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症候群-追放王子ト亡国王女-
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今から数時間前、
新生ライドル城内―――

ガラスが割れる音。爆発音。国王と王妃は兵士に連れられ、重たい豪華な服を引き摺って船着場へと向かう。ジャンヌを利用し、日本へ亡命するのだ。
向かう前、上陸したヴィヴィアンが部下達に指令を下していたら、マントで姿を隠した国王と王妃が背後からゆっくり近付いてきた。振り返り、左胸に手をあてて一礼するヴィヴィアンを申し訳なさそうに見つめる優しい瞳。
「この国は私にお任せ下さい。国王様、王妃様の御無事を御祈りしております」
「…ヴィヴィアン。こんな戦禍に大変申し訳ないのだが、頼み事を聞いてはくれないか」
「何用でございますか」
























そして現在―――

残されたヴィヴィアンは、苛立ちを隠しきれない表情。
「こんな時に我儘は大概にしてもらいたい!」
国王と王妃から頼まれた事それは、共に日本へ亡命するはずのラヴェンナの姿が忽然と消えてしまったので彼女を探し出して後からでも必ず日本へ送ってほしいとの事。勿論、無傷で。
取り敢えず全ての部屋を探して回る。勿論ラヴェンナの部屋にも居ないし、その隣の部屋にも居ない。扉を乱暴に開いたままにして歩いていた時。


タタタタ!

こちらへ向かって走って来る数人の人間の足音が聞こえた。白い円柱の陰に急いで身を隠すヴィヴィアン。
「…!」
正解だった。
やって来たのは、血の臭いをぷんぷんさせて返り血もたくさん浴びたルネ軍の兵士達。引き連れているのは、朱色の長髪のルネ軍大将マリソン。






















「マリソンか…厄介だな」
舌打ちをした後すぐに銃を構える。夜ではないから、影がくっきり出ないのが幸い。
足音がだんだん近付いてくる。鼓動は速さと大きさを増し、汗が頬を伝う。来た、そう思った時だった。


パァン!

ヴィヴィアンは撃っていない。城の入り口方向からの銃声だ。
「後ろからか!私と共に来なさい!」
「はっ!」
ライドル軍の軍人が城内まで、マリソンが率いるB隊を追ってきたのだろう。マリソンは何人かの部下を引き連れて今来た道を走って引き返していった。その為、この場にはマリソン以外の3人のルネ軍人だけが残った。
「そうなればこっちのものだね」
「誰だ!ライドル軍の人間かっ、」


パァン!

銃声と共に窓ガラスが割れた音。抵抗しようとしたルネ軍人達が、ヴィヴィアンの拳銃に撃たれて踊る様に倒れていく。
マリソンの階級だって知っているし彼女の腕も知っているからこそ、情けないが、脅威となる彼女がこの場を去った事を確認して陰から姿を現したヴィヴィアン。今撃った階級も無い軍人達なら楽勝だ。
「何だ3人しか残らなかったのか。低脳だね」
拳銃を手でくる、と1回転させてヴィヴィアンは鬼のような形相で、其処に倒れているルネの軍人達を睨み付ける。新生ライドル王国を襲ってきた事に対しての怒りではない。
「何でお前達も気付かないんだよ。僕は父上を殺すなんて事はしない…しないに決まっているだろ!誰か気付けよ!」


パァン!

恨みを込めた一発が放たれた。




























カタ…、

その時。背後から聞こえた一つの小さな物音は、外からの爆発音や発砲音で掻き消されそうだ。
けれどヴィヴィアンの耳にそれは確実に届いていた。新手の出現を予測し、拳銃を構え咄嗟に振り向く。
しかし其処に居たのはダイラーでもマリソンでもヴィルードンでも、ルネ軍人でもない。ヴィヴィアンは構えた拳銃を下ろした。
分厚いコートに身を包み、そこから時折見える細い腕。そして止まる事の無い涙をボロボロ流す、海の様な水色の瞳は輝きが無くて視点も定まっていない。其処に居たのは、ジャンヌだ。
「…ベルディネ。早く日本へ出航するんだ。船に乗り遅れたらもう君の逃げ場は無、」


カチャ…、

ジャンヌの手に構えられている拳銃の銃口は、ヴィヴィアンに向いている。先程から何一つ変わら無い。放心状態な表情のジャンヌ。
「ラヴェンナから聞いたの…。…が…、あんたが私の国も…皆も…皆を…殺した?」
「そうだよ」
「…殺した?」
「こんな時にやめてくれないかな。もう終わった話だ」
「終わった話だろうが何だろうが今話さなくていつ話せばいいのよ!このっ…人殺し!死ね!!」


パァン!























拳銃の使い方すらまともに分からないジャンヌが放った銃弾は窓ガラスを打ち破るだけ。
「こんな時まで煩い女だな!」
ジャンヌが手にしている拳銃を隙を見て足で払うと、音をたてて拳銃が床に吹き飛んだ。


ガシャン!

彼女を見ると先程の威勢は消え、今は涙だけを流す人形の様。
「いい?君はラヴェンナに言われた通りにアンネと共に日本へ出航して亡命すればいい。亡命は君の十八番だろ?」
「……」
「…はぁ」
黙って返事もできないジャンヌを見て深い溜め息を吐くと、動く気配を見せない彼女の肩に手をやり、港まで連れて行ってやる事にした。
途中敵が居るのは確実だから、自分もジャンヌも生き残る保障なんて無い事は分かっていた。その前に、こんな小国の小規模軍隊ではこの戦争で自分が生き残る事ができない事くらい薄々感じていた。変な決心が着いてしまい、自嘲する。
「…きゃ、良かった…」
「何?」
「あんたに…あんたにあんな事言わなきゃ良かった…。あんたは民間人なんかじゃない…ただの人殺しなんでしょ…」
ジャンヌが言いたい事を彼女が言う前に察したのか、ヴィヴィアンは下を向いて小声で言う。
「分かったよ、聞かなかった事にするから」





















パァン!パァン!

外からの銃声が聞こえる中、ヴィヴィアンと歩くジャンヌからは正気が感じられない。
「ほらちゃんと歩くんだよ。ちゃんと、」
「ジャンヌ王女、御迎えに参りました」
目の前に突然現れたのは着物をモチーフにした軍服を着用して、長くて黒い髪を後ろで一つに束ねた日本軍軍人『宮野純 慶吾(みやのずみ けいご)』
見た事の無い人間を前にヴィヴィアンはすぐに銃を構えたのだが、慶吾は両手を上げて優しく微笑む。交戦の意志は無いとの表現だ。
「大丈夫。僕はそちらのジャンヌ王女を御迎えに来た日本軍の宮野純慶吾です」
「宮野純…王家の人間?」
ヴィヴィアンが彼を不思議そうに見ている間にも慶吾はジャンヌを抱きかえると、背を向ける。
少し沈黙が起きた後ヴィヴィアンの方を向き、どこか切ない笑みを見せた慶吾。
「いつか…」
「何?」
「いつか貴方の無実が証明される日が来ると良いですね」
「なっ…!?」


タンッ!

階段を飛び降りるとすぐに姿を消した慶吾。降りる際、怒りと悲しみが入り乱れたジャンヌの水色の瞳がずっとこちらを見ていた。
「何だったんだあいつは…」
突然現れたかと思えば突然去っていってしまった嵐のような男・宮野純慶吾。最近の情報にも無い、日本軍であり王家の謎の少年。


ドン!

外からの爆発音で我に返ったヴィヴィアンは、ラヴェンナを探す為再び走り出した。






































「手応えの無い奴等」
「だってそうでしょう。再建したばかりの国だもの。この軍人達の中にだって恐らく軍のスペシャリストはそう多くはいないはず。もしかしたらただの民間人の寄せ集めかもしれないわね」
弾を詰めながら、先程引き返した城内へ戻って来たマリソン率いるB隊。
「マリソン大将。先程こちらから銃声が聞こえませんでしたか?」
「あら、貴方耳が良いのね。私にはさっぱり?年かしら」
「くだらない」
「え?」
"くだらない"
その一言を言った者などマリソンの部下に居るはずが無い。上司にそんな口を利けるはずが無い。けれど、彼女も部下達も確かに聞こえた男性の高い声。
慌てて首を横に大きく振り、今のが自分ではない事を必死に証明しようと否定する部下達。マリソンは眉間に皺を寄せて彼らの事を見る。
「貴方達本当―に言ってない?良いのよ?そりゃあ私も下っ端の時は上司に対しての不満はたくさんあったわ。でもまあ、今みたいにそれを口にした事は無かったけれど」
「本当に私ではありません!」
「わ、私も決して!」
私も!私も!と次々と飛び交う声。マリソンは小さな溜め息を吐き、腰に手をあてて呆れながらも笑みを向けてやる。その時。


ドサッ、

マリソンから見て向かって左端に居た軍人がかぶっていた冑が音をたてて吹き飛んだ。同時に、軍人はその場に倒れこんだ。






















沈黙の後すぐに銃を構え、弾が飛んできたと思われる方向を振り向く。同時に何発もの銃声が響き渡り、銃弾と割れた窓ガラスが宙を舞う。


パァン!パァン!

身を屈め、相手の攻撃に抵抗できないB隊。情けなくも、身を守る事で必死だ。
「はっ。情けないな。大将ともあろう貴女が何ですかこの様は」
「!?」
「先程の言葉も、僕が言ったものですよ」
聞き覚えある…時には自分と戦略を話し合っていたその声が銃声と共に辺りに響き渡った。階段の上段に立ってこちらを発砲してきているのは…。
「ヴィヴィアン王子…!いえ、貴方は国王様を殺害した大罪人…!」
「そう言っていれば良いですよマリソン大将。言っていられるのも今だけですから、言わせておいて差し上げましょう」
「何を…!」


パァン!

「ぐっ!」
銃弾がマリソンの肩に命中し、血が飛ぶ。
ヴィヴィアンの隣に立つ男性用の軍服を着用したラヴェンナは不気味に微笑む。
「ルネ王国!ライドル王国を滅ぼし小国を次々と滅ぼし植民地として、お前達は何がしたい!?自由を奪われた奴等の立場に一度立たせてやりたい!」


カラン!

抵抗しようとしたマリソンの手に握られていた拳銃はラヴェンナが放った銃弾に弾かれ、音をたてて床の上に転がった。





















「ラヴェンナなかなかやるね。さすがこの国に残ると決めただけはあるよ」
「はっ!あたしをなめるなよ!」
今武器を手にしていないマリソンをチャンスに思い、狙いを定めるラヴェンナ。勿論そんな事はさせまいと、周りのルネ軍人達だって抵抗してくる。けれどヴィヴィアンの命中率の高い発砲で大きな傷を負う者や、運悪く息を引き取った者がいる。



パァン!パァン!

「ぐああ!」
倒れていく同胞達を横目で見て歯を食い縛り、弾き飛ばされた自分の拳銃を取りに行くマリソン。
「そこがあんたの隙だ!」
片目を瞑り、ラヴェンナがマリソンの背に標準を合わせたのだが…。
「ぐあっ!!」
「ライドルの王女、敵を狙ったけれど背後は隙だらけ〜ってやつっすか?」
こんな戦火でも暢気な男の鼻歌が聞こえた。2人の背筋が凍りつく。口元を黒いマスクで覆った大きな男ヴィルードン。異名…
「デビルナイト…」
「これはこれは。お久しぶりです元王子様」
「僕を馬鹿にするな!!」
頭に血が昇ったヴィヴィアンの拳銃の銃口がヴィルードンに向けられた。しかしヴィルードンはすぐにラヴェンナの首を腕で締め付け、人質にとったのだ。これではヴィヴィアンの表情も曇ってしまった。























「はっ、人質をとる…?僕はお前にそんな汚い手を使うように教えた覚えはない!!」
「ヴィヴィアン元王子貴方は確かに、ルネ王国では優れた軍人として活躍してくれたっす。けれどその真面目な顔の裏には、国王様の座を狙い、果てには兄のルヴィシアン様の座も、」
「だからそんな言い方をするな!そんな言い方…そんな言い方まるで僕が父上を…!」



パァン!

一発の銃声がして、切実な思いが込められた王子の叫びも途絶えた。
足を撃たれたヴィヴィアンはふらついているが歯を食い縛り、力強く床を叩き上付ける事で何とか体勢を保つ。
それも束の間。すぐ後ろを振り向けば、負傷しながらも発砲してくるマリソン。マリソンを睨み付けて、すぐにこちらも発砲する。狂者の様に叫びはしないが、マリソンやルネを睨み付ける彼の瞳は狂気に満ちている。
マリソンの相手をしている間にもラヴェンナの首を締め付けるヴィルードンの腕の力は強さを増していく。
「ぐあっ…!」
彼女の悲痛な声が耳に届くと我に返って彼女の事を思い出し、ヴィルードンの相手をする。けれど後ろからはマリソンとその部下達が迫って攻撃をしてくるから、一つの事に集中できず命中率はガタ落ち。
「くっ…!」


パァン!パァン!

マリソン達の相手ばかりをしていたらヴィルードンからの攻撃を食らう。逆に、ヴィルードンの相手ばかりをしていたらマリソン達からの攻撃を食らう。
到底1人で相手にできる数ではないのだが、プライドの高いヴィヴィアンは身を磨り減らしながらも複数の敵を相手にする。やっとの事でだけれど。




















「窓ガラスばかり撃っても私達は死にませんよ?」
「そうっすね。敵は俺達人間っすよー」
「黙れ!国王に使われているだけの捨て駒が!従う事だけが全てだと思っている非力なお前らの末路は死だ!」
「あらあら。少し見ない間に口上が達者になられて」
「誰か気付けよ!!」


ドッ…、

「かはっ…!」
鈍い音がすると、辺りは嘘の様に静まり返る。
ついに全員の相手をしきれなくなったヴィヴィアンの腹部にヴィルードンの拳が入ったのだ。


ドサッ…、

今までの威勢はたちまち消え、ヴィルードンの太い腕の上に下を向いてぐったりして倒れたヴィヴィアン。
ヴィルードンは汗を一度拭い、辺りの惨状に目を向ける。
「すごい…っすね。にしても元王子、本当に居たっすね」
「そうね、マラ教も信じてみるものね。あ。ヴィル君、手荒に扱っては駄目よ?国王様に生きて帰国させろと言われたでしょう?」
「勿論覚えているっすよ。どんな処刑になる事やら」
2人は任務遂行の喜びで顔には自然と笑みが浮かんでいた。先程まで拳銃を構えていた人間とは思えない。
ヴィルードンはピクリとも動かなくなったヴィヴィアンを抱え、マリソンは、時折床の上で苦しそうに声を洩らすラヴェンナを抱える。無線で将軍へと通信を繋げた。
「ダイラー将軍。こちらマリソンとヴィルードン。ヴィヴィアン・デオール・ルネと、おまけにラヴェンナ・ルゥ・ライドルを捕らえる事に成功致しました」





























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