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症候群-追放王子ト亡国王女-
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「あっれー?あんなだったっけお城」
「はあ…。私の記憶では何も変わりはありませんが」
「ふうーん。なーんかさ。もっとメルヘンだった気がするんだけど?違ったかなぁ」
「王子…夢に出てきた城と混合してしまっているのでは?」
「そうかなー?」
ルネ領海、海上。
白いレースの付いた紅色の帽子をかぶった黒髪で童顔の青年は船に身を乗り出して、遠くに見えるロココ調のルネ城を見ている。かと思えば、頭上を飛んでいく何10羽もの鳥の大群に目を向ける。かと思えば、今度は青く美しい海を見ている。
身を乗り出し過ぎてかぶっていた帽子が海へ落ちてしまいそうになるが、慌てて押さえる。
「ふう!」
安心して一息吐いた時、背後からの気配を感じて咄嗟に振り向く。其処には、険しい顔付きの中年の男性軍人が立っていた。睨み付けているかの様な彼の鋭い眼差しにはもう慣れたし、彼が今何と言いたいのかも察する事ができる。
帽子の青年は軍人の方に体を向けると船に背を預けて腕を頭の後ろで組み、やる気が無さそうな顔をする。
「はいはーい。分かってるよ。もう子供じゃないんだから馬鹿な事はしーまーせーん!」
「分かっていらっしゃるのでしたらそれなりの態度を示して下さい」
厳しい口調で言うと背を向けてこの場を去っていく軍人の背に、べっ!と舌を出した。






























同時刻、
ルネ軍本部―――

「何でしょう、あの大きな船」
「どれだ」
双眼鏡で海の方向を見ている部下から双眼鏡を借りて見るのはフランソワ。
少し探しただけで見付けられた程ド派手な客船が1隻。貴族や何処かの国からの来訪など何も聞いていない軍人達にとって、驚くべき出来事。
不審でド派手な船をもう一度目を凝らしてよく見た後すぐに双眼鏡を部下に手渡し、紺色のマントを翻して城内へ入って行くフランソワ。
追い掛けてくる部下には背を向けたまま、赤の絨毯が敷かれている広い廊下を足早に歩いて行く。
「傭兵達を召集させろ。あの不審船を絶対に入港させるな!」
「はっ!」
正装していた服から軍服へすぐ着替えると、3隻の迎撃船を港に準備して備える。




















調度中央に位置する船に乗船しているフランソワは、無線を使用して他2隻に通信をとったりと忙しない。迎撃の準備をする軍人達。
フランソワは1人で双眼鏡を使用し、だんだんと近付いて来る不審船を見ていたら…双眼鏡が突然手元から消えた。咄嗟に横を向くと、フランソワの双眼鏡を使用して不審船を見ている傭兵ジャックの姿。
「うっわー何あの船。派手過ぎじゃねぇ?しかも趣味悪いし」
「ジャック!位置に戻れ!」
「あの外装、色はやっぱ強そうな黒の方が良いよなー」
「指示に従え!」


カチャ、

フランソワの怒鳴り声と共にフランソワが拳銃を構えた音。ジャックが横を向くと、フランソワが構えた拳銃の銃口はジャックに向いていた。
けれどジャックは怯えるどころか、鼻で笑って腰に両手をあてる。
「中尉。そーんな事したって撃たねぇでしょ?つーか撃てねぇでしょ!ビビらないって!だって撃たねぇって知ってる、」


パァン!

船の壁に銃弾がめり込み、其処から灰色の煙が上へ上へと昇っていく。
あのフランソワが威嚇射撃をしたのだ。これにはさすがに驚いたジャックの目は点。
少しだけ呼吸を荒くさせ拳銃を懐に片付けると、ジャックを睨み付ける。
「俺に甘いと言っていられたのも昨日までだ」
「はっ!」
鼻で笑い脇を通り過ぎる時にフランソワに双眼鏡を投げ渡すと、つまらなそうにわざとらしい大きな溜め息を吐き、腕を頭の後ろで組みながら指示された位置へと渋々戻っていった。

















態度が悪いのが気掛かりではあるが、思い切ってみたお陰で指示に従ってくれた。心の中で自分で自分を褒めるフランソワ。


ガー、ガガッ、

無線からノイズがして通信が繋がり、咄嗟に手に取る。
「おいフランソワ。さっきの銃声何だよ?」
「あ、その…不審船とは無関係だから」
「驚かせるなよ」


ブツッ!

一方的に切られてしまった。声からしても、相手のロイド中尉は怒っている様子。
自分が悪かった事は分かってはいるが、言葉では聞かないジャックにはこうして拳銃で脅すしか手段が無かった。自分の未熟さに胸が痛い。


ドン!ドン!

両脇の船から大砲の音がして我に返り、自分の船に乗船している傭兵達に迎撃の司令を出す。
「ちょっと待ったあ!!」
相手の派手な不審船から拡声器を通して聞こえてきた青年の甲高い声。けれども、軍人達は各船の司令官である中尉の指示に従って迎撃をやめない。
その様子に深い溜め息を吐くと、不審船に乗船している帽子の青年は拡声器に口を近付けて大きく息を吸った。
「僕はルネ王国第二王子ヴィクトリアン・ルイス・ルネなんですけどー!!」
「ヴィクトリアン王子!?」
中尉達が傭兵達が一斉に声を合わせて叫んだ名前。各船では、司令官中尉達が慌てて迎撃を直ちに止めるよう指示し、それに従う傭兵達。フランソワの船内では、ジャック1人だけがこの状況を鼻で笑った。
「やっぱり甘いな。早とちり野郎が」































大きくド派手な装飾が施された船が港に停まっている。いつのまにか港には、ヴィクトリアンの船を見る人々でいっぱいになった。
「あれが第二王子の船ですか」
「とっても素敵!」
「そうかなぁ?派手過ぎやしないかな?」




































同時刻、
ルネ城内――――

国王の部屋へと続く廊下を付き添いの軍人5人と共に歩く帽子の青年ヴィクトリアン。
城内に初めて訪れた人間のように、珍しそうに辺りを見回している。興味がある物があれば本来の目的から脱線してそちらに目が向いてしまうから、ルヴィシアンが居る部屋へ行くだけで何10分もロスをしている。
そんな彼の自由奔放さに軍人達はもう慣れっこの様で、注意もせずただ呆れて彼の後ろをついていくのだった。
「わー!すっごいこの壁!2年前と絵が替わってるよねー!」
「王子…そろそろ寄り道を止めていただけませんでしょうか」
「あっごめんごめん!そうだった!忘れてたよ」
ははは、と反省の色無しに笑うと腕を大きく振って楽しそうに歩いて行く。その姿はまるで、遠足を楽しむ小学生。


コンコン、コンコン、

部屋の前に立ち、大きく美しい扉にも目をキラキラ輝かせ、何度も何度もリズミカルにノックをする。
「誰だ?無礼な。ノック一つまともにできないのか。すぐに追い出せ」
「はっ」
一方。室内では、機嫌が悪そうに眉間に皺を寄せて足を組み椅子に腰を掛けているルヴィシアン。
側近のアマドールとがすぐに扉の方へ歩いて行く。


キィッ…、

扉が開かれ、ルヴィシアンの側近アマドールを目の当たりにしたヴィクトリアン。ただでさえ強面だというのに大柄なので余計恐いアマドールがヴィクトリアンを見下ろす目は鋭く恐ろしい。
「うっわー恐っ!」
そうは言うが、全く怯えもせずニコニコとアマドールをまじまじと見てくる彼の身分に、アマドールが一早く気付いた。
「ヴィ、ヴィクトリアン王子…!?」
「何!?」
アマドールのその声を聞いたルヴィシアンはすぐに立ち上がる。






















アマドールを押し退けて室内へ小走りで入って行ったヴィクトリアンはルヴィシアンの姿を見付けると、目をキラキラ輝かせ、幼い子供の様に無邪気な笑みを浮かべて駆け寄る。
「お兄様お久しぶりです!死んだと思われていたか存在すら忘れられていたヴィクトリアンです!」
「お、おおヴィクトリアン。生きていて何よりだよ」
顔を引きつらせ目を丸めて驚きを隠せないルヴィシアンに頬を膨らますヴィクトリアンだが、すぐ笑顔に戻った。
互いに握手を交わすとヴィクトリアンは帽子を取り、丁寧に一礼する。何だかんだいって高貴な雰囲気が漂う挨拶だ。
顔を上げると、成人男性とは思えない無邪気な笑顔を向ける。そんな彼にルヴィシアンは未だ苦笑いだが、椅子に腰を掛ける様に勧めた後で自分も腰を掛ける。
――長らく帰国しないからてっきり死んだとばかり思っていたが…。まあヴィクトリアンは能天気で邪魔な存在では無いし、使い方次第では使える駒だろう――





















「どうだった。2年もの大航海の旅は」
「はーい!それはとてもとても楽しかったですよ!お兄様も御一緒して下されば良かったのに!」
「はは。いやぁ、私は航海より舞踏会の方が好ましいな」
「あー分かった!さてはお兄様、船酔いしちゃう人ですね!?」
異常なまでに高いテンションの彼には、さすがのルヴィシアンも疲れてしまって苦笑いばかりだ。
ルネ王国第二王子『ヴィクトリアン・ルイス・ルネ』20歳。
彼は前国王の本妻デイジーの子供では無く、妾の子供だ。彼の母は彼が16歳の時に既に他界。死因は何とも哀れだ。

『お母様ってば、お酒大好きで。簡単に申しますと恐らく原因はアル中です』

彼から笑いながら死因を聞かされた時は、ルヴィシアンは苦笑いを浮かべたそうな。この楽天的で明るく自由奔放な性格は、かつて妾だった母譲りなのだろう。





















母が他界した後、公務を一切行わず自由奔放且つ派手に過ごしていたヴィクトリアンは、国王に呆れられてしまう。そこで国王は彼が大好きな航海を利用し、大航海の旅に出るよう勧めた。口には出さ無かった国王だが、正直ヴィクトリアンには呆れ返っていて存在が邪魔になっていた様子。
国王から大きな船と大金を貰い、そして護衛の軍人を何10人も連れ、2年もの大航海の旅に出ていた為、国には居なかったのだ。
航海での思い出を機関銃の様にベラベラ話し続けるヴィクトリアン。
そろそろ話を止めさせよう…そう思ったルヴィシアンが話を割ろうとしても構わず話を続けてくるので、呆れ返ったルヴィシアンは彼が飽きるまで思い出話をさせてやった。話の内容など、何一つ耳に入ってはこないけれど。


























「あれ、そういえばお兄様。ヴィヴィアンは?」
禁句とまで言って良い程の人名をヴィクトリアンが口に出した時、室内は一瞬にして凍り付いた。
ルヴィシアンやアマドールの態度の変化に気付き、不思議そうに目を丸めたり何度も瞬きをするヴィクトリアン。
アマドールが彼に近寄り、背丈に合わせて屈むと小声で話す。
「ヴィクトリアン様。前国王様殺害の御話、御存じでは無いのですか」
「えー!お父様殺されちゃったの?!だからお兄様が王様なんだ?で、誰に誰に!?」
本当に何も知らない彼を、呆れるを通り越して哀れに思うと溜め息が出る。掛ける言葉も無い。
そんな周囲を余所にヴィクトリアンが真相を知りたがるキラキラした目を向けてくるので、仕方ない…と溜め息を吐いたアマドールが話す。
「前国王様を殺害したのは我が国の元第三王子ヴィヴィアン・デオール・ルネです」
「ヴィヴィアンが!?あの子そんな子だったっけ!?何かの間違いでしょ?」
「いえ。悲しくも腹立たしくも、彼が前国王様を亡き者としたのです」
「そう。彼は最低な人間なのだよ」
そう言いガタ、と音をたてて立ち上がってこちらを見下ろすルヴィシアンの顔が異常に恐ろしい。





















自分が留守の間に母国にこんなにも大きな異変があった事に混乱して、ルヴィシアンとアマドールを交互に見るヴィクトリアン。
だらしなく口を開いたままポカン…としている彼を微笑するルヴィシアン。白い手袋をはめた右手を彼の目の前に差出し、また微笑する。
「共にお父様の仇を討とうではないか。大切な我が弟ヴィクトリアンよ」























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