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症候群-追放王子ト亡国王女-
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ベッドから離れ、真っ黒に焦げたワッフルが入った皿が置いてあるテーブルの傍の椅子に腰を掛けるヴィヴィアン。
ジャンヌはアンネの髪を優しく撫で、雷が鳴るとビク!と体を震わせるが、口を結んで何とか堪えていた。弱い姿を見られるのは好ましくないからだろう。
「早く部屋に戻りなさいよ邪魔!」
「ねぇ、この皿の上に乗ってる真っ黒い物何?もしかして、作ったけれど焦げたとか」
「話を反らさないで!」
怒鳴るジャンヌはこちらを睨み付けていて、眉間には幾重もの皺が寄っていて恐い。けれどヴィヴィアンは動じもせず、焦げたワッフルを手に取り物珍しそうに見て、話を聞こうともしない。
呆れたジャンヌは聞こえるような大きい溜め息をわざと吐いた。






































深夜3時―――

雷の音も嵐も止んだ。
アンネの髪を撫でている途中、いつの間にか眠ってしまっていたジャンヌは静かな寝息をたてている。嵐が止んだようにアンネの頬の赤みも引き、呼吸もだいぶ楽そうだ。
「やっと止んだ」
カーテンの隙間から窓の外を見て嵐が止んだ事を確認すると、椅子から降りて溜め息を吐きながら髪を掻き上げ、静かに部屋を出て行ったヴィヴィアン。


パタン…、

部屋の扉が閉まる静かな音の後、ジャンヌはパッ!と目を開き、呟いた。
「ありがと…」












































翌朝――――

晩の天気とは打って変わり部屋の大きな窓ガラスからは夏の強い朝日が部屋に射し込んでいる。
結局30分足らずしか眠れなかったヴィヴィアンはすぐ起き上がり、書類を見ながら椅子に腰掛けてテレビの電源を点ける。
ヴィヴィアンの部屋にはテレビがあるが、ジャンヌ達のいる部屋には無いのには理由がある。ニュースでは必ずヴィヴィアンの事を放送している為、正体がバレてしまっては計画が崩れてしまうから。
書類に目を通し、テレビにも目を向ける。森に居る間世間の流れについていけなくなってしまっていたので、ニュースには毎日の様に目を向ける。こんな荒れた世の中は、1日テレビがない所で過ごしただけで世間の流れについていけなくなると言っても過言ではない。
「まず今日のトップニュースはとても嬉しいニュースです」
「嬉しいニュース?くだらない。それより、日本とカイドマルドの状況を早く、」
「ルネ王国ルヴィシアン国王様とユスティーヌ王国マリー様が正式に御結婚されました」


ドクン…、

手が、体が、震え出す。
テレビの電源を切りたくても体が動かないから、嫌な言葉と映像が次々と目に入ってきてはヴィヴィアンを突き落としていく。
























画面に映っているのは、キラキラ輝くダイヤが埋め込まれた結婚指輪を互いに見せ合う姿。どちらも作った笑顔に見える。
ヴィヴィアンは俯いたまま静かに立ち上がると、テーブルの上に乗っている花が入った細長い花瓶を手に取り、床の上へ乱暴に投げた。


ガシャン!

ガラス特有の割れる大きな音。次にテーブル次に椅子を乱暴に蹴り倒すと花瓶が割れた音より大きな音がした。


コンコン、

「ヴィヴィアン?どうした入るぞ」
扉をノックする音とラヴェンナの声がした後、すぐに扉が開いた。
部屋に入ってきたラヴェンナの前には散乱するガラスの破片、テーブル、椅子。その中でヴィヴィアンは膝を着き、俯いている。
ふと、ラヴェンナの耳にテレビからの音が耳に入り、目を向けてみるとニュースはまだルヴィシアンとマリーの結婚話題で持ちきりだった。
「ヴィヴィアン…」
「知ってたのか…ユスティーヌがルネの策略にハマった事も…結婚も…。知ってたんだろ?結婚の前には婚約会見がお決まりだからね。婚約会見はいつしたの?」
「あたしは知らない…知らない…」
「はは、声が震えているよラヴェンナ?別に良いんだよ。僕にはマリーもユスティーヌももう何の関係も無い。僕は自分を出せる軍も手に入れたし階級も手に入れた。もう欲しいものは無いはず。なのに…」
「ヴィヴィアン…」
「なのに、何でまたこんなに辛くならなきゃいけないんだよ!!」


ドンッ!!

力を込めた両手で床を叩き付ける。
普通こんな状況だったら何か優しい言葉でも掛けてやるのだろうけど、普段仮面をかぶった彼のあまりにも感情的な姿を見たのは初めてだったので、何をしてやれば良いか分からなかった。























持ってきた次戦の書類を強く握り締め、静かに歩み寄るラヴェンナ。こんな状態の人間には近付きたくもないのが本音。
ヴィヴィアンの目の前に書類を突き出してみるが取る気配がないので、溜め息が出る。
外から聞こえてくる小鳥の可愛い鳴き声も、今日ばかりは腹が立つ。


ブツッ!

ラヴェンナはテレビの電源を切り、書類はヴィヴィアンの足元に放り投げて腰に両手をあてて見下ろす。
「ルネが憎いか」
「……」
「ならやれば良いだろう、戦争を」
「馬鹿だよ。皆馬鹿だ。死にに行く戦いと分かって戦うのは、格好良くも誇りでもなんでもないんだよ。格好良いっていうのは、勝利を得る事だけ。何回言ったら分かるんだよ、僕は勝てない戦はしない」
「そんなのやってみなきゃ分からないだろう!?それともなんだ、お前には未来が見えているのか?それなら納得してやってもいいぞ!」
皮肉を怒鳴り声で言う。
けれど俯いたままのヴィヴィアン。ラヴェンナは目をつり上げる。
「ぐちぐち言うな!お前は屁理屈ばかりを並べて自分を守っているだけなんだ!恐くたって良いじゃないか、恐いなら恐いから戦いたくないと言えば良いだろう!変に理由をつけて戦いたくないと言っている今のお前は格好悪過ぎだ!」
怒鳴るラヴェンナを振り払い足元に散らばる書類を手に取ると、立ち上がって扉の元まで歩いて行く。
「あーあ。哀しいなんて感情が消えてしまえばいっそ楽になるのにな」


バン!

力強く扉を閉めて出て行ったヴィヴィアン。


タッタッタ…、

彼が廊下を駆けて行く足音がだんだん遠くなっていく。ラヴェンナは部屋で1人立ち尽くす。
「何なんだこの世界は…!」

























部屋を飛び出し、軍へ向かう為長く広い廊下を1人で駆けていたら、前方からアンネを抱いたジャンヌと鉢合わせたヴィヴィアン。
このまま走って通り過ぎようと思ったヴィヴィアンだが、わざとらしくジャンヌが前を塞いできたのでばつが悪そうに舌打ちをして、嫌々ながらも立ち止まる。
「昨日はありがとう。アンネも元気になったのよ」
「……」
返事一つせず目を反らしてツンとしているヴィヴィアンにムッとしつつも、顔を綻ばせていつもの事だと思って溜め息を吐くジャンヌ。
「はぁ」
ジャンヌもヴィヴィアンと同様に、窓の外に目を向けた。
空は相変わらず世界の荒れ様も他人事の様に綺麗で清々しい。それが憎くて憎過ぎて逆に笑えてくるし、人間は愚かだと感じる。争いだけが全てじゃない事に早く気付けば良いのに。
「死ぬんじゃないわよ」
「え?」
驚いて思わず情けない声が出て、ジャンヌの方を向く。
「埋葬するのが大変でしょ?」


ポン!

明るく笑いながらヴィヴィアンの背を軽く叩くとジャンヌは、アンネを連れてこの場から離れて行った。一方、ヴィヴィアンは笑い混じりで溜め息を吐き、軍へ向かって駆けて行った。








































ルネ王国―――

結婚会見を終えると、記者や関係者の前で見せていた幸せそうな2人の笑顔は一転。城内に戻ればルヴィシアンはマリーに何も声を掛けずに側近を連れて、さっさと行ってしまった。
ポツン…と残されたマリーに紅色のコートをかけてやる侍女2人。
マリーと侍女達でガラス張りの窓がある広い廊下を歩いていると、前方から派手なドレスを着た貴族の女4人がこちらへ向かって歩いて来る姿が見えた。この女達は全員ルヴィシアンが特に気に入っている妾達。
マリーと女達との距離が2m程になった時、女達はわざと行く手を拒む。4人が横一列に並んでいるので通る事ができない。
しかしマリーだってルヴィシアンの妾だ。堂々としていれば良いものの、元から気が強くないから、視線を落としたまま何も言えない。侍女達は更に何も言えない。



















それを良い事に、1人の茶色の巻き髪に大きなピンク色の花の髪飾りを付けた少女が一歩前へ出てきた。彼女はマリーより一つ年上の17歳で、名高い貴族の『ミバラ・ルイ・ジェリー』
ミバラはルヴィシアンが最も気に入っている女で、ルヴィシアンの初めての妾。
他の妾の女達は勿論、ミバラは特にマリーへの憎しみでいっぱいだ。ひょっこり現れた女が突然自分と同じ座に着いたのだから。
ミバラは見下すようにマリーを見ながら微笑する。
「あら、初めまして。泥棒子猫ちゃん」
皮肉たっぷりな言葉に、思わず顔を上げて必死に否定するマリー。
「違います!わたくしはそんなんじゃありませんの。わたくしは…」
「嗚呼そうでしたわね。お国は占領されてしまったのだものね御可哀想に。けれど貴女、本当は嬉しく思っていらっしゃるのではないんですの?」
「え…」
「だって世界で一番の大国ルネ王国のあの優秀で容姿端麗、文句の付けようが無い完璧な人間ルヴィシアン様の妾となれたのですよ」
ミバラの後ろに立っている女達も不気味な笑みを浮かべてマリーを見ている。
この状況に侍女達は困り、慌てた様子を隠しきれずにいる。そんな侍女達にマリーは落ち着かせる様、優しく微笑む。彼女の力強い瞳は侍女達の胸を痛めた。
「何か仰ったらどうですのマリーさ、」
「国王様を御独り占めされたいのでしたらわたくしは構いませんし、わたくしは国王様からの愛情を頂かなくても構いませんわ」
「なっ…!?」
意外過ぎる発言に女達は驚いて目を見開き、口を両手で覆う。
"馬鹿じゃないの?"
まるでそう言っている様な女達からの視線にも今度は目を反らさず、しっかりと見返す。力強い眼差しにミバラは呆れ、わざとらしい大きな溜め息を吐く。
「呆れましたわ。何て愚かな方ですの。皆さん、この哀れな王妃マリー様に同情をしてさしあげましょう」
ミバラの言葉を合図にし、女達はマリーを哀れんだ目で見つめる。口は笑っていたけれど。























重たい黄色のドレスを持ち上げてミバラが背を向けてこの場を去ると、女達も後ろに続いて去って行った。


ガクン、

彼女達が去ると同時に、マリーは突然座り込んでしまった。
「マリー様!」
侍女達が駆け寄り、優しく背中を撫でながら顔を覗きこむ。
「大丈夫ですわ。でも少し…涙がっ…、」
大粒の涙が頬を伝い、言葉も上手く言えなくなる程の深い悲しみと苦しみがマリーを襲う。
ガラス張りの大きな窓から城内へ射し込んでくる日射しはこんなにも暖かくて優しい日差しだというのに、城内は冷たくて残酷だ。





































国王の自室―――

部屋の中心にある椅子にルヴィシアンが脚を組み、楽しそうに微笑している。
外が騒がしい。ルヴィシアンはそれを楽しんでいる様で、視線をゆっくりと窓の外に向けると、口が裂けてしまいそうな程不気味に笑む。
「やって来たな」

































同時刻―――

城の外ではルネ軍が街へ向かって歩兵型戦闘機を走らせていた。先頭にはダイラーとマリソン、すぐ後ろにヴィルードン、無階級軍人達。
いつもは賑やかで華やかな街だけれど、今日は人っこ1人居ないし店や家などの建物という建物の窓と扉が全て閉じていて、戦闘機が通っていなければ気味が悪いくらい静かなまるで死んだ街。それもそのはず。国民は今、城下町や大きくて安全な街へ避難しているからだ。


ガー、ガガッ、

無線の通信が繋がり、ダイラーは鋭い目付きで運転しながら片手で無線をとる。
「私ダイラーだ」
「こちらマリソン。城周辺はD班以降の班が守っております」
「そこまでの数必要無いだろう」
「私は将軍とは違って万が一の事も考えておりますので!」
「はっ、生意気な口を。では…。さっさと済ませてしまおうではないか」
「了解」


ブツッ!

通信を切った2人。
軍人達の目に入ってきたのは、こちらへ向かって抵抗する愚かなユスティーヌの軍隊。
数の少なさをダイラーは鼻で笑い、戦闘機に付属されている大砲を敵に向けて発射。


ドンッ!

爆発音と同時に辺りは黒煙に包まれ、視界が悪くなる。けれど、ルネの軍人達は戦場が知り尽くした母国なので有利。
放った砲弾をくらったユスティーヌ軍の戦闘機を燃やすオレンジ色の炎がとても明るい。
ユスティーヌの戦闘機を見て爆発音を耳にしたヴィルードンは気味が悪い程"戦争"という悲劇に興奮し、楽しむ自分を抑えきれなくなっていた。
「止せ、ヴィル!撃たなくともこちらの勝利はもう見えている。これ以上の攻撃は逆にルネの街を破壊する事に、」
ダイラーからの指示も無視し、無線を強く踏み付けて壊す。狂った機械の様に止まる事無くユスティーヌを撃ち続けた。





































同時刻、
ルネ城内――――

外が騒がしい事に気付いたマリーは手で覆っていた顔を上げ、咄嗟に自室の窓に顔を付けて外の様子を伺う。
遠く遠くでは黒い煙とオレンジ色の炎が上がっているのが見えた。戦闘が起きている街の上空だけ空が赤い。爆発音も耳に入り胸が痛み、体は大きく震え出す。
考えたくも無いが、頭の中で浮かんでくるのはただ一つだけ。ルネに占領されたユスティーヌがルネに抵抗してきたという事。
「そんなはずありませんわ…。お父様は頭の良い人ですもの。大国ルネに抵抗するだなんていう愚かなことは考えるはずありませんわきっと、きっと…」

































一方、戦闘が起きている
街では―――――

爆発音と同時にユスティーヌの戦闘機は無残にも吹き飛んだが、同様に付近の建造物も上層部が吹き飛んでしまった。これにはさすがにまいってしまったダイラーは、再びヴィルードンに通信を繋げるが、ヴィルードンの壊れた無線に繋がるはずもなく。
「くそっ!」


ガー、ガガッ、

力強く機内に無線を投げ捨てた時無線からのノイズ。ノイズの後にはマリソンの声。
「将軍、ダイラー将軍」
「何だ」
「ヴィル君を止めて下さい。このままでは自殺行為です」
「分かっている!しかしヴィルードンとの連絡がとれなくなっている。今あいつに突っ込んでいけば逆に危険で、」
「そんな事はありませんよ」
「何?」
同意してくれると思っていたマリソンからの意外な返答に、眉間に皺を寄せる。
「どういう事だ、手短に述べろ」
「ダイラーさんは将軍なのですからヴィルードンたかが一軍人くらい、将軍御1人で止められるという事を申したかったのです。ダイラー将軍を信じておりますよ!」


ドンッ!

言葉を掻き消す爆発音がして、黒い煙が更に辺りを包み込んだ。マリソンが前方を見た時、今まで其処に居たはずのダイラーが乗った戦闘機の姿が既に無かった。






















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