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症候群-追放王子ト亡国王女-
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「非力な小国ベルディネ王国よ、せめて最後くらいは美しくあれ」































8月2日。
ルネベル戦争指揮官の残酷な言葉と嘲笑いと共に、天界に一番近いと呼ばれる神秘的な小国ベルディネ王国は炎の海と化した。美しい自然は真っ赤な炎に包まれ、1時間と経たぬ内に跡形も無く消え去った。森の奥にあるゴシック調のベルディネ城は砲撃を食らい、あっという間に炎に包まれる。
「撃て」


ドン!ドンッ!

指揮官の指示の後の幾つもの大きな爆発音。
その様子を離れた場所から見ているルネ王国の指揮官をはじめとするルネ王国の軍人達は、兵士が使用する洋物の兜を被っていて黒を基調とする装備がしっかり施された軍服を着用している。
1人の兵士が、指揮官が乗っている停車中の戦車に近付く。
「王子。ベルディネ王族達は如何なさいますか」
「敗戦国の王族か…。一応連れ帰ろう。まだ生きていればの話だけど」
「承知致しました」
兵士は力強く敬礼をすると自分の戦車に乗り込み、他の兵士達を引き連れて燃え上がるベルディネ城へ向かっていった。
この場に残されたのはこのルネベル戦争を指揮するルネ王国王子『ヴィヴィアン・デオール・ルネ』
黒髪に赤い大きな目をして顔立ちが整い、左目の下泣き黒子が印象的な18歳の少年だ。
ヴィヴィアンは炎に包まれるベルディネ王国を見て不気味に微笑み、自分の戦略がまた成功した事を喜ぶ。しかしその喜びの笑みはすぐに消えてしまい、表情は曇ってしまった。
「兄上…」



































ベルディネ城内―――

ベルディネ城はルネ王国の攻撃を受け、炎に包まれている。
栗色の髪で、着用している赤いマントからは威厳が感じられるベルディネ王は自室の椅子に座り、頭を抱えていた。鼓動が外にまで洩れてしまいそうな程の大きな音をたてている。
窓の外に目を向けても自分の周りに目を向けても赤、赤、赤、炎の赤。
王は大きくごつごつした左手の薬指にはめているエメラルドグリーンの指輪にそっと手を触れる。
「父上貴方がやっとの思いで築き上げたベルディネ王国を私は守る事ができませんでした。貴方が望んだ真の平和な国ベルディネ王国。人間と自然と動物の共有が盛んで、戦争の無いようにと考えた我が国はいつしか天界に一番近いと呼ばれる程汚れの無い国となった。この国を創ったのは貴方だ。私はそんな貴方の素晴らしい思いも努力も今一瞬にして、」
「父上!!」
勢い良く且つ乱暴に開かれた部屋の扉。王は顔を上げる事さえもままならなく、ゆっくりゆっくりやっとの思いで顔を上げる。その目は輝きが無く真っ黒で死人の目の様。しかし死人の様なその目は、部屋へ入ってきた1人の少女をしっかりと捉えている。
「ジャンヌ…」
その目に映ったのはベルディネ王国王女『ジャンヌ・ベルディネ・ロビンソン』の姿。18歳。
王と同じ栗の髪でパーマがかった長くボリュームのある髪をして、水色の瞳は生まれ付き少しつり上がっている。



















白の天使の様な美しいドレスを引き摺りながら、性格を表すかのような大股で乱暴な王女らしかぬ歩き方で王に近付いていくジャンヌ。その目は王とは正反対の力強い闘志に燃えている目だ。
「父上、何故何もしないのですか。良いのですかこのまま自分の国が滅ぼされていくのを見ているだけで。貴方は本当にこれで良いのですか!」
声を裏返してまで怒鳴っても、王の目が生き返る事はない。
「ジャンヌ、分かるだろう。我が国の軍隊はほぼ壊滅状態…。そしてこの城も真っ赤に…」
「父上!私はこの国が大好きです、国民が大好きです。最後くらい何か少しでもルネに抵抗をするべきです!そうでないとベルディネ王国は非力な国として歴史に残ってしまうのです!」
「歴史上にも残らないさ…」
「父上…!」
ジャンヌは両拳を強く握り締めた。王の死んだ心に怒りは増す一方。王は俯き、何も話してこないし最早話す気力も無い。





















その時ジャンヌの目に入ったのは、王の左手の薬指にはめられたエメラルドグリーンの指輪。
それにそっ…と触れ、王の顔を覗き込み、今度は口調を和らげる。
「父上…これは母上との指輪なのですね」
「…そうだよ」
「私に授けてもらえませんか」
「大切にするんだよ…」
「勿論です」
静かに指から外し、大きくてすぐ外れてしまいそうな指輪を指の中で最も太い親指にはめる。それでも指から外れてしまいそうだ。
俯いたままの王の右手の甲にキスをすると静かに立ち上がり、一方後ろへ下がる。
「ベルディネ王国王女ジャンヌ・ベルディネ・ロビンソン。必ずベルディネ王国を再建して見せます」
その時、天井から調度王とジャンヌの間に大きなシャンデリアが大きな音をたてて落下した。


ガシャン!!

それを合図にするかのようにジャンヌは一礼すると、走って部屋を飛び出して行った。
炎が燃え盛る音と外からの爆発音だけがする室内に1人残された王は、懐から一丁の小さな拳銃を取り出す。俯いたまま銃口を自分の額にあてて、震える両手で引き金を引いた。


パァン!
































一方。
炎に包まれていく城内は道が無くなっていく。城が城でいられるのも時間の問題だろう。
ジャンヌは自分の部屋に飛び込み、扉を開きっぱなしにする。重いドレスをナイフで裂くように乱暴に脱ぎ捨てると、動きやすい薄い白のワンピースを着てその上に紺色の分厚いコートを着て付いているフードをかぶる。
そして机の引き出しの奥を乱暴に探り奥から一丁の拳銃を取り出すと、すぐにコートのポケットの中に入れた。同時に、パリン!と部屋の窓ガラスが熱で割れる音がした。口を強く結んで部屋を飛び出して行くのだった。

























城内を走っていると、階段の下でルネ王国とベルディネ王国の兵士の姿が目に入った。この階段を降りなければ城の外へ出る事ができない。
降りるに降りれなく立ち止まっていると、ベルディネ王国兵士と交戦中のルネ王国兵士がジャンヌの姿を見付ける。兵士は口が裂けそうな程不気味に笑うと、遠くからではあるが銃口を向けてきた。それに気付いたベルディネ王国兵士は咄嗟に後ろを振り向き、階段の上で立ち止まっているジャンヌの姿を確認する。
「うわああああ!」
狂ったように叫び、ルネ王国兵士に向かって何発も発砲をする。


パァン!パァン!

初めて見た人が殺される光景に、ジャンヌは目を見開いたまま動けずにいた。
「姫様っ!」
兵士はジャンヌの元に駆け寄ると手をとり、一緒に階段を駆け降りて行った。

























降りて1階へ着くと、やはり此処も銃撃戦が繰り広げられていた。
炎の熱で死んでしまいそうだというのに両国の兵士達はそんな事構わず、発砲を続ける。相手を亡き者にする為、自分が英雄になる為戦う兵士達の表情は悪魔の様。
ジャンヌの手を引く兵士は舌打ちをして、他の兵士達に気付かれぬよう裏口へと駆けて行く。
城の人間だけが知る裏ルートを走って行くと行き止まりに一つの大きく重たそうな黒い扉があった。
「姫様、こちらから」
今までずっと呆然としていたジャンヌは兵士の声で我に返ると、兵士の顔をしっかり見る。兵士は優しく微笑んでくれた。
すると後ろからこちらへ向かって走ってくる2人分の足音がしたのだ。
兵士は一度後ろを振り向き、こちらへ向かって来る者の姿がまだ見えない事を確認すると大きく重い扉を簡単に開き、ジャンヌを城の外へ押し出す。
「姫様、私は少しの間敵の相手をして参ります。その後必ず姫様の元へ行きます。こんな危険な中をしばらく姫様御1人にさせてしまう事お許し下さい」
丁寧に頭を下げる兵士。ジャンヌの胸が張り裂けそうな程痛む。
――分かってるくせに、どうせ自分がどうなるか分かってるくせに…!――
「さあ、早く!」
扉が閉まりそうになった時。
「ありがとう!」
咄嗟に礼の言葉を叫ぶと兵士は笑顔で力強い敬礼をした。その後すぐ扉は閉まった。




































ベルディネ城裏、外――

真っ赤な空を見上げ、ジャンヌは拳を強く握り締めて城の裏に広がる大きな森の中へ飛び込んだ。
王女らしくない普段から活発なジャンヌにとって森は苦痛ではなく、逆に庭のような存在。しかしいつもは無い炎に苦戦をしながらも、細い体でとても速い速度で森の中を駆けて行く。
目指す先は、この森を越えた所に国境がある隣国ヘラーデル国。一先ずこの国へ入国する事を考えた。この森を抜ければ目と鼻の先。親指にはめた指輪にそっ…と触れて口を強く結び、休む事無く走り続けるのだった。



























同時刻、
ルネ軍――――

ベルディネ城へ向かった兵士達とは全く別の場所から指示を出しているヴィヴィアンはルネ王国のこの戦争の勝利を確信し、早くも次の大戦への戦略を立てていた。
ずっと顔を下げていたので首が痛くなり、ふと顔を上げた時目に入ったのは、森の中を駆けて行く栗色の髪の少女。
少女の姿は一瞬にして森の奥へと溶け込んでしまったが、ヴィヴィアンは兜の面頬を下げて拳銃を手に取ると、静かに車から降りるのだった。




























ジャンヌが無我夢中で前だけを見て走っていた時。
「うわっ!」
下を見る事を怠っていた為、地面に浮き上がった大木の大きな根に足をとられ派手に転んでしまった。


ドスン!

両膝と両腕から少量の血が流れているが、すぐに立ち上がる。その時。


ガサガサ、

「!!」
草が茂る音がして、鼓動が大きく鳴った。恐る恐る顔を上げる。
「王女様。どちらまでお出掛けですか?」
目の前に現われた洋兜をかぶった兵士ヴィヴィアンの少年らしい高めの声。
ジャンヌにはこの人物がルネ王国の王子という事は全く分からない。ただ分かる事と言えば、母国を滅ぼす憎いルネ王国の兵士という事。
最低最悪の状況で腰が抜けてしまいそうになるが、口を強く結ぶ事で何とか保つ。
「何なら僕が送って差し上げましょうか…天国まで」


カチャ…、

音をたてて銃口を向けられる。ジャンヌは自分が持ってきた拳銃を取り出したくても、少しでも動いてしまえば撃たれるという考えだけが頭を支配するので何もできない。引き金に触れているヴィヴィアンの革手袋がキシキシ音をたてる。
「姫様!」
「…!」


パァン!

聞き覚えのある声がしたと思えば一発の銃声がして、放たれた銃弾はヴィヴィアンの肩を掠った。
現れたのは先程ジャンヌを外に送り出した兵士だ。先程まで正常だった兵士の洋兜の左半分は壊れていて、血が付着した傷だらけの顔が覗いている。






















「あんた…本当に…!」
「当たり前です。それより早く!」
背を強く押されたジャンヌは大きく頷き、兵士に背を向けて再び走り出した。
王女の行方を心配してそちらにばかり気も目もいっていた兵士は、ヴィヴィアンが自分に銃口を向けている事にすら気付いていなかった。不覚。
「その隙が命取りになるんだよ」
「なっ…!?」


パァン!

銃声はジャンヌの耳までしっかり届いた。恐ろしい目をして後ろを振り向くと、だいぶ走ったにも関わらず速い速度でこちらへ向かって走ってくるヴィヴィアンの姿が見える。込み上げてくる悲しみよりも怒りが勝ち、ジャンヌは躊躇う事無く拳銃を取り出し、引き金を引く。


パァン!パァン!

生まれて初めて人を撃ったジャンヌは震える手で拳銃を投げ捨て、再び走り出すのだった。































軍人でも無い王女に左胸を撃たれてしまったヴィヴィアンは、体をよろめかせる。しかし軍服の重装備な性能のお陰で銃弾が体に侵入してくる事はなかった。けれど王女を見失ってしまった。
体勢を整えた時無線が繋がる音がして、懐から取り出す。
「王子、ご無事ですか。車の中が裳抜けの殻でしたのでとても心配しました」
「大丈夫だよ」
「それは良かったです。王子、指示通りベルディネ王国の全てを焼き払いました」
「そうか、良かった。今回もまた成功だ」
「はい。只今こちらにルヴィシアン王子が御到着されました至急お戻り願います」
その名を聞いた途端ヴィヴィアン王子の顔は曇り、口篭ってしまった。





















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