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症候群-追放王子ト亡国王女-
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大広間―――――

朝食時に姿を現さなかった慶司を不思議に思った貴族達は心配をする。
しかし、妾の方に心が傾いている国王は心配するどころか、冷たく、彼に対する愚痴まで洩らしていた。本妻は形見の狭い思いの中、箸を持っただけで食事には一切手を付けず部屋へ戻ってしまった。
朝から雰囲気の悪いこの一室は、人間らしさが渦巻き過ぎていて吐き気さえした。






































本妻の部屋―――――

障子戸の前で足を止めた咲唖は一度躊躇ってしまうが、息を呑んで顔を上げると戸を叩いた。


カタン…、

「お母様」
「咲唖…」
着物の袖で涙を拭っている本妻がゆっくりこちらに顔を向ける。


ピシャン…、

しっかり両手で戸を閉めた咲唖は本妻の前に正座をすると、涙でぐしゃぐしゃな彼女を見つめる。優しくて暖かい咲唖の笑顔には、母親でさえ頼りたくなってしまう。
涙を拭うので忙しい母の手を咲唖がとってやれば、母は驚いて目を丸めた。そんな実の母親に優しく微笑み掛ける咲唖。
「お母様、お外をご覧下さい」
「え…?」
後ろを向くと、窓越しに見えたのは真っ白に染まり手入れの施された庭。
キラキラ輝く雪の上にまた新しい雪が積もり、高さを増していく。早くも無く遅くも無く雪は静かに降り積もっていく。
「滅多に降らないこの土地に雪が降りましたよ。今年も後少しで終わってしまいますが、何だか良い事が起こりそうですね」
「咲唖…」
「そうですよね、お母様?」
顔を覗き込んできた優しい咲唖の笑顔が、頭から離れなかった。
































一方。
部屋で、咲唖から貰った鞠で遊ぶジャンヌとアンネは楽しそうに笑い合っている。巧くコントロールできなかったアンネが鞠を廊下へ飛ばしてしまったから、ジャンヌが立ち上がってそれを取りに行く為、廊下の方を向く。
「あ…。おはようございます…」
「……」
ピンクのドレスを着たマリーが其処に立っていた。 体を小刻みに震わせながら声まで震わせるマリーは、ひたすら謝る。上辺なんかではなく心の底から。
「申し訳ございませんでした。彼ヴィヴィアン・デオール・ルネがベルディネ王国に犯した罪をわたくしからも謝罪致します。そして一生背負ってゆきます。許していただきたいとかそういう事ではなくて…。謝ったからといってお国が帰ってくるわけでもないのですけれど、あのっ…」
マリーの涙が畳を濡らしたのが視界に入るとジャンヌはふっ、と微笑み、その場に屈んだ。そっ…、と肩に手を乗せてやる。
「貴女は何もしていないでしょ」
初めて返ってきた返事に、咄嗟に顔を上げたマリーの目からは涙がぼろぼろ溢れているし、せっかくの可愛い顔はぐしゃぐしゃだ。彼女がいかに真剣か、痛い程伝わる。





















「でも、でもっ…」
その時だった。


グラッ…!

「きゃあ!?」
「な、何!?」
自ら動いてもいないのに体が横に大きく揺れだした。まるで、船に乗船しているかのような気持ち悪くなる揺れ。地震だ。


ガタガタガタガタ!

室内にある物が音をたてて揺れ出す。
ジャンヌは咄嗟に立ち上がり、アンネの上に覆いかぶさる。唖然としていて何が起きたのか状況を判断できていないマリーの姿が視界に入ると、アンネを抱き抱えながら彼女の腕を掴み力強く引っ張る。
「ついて来て!」
まだ続く酷い揺れの中ジャンヌは必死に階段を駆け降りて行く。この姿があの日、母国を燃やされて森の中を逃げていた自分と重なる。



























建物の中は物が落ちてくる危険性があるから、少しでも頭上が安全な外へと出たジャンヌ。
まだ揺れは続いている。「きゃああ!」
「大地震だ!!」
城からは悲鳴が聞こえて、大木が根ごと抜けてしまうのではないかと思う程、左右に大きくゆっくり揺れる。





































地震が起きる
数10分前――――

慶司が持っていた毒草の粉を城の裏の土の中に埋める咲唖。深く、深く下に埋める。もう誰もこの粉を手にしないようにという強い思いを込めながら。


タン、タン…

城内へ戻り、自分達の離宮へ向かいながら寒くて赤くなった両手に自分の息を吹き掛ける。
「こんにちは、咲唖さん」
背後からした声の方を振り向くと、其処には梅の姿があった。胸が酷く痛んだ。
2人が話をしていたその数10分後、地震が起きた。


グラッ…!

「きゃあ!?」
あまりの大きな揺れに動揺してパニック状態に陥ったのは梅。頭上から降ってきた花瓶が咲唖の視界に飛び込むと、咲唖の瞳はギラリと光る。咄嗟に梅の腕を掴み、彼女ごと強く自分の方へ引き寄せた。



ガシャン!

花瓶の割れた音がして、そちらへ目を向ける梅。咲唖が腕を引いてくれていなければ、今頃梅の頭に花瓶が直撃していたところだった。























震えながらゆっくり顔を向けてくる梅。彼女は本当に動揺していて、顔は真っ青。
「私、生きてる…?生きてる?」
ここは励ましてあげなければ、そう思い、咲唖は微笑み掛ける。
「大丈夫ですよ、梅ちゃんは生きています。ね?」
「咲唖さん、貴女…」
長かった揺れがおさまってからが悲劇の始まりだった。


ウーウー!

城下町からは消防車のサイレンが止まない。遠くの空は真っ赤に染まっているから、何処かで大火事が起きたのだろう。
幸い軽傷者だけで済んだ城内。しかし、地震の恐怖で本妻の病状は突然悪化してしまった。すぐに病室へ送り込まれた母親の姿を一目見たが、酷く苦しんでいて顔は真っ青だった。
それなのに、国王は本妻の元へ来てはくれなかった。国王は国の事を第一に優先しなければいけないから家族が犠牲となる事くらい、自分が王族であると認識した時から分かってはいた。けれど…。

















梅の部屋―――


カタン…、

梅の部屋へ移った咲唖は、彼女の手を強く握る。
揺れに酔ってしまった彼女は布団の上で横たわり、視点の定まらない瞳で天井を見つめていた。
「咲唖…さん…」
途切れ途切れの声に呼ばれて、咲唖は黙って振り向く。それでも梅はこちらを見ずに、天井だけを見つめていた。どうやら、視点を移すだけでも一苦労の様だ。
「大丈夫です。辛いのでしたら無理に喋らなくて良いですよ」
優しくそう言ってあげたら、彼女は弱々しい笑みを浮かべて頷いた。その笑みが見れて、咲唖の顔にも笑みが浮かぶ。


ウーウー!

まだ鳴り止まないサイレン。あれから余震はきていないが、一度の揺れが大きすぎた為、都周辺の県での被害は大きい。
咲唖は懐から白い紙に包まれた1枚の白い紙を取り出すと、畳の上にそっ…と置く。それと咲唖の顔を不思議そうに目を丸めて何度も見る梅。咲唖は紙に手を添えながら、その真剣な眼差しを梅に向けた。
「梅ちゃんにお願いがあります…」

























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あきゅろす。
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