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症候群-追放王子ト亡国王女-
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キィン!キィン!

「くっ…!」
決心した劉邦の力強い瞳にはもう迷いが無い。剣を繰り出した彼はルーベラの頭を狙い、剣を振りかざす。しかしここはいくら実力差があるとはいえルーベラも軍人。腰に帯刀していた剣を咄嗟に繰り出して劉邦の攻撃を受け止める。しかしなにぶん、拳銃を拾おうとして中腰体勢だったルーベラはこの中腰のまま剣を受け止めざるをえない状況だったから不利だ。
――早く体勢を整え直さなければ!こいつは普通の軍人とは…違う!――
「くっ…!」


キィン!!

劉邦の腹部を狙い、突く。やはり劉邦は簡単に避けてしまったがそれで良い。何もルーベラは自分の攻撃が劉邦に命中するとは思っていなかったのだから。劉邦を突けば彼は避ける。イコール彼が僅かでも自分から離れる。彼との距離ができる。その隙に、この不利な中腰体勢を整え直す為の突きだから。頬に冷や汗を一筋伝わせながらもルーベラはニィッと笑み、立ち上がる。
「体勢を整える為の突きという事くらい見抜いている」
「何…!?」
いつの間に。さっきまで目の前に居た筈の劉邦の声が背後から聞こえて咄嗟に振り向いたルーベラ。
「…!!」
すぐ目の前まで迫っていた彼の銀色に光る剣には、目前の死に目が見開き顔が青ざめ冷や汗を流す自分の姿が映っていた。
「くっ…!」
――避けきれない…!――
ルーベラは目を強く瞑る。
――申し訳ありません陛下…!――

『貴様にはこの城に居て良い許可を与えているというのにな』

「…!!」
そんな彼女の脳裏で。記憶をほとんど失った筈なのに。ダミアンの姿が一瞬蘇る。
「くっ…!」
カチャッ、
するとルーベラは剣を構えた手に力を込めて一か八か振り上げた。


キィン!!

「…!受け止めただと」
死をも覚悟した筈の彼女。だが蘇ったダミアンの姿に、賭けに出たルーベラの振り上げた剣が間に合い、劉邦の剣とぶつかり合った。
「なめるな!私はイギリス軍の軍人だ!!」
「!」


キィン!キィン!!
キィン!

「くっ…!」
――この女、突然意気を吹き返した…!――
諦め欠けていたルーベラが突然意気を吹き返して剣で劉邦に猛攻していくから、形勢逆転してしまい今度は劉邦がルーベラの攻撃を受け止める事しかできず防戦一方。


タンッ!

持ち前の身体能力で壁を伝い、彼女の背後にまわりそこから攻撃をしようと考えた劉邦は壁を右足の裏で踏み込む。
「二度同じ手は食らわない!!」


キィン!


ブシュウゥウ!!

「ぐっ…!」
劉邦が壁を右足の裏で踏み込んだのをルーベラの緑色の瞳が獲物を捕らえた猛獣の様にギラリと捉えていた。また壁を伝って翻弄されてしまう前に、ルーベラは踏み込んだ劉邦の右足首を剣で斬り裂いたのだ。ビチャ!ビチャッ!と真っ赤な血が壁に飛散する。



























タンッ!

仕方なしにルーベラから距離をとった劉邦。


パァン!パァン!

「くっ…!」
ルーベラは先程落とした拳銃を拾うと拳銃で劉邦を発砲しながら近付く。劉邦も持ち前の素早さで逃げるのだが、なにぶん先程彼女の戦闘機で攻撃されたホテルのこの廊下のあちこちに炎の花が咲いており、炎の勢いに耐えきれなくなったホテルの壁がドン!ドン!と音をたてて崩れていくから、こんな狭く炎渦巻く場所では劉邦持ち前の素早さをもってしても逃げようにも逃げる場所が無い。


パァン!パァン!


キィン!

拳銃で翻弄し、彼との距離が近付けば剣で攻撃をしてくるルーベラ。
――くっ…!こんなところで足止めをくっている時間は無いというのに!――
チラッ、
劉邦は爆発でぽっかり空いた壁の向こうに見える夜の町を視界の端に映す。
――此処は3階。しかしホテルに隣接する店の屋根は確かこのホテルの2階の高さ――
「敵前にして余所見をするとは圧されている身で随分と余裕綽々だな!」


キィン!!


ピチャッ!

「くっ…!」
ルーベラの剣が劉邦の右頬を掠り、彼の血がルーベラの頬に飛散する。劉邦はルーベラの剣を受け止める事ばかりでこちらからは攻撃できず、先程チラッと見ていたぽっかり空いて外が見える壁の方へとどんどん圧されていく。
「防戦一方だな!さっきは助けには行かないと言ったり助けに行くと言ったり支離滅裂な独り言を呟いていたが、先程家族と言ったもう1人の仲間の元へ向かう前に貴様の方が先息絶えそうだな!」
「私が貴様の様な女軍人に防戦一方になると思うか」
「はっ!強がりを、」


タンッ!

「なっ…!?空いた壁から外へ跳び降りただと!?」
先程から気にしていたぽっかり空いた壁から外へ何と劉邦は跳び降りたのだ。ここでハッ!とようやく気付いたルーベラは悔しそうに歯をギリッ!と鳴らして眉間に皺を寄せる。
「私に気付かれぬ様壁に近付く為わざと防戦一方で圧されたのか!くっ…!なめるな!!」


タァン!!

何とルーベラも劉邦に続いて外へ跳び降りた。




























「待て貴様!」
「追ってきただと…!?」
まさかまだ少女で先程劉邦に両脚を攻撃されたルーベラが追ってくるとは思わず。しかし、ルーベラは劉邦の後に続いて跳び降り追ってきたのだ。先程飛び降りたホテル3階に隣接する店の屋根がホテル2階と同じ高さだから、隣接する店の屋根を走りながら劉邦は、追い掛けてくるルーベラを見る。


パァン!パァン!

劉邦は逃げながら。ルーベラは追いながら、互いに発砲し合う銃撃戦を店の屋根で繰り広げる。するとその時、ゴォッ…!と地鳴りにも似た鼓膜が裂けてしまいそうな爆音と共に辺り一帯に強風が吹けば、


ドスン!

「…!」
先程上空に浮かせたままオート(無人)で操作させていたルーベラの戦闘機が彼等の間に着陸。すぐさま戦闘機に飛び乗ったルーベラにはさすがの劉邦も目を見開いてしまう。生身VS鉄の塊ではどちらが勝つかなんて幼児でも分かる。すぐさま隣の民家の屋根へ跳び移り逃げようと、ルーベラ機に背を向ける。


ドォン!!

「また屋根伝いで逃げるつもりだ」
「チィッ…!」
しかしそんな事はこの逃げ場の無い狭い場所ならルーベラにもお見通し。劉邦が飛び移ろうとしていた民家をルーベラ機が一発の砲撃で木っ端微塵にしてしまったのだ。劉邦の目の前で真っ赤な炎を上げて燃える民家。
「くっ…!」
もう逃げ場は無い。仕方なしにルーベラ機の方に体を向けて見上げる。しかしいくら施設で常人離れした人間兵器に育成されたとはいえ、生身の人間の劉邦ではルーベラの戦闘機には成す術など皆無。
「貴様を逃がしてしまったら、もう1人を殺めておられる最中の陛下の邪魔になるだろう」
「っ…!」
ルーベラを早く倒してバッシュの元へ駆け付けたいが彼女はそうはさせてくれない。駆け付けたいのに足止めされ尚且つ勝ち目の無い生身VS戦闘機というこの状況に焦るばかりで解決策が見つからない劉邦の表情が珍しく苦渋に歪んでいる。



























バラバラバラ…!

「!?」
「何だ?」
突然上空から小型プロペラ機のプロペラ音が近付いてきて2人が空を見上げる。


ドォン!!

「なっ…!?」
「っ…!?」
プロペラ機は躊躇い無くこの屋上に墜落。いや、わざとルーベラ機と劉邦との間に着陸したのだ。その風圧に、顔の前で両腕を翳していたさすがの劉邦も吹き飛ばされてしまい派手に転倒。強引に着陸したプロペラ機によって屋根の3分の1に穴が空き、そこから店の中が見下ろせる。
「李君!今の内にその穴から跳び降りて逃げるんだ!」
「!?」
突然着陸したプロペラ機から突然現れた見知らぬ初老の男性に突然自分の名を呼ばれ突然逃げ道を作ってもらい、劉邦は唖然と見開いた目に、プロペラ機から顔を覗かせる初老の男性を映す。
「なっ…、貴様は一体、」
「ウィルバース大将貴様も売国奴と同じか!!」
「!」
戦闘機越しにスピーカーを通して外へ流れたルーベラの荒げた声が呼んだ名に劉邦は未だ何が起きたのかさっぱり分かっていない様子だが、一方のプロペラ機に乗ってやって来たウィルバースは苦渋の表情を浮かべている。
「李君!着陸の衝撃で空いたその穴へ跳び降りて逃げるんだ!彼女が来る前に!早く!」
「貴様は一体、」
「私はイギリス軍ウィルバース大将!」
「イギリス軍だと…!?貴様もこの女軍人同様、女王の命で私達を、」
「私は違う!信じてもらえないかもしれないが君達に加勢する者だ!」
「御託を…、」
「既にソーンヒル君には話してある!」
「!?あいつに?一体どういう、」
「説明している時間は無い!ソーンヒル君と共に早くこの島を離れるんだ!君達だけでは女王陛下に敵わない!」
「敵に指示される覚えは無い!それに貴様等はロゼッタ姉さんを見殺しにしたイギリス軍とあらば尚更。今此処で仇討ちを、」
「私はロゼッタの軍友だ!君達を平和な未来へ生かす事が私の、あいつへのせめてもの償いなんだ!だから早くこの島から、女王陛下から逃げてくれ!!」


パァン!

「ぐあっ!?」
頑固な劉邦はウィルバースの話に聞く耳を持ってはくれない。だから、手荒だがウィルバースは致命傷にならない様わざと劉邦の左肩を掠る程度に発砲。その衝撃で、空いた穴へ背から落ちていった劉邦。これで彼がルーベラに殺される事は免れた。































「後は李君が私の言葉を信じてソーンヒル君と共にこの島から離れてくれれば…」


ドガァン!!

「ぐああ!!」
ルーベラ機に攻撃されたただのプロペラ機は爆発。爆風でウィルバースはプロペラ機の外へ放り出される。
「ぐっ…、」


ザッ…、

放り出されたウィルバースが立ち上がろうとすれば彼の顔の前に一丁の拳銃の銃口が向けられる。視線をゆっくり上げていけば、据わった瞳のルーベラが彼を見下ろしていた。
「少尉…」
「先日陛下を前にした時も陛下の作戦に反論していたな。その後、奴等の嘘の位置情報を陛下に渡した。貴様も売国奴と同じ。陛下への忠誠心の欠片も無い非国民だ」
「君が戦闘機から降りてくれて良かった」
「何、」


ドッ…!

「がはっ…!!」
「君を止める事が出来るから」
ウィルバースはルーベラの腹に拳を突き当てる。軍人といえど細くまだ少女のルーベラは腹を殴られ、ボタボタ!と唾液を吐き体勢を大きく崩す。
「手荒にしてすまない少尉。…少しの間眠っていてくれ」
ガクン…、
気を失ったルーベラはウィルバースの腕に力無くもたれ掛かる。ウィルバースはすぐさまルーベラ機に搭乗しエンジンを切ると、気を失った彼女をコックピットの座席にそっ…と寝かせる。彼女を見る彼はとても切なくて父親の瞳をしていた。
「少尉…君は戦う事で己の存在意義を保っていると思っているのだろう。けれど私は若い君にも、李君やソーンヒル君の様に年相応の平和な未来を生きてほしいと思っているのだよ」


タンッ!

戦闘機から跳び降り、ルーベラが焼き払い火の海と化している罪無きリザノワ諸島の街を屋根から見下ろす。
「すぐに火の手を止めなければ。我国はまたも世界から見放されてしまう」


タンッ!タン!

建物を伝いながら跳び降りていくウィルバースは部下が犯した過ちの責任をとる為、火の海と化した町へと駆けて行った。













































劉邦VSルーベラが交戦している同時刻――――――


パァン!パァン!パァン!

「アハハハ!わたくしはかくれんぼをしに来たのではありません。隠れてばかりいては楽しい楽しい戦闘が出来ませんよ。早く出てきてわたくしと楽しみましょう!ねぇ!バッシュちゃん!」
狂者の如く笑いながら辺りを発砲しているエリザベス。
「はぁ…はぁ…くっ…そ…!」
一方のバッシュは海岸砂浜へと続く樹海に身を潜めて彼女の様子を伺っている。
大木に背を預けながら拳銃を構え、息が上がっているバッシュの左腕からは赤黒い血がドクドクと流れている。ビリッ!黒いシャツの端を切って怪我をした箇所に乱雑に巻き付けて応急手当止血をする。防弾性に優れた軍服を着ていればこんな一発の銃弾くらい掠り傷だったのに。いつもの赤い上着軍服を少し離れた岩にかけたままだった時に突然エリザベスが現れたから、上着は防弾性皆無な黒い半袖シャツの至極不利な状況のバッシュ。
「はぁ…はぁ…、くっそ…!化物かよあのババァ…!」
付近に彼女の戦闘機は無いから生身で現れたエリザベスに対し余裕綽々だった。彼女のあの大量殺戮兵器搭載戦闘機が無ければ、自分より背丈は低いし細身で女性の彼女なんて恐れる相手ではない。そう思っていた。しかし。いざ対峙したら拳銃は3丁持ちながら攻撃する上、劉邦までとはいかないがそれに近い目が追い付けない速さを持っている上、蹴りも腕力も外見からは想像もつかない程で屈強な男性並みなのだ。だから情けなくもバッシュは今こうして彼女から身を潜めて攻撃する機会を伺うしかない。
「さっきのオッサン騙しやがったな!エリザベス女王はこの島以外に居るんじゃなかったのかよ!」
ギュッ…!と震える拳を握り締めるバッシュがハッ!と何かを思い出せば後ろを振り返り、見上げる。
――女相手になんて意地張ってる場合じゃねぇ。エリザベス女王の戦闘機は見当たらない。なら…!――
バッシュが思い出し見上げた物は彼の戦闘機。この島へ来た時に樹海に着陸させたのだ。隣には劉邦の戦闘機が在る。エリザベス女王に自分の居場所を気付かれていない今なら!と、彼女が居る方に背を向けて戦闘機へ駆け出す。


パァン!

「か、はっ…!」
「生身の敵に対して御自分は鉄の塊だなんて殿方として人間としてハ・ン・ソ・ク。ですよバッシュちゃん」
「ぐっ…!」
――こいつ、探してる振りして俺の居場所に気付いて…!――
背を向けて1秒後、砂浜からバッシュの左肩を発砲したエリザベスに、バッシュは肩を押さえて体勢を崩しながらもエリザベスの方を向こうと…


ドガッ!!

「ぐあ"!」
向く時間すら与えてはくれず。エリザベスは彼の顎を長い脚で蹴り上げる。細くモデルの様な脚からは想像もつかない男性並みの脚力。まさかもう彼女が真後ろまで来ているとは思わず、蹴り上げられた瞬間舌を噛んでしまったバッシュの口端からはボタボタと赤い血が滴る。




























腕でそれを乱雑に拭い、睨み付ける。
「っぅ"…、て、めぇ、…!」


ドガッ!!

「避けましたの。つまらないですわ」
間髪空けず再び右脚を振り上げてきたエリザベス。しかし今度はバッシュも回避。大木にタンッ、と着いた右手をバネに反動をつけて彼女目掛け左脚を振り上げる。だがエリザベスは避けて次は彼女が右脚を振り上げてそれをバッシュが避けて、次は彼が左脚を振り上げて…と互いに攻撃と防御を繰り返しながら真っ暗な樹海を駆けて行く。


ザッ!ザ!ザッ!

互いの体が木々の葉に触れる音と互いの足が草を踏む音だけ。殺るか殺られるかのこんな緊迫した状況だというのに辺りは不気味なくらい静まり返っていて、息を飲む事すら許されない雰囲気が漂う。


ザッ!ザ!ザッ!
ガッ!ドガッ!

――距離は一定…!距離を1ミリでも詰められた方が攻撃を食らう…!くっそ!何だこの化物!男…いや普通の男以上じゃねぇか!――
真っ暗な中でもエリザベスのピンク色の瞳が光る。据わっていて怒りも笑いもしていない無表情だから逆にゾッ…!としてしまう。
――ゾッとする?…違うだろ。男以上の化物?…違うだろ。何ビビってばっかりいるんだよ!こいつに再会したのは悪夢?…違うだろ!!俺が世界で一番大切な奴を散々虐げた仇に再会できたんだこの再会は――
「好機なんだよ!てめぇをぶっ殺す為のな!!」


ダンッ!

今までのパターンでいけばバッシュがエリザベスの蹴りを避ける番。しかしバッシュは大木にダンッ!と右手を着くと逆に彼女との距離を自ら縮めてきた。これには彼女も目を見開くが…
「ようやくわたくしに殺られる覚悟が出来た様ですね!」
彼女はまた右脚を振り上げる。


ガシッ!

「なっ…!?」
バッシュは彼女の右脚を掴む。エリザベスは顔を歪めた。初めて。
「放しなさい!愚民の分際でわたくしに触れるな、ど…、…!」


ドガッ!!

「っ…!」
掴まれた右脚にばかり気が向いていたエリザベスはバッシュの左脚に顎を蹴り上げられた。喋っていたから彼女もまたガリッ!と舌を噛んでしまった。口端から飛散する彼女の赤い血。右脚を掴んだままバッシュは笑う。
「お返し」
「っーー!!」
無表情だったエリザベスがようやく怒りに顔を歪めた。
「黙りなさ、きゃあ!?」
彼女の右脚を掴んだ自分の右腕を横に大きく振り、彼女を吹き飛ばす。


ドン!

吹き飛ばされた彼女は樹海に並ぶ無数の大木に背を強く打ち付けると、口から血を吐く。
「かはっ…!!」




























「何だよ。化物かと思ってたけどやっぱり人間だなあんた」
「っ…、わたくし、を、がっ…!!」


ドッ…!

よろめきながら顔を上げようとしたところを腹を思いきり蹴れば、エリザベスは目を見開きまた血を吐く。体をピクピクさせながらバッシュを睨み付けるエリザベスの瞳には、右手拳を構えて笑う彼の姿が映っている。
「女だからって思ってたけど。そういや女子供老人見境無く大量殺戮兵器でぶっ殺した非人道なあんたに手加減なんてする必要無かったな」
「っ"…、黙り"、なさ、」


ドガッ!

「ぐあっ!!」
躊躇いくらいあった。いくら敵で普通の男以上の力量といっても相手は女。どうせなら戦闘機と戦闘機で戦って殺したかった。だって自分は男だから生身の女相手に殴るなんて、やはり心の何処かでは引けたから。だが母国アンデグラウンドを国民をまるでゴミ同然に一掃した彼女の暴挙が脳裏を駆け巡れば、男だからとか女だからという型式に固執した考えなどどうでも良くなった。だからバッシュはエリザベスの顔面をおもむろに殴った。


ドガッ!ガッ!

「あ"っ!あ"ぐっ!あ"!!」
何度も何度も。アンデグラウンドを最愛の人を嘲笑ったあの表情がもう出来なくなる様に何度も殴った。そして…


キィン…!

バッシュは帯刀している剣を引き抜いた。


ドスッ!!


























「避けんなよクソババァ」
「っ…、」
「殴り殺した方が良かったか。失敗した」
殴り続けていたバッシュが剣を引き抜いた時に出来た一瞬の隙をついて屈んで回避し、バッシュから距離をとったエリザベス。
「はぁ"…はぁ"…」
呼吸が乱れ、左目は開いているのかいないのか分からない程青紫色に腫れ、鼻血が垂れ、切れた口端からは血が滴り、口から覗く前歯も数本折れている。
「ぷっ!」
「!」
美女や女神と美貌を持て囃された彼女が初めてこんな醜い顔になったからバッシュは彼女を指差して嘲笑う。
「あんたいっつも余裕綽々だったからさ。見れて良かったよ。ボッコボコで今にも死にそうなその面!」
「わたくしを愚弄するなと何度言えば分かるのです貴方という子は!!」


キィン!

堪忍袋の緒が遂に切れたエリザベスも帯刀していた剣を引き抜き、タン!タンッ!と木と木を伝い、バッシュの脳天目掛けて剣を振り上げて木の上から跳び降りる。


ガキィン!!

それを受け止めるバッシュ。互いの刃と刃が削れてしまいそうな程強くぶつかり合う。
「撤回なさい!わたくしを愚弄した言葉を!今すぐ撤回なさい!」
「あんた覚えてねぇの?」
「弱小国家の愚民の分際でわたくしに馴れ馴れしく話し掛けるのはお止めなさい!!」
「俺、前あんたに言ったじゃん」
「なぶり殺されたい様ですね!!」
「俺と一緒であんたは頭に血が昇と正常な判断ができなくなるバカだ、って」
「バッ…!?わたくしを誰だと思っているのです!!」
「だから再三言ってんじゃん。大馬鹿ヤローだってさ!!」


キィン!

「!」
エリザベスの剣を受け止めている右手とは逆の左手で、上着のシャツとズボンの腰の間に隠し持っていた護身用の少し短い剣をバッシュは引き抜き、振り翳した。エリザベスの驚いた目がギョロン!とバッシュの左手の剣に向く。
――戦闘機だけではなくこの子は肉弾戦でも二刀流でしたの…!?――
「くっ…!」
キィン!
バッシュの右手の剣と対峙していた剣を離して、迫り来る彼の左手の剣の攻撃を弾き返そうとエリザベスは自分の剣を構えた。


バサッ!

「え…、」
しかしバッシュは左手の剣を引っ込めて、最初に対峙していた右手の剣で攻撃。本来は彼女の頭を狙ったのだがバッシュが左手を引っ込めたせいで前のめりに体勢が崩れた彼女の頭の位置がズレてしまった。だから剣は彼女の頭ではなく、長いポニーテールを斬り裂いた。


カランカラン…!

髪を束ねていた金色の髪留めが真っ二つになり金属音をたてて足元へ転がる。彼女自慢の銀色の艶やかな髪が肩より下からざっくり斬られ、辺りに飛散した。


























キンッ!

「左手の剣囮に良い作戦だと思ったんだけどな。そのせいであんたの頭の位置がズレたか。ミスった」
ヒュンッ!と左手の剣を回転してみせて悔しそうに呟くバッシュ。
「……」
一方のエリザベスは足元に飛散した自分の自慢の髪を見つめながら、斬られて無くなった肩から下に触れる。
「…ま」
キンッ!2本の剣を構え直すバッシュは右手の剣をエリザベスに向けて笑む。
「次仕留めりゃ良いだけだけど」


ザザンッ…

「…?」
短気な彼女の事だ。てっきりまた顔を真っ赤にして怒り狂い正常な判断ができないまま猛攻に出ると思えば。とても静かで、斬られて無くなった肩より下の肌に触れたまま俯いている。まるで反撃してくる気配が無い。さっきまでの戦いの音が嘘の様に今は海が穏やかな波を打つ音しか聞こえないから、バッシュはパチパチ瞬きをして不思議に思う。
――何だ…?怒り狂って闇雲な攻撃してきた時がチャンスだと思ってたのに攻撃してこない…?――
だが彼女の様子の違いを気に留めている理由は無い。
「そっちがこないなら」


タンッ!

バッシュは踏み込み、二刀流でエリザベス目掛け駆け出す。
「次こそそのイカレタ頭ぶっ飛ばしてやるぜクソババァ!!」
だんだんと縮まる距離。なのにエリザベスは微動だにせず。
――何だよ?まるで殺されるのを待ってるだけじゃん――
いつもと違う彼女の様子に違和感を抱くから警戒しつつも彼女へ接近し、2本の剣を横向きにして後ろへ大きく振りその反動で跳び上がり、彼女の頭目掛ける。
「これで!」


ギョロッ!

「っ…!?」
剣が振り下ろされる瞬間首をぐるっとバッシュに向けたエリザベスの瞳孔の開いた瞳がギョロッ!と彼を睨み付けた。彼女の軍服スカートで隠れる太股の裏からギラリ光った物をバッシュは捉えると危険を悟り、攻撃よりも回避が最優先と咄嗟に彼の脳が判断。
「ヤバッ…!」
回避する為すぐさま左脚を後ろへ踏み込んだ。


ガクン…!

「っ"…!!」
しかし踏み込んだ左脚に力が入らずガクン!と沈んでしまい体勢が崩れてしまった。
「マズイっ、」


ブシュウウウ!!

「う"ぐあ"あ"あ"!!」
エリザベスが繰り出した銀色の武器の鋭利な8本の刃が彼の顔面を切り裂き、辺りの木々に大量の真っ赤な血が飛び散った。





























「っ…!ぁ"あ"…!くそっ…!前が見えねぇ…!」
エリザベスが太股の裏に隠し持っていた武器は両手にはめるグローブの8本の指にそれぞれ鋭利な刃が付いた物。


ドロッ…、

「……」
バッシュの生々しい血がドロリと付着した武器の刃を瞳孔の開き切った目で見つめる。
一方、顔面を思いきり切り裂かれ瞼の上も切られてしまったからドクドク流れる血が邪魔をして前が見えないバッシュは両手で何度も何度も血を拭う。だが止まらず溢れ出る血。
「…っ、くっそ!油断し、」


ビチャッ、

「え、」
バッシュの血に濡れた武器を両手にはめたまま、血が付着した部分をバッシュの銀色の髪に擦り付けるエリザベス。淡々と。瞳孔の開いた何処を見ているのか分からない目をして。
「愚民の汚ならしい血がこのわたくしに付着しました」


ビチャッ、

「お返し致します」


ビチャッ、ビチャッ、

「なっ…、」
その淡々とし過ぎて声には感情が一切こもっていないまるで機械の様な姿にバッシュは唖然として彼女を見ている事しかできない。今まで数多くの戦場を巡り数多くの敵と対峙してきたが、こんな不可思議な敵は彼女が初めてだから動揺してしまう。


バシッ!

「触んな!」
エリザベスの手を払い、ドクドク流れて視界を塞ぐ自分の血を拭う。


パァン!パァン!パァン!

「くっそ…!」
エリザベスは3丁の拳銃を駆使し、バッシュに発砲。全弾とまではいかなくともこんな至近距離では何発か銃弾が命中してしまうから命中したバッシュの腕や肩や脇腹から血が噴く。生い茂る樹海と暗闇を利用して自分の姿が彼女の視界から少しでも消えれる様に駆けて逃げる。だがエリザベスは瞳孔の開いた目で高笑いをし発砲しながら速い速度で追い掛けてくる。
「アハハハ!アハハハ!」
「くっ…!」
――距離がとれない!それどころか縮められていく!何だよコイツ!俺にぶん殴られる前より後の方が動きにキレが増してるじゃねぇか!――
「アハハハ!かくれんぼのお次はおいかけっこですかぁ?バッシュちゃぁん!」
「調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!ボッコボコの面してるクセに!」
「調子に乗っているのは貴方の方ではありませんかバッシュちゃん?」
「何が、」


ドスッ!

「っーー!」
間一髪。エリザベスの剣がバッシュの頭に一突きするところだったが寸前で回避した為、剣は大木に突き刺さった。突き刺さった大木を見る彼の頬に冷や汗が伝う。
「わたくしを圧倒出来て勝利が見えましたか?…これだからお子様は。ほんの少し自分が優位に立てただけで勘違いを致します」


ドガッ!

バッシュはエリザベスを蹴り上げると、後方にある自分の戦闘機へと駆け出して行った。
「……」
エリザベスは今蹴り上げられたせいで流れた鼻血を、彼の背を睨み付けながら拭っていた。




























ガコン!

「はぁ、はぁっ…!何だよ!やっぱ化物じゃねぇかあのババァ!!」
生身の人間に対して戦闘機だなんて不利、なんて言っていられる状況ではない。食うか食われるかの戦場でバッシュは自分の戦闘機に飛び乗り、コックピットに着く。彼がキーを差し込めばウィイン…と起動音をたて起動する戦闘機。コックピット内のモニターに明かりが点く。カタカタカタカタ、手早くキーボードに打ち込んでいき機体調整をするバッシュの顔がイラ立っているのはエリザベスがやって来る事への焦りからか。
「早く早く早く!早く起動しろ!あの化物が来る前に!」
「今まで散々美人美人と褒めてくださっていたのに化物だなんて酷いですよバッシュちゃん」
「!?」
声がした右側を振り向けば。コックピットの右側窓に頭を逆さにしてこちらを覗いているエリザベスが映っていた。
「は…?」


ガシャアァアン!!

窓を蹴ったエリザベス。反対側の窓まで吹き飛ばされ尚且つその勢いでコックピットの外へまで吹き飛ばされてしまったバッシュ。


ドサッ!

「っう"…!何、が、」


ドスッ

「う"ぐあ"!!」
自分もコックピットから飛び降り、砂浜に仰向けで倒れているバッシュの上に馬乗りになるエリザベスが剣を振り上げた。バッシュは目を見開く。


ドガッ!

彼女を蹴り飛ばしてから横へ転がる事で彼女の剣を回避。
「っ…!」
人間離れした彼女の身体能力と瞳孔の開いた顔に、底知れぬ危機感を抱き、顔を真っ青にしながらも彼女から距離を取る為後ろへ一歩下がるバッシュ。


ガクン!

「っ…!」
またしても左脚だけ力が入らずガクン!と砂浜に沈んでしまい、満足に距離を取れず。
――くそ!こんな時に左脚が…!――


スパァン!!

「え、」
「痛いの痛いの飛んでいけ〜ですよ♪」


ボトッ…、

可愛く首を傾げて満面の笑みを浮かべるエリザベスの顔にはピッ!ピチャッ!と赤黒返り血が付着。
自分は一体どこを攻撃されたのか?バッシュの視線が胸部、腹部、太股へと下がっていけば彼の左脚が太股から綺麗にすっぱり切断されていた。


























ボタボタボタッ!

「う"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
右脚だけとなり立っている事ができなくなれば、左脚切断面からボタボタと溢れ出る赤黒い血溜まりの中に膝から崩れ落ちる。
「あ"あ"あ"あ"あ"!!」
鈍痛?激痛?いや、言葉でなんて例える事など絶対に出来ない。血走った目をこれでもかという程見開いて俯きながら叫び声を上げる。ひっきりなしにボタボタ溢れる切断面の血を手で掬っても掬っても追いかない。追い付く筈が無い。だが何とか止血しようと両手で押さえたり試行錯誤する。後遺症が残る程の傷を負わされた左脚。彼の最愛の人間から傷を負わされた左脚。一方エリザベスはにっこり笑う。
「先の我軍とアンデグラウンド戦。シャングリラ宮殿でバッシュちゃんにお会いした時血塗れだった左脚を引き摺っていましたよね?当時はすぐ癒える程度の傷を負ったものだと、気にも留めませんでしたの」
「う"あ"あ"あ"あ"!!」
「けれど。本日お会いしてからバッシュちゃん。貴方はずぅっと左脚を引き摺っていましたね」
「あ"あ"あ"あ"!!」
「バッシュちゃん」
俯きながら叫び声を上げ続けているバッシュの頭を両手でぐっと持ち上げる。
「お怪我の後遺症は敵に気付かれぬ様振る舞うものですよ。そんな事も分からないなんて」
艶やかな唇でエリザベスは目を三日月にしてにんまり笑む。
「お・バ・カ・さ・ん♪」


パァン!

「がはっ!!」


ドサッ!

バッシュの右胸を至近距離で発砲。後ろへ倒れた彼に再び馬乗りになれば先程自分が彼にやられた様に彼の顔面を殴り続ける。高笑いを上げて。
「お返し♪」


ガッ!ドガッ!ドガッ!

「アハッ!アハハハ!アハハハハ!」
「ぐっ!あ"!」
汚ならしい血を返すと先程言っておきながら、彼の血が彼女の拳や顔や髪に飛び散っても全く気にも留めず寧ろ楽しそうに笑い続けるエリザベス。バッシュもバッシュで右脚で彼女を蹴ったり両手で彼女を押し退け様と必死。


ドス!ドスッ!ドス!

「あ"あ"あ"!!」
抵抗するバッシュの右脚には剣を。両手には護身用のナイフを何の躊躇いも無く突き刺し、砂浜に彼を磔にする。激痛に目が見開き全身がビクッ!と痙攣したバッシュのその様を、拳に付着した彼の血をボタボタ滴らせながら恍惚の表情で見下ろすエリザベス。
































「オイタはダーメッ。ですよ?いつもわたくしの美貌を褒め称えてくれていた、わたくしの本性を知る前の可愛い貴方に戻ってくださいな」
「っ……が、」
「えー?」
「だ、が…っ、」
「大きな声ではっきり申してくださらないと聞こえませんよォ?」
「誰が戻るか!!」


ドッ!ブシュウウ!

「!」
ナイフを突き刺されている両手を力任せに無理矢理起こせば左手は無事だが、ナイフに突き刺されたままの右手首が切れる。しかしそんなのお構い無しにバッシュは血塗れの左手でエリザベスを殴り、右脚に突き刺さっている剣を左手で乱雑に引き抜く。


ボトッ、

ナイフが突き刺さったままで其処に転がる彼の右手首を見てエリザベスは自分の口を手で覆う。
「自ら右手首を捨ててまで!?何て馬鹿な…!」
「右手首無くしても良いくらいあんたをぶっ殺してぇんだよ!!」
「…ハッ!」


キィン!

左手に構えた剣を突く。


ピチャッ!

エリザベスの頬を掠り、血が少しだけ噴く。左脚も右手首も失ったのに意気を吹き返したバッシュは左手に握った剣で間髪空けずにエリザベスを攻撃。
「チィッ…!死に損ないが!!」
エリザベスも反撃に出る。拳銃で彼を発砲して近付かせない様にする。彼は銃弾を体中あちこちに受けるのに決して怯まないどころか自らエリザベスへ駆けて剣で突いてくるのだ。
「くっ…!本当に貴方はあの大戦の時から殺しても殺しても息絶えませんわね!命をいくつお持ちなのか教えなさい!」


カチャ、カチャ、

「!?銃弾が…!」
エリザベスの3丁の拳銃からは弾切れの悲しい音しか鳴らない。太股にくくりつけてある銃弾に慌てて手を伸ばす。
「撃ち過ぎなんだよさっきから!だから言っただろ!あんたは俺と一緒で頭に血が昇ると正常な判断ができなくなる大馬鹿者だってな!!」
「わたくしを貴方と一緒にするのはお止めなさいと何度申せば分かるのです貴方は!!」


キィン!

エリザベスの左胸を狙ったのに。片脚だけでは平衡感覚を保てず…いや、立っていられる事ですら奇跡だから剣を振り上げた反動で体勢が揺らいでしまい、虚しくもバッシュの剣は砂浜に突き刺さるだけ。
「くっそ…!」


ドガッ!

「ぐあ"っ!!」
剣を引き抜こうとしているバッシュを頭から蹴り飛ばす。


バシャン!!

バッシュは大きな水飛沫を上げて海へ蹴り飛ばされた。





























ガッ!

仰向けで波打ち際に蹴り飛ばされたバッシュの首を掴み押さえ付ける。バッシュが左手を上げて彼女を振り払おうとする。


スパァン!

「あ"あ"あ"!」
彼女の剣で関節から下を凪ぎ払われ。バッシュが右脚を上げて彼女を振り払おうとする。


パァン!パァン!パァン!

「ぐあ"あ"あ"!!」
バッシュの腰にくくりつけてあった彼の拳銃を奪い、その拳銃で何発も彼の右脚を撃てばダラン…と力無く崩れ落ちて使い物にならなくなる彼の右脚。もう彼女に反撃できる術が無くなったというのにまだ睨み付けてくる彼をエリザベスは魔女の様な表情で鼻で笑う。
「何ですかその目は。こんなになったのですからいい加減諦めてくださいます?そうやって、諦めなければ奇跡は起きるという愚民らしい稚拙な思考。わたくし大ッ嫌いですの」
「っ…、ぅぐ、」
「はんっ!本当貴方は同じですね。わたくしに刃向かえばどうなるか分かっていながらも刃向かう…。貴方は同じです。低能な売国奴ロゼッタちゃんと!」
「謝れよ!!」
「はい?」
「姐さんに謝れ!!」
「何をです?嗚呼。今低能と申した事ですか?」
「全部だよ!今までの事全部だよ!!」
「わたくしがあの子に謝る必要など一切ありません」
「いいから謝れっつってんだろ!!」
「謝ればあの子が戻って来るのですか?違うでしょう。なら何故そんなに貴方は躍起になっているのですか?…嗚呼。分かりましたわ」
ニィッ…。艶やかな唇の間から白い歯を覗かせてエリザベスは笑った。
「わたくしからの謝罪を聞いて自己満足したいだけなのですね。死ぬ前に」
「うるせぇんだよ悪魔!!」
バシャ!バシャッ!
悪足掻きだが残った肩や胴体を彼が動かせば、彼が浸かっている海がバシャバシャと音をたてて飛沫を上げる。
「ふふっ。羽を折られ飛べなくなってしまった鳥みたいでブザマですよバッシュちゃん。それに。何故わたくしに謝罪しろとしつこく申すのです?あの子に謝罪すべき人間は貴方でしょう。貴方が手にかけたのですから。ロゼッタちゃんを」
「うるせぇ!!いいから謝れ!あんたが姐さんの人生ぶっ壊したんだ!いいから姐さんに謝れよ!!」



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