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症候群-追放王子ト亡国王女-
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ルネ城内、
国王殺害事件の翌朝―――

報せというものは早いものでルネ王国内は勿論、大抵の国にこの事件が知れ渡った。ルヴィシアンと王妃は情緒不安定でテレビに出る事ができない状態。王妃は本当に情緒不安定なのだが、ルヴィシアンは嘘だ。
自室で、真相を知っている側近『アマドール・ドリー』と他の男性兵士3人と楽しそうに且つ不気味に笑いながら、国王の座を奪えた事と邪魔者を追い出せた事に大喜び。
窓際の椅子に足を組んで座り、片手に赤ワインの入ったグラスを差し出す。兵士4人も片手に持ったグラスを差し出す。
「ルネ王国の新たな王の誕生に。乾杯」


カチン!

不気味に微笑んだルネ王国の新たな王の顔はまるで悪魔だった。













































慌ただしい城内。
兵士や使用人達が駆け回る足音や声が室内に響く。マリーは、ヴィヴィアンの部屋だった室内でユスティーヌの2人の兵士とただ黙っていた。ルヴィシアンからは騒ぎがおさまるまでこの部屋に居るよう言われた。国王殺害犯のルヴィシアンから。
犯人を知っていても、マリー達ユスティーヌはルヴィシアンの言う事に従い、行動一つとらないでいた。母国の為にはこうするしかない。
マリーはベッドに腰を掛けて俯いたまま。兵士達も何と声を掛けてやれば良いのか分からず戸惑っている。しばらく沈黙が続いていたが、それを破るようにマリーが呟く。
「この世界は悪が正しくて正義が正しくはない…そんな世界になっていっていますわ」
「…マリー様の仰る通りです」
「その事を分かってはいるけれど、悪に抵抗できないわたくし達も悪と同じですわ…」
「マリー様…」



























泣き声で涙を拭うマリーの肩を優しく抱いてやる兵士。もう1人の兵士はマリーと目線を合わせる為、屈む。
「マリー様。辛いお気持ちは充分に分かります。しかしヴィヴィアン様の事はもうお忘れするしかないのです。勿論私だってそんな事は望みません。ヴィヴィアン様のお陰でユスティーヌがここまで繁栄したのですし…」


コン、コン

扉をノックする音に驚き、3人は一瞬体を大きく震わせる。今の話の内容を聞かれていてはまずい。兵士は顔を青くしながらも扉を静かに開ける。
其処には女中の若い女性が2人立っていた。ルネの兵士達ではない事に少し安心し、自然と表情が和らぐ。切り替えて女中2人を見る。
「何か用ですか?」
「あ。その。御朝食をまだ済ませていないという事でしたので御朝食をお持ち致しました」
「ありがとう」
兵士は体が大きくてがっちりしているし王女の側近という事もあって、普通の兵士より表情が険しい。その為か、女中の2人はおどおどしてこちらに目を合わせず食事を手渡していく。もう1人の兵士も手伝い、室内に3人分の朝食が運ばれた。
湯気がたつ温かいシチューをスプーンによそい、マリーの前に差し出す。しかし首を小さく左右に振るマリー。兵士はそれ以上はしつこく勧めず、よそったシチューを自分で飲んだ。
広く大きな室内には部屋の外からの騒ぐ音と声。室内のユスティーヌの兵士2人が食事をとり食器があたる音。マリーの小さな泣き声だけがする。























































同時刻、
インド近郊の砂漠―――

砂が舞う砂嵐。
砂漠にある大きな古びた白い城に似た建物がある。その壁は砂が付着して茶色く変色している。建物の中はとても広く天井も高いので、歩く足音が響き渡る。しかし家具などが一切無く、殺風景。よく見れば壁も所々壊れているし、だいぶ古い建物とみえる。
その中で白いフードのついたマントをかぶった3人の人間が無線を片手に、通信を待っている様だ。


ガーッ、ガーッ

無線からノイズがすると、3人の中で唯一の女性である長く綺麗なオレンジ色の髪をして露出度の高いアラビア風の服を着た少女が素早く反応した。
「こちらラヴェンナ班」
「私だ」
「父上!」
少女は思わず立ち上がり、嬉しそうに大きな声を上げる。隣に居る2人の男性の顔にも笑みが浮かんだ。
「父上が生きているという事は…」
「お前が思っている通りモナ王国を我が新生ライドル王国が占領する事に見事成功した」
低く擦れたような男の声。その男からの言葉を聞いた途端少女と2人の男の目は輝き、嬉しさのあまり、3人はその場に飛び跳ねて抱き合った。
その衝撃でかぶっていたフードがとれて、少女の長く綺麗なオレンジ色の髪が露になる。男性2人も少女同様のアラビア風の服。
「もう一つ重大なニュースがある」
無線からの男性の声に、騒いでいた3人は一瞬にして静まり、床の上に置きっぱなしの無線に目を向ける。少女がいち早く無線機を手に取った。
「ニュース、とは?」
「…ルネ王国ヴィヴィアン王子が、ルネ国王を殺害したようだ」


しん…

3人は静まり返った。言葉が出ず、目は見開いたままで唖然として無線を見つめている。
「詳しくはお前達が帰って来てから話そう」
そう言った直後無線は通信を切られ、ノイズも止んだ。通信が切れた音で少女は我に返る。
「そんな、それでは…ルヴィシアンが…」
「そんな…他国占領という形であってもせっかくライドル王国が再建する事ができたというのに、これでは我国は…」


ドン!

少女は拳で壁を力強く叩いた。その為既に脆い壁は多少崩れ、破片は床に散った。男2人は驚いて体を大きく震わせ、恐る恐る少女に目を向ける。
「黙れ!弱音を吐くな!まだ二度目の戦をしてもいないというのに勝敗を予測するな!」
「しかし…」
「はっ。あの馬鹿が!良いように力を奪われて終いには居場所と地位、名前まで奪われやがって…!」
1人でブツブツ言っている少女を見て、オロオロして何もできずにいる男2人。


ドンッ!

少女はもう一度力強く壁を叩くと目をつり上げ、恐い顔をして男2人を見る。その恐い目に怯え、再び体を大きく震わせる男達。
「おい、お前達。覚悟はできているな?」
「えっ、一体何の…」
「決まっているだろう、ルネとの二度目の戦争の覚悟だ!」
大きな怒鳴り声が城内に響き渡り、耳が痛む。
男2人は目を大きく見開き怯えた顔をして、恐怖で体は次第に震え出している。
「しかし我が国は一度ルネに滅ぼされて…」
「そんなのは昔の話だろう!今度こそは全力でルネを滅ぼさなければいけない!あの強欲者ルヴィシアンが王となった後の結果は見えているだろう!?今度の戦争は我が国を守る為だけではない。世界の平和を守る為の戦いだ!」
「王女様…!」
王女と呼ばれるオレンジ色の髪をした少女は、新生ライドル王国王女『ラヴェンナ・ルゥ・ライドル』18歳。
ラヴェンナは後ろで一つに束ねた綺麗なオレンジ色の髪を揺らして、優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。次は絶対に負けない」










































同時刻、日本――――

都が位置する京都の中心に聳え立つ大きな城『都城』は、太陽の強く眩しい日射しに照らされて輝き、とても美しい。
城の最上階で障子戸を開いて美しい日本の町々を見下ろしているのは、赤とピンク基調の重たそうな着物を身に纏い、黒い髪をかんざしで留めて、色白で細身の少女。
小鳥の囀りが聞こえると、可愛らしい雀が1羽手にとまり、少女はクスクスと微笑む。


タタタタ、

そんな静かな室内に聞こえてきたのは、階段を駆け上がってくる1人分の足音。少女が扉のある後方を振り向くと同時に、勢い良く引き戸が開かれた。


ガラッ!

「姉上!!」
「まあまあ、慶司。そんなに急いでどうしたのです?」
部屋に入ってきたのは、口を強く結んで眉間に皺を寄せ険しい表情をした少年日本国王子『宮野純 慶司 』(みやのずみ けいし)16歳。
自分の胸元まである長い黒髪は慌てて走ってきたせいか乱れていて毛先が四方八方に向いている。水色の着物を着て長い裾を引き摺り、険しい表情のまま少女に近付く。
少女との距離が近くなった所で立ち止まり、両拳を強く握る。そんな慶司とは対照的に少女は優しい笑みを向けたままだ。
「姉上。先程父上と母上からお聞きしたのですがルネ王国国王が、」
「殺害された。でしょう?」
言いながら微笑んだ少女に驚いて目を丸め、何度も瞬きをして見つめる。少女は着物の袖で口を隠してクスクスと微笑む。





















「ふふ、とっくに知っていますよ。慶司はお寝坊さんだもの。我が城の中でこの事件の事を一番最後に知ったのではないですか?」
少女は背を向け、再び日本の町々を眺める。
羽を休めるように柵に留まる雀達と楽しそうに遊んでいる姿が気にくわないのだろうか。慶司はムッ、とした表情を見せ、早足で少女の隣まで歩み寄る。町を見下ろしながら少し荒げた口調で口早に話し出す。
「姉上はいつもそうだ!いつもそうやって何でも笑って事を済ませようとする!今回の事件はルネ王国の王子が国王を殺害したという大きな事件なのですよ!」
「ふふ、そうですね。私は笑う事が好き。そして平和が好き」
「そんなの僕だって同じです」
拗ねて口を尖らせ柵を何度も軽く蹴り、柵にもたれかかる。そんな慶司を見て少女はまた袖で口を隠しながら微笑み、慶司の頭を優しく撫でてやる。しかし嫌がって手を払い除ける慶司に更に微笑む。慶司は顔を赤くし怒った表情をして見てくる。怒りを露にしたって、少女は楽しそうにクスクス微笑するだけだ。
慶司は呆れて大きな溜め息を吐くと、再び柵にもたれかかる。楽しそうに鳴きながら飛ぶ雀達を目で追い、静かに口を開く。
「姉上。何だかんだ言って人間が一番恐ろしいですよ」
「何故?」
「だって…ヴィヴィアン王子はいつもニコニコしていたけれど国王を殺害して逃亡するし…。姉上もいつもニコニコしているから、何を考えているのか分からなくて僕は正直恐いです」
「ふふ、そう」
「笑い事じゃないです…」
溜め息を吐き、柵に背を預けて胡座を組みその場に座り込む。空を見上げてみると、雲一つ無い濃い色をした夏空が広がっていてとても美しい。見ているだけで心までも美しくなる…気がしただけ。
「慶司」
「はい?」
やる気の無い返事をして肩に留まった雀を軽く手で払う。雀は可愛い鳴き声を上げて飛んで行ってしまった。
「貴方は真実の笑みと偽りの笑みを見分けられるようになりなさい」
「え?」
この少女、日本国王女『宮野純 咲唖』(みやのずみ さくあ)18歳の瞳は、遠く遠くにある今最も栄えている大国の方角を力強く見つめていた。

















































ヨーロッパに位置する
カイドマルド王国―――

この国はルネ王国から海を渡った処に在る。世界にある5つの大国の1つに入る国だ。
英国から分化した国というだけあってヴィクトリア調の造りの建物が立ち並ぶ先を歩いて行くと、城下町外れに聳え立つ白くロココ調の古びた大きな城が見える。
城の壁は所々修理が施されていたり、今まさに修理の真っ最中だったりと城を見るだけで時の流れを感じさせられる。入り口の背の高い門には蔦が絡まるように張っていて、城壁にも張ってある。
「欝陶しい」
城に使える職人はブツブツ文句を吐きながらも大きなハサミで蔦を乱暴に切っていく。しかし数日経てば蔦は元通り。絡まるように張るのだから、本当にきりがない。





カイドマルド王国のジュリアンヌ城内は、昼間にも関わらず薄暗く不気味なくらい無音。
広く天井の高いホール奥の赤い大きな椅子に腰掛けているのは、美しい金色の短髪で青い綺麗な一重の目をしたまだ少年の無表情なカイドマルド国王『ダミアン・ルーシー・カイドマルド』18歳。
その両隣に居る女中は黙ったまま。
王の椅子から正面に敷かれている紅色の絨毯を挟んで間に道を作るように、左右には装備が施された体の大きい軍人が腰に長い剣を付け、背筋を伸ばして立っている。
こんなにも人間が大勢居るというのに室内は気味が悪いくらい静か。誰一人も口を開かない。否、開いてはいけない。


コンコン、

扉をノックする小さな音がすると、ダミアンは静かに顔を上げる。
「入れ」
表情一つ変えず感情が籠もっていない喋り。
音をたてずに扉を開いて中へ入ってきたのは、白髪で白い長い髭を生やして黒スーツで正装した男性老人。年老いているとはいえ背筋はピン、としていて歩く足取りも軽やか。軍人達の間を歩き、絨毯の上を一歩一歩軽やかに歩いてダミアンの前まで来ると、右手を前に出して体を少し前に傾ける。
「国王様。ルネ王国国王が殺害されたとの情報が入りました」
「それが何だ。我が国には何の関係もない事だ。あのような偽りだらけの国、どうなっても良い。それより。私に付き纏う女達をもう二度と私の前に姿を現せないようにしてくれ。気が立って仕方ない」
「しかしあの方達は国王様を想っていらっしゃるのですよ」
「そう見えるのならお前の目は飾りだな。あいつらは明らかに地位財産目当てだろう」
「そんな事は、」
「逆らうか?」
「…申し訳ありませんでした。畏まりました、二度と国王様のお目に触れぬようにしておきます」
ダミアンは相変わらず無表情な冷めた瞳のまま、窓の外に目を向けた。



















































ルネ王国―――

ルネ王国の中で最も田舎にある森奥の廃墟病院。
「…ハッ!
ジャンヌは恐ろしい夢でも見たのか、冷や汗をかいて飛び起きると窓の外に目を向ける。太陽の日射しは木々で遮られてはいるが、夜よりも明るさがある。朝が、きた。
寝呆け眼のまま頭を押さえて、晩の事を一つ一つ順にゆっくり思い出していく。

『罪無き人を殺さずに戦争に勝てると思っているのですか?血も涙もない人間になる事は可哀想な事なんかじゃない。ルネ王国という大国の常識なんですよ、王女様?』

「何よっ!!」


ドンッ!!

にヴィヴィアンが言った言葉を思い出したジャンヌは目を大きく見開き、拳で壁を力強く叩きつけた。布団を蹴飛ばしてベッドから乱暴に降り、扉を開いたまま苛立ちを露にしながら階段を降りて行く。
――何よあのルネ!大金持ちで華やかなルネの国民ならこんな薄気味悪くて汚い処で喧嘩売ってないで、さっさと家に帰ればいいのよ!そしてルネ王国の馬鹿な方針とか何とかを学んでいれば良いのよ!――
腕を組んだまま1階まで降り、この階に一つしかない部屋の扉の前に立つ。ヴィヴィアンが居る部屋だ。
眉間に皺を寄せ目元を小刻みにピクピク動かしたまま、音をあまりたてず静かに扉を開く。


キィッ…、

開いた瞬間室内からは鼻をさす血の臭いがし、咄嗟に両手で鼻を摘む。
正面に見えるのは、こちらに背を向けた状態でベッドに横たわっているヴィヴィアンの姿。
室内へ一歩足を踏み入れた時ジャンヌの足に感じた柔らかな感触。驚いて足を上げ、足元に目を向けるとジャンヌが踏んだのは所々が切れて血も付着したヴィヴィアンのブラウスとズボン。衣類2着が放り投げてある入り口からベッドまで足跡のように床に血が点々と続いて付着している。
見ていて気持ちが悪くなったジャンヌの両手は今度は口を塞ぐ。しかしそうすると鼻は血の臭いを嗅いでしまう為、右手は口を塞ぎ、左手は鼻を摘むという何とも可笑しな姿。




























そんな時。ずっと眠れず起きていたヴィヴィアンが寝返りを打ち、こちらに体を向けた。服はユスティーヌ達が布袋に入れておいてくれた物を着ている。調度2人の目がばっちり合ってしまった。
ジャンヌは目を見開き後退りするように素早く後ろに下がっていくと、大きな音をたてて力強く扉を閉めて部屋から出て行った。


バタンッ!!

「臭っー」
扉に背を預け、何度も早く呼吸をするジャンヌ。
そんな時。


ぐぅ〜

「!!」
恥ずかしくもジャンヌの腹は大きな音をたてて鳴ってしまった。顔を真っ赤にして自分の腹を何度も叩きつけて、取り敢えずこの場から去りたくて仕方ないので、階段に一歩足を乗せる。
「食料ならあるよ」
背後から聞こえてきた声にジャンヌの体は硬直し、顔を真っ赤にする。絶対に腹が鳴った音は聞こえていただろう。しかし"食料"という言葉に体は後ろを振り向きたくて仕方ない。ここ5日程、水だけなのだ。
右足だけを階段に乗せてヴィヴィアンに背を向けたまま立ち止まっているジャンヌを見て、彼は呆れた様に笑う。
「大丈夫。音、聞こえてないから」
「聞こえてるんじゃないのよ!!」
怒りで思わず勢い良く後ろを振り向いて怒鳴り声を上げる。


ぐぅ〜

同時に、腹はまた恥ずかしい大きな音をたててた。
また顔を真っ赤にさせながらも目に入るのは、ヴィヴィアンの右手にある真っ赤で美味しそうな林檎。しかしジャンヌは口を強く結ぶと、ヴィヴィアンを睨み付ける。




























「いらないわ。ルネからなんていらない!毒が入っているかもしれないしね!」
「毒なんて入れないよ。それ依然に持ってないよ。まあ、毒を入れたところで君には効き目が無さそうだけど」
「どういう意味よ!!」
今度は怒りで顔を真っ赤にして怒鳴る。ヴィヴィアンは微笑を浮かべ、林檎をジャンヌに向かって弱い力で投げ渡す。
食料欲しさで反射的に林檎をキャッチしてしまったジャンヌ。慌てて林檎を投げ返そうと腕を高く振り上げる。
「素直じゃないな。ありがたく貰えばいい。餓死したいの?」
「うるっさいわね!あんた何様よ。王女を前にしても偉そうにしてるけど。それにこんな森に1人、」


ぐぅ〜

こんな真剣な場面でもジャンヌの腹は再び大きな音をたてた。
ヴィヴィアンは目を丸めた直後腹を抱えて笑い、ジャンヌに背を向けて部屋の中へ戻ろうとする。
「ちょっ、待ちなさいあんた!」
「君が食べ終わってから話すよ。そうじゃないと笑ってしまって話が進まない」
「このっ…!」
扉を開けて部屋の中へ入って行こうとするヴィヴィアンと林檎をジャンヌは交互に見て何かに気付いたようにハッ!とすると、小走りでヴィヴィアンを追い、何度も背を強く叩く。
振り返ったヴィヴィアンは不思議そうに目を丸めて見てくる。ジャンヌはまだ怒った表情で目を更につり上げて林檎を指差す。
「この林檎!あんたレディーに丸ごと噛りついて食べろっていうの!?」
「君ならできそうだよ」
笑いながら言われ更に怒りが込み上げたが、ここでまた怒鳴ってしまっては逆に楽しまれるだけだと悟る。込み上げてくる怒りを何とか抑え、無理矢理微笑む。しかし目元だけは怒りを隠しきれず、ピクピクしている。
「あら、そう。あんたの言う通りかもしれないわね。それじゃああんたは林檎をナイフとフォークを使って食べていそうね。そんな姿、想像しただけでお腹が攀じれそうだわ」
「僕も、君が何も使わず野性人のようにそのまま噛り付いている所を想像しただけで笑い死にしちゃいそうだな」
「あらそう!笑う事は健康に良いのよ。良かったわね、笑いを与えてあげた私に感謝しなさい!」


バタン!!

とうとう怒りを抑えきれなくなってしまい、ジャンヌは扉を強く閉めると階段を大きな音をたてて駆け上がって行った。
部屋の扉が少し外れてしまっていた。



























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