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症候群-追放王子ト亡国王女-
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トゥルルル、

ベッドの上で1人震える右手を押さえるダミアンの元に、軍本部と繋がっている子機が鳴ったのでハッ!と顔を上げてすぐに子機をとる。電話の相手はエドモンドだ。こんな深夜に軍からの連絡。という事は…。
「先程、聖マリア王国にルネ軍が宣戦布告をしたとの事です」
「同盟国から潰していく気か…」
その時調度、国際電話から聖マリア王国国王との連絡が繋がったのでエドモンドとの通話を切り、国王の通話に応対する。
「ルネ軍が我が国へ宣戦布告、」
「知っている」
「なら話は早い。3分の1のカイドマルド軍をこちらへ送ってほしい」
「3分の1…」
「どうしましたルーシー殿。昨日会合で申した通りですよ。援軍を出して下さらないのなら、こちらは今後一切カイドマルド軍に軍隊を送りません」
脅されている。相手の余裕たっぷりなその声が気に食わなくてすぐに返事をできず、受話器を持つ手に力が籠もる。
「こんな状況の時ヘンリー様だったらすぐに援軍を送って下さった」
"ヘンリー"その名とその人間が行うであろう行動パターンを聞いてすぐ決断を下す。
「私は暴君ヘンリーと同じ道は歩みたくはない」
「…同盟を脱退されるのですね?」
「古い考えしかできない貴公らのちゃんばらには付き合っていられなくなったのでな」


ガチャン!

一方的に通話を切った。
「意地の張り合いだな…」
正装せず寝巻のワイシャツ姿のまま部屋を出てエレベーターを使い、1階まで降りて行った。





























1階――――

1階に着いたその時。深夜だというのに城下町の方が騒がしい事に気付く。何事かと思い、城の出入口へ向かおうとした時調度角を走ってきたヴィヴィアンと鉢合わせ、無理矢理車椅子を押され、たった今乗ってきたエレベーターの元まで戻された。


ガタン!

「貴様無礼だぞ!」
「マラ教徒達がジュリアンヌ城へ向かっているのです。まるで血の日曜日事件のようにね」
「この忙しい時にまたあの宗教は…。戦力は?」
「旧世代の機体を3機程度所持しているだけで後は生身の人間が銃を所持しているだけです。早めに片付けますよ」
白の手袋をキュッとしっかり装着すると、エレベーターのボタンを押す。エレベーターが来る前に自分は軍本部へ繋がる裏口から外へ出て行ったヴィヴィアン。
1人残されたダミアンは、城内を脚で駆けて行く軍人達を見た後、自分の動かない脚を見て右手を力強く握り締める。もうあまり機能しなくなってきた左手の代わりに。


ポーン、

音と同時にエレベーターの扉が静かに開いた。 


































一方のマラ教徒達―――

「ルネは次期この国に戦を仕掛けてくるわ。カイドマルド軍がそっちに気を取られている手薄な時に襲撃するわよ。今度こそ決着をつけるのよ。7年前私達の多くの同志を騙し虐殺した王室に!」
旧世代の陸軍用歩兵型戦闘機に搭乗したクリスが叫ぶ。残り2機の内1機に薬剤師、もう1機にはダリアが搭乗しているが、元軍人のクリス以外初心者な2人はレバーを握る手に冷や汗をかいている。
先陣をきったクリス達の後ろをライフル等で武装した生身のマラ教徒達がジュリアンヌ城へ向かって駆けて行く。その途中、民家のある城下町を通らねば城へは向かえないので、城下町に住んでいるマラ教徒ではなく王室派の人間達に向かって無慈悲に発砲する。


パァン!パァン!

クリスの指示の下、民間人までも虐殺していくその光景をコックピット越しから見下ろすダリアは歯をギリッ…!と鳴らす。自分の前を走るクリスが搭乗した機体を目をつり上げて睨んだ。
――マラ様が不在の時にこんな身勝手な事を…!――
「我々は不死の力を手に入れたのだ!強気でいれば良い!」
「そうだ!我々は永久に死なない!」
ルネとの戦争も間近という事もあってか、ダリアとコーテルとアダムス以外の死を恐れた教徒達は、薬剤師の作った偽りの不老不死の薬を服用したのだ。半狂乱になり日に日に感情を失っていく瞳や顔付きになっていく同志達に、ダリア達は掛ける言葉も見つからなかった。クリスと薬剤師の私情で動かされているとも知らず、教徒達は城へ駆けて行く。






























同時刻、
マラ教徒隠れ家―――


「あら。今日は人が少ないのね」
ジャンヌがアダムスに尋ねれば、アダムスは悲しそうに目線を下げる。
「皆さん…7年前の仕返しにカイドマルドの王様を殺しに向かってしまいましたです…」
「7年前?」
「はい…。私も詳しくは分からないのですが、マラ教と敵対関係のカイドマルド王室が7年前マラ教徒を裏切った際にたくさんの教徒さん達が殺されてしまったそうです…。その仕返しにクリスさんを筆頭に皆さん出掛けてしまいましたです…」
「……」
「ジャンヌさん、アンネちゃん。私ダリアさんに言われたです。お外は危険だから私達が帰ってくるまで此処で隠れていなさい、一歩も外へ出ちゃダメよ。…って。だからお願いしますです」
悲しそうにそう言うとアダムスは地下にある部屋へと降りて行った。
すると、その時を待っていたかのようにジャンヌは顔を上げ、アンネの頭を優しく撫でてから部屋を出て行こうとするからアンネがその後を追う。
「お姉ちゃん!何処へ行くの?お外は危険なんだよ!?」
振り返らない。ここで振り返ったら決心が揺らいでしまいそうだから。振り返らずアンネに背を向けたまま口を開くジャンヌ。
「ちょっと人に会ってくるだけだから。心配しなくて平気よ」
「お姉ちゃん!」
アンネが部屋を出てくる前に急いで扉を閉めて部屋に鍵をかけると、血相変えたジャンヌは駆け出し、集会場を後にした。




















しん…

残された静かな室内。
中からなら部屋の鍵を開ける事ができるのだが、鍵穴が普通よりも高い位置にあるし、何分まだ6歳でありルネの廃れた町で育った孤児のアンネは栄養失調な為、同年代より成長の遅れている。この低い身長では届かない位置に鍵穴があるから無理だ。開かない扉を見つめるアンネのグレーの瞳には光るモノが浮かび、やがて頬を伝い床に染みを作る。
「ジャンヌお姉ちゃんも行っちゃった…。ヴィヴィアンお兄ちゃんも何処かへ行っちゃったまま…。咲唖お姉ちゃんは私を庇ったせいで天国に行っちゃった…」
そこでアンネの脳裏に鮮明に蘇る場面。ルネの森の中にまだ居た頃、ジャンヌが教えたおかしな指のサインを苦笑いを浮かべながらもやってみせるヴィヴィアンや、そんな彼を怒鳴るジャンヌ、その2人を見て久々に笑ったアンネ。
そしてジャンヌと一緒に日本に行った時、いつも笑顔を絶やさず膝の上に座らせて日本の童話を聞かせてくれた咲唖の姿。
辛い事もたくさんあったけれど、こんな時代だというのにまだ笑顔を浮かべる事ができていたあの日々を思い出してしまったら、その場に体育座りをして膝に顔を埋めて声を押し殺し、泣いた。
「みんな帰ってきて…みんな仲良くして…」





































城下町路地裏のバー―――

それから一方のジャンヌはというと、城下町路地裏にある店仕舞いした1軒のバーの前にやって来ていた。
「はぁ…はぁっ…」
全速力で走ってきたせいか肩で荒い呼吸を繰り返すジャンヌの水色の瞳に映るミバラとジャックと他2人の傭兵。
「来たわね。さすがだわ。母国が滅んでも生き抜いただけの根性の持ち主ね。尊敬しちゃうわ」
ニヤリと微笑み、ジャンヌに1丁の拳銃を手渡すミバラ。


ズシッ…、

手に乗った拳銃のずっしりとした重さが、母国が滅んだあの日に生まれて初めて拳銃を手にし、人を撃った時の記憶を鮮明に思い出させる。しかしぐっ…、と唇を噛み締めて決心した。
ジャンヌのその真剣な顔を見てミバラはふっ、と笑う。ジャックを先頭にその後ろに自分とジャンヌを、更にその後ろに2人の傭兵を歩かせてジュリアンヌ城へと向かった。マラ教徒達とは別の目的を持って。





































外―――――

「本当に今もまだヴィヴィアン・デオール・ルネがカイドマルド軍に在籍しているのね」
「そうよ。先日この国の王だか何だか知らないけれど、そいつをマラ教が捕らえた時そいつを救出にやって来たカイドマルド軍の中に居たわ。髪は伸びて顔付きもきつくなっていたけれど間違いない」
「あいつは貴女のお国を滅ぼしたルネベル戦争指揮官だったものね。忘れるわけないわよね」
皮肉ったその言い方に怒りを覚えるジャンヌだが堪える。
――あいつ1人を殺したからといってベルディネ王国も父上も国民も何も還ってきてくれない事くらい充分分かってる。けど、ベルディネ国民の未来を奪って笑っているあいつは死んでも許せない。そして咲唖をも奪ったあいつを…!――
その時。ジャックが城へ向かっていたのでジャンヌが引き止める。彼女のとったその行動に、何故だと問うジャック達。
「いくらこっちにはルネの軍人が居て武装してるからといって、生身の私達じゃヴィヴィアンさえも捕らえる事ができない。だから…」
言い欠けてミバラに耳打ちすると、驚いたミバラの瞳が大きく見開く。
「貴女のお母様でしょう?」
「あんな奴、母親でもベルディネ王国の王妃でもないわ」
ジャンヌの意向により、城から然程離れてはいないカイドマルド軍本部へと進路を変更した。












































同時刻―――――

小舟でカイドマルドの田舎町にやって来た1人の人物は、身の丈程の大きさをした赤い十字架を杖代わりに地面に着く。この人物は、ルネから無事やっと帰国する事ができたマラ17世だ。
「ふぅ」
彼の瞳に映るのは、都心部から離れたこの町からでも大きくはっきりと見えるジュリアンヌ城。深夜にもかかわらず城は灯りがついているし、城下町はやけに騒がしい。その光景に肩を落とし、深い溜め息を吐いた。
「宗教内に私情を持ち込まないでもらいたいものですね。まったく…」

































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あきゅろす。
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