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症候群-追放王子ト亡国王女-
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カイドマルド王国―――

ポールに連れられ日本から辿り着いたこの地はジャンヌにとって、初めて足を踏み入れた異国であった。
ポールに連れて来られた場所は、町外れにある一軒の小さな民家。森林に囲まれていて暗いし、時折吹く風の音も手伝って不気味さが漂う。
案内され民家へ入ると其処にはダリア、コーテル、アダムスの3人が居た。ポールは自慢気に自分の胸に手をあててジャンヌとアンネに手を向ける。
「えー、彼女ジャンヌ・ベルディネ・ロビンソンは僕の妻でえ、こちらの幼女アンネちゃんは僕とジャンヌの愛の結、」
「うっさいわねポール!あ、今の全部嘘ですから。全部、」
「お、お前は新生ライドル王国に居た女ッ…!」
「え?」
ジャンヌがポールの弁解をしていたら、コーテルは顔を真っ青にしてジャンヌを指差しながらそう言った。声も体も極度に震えている。一方のジャンヌはというと目を丸めて「は?」と呟く。
「ちょっとコーテル!人を指差しちゃいけないじゃないの。こんのっ、馬鹿!」
「ダリアお前覚えてないのかよ、こいつの事!」
「あっ…」
そこでアンネは少女らしい高く可愛い声を洩らす。コーテル達の事を思い出したようで、ジャンヌの白いワンピースの裾をぐいぐい引っ張り出すと、身を屈めるジャンヌの耳元で話す。
「お姉ちゃん。この人達ラヴェンナお姉ちゃんの国でお買物した時、宗教に入りませんかって言ってきた人達だよ」
そう説明されて普通ならああそうだったわね!と手を叩いて思い出すのがセオリー。しかしジャンヌは未だに思い出せない。少しも。
「そうだったかしら?」
「お姉ちゃん〜…」





















そんなジャンヌとダリアとコーテルの間に入ってきたのがポール。彼の空気の読め無さが、この時ばかりは救いとなる。
「まあまあ。お知り合いだか何だか分かんないけどお仲良くしていこうよお。ね?」
「そうですー!」
アダムスは両手を合わせ、目を糸のように細めて微笑んだ。彼女の周りにだけお花畑が見えたのはこの場に居る皆。
「ところでポール」
そうジャンヌが続けた言葉は日本で再会した時に彼から聞かされたマラ教の事。過去にヴィヴィアンが説明してくれた事などとうの昔に忘れてしまっているジャンヌ。いや、意識的に忘れたのかもしれない。母国を滅ぼした国の人間からの言葉なんて全て。忘れ切れずにいるのは確かだけれど。
マラ教の事を説明してもらおうとしていたらダリアがジャンヌの細い肩にそっ…、と手を置く。見上げるほどの長身の女性。
「こんな所で突っ立ているのもなんだから椅子に腰掛けて。今紅茶でも出してあげるわ。王女様の御口に合わない下等な物しかないけどね」
「私はもう王女なんかじゃないわ」
「ジャ、ジャンヌ…」
俯いてしまうジャンヌ。声を掛けてやるポールにも見向きもしない。


しん…

場の空気が重苦しくなってしまった。さすがのダリアもどうしたら良いか分からず戸惑っていたら肩に置いていた手をギュッ、と掴まれた。ジャンヌに。
ジャンヌは顔を上げる。その顔に浮かんでいたのは悲しみに満ちた表情ではなく、明るい笑み。海のように澄み渡り美しいブルーの瞳は星を散りばめたかのようにキラキラ輝いている。この世界には純粋過ぎるくらいな輝き。
「だから気軽に接して!王女様、なんかじゃなくてジャンヌ、って呼び捨てにしてもらった方が肩の力が抜けるわ」
場に笑みが零れた。
見た目ではなく今のようなジャンヌの健気な性格にポールが惹かれているのは事実。
























「可愛いですー!仲良くして下さいね!」
アダムスは身を屈めて満面の笑みを浮かべて、アンネとの交流を深めようとしていた。しかしアンネは頬を赤く染めて恥ずかしがり、ジャンヌの後ろに隠れてしまう。
そんな彼女に対しアダムスはアンネをジャンヌの後ろまで追い掛ける。そしてアンネの小さくて白い手を両手で優しく包み込んだ。
「やっと捕まえました!私アダムスって言うんです〜!仲良くして下さいですー!」
「はっ、はいっ…」
「アンネちゃん私とちょっと名前が似てますよねっ」
「ア、しかあってないわよアダムス」
後ろからのダリアの溜め息混じりの言葉に、
「えーそうですか」
と残念そうにしょげる姿も天然な性格が丸出し。そんな彼女達を見ていたら少し安心したのか、先程まで上がりっぱなしだったジャンヌの肩は自然と下がっていた事に気付いたのは彼女自身ではなく、そのすぐ隣に居たポールだった。






















自己紹介やありきたりな話で盛り上がった晩餐。今は皆各々の事をして時間を過ごしている。
マラ教はこの国では追われる身であり、いつ殺されてもおかしくはないという危険な立場にある事を聞かされてジャンヌが驚かないはずがなかった。
しかし、今の今に至るまでこうして幾度の戦禍を生き抜いてこれたから今回だって自信があった。生き抜ける自信が。ただ強運なだけかもしれないが、運も実力の内とよく言ったものだ。ベッドの上で寝そべっていたらアダムスに声を掛けられた。
「ジャンヌさん、お出掛けしませんか?」
「いいわよ」
「気を付けなさいよ。マラ教は異端とされているから気付かれないようにね」
母親のようなダリアの言葉を背に、ジャンヌとアンネとアダムスは民家を出て行った。


パタン、































見上げれば、この時代に似合わない満天の星空が広がっている。
アダムスはアンネの事が相当お気に入りらしく、抱っこしても良いかジャンヌに断りを入れてから抱き抱える。
「ジャンヌさん」
「ん?」
「私、皇女だったんですー」
「え…」
アダムスの思わぬ告白に目を見開き彼女の方を向く。
「私、弱者を強者から守る事が目的のマラ教に入って…母国の輸出品を逃がしたんですー…」
「逃がした?」
「輸出品は…奴隷さん達だったから…」
ここでジャンヌは今日出会ったばかりのアダムスの性格を理解した。全てではないけれど、八割は理解できただろう。この子はとても優しくて純粋過ぎる。
「そう…良い事をしたわね」
頭を撫でられたアダムスの顔に笑みが浮かんだ。


カラン、

アダムスに連れられやって来たのは一軒のアンティークな喫茶店。夜にしかお目見得しないとても美味しいデザートがあるとの事。それをどうしてもジャンヌ達に食べさせたいらしい。
店内に入ればカップルが2組。他には、1人の美女と体付きの良い3人の男。ミバラとジャックをはじめとする傭兵達だ。彼らの事など知りもしないジャンヌ達は、空いていた彼らの隣の席に着く。
「ミルクレープ3つお願いしますですー!」
アダムスが注文をし、それから色々と話し掛けてくれていたのだが正直ジャンヌの頭には話の内容の一つも入ってこなかった。何故なら、隣の席から聞こえてくる話題が自分に関係のあるものだったから。
彼女達の隣の席では、ミバラがテーブルに頬杖を着きながら、愚痴を溢してていた。
「此処に着いて2日だけど擦れ違いもしないわヴィヴィアンと。軍に行けば確実だけどそれは自殺行為。これじゃあ駄目だわ。これじゃあ…」
「おいおいミバラさんよぉ。まだ2日だ。そう焦るなって」
「気安く口利かないでよ。たかが傭兵の分際で」
「んだと、この女ぁ!」
「落ち着け、ジャック」
ガタン!と音をたてて拳を握り締めながら椅子から立ち上がったジャックを、他2人の傭兵が押さえる。
――国王の妾だか何だか知らねぇけど、国王がこの女に飽きる理由がよーく分かったぜ!ったく、このクソ女!いつか土下座させてやる!――























一方のジャンヌ。顔が強ばっていて視線も泳いでいる。そんな彼女にどうしたのかと心配して声を掛けてくれるアダムスの声も聞こえない程。
彼女ジャンヌは決心していた。日本とカイドマルドの戦争が静まった時から。もう捨てるのだと。普通の少女の心など全てを。母国を、国民を、父を奪い、親友さえも奪った男の息の根をとめてやると。
当初ベルディネを再建させると言って戦禍をくぐり抜けてきたが、1日1日と日が経つに連れてやっと気付いた。たった1人の人間がどう足掻こうと、小国一つですら再建できるはずが無いという事に。
この世界で生きていれば余計その現実を突き付けられる。仇討ちをしたところで国も大切な人達も帰ってはこない。逆に殺人者となってしまう事くらい承知の上だが、このままでは死ぬに死ねない。だから…。























ガタン、と椅子の音がした。
「ジャンヌさん…?」
不意に立ち上がった彼女に声を掛けるアダムス。
「お姉ちゃん…?」
アンネも心配して顔を見上げる。しかしジャンヌは2人には背を向ける代わりに、ミバラ達に体を向けていた。
「…?」
何事かと思ったミバラ達がジャンヌの事を不思議そうに見上げてくる。
「ヴィヴィアン・デオール・ルネを探しているの?」
「何よ貴女。口の利き方には気を付けなさい」
ミバラの甲高くて耳障りな声。それにも動揺しないジャンヌはテーブルに手の平を着いて身を乗り出す。
彼女の大胆な行動にミバラ達は驚き、引いた。
「私もなの。私もあいつを探してるの!この国に居るんでしょ。私にも手伝わせて!私、あいつを殺さないと悔やんでも悔やみきれない。だからこのまま死にたくない」
状況が全く把握できないが、ふと、ミバラはジャンヌの顔を眺めていく内に気が付いた。一応学院での学力は学年で1位2位を争っていたし他国の知識だって充分ある。
ジャンヌの過去の身分に気付くとふっ…、と笑う。頬杖を着いたまま口を開く。
「ベルディネ王国第一王女ジャンヌ・ベルディネ・ロビンソン」
「え…」
「それくらいの知識が無いと地位も得られないからね。ベルディネ王国王女、それならあいつを憎む理由も充分分かるわ。でも私達だってルネの血で満たされた人間よ?」
不敵な笑みを浮かべるミバラの言葉に一瞬だけジャンヌに迷いが生じるが、すぐに引き締まった表情をして真剣な眼差しを向けた。
「それでも構わないわ。目的が同じ事に変わりはないもの」
「ふふ、分かったわ」
ジャンヌの覚悟の度合いを確かめたミバラ。ジャンヌの覚悟がミバラの合格点に達したようだ。





















ミバラは自身の携帯電話を取出し、連絡先を交換しようと言い出す。しかしそんな物を所持していないジャンヌは、アダムスの携帯電話を借りて連絡先の交換に成功した。
「いい?あいつが居たとしても早まって殺さないで。貴女は分からないかもしれないけれど、ルネ王国での新法ではあいつを殺した人間も殺される事になっているわ。あいつを殺せるのはルネ王国国王ルヴィシアン・デオール・ルネ様だけ。貴女は捕らえる事に専念しなさい。大丈夫。あいつの死に際を拝めるようにしてあげるから」
美しいミバラの容姿からは想像もつかない恐ろしい言葉が次々とその小さな口から吐き出される。
そんな彼女に最も怯えていたのはこれから行動を共にするジャック達傭兵。
――この女、俺より性悪だぜ…。まるで魔女だな――
ミバラは席に着いたままジャンヌを見て手を差し出す。
「私はミバラ・ルイ・ジェリー。美しいはずの女が人を殺す為に友情を芽生えさせるだなんて笑い者だけどこれから頼むわ」
差し出されたその手を握ったジャンヌの瞳にもう迷いは無かった。































喫茶店を後にしてからのミバラ達。悪魔の様笑みを浮かべるミバラを先頭に、彼等は闇に溶け込んでいった。
「これであいつの敵がまた増えた。逆に私は地位回復に近付いた。良い気味ね、マリー・ユスティー…」
































一方のジャンヌ達。
「ジャンヌさん…あまり危険な事はしない方が良いですよ…」
アダムスの心配にも、ジャンヌは強く答えるだけだ。
「アダムス貴女の国だってつい先日滅ぼされたじゃない。憎いとかそういう感情は生まれないの?」
「私は母国が嫌いですから…。人を奴隷扱いする国なんて…。だから、ね。逆に嬉しかったんです。母国が無くなって。幾ら何でも駄目ですよねこんな感情…」





























帰宅後――――

「おやすみアンネ」
「おやすみお姉ちゃん」


パタン、

街外れの森の中に在る、ダリア達をはじめとするマラ教徒の隠れ家に帰宅したジャンヌとアダムスとアンネ。アンネを寝かせるとジャンヌは部屋を出る。誰もが寝静まった静かな夜。
「やあジャンヌ」
「ポール」
「久々に少し話さないかなぁ?」


バタン…、

ポールに呼ばれてジャンヌは外へ出た。こんな荒んだ世の中には不釣り合いな満天の星空が広がっている。
「憎たらしいけど綺麗ね」
地面に膝を立てて座りながら星空に瞳を輝かせるジャンヌを、隣に座ったポールが笑顔…だがどこか哀しげに見ている。
「ジャンヌ」
「何よ」
「昔は君の活発で男勝りなところについていけなくて許嫁を破棄した小生だけど、今再び許嫁になってくれないかなぁ」
「……。ごめん」
「あははは!やっぱりかぁ」
「やっぱり?どういう意味よ」
ポールは笑顔なのにやはり哀しげに笑む。
「ジャンヌの目には小生じゃない、別の人が映っているからさぁ」
「…!!」
その一言にジャンヌの脳裏では、たったさっき殺そうと決めてミバラと協力するとまで決めた相手の顔が浮かんでしまった。





















「ば…、馬鹿言わないでよ!私そんな奴居ないわよ」
「あっはっは!虫が平気で木登りが得意なジャンヌも女の子になったねぇ〜」
ポールは笑いながら立ち上がると、ジャンヌに背を向けて隠れ家の方へと歩き出す。ジャンヌは慌てて立ち上がる。
「ちょっとポール!だから私にはそんな奴居ないって、」
くるり。振り向いたポールの初めて見る寂しそうな笑顔に、ジャンヌはポカン…とした。
「ジャンヌ。自分に嘘を吐くのは良くないよ」


タン…、タン…、

ポールの足音が遠ざかっていく。


ギュッ…!

俯いたジャンヌは両手が震えるくらい握り締めて肩を震わせる。
「吐いてない…嘘なんてそんなモノ吐いていないわ…。私は決めたの…もう決めたのよ…。私の大切なモノ何もかも奪ったアイツを殺すって。…決めたのに…!」





















































カイドマルド軍本部―――

「クリス少尉の監視…でございますか」
エドモンドは、ジュリアンヌ城から軍本部に繋げられた通信に小声で応対する。相手はダミアンだ。
彼からの頼みごとに「はい」とだけ返事をしていたら一方的に通信を切られた。その時、タイミングよく本部の扉が音をたてて開かれてクリスが入ってきた。
「はぁ。今日も疲れたわ」
今日の任務マラ教徒撲滅のせいで疲れ切っている様子。肩を叩いたり首をコキコキ鳴らしている。
「やあ、マダム。お疲れの様だね」
「そうね。どっかの馬鹿教徒達が自分達の異端振りに未だ気付いてくれないせいで」
近くにあった椅子に腰掛けたクリスがうなだれていたら、目の前のテーブルに湯気のたつコーヒーが置かれる。顔を上げる。
「どうぞ、マダム」
「本当貴方って女の扱いが上手いわよね」
「そうかい?」
「ええ、とても」
2人が笑い合う。
温かいコーヒーを口にしていたクリスは、エドモンドからの視線に気付き、コーヒーを飲みながら目線を彼に移した。彼が不思議そうにジッ…、とこちらを見つめてくるのだ。



















「…何?私の顔に何か付いてる?」
「いや、そんなベタな展開を望んではいないよ」
「じゃあ何」
「美しいなあ、って」
思わずコーヒーを吹き出してしまいそうになったクリスは何とかそれを飲み込んだが、むせ返ってしまった。
「ちょっと、ゴホッ!エドモンド貴方ッ、ゴホッ!」
喉をドンドン叩き咳き込む彼女を心配して慌てて立ち上がったエドモンドは彼女の背後にまわり、背を叩いてやる。その細い彼女の背を疑うように見つめながら。
――危ない危ない。つい見つめ過ぎてしまった。しかし国王様は何故、マダムの事をあんな風に言うのだろう。マダムが…そんな、まさか…――

















































ジュリアンヌ城、
とある一室――――

月明かりだけに明かりを任せた暗い室内。
ガラス張りの窓の前にあるデスクに向かい、黒い縁の眼鏡を着用したヴィヴィアンは書類と睨めっこ。しかし目を向けているだけで実際、内容の一つも頭の中に入ってこない。
――マリーは大丈夫だろうか――
彼の脳内で渦巻くのは、王子という身分を失ったあの日の出来事。涙で顔をぐしゃぐしゃにしたマリーの姿が脳裏に焼き付いて離れない。頭を抱えた。
「あの時何故僕は彼女も一緒に連れてこなかったんだ…。やっぱり人間なんて自分だけが可愛いだけなのかな」
――彼女はあんなにも僕を大切にしてくれていたというのに――
考えれば考える程辛くて吐き気までする。静かに椅子から立ち上がると、早々に寝る支度をする。


コン、コン

その時、部屋の扉をノックする音が2回聞こえた。


ギィッ…、

返事を待たずに開かれた扉の向こうに居たのは車椅子に乗ったダミアンが1人。久しぶりだ。彼から部屋へやって来るのは。相当緊急で重要な話があるのだと察する。























「どうかなさいま、」
「こんな暗い部屋に居たらお前のそのネガティブな思考が更に進行するだけだな」
相変わらず言いたい放題な彼は自分で車椅子のタイヤを押しながら部屋の中へ進んでくる。
手伝ってやろうかと手を伸ばすと、感情の無い目が向けられた。睨んでいるのだろうか。表情が無いから分からない。まだ怒鳴られた方がマシだ。
「何かありましたか」
「マラ教徒の人間がルヴィシアンの気に障る事をしたようだ」
その一言で彼が今何を言いたいのか何となく理解ができた。恐らく…
「ルネがカイドマルドに戦争を仕掛けてくるという事ですね」
「恐らくな」
「こちらもマラ教徒を敵視しているのに」
「ルネと手など組みたくはない。まあ、向こうもそうだろうな」


しん…

2人の間に起こった沈黙。かれこれ10分近く沈黙が続いているから居心地が悪いし、相手がダミアンなだけに気味が悪くなるヴィヴィアン。呼吸の音さえもたててはいけないような気がしてならない。ただダミアンの隣に、肩幅に足を広げて後ろで手を組み立っている。窓の向こうに見える満天の星空が美しい。
























あまり余計な事を口にするとダミアンの気に障る事は承知の上だから黙っておこう。
「喜ばないのか」
「え?」
「相手はルネだぞ。復讐ができる。…はっ、そういえばお前は復讐の仕返しに怯える弱者だったな」
――本当言ってくれるよ、こいつ――
ヴィヴィアンは心の中でダミアンをこいつ呼ばわりするが、表ではそれに反して思わずふっ、と笑ってしまった。
確かに彼の言う通り、自分はルネに復讐をしてからの反動として殺されてしまうのが怖いだけの人間だ。ただ、生きてさえいられれば良い。
――死んだらただの笑い者だよ?――
「私は憎い相手が生きているというだけで虫酸が走る。復讐せずにはいられん。どんな手を使ってでもな」
「国王様って案外熱いですね」
クスッ、と笑いながら言ったら予想通り感情の無い目を向けられた。
「普通だ。お前が冷め過ぎているだけだろう」
はいはい、と軽くあしらったら更に"弱者だ"とか"意気地無しだ"と言われたが、今日のダミアンからは恐ろしさが感じられない。そりゃあ、少しは感じるけれど。今日は彼の態度が何だか不安気に感じられる。一見いつもと変わったところは無いからヴィヴィアンの思い込みかもしれないが。
――ダミアンは人との馴れ合いを極力避けるのに。それに今日はやたらと喋るし。あれかな?不安な時誰かを話相手にして少しでも気を紛らわせようとするタイプ?まあ、そんなタイプはヴィクトリアンで慣れているからそんなに苦にはならないけど――






















気が済んだのか、ダミアンは一通りヴィヴィアンを馬鹿にしたら背を向けて部屋を出ていこうとする。彼が閉めようと扉に手を触れた時。
「国王様」
呼び止める。
しかしダミアンは振り向いてもくれない。そんな事くらい承知の上だから呼び続ける。
「大丈夫ですよ。多分」
「何がだ」
「いや、その何となく」
「黙れ。戯れ言を口にするな」


バタン、

音をたてて扉が強く閉められた。
「せっかく心配してやったのに。この僕が」
なんて、自分はまだ王子の気分でいながらボソッと呟いたヴィヴィアン。
「それにしても何が不安なんだろう。ルネとの戦争?まさか。あの自信家が一戦に対してあそこまで不安な素振りを見せるはずが無いよな。僕の思い込みか…」
眼鏡を外して一息吐き、ベッドに潜り込むのだった。






















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