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症候群-追放王子ト亡国王女-
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港にやって来た海上部隊の大型船へ戦闘機に搭乗したまま乗り込むカイドマルド軍陸上部隊。真っ赤な空が広がる日本が遠くに見えていった。



























一方。都以外で戦うカイドマルドの航空部隊。
こちらもやはり日本の勢力には押され気味だったが、まだ戦い続けていた。国王からの撤退命令が下されるまで。

















































2ヵ月後――――

約2ヶ月が経ち、真っ赤だった日本の空が美しい青を取り戻した頃。この国にはカイドマルドの戦闘機の姿は1機も見られなくなっていた。
雲の切れ間から差し込んだ暖かな太陽の光に気付いた武藤将軍は、静かに顔を上げる。
「勝った、のか…」






























戦争の音が消えた日本。
都城から然程離れていない場所に、"フランソワ"と持ち主の名が組み込まれている壊れた携帯電話の傍には、乾ききった血痕だけが残っていた。















































ルネ王国―――――

「永遠に愛する事を誓いますか」
可愛らしい小さな教会に集まった人々は、今日晴れて夫婦となった2人を笑顔で祝福する。音をたてて白い鳩が一斉に青空へ飛び立っていった。
傍では弟達3人がはしゃぎ、新郎新婦は正装した姿で遠く遠くに見える、権力者の力がいかに大きいかが一目で分かるルネ城を眺めながら微笑む。
「フランソワお兄様もきっと天国から祝福してくださっておりますね」
「当たり前さ。祝うって言ったんだ、兄貴」































日本―――――

男性も女性も皆が黒の着物に身を包んでいる。
王族をはじめ貴族達が、城の前に飾られた全長5メートルはある二つの遺影の前に横に並ぶ。一番前の列には勿論、日本王室の面々。
冬でも温室で育てられていた可愛らしい花々に囲まれた遺影には、咲唖と信之の笑顔が映っていた。
「うっ…うぅ…」
「お若いお2方が先へ逝かれてしまうなんて…うぅ…」
王室の背後からは、貴族達の啜り泣く声。この場に立っている事さえできなくなってしまった泣き崩れる本妻の肩をしっかり支える慶司の瞳は、力強い。咲唖と信之の遺影から1秒たりとも離れない視線。
妾と梅は、隣で泣き崩れる妹2人の背を何度も擦ってやる。





















国王は咲唖と信之の遺影に背を向け、テレビカメラに体を向けると威厳ある姿を見せた。2人をはじめとする、今戦で命を落とした日本軍人や民間人を追悼するこのセレモニーの様子は、日本全国で今現在放送されている。何処の企業も学校など全てが日常するべき事を止めてこの放送を見ている。皆やはり、黒の着物に身を包んで。
「我々日本はこの戦いに勝利を収めた。しかし、王位を継ぐ大切な人間を2名失ってしまった。そして、信頼できる軍人や大切な国民までも!」
力強い国王の言葉。
「…っ!」
慶司はそれを、口を強く結んで堪えながら聞いている。睨むように父親を見つめて。
「ゴホン!」
国王は一度咳払いしてから、顎に二重の皺をつくって口を開く。
「しかしこんな事で挫けていてはいけない!負の事ばかりをいつまでも考え、犠牲を悔やんでいたって何も始まらない!我国日本はここまで成長を遂げたのだ!大国になれるよう、ここから一気に我々は上への階段を昇るのだ!戦い続けようではないか!」
「国王陛下万歳!」
「日本!日本!日本!」
貴族や国民から聞こえてくる国王に賛同する煩い声を掻き消してしまいたかった慶司。今国王の前に飛び出して、"やめろ!こんな愚かな事はもうやめろ!"と叫び伝えたい。けれどそんなのは全て掻き消されてしまうだろうし何より、そんな事できるはずがなかった。





















慶司の眉間には何重もの皺が寄り、目は大きく見開いていて握った拳がブルブル震えている。それは梅も同じだった。
――姉上や信之、そして多くの日本人が体を張って教えてくれたじゃないか、戦争の愚かさを!なのに父上は何も分かっちゃいない。こいつは何も分かっちゃいない!!――
「慶司」
「…ハッ!母上…」
そっ…、と触れてきた震える細くて白い手。国王と日本を讃える声に掻き消されてしまいそうな本妻の声だけれど、それはしっかりと慶司の耳に届いていた。そちらに顔を向けると、彼女はいつもの優しく垂れた目で微笑んでいた。
「大丈夫ですよ。国王様はいつかきっと目を覚ましてくれますから」
そうですね、微笑みながらそんな返事をできるはずがなかった。結局国王は父親は、自分さえ最高の位に君臨して戦争に勝てればそれで満足なのだ。






























墓地――――

都城裏にある歴代の国王や王室の人間達の墓の中に、灰色の新しい墓が二つ建てられてしまった。こんな時ばかりは小鳥の囀りが憎い。
慶司が二つの花束を抱えて墓場へやって来たら先客が2人居た。水色と黄色の着物を着用した少女ジャンヌとアンネは一つの墓に縋りつき、声を上げて泣いている。
近寄り難くて足が前へ出ない。どうしようか…そう思っていた時。


ポン…、

肩に誰かの手が乗った。後ろを振り向く前にその人間が背後から自分の隣へ移動してきた。梅だ。
「梅姉様…」
いつもの派手な化粧を一切していないから始め、誰だろう?と思ってしまったけれど確かに梅だ。
やつれた姿を見せる彼女は懐から白い紙に包まれた物を取り出すと慶司と向き合い、それを両手で丁寧に手渡す。
「…?」
首を傾げ、目を丸める慶司。梅の目を見たら、彼女は力強く頷いた。


カサッ…、

手渡されたそれを慶司が紙の音をたてて開くと中には、便箋3枚綴りの手紙が入っていた。初めて見た細くて優しい文字。自分への宛名の呼び方でこれが一体誰からの手紙なのかが瞬時に分かった。途端、目頭が熱くなったけれど必死に堪える。梅はそんな彼を、隣で切なそうに見ていた。
慶司が文字を目で追っていくと、その手紙を普通よりちょっと高めな優しいいつもの声で読んでいる咲唖が居る。慶司の頭の中にだけ。
手紙を読み進めていくと咲唖との本当の別れが近付いてしまうから、先を読みたくないのに読みたい。内容は、こうだった。

【慶司へ 
貴方がこの手紙を読んでいる時、私は貴方の傍には居ない時です。そして、貴方が強く成長した時です。立派に成長して強くなった貴方の姿を見たくて仕方がないです。褒めてあげれなくてごめんなさい。
今、日本は晴れていますか。それとも雨が降っていますか。どんな天気の日でも日本の景色はどの国よりも美しいから、貴方はそれを見逃してしまうような人になってはいけませんよ。どんなに辛くて苦しくても、小鳥の可愛らしい囀りや美しい自然に目と耳を向けてみてください。そうすれば、辛い思いも苦しみも全て些細な事に思えて笑えてしまいます。


日本はこれからどんどん大きく成っていく事でしょう。その度に日本はどんどん大きな犠牲を出すでしょう。
貴方は真っ直ぐで真面目な人だから、今の世界や人間に日々不満を抱いているのではないですか?それでも挫けてはいけませんよ。 自分が命を授かったこの時代がどんなに辛く残酷なものでも、逃げてはいけません。でも、休憩は適度にとってくださいね。そうしないと壊れてしまうのですよ人間って。


ここからは私の我儘になってしまうので無視をしても構わないですよ。
貴方さえ良ければ、私のお友達3人を救ってあげてくれませんか?彼や彼女達はこんな時代に飲み込まれてしまった可哀想な人達なのです。
本当は私が救ってあげられれば良いのですけれど、貴方がこれを読んでいるという事は恐らく私は今何処にも居ないでしょう。ごめんなさい。我儘を言う勝手な姉で。


最後に。
貴方が私に無視をしていた理由は全て分かっていました。だから私、貴方の思いに従って今後辛い事があったら無理に微笑まず、強く怒ってみようと思うのです!だから仲直りして下さいね。
慶司が日本の王様になった時、日の丸は今までで一番輝くと信じています。宮野純 咲唖】

最後に差出人の名前がフルネームで表記されていた。細いのにしっかりとした文字だった。























カサッ…、

読み終えてしまい、これで本当に咲唖との別れの儀式も終わってしまったと心が体が受け止めてしまった。
俯いたままで暗い慶司に歩み寄る梅は空を見上げた。今日は皮肉にも、気持ちが良い程晴れている。
「あの日、咲唖さんが慶吾になって飛び出して行った姿を偶然見てしまいましたの。それで追い掛けてみたら…。咲唖さん、血を流してフラフラになりながらずっと戦っていましたわ。だからあの時私は慶司さんに慶吾を追うよう頼んだのです」
梅の言葉はしっかり聞いているのだけれど、返事はせずに彼は歩き出す。信之の墓前に花束を添え、手を合わせる。次に、咲唖の墓前に立つ。
「あ…」
慶司の気配にやっと気付いたジャンヌとアンネは涙でぐしゃぐしゃの顔をこちらにゆっくり向けてきたから、精一杯の暖かな笑顔で迎えてあげた。
「大丈夫です。ジャンヌさんとアンネちゃんは姉上に代わって僕が御守りします」
そう言い、身を屈めて咲唖の墓前に花束を添えて手を合わせ、スッ…と立ち上がる。彼を、輝く太陽が照らしてくれた。
「次の宮野純慶吾は、この僕です」
















































その頃――――

セレモニーを終えた国王は早くもいつもの派手な色をした着物に着替えていた。大きな足音をたてて廊下を歩く彼に寄り添う妾は不気味に口を開く。
「国王様、国王様。御存知ですか」
「何だ」
「咲唖さんが迎え入れたジャンヌとアンネという少女2人。あのヴィヴィアンの事を宮廷内の一室で堂々と話していたのですよ」
「何だと…?」
国王の足が、止まった。
妾は着物の袖で口元を隠しながらクスクスと笑う。
「私、彼女達の話の内容を聞いてしまったのです。先のルネと新生ライドルとの戦争時に、彼女達はどうやら奴と関わっていたようですの」
国王は視線を天井にやったり床にやったりと忙しい。ルネが今最も探している人間と友好的に関わっていた人間が2人も日本に居て、それを日本王室が迎えたという事ルネに知られてしまっては、日本はどうなってしまうのだろう。考えただけで身震いがした。すぐに妾の方を向いた彼の目は泳いでいる。
「早急に殺さなくては!あの女2人をすぐに!」
妾は心の中で高笑いした。次の王位継承者に最も近かった信之を失い、女の子供しか居なくなった自分を国王は見捨ててしまうのではないかと不安でいっぱいだった。
けれど、今自分は国王の危機を救う確かな情報を与えた。これでまた、彼の中で自分の株は上昇する。
「助かった、紀子」
そう優しく言われて強く抱き締められた妾は、彼の胸の中で悪魔の様な笑みを浮かべていた。
側近達が国王からジャンヌとアンネを殺害するよう命令を下された時、彼女達は城下町に居た。
































城下町――――

慶司と共に、気晴らしに城下町へやって来た2人。建物を壊された為、外に商品を並べて売る店がほとんど。以前のような姿をしていない町たが、着々と元の姿を取り戻している。
「日本はヨーロッパと違う物がたくさん売っているわね!」
「そうだねお姉ちゃん」
「ふぅ…」
彼女達の騒がしさに慶司は苦笑いを浮かべるばかり。けれど、毎日のように目を赤くして泣いていた彼女達が少しでも元気を取り戻してくれた事が嬉しくてたまらない。青空を見上げ、今は亡き姉に誓った。
――姉上の大切な御友人は僕が守りますから安心して眠って下さい――
視線を戻した時、彼女達の姿は此処に無かった。


一方。慶司が自分達を探しているとは知りもしない暢気な2人は、小さな老婦人が売る薄ピンク色の花束を購入していた。咲唖の墓前に添える為だ。
「あ。いけない!慶司君に黙って来ちゃった!戻ろうアンネ!」
「うん」
2人が慶司の元へ戻ろうとした時。
「ジャーンヌッ!」
背後から自分の名を呼ぶ少年の声がして、眉間に皺を寄せ不審そうにゆっくり後ろを振り向く。
其処には、この花と同じ薄ピンク色の髪を巻いていて、どう見ても日本人ではない貴族のような煌びやかな服を着用した少年が1人居た。
「…行くわよアンネ」
彼が変に目を輝かせてニヤニヤしているから気持ち悪くなったジャンヌは、アンネの手を引いて早くこの場から去ろうとする。しかし少年は2人の前に現れて行く手を阻む。
「ちょっと、何すんのよ!退きなさいってば!」
力付くで少年の腕を押し退けようとするジャンヌに、彼は更に目を輝かせる。
「やっぱりジャンヌだ!」
「はぁ?」
今更ではあるけれど、ここでやっと彼が何故自分の名を知っているのかという事に疑問を抱く。顔をよく見て思い出そうとしたいのだけれど、やはり彼の笑みが気持ち悪くて直視できない。




















ふと、アンネに視線を向けた少年は途端に顔を青くし、頭を抱えて後ろに派手に反り返る。その大き過ぎるリアクションに彼女達は勿論、周囲も引いた。
「まままさかこのキューティ幼女はジャンヌの子供ぉ!?」
「そんなはずないでしょ!第一あんた誰!?」
「覚えてないのかいジャンヌっ!?小生だよっ!ベルディネ王国一の名門貴族レノン家のポールだよぉ〜」
「ポール?あのマザコン自惚れ男の?」
酷いな〜、そう言いながらも笑むポールに、ジャンヌの顔にも笑みが浮かんだ。
彼ポールはジャンヌの婚約者になる予定だったのだが、幼少期、彼女のあまりの男らしさや強気な性格にまいってしまったポール自ら、彼女との婚約をする前にベルディネ王室から関係を断ち切ったのだった。




















幼なじみでもある彼との再会は、咲唖の死を受けたり母国が地図から消えてしまった事で酷く沈んでいたジャンヌの心に一筋の光を射してくれた。
「いやーしかしまぁ、ジャンヌってば綺麗になったねぇ!昔はあんなに男の子みたいだったのに!今のジャンヌなら大歓迎さぁ!」


バシン!

「痛ーい!」
鈍い音がして、ポールはジャンヌに叩かれた頭を痛そうに撫でる。
ポールは持ち前のその純粋な優しさと明るさでアンネにも優しく接してくれるから、誰かとは正反対の対応にアンネも喜ぶ。
「居たぞ!」
そんな時遠くから聞こえてきた男性の低くく恐ろしい声と数人分の足音。
ジャンヌ達3人がそちらを振り向くと、日本軍軍人の数人の男性が鬼の様な形相でこちらへ向かってきた。状況判断ができないが、確実に彼等は自分達の方へ向かって走ってきているのでジャンヌはアンネを抱き上げる。


ぐいっ、

「あ!ポールちょっと!?」
そんな彼女の手を引いたポールは見かけによらず速い足の速さを見せ付けてくれた。お陰でぐんぐんと離れていく軍人との距離。




















「ジャンヌ、君はまーた何かいたずらをしたんだろう?本当に困ったお姫様だよ君はぁ!」
「うるっさいわね、してないわよ何も!」
「じゃあ何なんだい、あいつらは?」
「こっちが聞きたいくらいよ!」
ジャンヌは怒った顔をして首を横に振る。
目線を上に向けて首を傾げるポール。すぐに笑みを浮かべた。純粋な。
「まぁ良いやぁ。どっちにしろ綺麗になったジャンヌなら小生のお嫁さんにもらいたいしねぇ」
「あんたみたいな弱々しい奴、私絶対に嫌よ!」
「ははは!でも小生はマラ教徒になったから、ジャンヌを幸せにしてあげられる自信があるよぉ」
「マラ教?」
何処かで聞いた気がしたジャンヌだが、思い出すのも面倒だった為、その事はすぐに考えるのをやめた。





















段差を飛び越えたり、階段を駆け降りたり壁を越えたりと軽快に逃げる2人。
ポールの話によれば、この近くに自分の仲間つまり同教徒が居て、車もあるから遠くへ逃げられるとの事。取り敢えず今は彼の言う事に従うと決めたジャンヌは、アンネを抱き抱えたまま共に逃げ続ける。
「ジャンヌー?」
「何よ」
長く走り続けているせいか、2人の息があがってきた。
「ベルディネは大変だったけどさ、ジャンヌが生き残れたのは偶然じゃなくて必然なんだよぉ」
「何でよ」
「君の本当のお母さんを見付けたんだぁ」
ジャンヌの顔色が真っ青になった後すぐに眉間に皺が寄り、怒りに満ちた表情になる。
そんな彼女の変化に動揺し、怯えるアンネに優しく微笑みかけるポールはジャンヌにも微笑みかけて、話題を変えた。
「こうしてまた逢えたって事は小生とジャンヌは運命の赤い糸で繋がっているのかもしれないねぇ」


バシン!

ジャンヌが彼の背中を豪快に叩く音がした。




























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