[携帯モード] [URL送信]

症候群-追放王子ト亡国王女-
ページ:1



イギリス、
軍本部内―――――

「しかし!少将が売国奴という事は紛れもない事実です!」


カツン!コツン!

黒いブーツのヒールの足音だけで分かる。ルーベラが酷くイラだっている事が。ルーベラの前を歩くウィルバースは、自分の息子より若いというのに堅い思考でまるで熟練軍人のようなルーベラに少々困っている様だ。彼女に聞こえない様小さく溜め息を吐く。
「少尉の言う通りだ。あいつは我軍の戦略をアンデグラウンドに譲渡したのだから。けれど女王陛下が同盟国であり且つ国際連盟軍のアンデグラウンドを侵略した事は間違っていた。それによって今、我がイギリスの世論は地にまでとはいかないが落ちている。少尉もそう言っていたじゃないか」
「ですが!記憶を失った私は女王陛下に拾って頂いた身!陛下の失態も受け入れ、陛下にこの身を捧げると誓いました!ですから、私情で母国を売った愛国心の欠片も無い少将が許せないのです!」
「確かに戦略をアンデグラウンドに流したせいで多くの同胞が殉職した。私も当初は気付けなかったが、けれど今となって思えば、陛下の意思に背いたあいつの考えは間違っていなかったんだ。同盟国を侵略した後の我国の世論を考えたあいつこそが愛国心があったのじゃないかと…ロゼッタこそが愛国、」
「その名前は出さないで下さい!!」
ピシャリ!上官であろうと強い口調でそう言ったルーベラにウィルバースは続く筈の言葉を飲み込んだ。口を強くへの字に噛み締め、裏切り者ロゼッタの名前すら聞きたくないといった怒りの表情のルーベラを見下ろすウィルバース。
――私の知っている15歳の少女という生き物はこんなだっただろうか…――
人差し指で頬を掻いて困り果てるウィルバースはこの空気に耐えられなくなり、目線を斜め上天井へ移して別の話題を持ち出す。
「そうそう。そういえば少尉。先日少尉専用の機体が格納されたんだ。今なら私も時間があるから今から試乗して、」
「何故戦略を流すような愚行を行ったんだ!奴のせいで、私に良くしてくれたアイル中佐やハーバー大尉が!」
「少尉?」
「資料によれば奴が戦略を譲渡した相手は奴と同じく国際連盟軍代表で」
「少尉?聞こえているかい少尉?」
下を向いてブツブツ呟きまだ怒りの収まらないルーベラ。ウィルバースが肩を竦めると。
「ウィルバース大将!」
彼らの背後から慌てた様子で駆け付けてきた青年中尉。
「どうしたカサ中尉」
中尉は背筋に物差しを入れてあるのかと思う程ピシッと伸ばし、敬礼をする。
「はっ!たった今御生還なさりました!」
「誰がだい?」
「エリザベス20世女王陛下です!」
「何!?」
「陛下…!!」
目を見開き呆然のウィルバースと。目をキラキラ輝かせ喜ぶルーベラ。今日のイギリスの空は雨が多い国らしく今にも降り出しそうで酷く重い黒い雲がかかっていた。


































ブルームズ宮殿――――

「ふぅ」


コトン…、

シャワーを浴び、10数人の侍女達に身の回りの世話をしてもらいながら温かいアールグレイの入ったティーカップをテーブルに置くエリザベス。彼女の正面にはウィルバースとルーベラが立っている。エリザベスはテーブルに頬杖を着き、空いている左手をソファに向ける。
「まあまあ。そんな所で立っていては疲れてしまいますわ。ウィルバースさん。ルーベラ少尉。腰を下ろしなさいな」
「いえ。陛下の前でそのような無礼は行えません」
「ふふっ。腰を下ろす事はわたくしを於いて帰還した事よりも無礼でして?」
「っ…!」


しん…

女神と国民から謳われるあの笑顔で放たれた一言に、ウィルバースとルーベラは勿論、エリザベスの髪をとかしてドレスを整えていた侍女達も顔が真っ青になる。まるでエリザベス以外の刻が止まったかのように一時停止するウィルバース達。人間のたった一言だけで彼らの呼吸は一瞬ではあるが止められた。まるで息の根を止められたかの様に。
顔を真っ青にしながらも頭を下げるウィルバース。ルーベラも同様に。
「も、申し訳ございませんでした陛下…」
「宜しいのですよウィルバースさん」
「しかし…」
「ウィルバースさんにも色々なお考えがあっての行動でしたのでしょう。ではわたくしの立案した作戦に今からお付き合い下さいな。それで今件は無かった事にして差し上げます」
「本来首を跳ねられて当然の私に有り難きお言葉…。では陛下の仰る作戦とは如何に」
頬杖を着き腹の中が見えない満面の笑みのエリザベスは言う。
「劉邦ちゃんとバッシュちゃんの殺害です」
「…陛下。そのお気持ちは存じ上げます。陛下を残し撤退した私のような人間が申す事では無いとは重々承知。…しかし陛下が今成すべき事はそのような私怨では無いのではないで、」


ガタッ、

「では赴きましょうウィルバースさん。2人の所在地を調べて下さいな」
「陛下!」
全くもってウィルバースの話になど聞く耳持たずなエリザベスは椅子から立ち上がる。そんな彼女の背に悲痛な表情で呼び掛けるウィルバースの声など無視をして、サロンの扉に手をかけるエリザベス。
「女王陛下!」
ウィルバースには無視をしたがエリザベスは振り向いた。ルーベラの呼び掛けには。


























敬礼をして真剣な面持ちのルーベラに、姉のようににっこり微笑むエリザベス。
「どうなさいましたルーベラ少尉」
「陛下が仰る劉邦とバッシュという名の人間は少将が我国を裏切る要因となった人間の名ですか!」
「ええ。そうですよ。それが何か?」
「では僭越ながら私も今作戦に御同行させて下さい!」
「なっ…!?何を言っているんだ少尉!」
ロゼッタに対し頭に血が昇っているルーベラが今作戦に参加すればどうなるか結果が目に見えているウィルバースは必死に止めようと促す。しかし頑固なルーベラは敬礼をしたままエリザベスの事だけを真っ直ぐ力強く見つめている。
「それはどのような理由があってですかルーベラ少尉」
「記憶を失い自分が誰かも分からない私を拾い、軍人に育て上げてくださった敬愛する女王陛下を裏切った少将…いえ!売国奴が許せないのです!売国奴はもう居ませんが、売国奴と共に陛下を嘲笑した者達を私もこの手で討ちたい所存であります!」
白い手袋をはめた右手を左胸に充てて乞うルーベラ。エリザベスは少しだけ目を丸めて驚いていた様だが、すぐににっこり微笑む。
「まあ素敵ですね!ルーベラ少尉のそのお気持ち受け取らせて頂きますわ」
「ほ、本当ですか…!」
「ええ。勿論」
「お言葉ですが陛下」
スッ…、
ルーベラの前に右手を出すウィルバースは親の顔をしていた。
「まだ下級兵士の少尉に今作戦を同行させるわけにはいかないかとイギリス軍大将として意見申し上げます。他の上級兵士ではいけませんか」
「討つ気の無いウィルバースさんより。討つ気の有るルーベラ少尉をお連れしても良いのですけれどね」
にっこり笑顔だからこそ恐ろしいエリザベスに対し、これ以上言えなくなってしまったウィルバース。彼が膝ま着けばルーベラも同様に。
「…了解致しました」
「ふふっ。では出発は今夜ですよ」
隣で膝ま着き、人間を殺しに行く事に目を輝かせる、自分の息子より若い少女ルーベラを頭を下げたままチラッ…と見つめるウィルバース。
――陛下は一国の王。私はただの軍の大将。…しかし。だからと言ってまた陛下の御意見に従うだけで良いのか?今の陛下には国際連盟軍の彼等を討つよりも先に、陛下の暴挙で対アンデグラウンド戦に駆り出され傷付いた軍人達、そしてイギリス国民に対して成すべき事があるのではないか?…私はまた陛下に逆らえず対アンデグラウンド戦と同じ過ちを犯そうとしているのかもしれない――


パタン…、

誰も居なくなったサロンでウィルバースは1人、窓から真っ暗な天を見上げて切なそうに眉をひそめて呟く。
「同胞を巻き込んだ事は誉められた事じゃないが。己の身を呈してまでアンデグラウンドに戦略を譲渡し陛下に逆らおうとしたお前の方が余程大将の器かもしれないな、ロゼッタ…」























































中国――――――


ドドドド!!

「キャアア!」
「はっはは!逃げろ!喚け!ルネの支配に怯えろ!」
建物が倒壊し、銃の灰色の煙が舞う中国の街に響くのはライフル銃の銃声と中国国民の悲鳴。
やっとの思いでルネの手から路地裏へ逃がれた中国人女性は1人の息子を大切そうに抱き締める。


ドドドド!

「ギャッ!」
だがすぐ其処からはルネが中国人を撃つ銃声や生々しい悲鳴や血が飛散する音が聞こえる。
「お母さん…お母さん…」
女性は息子の前髪を優しく鋤きながら微笑む。本当は泣きたいくらい気が狂いそうな情緒だが、愛する子供に自分が動揺した姿など誰が見せれるだろうか。
「大丈夫。大丈夫よ。お前は何も心配しなくて良いの。だから、」


ドガァン!!

「ひっ…!」
路地裏の壁が盛大に破壊され、女性は息子に瓦礫が当たらないよう息子に覆い被さる。ゆっくり顔を上げれば其処には…
「ル、ルネ軍…!」
たった今路地裏の壁を破壊した張本人のルネ軍歩兵型戦闘機が1機。親子を見下ろしていた。
一方ルネ軍戦闘機内ではルネ軍人が、表示されたモニターを見て嘲笑っていた。サーモグラフィーになっているモニターには、路地裏に隠れている親子を示す赤い人型がくっきり2人分表示されている。
「はっ!そんな所に隠れたってルネ様の戦闘機にかかりゃ人体反応でバレバレなんだぜ!中国にはそういう機能すらまだ導入されていないのか?」


ガシャン、

「ひっ…!」
ライフル銃を構えた歩兵型戦闘機の右腕が挙がり、銃口が親子に向く。
「や、やめろっ…!!」
「なっ…!?何をやっているんだいお前は…!」
腰が抜けて立てない母の前に両手を広げて飛び出したまだ幼い息子。ガタガタに震えて立っているのがやっとな息子をルネ軍人は鼻で笑う。
「はっ。ママを守る小っちゃなヒーローのお出座しか」
ルネ軍人は真っ赤な歯茎が覗く程にんまり笑い、コックピットから身を乗り出して戦闘機内から親子を見下ろす。
「くせぇんだよそういうの!!」


ドドドドドドドド!!



























ルネ軍戦闘機から放たれた数十発もの銃弾によって辺りは瓦礫が飛散し、灰色の煙が舞う。
「っ…?」
だが自分達を貫いているであろう銃弾が一発も命中していなく、自分達は生きている事に気付いた親子が恐る恐る顔を上げると。
「ぐ、軍が助けてくれた…!!」
ルネ軍戦闘機と親子の間に、中国国旗が描かれた朱色の中国軍戦闘機が1機、ルネ軍戦闘機を戦闘機の両腕でがっちり押さえ付けていた。
「くっ…!負け犬の分際で足掻きやがって…!」
一方、とんだ邪魔が入り面白くないルネ軍人は砲撃レバーを下ろす。


ガコン!


ドドドド!ドドドド!!

中国軍戦闘機の姿が見えなくなる程の銃弾と灰色の煙が舞う。
「はははは!こんな至近距離じゃ瞬間移動でもできない限り、避けるに避けれないだろ中国ぐ…何!?」
煙が晴れた其処には何と誰も居らず。
「まさか…この至近距離であの数十発の銃弾を避けたっていうのか!?そんな事…」


ドガァアン!!

悲鳴を上げさせる時間すら与えさせず。唖然としていたルネ軍戦闘機の背後から機体頭部に戦闘機の右腕の拳を一発打ち込んだ中国軍戦闘機。その強大な力により、ルネ軍戦闘機は地面にめり込む程ぺしゃんこに。戦闘機というあの大きな鉄の塊を一発でぺしゃんこに潰したのだ。


ピピピッ…、

中国軍戦闘機モニターには先程の親子が逃げていく姿が映っていたから、ポーカーフェイスで表情は崩さないながらも内心安堵する中国軍戦闘機【昇華】のパイロット。白いヘルメットの下で次の敵を探す鋭い目付きのパイロットは劉邦だ。
あれから日本でヴィヴィアン滷獲に失敗、尚且つ呂稚を目の前でヴィヴィアンに殺害され戦意喪失していた劉邦だったがそんな彼に亡き元妻への哀しみに浸る時間すら与えてはくれないこの戦乱の世。立ち止まってはいられない。劉邦は、表向きルネとの友好同盟としつつルネの支配下となった母国中国へ帰還し、今こうしてルネ排除の為戦地を駆けていた。
しかし劉邦が帰還した時既に首相は暗殺され宦官達は捕虜にされ、軍を統率する首相不在で作戦も指揮も無い中、各々が勝手に出陣した中国軍3分の2が壊滅。一般市民など尚の事。
何とか通信が繋がった軍人には劉邦が出した指示を下せたがそれだけではもう手に負えぬ状況。
「どこまでいけば気が済むんだあの侵略国家国王は」
次の敵を探しに行こうとした時。フロントガラスの端に映ったのは、先程劉邦が助けてやった親子がこちらへ手を振る姿。
「……」
ガシャン、ガシャン、
劉邦は反応をせず音を鳴らして昇華で歩いていった。視界の端に、助かった事を喜び合う仲睦まじい親子を映して。

『優れた軍人育成の為の実験被験体?』
『7歳までの子供なら男女問わないらしい』
『被験体として軍に子供を売れば、私達低所得者達じゃ一生働いても稼げない金額の報酬が月々貰えるそうだ』
『でも子供の生命の保証はされないようだ』
『8人も子が居れば1人くらい親孝行させると思って』
『嗚呼、李さんの家は特に貧しいからそれが良さそうだうだな』
『じゃあ誰を売ろうか?』

「……」
ガシャン、ガシャン、
機体を鳴らして歩く劉邦は脳内で蘇る過去を、目を瞑る事で今この時だけでも自分で自分に忘れさせた。









































ドン!ドン!!

別地点。黒いルネ軍戦闘機と黄色の中国軍戦闘機とでは圧倒的にルネ軍に分がある戦況。


ドン!!ドン!

そんな中、1機の赤い戦闘機がルネ軍戦闘機を圧倒していく。
「機体にアメリカ国旗…!?」
「先程も国際連盟軍繋がりで中国軍の援護に来ていたアメリカ軍となら交戦しただろう!」
「いや、けどこいつ他のアメリカ軍機と違うぞラベル大尉!」
「赤い機体に歩兵型…他と何も変わらん。御託は良い!今は戦闘に集中しろルイス少尉!」
違和感を感じたルネ軍ルイス少尉とは反対に全く違和感を感じない一方のラベル大尉の歩兵型戦闘機は、1機のアメリカ軍戦闘機に銃を乱射して突進していく。
「1人で3機撃墜したからといって勝ちが脳裏を過っているようだがそうはさせんぞ!アメ公の分際で調子に乗るな!」


ドドドド!

ラベル大尉の猛攻を左右に動き回避していくアメリカ軍戦闘機。しかし大尉は攻撃の手を弛めない。
「ははは!恐れをなして回避ばかりで反撃もできないとみた!…ならば!」


キィン!

戦闘機の右腕に剣を構えた大尉の戦闘機。大きな剣にアメリカ軍戦闘機のコックピットが在る戦闘機胸部が映る。
「止めをさすまでだ!!」


キィン!!

しかしアメリカ軍戦闘機は体勢を崩しながらも大尉の剣を己の2本の剣で受け止める。

























「ふっ…受け止めたか。世界に誇るルネ軍の猛攻を受けて尚正気を保てている事は褒めてやろう。しかし!」
一旦後ろへ下がり間合いをとった大尉は再び剣を振り上げると、アメリカ軍戦闘機の頭上に跳び上がった。
「二刀流だろうが何であろうが貴様らアメ公如きが天下のルネには敵わぬ事、死んで思い知らせてやろう!」
ルイス大尉の剣がアメリカ軍戦闘機へ迫る。しかし…


ガシャン…!

「なっ…!?私の剣が…溶けて粉々になった…!?」
後一歩で剣がアメリカ軍戦闘機へ突き刺さる時。大尉の剣は何と真っ赤に染まりながら溶けて粉々になってしまった。刃は溶けてしまい、鞘しか残っておらず。
「な、何が起きた!?機体調整も整備も出撃前に異常は無かった筈、」


ドガァン!!

「ぐああ!!」
動揺している大尉に、今まで防戦一方だったアメリカ軍戦闘機が攻撃。二刀流の真っ赤に染まった剣で大尉を圧していく。


ガン!ガンッ!キィン!

「くっ…!アメ公の分際でェエエ!!」


ドクン…!

「うぐっ…!な、何だこの熱さは…!?」
突然、体中が焼け尽くされる様な異常な熱さに襲われた大尉はガクン、とコックピットに前のめりになり体勢を崩す。


キィン!

「ル、ルイス少尉…!」
「加勢に来たラベル大尉!何が起きた!?機体不良か!?」
大尉が操縦不能な間、加勢に来たルイス少尉がアメリカ軍戦闘機と交戦。少尉の背後に居る大尉の戦闘機から湯気が上がり、機体はみるみる赤く染まり溶けていくから少尉は目を見開き驚愕。
「た、大尉!機体が溶けているぞ!」
「何!?…なっ!?そう言う少尉の機体もではないか!」
「え!?」


ビー!ビー!

大尉と少尉の機体から鳴るこの警告サイレンは機体戦闘不能状態を示す。ガチャガチャと操縦幹を動かしてもモニターにはERROR。機内は皮膚が張り裂けそうな程灼熱地獄と化していく。
「な、何だ!?機内が熱い!?機体が溶けていく!?こんな機体不良始めてだ!一体どうなっているというん、」


ドォンッ!!

熱がエンジン部分まで広がった瞬間、少尉と大尉の機体はまるでガソリンに火を点火した時のように真っ赤な炎を上げて大爆発した。

























バチバチ…バチ…

先程の大爆発で炭と化した2機のルネ軍戦闘機から上がる炎の燻る音。鉄の塊が焼けた、鼻が曲がってしまいそうな何とも表し難い異臭。


ガーッ、ガーッ、

ルネ軍少尉と大尉との交戦で勝った1機のアメリカ軍戦闘機へ繋がる通信に、この戦闘機パイロットのバッシュが耳に取り付けたイヤホンを左手で押さえる。
「此処等一帯の勢力は一掃した様だな」
「兄さん」
ガシャン、と大きな音がすればバッシュの戦闘機背後に飛行型から歩兵型へ変形しながらやって来た劉邦の機体昇華。
「兄さんの方は」
「貴様に心配される筋合いは無い」
「っ…、」
「次は北京だ。人手が足りない上、最も被害の大きい地域、」
「わあ!カッコイイ戦闘機がたくさんだよ!」
「…?」
悲惨な戦場に不釣り合いな子供達の声が戦闘機の足元から聞こえてきた。バッシュが首を傾げながら戦闘機から足元を見下ろせば、10人程の7歳くらいの子供達が白に無地のシャツと半ズボンという全く同じ格好をしてこちらを見上げたり指をさしていた。子供特有の無邪気な笑顔で。
「子供…?さっきまで居なかったのに一体何処から…あ」
ふと視線を上げれば。今までルネ軍との交戦に夢中で気付かなかったが、此処から少し離れた場所に茶色で1階建ての大きな建物が見える。何かの施設だろうか。其処からゾロゾロと、同じ格好をした子供達が此方へやって来る。しかしよく見たら彼等の右腕には各々の数字が刻まれている。
「1、3、16、35…何の数字だ?つーか何の為に…」
「何をしている。早く行くぞ」
子供達を見ていたら通信越しでも分かるイラ立った劉邦に呼ばれた。
「あ。はい!でも兄さんこいつら何なんすか?」
「知らない」
「母国の兄さんでも知らないんすか。でもこいつらまだガキっすから此処に居たままじゃ危ないっすよね。何処か安全な…あの茶色の施設から出てきてるみたいっすからあの施設にこいつらを戻すのが先じゃ、」
「構うな。余計な事に時間を費やしている暇など無い」
「あ!兄さん!」
戦闘機を飛行形体へ変形させると、何故か戦場に現れた子供達の事など放って飛翔する昇華。劉邦についていかなければ後が怖いし。かと言ってこんな小さな子供達を戦場に野放しにしたままにはできないし。


ガコン、

「…!何をやっているバッシュ!」
バッシュはコックピットハッチを開くとコックピットがある戦闘機胸部から地上へ飛び下り、子供達の元へ向かう。それをモニター越しに見ていた劉邦は目を見開くと、急転換。バッシュの方へ戦闘機を後退させる。
「あの馬鹿が…。だからガキは嫌いなんだ…!」


























一方。
「わあ!お兄さんがあの真っ赤なせんとーきを操縦してたヒト?」
「すごいねすごいね!カッコイイ戦闘機!ボクも乗せて!」
「お前らあの施設の奴らだろ?此処は遊び場じゃないんだっての!いいから早く戻れって!」
子供達を一集めして、背後に建つ施設の方に手を向けて帰そうとするバッシュ。
「あっ。お兄さんアレなぁに?」
「え?」
1人の子供がバッシュの背後を指差すから、バッシュが後ろを向く。


パァン!

「っぁ"…!?」
バッシュが後ろを向くのを待ってましたとばかりに、指差した子供は服の下に隠し持っていた一丁の拳銃でバッシュに発砲。しかしまだ子供。バッシュがかぶっているヘルメット越しに後頭部を狙った筈が、左肩を掠めただけ。
「チェッ。ハーズレ。オジサンからお菓子貰えないや」
「んなっ…、お前ら何考え、」


ドスッ!

「がはっ!!」
子供とは思えない速さと脚力でバッシュの腹を跳び蹴り。190cmを越える背丈に一国の軍人のバッシュでも少し体勢を崩してしまう程。
「お前ら何者、」
「だからそいつらに構うなと言っただろう!」
「!兄さん」
戻ってきた劉邦が機体から降りてヘルメットのまま駆け付ける。
「兄さんこいつら何者なんすか!ガキのクセに攻撃してくるし、」


ガシッ!

劉邦はバッシュの肩を掴む。
「だから構うなと言っただろう!すぐにこの場から去る。良いな」
「兄さんこの施設の事知らない風だったじゃないっすか。なのにどうして、」
「良いな!!」
「…!…了解」
普段から特に自分に対しては鬼の形相な劉邦が今日はとびきり恐い形相だからバッシュは目を見開いてからすぐ、彼から目を反らして敬礼。互いに子供達に背を向けて戦闘機へ戻ろうとする。
「レディースエーンドジェントルメーン!…と言いましてもレディーはいらっしゃらない様ですが」
「…!何!?」
「何だあのオッサン!?」
男の陽気な声が聞こえて振り向けば、施設から現れた1機の黒いルネ軍戦闘機。目を凝らしてコックピットを見る劉邦が、パイロットを捉えた途端目を見開く。
「貴様は…!」
「お久し振りです李・劉邦。先日は体調が優れなかった御様子ですが良くなりましたか?」
パイロットは以前、劉邦を捕らえようとしていたルネ軍大将ブーランジェ。





























「あのオッサン…通信越しの声しか聞いてないっすけど、日本で兄さんを捕らえようとしてたルネ軍っすよね!?」
「ああ」
「さあ李代表!ソーンヒル代表!御自慢の愛機へお戻り下さい!私もこの愛機ルーブルで貴方がたを華麗に宙に舞う藻屑として差し上げましょう!!さあ!最高のショーの始まりですよ!」
外からでも見える。コックピット内で大きく両手を広げ、自己陶酔しているブーランジェの姿が。
「…何すかあのオッサン。キモいんすけど」
「構うな。ただのルネ軍人。ただの敵。そう思い淡々と始末するぞ」
「了解っす」
劉邦とバッシュは互いに戦闘機へ戻る。そうすれば機動する機体に、ブーランジェはゾクゾクする。
「やはり一般兵達とは異なる貴方がたの戦闘機は特殊の様ですね!私の自慢の愛機を一般兵の量産機には触れさせたくありませんから!貴方がたの特殊な強い機体と是非!刃を交えさせて下さい!!」
オープンチャンネルを使い、こちらに通信を繋げてきたブーランジェの自己陶酔した姿が劉邦とバッシュのモニターに映し出される。
「うえっ。超軍事国家のルネなのにこんな変人軍人も居るんすね」
「御託は良い。貴様はわざと奴の攻撃を一度だけ剣で受けろ。熱した貴様の剣に触れれば敵は熱に侵されるのだろう」
「そうっすね」
「その間に私が奴の背後にまわる。良いか。攻撃をわざと受けろと言ったが一度までだ。二度目は無い」
「はいはい。言われなくても!兄さんの性格なら嫌って程分かってますか、ら!」


キィン!



[次へ#]

1/3ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!