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症候群-追放王子ト亡国王女-
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撃たれて目を瞑っているルーベラを後部座席に寝かせ自分の上着をかけてやると、機体を発進する。初めて見る機体の形ではなかったのは、この機体がルネの戦闘機を真似して作られたものだからだろう。助かった。



















「…ハッ!戦闘機が!!」
慶吾の機体を奪われた事に焦った慶司はすぐ様自分の機体に乗り込むが、それよりも早くにヴィヴィアン達は慶司が突き破ってきた箇所から外へ出て行ってしまう。
「逃げるのか!この、卑怯者が!!」
声を張り上げ、我を忘れて機体の扉を閉めようとした時だった。


ガタン!

扉を押さえ、閉めようとするのを拒む者が居た。慶司は咄嗟に、狂気に満ちた顔で後ろを振り向く。其処には冷や汗をかいた梅が居た。
彼女が何故こんな場所に居るのだろうか…そう思うより先に彼女から口を開いた。大きく。
「慶司さん、慶吾を…宮野純慶吾の姿が無いわ!彼を探してちょうだい!」
「しかし、敵が…」
「彼を探さないと…助けないと慶司さん、貴方は一生後悔する事になるわ!」





































格納庫外―――

林の中に隠れて停車している日本軍戦闘機。機内に居るのはヴィヴィアンとルーベラ。外装がこれなら敵から狙われる事もないと安心する一方で、あまり長い時間このままではいられない事も感じる。
後部座席で唸るルーベラの状態が心配だ。それは彼女の事を思ってではなく、彼女を失った時自分がダミアンからどんな罰を受けるのかが心配なだけ。所詮、人間なんてそんなもの。
「はい。皇女殿下の事をお願い致します」
エドモンドに連絡をとり、戦闘機で此処へ来てもらいルーベラをカイドマルドへ帰らせる事が優先だと考えた。すぐに、無線の耳元にある電源をオンに切り替える。


カチッ、

しかしすぐにオフに切り替えられた。
咄嗟に後ろを振り向く。額や口から血を流すルーベラが、震える手でヴィヴィアンの無線に触れていた。






















「何をやっているのですか殿下。安静にしていて下さい」
「行かせなさいよ…」
「…何処へ」
「ヴィクトリアンの元へ私を行かせなさいよ…!それが私の任務なの…。こんな任務もこなせなきゃ…私がこの世界に存在しているという事が…誰にも伝わらないじゃない。嫌なの、もう。ひっそり隠れて自分の功績も国王のものとされて…存在すら知られずに生きるなんて…」
「もうやめて下さい、言わないで下さい。分かっております。殿下の御気持ちは痛い程分かっております。僕だって殿下と同じ想いを持った人間ですから」
再び静かに寝かせる。
震える彼女の白い手が、ヴィヴィアンの額に付着した彼の血に触れる。生々しい感触はしないから、乾いている。これは時間の経過を意味していた。
彼女は未だ狂者のように微笑みかけてくる。
「それなら尚、私を行かせなさいよ…」
こんな体なのにまだこんな事を言える彼女は自分とは違うのだと気付く。諦める事を知らないのだろう。このままでいればいずれ死が訪れる事からも目を反らさず、受け入れているのだろう。


スッ…、

額に触れてきたその手をそっと下ろしてやり、彼女に微笑みかけてみた。「僕が行って参ります。そして、成功したらその結果を殿下のモノとする事を御約束致します」
「信じ難いわね」
ヴィヴィアンは微笑んだ。














































「何なんだよ、さっきの通信…」
「どうした、ジャック」
機内で1人ジャックは、自分の上司フランソワから下された指令への疑問、そしてそんな上司への疑問を抱いていた。仲間からの通信なんて一切頭に入ってこない。
あれから途絶えてしまったフランソワからの通信。咄嗟に傭兵部隊の群れから飛び出したジャックの機体だけが、皆とは逆方向へ進む。都城のある方向へ。
「ジャック、何をしている!」
「私達の任務はヴィクトリアン様達が中尉から救出されるまでの間、カイドマルドを相手する事だろう!」
「ジャック!こんな身勝手な行動は中尉に伝えるぞ!」
「中尉中尉うるせぇなぁ!その中尉はもう何処にも居ねぇんだよ!!」


ガシャン!

無線を派手に壊した。
もう誰からの指令も聞きたくなかったから。そして、フランソワから最後の指令を確実に成功させたかったから。柄にもないが。


ブロロロロ!

ジャックの乱暴なエンジン音のする搭乗した機体が、行く手を阻むカイドマルドの戦闘機を破壊してゆく。燃え上がる炎や灰色の煙の中を突き進んだその先に見える都城だけを目指す。
「…ぐすっ、」
鼻を、派手に啜った。










































同時刻―――――

「慶司?宮野純慶司?駄目だ、繋がらない」
一方。勝手な行動をとった慶司とはぐれてしまった信之。何度慶司に通信を繋げても一切繋がらない。


ビー!ビー!

そんな間にも、都城の方へと猛スピードで向かってくる1機のカイドマルド戦闘機に、レーダーが反応を示す。しかし何処にもその姿が見当たらない。レーダーが壊れてしまったのかと思い、手で強く叩いてみた。
信之の両脇に搭乗した日本軍の人間達も同様の行動をとる。信之は背もたれに背を預け、腕組みをして息を吐く。
「何だかんだ言って僕も姉上も、本妻方とか妾方だなんて事は心の奥ではどうだって良いんだよな」
背もたれから背を離し、最後にもう一度無線で慶司に通信をとろうとした時。


ドン!

目の前が真っ赤な炎に包まれて強い爆風を感じた。痛いだとか、熱いだとかを思う前に、信之はこの世の者ではなくなっていた。無惨に焼け焦げた3機の日本軍戦闘機。その内の1機に信之を含む。
その傍に着陸したのは、カイドマルド軍の航空部隊用戦闘機。都ではカイドマルドは地上戦しか行っていなかったから、日本軍戦闘機のレーダーが上空の敵に反応していた事に信之達は気付かなかったのだ。てっきり地上攻撃のみかと思い込んでいたから。それに、辺りの戦争の音にこの戦闘機の音は混ざってしまっていた。




















日本軍戦闘機3機を撃墜したカイドマルド機内から、森に隠れるように停車してある日本軍戦闘機を見つけると、ふふん、と鼻を鳴らしてヘルメットを取り、外へ出るのはエドモンド。
炎がバチバチ燃える音や焦げ臭さが充満する。
「ごめんよ。別に、本心こうするつもりはなかったんだよ。けど敵は全て消さなくちゃいけないってお父様から教わっていてね。それが体に染み付いてしまっていたんだ。許してくれ日本軍よ」
炎を上げ、燃え続ける信之と他2人が搭乗していた戦闘機を見つめながらそう言うと、森へ飛び込んだ。






















ガシャン!

森の中にある日本軍戦闘機の扉を足で蹴って壊すと、それが派手に外れる。エンジンはかかっておらず、機内は真っ暗。
「はぁ"…はぁ"…」
後部座席から聞こえてくる人間の荒い息遣い。ルーベラだ。真っ暗なこの機内には、気を失った彼女1人が居た。
狭い機内なので身を屈めながら彼女を抱き抱えると、エドモンドは急いで自分の戦闘機へ運ぶ。


ガー、ガガッ、

エドモンドは無線で通信を繋げる。
「お姫様はしっかり救出したよ、ルネ君」
「ありがとうございましたエドモンド将軍」
エドモンドはルーベラを乗せ、大きな音をたててカイドマルドへと飛び立って行った。

























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