症候群-追放王子ト亡国王女- ページ:3 「奴が軍に在籍していた時外国人部隊は設立されていなかった…という事は、奴の戦略に外国人部隊は計算されていない。…名案だわ」 自分で自分を褒めればマリソンは、左耳から頬にかけている小型通信機で外国人部隊の内のたったの5機にだけ通信を繋げる。 「外国人部隊に通達するわ。私達が敵機を相手しているその隙に、更に高空をカイドマルドへと飛行し、例のモノを散布させなさい!」 「り、了解!」 戦略外の突然の司令に戸惑いながらも返答した外国人部隊の面々。その中にジュリアンヌの姿もあった。 外国人部隊の存在など知りもしない一方のカイドマルド軍は、このまま順調に事が進んだ結末を思い浮べながら、初めて楽しんで戦闘に臨んでいた。 キィン! ルネ軍とサーベルでぶつかり合うカイドマルド軍。ルネ軍がサーベルを振り上げる。 「振り落とされるまでのタイムランは0.4秒。しかし、こちらの回避速度は0.2秒!」 ほんの0.2秒差の間にルネ軍戦闘機の背後にまわれば、慌てたルネ軍戦闘機が背後にいるこちらを振り向く。 「振り向くまでのタイムランは0.8秒!!」 そう叫びながらサーベルを振り上げたカイドマルド軍戦闘機は、ルネ軍戦闘機がこちらを振り向いた瞬間サーベルを真上から振り落とした。 ドスッ! 真っ二つに裂かれたルネ軍戦闘機はバチバチと火花を散らす。それから素早く離れた1秒後。 ドォンッ!! 大きな爆発音がして、炎上して海へと墜落していった無惨なルネ軍戦闘機。 「ははは!見たか!見たかルネ軍!今まで散々我々を負け犬呼ばわりしたつけが、」 「ランドル中尉ランドル中尉!」 「何でしょう、エドモンド将軍」 「まずい!戦略外だ!」 「そんな事はございません。我々は着実に勝利という栄光へ向かって、」 「ルネ軍5機が本国へと向かって高速度で飛行していった!」 「なっ…!?」 「まずい!本国には軍隊が裳抜けの殻状態だ!幾ら少数部隊を待機させたとはいえ、陸上用戦闘機しかない!これでは我が国は火の海と化してしまう!中尉、こちらは任せた!私は本国へ向かう!」 「り、了解!」 向かってくる敵機を闇雲に砲撃しながら少数の部下を引き連れ、カイドマルドへと飛行して行ったエドモンド達。 一方のマリソン機内――― 「ヴィル君、ヴィル君!?通信が繋がらないわ。もしかしたらあの子…!」 マリソンは機内から、遠く離れた微かに見えるジュリアンヌ城を睨み付けた。 同時刻、 カイドマルド王国――― 「気候状況優良散布開始」 アイルランドの中年男性の外国人部隊隊長の機械的な声の直後、東西南北そして都市部の5つに分かれた各5機の戦闘機の下部が開かれると、そこから地上へと降り注がれた黒い雨という名の殺傷兵器がカイドマルド全域に散布された。 しかし大きな爆発音もしなければ炎上もしない。空襲ではないようだし、毒ガスでもないようだ。 ジュリアンヌ城内、 国王の部屋―――― 「一体奴らは何をばら撒いた…」 デスクでキーボードを手早く打っていくダミアン。パソコンの液晶画面には、たった今ルネ軍が散布したモノが何なのか、たくさんのデータが文字となって並んでいるが、未だに確認がとれない。 その間にも城内や国中には敵が攻めてきた気味悪いサイレンが鳴り響く。それに混じって聞こえる民衆の悲鳴も。 「エドモンドの奴、早期に侵入させるなと何度も忠告し…ぐっ!」 ドン! 大きな爆発音と共に地震のように城内が大きく揺れた。その為、腹部をデスクに強打したダミアンはデスクにうつ伏せになり、何度も咳き込む。 「ゲホッ!ゴホッ!」 心配したメリーが彼に駆け寄るが、頭を撫でて安心させてやる。しかし、普段以上に青ざめた彼の顔には説得力がまるで無い。 「ゴホッ、ゴホッ、メリー大丈夫だ。っく…攻め込まれてはヴィヴィアンを連れてきた意味がゴホッ、無い…う"っ!」 突然見舞われた吐き気に目を見開きデスクに再度うつ伏せになり、何度も咳き込む。彼自身自覚が無いが、戦争という極度の緊張のせいと薬のせいなのだろう。吐き気が止まらないし、体調は絶不調。 震える右手でエドモンドに繋げる為の電話の子機を手に取ろうとした時。 パァン! 城の下階の方から、幾つもの銃声と硝子の割れる音がした。 「はぁ"…はぁ"…」 肩で呼吸をしながら、虚ろな青の瞳を徐々に上げていく。 パァン!パァン! ガシャン! 「きゃあああ!」 銃声と硝子の割れる音の他に、侍女や貴族達の悲鳴も加わり、銃声が徐々に徐々に近付いてくる。 「…っはぁ、はぁ…メリー…」 寝室の方に左手を向ければ彼がどうしたいのかすぐに理解したメリーは、首飾りをチャラッ…と鳴らし、寝室へと駆けて行き隠れた。 城外からは何かが散布されて以降戦争の音が聞こえてこないというのに、城内にだけ響く銃声。銃声が近付いてくるのと比例して速くなる鼓動。息を荒げながらも、懐の中の拳銃に弾を詰めるダミアン。 ポーン、 この階にエレベータが到着した音がした。直後聞こえてくる足音は1人分。 カツン…コツン…、 エレベータに近い部屋から順に侵入している扉の開閉音がこちらに筒抜けだ。 この階一番奥に位置するダミアンの自室。足音が近付くに連れダミアンは車椅子を動かし、自室の扉脇に移動して拳銃を構える。 「…はぁ"…はぁ"」 荒い呼吸は治らない。時折咳き込みそうになるが、息を殺し堪えて無音を保つ。 コツン…、 足音がこの部屋扉の前でピタリと止まった。 ダミアンの鼓動は最高潮まで速くなるが、表情はいつもと変わらない無表情。 ドン! 蹴り飛ばされて開かれたダミアンの部屋の扉。しかし誰も侵入してこない。だからといって安心もできないし、音もたてられない。息を殺す。すぐ其処に居るのだろう、敵が。その時。 「…!」 自分の足元に視線を落としたダミアンは、自分の犯したミスを心中で笑った。自分の影が、相手に見えてしまっている。 「カイドマルドの王様戦場へお出掛け〜って感じっすか?」 「その声は…!」 聞き覚えある男性の低い声に目を見開き、銃を構えて姿を現したダミアンだが、それよりも早く蹴り上げた敵。 「ぐあ!!」 ガタァン!! ダミアンは車椅子ごと大きな音をたててその場に倒れ込む。衝撃で手から離れた拳銃に手を伸ばすが、もうあまり機能しなくなりつつあるその右手を敵の黒いブーツのヒールで思い切り踏みつけられた。 ドスッ! 「ぐあっ…!」 「ダミアン・ルーシー・カイドマルド…」 名を呼ばれ、踏みつけられた手の痛みと最初に蹴り上げられ切れて出血する鼻と顎の痛みに顔を歪めながらも、霞む視界で捉えた人物は、黒いマスクで鼻から下を覆った金髪で大柄のルネ軍軍人。 途端、見開かれるダミアンの青の瞳。 「っぐ…、ウィリアム貴様…生きて…ぐああ!」 ドスッ!ドスッ! 何度も踏みつけられる手の痛みに叫び声を上げるダミアンを、デビルナイトの悪魔の瞳が無慈悲に見下ろす。 「ウィリアムじゃない。今の俺は、ルネ軍一等兵曹ヴィルードン・スカー・ドルだ」 「ぐっ…、名を変えたところで貴様はあの時と同じ…だろう…、私を殺す事など…できない…」 ダミアンは苦しみながらも鼻で笑う。表情は無かったけれど。 「お前の愛しい女と…私が重なる…からな」 「…!!だ、黙れ!」 ゴッ、 鈍い音がしてダミアンの左頬が真っ赤に腫れる。 一方のヴィルードンは俯き、呼吸を荒げながら目を見開く。 ――俺は、俺は…!こいつを殺さなきゃ…そうしなきゃ…!でも俺のせいでこいつは…ジュリアンヌさんは…カイドマルドは…!―― ヴィルードンの自分とウィリアムの自分と葛藤している彼を見つめるダミアンの感情の無い瞳。 「俺…は…!」 その間にもゆっくり身体を起こし、車椅子で例の部屋へと入って行くダミアンを、我に返ったヴィルードンが追い掛ける。 「待て!ま…、」 例の部屋へと足を踏み入れた瞬間、ヴィルードンの黄緑色の瞳が見開かれた。 「なっ…!?」 身体は震え出す。見上げる彼の視線の先には、透明な棺の中でホルムアルデヒドに浸されたヘンリーとキャメロンの姿。目を瞑っている2人だが、今にも目を開きそうだ。 ダミアンは、唖然としているヴィルードンに顔を向けると同時に銃口を向けた。 カチャッ…、 「人を薬漬けにして…脚を組み談笑している人間は同じ目に合わされるのがセオリーだろう」 「あ…あ…父さん…母さん…」 「親に従う事しかできない犬の分際で私と対等に会話するな」 パァン! 数発の銃声がしてヴィルードンが我に返ると、ダミアンが発砲した棚の中から硝子を突き破って次々と落下してくる薬品の瓶達。 ガシャン!ガシャン! 割れた硝子瓶の破片がヴィルードンを襲っている間に、ダミアンは寝室からメリーを呼び膝の上に乗せると逃げるようにこの場から去って行く。 「待て!おい!待て!!」 硝子の破片で頬や腕を切るが、彼を追い掛けるヴィルードン。しかし、ダミアンが乗ったエレベータの扉は閉まってしまう。 ドン! エレベーターの扉を拳で叩くヴィルードン。 「くそ!俺はもう決めたんだ!マリソンさんが拾ってくれたこの命をルネに捧げると!なのに!」 7年前炎上し再建されたジュリアンヌ城だが、エレベータも部屋も廊下も全てあの頃と同じ配置、同じ家具、同じ絨毯。だから、ヴィルードンの脳裏で蘇る幸せだった頃の幼き日の映像が音声が、ヴィルードンをウィリアムへと変えさせていく。だから葛藤してしまう。 ゴオッ…! 「!」 そんな時。窓から城の外の音が耳に入り我に返る。窓から外を覗けば、城上空で待機するかのように旋回する外国人部隊の黒い戦闘機が1機。機体ナンバー03と印されたその機体がヴィルードンの見開かれた瞳に映る。 「あれはジュリアンヌさんの機体…ハッ!」 ハッとした時、エレベータが着いた。すぐ様乗り込み1階へのボタンを押す。ゆっくり閉じる扉を急かすかのように何度も何度も叩くが、依然としてエレベータはゆっくりゆっくり降下していくから、気持ちだけが焦って仕方ない。 「駄目だ…駄目だ今外に出たら駄目だダミアン!外にはジュリアンヌさんが!」 カイドマルド軍本部 格納庫――――――― 一方その頃ダミアンが車椅子で辿り着いた場所は、軍本部隣の格納庫。 先程ヴィルードンに殴られた為顔面ほぼ全域に傷を負い右目が腫れ上がった彼が現れ、フェルディナンド社の面々は呆然。ロバートはスパナ片手に駆け寄るが、彼にメリーを突き出すダミアン。 「ルーシー殿、そのお怪我は一体…!」 「メリーを頼む」 「え?」 訳が分からないロバートは一応メリーを抱き抱える。ダミアンはドロシーに向かって左手を突き出す。 「軍服とヘルメットをよこせ」 その一言で彼が一体何をしようとしているのか、誰にでも分かる。 ロバートはドロシーの前に両手を広げて立つ。いつも優しい老人の顔をしたロバートも、この時ばかりは険しい顔付きだ。 「ルーシー殿。機体は未だ調整中にございます」 「遅い。開戦に間に合わせろと何度も言っただろう」 「申し訳ございません。ですからこの機体に搭乗することは、」 「ジュリアンヌ機の調整は先程終了致しました」 ドロシーの声が格納庫に響けば、ロバートは額を押さえる。ロバートの前に立ったドロシーは、綺麗に畳まれたカイドマルド軍軍服と青色のヘルメットそして、青色に輝くジュリアンヌ機の鍵をダミアンに手渡す。相変わらず無愛想だ。 「ドロシーやめなさい!無理だ!脚が機能しない上、お身体の悪いルーシー殿にいきなり実戦なんて…」 「祖父様。私共フェルディナンド社はジュリアンヌ機調整費用を王室から頂戴しております」 「お金の問題ではなくてだね、彼は一国の王だ。王が戦場へ出るなんて話は聞いた事もない」 「しかし祖父様。国王様にはこの機体に乗って償うべき罪があるのです」 ドロシーの意味深な言葉に首を傾げるロバート。 そんな彼を余所にドロシーはダミアンをジッ…、と見つめる…というより睨み付ける。 「何をお考えなのでしょうこの時期に同盟脱退など。また貴方様の機嫌一つで国も国民も玩具扱いですか」 「生意気な女だ」 「その機体で最後くらい国を、国民を守ってみせたら如何ですか。二度も貴方様にカイドマルドを崩壊させられては一国民としてたまったものではありません」 彼女のその言葉に、背を向けていたダミアンはピタリ…と止まる。顔だけを、後ろに居るドロシーに向けた。 「貴様、7年前の事を…」 ドロシーは優しくどこか切ない表情で青色のジュリアンヌ機にそっ…、と触れる。直後、ダミアンを睨み付けた。 「この機体が教えてくれました。7年前のルーシー家襲撃の真相を」 「機体が話すはず無かろう」 冷たい会話が途切れ、ロバートの制止も無視で、機体からぶらさがるロープをダミアンが握った時。ぐい、とマントを背後から引っ張られたので顔だけをそちらへ向ければ其処にはケイティがポカン…とした表情でダミアンを見上げていた。 ケイティの腕の中にはペルシャ。そしてさっきロバートに渡したメリー。 ダミアンが無表情のままメリーの首元をくすぐってやる。いつもならくすぐったそうにするメリーも、今日ばかりは状況を判断したのかくすぐったがりもせず、どこか切なげな表情。 「王さま、また一緒にお絵かきしてね」 「どうだろうな」 「王さま、ままもおじいちゃんもペルシャもお守りしてね」 返事は、無かった。 自動でロープは上へと昇っていく。ダミアンがコックピットハッチを開き、動かない脚に苦戦しながらもコックピット内へ入る直前。ペルシャとメリーを抱き抱えたケイティが戦闘機に駆け寄り、こちらを見上げて声を張り上げた。 「王さまー!メリーは王さまのものだからねー!だからちゃんと帰ってきてあげてねー!」 コックピットハッチが閉まる直前。声の代わりにケイティへの返事としてダミアンの左手が挙がった。 ガタン、 機内で軍服に着替え、先程の怪我で鼻から出血する血を腕で乱暴に拭ってからヘルメットを着用するダミアン。キーを機体右端に差し込みキーボードにパスワードを打ち込めば、エンジン音をたてて起動する機体。 注文通り、足元には一切操縦道具が見受けられない。他のカイドマルド軍戦闘機同様の装備を追加してあるが、機内は昔のままなのだろう。少し古びた感じが漂う。 そんな時。ふと、見覚えある文字がキー差し込み口の下に小さく見えた。マジックで書いたのだろうか、其処に記されている消えかけている手書きの文字。 “Henry” “Damien” この機体の所有者であった人間の夫と息子の名前が記されていたのだ。その文字にそっ…、と触れる。 「ジュリアンヌ…お前を殺した償いとして私はお前が愛したこの国を死守する」 "機体正常化"の文字が英語で正面モニターに表示された直後、すぐ様レバーを前に押し倒す。格納庫から勢い良く飛び立って行くジュリアンヌ機。 ゴオォッ…! それが飛び立った風圧で吹き飛んでしまいそうなロバート達。飛び立って行ったジュリアンヌ機を不安気に見つめるロバートは、ケイティを抱き抱えるドロシーに恐る恐る問う。 「ドロシー。さっきお前が言っていた7年前の真相というのはどういう事なんだい?」 ドロシーは、祖父であるロバートに顔を向ける。 「祖父様。我々カイドマルド国民もルネ同様立ち向かう必要性があるのではないでしょうか」 「何に…だい?」 ゴクリ、と唾を飲み込むロバート。 「王室に、です」 カイドマルド上空――― その頃。格納庫を飛び立ったダミアンは機内で、慣れない戦闘機操作に試行錯誤。機内に装着されたコンピュータシステムをあちこち弄っては、色々試しているようだ。 「コンピュータでのシュミレーションとはやはり違うか…。う"っ…!」 初めて体感する戦闘機の乗り心地の悪さに再び吐き気が襲うが、目を瞑り、気を落ち着かせた時。 ビー!ビー! 右下のモニターに敵機を示す点滅した赤色の点が一つ。一つという事は、敵機が1機という意味。 同時に、機内に鳴り響く敵機を感知したサイレン。 ダミアンが目を細めて確認したのは、ジュリアンヌ城上空に浮かぶ1機の黒いルネ軍戦闘機。普通の物とは少し型の異なる爆撃機タイプのようだ。 ダミアンはレバーを右手で力強く握る。 「国王を前線に出させるな、馬鹿共」 どこか自嘲にも聞こえる台詞を吐き捨て、敵機に向かって加速していった。 「私の機体…?」 一方。ジュリアンヌ城上空に浮かぶ1機のルネ軍戦闘機に搭乗している外国人部隊隊員ジュリアンヌは、こちらへと急加速で接近してくる青色の戦闘機を目を細めてモニター越しに見つめる。 「私の機体…誰?あれに乗っているのは誰?」 ジュリアンヌ城門前――― 「はぁ、はぁ…」 その頃。 床で血を噴いて横たわるジュリアンヌ城内の侍女や貴族達。ヴィルードンが先程射殺した者達だ。 彼らを避けながら城外へ出たヴィルードンは、息を切らしながら城上空を見上げる。遅かった。その時既にルネ軍戦闘機とジュリアンヌ機は互いの装備のサーベルでぶつかり合い、青い火花を散らしていた。 「くっ…!」 ヴィルードンは歯をギリッ…!と鳴らすと、城裏に着地させておいた自分の戦闘機へと駆けて行った。 ジュリアンヌ城上空――― バチバチと火花を散らしてぶつかり合うサーベル。初めて体感する衝撃に顔を歪めながらも、何とか互角にぶつかり合うダミアン。 「ぐっ…!ルネごときに私の国を渡すものか!」 一方ジュリアンヌは、何故今更旧式の自分専用機で戦闘に出ているのか不思議でたまらないようだ。その時浮かんだ恩師の人の良さそうな笑顔にハッ!とする。 「もしかしてそれに乗っているのはエドモンド先生…?」 すぐ様敵機に映像と音声でオープンチャンネルを繋げる。しかし相手も繋げてくれない限り、こちらの姿が相手に見えても、相手の姿は見えないし声も拾えない。 ガー、ガガッ、 「通信だと?」 突如繋がった敵機からのオープンチャンネル。戦闘の火花が眩しくて目を細めていたダミアンは、モニターに映った敵機のパイロットの姿に心底驚愕し、目を見開いた。 「なっ…!?」 「エドモンド先生!エドモンド先生なんでしょう!?私のその機体に乗っているのはエドモンド先生なんでしょう!?お願い、通信を繋げて!」 機内に響く懐かしいジュリアンヌの声に、ダミアンの手は身体は小刻みに震え出す。冷や汗が頬を伝う。こちらからも通信を繋げるスイッチを押す寸前で、震える指が止まる。 「エドモンド先生!貴方は間違っているの!貴方が従っている国王こそ…ダミアンこそ7年前カイドマルドを窮地へ追いやった人間なの!ねぇ、先生!」 火花の音も聞こえない。今彼の耳に聞こえてくる音は、速く鳴る自分の鼓動と敵機パイロットの声だけ。 ドクン!ドクン!ドクン! 「何故…何故生きて…、嘘だ…あの日私が殺したはず…ぐあっ!」 ドスッ! 隙をつかれ、敵機のサーベルが機体左端を擦る。すぐ様サーベルで再びぶつかり合うが、我に返れず目を見開いたまま身体を震わすダミアンの青の瞳に映るモニター越しの敵パイロットの姿。 「何故生きているんだジュリアンヌ…!」 [*前へ] [戻る] |