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症候群-追放王子ト亡国王女-
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そんな事を考えていた時フランソワの目の前に、敵兵がかぶっていたヘルメットがゴトン、と音をたてて頭上から降ってきた。


ゴトン、

「…!」
それに気を取られていたら、いつの間にか背に受けていた敵兵の重みが消えていた。


バッ!

すぐ様立ち上がったフランソワは武器が手元に無いなりに攻撃をしようと、敵兵の方を振り向き腕を振り上げるが、それを下ろす前に腕が頭上で止まってしまった。つり上がったったその目が大きく見開かれる。
一方、ヘルメットを外した敵兵の赤い瞳は楽しそうにこちらを見ている。
敵兵の顔を見たフランソワの震える唇が、ゆっくり動く。
「王…子…?」


ドンッ!!

「ぐあぁ!!」
今まで相手をしてきた目の前のカイドマルド兵ヴィヴィアンの事をフランソワがそう呼んだ直後、近くの大木に背を打ち付けられ、胸倉を締め上げられた。
抵抗しても相手の力が強くて思うようにならない。気ばかりが先へ先へと焦る。





















一方ヴィヴィアンは口が裂けそうな程…だけど優しい目をして笑んでくる。それが逆に、どんなに怒り狂った人間より恐ろしかった。
「久しぶりだねーフランソワぁ?お前はまだそう呼んでくれるんだね、僕の事を」
ここで返事をする意味も無いけれど、何かを言ってやりたくてたまらない…そんなフランソワの姿を見て鼻で笑うヴィヴィアン。
「はっ!そういえばさ、フランソワ。昔から言おう言おう思っていたんだけどね、お前はいつもマリーを見ていたよね。気付いてたんだよ、それがどういう意味かって事も。ずーっと言いたかったんだ。馬鹿だねお前は、ってさ!」
「ぐっ…!」
高笑いをされてもフランソワは何も言えない。唇を噛み締めるだけ。
「お前の機体にエンジンがかからなくなったのは僕が意図的に攻撃をしたんだよ。だって、ルネの戦闘機の事なら細部まで知っているんだ。僕はルネの王子様だったから。お前の機体だってすぐ分かったから追ってきたんだよ。階級ある兵士は自分専用の機体を持てるもんね。まだ中尉のまま?」
「ぐっ…私はっ…」
「ん?無理して余計な事をごちゃごちゃ言わなくて良いよ。これから僕が聞く質問にだけ答えてくれないかな?」
「ぐあぁあ!!」
胸倉を締め上げる力が増す。






















「フランソワさん!?フランソワさん!?」
こちらの声が届かないマリーの心配する声が携帯電話から永遠と聞こえる。フランソワを呼ぶその声が。
目の前の赤い瞳に映るその不様な自分フランソワ・レイニ・アシュリアントの姿に、どうしようもない気持ちでいっぱいになる。
「あの城に今、ヴィクトリアンは居る?」
「……」
「答えろっつったよね、僕」
ヴィヴィアンの瞳に。声に。怒りが増している事が一目で分かる。けれど絶対に返事をしない。
彼がヴィクトリアンの名を口にしたという事イコール彼は、ヴィクトリアンを狙って此処へやって来ているという事だから、何が何でも言わない。ヴィクトリアンが日本へ訪れている事は、全世界に放送されていたなんてとっくに忘れてしまっているフランソワ。
「まあ良いや。分かり切った事を場の雰囲気に合わせて聞いてみた僕が悪い。次に聞くよ、フランソワ?19代目ルネ王国国王ダビド・デオール・ルネを殺害した最低な人間はだーれ?」
「ヴィヴィアン王子、貴方でしょう!!」
「…この質問にだけは間髪空けずに答えるんだね」
突然光を無くしたヴィヴィアンの瞳は恐ろしい。今までこんな彼の瞳を見た事は無かった。





















苦しい首元だがフランソワは身体中から力を広い集め、口を大きく開いて叫ぶ。
「私がどれだけ貴方様に憧れていたのか御存知のはずです…!!王子っ!!何故!何故私達を裏切るような事をなさったのですか!どうしてカイドマルドの軍人になっておられるのですか!!答えて下さい!」
「僕は、さっきお前が言ったように命令を下すだけで人の指示を聞かない人間だからお前からの命令なんて聞きたくない。だから答えない。…何にも分かってくれないんだね、フランソワも…」


カタン…、

音がした方に2人同時にゆっくり目を向けると其処には機内から出てきたルーベラが居て、彼女が投げた1丁の拳銃が足元に転がった。
それを見たヴィヴィアンの瞳とフランソワの瞳では光った意味が全く違っていた。鼓動が速くなるフランソワ。






















一方のヴィヴィアンは、空いた片方の手で拳銃を手にしようと身を屈める。その時フランソワの目は鋭く光り、ヴィヴィアンの手を振り払った。迂闊だった。驚き、目を見開いたヴィヴィアンの事を思い切り殴る。


ドガッ!

「くっ…!」
よろめいた彼の手から離れそうになった拳銃に右手を差し伸ばして、左手は、とある1人の部下だけに無線を繋げた。
「ヴィクトリアン様とマリー様を必ず救出しろ、ジャック!!」
この怒鳴り声だけは、マリーにも届いた。
あと少しでヴィヴィアンの拳銃に触れそうになったが、部下に指令を出したが為にヴィヴィアンに大きな隙を見せてしまった。…いや、見せる事になるという事くらい分かっていた。それでも自分の仕事を部下に託したくて、彼等を救いたくて、これから生じるであろう全てを覚悟した上で指令を下したのだ。
フランソワの黄色の瞳に映ったのは、以前自分の上司だったまだ少年の彼が銃口をこちらに向けて容赦無く発砲した姿。
「フランソワ。お話の中じゃあ死ぬ時の描写って無駄に長いけど、実際はほんの一瞬なんだよ」


パァン!

この台詞全てがフランソワの耳に届かぬ内に、彼は息を引き取った。

























ドサ、

倒れる音と今の銃声全てが電話の向こうのマリーに届いている。ヴィクトリアンの携帯電話を持つ手だけでなく、全身が震えだす。
慌ただしくてヴィクトリアンも兵士も傍に居ないこの1人の空間が逆に恐ろしくて両手で携帯電話を強く握り締める。震える小さな口を開いて、精一杯の力を込めた声を発する。
「フランソワさん…?」
電話から聞こえてきた声。声のしたフランソワの携帯電話にゆっくり視線を落としていくヴィヴィアンの顔や軍服には、生々しい返り血がべっとり付着している。
「早く終わらせなさいよ」
背後で腕組みをしているルーベラが眉間に皺を寄せて、イラ立った声で言ってきた。
それには一切反応せず左手で携帯電話を拾い、そっ…、と耳にあてるヴィヴィアン。途端にヴィヴィアンの今までの悪魔の様な表情は別人の様に優しい表情に切り替わった。まるで機械のよう。
「フランソワさ、」
「マリー?」
「え…」
何度も聞いた事のある愛しいその声に驚いて、携帯電話を落としてしまいそうになったマリー。そして、おかしな気分になる。




















マリーは次の言葉が浮かばなくて、頭の中は真っ白。電話の向こうから聞こえてきたのはクス、と微笑した彼の声。優しいはずなのに、何故か身震いしてしまった。
「良かった、マリー元気なんだね。マリーも日本に居るの?此処に居るの?」
「ヴィ、ヴィヴィ様?」
「うん。そうだよ」
「御無事だったのですか…?」
「心配してくれてたの?ありがとう。すごく嬉しいよ。ねぇ、マリーも此処に居る?」
「日本に…居りますわ…」
「本当?調度兄上にも用事があるんだ。じゃあ、今から迎えに行、」
「ヴィヴィ様、フランソワさんは…?」


しん…

そこで、沈黙が起こった。その時間がまた、話が終わるのを待っているルーベラを腹立たせる要因なる。彼女の眉間にまた皺が増えた。




















「フランソワは僕が父上を殺したって言うから。信じてくれないから、殺したんだ」
「…!!ヴィヴィ様は戦争が嫌いだ、って…争いが嫌いだ、って仰っておりましたのに…どうしてっ…!?」
震えるマリーの声にも表情一つ変えず笑んだまま。静かに口を開き、答える。
「ごめんね。マリーが知っていたのは本当の僕じゃないんだ。平和主義者なマリーが恐がるだろうからずっと嘘を吐いてきたんだ、マリーの為に。でもマリーなら本当の僕を理解してくれるよね。戦争が好きで争う事が好きな僕を。だってこの世界でマリーだけなんだ。僕を理解してくれてそして、父上を殺した犯人じゃないって解ってくれるのは、」
「嫌っ!人殺し!!フランソワさんはヴィヴィ様の大切な部下だって仰っていたのに!何故ですか!何故、人間が人間を殺し合う戦争が好きだなんて言えるのですか!!」
「マリー?」
「…わたくし、見ておりませんの…。ルヴィシアン様が前国王様を殺害した場面を…」
「ねぇ、マリー…」
「ヴィヴィ様、わたくしの知らない本当のヴィヴィ様。本当は貴方ではないのですか?戦争が人殺しが大好きな貴方ではないのですか?先代ルネ国王様を殺害した犯人はヴィヴィ様ではないのですか?」
ヴィヴィアンの中の何かたくさんのモノが崩れて、消えて、無くなった。けれど彼の表情は一つも変わらなかった。























「早くして」
近付いてきたルーベラに煽られたから、この奇妙な笑みを浮かべた状態のまま彼女に顔を向けて黙って頷く。
携帯電話を耳から離す際、ゆっくり静かに口を開いて満面の笑みを浮かべながら通話を切る前に最後の言葉を言った。
「そんな下らない質問、僕に答えさせようとしないでね」


ブツッ!

通話を乱暴に切る。


ガシャン!

携帯電話を地面に強く叩きつけ、上から踏み付けた。
其処に横たわり、辺りの雪を真っ赤に染めていく血が乾燥してきたフランソワを見て、始末はするのかどうか問いただしてきたルーベラ。彼女の顔を見て顎に手をあてて少し考えた後、ヴィヴィアンは気味が悪い程微笑んで、静かに首を横に振った。
























ガタン!

彼女が機体の座席に着いたのを確認してから、起動させる。
「大きなロスをしてしまったわ。私情を持ち込まないで。これは貴方だけの戦争じゃないの」
「申し訳ありませんでした。でも御時間を下さり…ありがとうございました」
「早く走らせなさい!」


ドンッ!

また、背もたれを強く蹴られた。
…少し、ほんの少しのその一筋の暖かな光を信じて地獄の中を生きてきた人間がその光に見捨てられた時。信じて生きてきた時間の何百倍もの絶望が襲い、やがて、飲み込む。







































都城――――


ドンッ!!ドン!

外からの爆発音が遠かったというのに、今ではこんなにも近くに聞こえる。


カタン…、

通話の切れた携帯電話を、音をたてて畳の上に落としてしまったマリーの全身は恐怖に震える。止まる事が無い。顔色は真っ青だ。これはフランソワの死と、最愛の人の真の姿を受け止めてしまった証拠。


タン、タン、タン、

こちらへ近付き、階段を駆けてくる大きな足音にも気付かないマリー。
「マリーちゃーん。出航の準備ができたよー!」
陽気に扉を開けたヴィクトリアンにも気付くはずがない。窓の外にばかり体を向けて、ぶるぶる震えるマリーの足元に落ちている自分の携帯電話を、赤色の瞳が捉える。
「マリーちゃん?」
近付き、そっ…、と彼女を自分の方に抱き寄せながら、畳の上に落ちた携帯電話を拾い上げようとした時。マリーは涙で崩れた顔をゆっくりこちらに向けて、笑んだ。それが辛過ぎる。
「ヴィクトリアン様、わたくし間違っていたみたいですわ…」
「え?」
「ヴィヴィ様こそが…国王様を殺害した…犯人…」
「マリーちゃんしっかりして。大丈夫。そんな事無いよ。それに駄目だよマリーちゃんまでそんな事を言っちゃ。ヴィヴィアンが悲しむでしょ。ねっ?」
「…っ、」
言葉を詰まらせたマリーの体は無意識の内に倒れてきた。
「ど、どうしたのさマリーちゃん!?」
しっかり支えた時に伝わってきた彼女の体の震え。大き過ぎて、これから一生止まる事が無いのではないか?なんて錯覚までさせる。涙はボロボロ流れているというのに、彼女は泣き声一つ出さない。目は開き切っていて何かに怯えている。
優しく頭を撫でながら窓の外に見える黒煙の上がる城下町を見つめるヴィクトリアン。
「だって…ですの」
「ん?」
「だって、ヴィヴィ様がこの携帯電話に出ましたの」
「…何で?」
彼ヴィヴィアンの番号は入ってはいるが、彼の携帯電話は城に置かれたままその後、捨てられた。マリーの言葉にヴィクトリアンの頭の中は混乱してぐるぐる回る。
「うーん。よく分かんないけどマリーちゃん落ち着いて。もうすぐ僕の自慢の側近フランソワが迎えに来てくれるからさ!」
「来れませんわ…」
「何で?」
「だって…さっき、ヴィヴィ様が仰っておりましたの…。フランソワさんを殺した、って」
返事ができなかった。




















彼女らしくない、悲しみと怒りが強くぶつかり合った泣き声で言われたこの言葉は辛過ぎてどうしようもない。彼女の泣き声も手伝って、余計辛い。


ガシャッ…

拾い上げた携帯電話が壊れる音がしても、ヴィクトリアンはそれに力を込めて握り締め続ける。いつも優しく輝いていた彼の赤色の瞳は、珍しく開き切っている。
眉間に皺が寄り始めると、この衝撃的な出来事に負けてしまいそうになっていた瞳に怒りが込められていく。元からつり上がったその目は更につり上がった。
「何やってんだよフランソワァァア…!!」
それは決して、自分達を迎えに来れなくなった側近への怒りではない。




























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