきゅろす。
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