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症候群-追放王子ト亡国王女-
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ヴェネツィア海近郊―――


ドンッ!!

大海上空で火花を散らせる1機のカイドマルド小型プライベートジェット機の操縦席から見えるフロントガラスに映っているのは、装備も増強された白基調の日本軍戦闘機。機体の左隅に描かれている日の丸が何よりの証。
一方の日本軍戦闘機に搭乗しているパイロットの慶司は俯いたまま、怒りで身体を震わせる。
「貴様らが…貴様らが!」
顔を上げた慶司は鬼の形相でレバーを前に押し倒す。


キィン!

途端、戦闘機の右部から表れた刀。まるで武士のような型をした戦闘機に、戦闘機ではないただの小型ジェット機は抵抗できず。


ドォン!

ジェット機にぶつかってくる日本軍戦闘機。ジェット機内は大きく揺れ、フロントガラス越しに迫ってくる大海。
「くっ…!させるか!」
しかしカイドマルド軍大尉は歯を食い縛り、何とか大海墜落を防ぎ、日本軍戦闘機から逃げるように森の方へと操縦するが、右の羽が破損している為上手く飛べず、低空飛行なジェット機。























「きゃああ!」
大きく揺れるジェット機内では、座席の背もたれに掴まりながら必死に堪えるルーベラ。
しかし、こうして耐えていられるのも時間の問題だろう。そう思った大尉は、操縦しながら声を張り上げる。
「ルーベラ様!このジェット機の搭乗口下部に、小型ではありますが、非常時の為の飛行型戦闘機が1機積載されております!ぐっ…!」
「え!?」
「ですから…ぐあっ!早く!早くそれに乗り、お逃げ下さい!貴女様は戦闘機を操縦できると将軍から御聞きしておりま、ぐっ…!」
彼のその言葉に戸惑い目を泳がせたまま呆然としているルーベラをルームミラー越しに見つめ、すぐ彼女の方を振り向く。
「貴女様をお守りすれば私の任務完遂。ですから、私の為にお逃げ下さい!」
わざと身勝手な言い方をして自分を救おうとしてくれている大尉の優しさに目頭を熱くさせ鼻を啜ると、ルーベラはただ頷き、言われた通り搭乗口下部へ駆けて行った。






















ガコン!

下部を開ければ、暗闇の中に見えた小型戦闘機。操縦席に乗り込むが、歩兵型しか経験の無いルーベラは不安でいっぱいだ。


ドンッ!!

「あぁ"!」
そんな中、容赦なく食らう攻撃に身体が大きく揺れ、機内に打ち付ける。意を決しコンピューターシステムにパスワードを打ち込めば、起動する機体。すると正面上のモニターに映像付きで、大尉からの通信が入る。
「大尉…!」
「宜しいですかルーベラ様。私が敵機の気を引かせます。その隙に、貴女様はイタリアへと飛行して下さい」
「分かったわ。でも貴方は…!」
「私は構いません。そして…その機内左隅にあるケースを開いてみて下さい」
言われた通りルーベラが機内に付属されているケースを開けば、何とケース内には小瓶に入った透明な液体。
見覚えあるこの液体にルーベラは目を見開き、大尉が映るモニターに顔を向ければ、大尉は黙って頷く。
「貴方、これは…!」
「申し訳ございません。私はマラ教徒を追放する身でありながら、彼らから密買してしおりました…不老不死の薬を」
「でもこれは…」


ガー、ガガッ、

大尉の映る映像が乱れ始めた。
「私情となってしまいますが私には妻子が居ります。はは、軍人といえど、やはり妻子と別れるのは辛いようです。死を恐れました。それは貴女様にお渡しします。それを信じるか信じないかは貴女様、次、」


ザーッ…

映像が砂嵐になり、音声も途絶える。ルーベラは薬をケースにしまい、すぐ様小型ジェット機から戦闘機を発進させた。


























一方、ルーべラが乗るジェット機と交戦中の慶司――――

「貴様らカイドマルドが信之を!姉上を!」
小型ジェット機のコックピット目掛けて刀を振り上げる。振り下ろすまでに数秒も時間は与えなかった。


ドン!

オレンジ色の炎を上げて海へ火の粉と機体の破片を散らし、爆破した小型ジェット機。
一方でその様子をコックピット内から目の当たりにしたルーベラの瞳から頬を伝う涙。しかし彼女は、胸ポケットにしまってある青色に輝く宝石をぎゅっ…!と握り締めると、イタリアの方角へと飛んで行く。


ビー!ビー!

しかし、日本軍の戦闘機のレーダーがルーベラの乗った戦闘機を補則しないはずがない。
「逃がさない…!!」
慶司はモニターに点滅する自分から遠ざかって行く敵機を逃がすまいと速度を最高値まで上げた。

























ビー!ビー!

一方。ルーベラの乗った戦闘機内にも、慶司の戦闘機所謂敵機を感知した嫌なサイレンが鳴り響いていた。追われる身のルーベラの方が酷く緊迫感がある。
「日本軍…しかも1機だけ?きゃあ!」


ドン!ドン!

いつの間にだろう。ついさっきまで遠くに位置していた日本軍戦闘機がもうすぐ其処に迫ってきていて、ミサイル攻撃を開始した。
素早く避けたルーベラだが左羽を擦った為、機内で右肩を強く打ち付ける。しかし、痛いなどと言っていられる状況ではない。機内に鳴り響く敵機感知のサイレンが危険音に変わる程敵が接近しているのだ。
途端、ルーベラはイタリアの方へ向いていた機体をわざと後ろ…つまり敵機へ向けた。対峙しようというのだ。
「戦う気か!?」
カイドマルド軍戦闘機のその行動に慶司は驚くが、ミサイル攻撃を止め、侍らしく刀を引き抜き襲い掛かる。同時に、サーベルを引き抜いたルーベラの戦闘機と慶司の戦闘機とが青い火花を散らしてぶつかり合う上空。


キィン!!























ガー、ガガッ、

敵機にオープンチャンネルを繋げた慶司がモニターに映る少女ルーベラの顔を見た途端、目を大きく見開いた。
「…!!」
ヘルメット越しでもすぐに分かった。彼の脳裏で蘇るのは日本VSカイドマルドの戦争で生身の慶吾…いや、咲唖に向かって拳銃で乱射したルーベラの姿。忘れもしない少女の姿を目の当たりにした時、慶司の黄色の目はつり上がった。まるで別人のように。
「貴様か!貴様が先の大戦で慶吾さんを…違う、姉上を殺したんだ!!」
「!?」


ドン!ドン!ドンッ!!

突然攻撃に勢いが増した慶司にルーベラは圧倒されるが、間合いを取り再び互いに刀とサーベルでぶつかり合う。


キィン!

「貴様とヴィヴィアン・デオール・ルネが姉上を殺した!たくさんの罪無き日本人を殺した!貴様のような狂者に人の命の重みが分かるものか!!」
「あんただけが被害者ぶるんじゃないわよ!」
「ルネからの話によれば、貴様は母国がルネの植民地にされるのを恐れてカイドマルドに逃亡したようだな!」
「違う!私はそんなんじゃない!」
「そのせいで母国が滅びたらしいじゃないか!貴様は魔女だ!貴様は、」
「違う違う違う!!」


ドン!ドン!

首を左右に大きく振りながらも涙を伝わせると、叫びながら慶司の機体に手当たり次第砲撃するから、慶司は瞬時に避けるも、機体の右半分を損傷。ルーベラのこの闇雲な体当たりは、慶司の闘志に火を点けた。





















「じゃあ貴様は何故戦っている!」
「私は、私はただ平和が欲しいの!」
「筋道の通っていない貴様の平和の為に、たくさんの日本人は明日を奪われたんだ!!」
「そんなの誰だって同じよ!矛盾しているのよ!矛盾しているのよ戦争ってのは!」
再度激しくぶつかり合う互いの機体どちらからも灰色の煙が上がる。


ガー、ガガッ、

その時慶司の戦闘機に繋がる通信音。しかしそれが聞こえていない程今この瞬間の戦闘に夢中な慶司は、接近したルーベラの機体目掛け、チャンスとばかりに砲撃を連射するから、避けきれなかったルーベラの機体はあちこちが破損。


ドンッ!!

「きゃああ!!」
最後の一発を真正面からもろに食らってしまい、フロントガラスが割れ、ガラスの破片がルーベラ目がけて飛び散る。
「きゃああああ!」
悲鳴を上げ、操縦不能となる。ヘルメットのお陰で頭部は無傷だが、割れたガラスの破片と爆発により身体のあちこちから流血しながらも、震える左手でケース内から取り出した小瓶を大切そうに握るルーベラの瞳はまるで狂者。小瓶の中身は偽りの不老不死の薬。
その間にも、ルーベラの機体は高速度で森へと落下していく。





















ルーベラは小瓶の蓋を開ける。小瓶に映る自分の顔が狂気に満ちているとも判断できないまま、ヘルメットを足元へ投げ捨てる。
「嫌…嫌…!私、死にたくないの!ダミアン、ダミアン!私は死にたくないの…貴方にもう一度会いたいの!」
――だってもう後の無い私に貴方が生きる希望を与えてくれたの。たかが14年間を無駄にしたところでどうって事ない…そう言ってくれたの。私はその言葉に救われた。だから私は無駄にした14年間を挽回する為にこれからも生きたいの…!――
小瓶の口を自分の唇に付けた時。脳裏で呪文のように響いたのは、マラ教徒に捕らえられたあの日ダミアンが叫んだ言葉。

『不老不死の薬などあるはずがないだろう!』

「…!!」
思い出されるその言葉に一瞬我に返ったルーベラだが、目の前に迫りくる慶司の機体イコール目の前に迫りくる自分の死を恐れ、目をカッ!と見開く。
「ダミアン、愛してる」
その言葉を発した一瞬だけ普段の少女ルーベラのにっこりとした笑みを浮かべる。直後、薬を一気に飲み干した。
「姉上の仇ぃいい!」
慶司が振り上げた刀がルーベラの機体に振り下ろされそうになった時。


ドン!!

ルーベラの機体が森の中へ墜落した為、刀は森の木々に振り落とされる。
「くっ…!操縦不能…!?」
同時に、木々に引っ掛かったり、先の戦闘で破損した箇所から火花が散り爆発した為操縦不能となった慶司の機体も森へと墜落した。


ドン!!

騒がしかった戦争の音が途端に止んだ上空だが、焦げ臭い臭いと煙が辺り一面に充満していた。






































森―――――


「っ…、」


ビー!ビー!

墜落した機体から鳴るエラー音。ヘルメット越しに墜落の際打った頭を押さえながら慶司は"エラー"と表示されるモニターを拳で叩きつける。


ダンッ!

案の定モニターはバチバチと音をたてて壊れてしまった。
墜落の衝撃で意識朦朧としていた慶司だが、次第に正気を取り戻す。割れたフロントガラスの向こうに見える灰色の煙を上げた深緑色のカイドマルド戦闘機が目に入ると我に返り、途端に立ち上がり、割れたフロントガラスから外へ飛び出す。























バチバチと火花が音をたてるカイドマルド戦闘機に拳銃を構えながら静かに接近していく慶司。息を殺す。
「…れ、…は、…れ」
火花に混じってカイドマルド戦闘機から微かに聞こえてくる少女の声。不思議に思いながら銃を構えたまま割れたフロントガラスからコックピット内を見下ろせば、頭を抱え、俯いたまま何やらブツブツ呟いているルーベラの姿が見えた。何やら先程のオープンチャンネル越しの彼女とは様子が異なる。
しかし銃は構えたまま静かに歩み寄ってみればバッ!と突然顔を上げたルーベラに驚く慶司は咄嗟に銃口を向ける。


カチャッ!

しかしルーベラは額から血を流し、目を泳がせ頭を抱えたまま慶司を見つめるだけ。




















やはり様子がおかしいと思った慶司は銃口を向けながらも引き金を引けずにいる。すると何と、ルーベラが慶司に飛び付いてきた。
「なっ…!?やめろ!負け犬風情が!姉上の仇が!」
「誰なのですか?誰なのですか!?」
慶司の肩を大きく揺さ振り続けるルーベラの様子のおかしさに、慶司も攻撃できずにいる。それもそのはず。彼女が次に発する言葉のせいで根が良心的な慶司は、拳銃を構えた腕を下ろしてしまうのだ。
「誰なのですか?私は誰なのですか!?」





















































同時刻、
カイドマルド王国――――

「中佐の部隊も毒ガスを使用したか…ルネの現在の天候風向き共に、散布に適しているようだな」
軍隊が全出動し、裳抜けの殻状態の軍本部とジュリアンヌ城。
ダミアンがデスクでノート型パソコンのキーボードを打っていたら、画面に突然"通信"の文字。エンターボタンを押せば、ヨーゼフ大佐が映像付きで通信を繋げてきた。
「何だ」
「国王様。聖マリア王国を始め、同盟国の多数が早くも敗戦した模様です」
「我々に同盟国など存在しない」
「失礼致しました」
親切な知らせにも無愛想に応対して通信を切りパソコンの電源も落とすと、デスクの上に俯せになる。タイミング良くデスクの上にひょい、と飛び乗ってきたメリーの尻尾を摘みながら遊ぶ。メリーを見つめる感情の無い瞳がいつも以上に空虚だった。






































その頃、
ヴェネツィア海上空―――

「将軍!レーダーに反応!敵機です!」
「くっ…!予定より1日半も早くやって来たか。さすがは先進国ルネ…しかし!」
エドモンドの乗った機体の中央部の砲撃用の口が開く。機内のモニターで敵の位置を捉えると、砲撃区域内に入った2機のルネ軍戦闘機をロックオンする。この瞬間を待っていましたとばかりに砲撃ボタンを押せば、ピンポイントで攻撃。


ドンッ!!

遠距離からのカイドマルドの攻撃を予測できていなかったルネ軍戦闘機は、案の定大破し、海上へと炎を上げて墜落。




















バシャン!!

墜落した際、盛大に噴き上がる飛沫。
先制攻撃を食らったルネが黙っているはずが無く、レーダーが感知する50以上のルネ軍戦闘機の速度が上昇していく。
「火に油を注いだ私達は最後までその責任を担う必要がある!エドモンド部隊フォーメーションE05!」
「了解!」
カイドマルド軍戦闘機が三つに分かれる。左右からそして真正面から攻め込んでいく。エドモンドは機体に組み込まれたコンピュータシステムを開く。モニターに表示されるのは、ヴィヴィアンが立案した戦略の詳細だ。
ルヴィシアン即位後、どの国との戦争もニュースの被害状況で、全てヴィヴィアンが立案した戦略の使い回しである事を確信しているからやり易いのだ。過去に交戦した国にはその時と同じ戦略で挑んでいるから、過去にカイドマルドと交戦しているルネがどのような戦略でどのようなフォーメーションで挑んでくるかは笑えてくるくらい分かり切っているのだ。






















ヴェネツィア海上空に飛び交う火花。火の粉は海へと落下し、次第に火の海と化していく大海。
一方のルネ軍つまりマリソン部隊。交戦しながら外国人部隊全員に通信をとる。
「フォーメーションを崩したらこちらが不利よ。どんなに苦戦を強いられようともフォーメーションだけは崩さない事。良いわね?」
「了解」
通信を切ると、深い溜息を吐く。そんな間にも、コックピット内から見える真正面から向かってくる3機のカイドマルド軍戦闘機。
「ルネ軍に真っ向勝負を挑むだなんて…」
言い欠け、そこで戦闘機の装備であるサーベルを構える。


キィン!

調子に乗るのも大概に…」
「マリソンさん後ろ!」
「え?」
真正面三機の敵機を感知したレーダーのサイレンと後方からの敵機2機の音とが重なっていたせいか、後方からの敵に全く気付いていなかった彼女の機体に繋がったヴィルードンの焦る声の通信。
ハッ!と目を見開き、体が自然と機体ごと後方を振り向いてしまうが、そのせいでマリソン機の右部が、正面から攻めてきた3機によって破損。


ドンッ!

「ぐあっ!」
大きく揺れる機内。その衝撃で機内に頭をぶつけてしまうが、ヘルメットを着用している為無事だ。しかしあまりの強い衝撃の直後は頭がボーッとしてしまい、すぐには判断できずにいる。
「マリソンさん!ここは俺に任せて、後方からの敵を頼むっす!」
ハッ!と我に返れば、コックピット内から見える真正面には3機と交戦中のヴィルードン。だからだったのか、彼からの通信越しの声が荒いのは。
「早く!」
「ありがとうヴィル君!」
マリソンは力強い眼差しで微笑むと、後方から攻めてくる敵機の対応にあたる。























キィン!

マリソン機とカイドマルド機のサーベルがぶつかり合う。互いに間合いをとり再びぶつかり合えば、また互いのサーベルから散る青い火花。
「これじゃあ埒があかないわね。それなら!」
サーベルをしまい、敵機から少し距離をとれば、案の定サーベルでこちらに突っ込んでくる敵機。それを待っていましたとばかりに、ニィッ…とマリソンの唇が笑む。


ドン!ドン!

何発もの爆音より先に、敵機に砲撃したマリソン機。調度左方からマリソン機に特攻してきた敵機も運悪く砲撃を食らった為、2機同時に墜落させる事に成功。


ビー!ビー!

「はぁ。ゾロゾロと」
しかし敵機の反応が消えてもまたすぐ、レーダーが敵機を感知した嫌なサイレンが機内に鳴り響くのだ。しかし常に勝者であり好戦敵なマリソン…いや、ルネ軍の人間達にとって、このサイレンは嫌な音ではないのかもしれない。
「ヴィル君。私達ルネに楯突くとどうなるか、教えてあげましょう!」
「了解!」
マリソンは正規軍の面々に戦略通りの指示を出す。





















一方。高空と低空の上下に分かれたルネ軍のフォーメーションをコックピット内から見つめるエドモンドを始めとするカイドマルド軍の人間には、喜びよりも驚きの方が勝っていた。皆、目を見開いている。
「すごい…本当にルネ君が予測した通りのフォーメーションを敵がとってきた…」






















数週間前――――

「ルネ軍の基本的な戦法は第一段階は敵のフォーメーションに従い、対処。第二段階で自分達のフォーメーションを現します。大海を利用し、高空と低空飛行の二手に分かれ、高空部隊が敵機にミサイル攻撃等の爆撃攻撃を展開させ、そちらに気をひかせている隙に低空部隊が下からサーベルで敵を真っ二つ」
ニヤリと白い歯を見せて笑みながら剣を振り落とす仕草をしてみせるヴィヴィアンを前に、エドモンドは肩を竦め、
「恐ろしい恐ろしい」
と笑う。
「以上がルネ軍の基本的な戦法ですね」
「第三段階の攻撃パターンを言え」
ダミアンの低い声にヴィヴィアンは肩を竦め、笑む。
「残念ながら、第三段階へ移行する前にカイドマルドにはルネが勝利していましたから」
「私の国を皮肉っているのか貴様!」
「ほらほら国王様。拳銃なんて物騒な物をルネ君に向けちゃ駄目じゃないか。とにかく。彼らが第三段階へ移行する前にルネ軍を叩けば良いって事だね?」
「まあそうですが、万が一第三段階へ移行された場合は陸上戦へ持ち込んで下さい。そちらの戦略は、こちらに用意しておきましたから」
三人が囲む鉄製のテーブルの上に、戦略を記した紙が数枚置かれる。
「準備が良いねぇ。助かるよ!」
「先読みが大切ですから」






















そして現在――――

ヴィヴィアンの立案した戦略通り行動していったカイドマルド軍は、今までには無い爽快感に満たされていた。いつもは得る事のできない爽快感そして、いつもは見る事のできない光景が目の前に広がるから、狂喜な笑顔が浮かぶ。
ゾクゾクしてくる身体の震え。戦闘する事の楽しさを味わいながら、次々とルネ軍戦闘機を海へ墜落させたり、上空で灰と化させたり…。
「さすがはルネ君。まるでルネ軍が私達の言う通りに動いているかのようだ。しかし…元敵兵に頼るなんて将軍失格だな私は」
過去に敗戦続きであった自分の立案した戦略の無力さを笑ったエドモンドの表情は、どこか寂しげにも見えた。
























一方のルネ軍―――

次々と嘘のように機体ロストしていくルネ軍。
マリソンは機内で、ロストしていく同胞の数の多さに唖然。
「私達ルネが圧倒されるなんて…!」
その時。ふと浮かんだ元王子の顔。マリソンは歯をギリッ…!と鳴らして機内を叩く。


ダンッ!

「ヴィヴィアン…!前線へ出ていた奴ならこちらの戦略を見抜いてもおかしくないわ。それに、カイドマルド機の急激な機体性能の向上や新装備…どれをとっても全て私達ルネの機体を知っての改造…こちらの戦略も機体性能も全てカイドマルドに情報を流した奴の仕業なのね、反逆者ヴィヴィアンの!!」
頭に血が昇ったマリソンは闇雲とも呼べる特攻を敵機に仕掛ける。
しかしこれでは部隊隊長のマリソン自らフォーメーションを崩してしまうから、我に返ると良い案が浮かぶ。彼女にまた不敵な笑みが浮かんだ瞬間だった。





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